はじめに
夜間に急に起こる咳は、予想以上に大きなストレスとなることがあります。仕事や日常の疲れを癒やすためにベッドに入った瞬間、もしくはすでに浅い眠りに落ちたタイミングで咳が出ると、睡眠を大きく妨げるだけでなく、結果的に翌日の疲労や集中力低下につながり、健康全般へ悪影響を及ぼす可能性があります。
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夜間の咳にはさまざまな原因が考えられます。乾燥した空気、鼻づまりや後鼻漏、アレルギー、気管支に影響を与える疾患、体の冷え、さらには一時的な風邪症状など、要因は個人によって異なります。また、精神的ストレスも咳を増幅させる場合があります。一見些細に思える咳ですが、慢性化すると睡眠の質を大きく損なうため、適切な対策を講じることが重要です。
本記事では、夜間の咳を和らげるための具体的な方法をいくつかご紹介します。ただし、本稿はあくまでも情報提供を目的としており、医療の専門的アドバイスに代わるものではありません。症状が長引く場合や重症化した場合には、必ず医師や薬剤師などの専門家に相談してください。
専門家への相談
夜間の咳に関しては、原因が多岐にわたるため、自己流の対策だけでは不十分な場合があります。特に、長期間にわたる慢性的な咳、あるいは喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒューという呼吸音)や呼吸困難を伴う場合は、早めに専門家の診察を受けてください。咳の要因としてはアレルギーや感染症、逆流性食道炎、気管支喘息など、医療機関での診断・治療が必要な疾患が潜んでいることもあります。
専門家や公的機関の情報源としては、厚生労働省、各大学病院の呼吸器内科、アレルギー科などが挙げられます。また、日本呼吸器学会が提供する最新ガイドラインも大いに参考になります。世界的には、European Respiratory Society(ERS)やAmerican College of Chest Physicians(ACCP)が慢性咳嗽や夜間の咳に関して各種ガイドラインを発表しています。たとえば、2020年にEuropean Respiratory Journalで公表された「ERS guidelines on the diagnosis and treatment of chronic cough in adults and children」(Morice AHら, 2020, doi:10.1183/13993003.01136-2019)では、慢性咳における原因・治療・生活上の注意点が幅広くまとめられています。こうした専門機関の見解も踏まえながら、必要に応じて医師に相談することが、夜間の咳を効果的に緩和する近道といえます。
以下では、夜間の咳をやわらげるための具体的な方法を詳しく解説します。自分に合う対策を見つけるうえでも、複数の手段を組み合わせて試してみることが大切です。
1. 寝室での加湿器使用の重要性
夜間の咳が頻繁に起きる一因として、空気の乾燥が挙げられます。空気が乾いていると、喉や鼻の粘膜が刺激を受けやすくなり、咳反射が起こりやすくなるのです。特に冬場やエアコンを使う季節は湿度が低下しがちで、粘膜の防御機能が弱まりやすい状態となります。
- 適切な湿度管理: 寝室の湿度は40〜70%が目安とされています。湿度が高すぎると、かえってカビやダニの繁殖を促してアレルギー症状を悪化させる可能性があるため、過度の加湿には注意が必要です。
- 加湿器のメンテナンス: 加湿器を使う際は、タンクの水をこまめに交換し、フィルターを定期的に洗浄するなど、清潔を保つことが不可欠です。雑菌やカビが加湿器内で繁殖すると、逆にアレルゲンを拡散させるリスクが高まります。
- 夜間の咳と乾燥の関係: とくに就寝中は唾液分泌量が減り、口呼吸の人はよりいっそう喉の粘膜が乾きやすくなります。乾燥した気道はわずかな刺激でも咳が出やすくなるため、寝室の加湿は予防策として大いに有効です。
臨床的な知見
2020年以降に日本国内外で行われた研究の中には、家庭内湿度の適切な管理が上気道症状の軽減につながることを示唆したデータも存在します。これらの研究では加湿器を適切に用いた群で咳の症状が緩和されたという報告があり、特に夜間の睡眠の質が改善したと指摘されています(Morice AHら, 2020 ほか)。こうした知見からも、室内環境を快適に整えることは咳対策の基本であると考えられます。
2. 寝る前の温かい飲み物の効果
夜間の咳を和らげるための身近な方法として、寝る前に温かい飲み物を摂るという習慣があります。温かいお茶やスープなどは喉を潤し、胃を温めることによってリラックス効果を高めてくれます。
- 水分補給の重要性: 日中も十分に水分を摂取しておくと、夜に咳が出にくくなる傾向があります。喉や気道がうるおっている状態は、咳反射を引き起こす刺激を弱めるからです。
- 温かさによるリラックス: 温熱刺激は自律神経を落ち着かせる効果があります。就寝前に温かい飲み物を飲むと、体と心がともにリラックスモードに切り替わり、呼吸も落ち着きやすくなります。
- 注意点: カフェインが多い飲み物は人によっては睡眠を妨げる可能性があるので、ノンカフェインのハーブティーや白湯、ノンカフェインのルイボスティーなどがよい選択肢です。砂糖の過剰摂取も避けましょう。
夜間に繰り返す咳は、睡眠を妨害してストレスを高めますが、こうした簡単なセルフケアを積み重ねることで、咳の出方が和らぐことも少なくありません。
3. 寝る前の温かいシャワー
温かいシャワーや軽い入浴は、体を温めると同時にリラックスをもたらし、さらに湯気によって部屋や鼻腔内の湿度を高める働きもあります。
- 体温と睡眠の関係: 人が自然に眠りにつくときには体温が緩やかに下降していきます。入浴やシャワーで一時的に体温を上げてから、適度にクールダウンすると寝つきがよくなる傾向があります。
- アレルゲンの除去: 皮膚や髪の毛についたホコリや花粉、動物の毛などのアレルゲンを洗い流せるため、夜間に発作的に咳が出るリスクを下げることができます。
- タイミング: 寝る直前に熱いお湯に長時間浸かると、体温が高いままになって逆に寝つきにくくなる場合があります。就寝1〜2時間前までに入浴を終え、体がほどよくクールダウンした状態で布団に入るのが理想です。20時までに入浴を終えるというのは、生活リズムや仕事の都合もあるかもしれませんが、睡眠の質を高めるうえでの一つの目安となります。
4. 環境の整備とアレルゲンの減少
夜間の咳がひどくなる原因の一つには、ホコリやダニ、花粉などのアレルゲンが部屋に存在していることが挙げられます。寝室で長時間過ごす間に、これらのアレルゲンが気道を刺激して咳を誘発しやすくなるのです。
- 寝具の定期的な洗濯: シーツや枕カバー、布団カバーなどはこまめに洗濯しましょう。特にダニは高温多湿を好みますので、乾燥機を使って高温で処理する方法や、定期的に天日干しをするなどが有効です。
- 室内のこまめな掃除: ホコリやペットの毛が室内に溜まらないよう、掃除機や拭き掃除をまめに行いましょう。空気清浄機の使用も推奨されますが、フィルターの清掃を怠ると十分な効果を得られないばかりか、二次的な汚染源となる可能性があります。
- 空気清浄機の活用: 花粉症やハウスダストアレルギーの方にとっては、HEPAフィルターなどが搭載された空気清浄機が特に有用です。部屋全体の空気を循環させるように設置し、アレルゲンをなるべく減らす工夫をすることで咳の誘発を抑えられます。
これらの環境整備は、咳が出やすいかどうかを左右する大きな要因です。特に、慢性的に咳に悩まされている場合は、まず生活空間を見直すことが改善への近道となる可能性があります。
5. 生理食塩水の利用
鼻づまりや後鼻漏(鼻水が喉のほうへ垂れる現象)が原因で咳が出る方には、生理食塩水による鼻洗浄が有効とされています。実際に耳鼻咽喉科やアレルギー科で推奨されることが多い手法です。
- メカニズム: 生理食塩水で鼻を洗浄すると、鼻腔内に溜まった粘液やホコリ、菌やウイルスなどを物理的に洗い流し、粘膜の炎症をやわらげる効果が期待できます。
- 夜間の咳への効果: 後鼻漏によって気管や喉が刺激されると、横になる姿勢でさらなる咳を引き起こしやすくなります。寝る前に鼻洗浄を行うことで、夜間の咳を軽減できる可能性があります。
- 実践上の注意点: 生理食塩水は濃度がおよそ0.9%の食塩水で、市販の商品もありますし、自宅で無菌的に調合する方法もあります。ただし、鼻洗浄の器具や水は清潔を保ち、雑菌混入による感染リスクを避けるようにしましょう。
6. はちみつを摂取する
古くから民間療法として知られているはちみつには、抗菌作用や喉の粘膜を保護する作用があるといわれています。とくに夜間の乾いた咳や、風邪のひきはじめなどで喉がいがらっぽいときには、寝る前に小さじ一杯程度のはちみつを舐めると症状が和らぐことがあります。
- 効果: はちみつによる咳の軽減効果は、多くの研究でも比較的肯定的に示されています。喉の粘膜に保護膜を形成し、刺激を緩和する役割があると考えられています。
- 禁忌: 1歳未満の乳児にはボツリヌス症のリスクがあるため、はちみつは絶対に与えないでください。大人や1歳以上の子どもでも、アレルギーの可能性がある場合には注意が必要です。
- 摂取の方法: 温かい飲み物に少量溶かして摂るのもおすすめです。飲み物と一緒に摂ると、喉の粘膜全体にやさしく行き渡り、保湿と殺菌作用が期待できます。
7. 一般薬の利用
夜間の咳が一時的であり、ほかに大きな健康上の問題がない場合は、市販の咳止め薬を使用する選択肢もあります。ただし、薬の使用には必ず注意点があります。
- 咳止め薬の種類: 痰を出しやすくする去痰薬、咳を抑える鎮咳薬など、さまざまな成分が含まれています。自己判断で選ぶよりも、薬剤師に症状を伝え、適切な薬を提案してもらったほうが安全です。
- 副作用に注意: 眠気や口の渇き、血圧上昇など副作用を引き起こす成分を含む場合があります。持病をお持ちの方は特に、医師や薬剤師に相談してから使用してください。
- 症状が続くとき: 咳が何週間も続くようであれば、市販薬で対応するのではなく、一度医療機関を受診することが重要です。自己判断による長期使用は、症状の根本原因を見逃すリスクがあります。
8. 鼻詰まり解消薬
鼻詰まりが原因で夜間に咳が悪化する方も少なくありません。市販の鼻詰まり解消薬(点鼻薬など)は、鼻腔内の血管を収縮させて鼻水や後鼻漏を減らし、結果的に気道への刺激を抑える効果が期待できます。
- 使用時の注意: 高血圧の方や心臓病の既往がある方、子どもへの長期使用などには十分に注意し、使用前に医師に相談することが望ましいです。
- 依存性のリスク: 一部の点鼻薬には、長期間連用すると薬効が切れたときにかえってひどい鼻づまりを感じる「リバウンド現象」が起こる恐れがあります。説明書を守り、適切な期間で使用をやめるようにしましょう。
9. 寝る姿勢の調整
夜間の咳と密接に関係するのが寝る姿勢です。仰向けに寝ると後鼻漏が悪化しやすく、咳が出やすくなるという方は、枕を少し高めにする、あるいは横向きで寝てみるなど工夫すると、夜間の咳が緩和されることがあります。
- 頭を高くする: 上半身の角度を少し起こすことで、鼻腔から喉へと流れる粘液の量を減らせます。ただし、高くしすぎると首や肩が痛む場合があるため、自分に合った高さを見つけることが大切です。
- 寝返りや横向き: 横向きで寝ると、後鼻漏が喉に直接落ちにくくなるため、咳の頻度が減る場合があります。
- 個人差の考慮: 体型や睡眠時の呼吸の仕方などによって最適な姿勢は異なるため、自分の体調に合わせていろいろ試してみることをおすすめします。
夜間の咳に対する総合的な考え方
ここまで紹介した対策はどれも有用ですが、咳の原因は複合的であり、人によって状況が異なるため、一つの手段で劇的に改善するわけではない場合が多いです。したがって、複数の方法を併用したり、症状が長引く場合は医師の診察を受けたりすることが最善策となります。
心因性の要素
精神的なストレスが強いとき、あるいは緊張状態が続いていると、咳が増幅されるケースが報告されています。特に就寝前は、日中に抱えていたストレスを意識していなくても、体や心が興奮状態から脱しきれず、浅い眠りや咳を誘発することがあります。アロマテラピーや軽いストレッチ、呼吸法などを取り入れて、就寝前に気分を落ち着ける工夫も役立ちます。
気管支疾患やアレルギー
気管支喘息などの呼吸器疾患や、アレルギー体質を持っている場合、医師の診察と適切な薬物療法が必要になることがあります。自己判断で市販薬を多用しても、根本的な原因の改善にはつながらないかもしれません。専門家に相談し、原因を特定し、最適な治療を進めることが大切です。
日中の予防策
夜間の咳対策としては、夜だけにフォーカスするのではなく、日中からの予防策も重視しましょう。例えば、日中に適度な運動をする、バランスの取れた食事を摂る、水分補給をしっかり行うなど、生活習慣を整えることで体全体の免疫力や抵抗力を向上させることができます。また、乾燥を防ぐために冬場は加湿マスクを利用するといった工夫も考えられます。
推奨される対策一覧と注意点
ここまでの内容をまとめると、夜間の咳を緩和するために推奨される主な対策としては、以下のようなものが挙げられます。ただし、どの対策も医師の診断に代わるものではなく、症状や体質によって効果に差があります。
- 適切な湿度(40〜70%)の維持
- 寝る前の温かい飲み物(ノンカフェイン)
- 就寝1〜2時間前の入浴やシャワー
- 寝室や寝具の清掃、空気清浄機の使用
- 生理食塩水による鼻洗浄
- はちみつの摂取(1歳未満の児は不可)
- 症状に応じた市販の咳止め薬や鼻詰まり解消薬の利用
- 枕の高さ調整や横向き睡眠など、寝る姿勢の見直し
- 昼間のストレスケアや適度な運動、栄養バランスの良い食事
これらの対策を組み合わせながら、自分の体に最も合う方法を探っていくことが重要です。
結論
夜間の咳は、一見小さなトラブルのようでいて、慢性的になると睡眠不足による日中の倦怠感や集中力低下、免疫力の低下など多方面に悪影響を及ぼす可能性があります。上記に挙げた対策はいずれも、咳を完全に止めるものではありませんが、適切に行えば咳を和らげ、睡眠の質を高めるうえで大きな助けとなります。
もし咳が長期化したり、症状が強くなったりする場合には、早めに医療機関を受診して、原因を突き止めたうえで適切な治療を受ける必要があります。とくに息苦しさを伴う咳や、痰に血が混じる、発熱を伴うなどの症状がある場合は、早急に専門家の診断を仰ぐことが望ましいでしょう。
本記事で紹介した対策を取り入れながら、日常生活や夜間の環境を整え、ご自身に合ったケア方法を見いだしてみてください。最後に重ねて申し上げますが、これらの情報はあくまで参考としてお使いいただき、医師などの専門家の意見を優先してください。
参考文献
- 9 Ways To Stop Coughing at Night (アクセス日: 15/03/2023)
- How to Sleep With a Cough or a Cold (アクセス日: 15/03/2023)
- Nocturnal Cough (アクセス日: 15/03/2023)
- What causes that terrible nighttime cough? (アクセス日: 15/03/2023)
- Nocturnal Cough (アクセス日: 15/03/2023)
- Morice AH, Millqvist E, Bieksiene K, et al. “ERS guidelines on the diagnosis and treatment of chronic cough in adults and children.” Eur Respir J. 2020; 55(1): 1901136. doi:10.1183/13993003.01136-2019
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、医師の診断や治療を代替するものではありません。症状が長引く場合や重症化する場合は、必ず専門家にご相談ください。