この記事の科学的根拠
この記事は、引用元として明記された最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下は、参照された実際の情報源と、本稿で提示される医学的指針との関連性の概要です。
- FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA): 本稿における「グルタミン酸ナトリウム(MSG)の一日摂取許容量(ADI)を『特定しない』」との安全性評価は、JECFAの包括的な毒性学的評価に基づいています3。
- 米国食品医薬品局(FDA): MSGが「一般に安全と認められる(GRAS)」物質であるとの記述は、FDAによる長年の分類と科学的レビューに基づいています2。
- 日本の厚生労働省および食品安全委員会: 妊娠中の使用を含め、MSGの安全性が日本国内で確認されているという事実は、これらの省庁による食品衛生法に基づく認可、および繰り返し行われた食品健康影響評価に基づいています45。
- The Journal of Nutrition誌などの査読付き学術論文: 胎盤バリア機能に関する記述や、動物実験の解釈に関する科学的考察は、Walker氏とLupien氏らによるレビュー論文などの査読済み学術研究に基づいています6。
この記事の要点まとめ
- 世界の主要な保健機関(国連食糧農業機関/世界保健機関合同専門家会議、米国FDAなど)および日本の厚生労働省・食品安全委員会は、通常の食事におけるMSGの摂取は妊娠中も安全であると一貫して結論付けています。
- 母体には、胎盤がグルタミン酸の過剰な移行を防ぐ「胎盤バリア」という強力な防御機能が備わっており、胎児は守られています。
- 「MSGが危険」という説の多くは、人間では起こり得ない極端な高用量や非現実的な投与法を用いた動物実験の結果を誤って解釈したものです。
- 特定の成分に固執するよりも、リステリア菌やメチル水銀など、科学的にリスクが確立されている食品を避け、多様な食材でバランスの取れた食事を摂ることが最も重要です。
そもそも「味の素」とは? グルタミン酸と「うま味」の科学
MSGに対する漠然とした不安の多くは、その正体が正しく理解されていないことに起因します。まず、MSGが何から作られ、どのような性質を持つ物質なのかを知ることが、冷静な判断の第一歩となります。
MSGの正体:グルタミン酸ナトリウム
「味の素®」の主成分であるグルタミン酸ナトリウム(Monosodium Glutamate、略してMSG)は、アミノ酸の一種である「グルタミン酸」と、食塩の成分でもある「ナトリウム」が結合した物質です7。しばしば「化学調味料」という名称で呼ばれることがありますが、この呼称が人工的で不自然な物質であるかのような誤解を招く一因となってきました8。しかし、現在のMSGの主な製造方法は、サトウキビの糖蜜などを原料とし、微生物の力を借りて発酵させる「発酵法」です7。これは、私たちが日常的に口にしている味噌、醤油、ヨーグルト、ワインなどを作るプロセスと基本的には同じであり、化学的にゼロから合成されるものではありません。そのため、現在では「うま味調味料」という呼称がより実態に即しているとして広く用いられています。
グルタミン酸は自然界の恵み
MSGの構成要素であるグルタミン酸は、決して特殊な物質ではなく、自然界に広く存在する、生命にとって不可欠なアミノ酸です。例えば、日本の食文化に欠かせない昆布だしの「うま味」の正体は、このグルタミン酸です。その他にも、トマト、きのこ類、パルメザンチーズ、肉、魚など、多くの食品にグルタミン酸は豊富に含まれています2。そして特筆すべきは、赤ちゃんが生まれて初めて口にする母乳にも、グルタミン酸が高濃度で含まれているという事実です9。これは、グルタミン酸が人間の成長と生命維持にとって、極めて自然で重要な栄養成分であることを示しています。私たちの体は非常に賢くできており、うま味調味料として添加されたMSG由来のグルタミン酸と、トマトやチーズに含まれる天然のグルタミン酸を区別することなく、全く同じように消化・吸収・代謝します2。体内に取り込まれれば、その由来に違いはないのです。この基本的な事実を理解することは、MSGに対する不要な恐怖心を取り除く上で非常に重要です。
世界の専門機関が示す「安全性」のコンセンサス
個々の意見や体験談ではなく、客観的な科学的データに基づいて食品の安全性を評価するのが、国内外の専門機関の役割です。MSGの安全性については、長年にわたり世界中の専門家によって繰り返し評価され、一貫した結論が導き出されています。
国際的な評価:JECFAとFDAの見解
食品添加物の安全性を国際的に評価する最も権威ある機関の一つが、国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)の合同食品添加物専門家会議(JECFA)です。JECFAは1988年、利用可能な全ての科学的データ(毒性試験、発がん性試験、生殖発生毒性試験など)を徹底的にレビューした結果、「MSGは人の健康を害するものではない」と結論付けました。そして、MSGおよびその塩類の一日摂取許容量(ADI: Acceptable Daily Intake)を「特定しない(not specified)」と評価しました10。ADI「特定しない」は、食品として摂取する通常の量では安全上の懸念が極めて低いと判断された物質にのみ与えられる、最も安全なカテゴリーです。また、医薬品や食品の規制において世界で最も厳しい基準を持つ機関の一つである米国食品医薬品局(FDA)も、MSGを「一般に安全と認められる(GRAS: Generally Recognized As Safe)」物質のリストに長年収載しています2。このGRAS認定は、専門家による広範な科学的データのレビューと、長い食経験に基づいています。さらに、欧州連合(EU)の食品科学委員会(SCF)や、オーストラリア・ニュージーランド食品基準機関(FSANZ)も、JECFAやFDAと同様にMSGの安全性を確認しており、その評価は強固な国際的コンセンサスとなっています1011。
日本国内の評価:厚生労働省と食品安全委員会の結論
日本国内においても、MSGの安全性は厳格に評価され、確認されています。厚生労働省は、食品衛生法に基づき、MSGを安全な食品添加物として認可しています12。さらに、リスク評価を専門に行う内閣府の機関である食品安全委員会(FSC)は、国民の健康を守る観点から、様々な食品のリスク評価を行っています。FSCは、L-グルタミン酸ナトリウム(遺伝子組換え微生物を利用して生産されたものを含む)について、繰り返し食品健康影響評価を実施し、その都度、安全性を確認するという結論を出しています5。これらの評価は2010年代にも行われており、安全性の根拠が古いデータにのみ依存しているわけではないことを示しています1314。これは、製造技術が進化しても、その安全性が継続的に監視・確認されていることの証です。厚生労働省が公表している評価関連文書の中でも、L-グルタミン酸およびその塩類は「発がん性、生殖発生毒性及び遺伝毒性を有さないと考えられる」と明確に結論付けられています4。
機関名 (Organization) | 評価 (Evaluation/Status) | 妊娠中の使用に関する見解 | 主な根拠と評価年 |
---|---|---|---|
JECFA (FAO/WHO) | ADI特定せず (ADI Not Specified) | 一般人口と同様に安全 | 生殖発生毒性なし、胎盤バリア機能 (1988年)6 |
U.S. FDA | GRAS (一般に安全と認められる) | 一般人口と同様に安全 | FASEBによる包括的レビューで安全性を再確認 (1995年)2 |
厚生労働省 (MHLW, Japan) | 安全性を確認 (Safety Confirmed) | 一般人口と同様に安全 | 食品衛生法に基づく認可、生殖発生毒性なしとの評価4 |
食品安全委員会 (FSC, Japan) | 安全性を確認 (Safety Confirmed) | 一般人口と同様に安全 | 繰り返し実施された食品健康影響評価 (2016年, 2017年など)1314 |
FSANZ (Australia/NZ) | 安全性を確認 (Safety Confirmed) | 一般人口と同様に安全 | 包括的な安全性評価報告書 (2003年)11 |
この表が示すように、MSGの安全性に関する評価は、特定の国や機関の単独の見解ではなく、世界中の科学的権威が共有する強固なコンセンサスなのです。
妊娠中のMSG摂取と胎児への影響:生物学的な真実
規制機関が「安全」と結論付ける背景には、MSG(グルタミン酸)が体内でどのように扱われるかという生物学的な事実があります。特に妊娠中、母体と胎児の関係において、体には赤ちゃんを守るための精巧な仕組みが備わっています。
胎盤バリア:胎児を守る鉄壁の守備
妊娠中の母体と胎児は、胎盤を介して繋がっています。胎盤は、酸素や栄養を胎児に供給する重要な役割を担う一方で、有害な物質が胎児に届かないようにブロックする「バリア(障壁)」としても機能します。グルタミン酸に関しては、この胎盤バリアが非常に効果的に働くことが科学的に証明されています。日本の厚生労働省が参照する評価資料やJECFAのレビューでは、ラットやアカゲザルを用いた動物実験の結果が示されています。これらの研究では、妊娠中の母親に大量のMSGを経口投与したり点滴したりして、母体の血中グルタミン酸濃度を意図的に通常の何十倍もの極めて高いレベルに上昇させても、胎児の血中のグルタミン酸濃度はほとんど変化しなかったことが報告されています9。これは、胎盤自身がグルタミン酸をエネルギー源として利用・代謝し、胎児側へ過剰に移行するのを能動的に防いでいるためです。この事実は、母親が食事で摂取したMSGがそのまま胎児の脳に届いて悪影響を及ぼす、という一部の懸念に対する最も強力な科学的反証の一つと言えます。私たちの体は、グルタミン酸を異質な毒物としてではなく、制御すべき重要な栄養素として扱っているのです。
母乳への影響と乳児の代謝
授乳期に関しても、同様の安全性が確認されています。授乳中の母親がMSGを多く含む食事を摂取しても、母乳中のグルタミン酸濃度はほとんど上昇しないことが、複数の研究で示されています2。この知見に基づき、米国小児科学会(American Academy of Pediatrics)は、MSGが授乳行為に影響を与えず、母乳を飲む乳児に対してもリスクをもたらさないと公式に報告しています10。さらに、乳児はグルタミン酸を成人と同様に効率的に代謝できることも分かっており、MSGに対して特別に感受性が高いわけではないと結論付けられています10。前述の通り、母乳自体にグルタミン酸が豊富に含まれていることからも、乳児がグルタミン酸を扱う能力を備えているのは当然と言えるでしょう。
論争の深層:なぜ「MSGは危険」という説が消えないのか
これほどまでに国内外の専門機関が安全性を確認しているにもかかわらず、なぜインターネット上などでは「MSGは危険」という情報が後を絶たないのでしょうか。その背景には、歴史的な誤解、科学研究の不適切な解釈、そして情報の歪曲といった、いくつかの要因が複雑に絡み合っています。
「中華料理店症候群」の誤解と科学的検証
MSGに関する論争の発端は、1960年代に米国で報告された、中華料理を食べた後に一部の人が経験するとされた頭痛、顔のほてり、しびれといった一連の症状です。これは「中華料理店症候群(Chinese Restaurant Syndrome)」と呼ばれ、その原因がMSGではないかと推測されました2。この説は広く知られるようになりましたが、その後の科学的検証は、この初期の仮説を支持しませんでした。信頼性の高い研究手法である二重盲検プラセボ対照試験(被験者も試験実施者も、誰が本物のMSGを摂取し、誰が偽薬(プラセボ)を摂取したか分からない状態で行う試験)が数多く実施されましたが、その結果、大多数の人においてMSG摂取とこれらの一過性の症状との間に、一貫した因果関係は確認できませんでした2。FDAの依頼で1990年代に行われたFASEB(米国実験生物学学会連合)の詳細なレビューでは、「空腹時に3g以上のMSGを食品なしで単独摂取した場合に、一部の感受性の高い人に一過性の軽微な症状(頭痛、しびれ、眠気など)が出る可能性がある」とされました。しかし、これは通常の食事(1食あたりのMSG含有量は通常0.5g未満)とは全く異なる、極端な条件下での話です15。また、この症候群の名称自体が特定の食文化への偏見を助長したという指摘もあり、現在では科学的な妥当性は低いと見なされています1。
動物実験の結果をどう解釈すべきか
MSGの危険性を主張する情報源が最も頻繁に引用するのが、動物実験の結果です。この点を正しく理解することが、誤解を解く鍵となります。確かに、ラットやマウスなどのげっ歯類を用いた一部の研究では、妊娠中の母親にMSGを投与した結果、胎児の体重減少、骨格形成の遅延、あるいは生まれた子の神経系へのダメージや学習能力の低下などが報告されています1617。日本でも、1970年代にマウス胎児の脳への影響を示唆する研究報告がありました18。これらの報告だけを見ると、強い不安を感じるのは当然です。しかし、毒性学の専門家や規制機関は、これらの研究結果を人間にそのまま当てはめることはできないと判断しています。その理由は、主に以下の3つの科学的な問題点にあります。
- 非現実的な「用量」 (Unrealistic “Dose”)
多くの実験で用いられているMSGの投与量は、体重1kgあたり3gや6gといった、極めて高い濃度です16。これを人間の成人に換算すると、一度に数十グラムから数百グラムものMSGを摂取することに相当し、これは私たちが通常の食事から摂取する量(1食あたり0.5g未満)の数百倍から数千倍にもなります。毒性学の基本原則は「量が毒を決める」ということです。水や食塩でさえ、一度に極端な量を摂取すれば体に害を及ぼすのと同じで、非現実的な高用量での結果をもって、日常的な摂取の危険性を論じることはできません19。 - 非現実的な「投与経路」 (Unrealistic “Route of Administration”)
問題とされる研究の多くは、MSGを注射(皮下、腹腔内)したり、チューブで胃に直接流し込んだり(強制経口投与)しています6。この方法は、食物と共にゆっくりと消化・吸収される人間の自然な摂取形態とは全く異なります。消化管で代謝されるという重要なプロセスを迂回するため、血中濃度が人為的に、かつ急激に上昇し、現実の人間では決して起こり得ないような影響が現れる可能性があります。 - 「種差」と新生児マウスの特殊性 (Species Differences and the Specificity of Neonatal Mice)
神経毒性が報告された研究の多くは、脳を守る「血液脳関門」がまだ十分に発達していない「新生児マウス」を対象としています。しかし、人間と近縁である霊長類(サル)の新生児や、成長した動物では、同様の神経毒性は確認されていません6。この動物種による感受性の大きな違い(種差)は、新生児マウスでの結果を人間に安易に外挿できない決定的な理由となります。
これらの理由から、科学界の主流な見解は、「これらの動物実験は、人間が食品としてMSGを摂取する際の安全性を評価する上では、参考にならない」というものです。
情報の歪曲と断片的な警告
一部のメディアやウェブサイトは、上記のような科学的な背景や文脈を無視し、衝撃的な動物実験の結果だけを切り取って報じることで、人々の不安を煽る傾向があります20。また、インドの一地方の食品医薬品局(FDA)支部が出した警告20のように、国際的な科学的コンセンサスとは異なる局所的な見解や、文脈が不明な古い時代の勧告21が、誤解を永続させる一因となっています。信頼できる情報源(公的機関や査読付き学術論文など)にあたることが、正しい知識を得るためには不可欠です。
賢い選択のために:妊婦さんのための実践的アドバイス
MSGを過度に恐れる必要がないことを理解した上で、次に大切なのは、妊娠中の食生活全体をより良くするための実践的な知識です。
「減塩」の味方としてのうま味
妊娠中は、むくみや妊娠高血圧症候群の予防・管理のために、塩分(ナトリウム)の摂取量に気を配ることが推奨されます2。ここで、うま味調味料が意外な形で役立つ可能性があります。MSGに含まれるナトリウムの量は、同じ重さの食塩(塩化ナトリウム)の約3分の1です19。料理にうま味を加えることで、味の満足感が高まり、結果として使用する食塩の量を減らすことができる、という研究報告があります22。これは、おいしさを損なわずに健康的な減塩をサポートする、うま味調味料のポジティブな側面と言えるでしょう。
食品表示を読み解く
加工食品を購入する際には、原材料表示を確認する習慣をつけましょう。添加物として使用されたMSGは、「調味料(アミノ酸等)」や、より具体的に「グルタミン酸Na」などと表示されています2。また、注意したいのは、「MSG無添加」や「No Added MSG」といった表示です。これらの製品でも、「たん白加水分解物」「酵母エキス」「大豆抽出物」といった原材料が使われていることがあります。これらはそれ自体がうま味を持つ食品素材であり、そのうま味成分の中には天然のグルタミン酸が含まれています2。グルタミン酸を完全に避けたいと考える場合、これらの表示にも目を向ける必要がありますが、前述の通り、その必要性は科学的にはないとされています。
個人の感受性とどう向き合うか
科学的には因果関係が証明されていないものの、ごく一部に、MSGを含む食事を摂った後に一時的な不快な症状を経験すると報告する人がいることは事実です2。もし、ご自身がそうした体質だと感じているのであれば、妊娠中は心身の快適さを最優先し、原因と思われる食品を避けることは、全く問題のない合理的な選択です。ただし、それは胎児への直接的な危険性を回避するためではなく、あくまでお母さん自身の快適なマタニティライフのためである、という点は明確に区別して理解しておくことが大切です。
大局的な視点:大切なのは食事全体のバランス
産婦人科医や管理栄養士が口を揃えて強調するのは、特定の食品成分一つに過度に神経質になることの弊害です。最も重要なのは、多様な食品を組み合わせ、主食・主菜・副菜のそろったバランスの良い食事を心がけることです23。実際に、日本の産科婦人科学会などの専門機関が作成する妊婦向けのガイドラインでは、食事に関する様々な注意喚起がなされています。例えば、リステリア菌(生ハム、加熱殺菌していないナチュラルチーズ)、トキソプラズマ(生肉)、メチル水銀(マグロなどの大型魚類)、ビタミンAの過剰摂取、そしてアルコールなど、胎児への影響に関する科学的根拠が確立されたリスクについては、具体的な指導が行われています24。注目すべきは、これらの日本の主要な産科・栄養関連の公的ガイドラインにおいて、MSGやうま味調味料に関する特別な注意喚起や制限の記述は見当たらないという事実です2425。これは、日本の医療専門家の間でも、MSGが妊娠中に特筆すべきリスクとは考えられていないことを示唆しています。心配すべきは、科学的根拠の乏しい情報ではなく、確立されたリスクの方なのです。
よくある質問
「味の素」(MSG)は「化学調味料」で、体に悪いのではないですか?
妊娠中にMSGを摂ると、胎児の脳に影響がありますか?
「MSG無添加」と書かれた食品なら完全にグルタミン酸フリーですか?
そうとは限りません。「MSG無添加」は、うま味調味料としての「グルタミン酸ナトリウム」を加えていないという意味です。しかし、「酵母エキス」や「たん白加水分解物」といった原材料には、天然由来のグルタミン酸が含まれていることがあります2。ただし、前述の通り、由来に関わらずグルタミン酸の安全性は確認されているため、過度に避ける必要はありません。
結局、妊婦として一番気をつけるべき食事のリスクは何ですか?
結論
本記事で解説してきたように、妊娠中のMSG使用に関する安全性は、数多くの科学的データと、日本および世界の主要な専門機関による長年の評価によって裏付けられています。要点を再確認しましょう。
- MSGの安全性は、国際的な科学的コンセンサスです。JECFA、FDA、日本の厚生労働省、食品安全委員会など、権威ある機関が一貫して「通常の食事での摂取は安全」と結論付けています。
- 体には赤ちゃんを守る仕組みがあります。強力な「胎盤バリア」がグルタミン酸の過剰な移行を防ぎ、母乳中の濃度も安定しています。
- 「危険」という説の多くは、科学の誤解に基づいています。人間の食生活とはかけ離れた、非現実的な条件下での動物実験の結果を、人間に当てはめることはできません。
妊娠中は、心身ともにデリケートな時期です。不確かな情報に心を惑わされることなく、信頼できる科学的根拠に基づいた知識を道しるべとすることが、穏やかなマタニティライフを送るための鍵となります。最終的に、日々の食事について具体的な不安や疑問が生じた場合には、一人で悩まず、かかりつけの産科医や地域の保健師、管理栄養士といった専門家に相談することを強く推奨します。専門家は、あなたと赤ちゃんの健康状態に合わせて、最も適切でパーソナルなアドバイスを提供してくれるはずです。
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