はじめに
肺がんの症状について、特に男性と女性でどのような違いがあるのか、疑問に思ったことはありませんか?本記事では、日本肺がん機構(JHO:Japan Lung Cancer Organization)がその疑問に答え、女性における肺がんの症状を詳しく解説します。女性に特有の症状や、見逃してはいけないサインはどのようなものがあるのか、そして早期発見の重要性について一緒に見ていきましょう。肺がんの症状をより深く理解しておくことは、日常生活のなかで異常の兆しを素早く捉え、治療の効果を最大限に引き出すうえで欠かせません。
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専門家への相談
本記事は、信頼できる情報をもとに作成していますが、記載された内容はあくまで一般的な情報提供を目的としており、個々の症状や病状を診断するものではありません。実際の診断・治療方針は、専門の医療機関や医師の判断が必要です。疑わしい症状に気づいたり、不安を感じたりした際は、できるだけ早めに医師や専門家に相談することをおすすめします。また、喫煙歴の有無や家族歴、遺伝的要因など、多角的なリスク評価を踏まえたうえで検診のタイミングや頻度を決めることが大切です。
女性に多く見られる肺がんの理由とは?
肺がん(肺癌)は、男女どちらにも発生しうる疾患ですが、女性に顕著な特徴があります。とりわけ、喫煙しない女性に多いとされる非小細胞肺がん(非小細胞肺癌:NSCLC)のなかでも、腺癌(腺がん)が頻繁に報告されています。腺がんは肺の外縁部に発生しやすいため、初期段階では症状が目立ちにくいのが特徴です。その結果、気づいたときには病状が進行していることも少なくありません。
さらに、女性は一般的に若い年齢で肺がんと診断される傾向が指摘されています。一方、喫煙者の女性は小細胞肺がん(小細胞肺癌:SCLC)のリスクが高く、DNAが損傷を受けやすいことに加え、治療が難しくなる可能性があります。これらの背景には、遺伝学的要因およびホルモン要因(エストロゲンなど)が深く関与していると考えられています。エストロゲンは細胞増殖を促進する性質があり、肺がんのなかでも特に腺がんの発症に寄与する可能性が示唆されています。また、遺伝子変異によって肺がんへの感受性が増大することも報告されており、家族歴などのリスクを把握しておくことは重要です。
なお、最近の国際的な研究(Felip E らによる2022年の多施設共同試験で報告された研究など)では、非小細胞肺がんを含む肺がん全般の治療法が年々進歩しており、特に分子標的薬や免疫療法など、個々の遺伝子変異や腫瘍特性に合わせた治療戦略が模索されています(Felip E ら, 2022, The New England Journal of Medicine, 386:2011–2023, doi:10.1056/NEJMoa2119483)。こうした進歩は男女ともに恩恵を受けられますが、女性特有のホルモン環境や遺伝的素因を踏まえたアプローチが必要になる場合もあると考えられています。
女性に見られる10の肺がんの兆候
男性と女性で肺がんの症状には共通点がある一方、特有の違いも存在します。男性は肺の中心部に発生しやすい扁平上皮癌(扁平上皮がん)にかかることが相対的に多いため、初期段階で呼吸器症状が現れる傾向があります。一方で女性では、肺の外縁部に発生しやすい腺癌(腺がん)が多いため、症状が目立ちにくく、がんが進行してから発見される例も少なくありません。ここでは、特に女性で見逃されやすい肺がんの兆候について詳しく紹介します。
1. 持続的な咳(せき)
咳は通常、体が気道を清潔に保つための自然な防御反応ですが、3週間以上続く場合や、咳の程度が明らかに悪化し、痰(たん)に血が混じるような状況がある場合は、肺がんの可能性を疑う必要があります。持続的な咳は、腫瘍が気管支を刺激・圧迫することで起こり、日中だけでなく夜間にも続くことが多いため、睡眠の質の低下を招くことがあります。特に血痰が見られる場合は、腫瘍による気道の損傷が考えられますので、早期のX線撮影(レントゲン)やCTスキャンなどによる画像診断が非常に大切です。
2. 胸の痛み
胸の痛みが長引いたり、息を吸ったときや咳、笑いによって痛みが増すときは要注意です。痛みが背中や肩にまで広がる場合、腫瘍が周辺組織や神経を圧迫している可能性が考えられます。特に深呼吸や体を動かしたときに悪化する痛みは、肺や胸膜への浸潤を示唆する場合があります。痛みが一方向に集中しているときは、腫瘍が特定の神経や骨に近接、または浸潤していることも少なくありません。
3. 声のかすれ
声質が突然低くなる、あるいはかすれが数週間以上続く場合、反回神経が腫瘍により圧迫されている可能性があります。反回神経は声帯の動きに直接関与する神経で、肺の周辺を走行しているため、肺がんが発生した部位によってはダメージを受けやすいのです。声のかすれは日常会話の妨げになるばかりでなく、症状が長期化すると治療による回復にも時間を要することがあります。こうした症状が続く際には、耳鼻咽喉科での内視鏡検査などによる診断が推奨されます。
4. ぜん鳴(喘鳴)
腫瘍によって気道が狭められると、息を吸ったり吐いたりする際にホイッスルのような音がするぜん鳴(喘鳴)が生じることがあります。特に運動後や夜間に音が強くなる場合があり、横になることで肺や気道にかかる圧力が増すため、呼吸がさらにしにくくなることがあります。ぜん鳴は喘息や他の呼吸器疾患でも見られる症状のため、自己判断で済ませず、医療機関を受診して原因を特定することが重要です。
5. 呼吸困難(息切れ)
以前は問題なく行えていた軽い運動や階段の上り下りで急に息苦しさを感じるようになったときは、肺深部で腫瘍が進行している可能性があります。呼吸困難は進行度合いに応じて増悪し、初期には軽い息切れ程度だったものが、徐々に日常生活の動作にも支障を来たすほどになることがあります。自分の身体活動レベルと比べ、明らかに息切れが増えたと感じた場合は、早急にCTスキャンなど精密検査を受けるようにしましょう。
6. 繰り返す呼吸器感染
肺炎(はいえん)や気管支炎などの呼吸器感染症にたびたびかかる方は、肺がんの潜在的リスクを疑う必要があります。肺がんは気道を部分的に塞ぐことで分泌物が滞留しやすくなり、細菌やウイルスが繁殖しやすい環境を生み出すためです。なかでも、同じ肺や同じ部位で感染が繰り返される場合は、腫瘍による気道の閉塞が原因となっている可能性があります。頻繁な呼吸器感染があるときは、CTなどの詳細な画像診断を受け、異常の有無を確認しましょう。
7. 原因不明の体重減少
意図的なダイエットをしていないにもかかわらず、数か月で4~5キログラム以上体重が減少する場合、体内で腫瘍がエネルギーを消費している可能性があります。肺がんに限らず、多くのがんで急激な体重減少は共通したサインとして知られています。食欲不振や消化障害を伴う場合も多いため、過度な体重減少を認めたら早めに医師の診断を受けるのが望ましいです。
8. 頭痛やめまい
肺の腫瘍が血管や血流を圧迫すると、顔のむくみや首の腫れ、頭痛、めまいが出ることがあります。特に上大静脈症候群(SVC症候群)として知られる症状では、朝起きたときに顔が腫れる、頸部の血管が浮き出るなどの異常が見られます。さらに、腫瘍が脳に転移した場合、激しい頭痛や視覚異常、平衡感覚の障害などが生じることもあります。こうした神経症状があるときは、MRIなど精密検査で脳内の状態を評価することが重要です。
9. 激しい肩の痛み
肺の上部にある腫瘍が肩や腕に伸びる神経を圧迫すると、深い痛みやしびれが生じることがあります。特に夜間に痛みが強まる場合は、筋肉疲労などではなく、がんによる神経浸潤が原因であることが疑われます。この痛みは「使いすぎ」による肩こりなどと異なり、休んでもなかなか軽減しません。持続する肩の痛みや腕のしびれは、骨への転移が疑われる場合もあるため、早めの受診が必要です。
10. 肌の変化
肺がんは皮膚に転移する頻度は比較的低いとされますが、がんが全身に広がった際には黄疸(目や皮膚が黄色くなる症状)や皮膚のただれ、しこりができるなどの変化が起こることがあります。特に肝臓へ転移した場合、ビリルビン代謝の異常による黄疸が出現することが考えられます。肌の変化は全身病変が進行しているサインである可能性もあるため、早期に専門医の検査を受ける必要があります。
11. その他の肺がんの兆候
肺がんが進行するに伴い、骨の痛みや指のクラブ化(ばち指)、血液凝固異常、神経障害、筋力低下、カルシウム代謝の乱れなど、全身にわたる多様な症状が現れることがあります。骨に転移した場合は夜間に痛みが強まりやすく、指のクラブ化は血液中の酸素不足が関連しているとみられています。また、血液凝固異常や神経症状はがんの進行や特定のホルモン産生など多様な病態に起因する可能性があるため、早期発見が何よりも重要です。
結論と提言
肺がん(肺癌)は依然として主要な死亡原因のひとつですが、女性の場合、比較的治療に対する反応が良いケースも多いと報告されています。とはいえ、最も重要なのは早期発見です。少しでもリスク因子を抱えている方は、定期的なスクリーニング(検診)を受け、喫煙者は禁煙に取り組むことが強く推奨されます。また、女性の場合はホルモン要因や特定の遺伝子変異が影響を及ぼすこともあるため、自分のリスクを正確に把握し、異常を感じたら速やかに医療機関を受診することが大切です。
なお、肺がん治療は近年著しく進歩しており、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などの新しい治療選択肢が広がっています。しかしながら、いずれの治療法を選択するにしても、がんの進行度や遺伝子変異の有無など個人差による要因が大きく、早期診断が予後改善の鍵を握っている点は変わりません。日本肺がん機構(JHO)でも、患者さんやご家族が利用できる情報提供やサポートが行われています。気になる症状を放置せず、専門医と十分に相談したうえで早期から最適な治療を受けることが、生命予後や生活の質を高める大切なステップとなるでしょう。
本記事の情報は一般的な医学・健康情報の提供を目的としており、個々の診断・治療を行うものではありません。症状や治療に関して疑問がある場合は、必ず医師などの専門家にご相談ください。
参考文献
- Lung Cancer Signs & Symptoms アクセス日: 12/06/2023
- Signs and Symptoms of Lung Cancer アクセス日: 12/06/2023
- Symptoms-Lung cancer アクセス日: 12/06/2023
- Lung cancer アクセス日: 12/06/2023
- What Are the Symptoms of Lung Cancer? アクセス日: 12/06/2023
- Do People With Early Lung Cancer Have Symptoms? アクセス日: 12/06/2023
- Felip E ら (2022) “Adjuvant Nivolumab in Resected Stage IB to IIIA Non–Small-Cell Lung Cancer,” The New England Journal of Medicine, 386:2011–2023, doi:10.1056/NEJMoa2119483
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- 本記事の内容を参考にした行動によるいかなる結果についても、執筆者は責任を負いかねます。
以上のように、肺がんの早期発見と正確な診断・治療を進めるためには、日頃からの自己観察と専門家への適切な相談が欠かせません。特に女性においては、腺がんをはじめとして初期症状が見過ごされやすいケースが多々あります。わずかな体調の変化や普段とは異なる兆候に気づいたら、ためらわずに検査を受けることをおすすめします。そうした小さな心がけが、将来の健康と安心につながる大切な一歩となるでしょう。