妊娠中に接種すべきワクチン【2025年最新版】インフルエンザ・百日せき・RSウイルスから赤ちゃんを守る母子免疫ガイド
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妊娠中に接種すべきワクチン【2025年最新版】インフルエンザ・百日せき・RSウイルスから赤ちゃんを守る母子免疫ガイド

妊娠、おめでとうございます。新しい命の誕生を心待ちにするこの特別な時期は、期待に胸がふくらむ一方で、ご自身の体やお腹の赤ちゃんの健康について、不安や疑問が尽きない時期でもあります。とくに「感染症からどう守ればよいのか」「妊娠中にワクチンを打っても本当に大丈夫なのか」といったテーマは、多くの妊婦さんが共通して抱える大きな関心事です。

現代の予防接種戦略の中心には、「母子免疫(maternal immunization)」という非常に重要で前向きな考え方があります12。妊娠中に母親がワクチンを接種することで、お母さん自身が感染症から守られるだけでなく、その抗体が胎盤を通じて赤ちゃんへと受け継がれます。人生でもっとも免疫が未熟で無防備な生後数か月間に、赤ちゃんを守る「最初の贈り物」となる、積極的な防御戦略です。世界保健機関(WHO)3や米国疾病予防管理センター(CDC)4などの国際的な保健機関もその有効性を認めており、世界的なコンセンサスとなっています。

本稿は、日本の妊婦さんにとって実用的で包括的かつ最新のガイドとなることを目指し、厚生労働省や日本産科婦人科学会、日本小児科学会などの国内の権威ある機関の最新情報・ガイドラインに基づき、2024年に承認されたRSウイルス母子免疫ワクチンを含む、妊娠中や妊娠前に推奨される主なワクチンについて、その必要性・安全性・最適な接種時期を、科学的根拠とともに丁寧に解説します。

要点まとめ

  • 妊娠中のワクチン接種は、母親自身を重症化から守ると同時に、胎盤を通じて赤ちゃんに抗体を渡すことで、生後数か月間の赤ちゃんを感染症から守る「母子免疫」が最大の目的です。
  • 日本では「インフルエンザ」「三種混合(百日せき予防)」「RSウイルス」「新型コロナウイルス」など、妊婦への接種が推奨または積極的な検討対象とされるワクチンがあります。とくに百日せきとRSウイルスは、新生児に重い経過をとりやすいため重要です。
  • 新生児の命を脅かす百日せきを防ぐ三種混合ワクチンと、重い肺炎や細気管支炎の原因となるRSウイルスを防ぐワクチンは、「生後すぐから数か月間」の赤ちゃんを守るうえで極めて重要な選択肢です。
  • 風しん(MRワクチン)や水痘(みずぼうそう)のように、妊娠中ではなく妊娠前に接種を完了しておくべき生ワクチンもあります。これらは妊娠中の感染が胎児に深刻な影響を与えうるため、事前の計画が不可欠です。
  • 妊娠中に推奨されるワクチン(不活化ワクチン、トキソイド、組換えワクチン、mRNAワクチン)は、大規模なデータと長年の使用経験により安全性が確認されています。副反応への不安がある場合も、妊婦健診の場で主治医と相談しながら、一人一人に合った接種計画を立てることができます。

妊娠中のワクチン接種の基本原則

具体的なワクチンごとの説明に入る前に、「妊娠中にどの種類のワクチンが打てて、どれは打てないのか」「どのタイミングを意識すればよいのか」といった基本的な考え方を整理しておきましょう。全体像が見えていると、あとで出てくる個別の情報も理解しやすくなります。

妊娠中に接種できるワクチンと、原則避けるワクチン

妊娠中に推奨されるワクチンの多くは、「不活化ワクチン」「トキソイド」「組換えワクチン」「mRNAワクチン」など、生きた病原体を使わないタイプです。これらは長年の使用経験や大規模なデータに基づき、妊娠中の接種でも母体・胎児への安全性が高いと評価されています。

一方、「生ワクチン(風しん・麻しん・水痘など)」は、毒性を弱めた生きたウイルスを使うため、理論的なリスクを完全に否定できません。そのため、妊娠中の接種は原則として行わず、「妊娠前に接種を済ませておく」ことが基本になります。本記事でも後半で詳しく触れますが、妊娠前の風しん対策や水痘ワクチンは、将来の赤ちゃんを守るうえで非常に重要な準備です。

接種タイミングを考えるときのポイント

妊娠中のワクチンは、「いつでも同じ」というわけではありません。ワクチンの種類によって、母子免疫を最大限に生かせるタイミングが異なります。たとえば百日せきやRSウイルスを防ぐワクチンは、赤ちゃんが生まれてくる直前の数週間に母体の抗体を十分高めておくことで、出生直後からの防御力を高めることができます。一方でインフルエンザやCOVID-19のように、母体の重症化を防ぐことが主な目的のワクチンは、流行期に間に合うことが大切です。

どのタイミングが適切かは、妊娠週数や基礎疾患、地域での流行状況によっても変わります。ワクチンごとの推奨時期は表や各セクションで解説しますが、最終的には妊婦健診の場で主治医と相談し、「自分の妊娠経過・体調・生活環境」に合わせて具体的なスケジュールを決めていきましょう。

妊娠中に接種が推奨・積極的に検討されるワクチン

日本において、すべての妊婦さんがその恩恵を最大限に受けるために、接種が推奨あるいは積極的な検討対象となっているワクチンがあります。これらのワクチンは、母体と胎児(そして出生後の赤ちゃん)の双方を守るという明確な目的を持っており、その安全性と有効性は国内外の多くの研究と臨床経験によって裏付けられています。まず全体像をつかみやすいように、主なワクチンを一覧表にまとめます。

妊娠中に推奨される/積極的に検討されるワクチン一覧
ワクチン名 接種目的 推奨時期 ワクチンの種類
インフルエンザ 妊婦の重症化予防・新生児の感染予防 流行期間中いつでも(妊娠週数を問わず) 不活化ワクチン
三種混合 (DPT/DTaP) 新生児の百日せき重症化予防(母子免疫) 妊娠27~36週 不活化ワクチン/トキソイド
RSウイルス (アブリスボ®) 新生児の重症肺炎・細気管支炎予防(母子免疫) 妊娠24~36週 組換えワクチン
新型コロナウイルス (COVID-19) 妊婦の重症化予防・必要に応じた母子免疫 妊娠期間中いつでも(リスクに応じて検討) mRNAワクチン

1. インフルエンザワクチン:妊婦自身の重症化を防ぎ、赤ちゃんも守る

妊娠中はホルモンバランスの変化や循環動態の変化により、インフルエンザウイルスに感染すると、非妊娠時と比較して肺炎などの合併症を引き起こしやすく、重症化するリスクが高まることが知られています56。日本産科婦人科学会(JSOG)は、このリスクを軽減するため、流行期間中における妊婦へのインフルエンザワクチン接種を推奨しています7

ワクチンを接種することで、まず母体自身が重症化から守られます。さらに、母親が獲得した抗体は胎盤を通じて胎児に移行し、生後6か月までの乳児をインフルエンザ感染から守る効果も期待できます1。乳児は生後すぐには自分でインフルエンザワクチンを接種できないため、「お母さんが先にワクチンを受けておく」ことが、赤ちゃんにとっての重要なバリアになります。

インフルエンザワクチンは長年にわたり世界中の妊婦に使用されてきた歴史があり、その安全性は高く評価されている不活化ワクチンです。妊娠初期・中期・後期を問わず接種可能とされており、流行期に入る前、あるいは流行期の早い段階で受けておくと安心です。職場や保育園・学校に上のお子さんがいるご家庭では、家庭内での持ち込みリスクが高くなるため、とくに意義が大きいと考えられます。

2. 三種混合ワクチン(DPT/DTaP):赤ちゃんの命を脅かす「百日せき」を防ぐ

三種混合ワクチンは、生まれてくる赤ちゃんの命を守るために、現代の周産期医療において最も重要なワクチンの一つと言っても過言ではありません。百日せきは、特有のけいれん性の咳発作を特徴とする呼吸器感染症ですが、ワクチン未接種の生後6か月未満の乳児が感染すると、無呼吸発作や肺炎、脳症などを引き起こし、命を落とすこともある非常に危険な病気です89。国立感染症研究所(NIID)のデータによれば、百日せきによる死亡例の多くは生後6か月未満の乳児で占められています8。日本の小児科学会の報告でも、2018年から2020年の間に1,398人の生後6か月未満の乳児が百日せきと診断されており、決して稀な病気ではないことがわかります10

さらに近年、日本小児科学会は、国内での百日せき患者数の増加と、治療薬であるマクロライド系抗菌薬に対する耐性菌の出現に警鐘を鳴らしており、予防の重要性はこれまで以上に高まっています11。この喫緊の課題に対する最も有効な解決策の一つが、妊娠中の母親への三種混合ワクチン(DPT/DTaP)接種です。

日本産科婦人科学会や多くの専門機関は、妊娠27週から36週の間に接種することで、母親の体内で作られた抗体が効率よく胎児へ移行し、赤ちゃんが自身の予防接種を開始できる生後2か月までの最も危険な期間、百日せきから守られるとして、この時期の接種を推奨しています112。とくに、家族内・兄弟間で百日せきが広がることもあるため、妊婦さん自身の接種に加えて、パートナーや同居家族のワクチン歴を確認し、必要に応じて成人向け百日せき含有ワクチンを検討する「コクーニング(周囲ごと守る)」という考え方も重要です。

日本のワクチン史においては、1975年に起きたワクチン禍により一時的に接種が中断され、その結果として百日せきが再流行し多くの幼い命が失われたという痛ましい歴史があります8。この歴史的教訓は、「安全性への慎重な目線を持ちつつも、科学的根拠に基づく予防接種を適切に行うこと」の重要性を、今に伝えています。

3. RSウイルスワクチン(アブリスボ®):新生児の肺炎を防ぐ最新の選択肢

RSウイルスは、乳幼児における肺炎や細気管支炎の主な原因であり、特に生後数か月の赤ちゃんにとっては大きな脅威です13。日本の2歳未満のRSウイルス感染児のうち、約25%が入院を要するという国内のデータベース研究の報告もあり14、その負担の大きさがうかがえます。入院した乳児の中には、無呼吸発作や急性脳症など、生命に関わる合併症を起こすケースも報告されています。

この脅威から赤ちゃんを守るため、2024年1月に日本で画期的な新しいワクチンが承認されました。それが、母子免疫を目的としたRSウイルスワクチン「アブリスボ®」です15。このワクチンは、妊婦さんが接種することで体内に作られた抗体が胎盤を通じて赤ちゃんに移行し、新生児のRSウイルスによる重症化(主に下気道疾患)を防ぎます。

日本小児科学会は、このワクチンの承認を受け、「妊婦への能動免疫による新生児及び乳児におけるRSウイルスによる下気道疾患の予防」を目的として、妊娠24週から36週の妊婦に接種する選択肢が加わったことの意義を強調する声明を発表しました15。厚生労働省もこのワクチンを正式に承認しており16、母子免疫における最新かつ強力な武器と言えるでしょう。

RSウイルスワクチンは「新しいワクチン」であるがゆえに、不安を感じる妊婦さんも少なくありません。その場合は、妊婦健診の際に「自分や家族の生活環境(上の子の有無、保育園通園の有無、冬の時期の通勤状況など)」を具体的に伝え、「自分の場合に接種した場合としない場合のメリット・デメリット」を医師と一緒に整理してもらうと、納得感を持って選択しやすくなります。

4. 新型コロナウイルスワクチン(COVID-19):流行状況・持病に応じて検討する

妊娠中に新型コロナウイルス(COVID-19)に感染すると、非妊娠時に比べて重症化するリスクが高いことや、早産のリスクが高まる可能性が報告されています。これまでの多くの研究から、妊娠中のmRNAワクチン接種が母体や胎児に明らかな悪影響を及ぼすという強い証拠はなく、その安全性と重症化予防効果は検討されています1719

一方で、日本国内における流行状況や重症化リスクの評価は時期とともに変化しており、ワクチンの位置づけも更新されています。最近の日本産科婦人科学会などの情報では、「すべての妊婦に一律に接種を義務づける」のではなく、基礎疾患を有する妊婦や、重症化リスクが高いと考えられる妊婦に対して接種を積極的に勧めつつ、その他の妊婦では本人の希望や生活環境、これまでの接種歴をふまえて、主治医と相談しながら接種を検討するというスタンスがとられています。

そのため、COVID-19ワクチンについては、「必ず打つべきかどうか」を一人で悩むのではなく、自分の妊娠週数・基礎疾患の有無・仕事や家庭の状況・これまでのワクチン歴を整理したうえで、産婦人科医やかかりつけ医に相談することが重要です。「接種した場合/しなかった場合、それぞれどのようなリスクとメリットがあるのか」を一緒に確認してもらい、納得して決められるようにしましょう。

妊娠前に確認・接種すべきワクチン:先天性風しん症候群(CRS)などを防ぐために

妊娠中の感染が、胎児に回復不可能な深刻な影響を及ぼす可能性のある感染症も存在します。これらに対する防御は、「妊娠してから」では間に合わないことが多く、妊娠を計画する段階や、偶然の妊娠に気づく前の段階で対策しておくことが非常に重要です。代表的なものが、風しん・麻しん・水痘(みずぼうそう)などの生ワクチンで防げる感染症です。

1. 風しん・麻しん(MRワクチン):赤ちゃんの先天異常を防ぐ最も重要な準備

妊娠初期(特に妊娠20週まで)の妊婦が風しんに初めて感染すると、生まれてくる赤ちゃんが眼、耳、心臓などに障害を持つ「先天性風しん症候群(CRS)」という重い病気になる可能性があります2021。日本におけるCRSの発生統計は、風しんの流行がいかに悲劇に直結するかを物語っています20。一度起きてしまった障害は、現在の医療では取り除くことができません。

この悲劇を防ぐもっとも確実な方法は、妊娠前にワクチン(通常は麻しんとの混合ワクチンであるMRワクチン)を接種し、十分な抗体を獲得しておくことです。厚生労働省は、「妊娠を希望する女性」とそのパートナーに対して、風しん抗体価の確認と必要なワクチン接種を強く呼びかけています21

MRワクチンは生ワクチンであるため、妊娠中の接種はできません。また、接種後は2か月間の避妊が必要です21。これから妊娠を希望される方、そしてそのパートナーは、まずご自身の風しん抗体価を検査し、抗体が不十分な場合は速やかにワクチンを接種することが、未来の赤ちゃんを守るための最も重要な準備となります。

2. 水痘(水ぼうそう)ワクチン:母子ともに「重症の水痘」を避ける

水痘(みずぼうそう)も、妊娠中に感染すると、稀ではありますが胎児が「先天性水痘症候群」になったり、出産前後に母親が感染した場合には新生児が重症の水痘になったりするリスクがあります。発疹だけでなく、肺炎や脳炎などの重い合併症を起こすこともあるため、侮れない感染症です。

水痘ワクチンも生ワクチンであるため、妊娠中の接種はできません。妊娠を考えている段階で、水痘にかかったことがない・記憶があいまい・母子手帳が手元にないといった場合には、抗体価を測定し、必要であれば接種を済ませておくことが推奨されます2223

「すぐに妊娠を考えているわけではないけれど、いつ妊娠してもおかしくない年齢」という方こそ、普段の健康診断や婦人科受診の機会を活用して、風しん・麻しん・水痘などの抗体チェックを前倒しで済ませておくと安心です。

ワクチン接種を決めるまでのステップとチェックリスト

ここまで見てきたように、妊娠中・妊娠前に関わるワクチンは複数あり、「全部を一度に理解して、自分で判断する」のは簡単ではありません。そこで、実際にワクチン接種を決めるまでの考え方を、いくつかのステップに分けて整理してみましょう。

  • ステップ1:自分の状況を書き出す(妊娠週数、持病の有無、通勤状況、上の子の有無・保育園通園の有無など)。
  • ステップ2:これまでのワクチン歴を思い出す・母子手帳を確認する(インフルエンザ、COVID-19、MR、水痘、三種混合など)。
  • ステップ3:この記事や公的情報をもとに「妊娠中に接種できるもの/妊娠前に済ませるべきもの」を大まかに仕分けする。
  • ステップ4:妊婦健診の場で主治医に相談する(自分で整理したメモを見せて、「今の自分にはどれが必要か」を一緒に考えてもらう)。
  • ステップ5:接種日程を無理のない範囲でスケジュールに組み込む(上の子の行事、仕事、里帰りのタイミングなども考慮)。

「どのワクチンが正解か」は人によって異なりますが、「信頼できる情報をもとに、自分の状況に合わせて、医療者と一緒に決める」というプロセスは、どの妊婦さんにも共通する大切なポイントです。

ワクチンだけに頼らない感染症対策:日常生活でできること

ワクチンは非常に強力な防御手段ですが、すべての感染症を完全に防げるわけではありません。また、妊娠中に接種できないワクチンもあります。そこで、ワクチンに加えて「日常生活でできる感染対策」をセットで考えることが大切です。

  • こまめな手洗い・アルコール手指消毒(外出先から帰ったとき、調理や食事の前など)。
  • 人混みや換気の悪い場所をできる範囲で避ける、混雑する時間帯をずらす。
  • 流行期にはマスクの着用を検討する(妊婦さん自身が息苦しくならない範囲で)。
  • 十分な睡眠とバランスの良い食事を心がけ、免疫力を落とさない生活リズムを整える。
  • 同居家族が発熱や咳などの症状を認めるときは、早めに医療機関に相談し、必要に応じて隔離やマスク、手洗いを徹底する。

こうした日常の工夫は、インフルエンザやCOVID-19だけでなく、胃腸炎など他の感染症の予防にも役立ちます。ワクチン接種と生活習慣の両方から、母子を守る環境を整えていきましょう。

よくある質問 (FAQ):安全性や副反応への不安にお答えします

Q1. 妊娠中のワクチン接種は本当に安全ですか?胎児への影響は?

これは最も大切な質問です。結論から言うと、本記事で取り上げているインフルエンザワクチン(不活化ワクチン)、三種混合ワクチン(不活化ワクチン/トキソイド)、RSウイルスワクチン(組換えワクチン)、新型コロナワクチン(mRNAワクチン)は、妊娠中に接種しても胎児への悪影響はないと考えられており、その安全性は世界中の大規模なデータと長年の使用経験によって支持されています347

これらのワクチンは、生きたウイルスや細菌を使用しない「不活化ワクチン」や、ウイルスの部品のみを使用する「組換えワクチン」、ウイルスの設計図の一部のみを伝える「mRNAワクチン」であり、母体や胎児がその病原体自体に感染する心配はありません。一方で、「生ワクチン」(風しん、麻しん、水痘など)は、毒性を弱めた生きたウイルスを使用するため、理論的なリスクを考慮し、妊娠中の接種は原則として行われません。この「妊娠中に受けてよいワクチン」と「妊娠中は避けるべきワクチン」を明確に区別することが、不安を解消する第一歩です。

Q2. ワクチンの副反応が心配です。熱が出たらどうすればいいですか?

ワクチンの副反応として、接種部位の痛み・腫れ・赤みのほか、発熱、頭痛、倦怠感などが起こることがあります。これらは体内で免疫が作られている正常な反応であり、通常は数日以内に自然に軽快します。

もし発熱などでつらい場合は、自己判断で市販薬を飲むのではなく、必ずかかりつけの産婦人科医や内科医に相談してください。妊娠中でも比較的安全に使用できる解熱鎮痛剤として「アセトアミノフェン」があり、医師の指示のもとで適切に使用することができます19。副反応への不安は当然の感情ですが、「ワクチンで予防できる病気そのもの」が母体と赤ちゃんに与えるリスクの方がはるかに大きいケースが多いことも、あわせて理解しておくと判断しやすくなります。

Q3. 海外で推奨される「Tdap」と日本の「三種混合(DPT)」は何が違うのですか?

これは非常に専門的で重要な質問です。海外の医療情報、特に米国のCDCなどを見ると、妊婦への接種が推奨される百日せき含有ワクチンとして「Tdap(破傷風・ジフテリア・百日せき混合ワクチン)」が挙げられています。しかし、2025年現在、このTdapワクチンは日本では未承認であり、使用できません。

そのため、日本ではTdapと同等の目的、つまり「新生児を百日せきから守る」ために、小児定期接種で使用されている「三種混合ワクチン(DPTまたはDTaP:ジフテリア・百日せき・破傷風混合ワクチン)」が妊婦への接種に用いられます1。成分や力価に若干の違いはありますが、母子免疫を介して赤ちゃんを百日せきから守るという目的は同じです。この点を明確に理解しておくことで、海外の情報に触れた際の混乱を避けることができます。

結論:計画的なワクチン接種で、あなたと赤ちゃんの未来を守る

妊娠中、そしてその前からの計画的なワクチン接種は、もはや単なる「個人の選択」ではありません。それは、科学的根拠に基づき、あなた自身の健康を守り、そして何よりも、これから生まれてくる新しい家族の一員に、感染症に対する「最初の鎧」をプレゼントするための、積極的で愛情に満ちた医療行為です。

とくに、妊娠を計画する段階での風しん対策の徹底は、未来の赤ちゃんを先天性の障害から守るために不可欠な準備です。そして妊娠期間中には、新生児の命を直接的に守るための百日せきワクチンや、重篤な呼吸器感染症を防ぐ最新のRSウイルスワクチン、そして母体の重症化を防ぐインフルエンザワクチンなど、適切な時期に適切なワクチンを接種することが、母子双方にとって計り知れない利益をもたらします。

一方で、新型コロナウイルスワクチンのように、流行状況や基礎疾患の有無によって接種の優先度が変わるワクチンもあります。そのため、「打つべきか・打たないべきか」を一人で抱え込むのではなく、この記事で得た知識と、ご自身の状況や価値観を整理したメモを持って、かかりつけの産婦人科医とよく相談してください。

多くの情報が溢れる中で不安を感じることもあるかと存じますが、「正しい情報をもとに、信頼できる医療者と一緒に決める」というプロセス自体が、あなたと赤ちゃんを守る大切な一歩です。この記事が、その一助となることを心から願っています。

免責事項

この記事は情報提供のみを目的としており、個々の症例に対する診断や治療方針を示すものではありません。実際の予防接種や治療については、必ず産婦人科医など資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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