この記事の科学的根拠
この記事は、提供された調査報告書に明示的に引用されている最高品質の医学的証拠にのみ基づいています。以下に、本記事で提示される医学的指針に直接関連する主要な情報源をリストアップします。
- 日本周産期・新生児医学会(JSPNM)および関連学会: 本記事における「妊娠中のオーラルセックスは避けるべき」という中核的な推奨事項は、同学会らが発行した公式ガイドライン「赤ちゃんとお母さんの感染予防対策5ヶ条」に基づいています1。
- 国立感染症研究所(NIID): 日本における梅毒を含む性感染症の増加傾向、特に妊婦における梅毒報告数の具体的なデータは、同研究所が公開する最新の統計に基づいています2。これは、日本の専門家が慎重な姿勢を取る背景にある最も重要な疫学的証拠です。
- メイヨー・クリニック(Mayo Clinic)および米国産科婦人科学会(ACOG): 国際的な見解を比較検討するため、これらの権威ある海外機関のガイドラインを引用しています34。これにより、なぜ日本の推奨が異なるのかを多角的に解説しています。
- 宋美玄医師(産婦人科医): オーラルセックスによって感染しうる具体的な性感染症の種類やその危険性に関する専門的な解説は、同医師の見解を引用しています5。
要点まとめ
結論から:日本の専門家は「慎重な姿勢」を強く推奨
早速、核心に触れます。現在、日本の主要な医療専門機関は、妊娠中のオーラルセックスに対して「避けるべき」という一貫した慎重な立場を取っています。これは憶測や個人の意見ではなく、複数の権威ある学会が共同で発表した公式な見解です。日本周産期・新生児医学会(JSPNM)や日本産科婦人科学会(JSOG)などが参加して策定されたガイドライン「赤ちゃんとお母さんの感染予防対策5ヶ条」には、以下のように明確に記されています。
「妊娠中の性生活ではコンドームを着用し、オーラルセックスは避けましょう。」1
この一文は、胎児の安全を最優先に考える日本の医療現場の姿勢を端的に示しています。では、なぜ海外の情報とは異なり、日本の専門家はこれほどまでに慎重なのでしょうか。その背景には、無視できない複数の医学的危険性が存在します。
なぜ日本の専門家は慎重なのか?背景にある3つの重大な危険性
日本の専門家による推奨は、決して過剰な心配から来ているわけではありません。それは、科学的データと臨床経験に基づいた、母子を守るための合理的な判断です。主な理由は以下の3点に集約されます。
危険性1:深刻化する性感染症(STI)-見過ごせない最大の懸念
妊娠中のオーラルセックスにおける最大の危険性は、性感染症(Sexually Transmitted Infections, STI)の伝播です。産婦人科医であり、女性の性の健康に関する専門家である宋美玄医師によると、クラミジア、梅毒、淋病、ヘルペスといった病原体は、症状がなくても口腔と性器の接触によって容易に感染する可能性があります5。これらの感染症が母体を通じて胎児に影響を与えた場合、流産、早産、あるいは先天異常といった深刻な事態を招くことがあります。
特に懸念される梅毒の国内急増データ
このSTIへの懸念が、なぜ今、特に重要視されているのか。その答えは、日本の公衆衛生データの中にあります。厚生労働省の発表によると、日本の梅毒報告数は2021年以降急増し、憂慮すべき社会問題となっています7。さらに深刻なのは、妊婦への影響です。国立感染症研究所(NIID)の報告によれば、2023年には、妊娠している女性で梅毒と診断されたケースが383件にも上りました。これは前年比で1.4倍の増加であり、危険性が理論上の話ではなく、現実の差し迫った脅威であることを示しています2。先天梅毒として胎児に感染すると、重い後遺症を残す危険性があるため、専門家が「予防」を強く訴えるのは当然の帰結と言えるでしょう。
危険性2:空気塞栓症(極めて稀だが致死的)
もう一つの危険性として、頻度は極めて稀であるものの、致死的な結果を招きうる「空気塞栓症」が挙げられます。これは、オーラルセックスの際に膣内に強く空気を吹き込むことで、空気が母体の血管内に入り込み、血流を妨げてしまう状態です。血管が詰まることで、母子ともに命に関わる深刻な事態に陥る可能性があります。米国の医学会では、実際にこの行為が原因とされる症例報告が存在します6。発生確率は非常に低いとされていますが、万が一のリスクを考慮すれば、避けるべき行為であるという専門家の判断は妥当です。
危険性3:その他の感染症と子宮収縮への影響
妊娠中は免疫機能が通常時と変化するため、普段なら問題にならないような細菌でも感染症を引き起こしやすくなります。口腔内の常在菌が原因で膣炎や子宮内感染を起こす可能性もゼロではありません。また、精液に含まれるプロスタグランジンという物質には子宮を収縮させる作用があるため、特に妊娠後期や切迫早産のリスクがある場合には、理論上、早産を誘発する引き金になりうると指摘されています8。
国際的な見解との比較:なぜ日本のアドバイスは異なるのか?
「でも、海外のサイトでは安全だと書いてあった」という疑問を持つ方も多いでしょう。確かに、米国のメイヨー・クリニックのような権威ある医療機関は、「合併症のない健康な妊娠であれば、一般的にオーラルセックスは安全」との見解を示しています3。では、なぜ日本と海外でこれほど見解が異なるのでしょうか。
この違いは、医学的な正誤の問題ではなく、危険性管理(リスクマネジメント)の哲学の違いに起因します。海外のガイドラインは、個々の危険性(例えば、パートナーがSTIを持っていないことの確認)を管理できれば許容できる、というアプローチを取ることが多いです。一方で、日本の専門家は、前述した国内での梅毒の急増といった公衆衛生上の現実を重く見ています。検査で陰性が確認されていても、無症状の感染や検査の「ウィンドウピリオド(感染してから陽性反応が出るまでの期間)」も考慮すると、「万が一の危険性を完全にゼロにすることは難しい」という考えに至ります。そのため、胎児への影響が不可逆的である可能性を鑑み、予防可能な危険性は最大限排除すべきだという「予防最優先」の立場から、「避けるべき」というより安全側に立った推奨を行っているのです。
安全なマタニティライフのために:性生活に関する一般的な注意点
オーラルセックスに限らず、妊娠中の性生活全般においては、注意すべき点がいくつかあります。米国産科婦人科学会(ACOG)などの国際的なガイドラインでも、以下のような場合はいかなる性行為も避けるべきとされています4。
- 原因不明の性器出血がある場合
- 羊水が漏れ出している(破水している)場合
- 前置胎盤(胎盤が子宮の出口を塞いでいる状態)と診断されている場合
- 切迫早産のリスクが高いと診断されている場合
- 子宮頸管無力症の既往歴がある場合
これらのいずれかに該当する場合、または少しでも不安がある場合は、自己判断せず必ずかかりつけの医師に相談してください。
パートナーとの絆を深めるために:安全な愛情表現の代替案
性的な親密さだけが、パートナーとの絆を深める方法ではありません。特に妊娠中は、身体的な接触や精神的なつながりを大切にすることが、より重要になる時期でもあります。オーラルセックスを避ける代わりに、以下のような方法で愛情を表現し、絆を育むことができます9。
- ハグやキス
- 手をつなぐ、腕を組む
- お互いにマッサージをし合う(特に足や肩など、お腹に負担のかからない部位)
- お腹の赤ちゃんに向けて一緒に話しかける
- 将来の家族について語り合う時間を持つ
大切なのは、お互いの気持ちや不安を率直に話し合い、二人にとって最も心地よく、そして何よりも安全な方法で愛情を確認し合うことです。
よくある質問
Q1: 妊娠中に精液を飲み込んでも安全ですか?
パートナーが性感染症に罹患していないことが確実に分かっていれば、精液(主成分はタンパク質)を飲み込むこと自体に害はありません。しかし、最大の懸念は、パートナーが無症状であってもSTIの病原体を持っている可能性です。その場合、口腔粘膜を通じて感染する危険性が残るため、日本の専門家が推奨する「オーラルセックスを避ける」という考え方に従えば、精液を飲み込む行為も避けるべきと言えます。
Q2: オーラルセックスが原因で流産することはありますか?
オーラルセックスという行為自体が、健康な妊娠において直接的に流産を引き起こすことは通常ありません。しかし、もしこの行為によって母体が深刻な感染症(例えば、絨毛膜羊膜炎など)にかかったり、梅毒のようなSTIに感染したりした場合、それらの合併症が流産や早産のリスクを高める可能性があります。危険性は行為そのものではなく、それに伴う「感染」にあると理解することが重要です。
Q3: どの時期ならオーラルセックスをしても良いですか?
日本の専門家による「避けるべき」という推奨は、特定の妊娠週数に限定されたものではなく、妊娠期間全体に適用されます。なぜなら、性感染症の感染リスクは妊娠初期、中期、後期いずれの時期においても存在するからです。したがって、特定の時期であれば安全という考え方はせず、妊娠が判明した時点から出産後まで、慎重な姿勢を保つことが推奨されます。
結論
妊娠中のオーラルセックスに関する様々な情報を整理すると、科学的根拠に基づいた結論は明確です。それは、「日本の公衆衛生状況を考慮すると、胎児への潜在的な危険性を完全に排除するため、オーラルセックスは妊娠期間中を通じて避けることが最も賢明な選択である」ということです。これは、日本周産期・新生児医学会をはじめとする専門機関の一貫した推奨です1。その背景には、特に深刻化している梅毒などの性感染症から母子を守るという、予防医療の観点からの強い意志があります2。
この記事で提供した情報は、皆様が医学的な知識に基づいて判断を下すための一助となることを目的としています。しかし、最終的な判断は、個々の健康状態や状況によって異なります。あなたと、そしてこれから生まれてくる赤ちゃんにとって最も安全な選択をするために、どうか一人で悩まず、次の妊婦健診の際にでも、かかりつけの医師や助産師に率直に相談してみてください。専門家との対話こそが、不安を安心に変える最も確実な一歩です。
参考文献
- 日本周産期・新生児医学会, 日本産科婦人科学会, 他. 赤ちゃんとお母さんの感染予防対策5ヶ条. 2013年5月 [引用日: 2025年7月21日]. Available from: https://www.jspnm.com/topics/data/topics20130515.pdf
- 国立感染症研究所 感染症疫学センター. 日本の梅毒症例の動向について. 感染症発生動向調査週報 (IDWR). 2024年1月5日 [引用日: 2025年7月21日]. Available from: https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/idwr/article/syphilis/030/index.html
- Mayo Clinic Staff. Sex during pregnancy: What’s OK, what’s not. Mayo Clinic. 2024年7月24日 [引用日: 2025年7月21日]. Available from: https://www.mayoclinic.org/healthy-lifestyle/pregnancy-week-by-week/in-depth/sex-during-pregnancy/art-20045318
- American College of Obstetricians and Gynecologists (ACOG). Sex During Pregnancy (FAQ034). 2022年 [引用日: 2025年7月21日]. Available from: https://www.acog.org/womens-health/faqs/sex-during-pregnancy
- Song, M. 妊娠中にフェラチオすると何が危険なの?【産婦人科医監修】. マイナビ子育て. 2024年3月5日 [引用日: 2025年7月21日]. Available from: https://kosodate.mynavi.jp/articles/15370
- Manababy. 妊娠中のオーラルセックスは可能?. [引用日: 2025年7月21日]. Available from: https://manababy.jp/lecture/view/365/
- 厚生労働省. 梅毒報告数の動向. [引用日: 2025年7月21日]. Available from: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/seikansenshou/syphilis.html
- ベネッセウィメンズパーク. 【医師監修】妊娠中のセックスはどこまでOK? 性行為の頻度や気…. [引用日: 2025年7月21日]. Available from: https://st.benesse.ne.jp/ninshin/content/?id=20312
- ゼクシィBaby. 妊娠中のセックス、してもいい?. [引用日: 2025年7月21日]. Available from: https://zexybaby.zexy.net/article/contents/0035/