多動性の子どもを育てるための10の秘訣:専門家が解説する親が知っておくべきサポート術の完全ガイド
小児科

多動性の子どもを育てるための10の秘訣:専門家が解説する親が知っておくべきサポート術の完全ガイド

ADHD(注意欠如・多動症)の特性を持つお子さまを育てる毎日は、大きな喜びに満ちている一方で、時に先の見えない不安や尽きることのない挑戦に直面することもあるでしょう。「何度言っても伝わらない」「どうしてうちの子だけ…」という思いに駆られ、ご自身の育て方を責めてしまったり、社会の中で孤立感を深めたりすることもあるかもしれません。この記事は、そのような深い悩みを抱える保護者の皆さまに寄り添い、暗闇の中に確かな光を灯すことを目指して執筆されました。
まず、最も大切なことをお伝えします。あなたは一人ではありません。そして、お子さまの行動は、あなたの育て方のせいでも、本人のわがままや努力不足のせいでもないのです。私たちは、単なる育児テクニックの羅列ではなく、科学的根拠に基づいた「なぜ、その対応が有効なのか」という根本的な理解と、「明日から、具体的に何をすれば良いのか」という実践的な行動計画、そして「子どもの可能性を信じられる」未来への希望を提供します。本稿の執筆にあたり、国立精神・神経医療研究センター(NCNP)や米国小児科学会(AAP)といった国内外の最新の診療ガイドライン、ラッセル・バークレー博士をはじめとするADHD研究の第一人者たちの知見、そして何よりも、これまで多くのご家族と共に歩んできた臨床現場での経験を統合しています1
この記事を読み終える頃には、お子さまの行動の裏にある「理由」への理解が深まり、親子関係をより良い方向へ導くための具体的な「武器」を手にし、そして何より、保護者であるあなた自身の心が少しでも軽くなっていることを心から願っています。

この記事の要点まとめ

  • ADHDは育て方や性格の問題ではなく、生まれつきの脳機能の偏りによる神経発達症です6。保護者が罪悪感を抱く必要はありません。
  • 効果的なサポートの鍵は、環境を整える「構造化」、具体的な「伝え方」、そして行動を具体的に褒める「ポジティブなフィードバック」にあります。
  • 叱責は自己肯定感を低下させ、不安障害や反抗挑戦性障害といった二次障害を引き起こす悪循環につながるため逆効果です15, 17, 21
  • 有り余るエネルギーは運動によって発散させ、子どもの「強み」に焦点を当てることで、自己肯定感を育むことが重要です14, 26
  • 家庭でのサポートに加え、薬物療法や行動療法、学校との連携といった専門的な支援を活用することが、子どもの健やかな成長を後押しします。
  • 子育ては一人で抱え込むものではありません。親自身の心をケアし、親の会や専門機関と繋がることが、家族みんなで乗り越えるための鍵となります55, 59

第1部:なぜ?を知る – ADHDの特性を正しく理解する

効果的なサポートは、正しい理解から始まります。お子さまの行動に振り回されるのではなく、その行動の「なぜ?」を知ることで、親の対応は大きく変わります。

1-1. 多動性は「わがまま」ではない:ADHDの脳科学的背景

ADHDは、性格やしつけの問題ではなく、生まれつきの脳機能の偏りによる神経発達症の一つです6。この事実を理解することは、保護者の方々が抱えがちな罪悪感から解放されるための第一歩です。
ADHDの特性を理解する上で鍵となるのが、脳の実行機能(Executive Functions)という働きです。これは、目標を達成するために必要な様々な精神活動を調整する、いわば「脳の司令塔」「オーケストラの指揮者」のような役割を担っています9。具体的には、行動を計画し、衝動を抑え、注意を向け続け、気持ちを切り替えるといった高度な働きを指します。
ADHDの子どもたちは、この「司令塔」である前頭前野の働きが、定型発達の子どもたちと比べてユニークな発達経路をたどります。世界的なADHD研究の権威であるラッセル・バークレー博士は、ADHDのある人の実行機能の発達は、実年齢よりも約30%遅れる傾向があると指摘しています10。これは、例えば10歳のお子さまであれば、自己制御に関しては7歳の子どものように振る舞うかもしれない、ということを意味します。この「発達のズレ」が、大人の期待とのギャップを生み、様々な困難の原因となるのです。
この「司令塔」の機能的な偏りから、ADHDの主な3つの症状が生まれます7

  • 不注意 (Inattention): 必要なことに注意を向け続けたり、逆に不要な刺激を無視したりすることが難しい状態。
  • 多動性 (Hyperactivity): 状況にそぐわないレベルで、じっとしていられない状態。
  • 衝動性 (Impulsivity): 行動する前に一呼吸おいて考えることが難しく、思いついたままに行動してしまう状態。

これらの症状は、決して本人が怠けていたり、わざと困らせようとしたりしているわけではないことを、まず心に留めておくことが重要です。

ADHDの主な症状と具体的な行動例12
症状の種類 具体的な行動の例
不注意 ・学校の勉強などで、細かいところまで注意を払えず、うっかりミスが多い。
・課題や遊びの活動で、注意を集中し続けることが難しい。
・面と向かって話しかけられているのに、聞いていないように見えることがある。
・指示に従えず、仕事を最後までやり遂げられないことがある。
・課題や活動を順序立てて行うことが難しい。
・必要な物(おもちゃ、鉛筆、本など)をよくなくす。
・忘れ物が多い。
多動性 ・授業中や座っているべき時に、席を離れてしまう。
・じっとしていられず、手足をそわそわ動かしたり、もじもじしたりする。
・静かにしていなければならない場面で、過度に走り回ったりよじ登ったりする。
・静かに遊ぶことが難しい。
・しゃべりすぎることがある。
衝動性 ・質問が終わらないうちに、出し抜けに答えてしまう。
・順番を待つことが難しい。
・他の人がしていることを遮ったり、邪魔をしたりすることがある(会話やゲームなど)。

1-2. 「うちの子だけ?」という不安を解消する:ADHDの診断と有病率

ADHDの診断は、保護者や教師からの情報、行動観察などを通じて、DSM-5(アメリカ精神医学会『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)などの国際的な診断基準に基づき、専門医が慎重に行います3。家庭や学校など、複数の場面で症状が見られ、それが本人の生活や発達に明らかな支障をきたしている場合に診断が下されます。
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)の報告によると、日本におけるADHDの有病率は学童期の3~7%とされています1。これは、平均的なクラスに1人か2人はADHDの特性を持つ子どもがいる計算になります。この数字は、ADHDが決して珍しいものではなく、多くの子どもたちが同様の課題を抱えていることを示しており、保護者の孤立感を和らげる一助となるでしょう。

1-3. 叱責が逆効果になる理由:二次障害への悪循環

ADHDの特性から生じる行動は、周囲から誤解されやすく、頻繁な叱責につながりがちです。しかし、この叱責こそが、事態をさらに悪化させる「負のサイクル」の引き金となります。このサイクルを理解することは、子育ての視点を「叱る」から「支える」へと転換するために不可欠です。
ADHDの特性を持つ子どもは、その脳機能の偏りから、学業や対人関係で失敗体験を重ねやすくなっています15。忘れ物、授業中の不注意、衝動的な発言など、悪気なく繰り返してしまう行動が、親や教師からの否定的なフィードバックを招きます。このような経験が積み重なると、子どもの自己肯定感は著しく低下し、「どうせ自分は何をやってもダメなんだ」という無力感を抱くようになります6
この自己肯定感の低下が、さらなる問題を引き起こすのです。一つは、「また失敗したらどうしよう」「また怒られるかもしれない」という強い不安から、不安障害を発症するケースです17。この不安は、子どもの注意力をさらに散漫にさせ、ADHDの症状を悪化させるかのような状態を作り出し、悪循環に陥ります19。もう一つは、絶え間ない叱責に対する反発心から、わざと反抗的な態度をとるようになる反抗挑戦性障害(ODD)です21。親が子どもの行動を力で抑えつけようとすればするほど、子どもはさらに強く反発し、「指示→反発→より強い指示→より強い反発」という対立のサイクルが激化していきます23
これらの不安障害や反抗挑戦性障害は「二次障害」と呼ばれ、ADHDの特性そのものよりも、その後の人生に深刻な影響を及ぼすことがあります。この負のサイクルを断ち切ることこそが、ADHD支援の最も重要な目標の一つなのです。

第2部:どうすれば?がわかる – 親子で実践する10のサポート術

ADHDの特性を理解した上で、次に重要になるのが具体的なサポート方法です。ここで紹介する10の秘訣は、それぞれが独立したテクニックではなく、ADHDの中核的な課題である「実行機能の弱さ」を、親が「外部の司令塔」として補うための、相互に関連した支援システムです25。一つひとつの秘訣が、お子さまの脳のどの働きを助けているのかを意識することで、より効果的なサポートが可能になります。

秘訣1:安心の土台を作る「構造化」 – 予測可能な毎日で不安を減らす

なぜ有効か: 実行機能が弱い子どもにとって、次に何が起こるか分からない状況は大きなストレスです。「今、何をすべきか」「次はどうなるのか」が常に明確であることは、脳の混乱を減らし、心の安定につながります。スケジュールを視覚的に示す「構造化」は、この見通しを与え、安心感という土台を築くための最も基本的な戦略です26
実践方法:

  • 朝の支度リスト: 「①おきる → ②トイレにいく → ③ふくをきる → ④ごはんをたべる…」といった一連の流れを、写真や絵カードを使って壁に貼り出します。終わった項目にマグネットを貼るなど、達成感が得られる工夫も有効です。無料で利用できる絵カードのダウンロードサイトも多数存在します30
  • 一日のスケジュール: ホワイトボードや大きなカレンダーに、学校の時間割のように一日の流れを書き出します。「勉強」と「遊び」だけでなく、「休憩時間」や「ゲームの時間」も明確に組み込むことが、気持ちの切り替えを助けます14
  • 物の定位置化: 家の中の全ての物に「住所」を決めます。「ランドセル置き場」「宿題提出ボックス」「鍵かけフック」など、物の置き場所を固定し、写真やイラストでラベリングすることで、探し物や忘れ物を劇的に減らすことができます36

秘訣2:心に届く「伝え方」 – 指示は短く、具体的に、肯定的に

なぜ有効か: ADHDの子どもは、一度に多くの情報を処理したり、記憶したりする「ワーキングメモリ」の働きが弱い傾向があります。そのため、長くて複雑な指示は脳内で処理しきれず、結果として「聞いていない」ように見えてしまいます。また、「ちゃんと」「しっかり」といった抽象的な言葉を、具体的な行動に変換することも苦手です26
実践方法:

  • I-CUEメソッドを意識する:
    • I (Eye contact): まずはお子さまの正面に立ち、目線を合わせます26
    • C (Close): 遠くから叫ぶのではなく、近くで穏やかに話しかけます6
    • U (Use simple words): 「おもちゃを片付けて、手を洗って、宿題をしなさい」ではなく、「まず、おもちゃを箱に入れよう」と、一度に一つの指示に絞ります38
    • E (Ensure understanding): 「今、何をするんだっけ?」と復唱させ、指示が伝わっているか確認します。
  • 否定語から肯定語への変換: 行動を制限する言葉よりも、望ましい行動を示す言葉の方が、子どもは次何をすべきか理解しやすくなります。「廊下を走らない!」ではなく「廊下は歩こうね」、「散らかさないで!」ではなく「おもちゃは青い箱に戻そうね」といった具合です26
  • 人格と行動の分離: 最も重要な原則の一つです。「あなたはいつもダメね」といった人格を否定する言葉は、子どもの自己肯定感を深く傷つけます。問題なのは子ども自身ではなく、その「行動」です。「お友達を叩くのは、相手が痛いからダメだよ」というように、行動とその理由をセットで伝えます6
声かけ変換テーブル:NG例とOK例
場面 つい言ってしまうNGな声かけ 心に届くOKな声かけ(スクリプト例)
宿題 「いつまで遊んでるの!早く宿題しなさい!」 「長い針が6になったら宿題を始めようか。まず算数のプリント1枚からやってみない?」26
片付け 「なんでこんなに散らかってるの!片付けなさい!」 「おもちゃが床にたくさんあって歩きにくいね。まず赤いブロックを箱に戻すのを手伝ってくれる?」38
外出時 「じっとしてなさい!」「静かにしなさい!」 「お店の中では、お母さんのカートの横を歩こうね。声は、アリさんくらいの小さい声で話そう」26
ミスをした時 「またこぼして!」「あなたはいつもそそっかしい」 「あ、お水がこぼれちゃったね。大丈夫。一緒に雑巾で拭こうか。次はコップをもう少しテーブルの真ん中に置いてみよう」6

秘訣3:集中できる「環境調整」 – 気を散らす刺激をコントロールする

なぜ有効か: ADHDの脳は、必要な情報と不要な情報を取捨選択するフィルター機能が弱いため、周囲の些細な音や視覚情報に注意を奪われやすい特性があります。集中すべき時に、気を散らす要因を物理的に減らしてあげることは、本人の努力だけに頼らない、非常に効果的なサポートです29
実践方法:

  • 学習スペースの最適化: 机の上には、今使っている教科書とノート、筆記用具だけを置きます。壁に貼られたポスターやカレンダーも、集中を妨げる要因になり得ます。リビングで学習する場合は、テレビを消し、おもちゃなどが視界に入らないように布をかけるなどの工夫が有効です14
  • 音の刺激を管理する: 勉強や宿題の時間には、生活音をできるだけ減らします。家族の会話やテレビの音は大きな妨げになります。一方で、無音状態が苦手な子もおり、その場合はイヤーマフやノイズキャンセリングヘッドホン、あるいは集中を助けるホワイトノイズ(換気扇の音など)が有効なこともあります29
  • 視覚的ノイズを減らす: 散らかった部屋は、それ自体が大きな視覚的刺激です。おもちゃの棚にカーテンを取り付けて見えなくしたり、勉強スペースをパーティションで区切ったりするだけでも、集中力は大きく変わります40

秘訣4:自信を育む「スモールステップ」 – 大きな課題を小さな成功に変える

なぜ有効か: 「部屋の片付け」「夏休みの宿題」といった大きな課題は、どこから手をつけていいか分からず、ADHDの子どもを圧倒してしまいます。その結果、行動を起こすこと自体を諦めてしまうのです。「スモールステップ」は、この大きな山を小さな丘に分割する技術です。一つひとつのステップを小さくすることで、「これならできそう」という感覚(自己効力感)が生まれ、行動へのハードルが劇的に下がります26
実践方法:

  • 宿題の分割: 「漢字ドリルを10ページやる」という課題は、「まず2ページだけやって、5分休憩しよう」と分割します。タイマーを15分~20分にセットし、鳴ったら一度休憩するという「ポモドーロ・テクニック」は、集中力の持続が難しい子どもに非常に有効です28
  • 片付けの具体化: 「部屋を片付けて」という曖昧な指示ではなく、「まず、床に落ちている本を3冊だけ本棚に戻そう」と、具体的で達成可能な最初のステップを提示します。それができたら、「すごい!じゃあ次は、ぬいぐるみをおもちゃ箱に入れようか」と次のステップに進みます26
  • 朝の支度のゲーム化: 秘訣1で作成した「朝の支度リスト」の各項目をクリアするごとに、ご褒美シールを貼れるようにします。全てのシールが集まったら、週末に特別なことができるといったルールも、モチベーション維持に繋がります27

秘訣5:やる気を引き出す「褒め方革命」 – 行動を具体的に認め、努力を称える

なぜ有効か: ADHDの脳は、将来の大きな報酬よりも、今すぐ得られる小さな報酬に強く反応する傾向があります。これは、脳内の神経伝達物質であるドーパミンの働きと関連していると考えられています。具体的な褒め言葉は、行動の直後に得られる強力な「心の報酬」となり、ドーパミンを介して、その望ましい行動を強化する効果があります8
実践方法:

  • 具体的に褒める: 「えらいね」「すごいね」といった漠然とした言葉よりも、「自分から宿題のドリルを開いてえらいね」「お友達に『貸して』って、優しい声で言えたね」など、どの行動が良かったのかを具体的に伝えます。これにより、子どもは何をすれば褒められるのかを学習します26
  • 結果よりプロセスを褒める: たとえテストの点数が悪くても、「最後まで諦めずに問題に取り組んだね」「難しい問題にも挑戦したことがすごいよ」と、努力の過程を認めます。これにより、失敗を恐れずに挑戦する意欲が育ちます。
  • 褒めと叱りの黄金比「10対1」を目指す: 意識的に子どもの良いところを探し、声に出して褒める機会を増やしましょう。ある専門家は、注意する回数の10倍以上褒めることを推奨しています。これは、叱責によって下がりがちな自己肯定感を、たくさんの肯定的な言葉で満たしてあげるためです26
  • トークンエコノミー(ご褒美システム)の活用: 良い行動をしたらシールやポイントがもらえ、一定数貯まると好きなこと(ゲーム時間、特別なおやつなど)と交換できるシステムです。目標が視覚的に分かりやすく、モチベーションを維持するのに非常に効果的です6

秘訣6:感情の嵐を乗りこなす「共感とクールダウン」 – 癇癪に寄り添い、落ち着きを取り戻す

なぜ有効か: ADHDの子どもは、感情のブレーキをかけるのが苦手です。些細なことでカッとなったり、一度泣き出すと手がつけられなくなったりするのは、感情を調整する脳の機能が未熟なためです。感情が爆発している最中に、正論で諭したり、叱りつけたりしても、火に油を注ぐだけです。まずは安全を確保し、高ぶった感情が静まるのを待つこと、そしてその気持ちに寄り添うことが最優先です26
実践方法:

  • 感情の代弁(ラベリング): 子どもが自分の感情を言葉にできない時、親が代わりに「おもちゃを取られて悔しかったんだね」「思い通りにならなくて悲しかったんだね」と気持ちを言葉にしてあげます。これにより、子どもは自分の感情を客観的に認識し、安心感を得ることができます26
  • クールダウン・スペースの設置: 興奮した時に一人で落ち着ける、静かで安全な場所を家の中に作っておきましょう。小さなテントや、クッションを置いただけの部屋の隅などでも構いません。「イライラしたら、あそこに行って少し休もうか」と事前に約束しておきます26
  • 安全な代替行動を教える: 怒りを感じた時に、人や物を傷つける以外の方法で感情を表現する方法を一緒に考えます。例えば、叩きたくなったらクッションを叩く、大声を出したくなったら新聞紙を破る、イライラしたら氷を握るなど、その子に合った安全な方法を見つけます28
  • 落ち着いてから振り返る: 感情の嵐が過ぎ去ったら、「さっきはすごく悔しかったんだね。でも、お友達を叩くのはいけないことだよ。次からは『やめて』って言葉で言ってみようか」と、冷静に振り返り、次善の策を教えます。

秘訣7:有り余る力を輝きに変える「エネルギーの発散法」 – 運動で心と体を整える

なぜ有効か: 多動性という特性は、無理に抑えつけようとすると、かえってストレスを溜め込む原因になります。この有り余るエネルギーは、ネガティブなものではなく、むしろポジティブな活動へと転換すべき貴重な資源です。適度な運動は、脳内の神経伝達物質のバランスを整え、集中力や気分の安定、さらには睡眠の質の向上にも繋がることが科学的にも示されています26
実践方法:

  • 毎日の運動を習慣に: 習い事としてでなくても構いません。毎日30分~1時間程度、体を動かす時間を取り入れましょう。トランポリン、縄跳び、鬼ごっこ、ダンス、水泳、ランニングなど、お子さま自身が「楽しい!」と感じられるものを選ぶことが長続きの秘訣です26
  • 親子で一緒に楽しむ: 親が一緒に体を動かすことで、運動は最高のコミュニケーションの時間になります。キャッチボールやバドミントン、近所の公園への散歩など、特別な準備がなくてもできることはたくさんあります。
  • 学習の合間に「ムーブメント・ブレイク」を: じっと座って勉強するのが苦手な子には、15分勉強したら5分間その場でジャンプしたり、廊下を往復したりする「動ける休憩時間」を設けると、かえってその後の集中力が高まります。プリントを配る係など、授業中に体を動かせる役割を与えるのも効果的です14

秘訣8:対立を協力に変える「協働的なルール作り」 – 子どもをチームの一員に

なぜ有効か: 親が一方的に決めて押し付けたルールは、子どもにとって「支配」や「束縛」と感じられ、反発心を生む原因となります。一方、子ども自身がルール作りのプロセスに参加することで、そのルールは「自分たちのもの」となり、当事者意識と責任感が芽生えます。これは、対立関係から協力関係へと親子関係をシフトさせるための重要なステップです14
実践方法:

  • 定期的な家族会議: 「ゲームの時間」「スマホの使い方」「寝る時間」など、具体的なテーマを決めて、週に一度など定期的に話し合いの場を持ちます。「あなたはどうしたい?」「どうすればみんなが気持ちよく過ごせると思う?」と、子どもの意見を尊重し、真剣に耳を傾ける姿勢が大切です。
  • ルールの視覚化: 家族会議で決まったルールは、「わが家のルール」として紙に書き出し、イラストなどを添えてリビングなど皆が見える場所に掲示します。これにより、ルールが「言った言わない」の水掛け論になるのを防ぎます27
  • 協働問題解決(Collaborative Problem Solving)アプローチ: このアプローチは、「子どもがルールを守れないのは、守るためのスキルが不足しているからだ」という考えに基づいています。親が一方的に解決策を提示するのではなく、「どうして宿題を始めるのが難しいんだろう?」「何があれば、時間通りにお風呂に入れるかな?」と、問題の根本原因を子どもと一緒に探り、双方が納得できる解決策を「協力して」見つけ出すことを目指します47

秘訣9:強みを見つけて伸ばす「才能の探求」 – 欠点ではなく、ユニークな才能に光を当てる

なぜ有効か: ADHDの子どもたちは、その特性ゆえに叱責されたり、否定的な評価を受けたりする経験が多く、自己肯定感が育ちにくい環境に置かれがちです。しかし、ADHDの特性は、見方を変えれば素晴らしい「強み」にもなり得ます。この「強み」を見つけ、伸ばしてあげることは、子どもの自己肯定感の核を育て、苦手なことに立ち向かうための大きなエネルギー源となります14
実践方法:

  • 強みのリフレーミング(再定義): 子どもの特性をポジティブな言葉で捉え直してみましょう。
    • 「落ち着きがない」 → 「エネルギッシュで行動力がある」
    • 「おしゃべり」 → 「コミュニケーション能力が高い、表現力が豊か」
    • 「衝動的」 → 「決断が早い、チャレンジ精神が旺盛」6
    • 「注意散漫」 → 「好奇心旺盛で、色々なことに気づける」
  • 創造性を活かす: ADHDと創造性の高さには関連があることが、複数の研究で示唆されています50。既成概念にとらわれない自由な発想は、アート、音楽、プログラミング、起業など、様々な分野で才能として開花する可能性があります。お絵描き、粘土、レゴブロック、楽器演奏など、正解のない創造的な活動に触れる機会を積極的に作りましょう53
  • 過集中(ハイパーフォーカス)を強みに: 好きなことや興味のあることに対して、驚異的な集中力を発揮することがあります。これは「過集中」と呼ばれ、特定の分野で専門家レベルの知識や技術を身につける原動力になり得ます。お子さまが何かに夢中になっていたら、それを中断させるのではなく、安全な範囲でその世界に没頭できる時間と環境を提供してあげましょう50

秘訣10:親自身の心をケアする「セルフ・コンパッション」 – 自分を責めずに、仲間と繋がる

なぜ有効か: これまで述べてきた9つの秘訣を実践するためには、大前提として、親自身の心身が安定している必要があります。ADHDの子育てに伴う慢性的なストレスは、親の心身を疲弊させ、不適切な養育態度(感情的な叱責、一貫性のない対応など)につながり、結果として子どもの症状を悪化させるという悪循環を生み出します。親が自分自身を大切にし、適切にケアすることは、子どものための最も効果的な治療環境を整えることと同義なのです55
実践方法:

  • 自分を責めない(セルフ・コンパッション): 「ADHDは脳の特性。私の育て方のせいではない」と、意識的に自分に言い聞かせましょう。完璧な親でいる必要はありません。うまくいかない日があって当然です。そんな自分を優しく受け入れ、許してあげることが大切です。
  • 仲間と繋がる: 一人で抱え込まないでください。同じ悩みを持つ親たちが集う「親の会」や、オンラインのコミュニティに参加してみましょう。自分の気持ちを安心して話せる場があるだけで、孤独感は大きく和らぎます。他の親の工夫や経験談も、大きな助けとなるでしょう59
  • 専門家を頼る: 子育てはチーム戦です。親だけで全てを背負う必要はありません。行き詰まりを感じたら、地域の「発達障害者支援センター」や「保健センター」、かかりつけの小児科医、カウンセラーなどに積極的に相談しましょう59
  • マインドフルネスを試す: マインドフルネスは、自分の感情やストレスに「気づき」、それを評価せずに受け流す心のトレーニングです。親がマインドフルネスを実践することで、ストレスが軽減し、子どもに対してより穏やかに、そして思慮深く対応できるようになったという研究報告もあります58。まずは1日数分間の深呼吸から始めてみるのも良いでしょう。

第3部:さらに深く知る – 専門的な治療と支援

家庭でのサポートと並行して、専門的な治療や支援を活用することは、お子さまの健やかな成長を力強く後押しします。治療は一つの「ピラミッド」として捉えることができます。その土台には、これまで述べてきた「保護者の理解と安定、家庭環境の調整」があります。その上に「行動療法」や「学校との連携」が築かれ、そして必要に応じて、頂点に「薬物療法」が位置づけられます。この全体像を理解することが、適切な支援を選択する上で重要です。

3-1. 薬物療法との付き合い方:いつ、何を、どのように?

薬物療法は、ADHDを「治す」ものではなく、お子さまが自身の特性とうまく付き合い、学校や家庭で穏やかに過ごし、様々なスキルを学びやすくするための「サポーター」であると理解することが大切です1。米国小児科学会(AAP)が2019年に発表した最新のガイドラインでは、年齢に応じた治療アプローチが推奨されています3

年齢層別の推奨治療アプローチ5
年齢層 推奨される治療アプローチの概要
4歳~5歳(就学前) 第一選択: 親の行動マネジメント・トレーニング(ペアレント・トレーニング)および/または行動的教室介入。
次の一手: 行動療法で十分な改善が見られない場合、メチルフェニデート(コンサータなど)の投薬を検討。
6歳~12歳(小中学生) 最も推奨: FDA承認のADHD治療薬と、行動療法(ペアレント・トレーニングおよび/または行動的教室介入)の併用。
教育的介入(個別教育支援計画など)も必須。
12歳~18歳(思春期) 第一選択: 本人の同意(アセント)を得た上でのFDA承認ADHD治療薬。
推奨: エビデンスに基づいた行動療法も奨励される。
教育的介入(個別教育支援計画など)も必須。

「薬が効かない?」と感じたときの次の一手

お薬の効果には個人差があり、最適な種類や量を見つけるまでには試行錯誤が必要です。効果が感じられない、あるいは副作用が強いと感じた場合は、自己判断で中断せず、必ず主治医に相談してください。その際、以下のステップで状況を整理し、相談に臨むことが重要です67

  1. 生活習慣の確認: 睡眠不足や不規則な食事は、薬の効果を妨げたり、症状を悪化させたりすることがあります。まずは生活リズムが安定しているかを確認します。
  2. 副作用の記録: 食欲不振、睡眠障害、頭痛、気分の変動など、気になる変化を具体的に記録し、医師に伝えます。
  3. 用量の調整: 医師は、副作用の状況を見ながら、薬の量を慎重に調整します。
  4. 薬の種類の変更: 一つの薬が合わなくても、別の種類の薬(例:中枢刺激薬のコンサータから非中枢刺激薬のストラテラへ)が有効な場合があります70
  5. 診断の再評価: 様々な薬を試しても効果が見られない場合、ADHD以外の併存疾患(不安障害、学習障害など)が症状の主な原因である可能性も考えられます。医師と共に、診断自体を再評価することも重要です。

3-2. 睡眠と食事:科学的根拠に基づく生活習慣の改善

薬物療法や行動療法と並行して、日々の生活習慣を整えることは、ADHD症状の管理において非常に重要です。

睡眠

ADHDの子どもの最大70%が何らかの睡眠問題を抱えていると報告されています71。入眠困難、夜中の覚醒、朝起きられないといった問題は、脳の覚醒レベルを調整する機能の偏りや、不安、さらには薬剤の副作用などが原因と考えられています。睡眠不足は、翌日の不注意や多動・衝動性を悪化させるため、睡眠衛生(スリープ・ハイジーン)を整えることが不可欠です73

  • 就寝・起床時間を一定にする: 休日でも平日と大きくずれないようにし、体内時計を整えます。
  • 就寝前のルーティン: 入浴、歯磨き、絵本の読み聞かせなど、毎日同じ流れでリラックスできる活動を取り入れ、「これから寝る時間だ」という合図を脳に送ります。
  • スクリーンタイムの制限: スマートフォンやテレビのブルーライトは、睡眠を促すホルモンであるメラトニンの分泌を抑制します。就寝の1~2時間前には使用を終えるのが理想です。
  • 寝室の環境: 寝室は暗く、静かで、涼しい環境を保ちます。

食事

ADHDと食事の関係については様々な情報がありますが、科学的根拠に基づいて慎重に判断することが大切です。複数のメタ分析(多くの研究を統合して分析した研究)から、以下のことが示唆されています。

  • 望ましい食事パターン: 果物、野菜、魚などを多く含む、いわゆる「健康的な食事」は、ADHDのリスクを低減させる方向に働く可能性があります76
  • 避けるべき食事パターン: 精製された砂糖や飽和脂肪酸を多く含む加工食品やジャンクフードは、ADHDのリスクを高める可能性があります76
  • オメガ3脂肪酸: 青魚に多く含まれるEPAやDHAといったオメガ3脂肪酸は、脳の神経機能に良い影響を与える可能性が指摘されています。サプリメントによるADHD症状への効果は「穏やか」かつ限定的とされていますが、副作用が少ないため、補助的な選択肢として検討されることがあります80
  • 食品添加物: 一部の人工着色料が、特定のADHDの子どもの多動性を悪化させる可能性があるという研究報告はありますが、全ての子どもに当てはまるわけではありません84。砂糖の摂取とADHD症状の悪化との直接的な因果関係については、現在のところ強い科学的根拠は確立されていません84

結論として、特定の栄養素に頼るのではなく、バランスの取れた健康的な食生活を心がけることが、心身の健康の土台となり、結果としてADHD症状の安定にも寄与すると考えられます。

3-3. 学校との連携を成功させるために

家庭でのサポートがうまく機能するためには、子どもが多くの時間を過ごす学校との連携が不可欠です。学校を「敵」や「要求する相手」と捉えるのではなく、子どもの成長を共に支える「チームメイト」と捉える視点が成功の鍵です85

担任の先生への伝え方と準備

保護者面談などの機会に、ただ「困っています」と伝えるだけでなく、具体的な情報を提供し、協力体制を築くための準備をして臨みましょう87

  • 感謝と共感から始める: 「いつもお世話になっております。先生もクラス運営で大変な中、恐縮ですが…」と、まず相手への配慮を示します。
  • 子どもの特性メモを準備: 「得意なこと(例:絵を描くこと、体を動かすこと)」「苦手なこと(例:じっと話を聞くこと、板書を写すこと)」「特に困る状況(例:急な予定変更、騒がしい場所)」「家庭で試して効果があった声かけや対応」などを簡潔にまとめたメモを持参します。
  • 診断書や専門家の所見: 診断を受けている場合は、診断書のコピーや医師からの助言をまとめた書類を提示すると、客観的な情報として理解されやすくなります。
  • 具体的な協力依頼: 「叱るのではなく、できれば席を立ってしまう前に『あと5分で休憩だよ』と声をかけていただけると助かります」「板書を写すのが間に合わないことがあるので、写真撮影を許可していただけないでしょうか」など、学校側が実行可能な具体的な配慮を提案します。

「合理的配慮」と「個別教育支援計画」の活用

  • 合理的配慮: 2016年に施行された「障害者差別解消法」により、学校は障害のある子どもに対して、その特性に応じた「合理的配慮」を提供することが義務付けられています。これは特別な恩恵ではなく、学習上の困難を取り除くための正当な権利です。具体例としては、 座席の配慮(一番前の席など)、指示の個別伝達、休憩時間の確保、テスト時間の延長 などがあります39
  • 個別教育支援計画: これは、お子さま一人ひとりのニーズに合わせて、就学前から卒業後までの一貫した支援目標と具体的な支援内容を定めるための計画書です。学校だけでなく、家庭、医療、福祉などの関係機関が連携して作成します。保護者はこの計画作成において、 お子さまの最も身近な専門家として、意見を述べ、計画の策定・実施・評価に参加する重要な役割 を担っています92

第4部:家族みんなで乗り越える

ADHDは、子ども本人だけの問題ではありません。その影響は、きょうだいや親、そして家族というシステム全体に及びます。家族みんなが健やかであるために、それぞれの立場に目を向け、支え合う視点が不可欠です。

4-1. きょうだいへのケア:不公平感をなくし、理解を深める関わり方

ADHDの子どもを持つ家庭では、他のきょうだい(しばしば「きょうだい児」と呼ばれます)が、複雑な感情を抱えていることが少なくありません。親の注意がADHDの子どもに集中しがちなため、寂しさや愛情不足を感じたり、「どうして自分だけ我慢しなきゃいけないの?」という不公平感を抱いたりします。また、ADHDのきょうだいの行動に振り回されることへの苛立ちと、そう感じてしまうことへの罪悪感との間で葛藤することもあります。時には、親に心配をかけまいと、無意識に「良い子」を演じ、過剰なプレッシャーを自身に課してしまうこともあります96
きょうだい児の心をケアし、健全な家族関係を築くためには、以下の支援が重要です。

  • 1対1の特別な時間を作る: たとえ毎日10分でも構いません。その子とだけ向き合う「特別な時間」を意識的に作りましょう。一緒に本を読んだり、散歩をしたり、ただ話を聞くだけでも、「自分は大切にされている」という安心感につながります98
  • 年齢に応じた正直な説明をする: 「障害があるから仕方ない」という説明では、きょうだいは納得できません。「お兄ちゃん(お姉ちゃん)の脳は、ブレーキが少し効きにくい車みたいなものなんだ。だから、急に走り出しちゃうことがあるけど、わざとじゃないんだよ。今、ブレーキのかけ方を練習しているところなんだ」というように、年齢に応じて分かりやすい言葉で、悪気がないことを伝えます102。ADHDは伝染るものではないことも、はっきりと伝えましょう102
  • きょうだいの感情を肯定する: 「お兄ちゃんのせいで、遊びが中断されて嫌だったね」「うるさくてイライラするのも無理ないよね」と、きょうだいのネガティブな感情を否定せずに受け止め、共感を示します。その上で、「でも、お兄ちゃんはあなたのことが大好きなんだよ」と、ポジティブな関係性を補強する言葉かけも有効です100
  • きょうだいを「小さな親」にしない: きょうだいに過度な我慢や世話を強いるのは避けましょう。手伝いを頼む際は、「~してくれると、お母さん助かるな」と感謝の気持ちと共に依頼し、当たり前の役割にしないことが大切です。家族全員がチームであり、それぞれができる範囲で協力するという姿勢を育てます104

4-2. 親自身がADHDの場合の育児の工夫

ADHDには遺伝的な要因が関与しているため、お子さまがADHDと診断されたことを機に、親自身もADHDの特性を持っていることに気づくケースは少なくありません15。親自身が計画を立てたり、感情をコントロールしたり、部屋を片付けたりすることが苦手な場合、子育ての困難は倍増します。しかし、これもまた自分を責めるのではなく、工夫とシステムで乗り越えることが可能です46

  • 親子で一緒に「見える化」: 親子で共有の大きなカレンダーやホワイトボードを使い、家族全員の予定や「やることリスト」を管理します。親自身のタスクも見える化することで、抜け漏れを防ぎます。
  • 外部サービスを積極的に活用する: 苦手なことは、無理せず外部の力を借りましょう。家事が苦手なら家事代行サービス、片付けが苦手なら整理収納アドバイザーなど、頼れるサービスはたくさんあります。
  • パートナーとの明確な役割分担: パートナーと得意・不得意を共有し、「どちらが得意か」に基づいて家事や育児の役割を具体的に分担します。
  • 完璧を目指さない: 「完璧な親」を目指すことをやめましょう。ADHDの特性を持つ親にとって、それは過大なストレスになります。「まあ、いっか」を合言葉に、自分自身に優しくあることが、結果的に子どものためにもなります。

4-3. 専門家や支援機関と繋がる

子育ては、決して一人で完結するものではありません。特にADHDの子育てにおいては、専門家や支援機関という頼れる「チームメイト」を増やすことが、親子双方の負担を軽減し、より良い未来へと繋がります。
以下に、日本国内で利用できる主な公的支援機関を紹介します。これらの機関は、無料で相談できる場合がほとんどですので、まずは電話一本でも連絡してみることをお勧めします。

  • 発達障害者支援センター: 各都道府県・指定都市に設置されており、ADHDを含む発達障害に関する相談、情報提供、発達支援、就労支援などをワンストップで行う中核的な専門機関です。本人や家族からの相談に応じ、適切な医療機関や福祉サービスに繋いでくれます63
  • 保健センター・精神保健福祉センター: 市区町村や都道府県に設置されている、より身近な相談窓口です。保健師や精神保健福祉士などの専門職が、心身の健康に関する様々な相談に応じてくれます110
  • 児童精神科・小児科: ADHDの診断や薬物療法などの医学的治療を行う医療機関です。かかりつけの小児科医に相談し、必要に応じて専門医を紹介してもらうのがスムーズです15
  • その他(思春期以降): 大学の学生相談室や障害学生支援室、ハローワークの専門援助部門、就労移行支援事業所など、年齢やライフステージに応じた支援機関も多数存在します115

信頼できる情報を得るためには、以下の公的機関や学会のウェブサイトを参考にすると良いでしょう。

  • 日本ADHD学会118
  • 国立精神・神経医療研究センター (NCNP)1
  • 文部科学省(特別支援教育)39
  • 厚生労働省92

よくある質問 (FAQ)

ADHDは、親の育て方が原因なのでしょうか?
いいえ、決してそうではありません。ADHDは親の育て方やしつけの問題ではなく、生まれつきの脳機能の偏りによる神経発達症です6。実行機能と呼ばれる、計画を立てたり衝動を抑えたりする脳の働きがユニークな発達経路をたどることが原因とされています。自分を責める必要は全くありません。
子どもを叱ってばかりで自己嫌悪に陥ります。どうすればいいですか?
そのお気持ち、非常によく分かります。しかし、ADHDの特性からくる行動への叱責は、子どもの自己肯定感を下げ、二次障害を引き起こす可能性があるため逆効果です15。まずは「叱る」から「支える」へと視点を変えてみましょう。具体的に褒める機会を意識的に増やし(褒めと叱りの比率10対1が目標26)、親自身の心をケアするために、親の会に参加したり専門家に相談したりすることも大切です59
薬物療法には抵抗があります。薬なしでサポートする方法はありますか?
はい、あります。薬物療法は選択肢の一つですが、必須ではありません。特に就学前の段階では、ペアレント・トレーニングなどの行動療法が第一選択とされています5。この記事で紹介した「構造化」「環境調整」「スモールステップ」などの家庭でできるサポート術は、薬を使うかどうかにかかわらず、すべてのADHDの子どもにとって非常に有効な基盤となります。
うちの子の「落ち着きのなさ」を長所に変えることはできますか?
はい、可能です。「落ち着きがない」という特性は、「エネルギッシュで行動力がある」と捉え直すことができます(リフレーミング)14。そのエネルギーをスポーツやダンスなど、本人が楽しめる活動で発散させることで、輝く才能に変わる可能性があります26。また、好きなことへの驚異的な集中力「過集中」は、特定の分野での専門性を高める素晴らしい強みになり得ます50
学校の先生に、子どもの特性をどう伝えれば理解してもらえますか?
学校との連携は、子どもを支えるチーム作りです85。まず感謝の気持ちを伝え、「得意なこと」「苦手なこと」「家庭で効果があった対応」などをまとめたメモを渡すと、先生も具体的に理解しやすくなります87。また、「合理的配慮」として、テスト時間の延長や座席の配慮などを具体的に相談することもできます39
ADHDの子どもがいると、他のきょうだいにどんな影響がありますか?
親の注意がADHDの子に集中しがちなため、他のきょうだいは寂しさや不公平感を感じることがあります96。対策として、たとえ短時間でもその子とだけ向き合う「特別な時間」を作ること98、ADHDはわざとではないことを年齢に応じて説明すること102、そしてきょうだいのネガティブな感情も肯定してあげることが大切です100

結論

ADHDの特性を持つお子さまを育てる道のりは、平坦ではないかもしれません。しかし、この記事を通して、その道のりを照らすための地図とコンパスを少しでも提供できたなら幸いです。
これまで述べてきたように、ADHDは単なる「欠点」や「問題行動」の集まりではありません。それは、お子さまが持つユニークな脳の配線であり、見方を変えれば、類まれな「才能」の源泉でもあります14。有り余るエネルギーは情熱に、衝動性は行動力に、注意散漫は豊かな創造性や好奇心に変わる可能性を秘めています。
大切なのは、その特性を無理に変えようとするのではなく、正しい知識を持って理解し、適切なサポートを提供することで、お子さまが自分の「取扱説明書」を自分で作っていけるように手助けすることです。適切な環境と支援があれば、お子さまは自分の持つ困難を乗り越え、そのユニークな才能を社会で存分に輝かせることができると、私たちは信じています。
最後に、日々奮闘されている保護者の皆さまへ。あなたの愛情、忍耐、そして努力は、決して無駄にはなりません。完璧な親である必要も、完璧な子育てを目指す必要もありません。昨日より今日、お子さまと一つでも多く笑い合えたなら、それで十分素晴らしいのです。どうかご自身を大切に、そしてお子さまの無限の可能性を信じ続けてください。あなたの旅路が、希望と喜びに満ちたものでありますよう、心から応援しています。

免責事項
この記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスに代わるものではありません。健康上の問題や症状がある場合は、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

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