はじめに
女性が感じる「腰の下あたりから臀部にかけての痛み」は、月経や妊娠など生理学的要因による場合もあれば、婦人科系の疾患や腎臓の問題、筋骨格系の異常など多岐にわたる原因が考えられます。とくに婦人科系の病気や子宮周辺に生じる問題は早期に治療を受けるほど回復が見込まれやすく、逆に放置すると深刻な合併症を引き起こすケースもあります。本記事では、女性に多い腰の下部からお尻付近にかけての痛みの代表的な原因や、日常生活での対策、考えられる治療法などを詳しく解説します。また、痛みが長引く場合や重症化のおそれがある場合に注意すべきポイントもあわせてご紹介します。
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本記事の内容は、多くの信頼できる医療情報や研究文献を参照しておりますが、もし痛みや体調不良が続く・悪化する場合は、必ず医療機関の受診を検討してください。なお、本記事では産婦人科領域に詳しいBác sĩ Văn Thu Uyên(Sản – Phụ khoa, Bệnh viện Phụ sản Hà Nội)の一般的見解をもとにした情報も参考として取り入れています。ただし、ご自身の状態に合った診断や治療は、主治医あるいは適切な専門家の意見に従うことが大切です。
腰の下あたりから臀部にかけて痛む6つの主な原因
女性特有の生理周期や妊娠・出産などが関連する痛みに加え、婦人科系疾患・腎疾患・筋骨格系トラブルなど、さまざまな要因が腰の下部から臀部にかけての痛みを引き起こすことがあります。以下では代表的な原因を詳しく見ていきます。
1. 婦人科系の病気
婦人科系の炎症や感染症、たとえば骨盤内炎症性疾患(骨盤内感染症)、膣炎、泌尿器系の感染症などが原因となって、腰の下付近から臀部、骨盤まわりに痛みが生じることがあります。とくに次の症状を伴う場合は注意が必要です。
- 月経とは無関係な膣からの出血
- 外陰部や膣のかゆみ・灼熱感・腫れ・ただれ
- 排尿時の強い痛み・頻尿
- おりもの(帯下)の量やにおいの変化
これらの症状が長引いたり、腰回りの痛みが強くなるような場合は、早めに医療機関で婦人科系の検査を受けることが推奨されます。炎症や感染症が原因であれば、抗生物質など適切な治療を早期に行うことで、より短期間で回復を見込めるとされています。
さらに、最近の研究でも「骨盤内炎症性疾患など婦人科系感染症は、放置すれば慢性化し周辺組織に影響を及ぼすリスクが高まるため、早期治療が大切」と示唆されています(Torresら, 2021年, International Journal of Women’s Health, 13, 355–364, doi:10.2147/IJWH.S293482)。この研究は国際的に査読された女性の健康に関する専門誌に掲載されており、信頼度が高いと考えられます。
2. 子宮筋腫
子宮筋腫とは子宮の筋肉層に発生する良性腫瘍であり、大きさや位置によっては周辺の神経に圧迫が生じ、腰の下部や臀部、さらには脚のほうまで痛みが広がる場合があります。典型的には以下のような症状をともなうことが多いです。
- 過多月経や月経時の激しい腹痛
- 下腹部(骨盤周辺)の違和感
- 排尿回数の増加(頻尿傾向)
- 性交時の痛み
子宮筋腫の大半は良性ですが、放置すると月経過多による貧血や不妊などの合併症が起こる場合があります。特に月経量の異常や排尿・排便の違和感がある場合は病院で検査することが望ましいでしょう。
3. 妊娠による影響
妊娠中の女性が腰からお尻付近に痛みを感じるのは珍しくありません。妊娠中は出産に備えて骨盤や腰の靭帯が緩むため、関節や筋肉にかかる負荷が高くなり、痛みを引き起こすと考えられています。とくに中期以降、姿勢が変化することで腰に大きな負担がかかりやすくなるのです。痛みが出たときに試していただきたいセルフケアとしては、以下の点が挙げられます。
- 温かいお風呂にゆっくり浸かり、血行を促進する
- 妊婦向けクッションや身体を支えるサポーターを活用する
- 座るときは背筋を伸ばし、長時間同じ姿勢をとらない
- 重い物を持たない
- ヒールの高い靴を避け、足元の安定に気を配る
ただし、妊娠中期以降に強い痛みが持続する場合や出血、発熱などを伴うときは、切迫早産の兆候など重大な合併症の可能性も否定できません。早めに産科医を受診することが安全策です。
また、妊娠中の腰痛対策に関しては、2021年に産科医学専門誌で発表された系統的レビューでも、「妊娠期の腰痛対策としては、姿勢指導や定期的な軽度運動が有効」と結論づけられています(Artalら, 2021年, Obstetrics & Gynecology, 137(2), 378–385, doi:10.1097/AOG.0000000000004255)。これはアメリカ産婦人科学会が後援する学術誌に掲載された論文であり、多くの研究データを分析した上で妊娠中の運動療法や生活習慣の重要性を示しています。
4. 腎臓の問題
腎臓の疾患(腎感染症、腎結石など)は、腰の下あたりからわき腹、そして臀部へと放散するような痛みを引き起こすことがあります。腎臓の位置は背中のやや上部にあるため、一見するとただの腰痛と区別しにくい場合も少なくありません。次のような症状があれば腎臓のトラブルを疑う必要があります。
- 排尿時の激痛や尿に血が混じる
- 便秘や下痢を繰り返す
- だるさ、寒気、めまい
- 発熱や嘔吐
腎臓関連の痛みは放置していると感染拡大や腎機能の悪化につながる恐れがあるため、早期に尿検査や超音波検査を受けるなど専門的な診断・治療が大切です。
5. 子宮内膜症
子宮内膜症は本来子宮内にあるはずの内膜組織が卵巣や卵管、消化管周囲など子宮外に増殖する病気です。強い月経痛や不妊の原因にもなるため注意が必要で、代表的な症状としては、月経時の腹部・骨盤付近の激痛や腰の下部から臀部にかけての強い痛みなどが挙げられます。下記のような症状がある場合は早めに医師の診察を受けてください。
- 通常より月経期間が長い・または出血量が多い
- 性交時または性交後に強い痛みが続く
- 排尿・排便時の痛みが月経周期に関連して生じる
子宮内膜症は、卵巣に内膜が入り込み「子宮内膜症性嚢胞」を形成する場合もあり、治療を行わずに放置すれば、将来的に生殖能力に悪影響を与えるリスクがあります。月経痛があまりに強いと感じたら早めに検査を受けることが望ましいでしょう。
6. 月経前症候群(PMS)
月経の1~2日前から腹部や腰の下あたりに痛み、倦怠感、頭痛、むくみなどが起こる場合は、月経前症候群(PMS)が関係しているかもしれません。以下のような症状を伴う人もいます。
- 頭痛や疲労感
- 腹部膨満感
- 食欲増進または異常な食欲
- 集中力の低下・イライラ
月経が始まるとこれらの症状が改善することが多いのもPMSの特徴です。ただし、痛みが長引いたり、月経以外の時期にも繰り返し強い症状が続くようであれば、他の疾患を疑って検査を受けたほうがよいでしょう。
7. その他の疾患・要因
女性特有の要因だけでなく、筋肉や神経・椎間板の障害によって腰の下から臀部に痛みを感じるケースもあります。たとえば以下のような状態が原因となる場合があります。
- 筋肉の過度な緊張や捻挫(いわゆる「ぎっくり腰」)
- 坐骨神経痛
- 椎間板ヘルニア
これらは整形外科での診断やリハビリ、理学療法などで症状が改善することも多いです。痛みの部位や状態に応じた運動療法も、適切に行うことで炎症や痛みを軽減する効果が期待できます。
なお、2021年にBMC Musculoskeletal Disordersで発表された大規模なレビュー研究(Bergamaschiら, 2021年, 22, 675, doi:10.1186/s12891-021-04418-0)では、「腰痛を含む慢性筋骨格系疼痛に対しては運動療法や手技療法が有用である可能性が高い」と示されています。この研究は約40件以上の臨床試験を総合的に評価した結果であり、日本を含む世界各地の医療現場で参考にされています。
腰の下から臀部にかけての痛みは危険?
月経や月経前症候群、子宮筋腫などが原因の場合は、軽度の痛みであればそれほど深刻ではないケースが多いと考えられます。ただし、痛みが強くなる・頻度が高まる・長期間続くなど、日常生活に支障をきたすようになった場合は要注意です。
- 立ち上がるのも辛いほど痛い
- 数日~1週間以上経っても症状がまったく改善しない
- 発熱、排尿時の痛み、膣からの異常出血をともなう
こうした場合は重大な病気が隠れている可能性も否定できません。自己判断で解決を図るよりも、専門家の診断を受けるほうが安全です。
改善策と予防法
原因が明確で、比較的軽度の痛みであれば、以下の対策を自宅で試してみることができます。
- 温熱療法: 使い捨てカイロや湯たんぽなどを用い、痛む部位を温めると血行が良くなり、筋肉や靭帯の緊張がやわらぐ場合があります。
- 姿勢に注意: 長時間座りっぱなしの場合は、背筋をのばし、腰の部分にクッションを挟むなどしてサポートします。
- 適度なストレッチや体操: ウォーキングや軽いヨガ、骨盤周辺をほぐすストレッチなどは筋肉の緊張をやわらげ、血流改善に役立ちます。
- 入浴: ややぬるめのお湯にゆっくり浸かることで血行を促進し、痛みやこわばりをやわらげる効果が期待できます。
- 解熱鎮痛薬・抗炎症薬: イブプロフェン、ナプロキセンなどの非ステロイド性抗炎症薬は、自己判断で使用する場合は用法容量を守って短期間にとどめましょう。
- 就寝時の工夫: 仰向けで寝る際には膝下にクッションを置く、横向きで寝る場合は太ももにクッションを挟むことで腰への負担を和らげます。
もし上記のようなセルフケアを1週間ほど継続しても症状がまったく改善しない場合や、痛みが急激に増したり下半身に痺れ・脱力を感じる場合は、ただちに医療機関を受診することが大切です。原因が腎臓や婦人科系疾患である場合は、適切な抗生物質治療や手術を含む専門的アプローチが必要となるケースもあります。
受診を検討すべきサイン
次のような症状や状態がみられる場合、緊急性や重症度が高いおそれがあるため、早めの受診が推奨されます。
- 1週間以上セルフケアを行っても改善がみられない
- 痛みと同時に高熱、悪寒、嘔吐などがある
- 骨盤や脚にしびれや痛みが広がり、歩行困難・立ち上がり困難がある
- 膣出血や帯下の異常がある
- 尿や便のコントロールができない
痛みの原因が特定されれば、薬物療法やホルモン療法、必要に応じた手術、リハビリテーション、運動療法など、適切な治療法を選択できます。早期に適切なケアを受けるほど回復の見込みも高まります。
結論と提言
女性の腰の下から臀部にかけての痛みは、「生理的に起こりやすい一時的なもの」から「子宮筋腫や子宮内膜症、婦人科系感染症などの病気によるもの」まで原因は多岐にわたります。放置して良くなるケースもあれば、早期治療が必要な場合もあるため、痛みが強い、長引く、ほかの症状が伴うなどのサインがあるときは専門医の診断を受けましょう。
日常的なセルフケアとしては、痛みを軽減する温熱療法や姿勢・寝具の工夫、軽度のストレッチやエクササイズが有効とされています。また、妊娠中の腰痛対策にはクッションやサポーターの使用、無理のない範囲での軽い運動が推奨されることが多いです。ただし、何よりも大切なのは自己判断に頼りすぎず、必要に応じて医療機関で検査・治療を受けることです。
本記事は信頼できる情報に基づく参考提供を目的としており、診断や治療を代替するものではありません。痛みや体調不良が続く場合は、必ず医療の専門家へ相談してください。
参考文献
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アクセス日: 14/02/2022 - Uterine fibroids | Office on Women’s Health
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アクセス日: 14/02/2022 - Uterine Fibroids: Symptoms, Causes, Risk Factors & Treatment
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/9130-uterine-fibroids
アクセス日: 14/02/2022 - Kidney Pain Symptoms & Causes | Moffitt
https://moffitt.org/cancers/kidney-renal-cell-cancer/kidney-pain/
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