はじめに
夜間に大量の汗をかき、パジャマやシーツがびっしょり濡れる――いわゆる「寝汗」は、寝室の温度や布団の厚さといった環境的な要因だけでなく、体内のホルモン変化や基礎疾患が影響して起こる場合があります。日常生活で「なぜか夜だけたくさん汗をかいて眠りが妨げられる」「日中は大丈夫なのに寝ているときだけ体が熱くて汗ばむ」と感じる方は少なくありません。実際に寝汗は、日本国内の様々な年代・性別で広く報告される症状のひとつです。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
本記事では、夜間の多量発汗(以下「夜間発汗」「寝汗」と総称)に焦点をあて、その定義や症状、主な原因、診断・治療法、さらに生活習慣の工夫について詳しく解説します。「ただの寝汗だろう」と放置しがちな方にも、寝汗が慢性的に続く場合は何らかの疾患が隠れている可能性があることを理解していただくきっかけとなれば幸いです。また記事の中では、新しい研究やエビデンスを踏まえ、より説得力のある情報を補足していきます。症状の頻度や体調次第では早めに医療機関を受診し、適切な診断と治療に取り組むことが重要です。
専門家への相談
本記事は、医療の専門家による指導やアドバイスを代替するものではありません。寝汗について検査や治療を検討する際は、必ず信頼できる医療専門家への相談をおすすめします。この記事では、米国のMayo ClinicやCleveland Clinicなどの大規模医療機関が公開している資料や、世界的に活用されている医療データベースを参考にしています。また文中でご紹介する外部リンク(「Night sweats ~」「Night Sweats: Menopause & Other Causes」など)は、もともと掲載されていた情報源であり、現時点でも国際的に広く参照される信頼性のある情報と考えられます。さらに、日本国内の医療機関での臨床経験やガイドラインも考慮し、より総合的な視点で解説しております。
夜間の発汗(寝汗)とは何か
寝汗は、就寝時に過度の発汗が起こり、衣服や寝具がしっかり濡れるほどの症状を指します。室温が高い、布団を厚くかけすぎているなど“環境要因”による発汗とは区別され、以下のように定義されることが多いです。
- 夜間、適切な室温・寝具であっても、大量の汗をかいて起きる(または寝具が濡れる)状態が繰り返される
- 身体が体温調節を行う通常の発汗では説明できないレベルの汗量
一時的に寝室が暑かったり、掛け布団が厚かったりして汗をかく場合は、基本的に深刻な疾患とは無関係なことが多いです。しかし本記事で扱う「寝汗」は、何らかの体内要因(ホルモン異常、感染症、基礎疾患など)が背景にある可能性を含んでおり、他の症状(発熱や体重減少など)を伴うケースも報告されています。
近年、日本国内でも睡眠の質を重視する傾向が高まっており、夜間発汗によって睡眠が妨げられることへの関心が高まっています。夜中に幾度も目が覚めてしまう方や、翌朝のだるさが続いて日常生活に支障をきたしている方は、一度医療機関で原因を確認することが望ましいでしょう。
夜間発汗の主なサインと症状
大量の汗で衣服や寝具が濡れる
夜間発汗のもっとも代表的なサインは、目が覚めたときにパジャマやシーツがびっしょりと濡れている状態です。寝汗は誰でもかくものですが、いわゆる「大量発汗」に至る場合は、寝具を取り替えないと眠れないほどになることもあります。通常の暑さによる発汗との違いは、「寝室環境は問題ない(適温またはエアコンなどで調整済み)のに、汗が止まらない」という点です。
付随する症状
夜間の発汗を引き起こす疾患や状態によっては、以下のような追加症状を伴うことがあります。
- 発熱、悪寒(寒気)、ふるえ
体内の炎症や感染症が疑われるケースです。例えば細菌感染やウイルス感染などに伴って発汗が増えることがあります。 - 体重減少
食欲不振や代謝変化など、特定の疾患が背景にある場合に起こりやすいです。 - 咳、呼吸器症状
肺や気道関連の感染症、または重い呼吸器疾患との関連が考えられます。 - 下痢、消化器症状
消化器系の炎症、感染症、あるいは免疫系の疾患の場合にみられることがあります。 - 更年期症状(女性の場合)
女性ホルモンの急激な変動によって起こるホットフラッシュ(のぼせ、顔のほてり)や膣の乾燥、日中の発汗増加などを伴う可能性があります。 - 薬剤性の副作用
抗うつ薬やホルモン療法の薬剤、血糖降下薬などの副作用で過剰な発汗が見られることがあります。この場合、薬剤の性質上ほかの副作用(口渇感やめまいなど)も同時に起こる可能性があります。
受診のタイミング
もし、寝汗によって以下のような状態が継続する場合は、医療機関を受診することをおすすめします。
- 発汗で夜中に何度も目が覚め、日中の活動に支障が出る
- 発熱や原因不明の体重減少、局所の痛み、呼吸器症状(咳など)、消化器症状(下痢など)を同時に伴う
- 閉経後ある程度時間が経ったのに、再び寝汗やホットフラッシュ様の症状が増え始めた
- 寝室環境を整えても発汗量がまったく改善しない
特に発熱や顕著な体重減少を伴う場合は、感染症や悪性腫瘍(血液のがんなど)が潜んでいる可能性も否定できません。原因を特定するうえでも、早めの医療機関受診が有用です。
夜間発汗の原因
夜間に発汗を引き起こす原因は、単に夜暑い環境で寝ているというケース以外に、以下のような多彩な要因が考えられます。
薬剤の副作用
- 抗うつ薬
一部の抗うつ薬は自律神経系に影響し、体温調節のバランスを崩すことがあります。 - 血糖降下薬
低血糖になると身体が防御反応としてアドレナリンを分泌し、発汗を引き起こす可能性があります。 - ホルモン療法薬
一部のがん治療(乳がんや前立腺がんなど)で用いられるホルモン治療薬には、のぼせや発汗増加を伴うものがあります。
更年期・閉経期(女性の場合)
女性ホルモン(エストロゲン)の急激な減少によって起こる自律神経の乱れや血管運動神経症状(いわゆるホットフラッシュ)が原因で、夜間にも突然の発熱感と大量の汗をかくことがあります。更年期にみられる寝汗は、日中のほてりや気分変動、膣の乾燥などを伴うことが多いです。
なお、2022年に発表されたNorth American Menopause Society(NAMS)のホルモン療法に関するポジションステートメント(Menopause. 2022; 29(7): 767-794. doi:10.1097/GME.0000000000002028)でも、更年期のホットフラッシュに夜間発汗が大きく関連し、睡眠障害や生活の質低下を招きやすいことが報告されています。
感染症・免疫疾患
- 結核やHIV/AIDS
先進国を含め依然として見られる感染症であり、慢性的な発熱・寝汗・体重減少などが典型的な症状です。 - 細菌感染(心内膜炎、骨髄炎など)
体内のどこかで感染や炎症が続いていると、発熱とともに発汗が増えることがあります。 - 自己免疫疾患
関節リウマチなど、一部の自己免疫疾患で全身の炎症が起こると寝汗が増えることがあります。
腫瘍性疾患(血液がんなど)
- ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、白血病など
発熱、盗汗(寝汗)、体重減少(“B症状”と呼ばれる)を典型的に呈する血液腫瘍が存在します。 - その他の悪性腫瘍
がんが進行すると代謝や免疫系に大きな負担がかかり、夜間の発汗が増える場合があります。
内分泌・代謝性疾患
- 甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)
新陳代謝が亢進し、日中夜間問わず発汗が増えやすい。 - 褐色細胞腫
副腎髄質から過剰なカテコールアミンが分泌される稀な腫瘍で、高血圧発作や過度な発汗を引き起こすことがあります。 - 糖尿病
低血糖になりやすい場合は、交感神経の反応で夜間発汗が生じることがあります。
生活習慣・その他の要因
- カフェイン、アルコール、喫煙
これらの習慣は自律神経を刺激し、夜間の発汗を誘発・悪化させる場合があります。 - 薬物依存や薬物離脱症状
違法薬物や一部の医療用薬物の依存からの離脱期に、発汗、発熱、不安感などが起こることがあります。 - 睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害
睡眠時無呼吸で呼吸が一時的に途絶すると、体内ストレスが急上昇し、発汗が増えることも報告されています。
診断と治療
ここでは、寝汗の原因を特定するための検査方法や、原因ごとの治療アプローチについて解説します。
診断の流れ
- 問診・身体所見
医師が現在の症状(寝汗の頻度・量、夜中に起きるかどうか)や、日中の体調、既往歴、服用薬、生活習慣などを確認します。また体温、脈拍、血圧、甲状腺腫大の有無、リンパ節のはれなどを視診・触診する場合があります。 - 血液検査、甲状腺機能検査、炎症反応検査など
- 甲状腺刺激ホルモン(TSH)や甲状腺ホルモン(T3、T4)を測定してバセドウ病などの可能性を確認
- ESR(赤沈)・CRP値など炎症や感染の有無を確認
- 感染症疑いがあればHIV検査や結核スクリーニング、血液培養など
- 画像検査
胸部X線、CTスキャンなどを行い、肺やリンパ節、骨の状態を評価することがあります。結核や悪性疾患が疑われる場合に有用です。 - その他の検査
必要に応じて、超音波検査、MRI、睡眠ポリグラフ検査(睡眠時無呼吸症候群の評価)などが行われる場合もあります。
治療アプローチ
寝汗の治療は、原因疾患や誘因となる要素を改善・除去することが基本です。
- 更年期症状による場合
ホルモン補充療法(HRT)や漢方薬などを用いてホットフラッシュや寝汗を緩和するアプローチがあります。前述のNAMSガイドライン(2022年)でも、更年期障害の煩わしい症状を緩和する目的でホルモン療法が有効であると示されています。ただし、乳がんなど一部の疾患リスク増大に注意が必要です。 - 感染症が原因の場合
原因菌に適合する抗生物質や抗ウイルス薬などを処方。例えば結核であれば複数の抗結核薬、HIV/AIDSの場合は抗レトロウイルス薬が用いられます。 - 悪性腫瘍の場合
化学療法、放射線療法、手術など、そのがんの種類や進行度に合わせた治療が実施されます。リンパ腫や白血病など血液がんでは、寝汗は治療経過を見るひとつの目安とされることもあります。 - 薬剤の副作用による場合
抗うつ薬やホルモン薬など、原因となる薬を変更したり、用量を調整したりすることで症状が改善するケースがあります。自己判断で中止せず、必ず主治医と相談してください。 - ライフスタイルが原因の場合
アルコールやタバコ、カフェイン摂取量を見直し、必要に応じて減量や禁煙指導などが行われます。薬物依存の場合は、専門の医療機関による治療プログラムを含む支援が重要です。
なお、2019年以降の一部研究(例:Baker FCら, Sleep Medicine Reviews, 2019年, doi:10.1016/j.smrv.2018.07.008)では、更年期のホットフラッシュに対する睡眠衛生指導と行動療法(認知行動療法CBT)との併用で症状が緩和された報告もあり、日本国内でも適切な睡眠指導・心理カウンセリングを取り入れるケースが徐々に増えつつあります。このように原因に直結する治療だけでなく、生活リズムや睡眠の質の改善を図ることで夜間発汗が抑えられることがあります。
日常生活で気をつけたいポイント
夜間発汗を和らげるためには、ライフスタイルの見直しも大きな役割を果たします。以下に代表的な方法を挙げます。
- 寝室の温度・湿度管理
部屋の気温が高すぎる、湿度が高すぎると汗をかきやすくなるため、エアコンや除湿機などを上手に活用しましょう。 - 通気性の良い寝具・パジャマを選ぶ
綿やリネンなど、吸湿性・通気性に優れた素材を使用すると快適に眠れます。 - 就寝前の習慣
・激しい運動や辛い食べ物、熱い飲み物は体温を上げすぎるため、寝る直前は避ける
・ぬるめのお風呂にゆっくり浸かりリラックスする
・スマートフォンやパソコンの画面を見続けない(入眠前の強い光や情報刺激は交感神経を高ぶらせます) - カフェイン、アルコール、喫煙を控える
カフェインやアルコール、ニコチンは交感神経を刺激し、夜間の体温調節を乱す要因になります。 - 適度な体重管理
肥満はホルモンバランスや代謝に影響し、発汗が増えやすくなる場合があります。適正体重を維持することが望ましいです。 - リラックス方法の取り入れ
ヨガや呼吸法、ストレッチなどのリラックステクニックはストレス軽減に役立ちます。特に就寝前に深呼吸を取り入れると、交感神経の過剰反応を抑え、発汗の抑制につながる可能性があります。
夜間発汗への総合的なアプローチの重要性
夜間発汗の原因は単一とは限らず、複数の要因が絡み合っていることが多々あります。例えば更年期によるホルモンの乱れがベースにある女性が、寝る前に辛い物を食べ、さらにストレスが高まっている状態では、発汗を誘発する要素が重複してしまうわけです。
したがって、夜間発汗の改善を目指すには、病院での診断・治療だけでなく、生活習慣やストレス管理など日々の取り組みが不可欠です。もし寝汗が長く続く、あるいは体調不良を伴うような場合は一度検査を受け、原因に合わせた治療やセルフケアを組み合わせるのが理想です。
推奨されるセルフケアと医師への相談
以下は夜間発汗に悩む方に向けた一般的な推奨事項ですが、あくまで参考情報であり、個々の症状や病状によって異なる点があることをご留意ください。
- 寝る前1~2時間は、身体をクールダウンできる時間を確保
暑い風呂やサウナは就寝直前に利用しないほうが無難です。 - 可能な範囲でストレスを軽減
認知行動療法やリラクゼーション法、軽い運動(ウォーキングなど)を取り入れるとよいでしょう。 - 薬の副作用が疑われる場合は医師・薬剤師に相談
服用中の薬を勝手に中断すると、別の深刻な問題が生じる恐れがあります。必ず専門家と相談してください。 - 定期的な健康診断を受ける
長期間寝汗が続く場合、血液検査や画像検査などで病気の早期発見に役立つ可能性があります。
結論と提言
夜間発汗(寝汗)は、寝室環境が適正でも大量の汗をかいてしまい、眠りを妨げる困った症状です。原因としては更年期のホルモン変動や感染症、血液・免疫疾患、甲状腺機能亢進症、薬の副作用など多岐にわたります。
寝汗自体は一般的に比較的よく見られる現象ですが、「毎晩大量の汗をかいて目が覚める」「体重減少や発熱など他の症状がある」という場合は、必ず医療機関で原因を調べることが大切です。治療や生活習慣の改善によって、睡眠障害を軽減させ、QOL(生活の質)を向上させることも十分に期待できます。
また、ライフスタイルの改善(適温の寝室、寝具の工夫、刺激物の摂取制限、ストレスケアなど)や、更年期の女性であればホルモン補充療法などの医療的アプローチによって症状が大きく改善する可能性もあります。
最終的には、継続的な観察と医師の指導のもと、原因に即した多面的な対処を行うことが理想です。もし「ただの寝汗」という自己判断で放置しているうちに、体調や生活の質が著しく低下するような事態を避けるためにも、早めの受診とケアを心がけましょう。
重要: この記事は医療の専門家による診断や治療の代替ではなく、あくまで一般的な情報提供を目的としています。自己判断で治療を開始・中止することは避け、何らかの懸念がある場合は必ず医師などの専門家へご相談ください。
参考文献
- Night sweats – Mayo Clinic (アクセス日: 31/1/2023)
- Night sweats – Healthdirect (アクセス日: 31/1/2023)
- Night sweats Causes – Mayo Clinic (アクセス日: 31/1/2023)
- Don’t Lose Sleep Over Night Sweats – American Osteopathic Association (アクセス日: 31/1/2023)
- Night Sweats: 7 Reasons You May Be Sweating at Night – Houston Methodist (アクセス日: 31/1/2023)
- Night Sweats: Menopause & Other Causes – Cleveland Clinic (アクセス日: 31/1/2023)
- Night Sweats – University of Michigan Health (アクセス日: 31/1/2023)
- North American Menopause Society. 2022 Hormone Therapy Position Statement. Menopause. 2022; 29(7): 767–794. doi:10.1097/GME.0000000000002028
- Baker FC et al. Cognitive behavioral therapy for menopause-related insomnia: A systematic review. Sleep Medicine Reviews. 2019; 43: 47–56. doi:10.1016/j.smrv.2018.07.008
(上記の研究・論文は、夜間発汗や更年期症状、睡眠改善に関する比較的新しい知見として引用しています。いずれも国際的に評価される学術誌であり、臨床研究や総説が掲載されています。夜間発汗と更年期、あるいは睡眠の質との関連性について理解を深める一助となるでしょう。)
以上の情報が、夜間発汗について理解を深めるうえで少しでも役立てば幸いです。どうぞお大事になさってください。