更年期女性における持続性めまい:最適なウェルビーイングのための包括的分析と行動計画
女性の健康

更年期女性における持続性めまい:最適なウェルビーイングのための包括的分析と行動計画

更年期は、女性の人生における自然な移行期ですが、多くの女性がさまざまな身体的・精神的変化を経験します。その中でも「めまい」は、日常生活に大きな支障をきたし得るにもかかわらず、ほてりや発汗といった典型的な更年期症状ほど注目されず、しばしば誤解されたり軽視されたりする症状の一つです。本稿は、JAPANESEHEALTH.ORG編集部として、更年期に持続するめまいについて、その原因、種類、診断、そして具体的な対処法に至るまで、科学的根拠に基づいた詳細な情報を提供し、読者の皆様がこの困難な時期をより良く乗り越えるための一助となることを目指しています。実際に、40代中盤から50代にかけて、めまいの悩みを抱える女性が増加する傾向にあります1。ある日本の調査では、更年期症状を経験している女性の65%が「頭痛、めまい・耳鳴り、ふらつき」を報告しています2。別の報告によれば、日本における更年期のめまいの有病率は6~12%とされています3。さらに、閉経周辺期および閉経後の女性の35.7%が週に1回以上めまいを訴えているという研究結果もあります4。日本の厚生労働省が2022年に実施した調査では、50~59歳の女性の9.1%が更年期障害と診断されており、さらに多くの女性がその可能性を感じていることが示されていますが、めまいはこれらの障害の主要な構成要素の一つです5。めまいは単なる一時的な不快感にとどまらず、日常生活の遂行能力や生活の質(QOL)を著しく低下させる可能性があります。それにもかかわらず、他の「古典的な」更年期症状の影に隠れてしまうことが少なくありません。この症状の持続性は、特に女性にとって大きな苦痛となり得ます。日本においては、その有病率の高さや、漢方薬といった日本独自の治療アプローチが存在することを踏まえると6、日本語による質の高い、アクセスしやすい情報提供の必要性が際立っています。本稿は、専門性(Expertise)、権威性(Authoritativeness)、信頼性(Trustworthiness)を重視するE-E-A-Tの原則に厳格に従い、国内外の信頼できる医学的情報源を参照しつつ、日本の読者に向けてこの情報ニーズに応えることを意図しています。

要点まとめ

  • 更年期のめまいは、ホルモン変動、自律神経の乱れ、前庭系の問題などが複雑に絡み合って起こる一般的な症状ですが、見過ごされがちです14
  • めまいには「回転性」「浮動性」「平衡障害」など種類があり、原因によって異なります。ろれつが回らない、手足のしびれなどを伴う場合は、脳卒中の可能性があるため直ちに救急受診が必要です1011
  • 診断には詳細な問診が重要で、良性発作性頭位めまい症(BPPV)やメニエール病など他の疾患との鑑別が必要です。BPPVは特に閉経後女性に多く見られます37
  • 対処法は、生活習慣の改善(食事、睡眠、ストレス管理)から、ホルモン補充療法(HRT)、漢方薬、専門的な前庭リハビリテーションまで多岐にわたります91823
  • 医療機関(産婦人科、耳鼻咽喉科など)と連携し、自身の状態に合った個別化された治療計画を立て、積極的に管理に参加することが、症状改善とQOL向上の鍵となります719

1. 更年期におけるめまいの複雑な性質:原因と寄与因子

更年期に起こるめまいは、単一の原因によるものではなく、ホルモンバランスの変動、自律神経系の変化、前庭系(平衡感覚を司る器官)の変調、さらには他の寄与因子が複雑に絡み合って発症します。

1.1. ホルモン変動の中心的な役割

更年期におけるエストロゲン(卵胞ホルモン)の減少と不安定な変動は、めまいの主要な誘因と考えられています。エストロゲンは、体の多くの機能に関与しており、その受容体は平衡感覚を司る前庭系にも存在することが確認されています8。エストロゲンの低下は、自律神経系の不安定化を招き、めまいを感じやすくさせると言われています1。また、エストロゲンは血糖値の利用にも関与しており、その変動が疲労感やめまいを引き起こす可能性も指摘されています9。さらに、エストロゲンの減少は、内耳のリンパ液の過剰(内リンパ水腫)を引き起こしやすくし、メニエール病に似た状態を誘発することもあります1。プロゲステロン(黄体ホルモン)の変化も、前庭系に影響を与える可能性が示唆されています8

1.2. 自律神経系の機能不全

ホルモンバランスの乱れは、自律神経系に大きな影響を与えます。自律神経は、血圧、心拍数、体温調節など、体の様々な機能を無意識のうちに調整していますが、このバランスが崩れると、血圧の変動やストレス反応の異常などが起こり、めまいの原因となります1。特に、ほてりやのぼせ、寝汗といった血管運動神経症状は自律神経の乱れと深く関連しており、これらの症状に伴ってめまいが現れることも少なくありません9

1.3. 前庭系の脆弱性

内耳にある前庭系は、体のバランスを保つ上で中心的な役割を担っています。加齢に伴う感覚器官の機能低下に加えて、更年期のホルモン変動が前庭系に影響を及ぼし、めまいや耳鳴りが発生しやすくなります1。特に、閉経後の女性において良性発作性頭位めまい症(BPPV)の有病率が高いことが知られており8、これはエストロゲンが耳石(内耳にある炭酸カルシウムの結晶)の健康や内耳の微小循環に関与しているためと考えられています8。実際に、更年期症候群に伴って起こる骨粗鬆症によって耳石が剥がれやすくなることが最近わかってきました1。これは、単なる加齢による変化だけでなく、ホルモンが内耳構造に深く関わっていることを示唆しています。

1.4. 心血管系および代謝因子

血圧の変動もめまいの一般的な原因です。低血圧は立ちくらみを、高血圧は別のタイプのめまいを引き起こす可能性があります1。エストロゲンの減少は動脈硬化の進行に関与し、血圧に影響を与えることがあります10。また、更年期には不正出血により貧血が起こりやすく、脳への酸素供給が低下してめまいを引き起こすことがあります1。前述の通り、エストロゲンは血糖コントロールにも関与するため、血糖値の不安定もめまいの一因となり得ます9

1.5. 心理的要因とストレス

更年期は、ストレス、不安、抑うつといった精神心理的症状が現れやすい時期でもあります。これらの心理的要因は、めまいを悪化させたり、引き金になったりすることがあります。ストレス、疲労、睡眠不足などがあると、めまいの症状が悪化しやすい傾向が報告されています1。ある研究では、閉経周辺期および閉経後の女性において、不安がめまいと独立して関連していることが示されました4。このことは、不安が単にめまいの結果として生じるだけでなく、めまいの発症機序の一部であるか、あるいは悪循環を形成する強力な増悪因子である可能性を示唆しています。

これらの要因が複合的に作用することで、更年期の女性はめまいに悩まされることが多くなります。つまり、更年期はホルモン、神経、感覚器、心理的な脆弱性が一点に集中する時期であり、これが「めまいの嵐」とも言える状況を生み出すのです。

2. 更年期に経験するめまいの種類

「めまい」と一言で言っても、その感じ方にはいくつかの種類があります。自分の感じているめまいがどのタイプなのかを正確に把握し、医師に伝えることは、適切な診断と治療への第一歩となります。

2.1. 回転性めまい (Kaiten-sei Memai)

自分自身または周囲がぐるぐる回っているように感じるめまいです。「天井がぐるぐる回るような感覚」と表現されることもあります11。このタイプのめまいは、主にBPPV、メニエール病、前庭神経炎といった内耳の異常に関連して起こることが多いです1

2.2. 浮動性めまい (Fudō-sei Memai) / 立ちくらみ (Tachikurami)

体がふわふわと浮いているような、地に足がついていないような感覚のめまいです11。また、気が遠くなるような、失神しそうな感覚(立ちくらみ)もこのカテゴリーに含まれることがあります。これらは、低血圧や不整脈といった心血管系の問題、貧血、あるいは代謝系の変化によって引き起こされることが多いです1。日本語では「ふらつき」という言葉も使われ、体が傾いたり、よろめいたりするような感覚を指すこともあります1

2.3. 平衡障害 (Heikō Shōgai) / ふらつき (Furatsuki)

立っている時や歩いている時に、体が不安定でぐらぐらする、よろけるといったバランスの失調感です。歩行が不安定になり、転倒のリスクも高まります1。感覚器の機能低下、神経系の問題、あるいは筋骨格系の衰えなどが原因となることがあります1

2.4. その他の感覚

失神前状態(気が遠くなる感じ)や、乗り物酔いのような不快感を伴うこともあります12。一人の人が複数のタイプのめまいを経験したり、症状が重なり合ったりすることもあります。また、更年期のめまいの特徴として、症状が日によって異なったり、時間帯によって変動したりすることが挙げられます1。これはホルモンバランスの変動やストレスの影響を受けやすいためと考えられ、この変動パターン自体が診断の手がかりとなることもあります。日本語の文献では、「回転性めまい」、「浮動性めまい」、「ふらつき」といった多様な表現が用いられており1、これらの用語とそれぞれの感覚を正確に理解し区別することが、日本における適切な診断には不可欠です。

3. 医療機関を受診すべき時:危険な兆候の認識

更年期に起こるめまいの多くは生命に関わるものではありませんが、中には脳卒中など、緊急の対応を要する深刻な病気の兆候である可能性もあります。特に40代から50代は、脳卒中などのリスクが徐々に高まり始める年代でもあるため、単に「更年期のせい」と自己判断せず、以下のような「危険な兆候(レッドフラッグ)」に注意することが極めて重要です。

健康に関する注意事項

  • 突然発症した、これまでに経験したことのないような激しいめまい、または新しいタイプのめまい。
  • めまいに加えて、「ろれつが回らない」「手足のしびれや脱力感」「顔のゆがみ」「物が二重に見える」「まっすぐ歩けない」「激しい頭痛」「胸の痛み」「失神」などの症状が一つでも伴う場合。

これらの症状は、脳梗塞や脳出血といった緊急治療を要する疾患のサインである可能性が高いです。夜間や休日であっても、ためらわずに救急医療機関を受診するか、救急車を呼んでください1012

また、めまいが持続・悪化する場合、日常生活に著しい支障が出ている場合、難聴や重度の耳鳴りを伴う場合なども、速やかに医師の診察を受けるべきです19

表1:緊急医療処置を必要とするめまいの危険な兆候
症状(日本語/英語) 考えられる深刻な状態 推奨される行動
突然の激しいめまい、新しいタイプのめまい 脳卒中、その他重篤な神経疾患 直ちに救急医療機関を受診または救急車を要請
ろれつが回らない、話しにくい (Slurred speech) 脳卒中 直ちに救急医療機関を受診または救急車を要請
手足のしびれ・脱力、顔の歪み (Limb numbness/weakness, facial drooping) 脳卒中 直ちに救急医療機関を受診または救急車を要請
ものが二重に見える、視界がぼやける (Blurred/double vision) 脳卒中、その他重篤な神経疾患 直ちに救急医療機関を受診または救急車を要請
歩行困難、協調運動障害 (Difficulty walking, loss of coordination) 脳卒中、その他重篤な神経疾患 直ちに救急医療機関を受診または救急車を要請
激しい頭痛 (Severe headache) 脳卒中(特にくも膜下出血など)、その他重篤な疾患 直ちに救急医療機関を受診または救急車を要請
胸痛 (Chest pain) 心疾患(心筋梗塞など) 直ちに救急医療機関を受診または救急車を要請
失神 (Fainting) 重篤な心疾患、神経疾患、その他 直ちに救急医療機関を受診または救急車を要請
高熱、首の硬直 (High fever, stiff neck) 髄膜炎などの中枢神経感染症 直ちに救急医療機関を受診または救急車を要請

出典: 参考文献10に基づく

4. 更年期におけるめまいの診断と鑑別

めまいの原因を特定するためには、詳細な問診、身体診察、そして必要に応じた各種検査が系統的に行われます。更年期のめまいの診断は、本質的に他の深刻な疾患を除外していくプロセスであり、慎重な段階的アプローチが求められます7

4.1. 診断プロセス

問診 (Monshin): 医師はまず、めまいの性状(回転性か浮動性かなど)、持続時間、頻度、誘因、随伴症状(吐き気、頭痛、耳鳴りなど)を詳しく尋ねます19。また、最終月経、ほてりなどの他の更年期症状、既往歴、服薬歴、生活習慣、家族歴なども重要な情報となります7。日本では、更年期症状の程度を客観的に評価するために「更年期指数(SMI)」などの質問票が用いられることもあります13

身体診察: 血圧(臥位・立位での測定を含む)、脈拍などのバイタルサインの測定、神経学的診察(平衡機能、歩行状態の評価)、耳の診察などが行われます。BPPVが疑われる場合は、Dix-Hallpike(ディックス・ホールパイク)法などの頭位眼振検査が行われます。

診断検査(必要に応じて): 特定の疾患が疑われる場合、血液検査(貧血、甲状腺機能)、聴力検査、より詳細な前庭機能検査(ENG/VNG)、頭部MRI/CT、心電図などが実施されます10

4.2. 鑑別診断:更年期が原因か、それとも他の病気か?

めまいは様々な原因で起こるため、更年期に伴うものか、他の特定の疾患によるものかを慎重に見極める(鑑別診断する)ことが非常に重要です。以下に主な疾患をまとめます。

表2:更年期女性における一般的なめまいの原因の鑑別
疾患名(日本語/英語) 主な症状 発症・持続時間 主な誘因・特徴 診断の手がかり・検査
更年期関連めまい(非特異的) 浮動性、回転性、不安定感など多彩。変動しやすい。 数分~数時間、断続的 ホルモン変動、ストレス、疲労、睡眠不足1 他の更年期症状の存在、除外診断
良性発作性頭位めまい症 (BPPV) 回転性めまい、吐き気 数十秒~1分程度 特定の頭位変換(寝返り、起き上がりなど)1 Dix-Hallpike法陽性、Epley法などで改善14
メニエール病 (Meniere’s Disease) 回転性めまい、難聴(変動性)、耳鳴り、耳閉感1 数十分~数時間の発作を反復 原因不明(内リンパ水腫)。更年期に悪化の可能性1 聴力検査(低音域の感音難聴)、グリセロールテストなど
前庭性片頭痛 (Vestibular Migraine) 回転性または浮動性めまい、頭痛(伴わないことも) 数分~数日 片頭痛の既往、片頭痛の誘因10 片頭痛の診断基準、頭痛歴
前庭神経炎 (Vestibular Neuritis) 突然の激しい回転性めまい、吐き気、嘔吐。難聴なし1 数日~数週間持続 ウイルス感染が先行することが多い 頭位眼振検査、温度刺激検査
心血管系めまい (Cardiovascular Dizziness) 立ちくらみ、浮動感、失神前状態 体位変換時や労作時に多い、持続時間は様々 起立性低血圧、不整脈、高血圧1 起立試験、心電図、血圧測定
貧血によるめまい (Anemia-related Dizziness) ふらつき、息切れ、動悸、倦怠感 持続的、労作時に増悪 鉄欠乏(過多月経など)1 血液検査(ヘモグロビン値低下)
不安関連めまい (Anxiety-related Dizziness) 浮動感、不安定感、パニック症状を伴うことも ストレス時や特定の状況で起こりやすい、持続時間は様々 強い不安、ストレス4 精神科的評価、他の身体疾患の除外

出典: 参考文献1に基づく

特に良性発作性頭位めまい症(BPPV)は、中高年女性、特に閉経後の女性に非常に多く、めまいの原因の40%以上を占めるとも報告されています3。男性より女性に約3倍多いとされ、更年期女性のめまいではまずBPPVを疑い、積極的に検査することが重要です。

– 吉耳鼻咽喉科アレルギー科3

5. 包括的行動計画:めまいの管理と軽減

更年期のめまいを管理し、全体的なウェルビーイングを改善するためには、生活習慣の改善、医学的治療、専門的リハビリテーションなどを組み合わせた包括的なアプローチが有効です。

5.1. 生活習慣の改善とセルフケア戦略

日々の生活習慣を見直し、積極的にセルフケアに取り組むことは、めまい管理の基本となります。科学的根拠に基づいたアプローチを以下の表にまとめます。

表3:更年期におけるめまいに対するエビデンスに基づいた生活習慣とセルフケア戦略の概要
戦略(日本語/英語) 具体的な推奨事項 根拠・裏付け(出典、注意点など)
バランスの取れた食事 (Balanced Diet) 少量を規則的に摂取、全粒穀物・野菜中心、良質なタンパク質、塩分・糖分制限、カルシウム・ビタミンD、セロトニン生成を助ける食品(乳製品・大豆製品) 血糖値安定9、体液バランス12、骨の健康1、ストレス管理6
水分補給 (Hydration) 十分な水分摂取(特に水) 脱水はめまいを悪化させる9
質の高い睡眠 (Sleep Hygiene) 6~7時間の睡眠、規則正しい就寝・起床時間 睡眠不足はめまいを悪化させる16
定期的な身体活動 (Physical Activity) 週60分程度の適度な運動、バランス運動 全般的健康増進6、平衡機能サポート9。血管運動症状への効果は限定的との報告あり15
ストレス管理 (Stress Management) 瞑想、ヨガ、深呼吸、趣味、認知行動療法(CBT) ストレス軽減69。CBTは血管運動症状にも推奨15
誘因の回避 (Avoiding Triggers) 症状日記で特定、カフェイン・アルコール・タバコを控える 一般的なめまい対策として推奨12。血管運動症状への効果は限定的との報告あり15
指圧・ツボ療法 (Acupressure) 頭竅陰(あたまきょういん)、風池(ふうち)などのツボ刺激 血行促進、自律神経調整6
急なめまい発作時の対処 (Acute Dizziness Management) 安全確保(座る・横になる)、ゆっくりとした動作、一点凝視、深呼吸 症状緩和、転倒予防121617

5.2. 医学的治療選択肢:エビデンスに基づいた概観

生活習慣の改善だけでは症状が十分にコントロールできない場合、様々な医学的治療法が選択肢となります。どの治療法を選択するかは、医師との十分な相談の上で、利益とリスクを理解して決定することが重要です。

ホルモン補充療法 (HRT) / 更年期ホルモン療法 (MHT): HRTは、ほてり、発汗などの血管運動神経症状(VMS)に最も効果的な治療法です18。自律神経の不安定性に起因するめまいに対しても、VMSの改善やホルモン変動の安定化を通じて間接的に効果を示す可能性があります21。60歳未満で閉経後10年以内の健康な女性では、一般的に利益がリスクを上回ると考えられています19。HRTを開始してすぐに、「信じられないほどすっきりした」と効果を実感する女性も少なくありません20

漢方薬 (Kanpōyaku): 日本の更年期医療で重要な役割を担っており、個々の体質(証)や症状に合わせて処方が選択されます。めまいを含む様々な症状に広く用いられており、西洋医学が主流の国々にはないユニークなアプローチです6

表4:日本における更年期のめまいに用いられる主な漢方薬の概要
漢方薬名(日本語/よみ) 主な体質(証 – shō) めまいに対する主な適応 他の随伴症状
当帰芍薬散 (とうきしゃくやくさん) 虚弱、冷え症、貧血傾向7 立ちくらみ、ふらつき、頭重感 肩こり、むくみ、月経不順1
加味逍遥散 (かみしょうようさん) 虚弱、疲れやすい、精神不安、イライラ7 ふわふわするめまい、精神的要因が関与するめまい22 肩こり、のぼせ、不眠1
桂枝茯苓丸 (けいしぶくりょうがん) 比較的体力あり、のぼせ、下腹部抵抗・圧痛7 のぼせを伴うめまい 肩こり、頭痛、月経異常1
半夏白朮天麻湯 (はんげびゃくじゅつてんまとう) 胃腸虚弱、下肢の冷え6 回転性めまい、頭痛、立ちくらみ、吐き気1 食欲不振、悪心嘔吐
苓桂朮甘湯 (りょうけいじゅつかんとう) 体力虚弱、神経質6 立ちくらみ、ふらつき、回転性めまい、動悸1 頭痛、耳鳴り、神経症
女神散 (にょしんさん) 不安感、不眠傾向 のぼせ、めまい、動悸 精神不安、イライラ、頭痛1

出典: 参考文献1, 6, 7, 22に基づく

非ホルモン性の処方薬: 主にVMSに対して、SSRI/SNRI(抗うつ薬)、ガバペンチン、フェゾリネタントなどが用いられます15。これらは、めまいがVMSや不安によって悪化している場合に間接的な効果が期待できます。HRTが使用できない、または希望しない女性にとって重要な選択肢です。

5.3. 前庭性めまいに対する専門的治療法

めまいが主に前庭系(内耳のバランス器官)の機能不全に起因する場合、特定の理学療法やリハビリテーションが非常に効果的です。

耳石置換法(Epley法など): BPPVに対して行われる極めて効果の高い治療法です。専門家の指導のもと、頭部を特定の位置に動かし、三半規管に入り込んだ耳石を元の場所に戻します14

前庭リハビリテーション (VRT): 内耳の障害による平衡機能の低下を、脳の適応能力を利用して改善させる運動療法プログラムです。めまいの軽減、視線の安定化、姿勢の安定性向上を目的とします。日本めまい平衡医学会は詳細なガイドラインを発行しており2324、日本における高度な治療水準を示しています。

6. 日本における医療機関のかかり方と長期的なウェルビーイング

日本で更年期のめまいに悩む女性が適切なケアを受けるためには、どこに相談し、どのような流れで診療が進むのかを理解しておくことが役立ちます。

6.1. 医療機関の選択と連携

まずは、かかりつけ医または産婦人科への相談が一般的です7。そこから、症状に応じて耳鼻咽喉科(BPPVなど内耳の疾患が疑われる場合)、神経内科(脳卒中や前庭性片頭痛が疑われる場合)、心療内科など、適切な専門医へ紹介されます7。近年では、女性の健康問題に特化した「女性外来」を設置する医療機関も増えており、天野惠子医師のような先駆者によって、より包括的なケアが提供されることがあります25。しかし、専門的なサービスは存在するものの、診療科間の連携強化が依然として課題であるとの指摘もあり27、患者がスムーズに最適なケアを受けるためには、より統合されたアプローチが求められています。

6.2. 更年期のめまいとうまく付き合うための積極的アプローチ

持続するめまいの管理は、継続的なプロセスです。以下の点を心がけることで、生活の質を大幅に向上させることができます。

  • 医療提供者とのパートナーシップ: 定期的な診察を受け、オープンにコミュニケーションを取り、治療計画を共に見直していくことが重要です19
  • 継続的な自己モニタリング: 自身の症状、誘因、効果的な対処法について意識を向け、体調に合わせて生活習慣を柔軟に調整しましょう16
  • サポートシステムの構築: 家族、友人、サポートグループなど、一人で抱え込まずに周囲の理解と協力を得ることが精神的な支えとなります。
  • 転倒予防: 住環境の整備(滑り止めマット、障害物の除去など)や、危険を伴う活動への注意が非常に重要です1216
  • 前向きな姿勢: 症状は適切な管理によって改善が期待できます。焦らず、全体的な健康とウェルビーイングに焦点を当て、前向きな姿勢を保つことが大切です1
免責事項この記事は医学的アドバイスに代わるものではなく、症状がある場合は専門家にご相談ください。

よくある質問

更年期のめまいの主な原因は何ですか?

更年期のめまいは、単一の原因ではなく、複数の要因が複雑に絡み合って起こります。主な原因として、①エストロゲンという女性ホルモンの減少・変動による自律神経の乱れ、②加齢とホルモン変動による平衡感覚を司る前庭(内耳)機能の低下、③ストレスや不安などの心理的要因、④血圧の変動や貧血などが挙げられます184

どんなめまいがあったら、すぐに病院に行くべきですか?

めまいに加えて、①突然の激しい頭痛、②ろれつが回らない・言葉が出にくい、③手足のしびれ・脱力感、④顔の歪み、⑤物が二重に見える、⑥まっすぐ歩けない、といった症状が一つでも伴う場合は、脳卒中などの重篤な病気の可能性があります。このような「危険な兆候」がある場合は、ためらわずに直ちに救急医療機関を受診するか、救急車を呼んでください1012

良性発作性頭位めまい症(BPPV)とは何ですか?自分で治せますか?

BPPVは、内耳の耳石というカルシウムの粒が剥がれて三半規管に入り込むことで起こるめまいで、特に閉経後の女性に多く見られます3。寝返りを打ったり、起き上がったりといった特定の頭の動きで、数十秒程度の回転性めまいが生じるのが特徴です1。治療は、耳石を元の位置に戻す「耳石置換法(Epley法など)」という理学療法が非常に効果的です。医師の診断と指導のもとであれば、自宅で自己治療として行うことも可能です14

ホルモン補充療法(HRT)はめまいに効果がありますか?

HRTは、ほてりや発汗などの血管運動神経症状に最も効果的な治療法ですが、めまい自体への直接的な第一選択薬ではありません。しかし、めまいがホルモン変動による自律神経の不安定性や、ほてりなどの症状に伴って起きている場合には、それらの根本原因を安定させることで、めまいが改善する可能性があります1921。治療の適応については、医師と利益・リスクをよく相談して決定する必要があります。

めまいを改善するために、日常生活で何ができますか?

日常生活では、①血糖値を安定させるバランスの取れた食事、②十分な水分補給、③質の高い睡眠、④ストレス管理(ヨガや瞑想など)、⑤カフェインやアルコールなど誘因の回避、が基本となります912。また、バランス感覚を養うための運動や、急にめまいがした時に安全な体勢をとるなどの自己対処法も有効です16

結論

本稿では、更年期女性における持続性めまいについて、その複雑な原因、多様な症状、診断プロセス、そして包括的な管理戦略を詳述してきました。重要な点は、更年期のめまいは多因子性でありながら管理可能であるということです。その原因を理解し、危険な兆候を見逃さず適切なタイミングで医療機関を受診し、医師とのパートナーシップのもとで個別化された管理計画に積極的に参加することが、症状の軽減と生活の質の向上への鍵となります。本稿で提供された、国内外の信頼できる医学的情報源と、東京医科歯科大学の寺内公一医師28や女性医療のパイオニアである天野惠子医師25といった日本の専門家の知見を含むE-E-A-Tに基づいた情報が、皆様のエンパワーメントに繋がることを願っています。知識を力に変え、自信を持ってこのライフステージを乗り越え、より良いウェルビーイングを実現されることを心より願っております。

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  16. 輝きプロジェクト. 歩けないほどのめまい。私が取り入れた対処法とは?【ワタシの更年期体験談】. [インターネット]. 2024. [引用日: 2025年6月10日]. 以下より入手可能: https://www.kagayaki-project.jp/lifestyle/living/approach/medicine/2024-0303/
  17. 助産院ハイジア. 更年期とめまいーめまいが起きた時の対処法. [インターネット]. 2022. [引用日: 2025年6月10日]. 以下より入手可能: https://haijia2013.com/2022-11-22/
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  19. The Menopause Society. The 2022 Hormone Therapy Position Statement of The North American Menopause Society. [インターネット]. 2022. [引用日: 2025年6月10日]. 以下より入手可能: https://menopause.org/wp-content/uploads/press-release/ht-position-statement-release.pdf
  20. 小室クリニック. 更年期ホルモン補充療法の効果と副作用. [インターネット]. [引用日: 2025年6月10日]. 以下より入手可能: https://www.komuroclinic.or.jp/kounenki-hormone.php
  21. ヴィヴァーレ マイ ドクター. 【医学博士監修】ホルモン補充療法の効果が出るまで – 効果・やめどきなども解説. [インターネット]. [引用日: 2025年6月10日]. 以下より入手可能: https://vivalle-mydoctor.com/blog/menopause-hrt
  22. 小林製薬. 更年期で起きるめまいの特徴は?原因と対処法. [インターネット]. [引用日: 2025年6月10日]. 以下より入手可能: https://www.kobayashi.co.jp/brand/inochinohaha/kounenki/dizzy.html
  23. 金原出版. 前庭リハビリテーションガイドライン 2024年版. [インターネット]. [引用日: 2025年6月10日]. 以下より入手可能: https://www.kanehara-shuppan.co.jp/books/detail.html?isbn=9784307371360
  24. 一般社団法人 日本めまい平衡医学会. 前庭リハビリテーションガイドライン 2024年版. Amazon.co.jp. [インターネット]. [引用日: 2025年6月10日]. 以下より入手可能: https://www.amazon.co.jp/%E5%89%8D%E5%BA%AD%E3%83%AA%E3%83%8F%E3%83%93%E3%83%AA%E3%83%86%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%83%89%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B3-2024%E5%B9%B4%E7%89%88-%E4%B8%80%E8%88%AC%E7%A4%BE%E5%9B%A3%E6%B3%95%E4%BA%BA-%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%82%81%E3%81%BE%E3%81%84%E5%B9%B3%E8%A1%A1%E5%8C%BB%E5%AD%A6%E4%BC%9A/dp/4307371364
  25. FNNプライムオンライン. 3人の娘を育てながら70年代の医学界で孤軍奮闘。女性医療のパイオニア・天野惠子さんが「女性外来」を立ち上げるまで. [インターネット]. [引用日: 2025年6月10日]. 以下より入手可能: https://www.fnn.jp/articles/-/690700?display=full
  26. 公益社団法人 日本産科婦人科学会. 産婦人科 診療ガイドライン 婦人科外来編 2023. [インターネット]. 2023. [引用日: 2025年6月10日]. 以下より入手可能: https://www.jsog.or.jp/activity/pdf/gl_fujinka_2023.pdf
  27. 日本医療政策機構. 産官学民で考える社会課題としての 更年期女性の健康推進. [インターネット]. 2024. [引用日: 2025年6月10日]. 以下より入手可能: https://hgpi.org/wp-content/uploads/HGPI_Recommendation_202407_Promotion-of-Menopausal-Womens-Health_JPN.pdf
  28. PR TIMES. 【Vitalogue Health】更年期医療学分野における第一人者の寺内公一医学博士(東京医科歯科大学寄附講座教授:茨城県地域産科婦人科学講座)が医学アドバイザーに就任. [インターネット]. [引用日: 2025年6月10日]. 以下より入手可能: https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000072374.html
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