長引く大人の空咳(からぜき):原因・検査・最新治療法まで専門医が徹底解説
感染症

長引く大人の空咳(からぜき):原因・検査・最新治療法まで専門医が徹底解説

コンコン、と乾いた咳が続くと、仕事や睡眠に集中できず、日常生活に大きな支障をきたします1。単なる風邪のなごりだと思っていても、数週間以上続く場合は、背後に別の病気が隠れている可能性があります。この記事では、JAPANESEHEALTH.ORG編集委員会が、日本の医療ガイドラインに基づき、長引く大人の空咳の原因、適切な受診のタイミング、最新の治療法まで、専門的な知見をわかりやすく、そして深く解説します。この情報が、あなたの不安を和らげ、適切な一歩を踏み出すための一助となることを心から願っています。

要点まとめ

  • 3週間以上続く咳は専門医への相談が推奨され、8週間以上続く場合は「慢性咳嗽」として詳細な検査が必要です2, 3
  • 日本では「咳喘息(せきぜんそく)」が最も一般的な原因であり、その他にもアトピー咳嗽、胃食道逆流症(GERD)などが多く見られます4
  • 血痰、呼吸困難、原因不明の体重減少などの「危険なサイン」が見られる場合は、速やかに医療機関を受診してください3, 5
  • 治療は原因疾患の特定が基本です。近年では、従来の治療で改善しない難治性の咳に対し、「リフヌア錠(ゲーファピキサント)」という新しい治療選択肢も登場しています6, 7
  • 生活習慣の改善(禁煙、加湿、アレルゲン対策など)も、咳の管理において非常に重要です8

1. 長引く空咳とは?まず知っておきたい基本

咳は、気道に入った異物や過剰な分泌物を体外に排出しようとする重要な防御反応です1。しかし、この咳が長く続くと、体力を消耗し、生活の質(QOL)を著しく低下させる原因となります1, 9。まず、咳の種類と期間による分類を理解することが重要です。

咳の期間による分類:急性・遷延性・慢性

日本呼吸器学会(JRS)のガイドラインでは、咳の続く期間によって以下のように分類されています4

  • 急性咳嗽(きゅうせいがいそう): 3週間未満で治まる咳。
  • 遷延性咳嗽(せんえんせいがいそう): 3週間から8週間続く咳。
  • 慢性咳嗽(まんせいがいそう): 8週間以上続く咳。この記事の主な焦点です。

一般的に、咳が3週間を超えて続く場合は専門医の受診が推奨され、8週間以上続く場合は、特別な治療が必要な病気が潜んでいる可能性が高まります2, 3

乾性咳嗽(空咳)と湿性咳嗽(湿った咳)の違い

咳は、痰の有無によっても大きく二つに分けられます。

  • 乾性咳嗽(かんせいがいそう): 「コンコン」という音で表現される、痰を伴わない、またはごく少量の痰しか出ない咳のことです3。気道の炎症や過敏性が主な原因とされています3
  • 湿性咳嗽(しっせいがいそう): 「ゴホゴホ」という音で、痰が絡む咳を指します3。気道の分泌物が増える病気が原因となります。

本記事では主に「乾性咳嗽(空咳)」に焦点を当てますが、この区別は原因を特定する上で重要な手がかりとなります。

2. なぜ大人の空咳は長引くの?主な原因を徹底解説

長引く空咳の原因は多岐にわたります。日本では、特定の疾患が原因となる頻度が高いことが知られています。ここでは、日本呼吸器学会のガイドラインや最新の研究に基づき、主な原因を解説します4

日本で特に多い「3大原因」

日本の成人における慢性的な咳の主な原因として、以下の3つが挙げられます。

  1. 咳喘息(せきぜんそく): 日本における慢性咳嗽の最も一般的な原因で、約半数を占めると報告されています4。喘息特有の「ゼーゼー」「ヒューヒュー」といった喘鳴(ぜんめい)や呼吸困難がなく、乾いた咳だけが唯一の症状として長期間続きます4。気管支拡張薬や吸入ステロイド薬(ICS)が有効で、治療せずに放置すると典型的な気管支喘息に移行することがあります10
  2. アトピー咳嗽(あとぴーがいそう): アレルギー素因を持つ人に多く見られ、喉のイガイガ感や痒みを伴う乾いた咳が特徴です8。咳喘息とは異なり、気管支拡張薬は効果がなく、ヒスタミンH1受容体拮抗薬や吸入ステロイド薬(ICS)が有効です。
  3. 胃食道逆流症(GERD): 胃酸が食道へ逆流することで、食道や喉が刺激され、咳が引き起こされます1。胸やけや呑酸(どんさん)などの消化器症状を伴うことが多いですが、咳が唯一の症状である場合もあります。特に横になった時や食後に咳が悪化する傾向があります11

その他の重要な原因

上記の3大原因以外にも、以下のような多様な原因が考えられます。

  • 感染後咳嗽(かんせんごがいそう): 風邪やインフルエンザなどの呼吸器感染症が治った後も、気道の過敏性が残るために咳だけが数週間から数ヶ月続く状態です4。夜間や特定の刺激(冷たい空気、会話など)で悪化することがあります11
  • 後鼻漏症候群(こうびろうしょうこうぐん) / 上気道咳症候群(UACS): 鼻や副鼻腔からの鼻水が喉の奥に流れ落ちることで、咳反射が誘発されます11。鼻炎や副鼻腔炎(蓄膿症)が背景にあることが多いです。
  • 副鼻腔気管支症候群(ふくびくうきかんししょうこうぐん): 慢性的な副鼻腔炎と、気管支炎や気管支拡張症などの下気道の炎症が合併した状態です4。多くは湿性咳嗽ですが、初期には乾性咳嗽として現れることもあります。
  • 慢性閉塞性肺疾患(COPD): 長年の喫煙が主な原因で、咳や痰、労作時の息切れが特徴です8。初期には乾いた咳が見られることもあります。
  • 薬剤性咳嗽: 特定の薬剤、特に高血圧の治療に用いられるACE阻害薬が原因で乾いた咳が続くことがあります2
  • 環境・職業性因子: 職場や家庭環境におけるアレルゲン(ハウスダスト、カビ、ペットのフケなど)や化学物質、粉塵への曝露が原因となることがあります8。近年の高気密な住宅は、室内アレルゲンの濃度を高めやすいと指摘されています12
  • 心因性咳嗽: ストレスや心理的な要因が関連する咳で、他の全ての身体的な原因が除外された場合に診断されます2

見逃してはいけない重篤な病気

頻度は低いものの、長引く咳は以下のような重篤な病気のサインである可能性も否定できません。

  • 肺がん: 初期症状として乾いた咳が続くことがあります。血痰(けったん)は特に注意すべきサインです3, 5
  • 間質性肺炎: 乾いた咳や労作時の息切れが特徴です3
  • 肺結核: 日本でも依然として注意が必要な感染症です8
  • 百日咳(ひゃくにちぜき): 特徴的な咳が長く続く感染症で、近年成人での報告が増加しています13
表1:日本における成人の長引く空咳の主な原因、特徴的症状、診断の手がかり14
原因疾患 主な症状 咳の特徴 診断のヒント
咳喘息 (Seki Zensoku) 喘鳴や息苦しさを伴わない、長引く乾いた咳が唯一または主症状。 夜間、早朝、寒暖差、会話、運動時に悪化しやすい2 気管支拡張薬や吸入ステロイド薬(ICS)が著効。アレルギー素因。呼吸機能検査、呼気NO検査4
アトピー咳嗽 (Atopic Gaisou) 喉のイガイガ感、かゆみを伴う乾いた咳。 温度変化、タバコの煙、特定の臭いなどで誘発されやすい。 アトピー素因(アレルギー性鼻炎など)。ヒスタミンH1拮抗薬やICSが有効。気管支拡張薬は無効。アレルギー検査2
胃食道逆流症 (GERD) 胸やけ、呑酸(酸っぱいものが上がってくる感じ)。咳だけのことも。 食後、横になった時、早朝に悪化しやすい。声がれを伴うことも1 消化器症状が典型的。胃内視鏡検査、24時間食道pHモニタリング15
感染後咳嗽 (Kansen-go Gaisou) 風邪などの気道感染症が治った後も咳だけが続く。 数週間から数ヶ月続く頑固な咳。夜間や運動時に悪化11 最近の感染症の既往。他の原因を除外して診断。自然軽快することが多い4
後鼻漏症候群 (UACS) 鼻水が喉に流れる感覚、鼻すすり、鼻づまり。 横になると悪化しやすい、乾いた咳または湿った咳。 耳鼻咽喉科での診察で喉の奥に粘液を確認。アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎の既往11
副鼻腔気管支症候群 慢性副鼻腔炎の症状(鼻づまり、後鼻漏など)と長引く咳が合併。 多くは湿性咳嗽だが、乾性咳嗽で始まることもある。 副鼻腔と胸部のCT検査。上気道と下気道の両方に炎症所見4
COPD 慢性の咳、労作時の息切れ、長期の喫煙歴。 初期は空咳、進行すると特に朝方に痰が絡む咳に2 喫煙歴が最大のリスク因子。呼吸機能検査で気流閉塞を確認8
薬剤性咳嗽 新しい薬を飲み始めてから出現した乾いた咳。 他の症状を伴わない、しつこい乾いた咳。 ACE阻害薬が代表的。原因薬剤の中止により軽快2
肺がん 長引く乾いた咳、血痰、胸痛、息切れ、体重減少。 時間とともに咳の性質が変化することがある。 胸部X線、CT検査。腫瘍が疑われれば生検2

3. 咳が続く…病院へ行くべき?受診の目安と検査

咳が長引くと、「いつ病院へ行けばいいのか」「何科を受診すればいいのか」と迷う方も多いでしょう。ここでは、適切な受診のタイミングと、日本で行われる一般的な検査について解説します。

受診の目安となる期間と「危険なサイン」

咳が続く期間は、受診を判断する上で重要な指標です。

  • 3週間以上続く場合: 専門医への受診を検討しましょう。背後に治療が必要な病気が隠れている可能性があります2
  • 8週間以上続く場合(慢性咳嗽): 必ず医療機関を受診し、原因を特定するための精密検査を受ける必要があります3

健康に関する注意事項

以下の「危険なサイン」が一つでも見られる場合は、様子を見ずに速やかに医療機関を受診してください。

表2:長引く咳:危険なサインを見逃さないで4
症状 考えられること 推奨される行動
呼吸困難、喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒュー) 重度の喘息発作、COPDの増悪、気道閉塞、心疾患 直ちに医師の診察を受ける。重度の場合は救急要請も考慮。
血痰(痰に血が混じる) 肺がん、肺結核、気管支拡張症、重度の肺炎 直ちに呼吸器専門医を受診する。
長引く高熱 重度の感染症(肺炎、結核)、全身性の炎症性疾患 原因特定と治療のため、医師の診察を受ける。
原因不明の体重減少 がん、重度の慢性疾患、結核 原因精査のため、医師の診察を受ける。
胸の痛み 胸膜炎、心疾患、肺がん、肺塞栓症 特に痛みが強い、または息苦しさを伴う場合は直ちに受診。
初期治療にも関わらず8週間以上続く咳 原因が未特定、治療抵抗性、または誤診の可能性 呼吸器専門医による再評価と、より専門的な検査を検討。

何科を受診すればよいか?

長引く咳の診療では、原因に応じて様々な専門科が連携します。

  • 呼吸器内科(こきゅうきないか) / 呼吸器専門医(こきゅうきせんもんい): 最も適切な最初の相談先です。咳の原因を総合的に診断する中心的な役割を担います4
  • アレルギー科(あれるぎーか): 咳喘息やアトピー咳嗽など、アレルギーが関与している疑いが強い場合に適しています16
  • 耳鼻咽喉科(じびいんこうか): 後鼻漏や副鼻腔炎が疑われる場合に専門的な診察が受けられます4
  • 消化器内科(しょうかきないか): 胃食道逆流症(GERD)が疑われる場合に相談します4

日本で行われる主な検査

診断を確定するために、以下のような検査が段階的に行われます。

  1. 問診・身体診察・胸部X線(レントゲン)検査: 診断の第一歩です。咳の性質、持続期間、伴う症状などを詳しく聞き取り、聴診などを行います。胸部X線検査は、肺炎や肺がん、結核などの重篤な肺の病気を見つけるために不可欠です4
  2. 呼吸機能検査(スパイロメトリー): 息を最大限吸い込み、勢いよく吐き出すことで、気道が狭くなっていないかを評価します。咳喘息やCOPDの診断に必須の検査です1, 17
  3. 呼気NO(一酸化窒素)検査: 吐く息の中に含まれる一酸化窒素の濃度を測定する簡便な検査です。気道のアレルギー性炎症(好酸球性炎症)の程度を数値で評価でき、咳喘息やアトピー咳嗽の診断、治療効果の判定に非常に有用です18。この検査により、咳喘息の診断にかかる診察回数が大幅に減少したという報告もあります19
  4. 血液検査・喀痰検査: 炎症の有無やアレルギーの状態を調べるために血液検査を行います。痰が出る場合は、その成分を調べて感染症の原因菌やアレルギー関連の細胞(好酸球)を特定します20
  5. アレルギー検査: アレルギーが疑われる場合、血液検査(特異的IgE抗体)や皮膚テストで原因アレルゲンを特定します8
  6. 胸部CT検査: X線検査で異常が疑われたり、より詳細な情報が必要な場合に実施されます4
  7. その他の専門的検査: 必要に応じて、胃食道逆流症を調べるための胃内視鏡検査15、副鼻腔炎を調べるためのCT検査21、あるいは気管支鏡検査4などが行われることがあります。

4. 長引く空咳の治療法:原因に合わせたアプローチ

長引く咳の治療における最も重要な原則は、原因となっている根本の病気を治療することです4。咳止め薬で症状を一時的に抑えるだけでは、根本的な解決にはなりません。

原因疾患別の薬物療法

  • 咳喘息・気管支喘息: 吸入ステロイド薬(ICS)が治療の基本です。気道の炎症を抑え、咳の発作を予防します。症状が強い場合は、気管支拡張薬を併用することもあります1
  • アトピー咳嗽: ヒスタミンH1受容体拮抗薬(抗アレルギー薬)や吸入ステロイド薬(ICS)が用いられます20
  • 胃食道逆流症(GERD): 胃酸の分泌を強力に抑えるプロトンポンプ阻害薬(PPI)が中心となります22。ただし、咳に対してPPIを経験的に使用してもプラセボ以上の効果はなかったという報告もあり15、後述する生活習慣の改善が極めて重要です23
  • 後鼻漏症候群(UACS)/副鼻腔気管支症候群: 原因となる鼻炎や副鼻腔炎の治療が優先されます。点鼻ステロイド薬、抗ヒスタミン薬、鼻うがいなどが有効です24
  • 感染後咳嗽: 多くは自然に治まりますが、症状が辛い場合は対症療法が行われます4。漢方薬が有効な場合もあります。

漢方薬(かんぽうやく)の役割

日本の医療では、西洋薬と並行して漢方薬が用いられることがあります。特に長引く咳に対しては、麦門冬湯(ばくもんどうとう)が有名です。痰が切れにくく、顔が赤くなるほど咳き込むような乾いた咳に適しているとされ11、日本呼吸器学会のガイドラインでも感染後咳嗽に対して言及されています25。喘息に関連した咳過敏性の改善に効果があったという研究報告もあります26

市販の咳止め薬(鎮咳薬)との付き合い方

原因が特定されていない慢性的な咳に対して、自己判断で市販の咳止め薬を使い続けることは推奨されません27。根本的な原因の発見を遅らせる可能性があります。医師が必要と判断した場合、非麻薬性鎮咳薬であるデキストロメトルファン(メジコン®)が第一選択として考慮されることがあります28。コデインなどの麻薬性鎮咳薬は、他の治療で効果がない場合に限定的に使用されますが、依存性などの副作用に注意が必要です15

5. 専門医からのアドバイス:難治性の咳と最新治療

適切な診断と治療を行っても、なお咳が続く「難治性・原因不明の慢性咳嗽」に悩む患者さんも少なくありません。近年、このような咳のメカニズムの解明が進み、新しい治療法が登場しています。

「咳過敏症候群」という考え方

難治性の咳の背景には、「咳過敏症候群(がいそうかびんしょうこうぐん)」という状態があると考えられています。これは、咳を引き起こす神経(迷走神経)が過敏になり、通常では問題にならないような些細な刺激(会話、温度変化、匂いなど)に対しても、激しい咳発作を起こしてしまう状態です6, 7

新しい治療選択肢:リフヌア錠(ゲーファピキサント)

この咳過敏性に関わる神経伝達の仕組みを標的とした新しい薬が「ゲーファピキサントクエン酸塩(商品名:リフヌア錠)」です。2021年12月に日本で「難治性の慢性咳嗽」を対象に承認されました29

  • 作用機序: 咳反射に関わる神経上のP2X3受容体の働きを選択的にブロックし、神経の過剰な興奮を抑えることで咳を鎮めます6, 30
  • 対象: 既存の治療法を試しても効果が不十分な、難治性の慢性咳嗽患者さんに限られます31
  • 効果: 咳の頻度を有意に減少させることが臨床試験で示されています6
  • 主な副作用: 最も特徴的な副作用は味覚異常(味覚不全)です。苦味、金属味、塩味などを感じることがあり、報告された発生率は40%から63%と比較的高頻度ですが、多くは軽度から中等度で、服薬を続けることで改善・回復する傾向があります31

この薬の登場は、これまで有効な治療法がなかった患者さんにとって大きな希望となります。ただし、使用は専門医の慎重な判断のもとで行われるべきです。

6. 自分でできる対策と日常生活の注意点

薬物治療と並行して、日常生活でのセルフケアを実践することが、つらい咳をコントロールする上で非常に重要です8

  • 十分な水分補給と加湿: 喉の乾燥は咳を誘発します。こまめに水分を摂り、加湿器などを使って室内の湿度を適切(50~60%程度)に保ちましょう3
  • 刺激物を避ける: 喫煙は最も避けるべきです。受動喫煙にも注意しましょう。香水、芳香剤、排気ガス、冷たい空気なども刺激になります。マスクの着用は有効です8
  • アレルギー対策: ハウスダストやダニが原因の場合は、こまめな掃除、寝具の手入れ(防ダニシーツの使用、布団乾燥機の活用など)が重要です8
  • GERD対策: 胃酸の逆流を防ぐため、就寝前の食事を避け、ベッドの頭側を高くして寝る、食べ過ぎを避ける、肥満の場合は減量する、といった工夫が有効です15
  • 休息とストレス管理: 過労やストレスは免疫力を低下させ、咳を悪化させる一因です。十分な睡眠と休息を心がけましょう8
  • 喉への直接的なケア: のど飴や蜂蜜(※1歳未満の乳児には与えないでください)は、喉を潤し、一時的に咳を和らげる効果が期待できます3

よくある質問 (FAQ)

熱はないのに、乾いた咳だけがずっと続くのはなぜですか?

熱がないのに乾いた咳が続く場合、感染症以外の原因が考えられます32。日本で最も多いのは「咳喘息」で、アレルギー反応によって気道が過敏になっている状態です4。その他、「アトピー咳嗽」、「胃食道逆流症(GERD)」、あるいは高血圧の薬(ACE阻害薬)の副作用なども原因として挙げられます2, 8。3週間以上続く場合は、自己判断せず呼吸器内科などの専門医に相談することが重要です。

ストレスが原因で空咳が出ることはありますか?

はい、あります。これは「心因性咳嗽」または「咳チック」と呼ばれ、身体的な異常がないにもかかわらず、心理的な要因やストレスが引き金となって咳が続く状態です2。何かに集中している時や睡眠中には咳が出ないのが特徴です。ただし、心因性咳嗽は他の全ての身体的な原因が除外された後に診断されるため、まずは呼吸器内科で精密検査を受けることが大前提となります。

咳喘息と診断されました。普通の喘息になってしまうのでしょうか?

咳喘息は、喘鳴や呼吸困難を伴わないものの、気道の炎症という点では気管支喘息と同じ病態です。咳喘息の患者さんの一部は、適切な治療を受けないと、将来的に典型的な気管支喘息に移行することが知られています10。そのため、症状が咳だけであっても、医師の指示通りに吸入ステロイド薬などによる治療を継続し、気道の炎症をしっかりとコントロールすることが非常に重要です。

呼気NO検査とはどのような検査ですか?痛いですか?

呼気NO(一酸化窒素)検査は、吐く息(呼気)に含まれる一酸化窒素の濃度を測定する検査です。この数値は、アレルギーと関連の深い「好酸球」による気道の炎症度を反映します18。検査は全く痛みを伴いません。マウスピースをくわえて、画面の指示に従って一定の強さで10秒ほど息を吐くだけで測定できます。咳喘息やアトピー咳嗽の診断、治療効果のモニタリングに非常に役立つ、患者さんへの負担が少ない優れた検査です19

漢方薬の「麦門冬湯」はどんな咳にも効きますか?

麦門冬湯(ばくもんどうとう)は、特に「痰が少なく、切れにくい、コンコンと激しく咳き込むような乾いた咳」に対して効果が期待される漢方薬です11, 25。喉の乾燥を潤す作用があります。しかし、痰が多い湿った咳や、体が冷えている場合の咳には適さないこともあります。漢方薬は個人の体質(証)に合わせて処方されるため、自己判断での使用は避け、漢方に詳しい医師や薬剤師に相談することが望ましいです。

結論

長引く大人の空咳は、多くの人にとって非常につらく、厄介な症状です。しかし、その背後には咳喘息、アトピー咳嗽、胃食道逆流症といった治療可能な原因が隠れていることがほとんどです。重要なのは、3週間以上続く咳を放置せず、呼吸器専門医などの専門家へ相談することです。適切な診断を受けることで、原因に合わせた効果的な治療を開始できます。近年では、難治性の咳に対する新しい治療選択肢も登場しており、希望は広がっています。この記事で得た知識を活用し、ご自身の症状と向き合い、専門家と共に改善への道を歩んでいかれることを願っています。

免責事項この記事は医学的アドバイスに代わるものではなく、症状がある場合は専門家にご相談ください。

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