夢遊病:眠りの中をさまよう不思議な世界
睡眠ケア

夢遊病:眠りの中をさまよう不思議な世界

 

免責事項

当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。

はじめに

夜中に突然起き上がって歩き回ったり、何かを口走ったりしているのに翌朝になるとまったく思い出せない——こうした経験がある方は、いわゆる「夢遊病(いわゆる睡眠中の徘徊行動)」の可能性があります。専門的には「睡眠時遊行症」と呼ばれ、眠りが深い段階から覚醒に移行する過程で起こりやすいとされています。寝ぼけたまま部屋をうろうろしたり、話しかけられてもほぼ反応せず、朝になると一切覚えていないことも多いのが特徴です。本記事では、夢遊病(以下「夢遊病」と記載)の主な症状や原因、日常生活で役立つ対策などを包括的にご紹介し、必要に応じてどのように専門医へ相談すればよいかも解説します。

専門家への相談

夢遊病は一般的に子どもによくみられますが、大人でも発症する可能性があります。特に成人期以降も頻繁に発生している場合、ケガをしたり他者に危害を及ぼしたりするリスクがあるため、念のため医師や睡眠医療の専門家に相談したほうが安全です。本記事には、医師への相談が必要と思われるポイントや、睡眠を専門とする医療機関を受診すべき理由などが含まれています。なお、本記事の医学的監修はLê Thị Mỹ Duyên医師(多分野にわたる総合診療を専門とし、臨床経験を通じて睡眠障害などにも対応している)によるものですが、あくまで参考情報としてご覧いただき、実際の診断や治療方針については必ず直接専門医にお問い合わせください。

夢遊病(睡眠時遊行症)とは?

夢遊病の概要

夢遊病は、深い睡眠から完全に目覚めきらないまま身体が動き出してしまう睡眠障害の一種です。夜の就寝後1~2時間ほど経ってから、ノンレム睡眠期(眠りが深い段階)に発症することが多いとされています。患者本人は「行動している」という自覚や記憶がほとんど残らないケースが主流です。

日本国内外での調査によれば、人口の約1~15%が何らかのかたちで夢遊病を経験すると報告されており、特に4~8歳の子どもに多くみられます。ただし大人でも発症が珍しいわけではなく、成人期になっても習慣的に睡眠中の徘徊行動が続く場合があります。このようなケースでも、必ずしも重い精神疾患や神経疾患が潜んでいるとは限りませんが、念のため専門家に相談しておくと安心です。

夢遊病の主な症状

  • ベッドから起き出し歩き回る
    夜間、無意識で室内をうろうろする、ドアを開けるなどの行動をとることがあります。
  • ぼんやりと起き上がるが、受け答えが成立しない
    ベッドに座っている状態でも、目は開いているのに焦点が定まらず、こちらの呼びかけにほとんど反応しないことがあります。
  • 目の表情がうつろ
    「虚ろな目つき」「ぼんやりとした視線」で、周囲の状況を認識していない様子が見受けられます。
  • 意味不明なことをつぶやく、会話が成り立たない
    意味不明な言葉をつぶやき、自分自身も覚えていないことが多いです。
  • 行動が自動的・習慣的
    服を着替える、何かを口に入れる、家の中を点検するなど、日頃の習慣的な行動を朦朧としたまま行うことがあります。
  • 夜間の危険行為
    稀にドアを開けて屋外に出たり、車を運転しようとしたり、階段から落ちそうになるなどの危険行動に至る例も報告されています。
  • 翌朝になると記憶がほとんどない
    本人がまったく覚えていない、もしくは断片的にしか思い出せず、周囲に指摘されて初めて気づくというケースが多いです。

多くの場合、上記の症状が数分程度で終わり、再び深い眠りに戻ります。しかし、長いと数十分続くこともあり、その間に転倒などのケガをするリスクが高まります。周囲の人が声をかけても起きない、または起こしても混乱が激しくなる場合があります。

夢遊病の頻度と関連するリスク

多くは子ども時代から思春期にかけて生じ、成長に伴い自然と治まることが少なくありません。ただし、大人になってからも頻発したり、危険な行動を伴う場合は注意が必要です。また、深夜のみならず、昼寝の最中に起こるケースは比較的少ないですが、絶対に起こらないわけではありません。

もし以下のような状態が頻繁に続くようであれば、できるだけ早く医療機関へ相談してください。

  • 週に1~2回以上の頻度で起こり、日常生活に支障が出ている
  • 夢遊病中に転倒・外傷などの重大事故のリスクがある
  • 同居家族の睡眠に深刻な影響を及ぼし、本人が強い罪悪感や恥ずかしさを抱えている
  • 子どもではなく成人期以降に急に発生し始めた、または思春期を過ぎても頻度が衰えない

夢遊病が起こる原因

リスク因子

夢遊病は、まだ完全には解明されていない部分もあるものの、以下のような要因との関係が指摘されています。

  • 睡眠不足
    睡眠時間の不足や不規則な睡眠リズムは、深いノンレム睡眠が乱れ、夢遊病の誘発要因になると考えられています。
  • 過度な疲労やストレス
    心身が疲労困憊の状態や、強いストレスにさらされると、脳の睡眠メカニズムに乱れが起きやすくなります。
  • 不安障害やうつ病などのメンタルヘルス問題
    不安や抑うつ状態が重なり、夜間の睡眠構造に影響するケースがあります。
  • 発熱や体調不良
    体温の上昇や体内環境の変化が脳の睡眠覚醒システムに影響を与える可能性があります。
  • 一部の薬剤やアルコールなどの影響
    鎮静薬・睡眠薬、抗精神病薬、アルコールなどによる脳機能抑制や睡眠構造変化が、夢遊病エピソードを引き起こすことがあります。
  • 遺伝的素因
    親も同様の症状を持っていた場合、子どもが発症しやすいとされる研究結果があります。

さらに、慢性的な睡眠障害(睡眠時無呼吸症候群、ナルコレプシー、むずむず脚症候群など)や甲状腺機能亢進症、胃食道逆流症などの身体的疾患が関連することもあります。こうした基礎疾患の管理が夢遊病対策にもつながる可能性があります。

最近の研究知見

海外を含む大規模調査では、遺伝要因と生活習慣の複合的な影響が強く示唆されており、特に高ストレス環境においては症状が出やすくなるとの指摘が多くみられます。また、American Academy of Sleep Medicine(2023年)の情報でも、睡眠不足や規則性を欠いた睡眠リズムが夢遊病発生の頻度を上げる傾向が再確認されています。日本国内でも、深夜労働や長時間勤務による睡眠障害が重なり、成人期の夢遊病エピソード増加が懸念されています。

夢遊病の診断と検査

診察・問診

子どもの場合、成長に伴って自然に解消するケースが多いため、通常は「経過観察」で十分です。しかし、思春期を過ぎても頻度が高い、もしくは成人してから急に始まった場合には、以下の項目を中心に診察が行われます。

  • 睡眠習慣や生活リズムの聞き取り
    就寝時間や起床時間、勤務形態などの日常生活パターンを確認し、睡眠負債が溜まっていないか、ストレスや疲労度合いはどうかをチェックします。
  • 家族・同居人からの情報
    本人の言動について客観的な報告が得られると、発作の内容や頻度、危険行為の有無を詳細に把握できます。
  • 基礎疾患の有無
    甲状腺機能亢進症やうつ病など、既往歴や現在の治療状況を確認し、夢遊病と関係しそうな問題を探ります。

多項生理検査(ポリソムノグラフィ)

より詳しい検査が必要と判断された場合、睡眠外来などで「ポリソムノグラフィ」と呼ばれる精密な睡眠検査が行われることがあります。脳波・心電図・呼吸状態・筋電図などを一晩かけて測定し、ノンレム睡眠からレム睡眠への移行過程や、夜間に起きている行動の記録を解析します。これにより、他の睡眠障害(睡眠時無呼吸症候群や周期性四肢運動障害など)との鑑別も行われます。

夢遊病の治療と対応策

治療の必要性

子どもが夜間に夢遊病エピソードを起こしても、多くは思春期前後までに自然に改善します。そのため、小児科専門医の指示のもと観察するだけで経過を見ることがほとんどです。一方、成人期の夢遊病は本人や周囲に被害・迷惑が及ぶ可能性があるため、必要に応じて治療を検討することが推奨されます。

以下のような場合は、早めに治療の検討が求められます。

  • 発作中に階段から落ちそうになる、外に出てしまうなどの危険行為がある
  • 家族の睡眠に深刻な影響が出ている
  • 本人が極度のストレスや恥ずかしさを感じていて日常生活に支障を来している
  • うつ病や不安障害などの精神疾患を合併している

主な治療・対策方法

  • 基礎疾患の治療・原因薬剤の見直し
    うつ病や不安障害、甲状腺機能亢進症などが関与する場合は、これらの治療が第一歩となります。また、薬による副作用が疑われる場合は主治医と相談して薬の種類や投与量を見直します。
  • 薬物療法
    どうしても危険が避けられない場合には、医師の判断でベンゾジアゼピン系薬剤や特定の抗うつ薬などが処方されることがあります。発作頻度を下げるのが目的ですが、薬物依存や副作用のリスクを踏まえた適切な管理が重要です。
  • リラクゼーション法・自己暗示療法
    心身の緊張やストレスを和らげるために、ヨガや呼吸法、簡易的な自己暗示法(自律訓練法など)が行われることがあります。夜間の深い睡眠を得やすくし、発作を減らす補助的な方法です。
  • カウンセリング・心理療法
    不安やストレスが大きい人には認知行動療法などの心理的アプローチが有効な場合があります。生活習慣の改善やストレスマネジメント技術を身につけることで、睡眠の質の向上が期待できます。

生活習慣上の工夫

予防につながる日常ケア

完全に発生を防ぐのは難しいとされますが、日常のセルフケアによってリスクを軽減することができます。

  • 十分な睡眠時間を確保する
    慢性的な睡眠不足は発作の誘因となりやすいため、就寝・起床時間をできるだけ一定に保ち、疲労の蓄積を防ぎましょう。
  • 就寝前の刺激を避ける
    強い照明や電子機器の画面(スマホ・パソコンなど)を遅い時間まで見続けると、脳が覚醒状態に近づいて深い睡眠が妨げられます。就寝30分~1時間前には照明を落とし、リラックスする時間を確保することが望ましいです。
  • ストレス管理
    適度な運動や入浴、好きな音楽を聴くなど、自分に合った方法でストレスを軽減しましょう。過度なストレスは睡眠を浅くし、夢遊病エピソードの誘発因になります。
  • アルコールやカフェインの制限
    就寝前のアルコールやカフェイン摂取は睡眠の質を低下させる場合が多いため、意識して控えることが重要です。

夜間の安全対策

夢遊病中に起き出してしまったとき、転倒などを含む大きなケガを防ぐための工夫が欠かせません。

  • 部屋の危険物除去
    床に物を置かない、鋭利な家具の角をクッションで保護するなど、転倒しても大怪我につながりにくい環境を整えましょう。
  • 鍵の管理
    戸外へ出てしまうリスクを減らすため、玄関や窓の鍵を就寝前に確実に施錠し、容易に開かないようにしておきます。ドアに小さなベルなどを取り付けると、家族がすぐ気づけます。
  • 就寝スペースの工夫
    2階以上で寝ている場合は、転落防止のため手すりをしっかりと設置し、階段付近には照明や安全用ゲートを設けるとよいでしょう。

専門医への相談が必要なケース

  1. 週1回以上発作が起こる
    頻度が高いほど事故やケガのリスクが上がります。
  2. 大人になってから突然始まった
    成人期以降に新規発症した場合、何らかの身体的・精神的疾患が潜んでいる可能性があります。
  3. 家族に危険や大きな負担をかけている
    同居家族が眠れなくなる、日常生活への影響が深刻な場合は専門医の助言が必要です。
  4. 本人が強い苦痛や不安を感じている
    自分が何をしているか覚えていないことで罪悪感や恐怖感に苛まれ、うつ状態に陥ることもあります。

参考文献

結論と提言

夢遊病は子どもに多く見られる一過性の睡眠障害で、成長とともに自然に消失するケースが一般的です。しかし、成人期以降も頻繁に続く場合や危険行為を伴う場合は、医学的な検査や専門家の診察を受けることが望ましいでしょう。治療としては、基礎疾患のコントロール、薬剤の見直し、あるいはストレス管理の徹底など、原因に即したアプローチが求められます。

夜間の行動によるリスクを下げるためには、睡眠環境を安全に整えることが第一歩です。さらに、睡眠不足を解消したり、ストレスを減らしたり、就寝前の刺激をコントロールするなど、生活習慣を改善することで多くの方は発作の回数を減らせる可能性があります。

最後に、この情報はあくまで一般的な参考資料であり、個々の症状や病状に応じた診断や治療方針は専門家の指導が必要です。自己判断のみで放置すると、思わぬ事故や合併症を招くおそれもあるため、心当たりがある方や不安を感じている方は、早めに医療機関や睡眠専門医へ相談してください。

注意事項(免責)

本記事は健康や医療に関する一般的な情報を提供するもので、専門医療行為の代替を意図するものではありません。具体的な治療を含むあらゆる判断は医療従事者と相談の上で行ってください。特に成人期の夢遊病で日常生活に支障や危険が及ぶ場合は、速やかに医療機関にご相談ください。

(医師による監修:Lê Thị Mỹ Duyên)


以上が本記事の全文です。

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