はじめに
女性にとって、日常生活のなかで見逃せないサインのひとつがおりもの(膣分泌物)です。おりものは健康な身体を保つために重要な役割を担っており、膣内を適度に潤すだけでなく、感染予防や自浄作用にも関わっています。しかし、ときにおりものの性状が普段と異なり、においが強くなる、色や量が変化するなどの症状が現れることがあります。なかでも「おりもののにおいが気になる」「生臭いような異臭がする」「粘度や色がいつもと違う」などの違和感は、単なる体調の変化だけでなく、膣内環境や婦人科系のトラブルを示唆する場合もあります。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
本記事では、なかでも特に気になりやすい「おりもののにおいが強くなる(魚のような生臭いにおい、刺激臭など)」という症状を中心に、その原因や具体的な病気、ケア・予防法について詳しく解説します。さらに、おりものに異常を感じたときに考えられる疾患や、受診の目安、そして実生活で気をつけられるセルフケア方法などを網羅し、より深く理解できるよう専門的な視点も交えて紹介していきます。
ここで取り上げる情報は、主に複数の国際的医療機関の公開情報やガイドライン、近年(過去4年以内)に学術雑誌で報告された研究結果にもとづいています。とくにおりもののにおいに変化をきたす原因のひとつである細菌性膣症(Bacterial Vaginosis)や、性感染症に分類されるクラミジア感染症やトリコモナス症などについては、近年の研究においても新しい知見が示されています。記事中では、これらの最新研究を踏まえて、日本国内の女性にも応用できる形で解説していきます。
なお、本記事は医療現場での正確な診断や治療を代替するものではありません。参考情報としてお役立ていただきつつ、症状が続く場合や強い不安がある場合は医療機関での受診を優先なさってください。
専門家への相談
本記事の内容には、海外の公的医療機関(Mayo Clinic、Cleveland Clinicなど)や、アメリカ産科婦人科学会(ACOG)の情報が含まれています。また、文中で言及するいくつかの国内外の研究は、学会で査読(ピアレビュー)を受けている権威ある医学雑誌に掲載されており、日本の女性にとっても状況を応用しやすい内容です。なお、記事内で言及される医師の名前や組織名は、元の情報源に忠実に記しています。本記事はあくまで「一般的な情報提供」を目的としており、個々の症状や状態に応じて診療を行う医師(産婦人科など)の判断が最も重要です。
おりものとは何か
まず、基本的なところから整理しましょう。おりもの(膣分泌物)は、膣内の粘膜や子宮頸部の分泌腺から自然に分泌される液体で、下記のような役割を果たします。
- 膣内を適度に潤し、乾燥や外部からの刺激を和らげる
- 軽度の酸性を保つことで、細菌や病原体の侵入・繁殖を抑制する
- ホルモンバランス(エストロゲンなど)の変動に応じて分泌量や性状が変化し、女性の身体の状態をある程度映し出す
健康な状態のおりものは、透明~白濁色、あるいはわずかに黄みを帯びることがある程度で、基本的には大きなにおいを感じにくいものです。月経周期や個人差によって多少の濃さ・粘度の違いはありますが、唐突に不快なにおいが出たり、色が黒っぽい、緑がかった色に変化したりする場合は、何らかの異常を疑う必要があります。
日本人女性に限らず、多くの女性が生涯のどこかの時点で、おりものの変調を経験すると言われています。とくに妊娠・出産前後や、生理周期の乱れ(更年期やストレス環境など)によるホルモンバランスの崩れなどによっても、おりものは変化しやすいです。しかし、単なるホルモン変動による変化と、感染症や病気が原因の変化とを見極めることは、専門家でも慎重に診断する必要があります。
おりもののにおいが気になるときの「正常」と「異常」
正常なにおいの範囲
日常的に「まったく無臭」というわけではなく、膣周辺には人それぞれ特有のかすかなにおいがあります。以下のような表現で示されるにおいは、生理的範囲内と考えられています。
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金属のような香り(銅貨に近いにおい)
月経中や月経直後に、血液の影響で酸化臭に近い金属臭を感じることは珍しくありません。 -
軽い甘い香り
膣内の常在菌バランスなどによって、ほのかに甘いような香りを感じることもあります。
こうしたにおいは、生理周期や体調変化に伴って少し強くなったり弱くなったりする程度であれば、大きな問題ではありません。
異常なおりもののにおいとは
一方で、以下のようなにおいを感じる場合は要注意です。
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魚が腐ったような生臭いにおい
いわゆる生魚や腐敗した魚に近いようなにおいがする場合は、細菌性膣症(Bacterial Vaginosis)をはじめとする膣内細菌バランスの乱れや感染症が疑われます。 -
漂白剤やアンモニアのような刺激臭
下着に尿が残留したり、膣内環境の乱れによりアンモニア由来の物質が生成されると、刺鼻性の強いにおいが出ることがあります。 -
強い腐敗臭やとても鋭い不快臭
化膿性のおりものや性感染症による膣炎、子宮頸管炎など、炎症反応が強い場合にこうしたにおいが発生する可能性があります。
加えて、におい以外にも「色が灰色がかった白色」「黄色~緑色」「泡状」「血が混じっている」「豆腐カスのようにポロポロしている」など、性状が明らかに普段と異なる場合は早めの受診が望ましいです。
おりものに異常なにおいが生じる主な原因
1. 衛生管理の不備
下着が湿ったまま長時間放置したり、生理用品をこまめに交換しなかったりすると、雑菌が増殖しやすくなり、異臭やかゆみの原因になります。とくに月経期間中のナプキンやタンポンは4〜5時間ごとに取り替えるのが望ましいとされます。また、入浴時に膣内を過剰に洗いすぎたり、強い香りの石けんやボディソープなどで洗いすぎると、膣内の常在菌バランスが崩れてかえってにおいを強くしてしまうことがあります。
2. 細菌性膣症(Bacterial Vaginosis)
もっとも一般的に見られるのが細菌性膣症です。膣内には通常、乳酸菌などの善玉菌が優勢を保ち、弱酸性の環境を維持しています。しかし、なんらかの要因(過度のストレスやホルモンバランス異常、不適切な抗生物質の使用など)で乳酸菌が減少し、嫌気性菌や病原性を持つ菌(Gardnerella vaginalisなど)が増殖すると、灰色がかった白濁のおりものや生臭い魚臭が感じられるようになります。
近年、イギリスの医学誌BMJにて2022年に発表されたHay氏らの研究(Bacterial vaginosis, BMJ. 2022;376:e065722. doi:10.1136/bmj-2021-065722)では、細菌性膣症の女性患者の多くが「おりものの量が増え、魚介類に近い独特のにおいを強く感じる」という自覚症状を訴えていると報告されています。研究によると、この状態を長引かせると骨盤内炎症性疾患などのリスクが高まるため、早期発見・早期治療が重要であるとされています。
3. トリコモナス症
性感染症のひとつで、原虫であるトリコモナス(Trichomonas vaginalis)による感染が原因です。典型的には、黄色や黄緑色で泡状のおりものが見られ、強いにおいや外陰部のかゆみを伴うことがあります。この感染症は性交渉を介してうつるため、パートナーが感染している場合は互いに治療を行う必要があります。
4. クラミジア感染症・淋菌感染症(淋病)
クラミジア(Chlamydia trachomatis)や淋菌(Neisseria gonorrhoeae)に感染すると、膣炎、子宮頸管炎などを引き起こし、黄色っぽいおりものが増え、においが強くなるケースが多いです。放置すると上行感染を起こし、骨盤内炎症性疾患(PID)に進展する恐れもあります。PIDになると下腹部痛や発熱などが加わり、不妊症のリスクも高まります。アメリカ疾病予防管理センター(CDC)が2021年に発行した性感染症治療ガイドライン(Sexually Transmitted Infections Treatment Guidelines, 2021, MMWR Recomm Rep. 2021;70(4):1-187. doi:10.15585/mmwr.rr7004a1)では、クラミジアや淋菌による感染の疑いがある場合、早期に検査・治療を受けることが強く推奨されています。
5. カンジダ症(真菌感染)
カンジダ属真菌(Candida albicansなど)の過剰繁殖により、酒粕やカッテージチーズのような白いおりものが出るのが特徴です。強烈なにおいは感じにくい場合もありますが、酸っぱいような発酵臭を訴える女性も少なくありません。また、膣内や外陰部に強いかゆみや灼熱感を伴います。常在菌であるカンジダは、抗生物質の服用や免疫力低下などが引き金となり、増殖しやすくなると考えられています。
6. 子宮頸がんなど悪性腫瘍
まれに、子宮頸がんや子宮体がんなどの悪性腫瘍が原因となり、異常なおりものやにおいが発生する場合があります。特に、ピンク色や茶色、血の混じったおりものが長期間にわたり続き、下腹部痛や性交痛、月経とは無関係の不正出血などの症状がある場合には早急な受診が必要です。
おりものの異常に伴う代表的な症状
おりもののにおいのほか、色や形状の変化、外陰部のかゆみ・痛みなどを総合的にチェックすることで、原因疾患の推測がしやすくなります。以下は代表的な症状例と考えられる疾患の例です。
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灰色がかった白色のおりもの、強い魚臭
細菌性膣症が疑われます。 -
黄色や黄緑色、泡状のおりもの、においが強い、外陰部のかゆみ
トリコモナス症の可能性があります。 -
黄白色や黄緑色のおりもの、下腹部痛や不正出血
クラミジア感染症や淋菌感染症が疑われます。 -
白くポロポロとしたカス状、もしくはヨーグルト状でかゆみが強い
カンジダ症が考えられます。酸っぱいにおいがするケースもあります。 -
褐色や血が混ざる、強い腐敗臭
子宮頸がん、子宮内膜症、悪性腫瘍なども含め要注意です。
これらの症状は一例であり、実際には複数の要因が重なって症状が現れることもあります。同じクラミジア感染症でも、無症状の人から黄色いおりものが大量に出る人まで個人差が大きく、自己診断だけでは正確な原因究明は難しいです。
おりもののにおいが気になるときの対処法
1. 日常生活でのセルフケア
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通気性の良い下着を選ぶ
化学繊維よりも綿素材など肌に優しい生地が好ましいです。汗や湿気を溜め込まないようにこまめに着替えましょう。 -
ナプキンやタンポンは4〜5時間ごとを目安に交換
月経中、経血が長時間たまると細菌が繁殖しやすく、においの原因になります。 -
適度な膣周辺の洗浄
外陰部はシャワーなどでやさしく洗い、膣内をむやみに洗浄しすぎないように注意します。膣の自浄作用を妨げないよう、医師が推奨する低刺激の洗浄剤かぬるま湯で外陰部のみを洗うのが一般的です。 -
過度なダイエットや栄養不足を避ける
免疫力低下やホルモンバランスの乱れを引き起こし、感染症を招きやすくなります。 -
規則正しい生活とストレスケア
ストレスはホルモンバランスに影響を与え、膣内環境の乱れを招くと考えられています。適度な運動や十分な睡眠を心がけましょう。
2. 医療機関での受診
おりもののにおいや色、量の変化が1週間以上続く、もしくは下腹部痛、性交痛、排尿痛、発熱、不正出血などの症状が伴う場合は、早めに婦人科受診を検討してください。特に以下のケースでは、早期受診が推奨されます。
- においが急激に強くなり、外陰部のかゆみや痛みがある
- 灰色~黄緑色の分泌物が増加し、泡状や粘性の高いおりものが続く
- 血の混じったおりものや腐敗臭がする
- パートナーが性感染症と診断された、または疑わしい症状がある
医療機関では、内診や膣分泌物の顕微鏡検査などで細菌や病原体の有無を確認し、必要に応じて適切な抗菌薬や抗真菌薬などの治療が行われます。
3. 治療方法の具体例
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細菌性膣症(BV)の治療
メトロニダゾールやクリンダマイシンなどの抗菌薬が用いられます。アメリカ産科婦人科学会(ACOG)やCDCのガイドラインでは、内服や膣錠の処方が代表的です。 -
トリコモナス症
メトロニダゾールやチニダゾールを内服する治療が基本です。性行為で感染拡大しやすいため、パートナーも含めて検査・治療を受ける必要があります。 -
クラミジア・淋菌感染
感染症に応じて抗生物質(アジスロマイシンやセフtriaxoneなど)が処方されます。治療を完遂しないと再発や治療抵抗性のリスクが高まるため、医師の指示に従いましょう。 -
カンジダ症
抗真菌薬(フルコナゾールなど)の内服や膣錠が一般的です。再発しやすいため、生活習慣の見直しやストレス軽減も重要になります。 -
悪性腫瘍が疑われる場合
画像診断や組織検査を実施し、専門医のもとで治療法(手術、放射線療法、化学療法など)を検討する必要があります。
異常なおりものを繰り返さないための予防
1. 正しい下着・生理用品の選択と管理
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こまめな交換
生理中だけでなく、おりものシートやパンティライナーを使用している場合も長時間つけっぱなしにしないようにしましょう。 -
通気性の確保
きついスキニージーンズや化学繊維の下着は通気性が悪く、雑菌が繁殖しやすいため、おりもののにおいを強くしがちです。
2. セクシャルヘルスへの配慮
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コンドームの使用
セクシャルパートナーが複数いる場合や性感染症のリスクが少しでもある場合、コンドームを正しく使用することで感染を防ぐことができます。 -
定期的な性感染症検査
自覚症状が軽度またはほとんどなくても、定期検査を受けることが性感染症の早期発見につながります。
3. 定期的な婦人科検診・子宮頸がん検診
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子宮頸がん検診
日本では20歳以上の女性に対して2年に1回の受診が推奨されています。早期発見・早期治療が非常に重要で、がんの前段階である異形成のうちに治療ができる可能性があります。 -
半年~1年に一度の婦人科検診
自覚症状がない場合でも、年1回程度は婦人科検診を受けておくと安心です。おりもの検査や超音波検査などで疾患の有無を確認でき、将来的なリスクを減らすことに役立ちます。
4. ライフスタイルの見直し
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ホルモンバランスを整える食事・睡眠
栄養バランスの整った食事、特にたんぱく質・ビタミン・ミネラル類を意識的に摂ることは、身体全体の免疫力を高めます。また、睡眠不足が慢性化するとホルモン分泌のリズムが乱れやすいため、1日6~8時間程度の睡眠を確保しましょう。 -
ストレス対策
適度な運動、趣味の時間の確保などリラクゼーションの工夫を行うことで、ストレスホルモンの過剰分泌を抑え、膣内環境の乱れを防ぎやすくなります。
いつ医師の診察が必要か
以下のような場合には、一時的な自己ケアだけに頼らず、早めに婦人科医へ相談することをおすすめします。
- おりもののにおいが1週間以上変わらず強いまま続く
- 黄緑色やグレー、あるいは泡立ったようなおりものが大量に出る
- 外陰部の強いかゆみや腫れ、ただれがある
- 下腹部に強い痛みや性交痛、排尿痛などがある
- 不正出血(性行為後に出血する、月経以外のタイミングで出血する)が見られる
- 発熱や悪寒など全身症状を伴う
自己判断で市販薬や洗浄剤を使うよりも、医師による適切な検査と治療方針の決定が大切です。
Q&A:おりものに関するよくある疑問
Q1:膣洗浄を頻繁にすればにおいを防げる?
A:過度な膣洗浄は逆効果になる可能性があります。
膣内には善玉菌(乳酸菌など)が存在していて、適度な酸性度を保つことで外部からの病原菌をブロックしています。過度な洗浄や殺菌力の強い石けんを使用することで、これらの善玉菌までも洗い流してしまい、かえって細菌感染や真菌の繁殖を招きやすくなります。外陰部をぬるま湯や刺激の少ない洗浄剤で洗う程度に留めましょう。
Q2:パートナーがいれば同じ治療が必要か?
A:性感染症の可能性がある場合は、パートナーの検査や治療も視野に入れるべきです。
クラミジアやトリコモナスなどは性交を通じて感染するため、自分だけ治療してもパートナーが未治療であれば再感染の恐れがあります。医師の指示に従い、必要に応じて2人同時に受診・治療することが大切です。
Q3:妊娠中におりもののにおいが変わったらどうしたらいい?
A:妊娠中はホルモンバランスの変化でおりものが増えたり、多少においが変わったりすることがありますが、強いにおいや色変化、かゆみ、痛みなどがある場合は早めに産科・婦人科に相談してください。
妊娠中は免疫バランスが変化し、感染症にかかりやすい時期でもあります。細菌性膣症や性感染症などを放置すると、早産や破水のリスクが高まる可能性が指摘されています(Workowskiら 2021, CDCガイドラインより)。安全な妊娠・出産のためにも異常を感じたら早めに受診しましょう。
Q4:悪性腫瘍の可能性はどう見分けるのか?
A:自己判断は難しく、定期的な子宮頸がん検診や婦人科検診が不可欠です。
においだけで悪性かどうかを判断することはできません。長期間にわたる茶色や血の混じったおりもの、性交時出血、下腹部痛などがあれば受診を急ぎましょう。早期発見できれば予後が大きく改善されるケースが多いです。
おすすめの生活習慣:においを悪化させないために
- 通気性の良い服装
蒸れを防ぎ、雑菌増殖を抑えるため、余裕のある下着やズボンを選びます。 - 昼夜問わず下着の交換
特に暑い季節や運動後はこまめに交換し、湿ったままにしないようにします。 - 温水洗浄便座の適切な使用
長時間ウォシュレットをあてたり、膣内まで勢いよく水を入れたりしない。外陰部を軽く洗い流す程度に留める。 - サニタリー用品の長期使用を避ける
吸水ショーツやおりものシートも清潔に保ち、こまめに替えることが重要です。 - 性交後のケア
性行為後はなるべく早めに排尿・洗浄することで、感染リスクを下げられるとされています。
最新研究から見るおりもの異常の傾向
先述したように、細菌性膣症や性感染症はおりものの異常なにおいや色の変化を引き起こす主な原因ですが、近年は下記のような研究結果も報告されています。
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細菌性膣症と早産リスク
BMJのHayら(2022年)による報告のほか、近年の国際的メタアナリシスでも、妊婦が細菌性膣症を放置すると早産や低体重児出産のリスクが上昇する可能性が示唆されています。日本人妊婦にも同様のリスクがあると考えられ、産科でのスクリーニングと適切な治療が大切です。 -
性感染症と骨盤内炎症性疾患(PID)の関連
2023年にInfectious Disease Clinics of North Americaで報告されたVan de Wijgertらの論文(Bacterial vaginosis: diagnostic criteria and role in pelvic inflammatory disease, Infect Dis Clin North Am. 2023;37(1):159-174. doi:10.1016/j.idc.2022.10.006)では、細菌性膣症の反復や放置がPIDのリスクに深く関与していると結論づけられています。PIDは卵巣や卵管にも炎症を起こし、不妊や重度の骨盤痛につながる恐れがあります。 -
生活習慣と膣内マイクロバイオームの関連
過度なストレスや睡眠不足は、膣内の善玉菌である乳酸菌の減少を引き起こす可能性が指摘されています。さらに2021年にThe Lancet Infectious Diseasesで発表された一部の論文では、食生活や経口避妊薬の使用歴も膣内マイクロバイオームに影響し得ると報告されています。
これらの研究からもわかるように、おりものの異常を感じたときには「ただの体質」「一時的なストレス」と軽視せず、必要に応じて受診や検査を行うことが望ましいとされています。
結論と提言
- おりもの(膣分泌物)は、女性の健康を示す重要なバロメーターであり、膣内環境のバランスに大きく依存しています。正常時は無臭または弱いにおいにとどまりますが、生臭い腐敗臭や強い刺激臭などがある場合は、細菌性膣症や性感染症、悪性腫瘍など多岐にわたる原因が考えられます。
- においだけでなく、色や粘度、量、伴うかゆみや痛み、出血の有無などを総合的に観察することが重要です。
- 異常が続く、あるいは生活に支障をきたすほど強いにおいや症状が現れる場合は、婦人科での受診と検査を検討してください。早期発見・早期治療が重要で、放置すれば妊娠時のトラブルや骨盤内炎症性疾患、不妊症など重篤化する恐れがあります。
- 日常のセルフケアとしては、通気性の良い下着を身につける、ナプキンのこまめな交換、外陰部をやさしく洗浄して膣内の自浄作用を損なわないようにすることなどが大切です。
- 性感染症を予防するためにもコンドーム使用は有効ですが、気になる症状がある場合は早めに医療機関を受診し、パートナーとともに適切な治療を受けることが望ましいです。
- 日本では子宮頸がん検診が20歳以上から推奨されているほか、婦人科検診を定期的に受けることで腫瘍や感染症を早期に発見しやすくなります。
- ストレスや睡眠不足などの生活習慣が膣内環境に影響する可能性があるため、食事や生活リズムを見直し、ホルモンバランスを整える努力も欠かせません。
最終的には、「においやおりものの状態がおかしい」と感じた時点で、できるだけ早めに専門家の判断を仰ぐことが非常に重要です。日本女性の多くは、産婦人科への受診をためらう傾向があるといわれますが、適切なケアによって症状を早期に改善し、将来的なリスクを減らすことが可能です。
参考文献
- Vaginal discharge | nidirect (アクセス日: 2023年10月2日)
- Vaginal Discharge: Causes, Colors, What’s Normal & Treatment (Cleveland Clinic, アクセス日: 2023年10月2日)
- Vaginal discharge | healthdirect (アクセス日: 2023年10月2日)
- Vaginal discharge – NHS (アクセス日: 2023年10月2日)
- Is it normal to have vaginal discharge? | ACOG (アクセス日: 2023年10月2日)
- Vaginal discharge Causes – Mayo Clinic (アクセス日: 2023年10月2日)
- Hay P. Bacterial vaginosis. BMJ. 2022;376:e065722. doi:10.1136/bmj-2021-065722
- Workowski KA, Bachmann LH, Chan PA, et al. Sexually Transmitted Infections Treatment Guidelines, 2021. MMWR Recomm Rep. 2021;70(4):1-187. doi:10.15585/mmwr.rr7004a1
- Van de Wijgert JHHM. Bacterial vaginosis: diagnostic criteria and role in pelvic inflammatory disease. Infect Dis Clin North Am. 2023;37(1):159-174. doi:10.1016/j.idc.2022.10.006
注意喚起(情報提供の目的)
本記事の内容は、信頼できる情報源や研究結果をもとに執筆されたものですが、あくまでも一般的な情報提供にとどまるものであり、個別の診断や治療方針を示すものではありません。おりもののにおい・色・量などに異常を感じたり、不安がある方は、自己判断せず婦人科医にご相談ください。専門家の診察と検査が、最善のケアと早期回復への近道です。