妊娠中に食べたくなる8つの食品とは？その理由を徹底解説

妊娠中に特に食べたくなる代表的な食品8選とその科学的根拠

ここでは、日本の妊婦さんが「食べたい！」と感じやすい8つの食品グループを、ランキング調査⁷や医学的知見を基に選び出し、その理由と健康的な付き合い方を解説します。

1. 果物 (特にみかん、りんご、ぶどう)

理由： 妊娠初期のつわりの時期には、さっぱりとした、水分が多く、甘酸っぱいものが好まれる傾向があります⁷⁴⁹⁴。果物はまさにその代表格です。また、体がカリウムを必要としているサインである可能性や、血糖値を穏やかに上昇させることで気分の悪さを和らげる効果も指摘されています¹³⁴⁹⁵。特にいちごのような果物は、つわり中でも食べやすく、妊娠初期に重要な葉酸やビタミンB6を含む点でも理にかなっています¹⁷⁴⁹⁶。
栄養面でのポイント： ビタミン、ミネラル（特にカリウム¹³）、食物繊維、抗酸化物質が豊富です⁴⁹⁷。ただし、果物に含まれる糖分（果糖）の摂りすぎには注意し、適量を心がけましょう⁴⁹⁸。
ヘルシーな満たし方： できるだけ加工されていない新鮮な果物をそのまま食べるのが最もおすすめです⁴⁹⁹。気分転換に、砂糖を加えないスムージーにするのも良いでしょう¹⁰。

2. 梅干し・レモンなどの酸っぱいもの

理由： 酸味への欲求は、妊娠中によく見られる変化の一つです⁷⁵⁰⁰。口の中をさっぱりさせ、つわりによる吐き気を和らげる効果が期待できます。これはホルモンバランスの変化による味覚の変化とも関連しています¹²⁵⁰¹。トマトや柑橘類のような酸味のある食品は、消化を助け、食べやすいと感じることが多いようです¹³⁵⁰²。
栄養面でのポイント： 梅干しにはクエン酸が含まれています。しかし、最も注意すべきはその高い塩分濃度です。製品によっては1粒（10g）あたり1.9g～2.2gもの食塩が含まれているため¹⁸¹⁹、1日1粒までなど、厳格な量の管理が不可欠です¹⁹⁵⁰³。一方、レモンはビタミンCの良い供給源となります。
ヘルシーな満たし方： 梅干しはごく少量に留めましょう。飲み物にレモンを搾ったり、酢の物（Sunomono）を取り入れたりするのもおすすめです¹⁰⁵⁰⁴。

3. アイスやシャーベット

理由： 冷たくて口当たりが滑らかなアイスクリームやシャーベットは、食欲がない時でも喉を通りやすい食品です⁷⁵⁰⁵。特に、柑橘系やヨーグルト風味のさっぱりしたものが好まれます。また、精神的な安らぎや心地よさを与えてくれる「コンフォートフード」としての一面もあります。
栄養面でのポイント： 多くの市販品は糖分や脂肪分が高い傾向にあります⁵⁰⁶。果汁から作られたシャーベットや、フローズンヨーグルトなどを選ぶと、比較的ヘルシーです⁵⁰⁷。
ヘルシーな満たし方： 小さなカップを選ぶなど、量を決めて食べることが大切です。糖質や脂質の少ないタイプを選ぶようにしましょう⁵⁰⁸。

4. フライドポテト・ポテトチップスなどの塩辛いもの

理由： これには明確な生理学的理由が考えられます。妊娠中は血液量が著しく増加するため、血液の成分であるナトリウムやクロールの需要が高まります。そのため、塩辛いものが欲しくなるのです¹³⁵⁰⁹。また、じゃがいもはカリウムを供給し、血糖値を上昇させることで吐き気を抑える効果も期待できます¹³⁵¹⁰。
栄養面でのポイント： 揚げ物は高カロリーで、不健康な脂肪やナトリウムを多く含みます⁵¹¹。
ヘルシーな満たし方： 自宅でじゃがいもをオーブンで焼いたり、エアフライヤーで調理したりすると、油分と塩分をコントロールできます。スナック菓子を選ぶ際は、減塩タイプのものを選びましょう⁵¹²。

5. おにぎり (特に塩、梅、昆布)

理由： 強い香りがなく、シンプルで、つわりの時でも少しずつ食べやすいのがおにぎりです⁷⁵¹³。特に塩や梅干し、昆布といった、塩気や酸味のある具材が好まれます。冷めたご飯の方が食べやすいと感じる人もいます。
栄養面でのポイント： エネルギー源となる炭水化物を手軽に補給できます⁵¹⁴。具材の梅干しは塩分に、昆布はヨウ素の過剰摂取に注意が必要です⁸⁵¹⁵。
ヘルシーな満たし方： 可能であれば玄米や雑穀米を選ぶと、食物繊維やミネラルも摂取できます。鮭や枝豆など、タンパク質やビタミンが摂れる具材を選ぶと、よりバランスが良くなります⁵¹⁶。

6. うどん・そうめんなどのあっさり麺類

理由： 体調が優れない時でも、つるつると喉を通りやすく、消化にも優しいのが麺類です。特に、温かくシンプルな出汁のものが好まれる傾向にあります⁷⁵¹⁷。
栄養面でのポイント： 主にエネルギー源となる炭水化物です。スープは水分補給にもなりますが、市販のつゆは塩分が多い場合があるため注意が必要です¹²⁵¹⁸。
ヘルシーな満たし方： 卵や鶏肉、野菜、わかめなどを加えることで、タンパク質やビタミン、ミネラルを補い、栄養バランスの取れた一食にすることができます⁵¹⁹。つゆの塩分が気になる場合は、出汁を効かせて薄味に調整しましょう。

7. チョコレート・甘いもの

理由： 甘いものへの渇望は、妊娠中に非常によく見られます³⁴。これもホルモンバランスの変化が影響していると考えられています¹²⁵²¹。また、血糖値が下がると吐き気を感じやすくなるため、手軽に血糖値を上げられる飴やチョコレートが欲しくなるという説明もあります¹³⁵²²。
栄養面でのポイント： 一般的に糖分やカロリーが高く、必須栄養素は少ない傾向にあります⁵²³。ただし、カカオ含有率の高いダークチョコレートであれば、抗酸化物質であるポリフェノールを少量摂取できます⁵²⁴。
ヘルシーな満たし方： 「少しだけ」と量を決めて楽しむことが大切です。ダークチョコレートを少量選んだり、甘いものが欲しくなったら果物を食べたりするのも良い代替案です⁵²⁵。

8. 炭酸水・冷たいお茶

理由： 炭酸の刺激や冷たい喉ごしが、口の中をリフレッシュさせ、特に食欲不振の時に求められます⁷⁵²⁶。炭酸水は胃の不快感を和らげる助けになることもあります⁵²⁷。また、妊娠中は消化管の動きが鈍くなりがちですが、炭酸水が腸の蠕動運動を刺激するという説もあります¹³⁵²⁸。
栄養面でのポイント： 水分補給になります。お茶を選ぶ際は、カフェインの少ない麦茶などが推奨されます⁸⁵²⁹。甘い炭酸飲料は糖分の過剰摂取につながるため、注意が必要です⁵³⁰。
ヘルシーな満たし方： 無糖の炭酸水が最適です。レモンやミントを加えると風味がアップします。お茶は、カフェインゼロの麦茶やルイボスティーなどを選びましょう⁵³¹。

なぜ妊娠すると食べ物の好みが変わるの？医学的・栄養学的解説

妊娠中に食の好みが大きく変わるのは、単一の原因ではなく、複数の要因が絡み合って起こる複雑な現象です⁵⁴⁹。現在、科学的に有力とされている主な説を解説します。

ホルモンの影響 (ホルモンの影響)

妊娠を維持するために分泌されるプロゲステロンやエストロゲンといった女性ホルモンは、味覚や嗅覚の感じ方を大きく変化させる可能性があります³。これにより、今まで好きだった食べ物の匂いが不快に感じられたり（食の嫌悪）、逆に特定の食べ物への渇望が生まれたりします。特にプロゲステロンの増加は、味覚の変化や食欲増進に関与していると指摘されています¹²⁵⁴⁰。

栄養ニーズと欠乏のサイン (栄養ニーズと欠乏のサイン)

「特定の食べ物が食べたい」という欲求は、妊娠によって需要が高まる特定の栄養素（カロリー、タンパク質、ビタミン、ミネラルなど）を体が要求しているサインだという仮説があります⁴⁵⁴²。例えば、フライドポテトが食べたいのはナトリウムやクロールの不足¹³、果物が食べたいのはカリウムの不足を補うため、といった具体的な関連性が指摘されています。しかし、一方で、多くの妊婦さんが渇望する甘いものや脂肪分の多い食品は、必ずしも栄養価が高いわけではないため、この仮説だけでは全ての食欲を説明できないこともわかっています³⁵⁴³。この事実は、食の好みがいかに複雑であるかを示唆しています。

鋭敏になった味覚・嗅覚 (味覚・嗅覚の変化)

妊娠中は、特定の味や匂いに対して非常に敏感になることがあります³。これは、腐敗した食品や有害な可能性のある物質を避けるための、母体と胎児を守るための進化的・適応的なメカニズムではないかと考えられています（「行動免疫システム」仮説）³⁵⁵⁵。この感覚の変化により、一部の食品は非常に魅力的に感じられる一方で、他の食品は受け付けがたくなるのです。

心理的・文化的背景 (心理的・文化的背景)

食欲は生物学的な要因だけで決まるわけではありません。ストレスや気分、そして「妊娠したらこれを食べるもの」といった文化的な規範や、メディアからの情報も影響を与えます³⁵⁴⁵。渇望される食品が文化によって異なるという事実は、この心理社会的要因の重要性を示しています²⁴⁵⁴⁷。また、「食べてはいけない」と制限されることによって、かえってその食品への欲求が高まる「カリギュラ効果」も一因として考えられます⁵⁴⁶。

妊娠中の食の好みや嫌悪は、胎児に有害な物質から守り、有益な物質や吐き気を和らげる物質を求めるための適応的なプロセスである可能性があります。この観点は、単なる「奇妙な欲求」ではなく、生物学的な意味を持つ現象として食欲の変化を捉える上で重要です。

異食症（ピカ）：食品ではないものへの渇望に気づいたら

通常の食欲の変化とは別に、特に注意が必要な状態として「異食症（ピカ）」があります。これは見過ごしてはならない重要な健康のサインです。
異食症（ピカ）の定義： 異食症とは、氷（氷食症）、土、粘土、チョーク、紙、デンプン（生米やコーンスターチなど）といった、栄養価のない非食品を無性に食べたくなってしまう状態を指します²⁵。この渇望が少なくとも1ヶ月以上続く場合に診断されます²⁶。
鉄欠乏性貧血との強い関連： 最も重要な点は、異食症、特に氷や生のデンプンへの渇望が、体内の鉄分が不足している状態、すなわち「鉄欠乏性貧血」の典型的な症状であることです²⁵⁵⁶²。亜鉛の欠乏が原因である場合もあります²⁵。妊娠中は胎児への血液供給のために鉄分の需要が急増するため、貧血になりやすい状態にあります。
潜在的なリスク： 非食品を食べることは、母体と胎児に様々な害を及ぼす可能性があります。土や粘土に含まれる鉛による中毒、氷を噛み砕くことによる歯の損傷、消化器系の問題、そして本来摂るべき栄養素の吸収阻害などが挙げられます²⁵。
医師への相談の重要性： 氷が無性に食べたいといった症状であっても、異食症が疑われる場合は自己判断せず、必ずかかりつけの産婦人科医に相談してください²⁵。血液検査によって貧血の有無を診断し、鉄剤の処方など、根本的な原因に対する適切な治療を受けることが不可欠です⁵⁶⁴。異食症は恥ずかしいことではなく、治療可能な医学的症状であると理解することが大切です。

妊娠中の栄養摂取の基本：厚生労働省の指針を参考に

妊娠中の食生活は、お母さん自身の健康維持と、赤ちゃんの健やかな発育のための基盤となります。ここでは、日本の厚生労働省が示す「妊産婦のための食生活指針」²を基に、特に重要な栄養のポイントを解説します⁵⁸⁴。
基本の食事バランス： 毎日の食事は、「主食」（ごはん、パン、麺など）を中心に、エネルギーをしっかり確保し、「主菜」（肉、魚、卵、大豆製品など）でタンパク質を、「副菜」（野菜、きのこ、海藻など）でビタミンやミネラルを補う、バランスの取れた構成を心がけましょう²。妊娠時期に応じたエネルギーの付加も必要です（初期+50kcal、中期+250kcal、後期+450kcal）⁹。

特に重要な栄養素

• 葉酸： 赤ちゃんの神経管閉鎖障害のリスクを低減するために、妊娠初期に極めて重要です。妊娠1ヶ月前から妊娠3ヶ月までの間、通常の食事に加えてサプリメントなどで400μg/日の摂取が推奨されています¹⁵⁷²。ほうれん草、ブロッコリー、枝豆、納豆、いちごなどに多く含まれます²。
• 鉄分： 妊娠中期から後期にかけて需要が急増し、母体の貧血予防に不可欠です。赤身の肉や魚（いわし、さば等¹⁶）、あさり¹⁵、大豆製品などに豊富です。ビタミンCと一緒に摂ると吸収率が上がります²。
• カルシウム： 赤ちゃんの骨や歯を形成するために必要です。牛乳・乳製品、小魚、豆腐、小松菜などから摂取できます。ビタミンDはカルシウムの吸収を助けます²。

注意が必要な食品・成分

安全なマタニティライフのために、厚生労働省や食品安全委員会が注意喚起している食品や成分について正しく理解しましょう¹。

賢く付き合う妊娠中の食欲：実践アドバイスと医師への相談の目安

食欲の変化と上手に付き合うことは、心身ともに健康な妊娠期間を過ごすための鍵です。ここでは、具体的な実践的アドバイスと、専門家の助けを求めるべきタイミングについて解説します。

欲求を満たしつつ健康を保つための戦略

• 全面的な我慢はしない： 食べたいものを完全に断つのではなく、「少しだけ」と量を決めて楽しむなど、節度ある管理を心がけましょう⁵⁹⁹。厳しい制限はかえってストレスになります⁶¹²。
• より健康的な選択肢を選ぶ： 「揚げる」より「焼く」、「お菓子」より「果物」といったように、調理法や食品をよりヘルシーなものに置き換える工夫をしましょう⁶⁰⁰。
• バランスの取れた食事を規則正しく： 1日3食、栄養バランスの整った食事をきちんと摂ることで、極端な空腹を防ぎ、激しい食欲の波を穏やかにすることができます⁸⁶⁰¹。
• 「ハマり食べ」への対処： 特定の食品ばかりを繰り返し食べてしまう「ハマり食べ」¹³は、一時的な体の要求である可能性もありますが⁶¹³、全体の栄養バランスが偏らないように意識することが大切です⁶⁰⁴。
• マインドフル・イーティングを実践する： 食べたいものを少量、ゆっくりと味わって食べることで、満足感を得やすくなります⁶⁰³。

専門家への相談を検討すべき時

以下のような状況では、一人で悩まず、かかりつけの医師や管理栄養士に相談しましょう⁶⁰⁸。

• 氷や土など、食品ではないものが無性に食べたい（異食症の疑い）²⁵⁶⁰⁵。
• 食欲がコントロールできず、体重が急激に増えすぎている場合。
• 特定の食品への嫌悪が激しく、十分な栄養が摂れていないと感じる場合⁶⁰⁶。
• 妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群と診断され、食事管理に不安がある場合⁶⁰⁷。

結論

妊娠中の食欲の変化や特定の食品への渇望は、多くの妊婦さんが経験する、ごく自然で正常な現象です⁶¹⁶。その背景には、ホルモンバランスのダイナミックな変化や、赤ちゃんを育むために体が必要とする栄養素のサインなど、科学的な理由が存在します。大切なのは、その欲求を否定せずに受け入れ、「なぜ今これを食べたいのだろう？」とご自身の体の声に耳を傾けることです⁶¹⁷。
同時に、この記事で解説したように、厚生労働省などの信頼できる情報源に基づき、賢い選択をすることが母子双方の健康を守ります。塩分や糖分の多い食品は量を調整し、より栄養価の高い代替案を探す。そして、氷などの非食品への渇望（異食症）のような注意すべきサインに気づいたら、決して一人で抱え込まず、速やかに医療専門家に相談してください。知識は、不安を和らげ、より良い選択をするための力となります⁶²²。皆様が自信を持って、このかけがえのないマタニティライフを心から楽しみ、健やかに過ごされることを願っています⁶¹⁸。