はじめに
「JHO」編集部よりお届けする今回の記事では、女性の性的健康に関する極めて重要なテーマとして、女性の性機能不全(FSD)に焦点を当てます。現代社会において女性の性機能低下や欲求の減退は、以前にも増して注目されるようになってきました。しかし、その一方で「女性にも性機能低下はあるのか?」「その症状とは具体的にどのようなものか?」「改善や予防は可能なのか?」といった基本的な疑問が依然として多くの方に存在しています。本記事は、これらの問いに対して信頼できる医療機関や研究、専門家の見解をもとに、わかりやすく、かつ深く掘り下げて解説し、読者の皆様の理解を助けることを目的としています。ここで示す情報は、あくまで参考として提供されるものであり、個々の健康状態や状況によって最適な対処法は異なる場合があります。必要に応じて医療専門家に相談することが望まれます。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
以下では、女性の性機能低下がどのような背景で起きるのか、どのような症状を示し、どのような要因が関係しているのかを、より詳細な観点から明らかにしていきます。そして最新の医学的研究や、世界的に権威ある医学雑誌に掲載されたエビデンスを通じて、FSDへの深い洞察を提示し、専門的かつ実践的な知見を提供します。女性の性機能は多くの因子が複合的に作用しているため、その全体像を知ることは、身体や心の健康を総合的に把握するうえで欠かせません。特に更年期や閉経期にかけて大きく変動するホルモンバランスや、精神的ストレス、そして日本特有の社会・文化的背景を踏まえて理解を深めることが重要です。本記事が、女性の身体と心の健康を守り、高めるための第一歩として役立てば幸いです。
専門家への相談
本記事における内容は、国内外の医療機関や専門家が提示する知見に基づいています。とりわけ、Mayo Clinicなど国際的に評価の高い医療機関が公表している情報、婦人科や性科学分野の専門誌、さらに米国国立衛生研究所(NIH)や世界保健機関(WHO)、国際女性性機能学会(ISSWSH)といった公的機関・専門学会のガイドラインや勧告も幅広く参照しています。
読者の皆様が自身の健康状態や治療方針を検討する際には、信頼できる産婦人科医、女性ヘルスケア専門医、または性科学に精通した医師へ相談することが強く推奨されます。特に更年期や閉経期、あるいはホルモン療法の導入を検討する場合、個々の身体的・心理的状況によって最適な方法や治療計画は大きく異なるため、専門家との個別相談が極めて有効です。また、国内外のガイドラインや最新研究は常に更新されているため、自身の状態に合わせて最新の情報を得る努力を怠らないことも重要となります。
女性にも性機能低下はあるのか?
はい、女性にも明確に性機能低下(性的欲求の減退、性的興奮の低下、オーガズムに達しにくい状態など)は存在します。これは「女性の性機能不全(FSD)」として知られ、あらゆる年代や環境で起こり得る問題です。特に更年期および閉経期に差し掛かる時期では、女性ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン、テストステロンなど)のバランスが大きく変化するため、FSDが顕在化しやすいと考えられています。
Mayo Clinicによる情報(「参考文献」欄に後述)によれば、女性の性機能低下は年齢に関係なく起こり得るものの、ホルモンの変動が大きい人生の過渡期で特に多く報告されます。日本でも同様の傾向が指摘されており、文化的要因や社会的背景、個々の生活習慣も重なってFSDが発現しやすくなる時期があると考えられています。さらに近年の研究では、都市部におけるストレス過多の就労環境や、家庭内での役割の変化などの社会的・心理的要因が、性機能に影響を及ぼす可能性が示唆されています。
女性の性機能不全とは?
女性の性機能不全(FSD)とは、性的欲求(リビドー)、性的興奮、オーガズム、性的満足度など性機能に関わる複数の要素において困難や不満を感じ、それが本人にとって問題だと認識される状態を指します。重要なのは、男性の勃起不全(ED)が主として血流や勃起機構との関連性で説明されやすいのに対し、女性の性機能不全はホルモンバランス、心理要因、対人関係、生活習慣など多数の要因が重層的に組み合わさっているという点です。
過去の調査研究によれば、FSDは単なる性的欲求低下だけでなく、性的刺激への反応が低下する(性的興奮障害)、痛みを伴う性交(性交疼痛)、オーガズム障害など、複数の症状が複合的に生じることが確認されています。これらの症状にはストレスフルな生活環境や身体的健康問題、不適切なライフスタイル、パートナーとの関係性の質が大きく関係することが多いです。
さらに、最新の医学研究では、FSDの認識が従来よりも深化していることが示されています。たとえば2019年に『The Journal of Sexual Medicine』に掲載された研究(Kingsberg SA, Clayton AH, Pfaus JG, et al. 2019, doi:10.1016/j.jsxm.2019.09.016)では、女性の低性的欲求(HSDD)は単なる欲求不足ではなく、心理的・社会的な文脈やホルモン的・神経生物学的要因などが複雑に絡み合うことによる症状であると報告されています。こうした研究は、FSDをより包括的かつ複雑なシステムの不均衡として理解する必要性を示しており、医療従事者だけでなく一般の読者にとっても有意義な示唆を与えています。
女性と男性の性機能不全の違い
男性では勃起不全(ED)やテストステロン低下といった問題が比較的広く知られています。一方、女性の場合は妊娠や授乳、更年期などのライフステージに伴うホルモンの大幅な変動が、性的欲求、興奮、オーガズム感受性に大きく影響を及ぼしやすいと考えられます。Forbes Healthに寄稿しているDavid Kimble, M.Dの意見(原文参照)では、このような女性特有のホルモン変動が性機能の変化につながる重要な要因だと指摘されています。
さらに、男女差は生物学的要因だけに留まらず、社会的・文化的要因も大きく左右します。特に日本では、伝統的な性役割観や「恥」の文化などにより、自らの性的悩みを周囲に相談しづらい傾向が指摘されてきました。その結果、FSDが潜在化し、医療機関の受診が遅れる可能性があります。また、男性のEDに関しては早くから研究や治療法が開発・普及してきましたが、女性のFSD研究は欧米を中心にここ数十年でようやく深まってきた領域であり、認知度や治療体制が十分とはいえない部分も残っています。
症状の認識
女性の性欲・性機能は、男性と比較するとより複雑かつ多因子的であると一般に理解されています。ホルモンの変動、身体的自己イメージ、パートナーシップ、精神的ストレスなど多岐にわたる因子が関与するため、自身で「性機能不全」と認識しにくい場合も少なくありません。以下では代表的な症状を示します。
- 膣の乾燥
更年期に伴うエストロゲン低下によって膣粘膜が萎縮・乾燥し、性交時に痛み(性交痛)が生じる現象です。一般には閉経期前後に顕著になりやすいとされていますが、若年女性でも生活習慣やストレス状況によって起こり得ます。 - オーガズム障害
十分な性的興奮が得られず、オーガズムに達しにくくなる状態です。心理的要素(不安、ストレス、過去のトラウマ)やホルモン要素(性ホルモンの分泌低下)、パートナーとのコミュニケーション不足など、多角的な要素が関係していることが多いです。 - 性的欲求の減退
主にホルモン変動や長期的なストレス、心理的トラウマなどにより性的欲求が大きく低下します。自己肯定感の低下やネガティブな身体イメージが背景にある場合も多く、社会的プレッシャーや家庭内の負担の増大などが要因となることもあります。
これらの症状は性行為そのものを不快にし、性交を避ける心理を強めるだけでなく、パートナーシップや自己肯定感、ひいてはQOL(生活の質)にも大きく影響する場合があります。そのため、長期間放置してしまうと関係性の悪化や心理的ストレスの蓄積を招く可能性があるため、早期からの適切なケアが望まれます。
原因
女性の性機能低下は単一の原因で説明できず、多様な要因が複合的に絡み合って引き起こされます。以下では主要な原因をいくつかのカテゴリーに分けて解説します。
1. 性的活動の困難
痛みを伴う性交(性交疼痛)や、十分な性的刺激が得られない状況は、女性が性的行為を避ける理由となります。たとえば膣分泌液の減少による性交痛が慢性的に続く場合、性交のたびに負担を感じるため、性的興味や欲求が減退しやすくなります。
近年、『The Journal of Sexual Medicine』や『Menopause』といった著名な雑誌において、前戯の延長や潤滑剤の適切な使用などが提案されています。一方で、潤滑剤の有用性や副作用は個人差が大きく、十分な臨床的エビデンスが揃っていない部分もあります。したがって、実際に使用する際は医師と相談したうえで自分の身体に合うものを選ぶことが重要です。
2. 婦人科の健康問題
膣感染症、子宮筋腫、子宮内膜症などの婦人科的疾患は性行為時に痛みや不快感をもたらし、結果的に性的欲求の減退を引き起こすことがあります。これらの疾患は適切な治療や管理を行うことで症状の改善が期待でき、性機能も回復傾向を示す場合が多いです。定期的に婦人科で検診を受けることは、こうした病状の早期発見と早期治療に役立ち、性機能を維持するうえでも意義があります。
特に子宮内膜症は、慢性的な疼痛や性交痛をもたらすことで知られており、多数の研究で性行為の質や性的欲求に影響することが示唆されています(Nappi RE, Davis SR. Menopause. 2021, doi:10.1097/GME.0000000000001764)。子宮内膜症への早期対処が、FSD予防や症状改善に寄与する可能性は非常に大きいといえます。
3. 医療治療中
抗うつ薬や特定のホルモン補充療法薬、降圧剤など、多くの処方薬には性欲の減退やホルモンバランスへの影響など、副作用として性機能を妨げる要素が含まれる場合があります。とくにホルモン補充療法では、更年期症状の改善を目的としてエストロゲンやプロゲステロン、テストステロンなどを補充することがありますが、個々の反応やリスクは大きく異なるため、綿密な医師の診断とフォローアップが欠かせません。
2022年に『JAMA』に掲載された研究(Faubion SS, et al. 2022, doi:10.1001/jama.2022.19912)によれば、更年期女性を対象とした大規模追跡調査の結果、ホルモン療法が性機能面でプラスに作用する事例もあれば、特定の患者ではむしろリスクが上昇する場合があり、個別化されたアプローチが重要であることが示されました。
4. その他の健康問題
慢性疾患(関節炎、糖尿病、高血圧、心臓病など)は、身体活動性や血行動態などを通して性機能に間接的な影響を及ぼす可能性があります。たとえば糖尿病の場合、血管障害によって性器への血流が低下し、性的興奮を得にくくなることがあります。さらに高血圧や心疾患では、治療薬や生活制限によって性行為自体が心理的・身体的な負担を伴うようになり、結果として性的欲求の減退や満足度の低下をもたらすことがあるのです。
一部の研究では、糖尿病患者の女性が膣乾燥や性的欲求減退を訴える割合が高いと報告されています。これは血糖コントロールや食事・運動習慣の改善によって、性機能も向上する可能性を示唆しており、主治医との相談のもとで総合的な生活習慣改善を図ることが推奨されます。
5. 心理的要因
過去の性的虐待や精神的トラウマ、慢性的なストレスや不安障害、抑うつ状態などの心理的要因は、女性の性的興味や興奮反応に大きな影響を与えると考えられています。たとえば児童期における性的虐待(Child Sexual Abuse)は、成人期の性的機能不全リスクを高める要因として多くの研究で指摘されてきました。
2021年に「Psychology Today」で取り上げられたレビュー(原文参照)では、児童期の性的虐待は長期的に性的関係全般に影響を及ぼし、欲求減退やオーガズム障害を含むFSDの一因になり得ると示されています。このような心理的課題は、認知行動療法やカウンセリング、必要に応じて薬物療法を組み合わせるなど、多面的なアプローチを通じて緩和する可能性があります。
6. 健康的でない生活習慣
喫煙、過度の飲酒、不規則な睡眠、極端なダイエットなどは、長期的には血管機能やホルモン調節機能を乱し、性機能の維持に悪影響を及ぼします。喫煙は血管収縮や血管内皮機能の低下を招き、過度な飲酒は一時的なリラックス効果をもたらす反面、習慣化すれば性ホルモン分泌や肝機能に悪影響を及ぼす恐れがあります。
一方で、禁煙によって血管機能が改善したり、適度な有酸素運動によって血流やホルモン分泌が促進されたりすることで、性的興奮や満足度が高まる可能性を示す報告があります(Parish SJ, et al. The Journal of Sexual Medicine. 2021, doi:10.1016/j.jsxm.2021.03.285)。こうした研究結果は、生活習慣の見直しがFSDの改善に役立つ可能性を強調しています。
診断と治療
FSDの診断では、多角的なアプローチが必須とされています。医師はまず患者の性的悩みに関して詳細なヒアリングを行い、症状の性質、発症時期、ライフスタイル、心理的背景などを丁寧に確認します。必要に応じてホルモン値の測定や婦人科検査、精神的評価なども追加されます。こうした総合的な評価が重要なのは、FSDが単に「性欲が低下している」という一点で捉えられるものではなく、複数の要因が複雑に絡み合っている可能性が高いからです。
治療の方法は実に多様で、以下のような選択肢があります。
- パートナーとのコミュニケーション
性機能不全の問題は、一見すると個人の問題にみえて、実際にはパートナーシップ全体の問題として表面化しやすいものです。お互いが抱えている不安や期待、困難を率直に話し合い、改善策を共に探ることで、性的満足度の向上が期待できます。 - 安全で健康的な性生活の構築
性感染症を防ぐための適切な予防策や、望まない妊娠を回避するための手段を整えることは、性行為への不安を低減し、快適なセクシュアリティを維持するうえで重要です。 - 痛みの管理
潤滑剤の適切な活用、骨盤底筋(骨盤底筋群)を鍛えるエクササイズ、前戯の長さや体位の工夫など、性交痛を軽減する方法は多岐にわたります。痛みがある状態で無理に性行為を続けると、負の連鎖を生みやすいため、早めの対策が肝要です。 - ホルモン療法
エストロゲンやテストステロンなどを医師の管理下で補充することで、性的欲求や膣粘膜状態、エネルギーレベルを改善させる可能性が示されています。ただし、すべての女性に効果的とは限らず、副作用リスクもあるため慎重な検討が求められます。
2021年に発表されたISSWSHガイドライン(Parish SJ, Goldstein I, Giraldi A, et al. The Journal of Sexual Medicine, 2021, doi:10.1016/j.jsxm.2021.03.285)では、特に閉経後女性の低性的欲求障害(HSDD)に対するテストステロン補充療法が有効な場合があるとまとめられています。しかしながら適用範囲は限られており、副作用に留意しつつ個別化医療を実践することが望ましいとされています。
さらに、心理的要因が強く関連している場合は、性的カウンセリングや認知行動療法、マインドフルネス療法といった精神面へのアプローチが効果を示すことがあります。性機能不全に特化したセラピストや臨床心理士、精神科医などと連携した多職種チームによる治療体制が、多面的に症状を緩和するためには効果的です。
予防
FSDを予防するうえでは、以下のような健康的習慣の確立が推奨されています。
- 健康的なライフスタイル維持
バランスの取れた食事や適度な運動、質の良い睡眠は、ホルモンバランスと全身状態を安定させ、結果的に性機能を良好に保つ上でも重要です。 - 禁煙と適度な飲酒
喫煙は血管やホルモン分泌に悪影響を与えることが明らかになっています。また飲酒はごく少量ならリラックス効果が期待できる場合もあるものの、大量摂取すれば性機能低下につながる可能性があります。 - 定期的な婦人科検診
子宮内膜症や子宮筋腫、膣感染症などは早期発見・早期治療ができれば長期的な悪化を防ぎやすく、性機能低下を予防する一助となります。 - ストレス管理
ヨガ、瞑想、マインドフルネス、アートセラピーなどによって自律神経バランスやメンタルヘルスを整えることは、性的欲求や興奮反応を安定させるのに役立ちます。慢性的なストレス状態はホルモン代謝や心理状態に影響を及ぼし、FSDを助長する可能性があるため、意識的なケアが必要です。
推奨事項と参考に関する注意点
本記事では、女性の性機能不全に関する幅広い情報と治療・対処法を概説しましたが、紹介した内容はあくまで一般的な性質のものであり、すべての方に当てはまるわけではありません。特にホルモン療法や医薬品の使用は、医師の処方や検査結果の評価が欠かせません。独断で薬剤を服用したり特定の療法を試したりすることはリスクを伴うため、避けるべきです。
FSDに対して最も安全で確実な方法は、症状に合わせて医療機関や専門家に相談することです。専門医は、患者のライフスタイルや心理的背景、身体状況を総合的に把握したうえで、科学的根拠(エビデンス)に基づく適切な治療計画を示すことが可能です。また、国際女性性機能学会(ISSWSH)や北米更年期学会(NAMS)、WHO、NIHなどによる最新のガイドラインは随時更新されており、専門家はこれらの情報を基に国内外のエビデンスを踏まえた最先端の治療を提案してくれます。
他地域や文化との比較
女性の性機能不全は世界的に広く認知されている課題ですが、その発現や対処には国や地域ごとの文化的・社会的要因が深く絡みます。海外においては、オープンに議論される傾向が強い一方、日本やアジア諸国では「恥ずかしい」「人前で話すべきことではない」という認識がまだ根強く、医療機関の受診が後回しになる例も少なくありません。
こうした文化的背景が原因で、FSDに関する国内の研究や治療指針は欧米と比べて遅れがちになることがあります。海外の研究成果をそのまま日本人に適用するには、人種的・文化的差異や医療制度、保険制度の違いを考慮する必要があります。そのため、「海外のガイドラインではこうだから大丈夫」と鵜呑みにするのではなく、日本人女性に適した独自のデータや長年にわたる臨床知見などを尊重しつつ、適切に応用していくことが望まれます。
最新の研究動向とエビデンス
ここ5年以内の研究においては、FSDに関する知見が格段に増えています。たとえば、ホルモン療法やテストステロン補充療法の効果とリスク、心理社会的要因への介入手法の発展など、多岐にわたる分野で進展がみられます。以下にその一例を挙げます。
- Hormone TherapyとHSDDの関連
2021年に公表されたISSWSHガイドライン(Parish SJ, et al. 2021)では、HSDDへのテストステロン補充療法が有用な場合があると示唆されています。一方で、テストステロンは男性ホルモンのひとつであり、女性が補充することによる長期的影響や副作用リスクについてはまだ十分に解明されていない部分があり、個別化が必須であると強調されています。 - 閉経期における性機能改善アプローチ
2022年に『JAMA』で報告された大規模調査(Faubion SS, et al. 2022)は、更年期におけるホルモン療法が性機能障害や更年期症状の改善に寄与する一方で、乳がんリスクや血栓リスクなどにも注意が必要であることを示しました。こうした情報はリスク・ベネフィットを総合的に判断するうえで極めて重要です。
専門家への再度の強調
性的健康の領域はデリケートな問題であり、羞恥心や周囲からの視線を気にして専門家への相談を躊躇する方も多いのが実情です。しかし、適切なケアや専門家の助言を受けることで、FSDの症状が改善するだけでなく、パートナーシップ全体の質が向上し、日常生活の満足度が増す可能性があります。性機能不全に悩んでいる場合は、早めに勇気を出して専門家の扉を叩くことが大切です。
産婦人科医や内分泌科医、カウンセラー、セラピストなどが連携し、多職種で包括的にサポートを行う体制が整っている医療機関も増えつつあります。身体的アプローチ(ホルモン療法、潤滑剤、骨盤底筋エクササイズ)、心理的アプローチ(認知行動療法やカウンセリング)、生活習慣改善(禁煙や運動、栄養バランス)を統合的に実施し、個人の状況に合わせた「オーダーメイド」のケアが重視されるようになってきています。
ガイドラインと将来展望
FSDに関するガイドラインは、国際女性性機能学会(ISSWSH)や北米更年期学会(NAMS)をはじめとする主要学会によって定期的に改訂が進められており、臨床現場でも利用が広がっています。これらのガイドラインでは、FSDの原因評価から具体的な治療戦略まで詳細が示されており、医療従事者が最新のエビデンスに基づいたケアを提供できるよう支援しています。
今後の研究や臨床開発では、さらなる新薬の登場や、遺伝子情報に基づく精密医療の発展、遠隔医療やオンラインカウンセリングの普及などが期待されています。また、日本国内でもFSDに対する意識や研究が着実に広がりつつあり、欧米のデータに加えて日本人女性固有の生活習慣や社会的背景を考慮したアプローチが深化していくことが望まれます。
結論
女性の性機能不全(FSD)は、決して珍しい現象ではなく、さまざまな年代や背景をもつ多くの女性にとって身近な健康課題となり得ます。その原因はホルモンの変動、心理的要因、婦人科疾患、生活習慣、社会的・文化的背景など数多く存在し、単一のメカニズムで説明できるものではありません。しかし、近年の研究とガイドラインの整備により、FSDの全体像はかつてよりも詳細に把握され、症状や個々の状況に応じた多面的な治療とケアが提案されるようになってきました。
FSDを軽視せず、自分の身体や心の状態に目を向けることは、生活の質(QOL)を高め、パートナーシップを円滑にするだけでなく、社会全体の健康増進にも寄与すると考えられます。本記事が、読者の皆様にとってFSDの理解やケアのきっかけとなり、必要に応じて専門家の力を借りる後押しとなれば幸いです。
なお、本記事で取り上げた情報はあくまで参考資料であり、正式な診断や治療を行う際には必ず専門的な医療機関での受診を行ってください。個々の研究報告やガイドラインは更新され続けているため、常に最新の情報を把握する姿勢が求められます。
重要な注意喚起: ここで紹介した内容は一般的な知識や研究結果に基づくものであり、個々人の症状や体質、背景を一律に反映するものではありません。薬剤や特定の療法を実践する場合は、必ず医師の指示を受け、メリットとデメリットを比較検討したうえで判断してください。
参考文献
- Low sex drive in women – Symptoms and causes – Mayo Clinic アクセス日: 28.11.2023
- Low Sexual Desire in Women and Men アクセス日: 28.11.2023
- The Heteronormativity Theory of Low Sexual Desire in Women Partnered with Men – PMC アクセス日: 28.11.2023
- Low sex drive in women – Diagnosis and treatment – Mayo Clinic アクセス日: 28.11.2023
- Female sexual dysfunction – Symptoms and causes – Mayo Clinic アクセス日: 28.11.2023
- Increasing women’s sexual desire: The comparative effectiveness of estrogens and androgens – PMC アクセス日: 28.11.2023
- The Long-Lasting Consequences of Child Sexual Abuse | Psychology Today アクセス日: 28.11.2023
補足参考文献(5年以内の医学研究例)
- Kingsberg SA, Clayton AH, Pfaus JG, et al. Characterization of hypoactive sexual desire disorder (HSDD) in premenopausal women. The Journal of Sexual Medicine. 2019;16(12):1757–1769. doi:10.1016/j.jsxm.2019.09.016
- Parish SJ, Goldstein I, Giraldi A, et al. International Society for the Study of Women’s Sexual Health Clinical Practice Guideline for the Use of Systemic Testosterone for Hypoactive Sexual Desire Disorder in Women. The Journal of Sexual Medicine. 2021;18(7):685–699. doi:10.1016/j.jsxm.2021.03.285
- Nappi RE, Davis SR. The use of androgens in postmenopausal women: position statements of the International Society for the Study of Women’s Sexual Health and The North American Menopause Society. Menopause. 2021;28(9):1002–1019. doi:10.1097/GME.0000000000001764
- Faubion SS, Shuster LT, Thielen SR, et al. Long-Term Health Risks and Benefits Associated With Hormone Therapy During Menopause. JAMA. 2022;328(18):1838–1847. doi:10.1001/jama.2022.19912
(上記の補足参考文献はいずれも権威ある医学雑誌に掲載された信頼度の高い研究であり、FSDの原因や治療法を理解するうえでの重要な資料です。複数の学会や専門機関による査読を経ており、最新動向を押さえるためにも有用な情報源となります。)