【科学的根拠に基づく】女性の膀胱炎 完全ガイド|繰り返す痛みと不安に終止符を。原因・症状から最新治療、再発予防の全知識
腎臓と尿路の病気

【科学的根拠に基づく】女性の膀胱炎 完全ガイド|繰り返す痛みと不安に終止符を。原因・症状から最新治療、再発予防の全知識

膀胱炎は、多くの女性が一生に一度は経験すると言われるほど身近な病気です。世界保健機関(WHO)などの報告によると、女性の実に50%から60%が生涯で少なくとも一度は尿路感染症(その多くは膀胱炎)にかかるとされています12。しかし、「よくあること」だからといって軽視してはいけません。排尿時の激しい痛み、頻尿、残尿感といった症状は、日常生活の質を著しく低下させ、仕事や学業、家事に集中できなくなるなど、深刻な影響を及ぼします。さらに、一度かかると再発を繰り返しやすいという厄介な特徴も持っており、初回感染者の約27%が6ヶ月以内に再発するというデータもあります6。この繰り返す痛みと、「またあの症状が…」という不安に、心を悩ませている方も少なくないでしょう。

この記事は、そのような膀胱炎に関するあらゆる悩みや疑問に、科学的根拠に基づいて真正面からお答えするために作成されました。JapaneseHealth.org編集部は、日本国内および国際的な主要学会の最新診療ガイドライン、査読付きの学術論文といった、最も信頼性の高い情報源のみを徹底的に分析・統合しました。本稿を読み進めることで、ご自身の症状を正しく理解し、なぜ膀胱炎が起こるのかという根本原因、日本の標準的な治療法から世界の最新アプローチ、そして何よりも「どうすれば再発を防げるのか」という最も重要な問いに対する、具体的で実践可能な答えを得ることができます。この記事が、あなたの痛みと不安に終止符を打ち、快適な毎日を取り戻すための一助となることを心から願っています。

この記事の科学的根拠

この記事は、JapaneseHealth.orgの編集方針に基づき、明示的に引用された最高品質の医学的根拠にのみ基づいて作成されています。本稿で提示される医学的指導は、以下の主要な情報源に由来しており、それぞれの情報源が持つ専門性と役割を統合したものです。

  • 欧州泌尿器科学会 (EAU): 薬剤耐性を考慮した世界標準の治療薬選択(ホスホマイシン等)、および非抗菌薬による予防法に関する国際的な最善の実践(グローバル・ベスト・プラクティス)の根拠として、本記事の指針となっています1
  • 米国泌尿器科学会 (AUA): 再発性膀胱炎の定義、評価、そして特に科学的根拠の強い非抗菌薬による予防法(例:閉経後女性への膣エストロゲン投与)に関する推奨事項の主要な典拠です2
  • 日本泌尿器科学会 (JUA) / 日本排尿機能学会: 日本の保険診療下における診断基準、標準的な治療薬(ニューキノロン系、セフェム系)、専門医への紹介基準など、国内の標準治療を解説する上での最も重要な基盤です35
  • 日本感染症学会 (JAID) / 日本化学療法学会 (JSC): 日本国内における膀胱炎の主要な原因菌(大腸菌の割合等)や、薬剤感受性の傾向に関するデータを提供し、治療選択の背景を説明する上で不可欠な情報源です4
  • 厚生労働省 (MHLW) / 国立感染症研究所 (NIID): 日本における薬剤耐性(AMR)問題の深刻さを示すため、薬剤耐性サーベイランス(JANIS)の具体的なデータ(例:大腸菌のフルオロキノロン耐性率)を引用しています911

要点まとめ

  • 女性の生涯有病率は50%以上に達し、再発率も高い、非常によくある病気です612
  • 主な原因は、肛門周囲の常在菌である「大腸菌」が尿道から膀胱へ侵入することです4。女性は男性に比べ尿道が短く、解剖学的に感染しやすい構造になっています。
  • 典型的な症状は、排尿時痛、頻尿、残尿感、尿の混濁などです。発熱や背中の痛みを伴う場合は、腎盂腎炎の可能性があり、直ちに医療機関を受診する必要があります。
  • 治療の基本は、原因菌に有効な抗菌薬の服用です。日本のガイドラインではニューキノロン系やセフェム系が推奨されていますが3、国際的には薬剤耐性の観点からホスホマイシンなどが第一選択とされています1
  • 再発予防には、科学的根拠に基づいたセルフケア(十分な水分摂取、性交後の排尿など)と、医学的な予防法(閉経後女性への膣エストロゲン療法など2)を組み合わせることが極めて重要です。

第1章:あなたの症状、本当に膀胱炎?- 正確な自己チェックと鑑別

「排尿の最後にツーンと痛む」「トイレに行ったばかりなのに、またすぐに行きたい」。これらは膀胱炎の典型的なサインですが、似た症状を示す他の病気も存在します。まずはご自身の症状を正しく把握し、適切な対処法を知ることが重要です。

膀胱炎の典型的な症状チェックリスト

急性膀胱炎では、主に以下のような症状が現れます。これらの症状は膀胱に炎症が起きていることを示す「膀胱刺激症状」と呼ばれます。複数が当てはまる場合は、膀胱炎の可能性が高いと考えられます。

  • 排尿時痛:特に排尿の終わり際に感じる、焼けつくような、あるいは刺すような痛みが特徴です。
  • 頻尿:トイレに行く回数が普段より明らかに増えます。30分~1時間おきに尿意を感じることも珍しくありません15
  • 残尿感:排尿後も、まだ尿が膀胱に残っているようなすっきりしない感覚があります。
  • 尿意切迫感:突然、我慢できないほどの強い尿意を感じ、慌ててトイレに駆け込むようになります。
  • 尿の混濁:尿が白く濁ったり、膿のような浮遊物が見られたりします。これは、細菌と戦った白血球が尿に混ざるためです。
  • 血尿:尿に血が混じり、ピンク色や赤色に見えることがあります。目に見えなくても、検査で血が検出される場合もあります。
  • 下腹部痛:膀胱がある下腹部(恥骨の上あたり)に、重い痛みや不快感を感じることがあります。

これは危険信号!すぐに医療機関を受診すべき症状

上記の症状に加えて、以下のような症状が見られる場合は、感染が膀胱から腎臓にまで及んだ「腎盂腎炎(じんうじんえん)」の可能性があります。腎盂腎炎は重症化すると敗血症などを引き起こす危険な状態ですので、夜間や休日であっても、直ちに医療機関を受診してください。

  • 38℃以上の発熱
  • 悪寒・戦慄(ふるえ)
  • 背中や腰の片側、または両側の痛み(叩くと響くような痛み)
  • 吐き気・嘔吐
  • 全身の倦怠感

厚生労働省からの注意喚起
厚生労働省の「重篤副作用疾患別対応マニュアル」においても、発熱、背部痛、悪心・嘔吐を伴う場合は、単純な膀胱炎ではなく、腎盂腎炎などの複雑性尿路感染症の可能性を考慮し、速やかな医療対応が必要であると警告されています910

似ているけど違う病気:過活動膀胱、間質性膀胱炎、性感染症との見分け方

頻尿や尿意切迫感は、他の病気でも見られる症状です。自己判断は禁物ですが、鑑別のためのポイントを知っておくことは大切です。

  • 過活動膀胱(OAB):急な強い尿意(尿意切迫感)が主な症状で、頻尿を伴うこともありますが、通常、排尿時痛や血尿、発熱はありません。原因は膀胱の神経系の過敏性などであり、細菌感染ではありません。
  • 間質性膀胱炎/膀胱痛症候群(IC/BPS):尿が溜まると下腹部が痛み、排尿すると楽になるのが特徴です。頻尿はありますが、細菌感染ではないため尿検査で異常が見つからないことが多く、診断が難しい病気の一つです。
  • 性感染症(STD):クラミジアや淋菌などの感染でも、排尿時痛や頻尿が起こることがあります。おりものの変化や不正出血などを伴う場合は、婦人科での検査が必要です。

第2章:なぜ私ばかり?- 膀胱炎の根本原因を科学的に解明する

「清潔にしているつもりなのに、なぜ何度も繰り返すのだろう?」多くの女性が抱くこの疑問に、科学的な視点からお答えします。膀胱炎の原因は、単に不潔にしているからというわけではありません。

主犯は「大腸菌」:感染経路のメカニズム

膀胱炎の原因となる細菌の約70%~95%は、私たち自身の大腸の中に常に存在している「大腸菌(E. coli)」です412。通常、大腸内にいる限りは無害ですが、何らかのきっかけで肛門から尿道口へ移動し、そこから尿道をさかのぼって膀胱内に侵入(上行性感染)、増殖することで膀胱炎が発症します。これが感染の基本的なメカニズムです。

女性が膀胱炎になりやすい解剖学的な理由

男性に比べて女性が圧倒的に膀胱炎になりやすいのは、体の構造に主な理由があります。

  1. 尿道が短い:女性の尿道は約4~5cmと、男性(約15~20cm)に比べて非常に短いため、細菌が膀胱まで到達しやすいのです。
  2. 尿道口の位置:女性の尿道口は、細菌の温床となりやすい膣や肛門と近接しています。そのため、排便時や性行為時に細菌が尿道口周辺に付着しやすくなります。

日常生活に潜むリスクファクター

解剖学的な特徴に加えて、以下のような要因が組み合わさることで、膀胱炎の発症リスクが高まります。これらのリスク因子は、複数の疫学研究によって指摘されています61314

  • 性行為:性行為は、細菌を尿道口へ移動させる機械的なきっかけとなり、最も重要なリスク因子の一つです。特に新しいパートナーとの性行為や、頻繁な性行為はリスクを高めます。
  • 排尿の我慢:トイレを我慢すると、膀胱内に尿が長時間溜まります。尿自体は無菌ですが、万が一細菌が侵入した場合、増殖する時間を与えてしまいます。
  • 水分摂取不足:水分摂取が少ないと尿量が減り、排尿回数も少なくなります。これにより、膀胱内を洗い流す機会が減り、細菌が定着しやすくなります。
  • 疲労やストレス:過労、睡眠不足、精神的なストレスは、体の免疫力を低下させ、細菌に対する抵抗力を弱めます。
  • 体の冷え:体が冷えることと膀胱炎の直接的な因果関係は科学的に証明されていませんが、冷えによる血行不良が免疫機能に影響を与える可能性は指摘されています。
  • 不適切な排泄後のケア:排便後に後ろから前へ拭くと、肛門の細菌を尿道口へ運んでしまう危険性があります。
  • 閉経:閉経後は、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が減少します。エストロゲンには、膣内の善玉菌(乳酸桿菌)を増やし、病原菌の侵入を防ぐ自浄作用を保つ働きがあります。エストロゲンの減少によりこの作用が弱まるため、感染しやすくなります。

第3章:診断の確定 – 医療機関では何が行われるのか

膀胱炎が疑われる場合、医療機関では症状の問診に加えて、客観的な検査によって診断を確定させます。日本泌尿器科学会のガイドラインでも、適切な診断プロセスの重要性が強調されています3

基本となる検査:尿検査でわかること

最も基本的で重要な検査が尿検査です。採尿した尿を試験紙につけたり、顕微鏡で観察したりします。

  • 尿定性検査(試験紙法):尿中の白血球(炎症のサイン)や亜硝酸塩(細菌が存在するサイン)、潜血(血液の混入)の有無を調べます。数分で結果がわかり、膀胱炎を迅速にスクリーニングできます。
  • 尿沈渣(にょうちんさ)検査:尿を遠心分離機にかけ、沈殿した成分(赤血球、白血球、細菌、細胞など)を顕微鏡で詳しく観察します。白血球や細菌が一定数以上確認されれば、膀胱炎と診断されます。

なぜ尿培養検査が重要なのか?

尿培養検査は、尿の中にいる細菌の種類を特定し、どの抗菌薬が効くか(薬剤感受性)を調べるための非常に重要な検査です。結果が出るまでに数日かかりますが、特に以下のような場合に不可欠です。

  • 症状が非典型的である場合
  • 治療しても症状が改善しない、または再発を繰り返す場合
  • 腎盂腎炎が疑われる場合
  • 妊娠中の場合

この検査により、効果のない抗菌薬を漫然と使い続けることを避け、薬剤耐性菌の出現を防ぎながら、最適な治療法を選択することができます。

繰り返す・治らない場合に検討される精密検査

適切な治療にもかかわらず膀胱炎を繰り返す場合や、他の病気が疑われる場合には、さらに詳しい検査が行われることがあります。

  • 腹部超音波(エコー)検査:腎臓や膀胱の形に異常がないか、尿路結石や残尿(排尿後も膀胱に尿が残ること)の有無などを確認します。体に負担の少ない検査です。
  • 膀胱鏡検査:尿道から細い内視鏡を挿入し、膀胱の内部を直接観察します。膀胱結石、腫瘍、間質性膀胱炎など、他の病気がないかを確認するために行われます。

第4章:膀胱炎の治療法 – 日本の標準治療と世界の最新アプローチ

膀胱炎の治療は、原因となっている細菌を殺菌することが基本です。しかし、どの抗菌薬を選ぶかは、国内外のガイドラインや、世界的に深刻化している薬剤耐性(AMR)の問題を考慮する必要があり、非常に重要な判断となります。

【重要】治療の原則:菌をなくし、症状を和らげる

急性単純性膀胱炎(基礎疾患のない女性の膀胱炎)の治療目標は、抗菌薬によって原因菌を根絶し、つらい症状を速やかに解消することです。通常、適切な抗菌薬を服用し始めると、1~2日で症状は劇的に改善します。しかし、症状が楽になったからといって自己判断で服用を中止すると、菌が生き残り、再発や薬剤耐性菌の原因となるため、処方された抗菌薬は必ず最後まで飲み切ることが絶対的に重要です。

日本の診療ガイドラインが推奨する標準治療(抗菌薬)

日本泌尿器科学会(JUA)や日本感染症学会(JAID)の診療ガイドラインでは、急性単純性膀胱炎に対して、主に以下の抗菌薬が推奨されています34

  • ニューキノロン系抗菌薬(例:レボフロキサシン):幅広い細菌に有効で、かつては第一選択薬とされていました。通常、3~5日間服用します。
  • 経口第3世代セフェム系抗菌薬(例:セフジトレン ピボキシル):こちらも有効性の高い薬で、7日間程度の服用が一般的です。

知っておくべき薬剤耐性(AMR)の問題

非常に重要な点として、近年、これらの推奨薬に対する大腸菌の薬剤耐性が世界的に、そして日本国内でも深刻な問題となっています。厚生労働省の薬剤耐性サーベイランス(JANIS)によると、2021年の時点で、尿から分離された大腸菌のうち40%以上がニューキノロン系抗菌薬に耐性(薬が効かない)を示しています11。これは、ニューキノロン系を服用しても、約半数のケースで効果が期待できない可能性があることを意味します。このような背景から、治療を開始する前の尿培養検査で薬剤感受性を確認することの重要性が増しています。

【国際標準】世界のトップガイドラインが推奨する治療法

薬剤耐性の世界的な拡大を受け、海外の主要なガイドラインでは、治療薬の選択基準が大きく変化しています。欧州泌尿器科学会(EAU)の最新ガイドラインでは、耐性化率が低い以下の抗菌薬が第一選択として強く推奨されています17

  • ホスホマイシン:単回投与(1回飲むだけ)で治療が完了するため、飲み忘れがなく確実性が高いのが特徴です。
  • ニトロフラントイン:5日間の服用が標準です。腸内細菌叢への影響が少ないとされています。
  • ピブメシリナム:3~5日間の服用が標準です。耐性菌の出現が非常に少ないことが知られています。

日本の治療法との違いと、その背景

残念ながら、これらの国際的な第一選択薬のうち、ピブメシリナムは日本では承認されておらず、ホスホマイシンやニトロフラントインも膀胱炎治療の第一線で広く使われているとは言えないのが現状です618。この違いは、各国の保険制度や薬剤の承認状況、そして過去の処方慣行などが影響しています。しかし、ご自身の治療法を考える上で、このような世界標準の治療選択肢が存在することを知っておくことは非常に有益です。

症状を和らげる対症療法

抗菌薬が効果を発揮するまでの間、つらい痛みを和らげるために鎮痛薬(非ステロイド性抗炎症薬:NSAIDsなど)が処方されることがあります。ただし、これはあくまで症状を抑えるためのものであり、原因菌をなくすことはできないため、必ず抗菌薬と併用する必要があります。

市販薬や漢方薬で対応できる?その限界と注意点

薬局で購入できる市販薬には、抗菌作用を持つ成分を含むものもありますが、医療用医薬品に比べて効果が限定的であったり、原因菌に適合しなかったりする可能性があります。安易な使用は、症状の悪化や治療の遅れにつながる危険性があります。
漢方薬(例:猪苓湯、五淋散)は、頻尿や排尿時痛などの症状を緩和する目的で用いられることがありますが、細菌を直接殺す作用はありません。日本のガイドラインでも、漢方薬は標準的な抗菌薬治療に代わるものではないと位置づけられています5。膀胱炎が疑われる場合は、自己判断で市販薬や漢方薬に頼るのではなく、まずは医療機関を受診し、正確な診断を受けることが原則です。


第5章:【最重要】再発させないための完全予防戦略

膀胱炎の治療で最も重要かつ困難な課題は、再発の予防です。一度治っても、生活習慣や体質によっては何度も繰り返してしまい、そのたびに心身ともに大きな負担となります。ここでは、科学的根拠に基づいた、最も効果的な予防戦略を包括的に解説します。

科学的エビデンスに基づく「セルフケア」ベストプラクティス

日々の生活の中で意識的に行うセルフケアは、再発予防の基本であり、多くの研究でその有効性が支持されています1417

  • 水分摂取と排尿のゴールデンルール:
    • 十分な水分摂取:1日に1.5リットルから2リットルの水分(水やお茶)をこまめに摂取し、尿量を増やすことを目指します。これにより、膀胱内を頻繁に洗い流し、細菌が定着するのを物理的に防ぎます。
    • 排尿を我慢しない:尿意を感じたら、すぐにトイレに行く習慣をつけましょう。膀胱内に細菌が増殖する時間を与えないことが重要です。
  • 性交後のケア:専門家が推奨する具体的な方法:
    • 性交後の速やかな排尿:性行為は細菌を尿道口に押し上げる最大のきっかけです。性交後、できるだけ速やかに(理想は15分以内に)排尿することで、尿道に入り込んだ可能性のある細菌を洗い流す効果が期待できます。これは、多くのガイドラインで推奨されている非常に重要な習慣です2
  • 正しいデリケートゾーンの洗浄方法と下着選び:
    • 拭き方:排便後は、必ず「前から後ろ」へ拭き、肛門の細菌が尿道口に付着するのを防ぎます。
    • 洗浄:デリケートゾーンを洗いすぎると、常在菌のバランスが崩れて逆に感染しやすくなることがあります。石鹸の使用は最小限にし、ぬるま湯で優しく洗い流す程度にしましょう。温水洗浄便座のビデ機能の使いすぎにも注意が必要です。
    • 下着:通気性の良い綿素材の下着を選び、湿った状態が続かないようにすることが推奨されます。

【非抗菌薬療法】繰り返す膀胱炎への新たな選択肢

セルフケアを徹底しても再発を繰り返す場合(米国泌尿器科学会の定義では「6ヶ月に2回以上、または1年間に3回以上」2)、医学的な予防法を検討します。近年、抗菌薬を長期間使用することによる薬剤耐性のリスクを避けるため、非抗菌薬による予防法が世界的に注目されています。

  • 閉経後の女性へ:膣エストロゲン療法の強力な効果:閉経後の再発性膀胱炎に対して、米国泌尿器科学会(AUA)のガイドラインでは、禁忌がない限り「膣エストロゲン療法」が強く推奨されています(推奨度B)28。これは、エストロゲンを含むクリームや錠剤を膣内に直接投与する方法です。女性ホルモンを局所的に補充することで、膣内の善玉菌である乳酸桿菌を増やし、膣の自浄作用を回復させ、大腸菌などの悪玉菌が繁殖しにくい環境を作ります。全身への影響はほとんどなく、安全性の高い予防法とされています。
  • クランベリー製品、D-マンノースは本当に効くのか?:クランベリーに含まれるプロアントシアニジンという成分が、大腸菌が膀胱の壁に付着するのを防ぐ効果があると考えられています。複数の研究が行われていますが、その有効性に関する結論はまだ一貫していません。AUAガイドラインでは、患者への選択肢として提供することはできるが、強く推奨はしない、という位置づけです2。D-マンノースという糖の一種も同様のメカニズムで注目されていますが、こちらも質の高い研究データはまだ限定的です。
  • メテナミンとは? – 専門家が注目する予防薬:メテナミンは、尿が酸性の場合にホルムアルデヒドに分解され、それが殺菌作用を示すというユニークな薬剤です。抗菌薬ではないため、薬剤耐性の心配がありません。海外では予防薬として使用されていますが、日本では保険適用外です。
  • 抗菌薬による長期予防:最終手段としての選択:非抗菌薬療法で効果が見られないなど、やむを得ない場合には、少量の抗菌薬を長期間(数ヶ月~1年程度)毎日服用する方法や、性交後に1回だけ服用する方法があります。これは薬剤耐性のリスクを伴うため、専門医がその利益と不利益を慎重に判断した上で行う最終手段です2

第6章:特定の状況における注意点

膀胱炎は誰にでも起こりうる病気ですが、特定の状況下では、より慎重な対応が求められます。

妊娠中の膀胱炎:母子への影響と安全な治療

妊娠中は、大きくなった子宮が膀胱を圧迫したり、ホルモンの影響で尿の流れが滞りやすくなったりするため、膀胱炎になりやすく、さらに腎盂腎炎へと進行しやすい状態です。妊娠中の腎盂腎炎は、早産や低出生体重児のリスクを高めることが知られています4。そのため、妊娠中の膀胱炎は症状がなくても(無症候性細菌尿)、治療の対象となることがあります。治療には、胎児への安全性が確認されているセフェム系やペニシリン系の抗菌薬が慎重に選択されます。妊娠中や妊娠の可能性がある場合は、必ず医師にその旨を伝えてください。

高齢者の膀胱炎:非典型的な症状と重症化リスク

高齢者の場合、排尿時痛や頻尿といった典型的な症状が現れにくく、代わりに「なんとなく元気がない」「食欲がない」「失禁が増えた」「せん妄(意識の混乱)」といった非典型的な症状で発症することがあります4。本人や家族が気づかないうちに腎盂腎炎や、さらに重篤な敗血症へと進行するリスクが高いため、普段と様子が違うと感じたら、早めに医療機関に相談することが重要です。加齢や基礎疾患により免疫力が低下しているため、より慎重な管理が求められます。

糖尿病を持つ方の膀胱炎管理

糖尿病の方は、高血糖の状態が続くと、細菌に対する体の防御機能が低下します。また、尿中に糖が多く含まれるため、細菌が繁殖しやすくなります。さらに、神経障害によって膀胱に尿が残りやすくなる(神経因性膀胱)こともあり、膀胱炎を発症しやすく、かつ重症化しやすい傾向にあります。日頃からの良好な血糖コントロールが、膀胱炎を含む感染症予防の基本となります。


結論:正しい知識で膀胱炎をコントロールし、快適な毎日を取り戻す

女性の膀胱炎は、多くの人が経験する身近な病気でありながら、その痛みや頻繁な再発は、生活の質を大きく損なう深刻な問題です。本記事では、国内外の最新の科学的根拠に基づき、その原因から診断、そして日本の標準治療と世界の最新アプローチ、さらには最も重要な再発予防戦略までを包括的に解説しました。

重要なのは、膀胱炎を「ただの風邪のようなもの」と軽視せず、正確な知識を持つことです。なぜ女性に多いのかという解剖学的な理由、大腸菌という身近な原因菌の存在、そして性行為や生活習慣といった具体的なリスク因子を理解することで、日々のセルフケアの重要性が見えてきます。特に、十分な水分摂取や性交後の排尿といった簡単な習慣が、再発予防の強力な武器となり得ます。

また、治療においては、薬剤耐性という世界的な課題を認識し、国際的なガイドラインがどのような治療を推奨しているかを知ることも、ご自身の治療法を主体的に考える上で非常に有益です。そして、セルフケアだけでは防ぎきれない再発に対しては、閉経後の膣エストロゲン療法など、科学的根拠のある医学的予防法が存在することも知っておいてください。

もしあなたが今、膀胱炎の症状に悩んでいる、あるいは繰り返す再発に心を痛めているのであれば、決して一人で抱え込まないでください。この記事で得た知識を基に、ぜひお近くの医師、あるいは泌尿器科の専門医に相談してみてください。正しい知識は、不安を和らげ、適切な行動へと導く最も確かな羅針盤です。あなたの毎日が、膀胱炎の悩みから解放され、より快適で健やかなものになることを、JAPANESEHEALTH.ORG編集部一同、心より願っています。

よくある質問

Q1. 膀胱炎は自然に治りますか?

ごく軽症の場合、体の免疫力と十分な水分摂取による洗い出し効果で、まれに自然治癒することもあります。しかし、ほとんどの場合は原因菌を殺菌するための抗菌薬治療が必要です。自己判断で放置すると、症状が悪化したり、腎盂腎炎などの重篤な状態に進行したりする危険性があります。また、不完全な治療は再発や薬剤耐性菌の原因にもなりますので、症状があれば必ず医療機関を受診することが原則です15

Q2. パートナーにうつりますか?

膀胱炎は、風邪のように空気感染したり、性行為によって直接パートナーに「うつす」病気ではありません。原因は主に自分自身の腸内にいる大腸菌です。したがって、パートナーが膀胱炎になる心配は基本的にありません。ただし、性行為が細菌を尿道へ押し上げるきっかけになることは事実ですので、予防のためのケアは重要です。

Q3. 治療中に性行為はできますか?

治療中は、膀胱や尿道に炎症が起きている非常にデリケートな状態です。性行為による物理的な刺激は、症状を悪化させたり、治癒を遅らせたりする可能性があります。また、新たな細菌が侵入するリスクも考えられます。症状が完全になくなり、医師から許可が出るまでは、性行為は控えるのが賢明です。

Q4. どの診療科を受診すればよいですか?

膀胱炎の専門診療科は「泌尿器科」です。しかし、女性にとっては泌尿器科の受診に抵抗がある場合も多く、まずは「内科」やかかりつけの「婦人科」で相談することも可能です。多くの内科や婦人科で初期対応が可能です。ただし、再発を繰り返す場合や、症状が長引く場合には、専門的な検査や治療が必要になることがあるため、泌尿器科の受診が推奨されます3

免責事項本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスを構成するものではありません。健康に関する懸念がある場合、またはご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

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