女性の健康

女性の性的関心・興奮障害:日本の文脈における包括的な臨床ガイドと実践

女性の性欲低下は、単なる疲労やストレスといった言葉で片付けられるものではありません。これは、女性の生活の質、自信、そしてパートナーとの親密な関係に深く影響を及ぼす、診断・治療が可能な医学的な状態です。本レポートでは、女性の性的関心・興奮障害(FSIAD)について、特に日本の臨床的、社会的、医療制度のユニークな文脈に焦点を当て、最新のエビデンスに基づいた包括的な分析を提供します。ここでの目的は、女性が自身の性的健康を主体的に管理できるよう、正しい知識を身につけ、ご自身に合った解決策を見つけるための一助となることです。

この記事の科学的根拠

本記事は、日本の公的機関・学会ガイドラインおよび査読済み論文を含む高品質の情報源に基づき、出典は本文のクリック可能な上付き番号で示しています。

  • 日本の公的指針:日本産科婦人科学会が発行した資料は、国内の臨床現場における基本的な考え方を理解する上で中心的な役割を果たします3
  • 国際的な臨床レビュー:米国家庭医学会(AAFP)やNCBIなどの査読済み論文は、FSIADの診断と治療に関する最新の科学的コンセンサスを提供します115
  • 国内の実態調査:日本国内の調査データは、社会現象としての「セックスレス」と医学的診断であるFSIADを区別し、文化的背景を考察するために不可欠です4

要点まとめ

  • 女性の性的関心・興奮障害(FSIAD)は、性的な関心や興奮が6ヶ月以上にわたり持続的に低下し、それが本人に重大な苦痛をもたらす医学的な診断名です1
  • 日本では「セックスレス」という社会現象が広く認知されているため、治療可能な医学的問題であるFSIADが見過ごされやすい文化的背景があります4
  • 原因は一つではなく、ホルモンバランスの変化、基礎疾患、服用薬の副作用、心理的ストレス、パートナーとの関係性など、生物・心理・社会的要因が複雑に絡み合っています6
  • 治療の基本は、カウンセリングやライフスタイルの改善などの非薬物療法です。日本ではテストステロン療法など一部の薬物療法は保険適用外であり、治療選択肢には注意が必要です12

はじめに:FSIADの定義と日本の社会的背景

「最近、性的なことに関心が持てない」「パートナーに応えられないのが辛い」—そうした悩みは、決して個人的な問題やわがままではありません。それは、多くの女性が経験する可能性のある「女性の性的関心・興奮障害(FSIAD)」1という医学的な状態かもしれません。科学的には、この状態は脳内の神経伝達物質のバランスが関与していると考えられています。その背景には、車のアクセルとブレーキのようなシステムがあります。ドーパミンやノルエピネフリンがアクセルのように機能して興奮を高める一方で、セロトニンはブレーキのように作用してそれを抑制します。FSIADは、このブレーキが強くかかりすぎているか、アクセルの反応が鈍くなっている状態と理解することができます。だからこそ、まずは意志の力だけで解決しようとせず、ご自身の心と身体で何が起きているのかを正しく知ることが、回復への大切な第一歩となるのです。

現代の医学において、深刻な性欲の低下は「女性の性的関心・興奮障害(FSIAD)」として正式に定義されています。これは、性的な関心や興奮が最低6ヶ月間にわたって持続的に欠如または著しく減少し、そのこと自体が本人にとって臨床的に意味のある苦痛(clinically significant distress)を引き起こしている状態を指します2。この診断は、かつて別々に分類されていた「性欲低下障害(HSDD)」と「女性の性的興奮障害」を統合したもので、多くの女性にとって関心と興奮が分かちがたく結びついているという理解を反映しています。日本産科婦人科学会(JSOG)も同様のアプローチをとっており、国内の医師が診断と治療を行う上での明確な枠組みを提供しています3

世界的に見ると、FSIADの有病率は6%から26%の範囲で報告されており、決して珍しい状態ではありません1。しかし、日本の状況は「セックスレス」という特有の社会現象と交差することで、より複雑な様相を呈します。事実、2023年に日本で行われたある調査では、回答した夫婦の実に68.2%が「セックスレス傾向にある」と報告しており、そのうち43.9%は「完全にセックスレス」であるとされました4。このような文化的背景は、医学的な治療を必要とするほどの苦痛を伴うFSIADを抱える女性が、自身の状態を「結婚生活では普通のこと」と正常化してしまい、専門家への相談をためらう一因となり得ます。社会現象としてのセックスレスと、個人の苦痛を伴う医学的診断であるFSIADは、重なる部分はあっても同じものではない、と明確に区別することが重要です。

このセクションの要点

  • FSIADは、性的な関心・興奮の持続的な低下が「本人に苦痛」をもたらしている状態を指す医学的診断名です。
  • 日本では「セックスレス」が社会的に広く認知されているため、治療可能なFSIADが見過ごされやすい傾向にあります。

第1部:FSIADの多因子的な原因(生物・心理・社会的アプローチ)

性欲の低下が決して単一の原因から生じることはありません。それは 마치、様々な食材が合わさって一つの料理が完成するように、身体的な健康状態、ホルモンの波、心の状態、そしてパートナーとの関係性といった、生物学的、心理的、社会的な要因が複雑に絡み合った結果として現れます。そのため、一つの側面だけを見るのではなく、全体像を捉えるホリスティックな視点が不可欠です。

身体的・医学的な要因はFSIADの直接的な引き金となり得ます。糖尿病や心血管疾患などの慢性疾患は、血流や神経機能に影響を与え、性的な反応を鈍らせることがあります1。また、見落とされがちですが非常に重要なのが、他の病気の治療のために服用している薬の副作用です。例えば、一般的な抗うつ薬であるSSRIや一部の降圧薬、経口避妊薬(ピル)などは、性欲を低下させる可能性があることが知られています。米国のPMC – PubMed Centralで2021年に公開されたレビュー論文では、これらの薬剤が性機能に与える影響について詳述されています6。ご自身の体調や服用薬に思い当たる点があれば、それは専門家と相談すべき重要な情報です。

特に女性のライフステージにおけるホルモンの変動は、性欲を左右する中心的な役割を担います。閉経期は、最もリスクが高まる時期の一つです。この時期、女性ホルモンであるエストロゲンの急激な低下は、「閉経関連泌尿生殖器症候群(GSM)」を引き起こし、膣の乾燥や萎縮による性交時痛の原因となります。痛みは性的な行為を避ける悪循環を生み出し、結果として関心そのものを失わせてしまいます。同時に、性欲にとって重要なアンドロゲン(男性ホルモン)の一種であるテストステロンも、年齢と共に自然に減少し、性欲の低下に直接的に寄与することが、米国家庭医学会(AAFP)の2015年のレビューで指摘されています7

さらに、心理的・感情的な健康と性的健康は切り離せません。うつ病や不安障害、仕事や家庭における慢性的なストレスは、性的な親密さに必要とされる精神的エネルギーを枯渇させます1。また、自身の身体に対するネガティブなイメージや、過去のつらい性的経験がトラウマとなっている場合も、深い心理的障壁となり得ます。そして、多くの女性にとって感情的なつながりは性欲の前提条件です。パートナーとの間に未解決の対立があったり、コミュニケーションが不足していたりすると、性欲は最初に影響を受けるものの一つです。日本産科婦人科学会(JSOG)も、パートナーが女性の性機能障害の原因と治療の両方において大きな影響を持つことを強調しています3

このセクションの要点

  • FSIADの原因は、身体疾患や薬剤、ホルモン変動(特に閉経期)、心理的ストレス、パートナーとの関係性など、多岐にわたります。
  • 一つの原因に絞るのではなく、ご自身の生活全体を見渡し、複数の要因が関わっている可能性を理解することが重要です。

第2部:日本における臨床プロセス:受診から診断まで

性欲の低下について医療機関に相談することに、ためらいや恥ずかしさを感じるかもしれません。しかし、これは専門家の助けを求めるべき正当な健康問題です。その一歩は、まるで絡まった糸を解きほぐす最初のきっかけのようなものです。どこに相談すればよいのか、どのような検査が行われるのか、そして費用はどのくらいかかるのか。これらの情報を事前に知っておくことで、不安は軽減されます。だからこそ、まずは具体的なプロセスを理解し、安心して相談できる準備を整えましょう。

日本で専門的な助けを求める場合、最初の、そして最もアクセスしやすい窓口は、お近くの婦人科(レディースクリニック)です。ここでは、子宮内膜症や感染症、閉経に伴う膣萎縮など、性欲低下の原因となりうる身体的な問題を調べるための基本的な診察や検査を受けることができます。厚生労働省の研究班も、まずは婦人科への相談を推奨しています8。もし問題がより複雑であると判断された場合や、より専門的なアプローチが必要な場合には、「性機能外来」を設置している大学病院や専門クリニックへ紹介されることもあります9。受診の際は、いつから症状が始まったか、どのような時に特に感じるか、現在服用している薬やサプリメント、そして医師に聞きたい質問などをメモしておくと、診察がスムーズに進みます。Mayo Clinicもこのような事前準備を推奨しています10

診断プロセスは、問診、標準化された質問票、そして身体診察を組み合わせて総合的に行われます。医師はまず、あなたの医学的な病歴だけでなく、心理的・性的な背景について詳しく尋ねます。専門的なクリニックでは、症状を客観的に評価するために、国際的に用いられている「女性性機能指数(FSFI)」や、症状による苦痛の度合いを測る「女性性機能苦痛スケール改訂版(FSDS-R)」といった質問票が使用されることもあります11。身体診察と並行して、ホルモン値(エストロゲン、テストステロンなど)や、倦怠感の原因となりうる甲状腺機能を確認するための血液検査が行われるのが一般的です12

日本でFSIADの治療を考える上で最も重要な側面の一つが、医療保険の適用範囲です。甲状腺疾患の治療や、ほてりなどの症状がある場合の更年期障害に対するホルモン補充療法(HRT)は、多くの場合、保険が適用されます13。しかし、FSIADの治療に直接的に焦点を当てた選択肢、特にテストステロン療法や専門的な心理・性カウンセリングは、日本では保険適用外(自費診療)となるのが現状です。これにより、患者は経済的に大きな負担を強いられるという「治療のギャップ」が生じています。例えば、専門カウンセリングは1回50分で5,500円から10,000円程度が相場です14。この現実は、治療へのアクセスにおける大きな障壁となっています。

今日から始められること

  • ご自身の症状(いつから、どんな時に、どの程度つらいか)と、服用中の薬・サプリメントを書き出してみましょう。
  • まずはかかりつけの婦人科医、もしくはお近くのレディースクリニックに相談の予約をすることから始めてみませんか。
  • 受診の際は、保険適用でできることと、自費診療になる可能性があることについて、事前に質問する準備をしておきましょう。

第3部:エビデンスに基づく治療戦略の包括的評価

FSIADの治療法に「万能薬」は存在しません。回復への道は、パズルを組み立てる作業に似ています。心理的なアプローチ、ライフスタイルの見直し、そして必要に応じた医学的介入という、様々なピースを組み合わせ、あなただけの全体像を完成させる必要があります。どのピースから手をつけるべきか、そして日本の医療現場ではどのピースが利用可能なのかを、科学的根拠に基づいて見ていきましょう。

治療の最も重要な土台となるのは、薬を使わないアプローチです。これらは、問題の根本にある心理的・関係的な要因に働きかけます。特に「認知行動療法(CBT)」は、性に対するネガティブな思考パターンや行動を特定し、それを変えていくことを目的とした心理療法で、性欲、興奮、そしてオルガスムのすべてを改善する上で高い効果が示されています。米国家庭医学会(AAFP)の2015年のレビュー論文でも、その有効性が強調されています7。また、定期的な運動、ストレス管理、質の良い睡眠を優先するといったライフスタイルの改善は、身体的なエネルギーを高め、気分を向上させ、間接的に性欲の回復を助けます10

薬物療法は重要な選択肢の一つですが、国際的なエビデンスと日本国内での利用可能性には大きな「ギャップ」が存在することを理解しておく必要があります。閉経後の女性に対しては、ホルモン補充療法(HRT)が有効です。特に、エストロゲンの局所投与(膣錠やクリーム)は、GSMによる乾燥や性交痛を劇的に改善し、性交への物理的な障壁を取り除くことで、間接的に性欲を回復させます。これは日本でも保険適用で広く行われています13。一方、閉経後の女性の性欲低下に対して最も強いエビデンスを持つ治療法の一つである「テストステロン療法」は、日本では保険適用外(適応外使用)であり、専門的なクリニックで自費診療としてのみ受けることができます1215。さらに、米国FDA(食品医薬品局)で閉経前女性のFSIAD治療薬として承認されているフリバンセリン(Addyi)やブレメラノチド(Vyleesi)は、日本ではいずれも未承認です。この事実は、日本の患者と医師が、欧米に比べて限られた治療ツールで対処せざるを得ない状況を示しています。

「自然なもの」で解決したいと考える方も少なくありません。補完代替医療(CAM)に関しては、2021年の系統的レビューとメタアナリシスにおいて、ハマビシ(Tribulus terrestris)とオタネニンジン(Panax ginseng)という2つのハーブが、女性の性機能障害を改善する可能性を示唆する予備的なエビデンスが見出されました16。しかし、これはあくまで予備的な結果であり、サプリメントは医薬品ほど厳密な品質管理がされていません。薬との相互作用や予期せぬ副作用を避けるためにも、使用前には必ず医師に相談することが不可欠です。

自分に合った選択をするために

非薬物療法(カウンセリング、ライフスタイル改善): すべての人が最初に取り組むべき、最も安全で根本的なアプローチです。時間と主体的な努力が必要ですが、効果は持続的です。

ホルモン補充療法(HRT): 閉経に伴う乾燥や性交痛が主な悩みである場合に、第一選択となる保険適用の治療法です。

テストステロン療法(自費診療): 他の治療法で効果がなく、性欲低下による苦痛が非常に大きい閉経後の女性が、専門医との十分な相談の上で検討する選択肢です。

第4部:性的健康を取り戻すための包括的フレームワーク

失われた性欲を取り戻す旅は、短距離走ではなく、むしろ庭を育てるような長期的なプロセスです。土壌(ご自身の心身の健康)を整え、種(新しい習慣や対話)をまき、そして忍耐強く水やり(継続的な努力)をすることで、やがて花(親密さの回復)が咲くのです。ここでは、これまでの情報を統合し、あなたとあなたのパートナーが共に歩むための、具体的でパーソナライズされた行動計画を構築します。

効果的な治療計画は、画一的なものではなく、あなたの根本原因、生活環境、そして何を優先したいかに基づいてオーダーメイドされるべきです。米国の専門誌で推奨されているように、最も侵襲性の低い介入から始める段階的なアプローチが一般的です6
ステップ1(土台作り): まずはライフスタイルの見直しから。定期的な運動、ストレス管理、質の良い睡眠を日常生活に取り入れることを目指します。同時に、パートナーと感情やニーズについて、非難することなく正直に話し合う機会を持ち始めましょう。
ステップ2(専門家のサポート): 土台作りだけでは不十分な場合、専門家の助けを借ります。心理カウンセラーやセックスセラピストとの面談は、心理的な障壁や関係性の問題を解決するのに役立ちます。
ステップ3(医学的介入): これらのステップと並行して、甲状腺機能の低下など、背景にある医学的な問題に対処します。閉経後の女性であれば、HRTについて医師と具体的に相談します。
ステップ4(高度な治療の検討): 上記のステップを試みてもなお、性欲低下による深刻な苦痛が続く場合に、専門医とリスク・ベネフィットを十分に検討した上で、テストステロン療法のような保険適用外の治療を選択肢として話し合います。

この旅において、パートナーの存在は不可欠です。性欲の低下は個人の問題ではなく、二人の関係性の問題だからです。パートナーができる具体的な行動は、まずFSIADが個人の愛情の欠如ではなく、医学的な状態であることを学ぶことです。厚生労働省の資料でも、パートナーの理解の重要性が指摘されています8。そして、カウンセリングに同席すること、性的な行為だけでなく、ハグや手をつなぐといった愛情表現を増やすこと、そして何よりも、回復には時間が必要であることを理解し、忍耐強くサポートし続けることが、かけがえのない支えとなります。

女性の性機能に関する研究は、まだ発展途上にあります。特筆すべきは、この分野の臨床試験ではプラセボ(偽薬)効果が非常に高く、あるメタアナリシスでは治療効果全体の67.7%を占めたという報告があることです。2018年にPubMedで公開されたこの研究は、期待や心理的要因が治療結果にいかに大きく影響するかを示唆しています18。残念ながら、ClinicalTrials.govや日本のjRCTといった臨床試験登録データベースを検索しても、日本国内でFSIADの新薬に関する大規模な後期臨床試験はほとんど行われていないのが現状です1920。この分野における、さらなる研究開発が強く望まれます。

今日から始められること

  • ご自身の状態について、まずはパートナーと「非難」ではなく「相談」として話す時間を持ってみませんか。
  • 性的な親密さだけでなく、二人で楽しめる新しい趣味や活動を見つけることから、関係性の再構築を始めてみましょう。
  • 治療は一人で抱え込むものではありません。二人で一緒に専門家の診察やカウンセリングを受けることを検討しましょう。

よくある質問

性欲がなくなるのは、年齢や結婚生活が長くなったせいだから仕方ないのでしょうか?

年齢と共にホルモンバランスが変化したり、長く一緒にいることで関係性が変化したりすることは自然なことです。しかし、性欲の低下があなたにとって「重大な苦痛」になっている場合、それは「仕方ない」ことではなく、FSIADという治療可能な医学的状態かもしれません1。個人の悩みを正常化せず、専門家に相談する価値があります。

医師に相談するのが恥ずかしいです。どうすればよいですか?

そのように感じるのはとても自然なことです。しかし、医師はプロフェッショナルであり、多くの同様のケースを扱っています。事前に話したいことや質問をメモにまとめておくと、落ち着いて話す助けになります10。また、女性医師が在籍するクリニックを選ぶのも一つの方法です。

日本で保険が適用される治療法はありますか?

はい、あります。例えば、更年期障害の症状(ほてり、発汗など)が原因で性欲が低下している場合、ホルモン補充療法(HRT)は保険適用となります13。また、背景にある甲状腺疾患やうつ病などの治療も保険診療です。ただし、FSIADそのものに焦点を当てたテストステロン療法やカウンセリングの多くは自費診療となるのが現状です。

パートナーが理解してくれません。どうすれば協力してもらえますか?

パートナーの協力は非常に重要です。まずは、これが愛情の問題ではなく、医学的な状態であることを、この記事のような客観的な情報源を一緒に読んでもらうことから始めてみてはいかがでしょうか。二人で一緒にカウンセリングを受けることも、第三者を介してコミュニケーションを改善する良い機会になります8

結論

女性の性的関心・興奮障害(FSIAD)は、個人の欠点や、加齢・結婚生活における避けられない宿命ではなく、原因が多岐にわたる、実在し、治療可能な医学的状態です。この包括的な分析が示したように、その根底には生物学的、内分泌学的、心理的、そして関係性といった要因が複雑に絡み合っており、単一の解決策ではなく、ホリスティックな診断と治療アプローチが求められます。特に日本の女性にとっては、社会に広く存在する「セックスレス」という言葉が、FSIADがもたらす個人の苦痛を覆い隠し、受診をためらわせるという特有の課題に直面しています。さらに、優れた医療制度にもかかわらず、専門的なカウンセリングやテストステロン療法といった標的治療が保険適用外であるという「治療のギャップ」は、経済的・地理的なアクセス障壁を生み出しています。しかし、これらの課題にもかかわらず、回復への道筋は明確に存在します。効果的な治療計画の土台は、ライフスタイルの改善、パートナーとのオープンな対話、そしてエビデンスに基づく心理療法といった、誰もがアクセス可能で、自身の力でコントロールできる非薬物療法にあります。この記事が提供する知識によって、日本の女性が沈黙とスティグマを乗り越え、性的健康が全体的な幸福の不可欠な一部であることを認識し、科学的かつ共感的なケアを求める力となることを願っています。

免責事項本コンテンツは一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断・治療方針を示すものではありません。症状や治療に関する意思決定の前に、必ず医療専門職にご相談ください。

参考文献

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