はじめに
日本では糖尿病の管理がより重要視されるようになり、血糖値の変動を正しく把握し、安定した範囲に維持することが生活の質向上につながると考えられています。その中で、夜間に血糖値が上昇してしまうという悩みを抱える方は少なくありません。夜は本来、体が休まりホルモンバランスも安定していそうなイメージがありますが、実際には多くの要因が複雑に絡み合い、夜間から早朝にかけて血糖値が上昇するケースが見受けられます。とくに糖尿病を抱えている方にとっては、この夜間の血糖コントロールの乱れが、翌朝のコンディションや長期的な合併症リスクに大きな影響を及ぼしかねません。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
本記事では、夜間に血糖値が上昇しやすい仕組みや背景を掘り下げつつ、具体的な症状や合併症の可能性、原因、そして医療機関での診断・治療法について詳しく解説します。夜間の血糖値コントロールを意識することは、糖尿病の管理をより安定させるための重要なポイントです。ぜひ最後までご覧いただき、日常生活でのケアにお役立てください。
専門家への相談
本記事の内容をさらに補強するために、内科・総合内科領域を専門とし、臨床現場で糖尿病治療にも携わっているBác sĩ Nguyễn Thường Hanh(Bệnh Viện Đa Khoa Tỉnh Bắc Ninh)より、医学的な観点からアドバイスをいただいています。また、夜間高血糖の対策や糖尿病マネジメント全般に関する情報は、アメリカ糖尿病学会(American Diabetes Association)や各種信頼できる医学論文・国内外の公的機関資料も参考にしています。実際の検査や治療方針は個人差が大きいため、最終的にはかかりつけ医や専門医にご相談ください。
夜間の血糖値上昇とは何か
夜間に血糖値が上昇するメカニズムと基準値
夜間に血糖値が上昇するとは、夕食後から就寝中、あるいは起床前にかけての時間帯に血糖値が高くなる状態を指します。一般的には、空腹時血糖値が126mg/dL(約7.0mmol/L)以上、あるいは食後2時間で200mg/dL(約11.1mmol/L)以上になると高血糖と判断されやすいといわれています。
夜間に血糖が高まり続けた場合、朝起きたときにも血糖値が正常範囲より高くなり、1日のスタートから不調を感じる原因になることがあります。糖尿病の方では、この夜間の上昇をうまくコントロールしにくい場合があり、長期的な合併症リスクに影響する可能性があります。
なぜ夜間に血糖値が上がりやすいのか
人間の体は昼と夜とでホルモンの分泌バランスが変わり、食事や身体活動のタイミング、ストレスレベルなど、多くの要因が重なることで夜間の血糖管理が難しくなる場合があります。特に就寝直前に高カロリーの食事や間食を摂取したり、インスリン(注射や経口薬)のタイミングが適切でなかったりすることで、夜間に高血糖を起こしやすいとされています。
夜間高血糖の症状
代表的な症状と起こりやすいタイミング
- 寝つきが悪い、あるいは夜中に目が覚める
血糖値が高い状態が続くと、体内の水分バランスが崩れ、喉の渇きや頻尿を催しやすくなります。その結果、深夜に何度もトイレに行くことになり、眠りが中断される場合があります。 - 頭痛や口渇、強い疲労感
高血糖が続くことで血液がドロドロになりやすく、脳や全身へ十分な酸素や栄養素が運ばれにくくなるといった側面があります。結果として頭痛や全身のだるさを感じる場合があります。 - 起床後の倦怠感や吐き気
夜間に血糖値が高いまま推移すると、朝起きたときに強い倦怠感や吐き気を感じることがあります。とくに糖尿病患者では、朝の血糖値がなかなか下がらず、コントロールが難しくなる場面が多いとされています。
これらの症状は夜間の高血糖が主な原因の場合もありますが、ストレスや他の疾患など複数の要因が絡んでいる可能性も否定できません。自己判断だけでなく、医師の診察を受けて原因を特定することが大切です。
夜間高血糖の合併症リスク
長期的に血糖値が高い状態が続くことの影響
- 血管障害の進行
血糖値が高い状態が続くと、大血管や細小血管にダメージが蓄積しやすくなります。とくに目(網膜症)、腎臓(腎症)、末梢神経障害など、糖尿病の3大合併症を進行させるリスクがあります。夜間だけでなく1日を通して持続的に高血糖の時間帯が長いと、合併症のリスクがより高まります。 - 心血管疾患リスクの増大
血糖値の慢性的な上昇は、動脈硬化を促進すると考えられています。結果として、狭心症や心筋梗塞、脳卒中などの心血管疾患につながるリスクが高くなることが報告されています。 - 脱水や電解質異常への注意
夜間に血糖が高くなると頻尿などで水分が失われやすく、軽度~中等度の脱水状態を招く場合があります。電解質バランスが乱れると、筋力低下や不整脈などの原因にもなりかねません。
極端な高血糖(250mg/dL以上)の注意点
血糖値が極端に高い状態(例:250mg/dL以上)が長引く場合、身体への負担はさらに大きくなります。糖尿病が進行するとインスリンが十分分泌されず、エネルギーが取り込めない分、体内でケトン体が増加しやすくなり、「糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)」という危険な状態に陥ることがあります。特に1型糖尿病の方や、インスリン治療を行っている方で適切な量やタイミングを誤った場合に起こりやすいため、注意が必要です。
夜間高血糖の主な原因
食事の影響:就寝前の食事や間食
夜間に血糖値が上昇する代表的な要因の一つが、食事を摂るタイミングです。寝る直前に大量の炭水化物や脂質が多い食事をすると、食後の血糖値上昇が深夜にまで継続し、朝起きるまで高いままになっている可能性があります。特に外食や高脂肪・高炭水化物のメニューを遅い時間に摂ると、インスリン分泌や作用が追いつかずに血糖値が急上昇しやすいです。
インスリンや経口薬の使用方法が不適切
糖尿病の治療では、インスリン注射や経口血糖降下薬を使って血糖値を調整します。しかし、
- 夜間のインスリン注射量が不足している
- 就寝前に経口薬を飲み忘れた
- そもそも治療方針自体が夜間高血糖を想定していない
といったケースでは、夜間に血糖値が高まる可能性が高くなります。インスリン治療では、作用時間の違う種類を組み合わせる場合が多いので、医師の指示どおりに正しい時間と用量を守ることが重要です。
ストレスやホルモンバランス
夜間は副交感神経が優位になり、体がリラックスする時間帯のはずですが、日中のストレスやホルモンバランスの乱れが蓄積していると、夜間にかえってコルチゾール(ストレスホルモン)などが増加し、血糖値上昇を引き起こす場合があります。現代社会では、ストレスや不規則な生活パターンが夜間高血糖と関連する可能性も指摘されています。
“夜明け現象”による早朝の高血糖
有名な現象として、夜明け現象(Dawn Phenomenon) があります。明け方になると、体が目覚めに向けて成長ホルモンやコルチゾール、グルカゴン、エピネフリンなどを分泌し、肝臓からグルコースを放出して1日のエネルギー源を確保しようとします。しかし、これに対してインスリンの働きが十分でなかったり感受性が低下していたりすると、朝起きたときには高血糖の状態になっているのです。夜間は問題なくても、明け方から早朝にかけて血糖が急上昇してしまうケースも注意が必要です。
夜間高血糖の診断方法
血糖自己測定(SMBG)のタイミング
医師から「夜間高血糖」を疑われたり、本人が夜間や翌朝の高血糖を自覚したりしている場合、診断には以下のタイミングでの血糖測定が勧められます。
- 就寝前
寝る直前の血糖値を測ることで、あらかじめ高い値になっていないかを確認します。 - 深夜0~3時ごろ
夜中に目が覚めるタイミング、あるいは一度起きて測定することで、深夜帯に血糖が上昇していないかチェックします。 - 起床直後
起きた直後の血糖値を見ることで、「夜間を通してずっと高血糖が続いたのか」「明け方に急に高くなったのか」を推測できます。
このように複数回の測定を行い、時間帯ごとの血糖値を記録することで、どこから値が上がっているのかを把握できます。
持続血糖測定(CGM)の活用
最近では、皮膚に小さなセンサーを装着して1日中血糖値を記録できる持続血糖測定(CGM: Continuous Glucose Monitoring)システムも普及しています。CGMを利用すると、寝ている間の血糖変動も一目瞭然になり、正確に夜間や明け方の血糖動向を把握できるメリットがあります。医師と相談し、必要に応じて導入を検討するとよいでしょう。
夜間高血糖の治療・対策
血糖値が夜間に高い時間帯別のアプローチ
- 就寝前からすでに血糖が高い場合
就寝前におやつを食べる、夕食が遅い、夕食の内容に炭水化物や脂質が多いなどが原因の場合は、その食事内容や時間を見直すことが第一歩となります。さらに、必要に応じてインスリンや経口血糖降下薬の量・タイミングを調整する場合があります。 - 深夜0~3時にかけて血糖が高くなる場合
この時間帯に血糖値が急上昇する場合、就寝前のインスリン量が適切かどうか、あるいは就寝時の血糖値が低すぎて反応的に血糖が上がる「ソモギー効果」の可能性も考慮します。医師と相談して投薬方法を見直す必要があります。 - 明け方~起床前に上昇(夜明け現象)
夜明け現象が原因で早朝だけ血糖が高くなるなら、就寝前のインスリン(もしくは経口薬)のタイミングを調整するか、長時間作用型インスリンを追加するなどの工夫が考えられます。食事内容の見直しなど生活習慣面での改善も併せて大切です。
食事療法の見直し
- 就寝前の食事量や内容
夕食をなるべく就寝2~3時間前に終えることや、血糖値を上げやすい食品(高GI食品、白米、精製パン、お菓子類など)を控えるのが効果的とされています。また、寝る前にどうしても空腹がつらい場合は、少量のたんぱく質や野菜を中心にするなど、血糖値を急に上げにくい食材を選ぶ工夫が必要です。 - 適度な食物繊維の摂取
食物繊維が豊富な野菜やきのこ、海藻などを意識的に摂ることで、炭水化物の吸収をゆるやかにし、夜間の血糖上昇を抑制しやすくなります。
運動療法のタイミング
一般的に、運動は血糖値を下げるのに役立ちます。ただし、夜遅い時間に激しい運動をすると交感神経が刺激され、かえって血糖値が上がる場合もあるため注意が必要です。夕食後1~2時間くらいに軽いウォーキングなどを行うと、就寝前の血糖値が比較的安定しやすいといわれています。
ストレスマネジメント
ストレスはコルチゾールなどのホルモン分泌を促し、血糖値を上げる引き金となるため、日頃からリラクゼーション法や十分な睡眠時間の確保、趣味の時間を持つなど、ストレスを溜め込みにくい生活を心がけることが肝心です。
医療機関での薬物調整
- インスリンの追加・変更
夜間の血糖値が著しく高く、かつ食事療法や運動療法だけでコントロールが難しい場合は、長時間作用型インスリンの夜間注射を増量したり、注射するタイミングを調整したりすることがあります。 - 経口血糖降下薬の見直し
2型糖尿病の方で、経口薬の種類や服用時間が夜間高血糖のパターンに合っていない場合は、医師と相談して薬剤を変更する選択肢もあります。
日本国内向けの新しい研究報告とその活用
近年、夜間や早朝の血糖値管理に関する研究が多数報告されており、その多くがインスリン製剤の改良や持続血糖モニタリング(CGM)の普及による「夜明け現象」「ソモギー効果」の早期把握と適切な治療方針の重要性を示唆しています。たとえば、American Diabetes Association(ADA)が2023年に公表したガイドライン(Diabetes Care 2023;46(Suppl.1))では、夜間高血糖の持続的モニタリングを重視し、必要に応じて医師主導のもと、睡眠パターンや生活環境に合わせたインスリン投与計画の調整を行うことが推奨されています。また、同じく2022年のADAとEASD(欧州糖尿病学会)の共同コンセンサスレポート(Diabetes Care 2022;45(11):2753-2786, doi:10.2337/dci22-0034)でも、夜間血糖の安定は合併症予防に直結するとして、個々の患者に最適化した治療戦略が重要と述べられています。日本国内でも同様の傾向があり、医師が患者ごとに詳細な夜間血糖プロファイルを把握しながら、薬剤調整や生活指導をきめ細かく行う事例が増えています。
結論と提言
夜間に血糖値が上昇する原因は、食事のタイミングや内容、インスリンや経口薬の調整不足、ストレス、ホルモンバランスの乱れなど、多面的に存在します。糖尿病を抱えている方にとって、夜間の血糖値が高いまま推移することは、翌朝の不快感だけでなく、長期的には大血管・細小血管障害などの合併症リスクを高める可能性があり、見逃せません。そのため、夜間高血糖を感じたら以下を意識してみましょう。
- 就寝前の食事タイミングと内容を見直し、できるだけ脂質や炭水化物を控えめにする
- 夕食から寝るまでの間に、軽めの運動やストレス軽減策を取り入れる
- 必要に応じて夜間または就寝前のインスリン量や薬の服用時間を調整する
- 夜明け前後に血糖が上昇する場合は「夜明け現象」の有無を医師に相談し、適切な対策を講じる
- 自己測定や持続血糖測定(CGM)を活用し、どの時間帯に血糖が上がりやすいか客観的に把握する
- 長期的な合併症防止の観点から、定期的に医療機関での検査や指導を受ける
夜間の血糖コントロールは、糖尿病管理のなかでも見落とされがちですが、日常生活の質を高めるうえで非常に大切なポイントです。個々のライフスタイルや治療状況に合わせて、医師や医療チームと相談しながら最適な方法を見つけてください。夜間血糖を適切に管理することは、合併症の予防だけでなく、朝の体調を改善し、日中の活動レベルを上げる大きな鍵にもなります。
参考文献
- High Blood Sugar at Night: What to Do. https://diatribe.org/high-blood-sugar-night-what-do. アクセス日: 15/12/2021
- Sleep and Blood Glucose Levels. https://www.sleepfoundation.org/physical-health/sleep-and-blood-glucose-levels. アクセス日: 15/12/2021
- Diabetes-Related High and Low Blood Sugar Levels. https://www.uofmhealth.org/health-library/tm7018. アクセス日: 15/12/2021
- Overnight blood glucose levels. https://www.diabetesqld.org.au/news/overnight-blood-glucose-levels/. アクセス日: 15/12/2021
- The dawn phenomenon: What can you do? https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/diabetes/expert-answers/dawn-effect/faq-20057937. アクセス日: 15/12/2021
- American Diabetes Association. Standards of Medical Care in Diabetes—2023. Diabetes Care. 2023;46(Suppl.1). doi:10.2337/dc23-S001
- Davies MJ, et al. Management of hyperglycemia in type 2 diabetes, 2022. A consensus report by the American Diabetes Association (ADA) and the European Association for the Study of Diabetes (EASD). Diabetes Care. 2022;45(11):2753-2786. doi:10.2337/dci22-0034
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