はじめに
突然の腹痛や水様便が何日も続くと、体力の低下や脱水症状が心配になる方も多いかと思います。一般的に成人の下痢は子どもほど重症化しないことが多いといわれていますが、必ずしも安心できるわけではありません。症状が長引いたり、激しく繰り返したりすると、体内の水分や電解質のバランスが崩れ、重篤な合併症を引き起こす危険性があります。本記事では、成人における下痢の主な症状や原因、下痢がどの程度続くのが一般的か、そしてご自宅でできる対処法について詳しく解説いたします。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
下痢が数日で自然に治まることは多いものの、長期化すると日常生活に支障をきたす場合もあります。また、感染や基礎疾患など原因が異なると、症状の経過やケアの方法も変わります。そのため、早めに正しい情報を把握して適切な対策を取ることが大切です。なお、本記事は日本国内での生活習慣や医療環境を想定しており、できるだけ分かりやすい言葉を用いて解説しています。体の状態が悪化したり、明らかに通常とは違う症状が出たりした場合には、必ず医師の診察を受けてください。
専門家への相談
本記事の内容は、内科領域をはじめとする総合診療の現場で幅広く症例を扱っている医師や、公的医療機関が示すガイドライン・学術研究などを参考に作成しました。本記事に登場する医療従事者としては、たとえばBác sĩ Nguyễn Thường Hanh(Nội khoa – Nội tổng quát, Bệnh Viện Đa Khoa Tỉnh Bắc Ninh)などが挙げられます。ただし、個別の診療行為に当たれる立場ではないため、あくまでも一般的な情報提供を目的としております。疑わしい症状や強い不安がある場合は、速やかに医師や専門家にご相談ください。
下痢の主な症状:注意すべきサイン
下痢とは、1日に3回以上の水様便が続く状態を指すことが多く、急性の場合は数日~2週間ほどで自然軽快するケースが大半です。しかし、場合によっては重症化し、合併症を招くリスクがあります。以下のような症状が見られた場合は注意が必要です。
- 回数が多い水様便:1日に3回を超える頻度で、ほぼ水のような便が続く
- 制御できない便意:突然強い便意を感じて、トイレまで我慢できない
- 腹痛・腹部のけいれん:差し込むような痛みや、お腹が張っているような不快感
- 吐き気や嘔吐:特にウイルス感染などによる急性下痢で起こりやすい
- 発熱やめまい:発熱を伴う場合は、感染症による可能性が高い
- 食欲不振:食べ物を受け付けなくなる、または口にすると吐き気を催す
さらに、便が何度も出ることで体内の水分やミネラルが急速に失われやすく、以下のような脱水症状を引き起こす恐れがあります。
- 尿量の減少、尿の色が濃い
- めまい
- 筋肉のけいれん(こむら返り)
- 口や舌の乾燥
- 目が落ちくぼむ
- 手足の冷え、肌の血色が悪い
- 倦怠感、強い眠気や食欲不振
- 心拍リズムの異常
脱水は重篤化すると命にかかわるリスクがあるため、少しでも疑わしい場合はただちに医療機関を受診し、点滴などで適切な補液を行うことが重要です。
下痢の主な原因
下痢がいつまで続くかは原因によって大きく左右されます。急性下痢(短期的な下痢)は、ウイルスや細菌による胃腸炎などに起因するケースが多く、数日程度で回復する場合が一般的です。一方で、4週間以上にわたって症状が続く慢性下痢の場合は、消化管の基礎疾患などより複雑な要因が潜んでいることがあります。主な原因を整理すると、以下のとおりです。
- ウイルス感染(ノロウイルス、ロタウイルスなど)
- 細菌感染(カンピロバクター、サルモネラ、病原性大腸菌など)
- 薬の副作用(抗生物質、下剤など)
- 特定の食物に対するアレルギーや不耐症(乳糖不耐症、果糖不耐症など)
- 放射線治療による腸管ダメージ
- 寄生虫による感染
- 過敏性腸症候群(IBS)
- 胆汁酸吸収不良(胆汁酸が大腸に多量に流入し、水分分泌が増える)
- 炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病など)
- セリアック病
- 慢性膵炎
- 憩室症(大腸に憩室が多数できる)
- 大腸がん
- 胆嚢摘出後や胃の手術後に起こる慢性的な下痢
これらの要因によって下痢の期間は異なります。原因をしっかり把握することで、適切な治療と対策をとりやすくなります。
成人の下痢はどのくらい続くのか?
「下痢は何日ぐらい続けば自然に治るのか?」という疑問は、日常でよく耳にします。一般的に、成人の急性下痢は2~4日ほどで治まることが多いと報告されています。しかし、ウイルスや細菌の種類、体質、基礎疾患の有無などによっては1~2週間続く場合もあるため、症状が激しいときや長引くときは早めに医療機関で受診するのが望ましいです。主な例を挙げると、以下のようになります。
- 急性下痢:数日から1~2週間程度で自然回復しやすい
- 慢性下痢:4週間以上続くケース。過敏性腸症候群や炎症性腸疾患などが背景にあることが多い
- 内視鏡検査前の腸管洗浄剤や下剤服用:症状は1日以内におさまる
- 薬剤性の下痢:薬の服用をやめると改善する場合が多いが、医師の指示なしに中断するのは危険な場合がある
新しい研究による知見
最近の国際的な疫学調査では、成人の急性下痢の80%以上がウイルス性もしくは軽微な細菌感染によるものと推定されており、これらの大部分は無理のない範囲での自宅療養と十分な水分補給によって改善することが明らかになっています。たとえば、2021年にChowdhury F, Khan AI, Harris AM らが実施し、国際的に権威のある医学誌The Lancet Infectious Diseasesに発表された研究(DOI:10.1016/S1473-3099(20)30607-3)では、急性水様便の患者に対する早期の経口補水と十分な休養が、重度の脱水予防に非常に有用であることが示唆されています。研究対象は小児を含む広範な年齢層でしたが、成人にも同様の効果が期待されると考えられています。
自宅でできる軽度の下痢ケア
通常の急性下痢であれば、多くの場合は自宅療養でも回復可能です。以下の対策を参考に、症状が軽い場合はご自身でケアを試みてください。もし重症化や長期化の兆候がある場合は、すぐに医療機関を受診しましょう。
1. 水分補給を徹底する
下痢が続くと体内の水分だけでなく電解質も大量に失われます。脱水予防には、以下の方法が効果的です。
- 水や経口補水液
- 薄味のスープや味噌汁
- 野菜スープやおかゆ
一方、牛乳や果汁、アルコール、カフェイン入り飲料は、腸への刺激が強い可能性があるため避けるのが無難です。
2. BRAT食(バナナ・お米・リンゴソース・トースト)をベースにした消化にやさしい食事
下痢中は刺激の強い食品や脂肪分の多い食事を控え、以下のような消化に負担が少ない食品を選びましょう。
- バナナ:カリウム補給にも役立つ
- お米:おかゆや重湯にして摂取
- リンゴソース:繊維が細かく、胃腸にやさしい
- トースト:脂肪分の多いバターやジャムを多量に塗るのは避ける
日本では一般的に「おかゆや煮込みうどん、湯豆腐」などがよく取り入れられます。完全に症状が治まるまで、香辛料の多い料理や生野菜、揚げ物などは控えめにするとよいでしょう。
3. プロバイオティクスの活用
原因がはっきりしない軽度の下痢の場合、腸内細菌バランスを整える目的で市販のプロバイオティクスを利用するのも有用とされています。実際、National Center for Biotechnology Information(NCBI)の文献によると、プロバイオティクスは軽度の急性下痢に対して下痢期間を短縮する可能性があると報告されています。特に乳酸菌やビフィズス菌などを含む製品は、腸内環境を整える一助になると考えられています。
4. 市販の下痢止め薬
早急に症状を抑えたい場合、ロペラミドなどの市販薬を適切に使用する方法があります。ただし、発熱や血便を伴うような感染症が疑われる下痢の場合、腸内の病原菌を排出できずに重症化するリスクもありますので、自己判断で服用する前に医師または薬剤師に相談するほうが安心です。
どのような場合に病院を受診すべきか
基本的に、成人の下痢は軽症なら数日~1週間ほどで自然に改善することが多いです。しかし、以下のような症状がある場合は、重篤な合併症のリスクがあるため、速やかに病院を受診してください。
- 血便がみられる(便に血液が混じっている)
- 嘔吐が止まらず、食事や水分がほとんど摂れない
- 急激な体重減少
- 夜間も頻繁に下痢が続き、睡眠がとれない
- 最近、抗生物質を服用していた、もしくは入院治療を受けていた
- 便がタール状に黒い(消化管出血の疑いがある)
こうした症状に当てはまる場合は、自己判断で経過を観察するのは危険です。重度の脱水や大腸の損傷、あるいは別の疾患の症状の可能性がありますので、迷わず専門家の診察を受けることをおすすめします。
結論と提言
成人の下痢は子どもよりも軽度で済むことが多い一方、原因や体質、基礎疾患の有無によっては長期化し、重篤化する恐れがあります。短期間であれば自然に改善するケースも多いですが、脱水など重い合併症のリスクを無視することはできません。
- 急性下痢は一般的に2~4日ほどで治まるが、1~2週間続くこともある
- 長引く下痢や血便・嘔吐を伴う場合は早期受診が必要
- 水分・電解質補給をこまめに行い、腸にやさしい食生活を心がける
- 市販薬を使用するときは使用上の注意を守り、感染症が疑われる場合は医師に相談する
- 根本原因が不明のまま症状が続く場合は、消化器系の専門医に相談し、検査や適切な治療を受ける
最後に、下痢が長期化したり、強い腹痛や高熱、嘔吐などの症状を伴ったりする場合は、自己判断で放置せず必ず医師の診断を仰いでください。特に高齢者や基礎疾患をお持ちの方は重症化しやすい傾向にありますので、早期に医療機関を受診することが重要です。
なお、本記事で紹介した情報はあくまでも一般的な知識提供を目的としており、正式な医療アドバイスに代わるものではありません。特定の治療方針や服薬の判断などについては、かならず医師や専門家にご相談ください。
参考文献
- Diarrhea treatment
アクセス日 2022/05/24 - Diarrhea
アクセス日 2022/05/24 - Can probiotics help against diarrhea?
アクセス日 2022/05/24 - Diarrhea
アクセス日 2022/05/24 - Diarrhea
アクセス日 2022/05/24 - How Long Does Diarrhea Usually Last?
アクセス日 2022/05/24
- Chowdhury F, Khan AI, Harris AM, ほか. “Evaluation of fast rehydration for children presenting with acute watery diarrhea.” The Lancet Infectious Diseases. 2021;21(10):1497–1505. doi:10.1016/S1473-3099(20)30607-3
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