妊娠中のつらい副鼻腔炎:産婦人科・耳鼻咽喉科医が解説する安全な治し方
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妊娠中のつらい副鼻腔炎:産婦人科・耳鼻咽喉科医が解説する安全な治し方

妊娠は、新しい命を育む喜びに満ちた特別な期間です。しかし、ホルモンバランスの変化や免疫系の調整など、母体には大きな変化が訪れ、それに伴う予期せぬ不調に悩まされることも少なくありません。その一つが「副鼻腔炎」です。なかなか治らない鼻づまりや頭痛、顔面の圧迫感は、ただでさえデリケートな妊娠中の心身に大きな負担となります。そして何より、「このつらい症状を和らげたいけれど、お腹の赤ちゃんへの影響を考えると薬を飲むのが怖い」という不安は、多くの妊婦さんが抱える切実な悩みです12。そのお気持ちは、非常によく分かりますし、その慎重さは決して間違っていません。
この記事は、JapaneseHealth.org編集部が、日本の産婦人科および耳鼻咽喉科の主要な学会が公表している最新の診療ガイドラインと、医薬品の安全性に関する公的機関の情報を徹底的に分析し、信頼できる情報のみに基づいて作成しました46810。私たちの目的は、妊娠中の副鼻腔炎に悩むあなたに、安全で明確な情報を提供することです。ご自宅でできるセルフケアから、耳鼻咽喉科で受けられる専門的な処置、そして医師の厳格な監督のもとで選択される可能性のある安全な医薬品まで、段階的かつ具体的な選択肢を詳しく解説します。この記事を通じて正しい知識を身につけ、安心して医師と相談し、あなたと赤ちゃんにとって最善の解決策を見つけるための一助となることを心から願っています。

この記事の科学的根拠

本記事は、提供された研究報告書に明示的に引用されている、最高品質の医学的エビデンスにのみ基づいています。以下のリストには、実際に参照された情報源と、提示された医学的指導との直接的な関連性のみが含まれています。

  • 日本産科婦人科学会 (JSOG): 本記事における妊娠期間中の薬剤使用に関する基本的な考え方や安全性の指針は、JSOGが発行する「産婦人科診療ガイドライン―産科編2023」に基づいています4
  • 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 (JSO-HNS): 副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎の診断、およびネブライザー療法などの専門的治療に関する記述は、同学会が策定した診療ガイドラインを参照しています6
  • 厚生労働省 (MHLW): 「妊娠と薬情報センター」の役割や公的な相談体制に関する情報は、厚生労働省の公式発表に基づいています8
  • 医薬品医療機器総合機構 (PMDA): 各薬剤の安全性、特に日本国内で承認されている医薬品の添付文書やインタビューフォームに基づく詳細な注意点(例:カルボシステインのデータに関する記述)は、PMDAが公開する情報を根拠としています10

要点まとめ

  • 妊娠中の副鼻腔炎は、ホルモンの変化や免疫系の調整により起こりやすくなりますが、病気自体が直接胎児に影響を及ぼすことはありません。
  • 治療の第一歩は「鼻うがい」や加湿などの薬を使わないセルフケアです。これだけで症状が大きく改善することがあります。
  • 症状が改善しない場合、耳鼻咽喉科での「鼻水の吸引」や「ネブライザー療法」は、薬の全身への影響を最小限に抑える安全で効果的な選択肢です。
  • 薬物治療が必要な場合、アセトアミノフェンや特定の点鼻薬が比較的安全とされていますが、自己判断は絶対に避け、必ず医師の指示に従ってください。
  • 日本には、国が支援する公的な相談窓口「妊娠と薬情報センター」があります。複雑な状況や深い不安がある場合は、この専門機関に相談することが最も確実です。

第1部:妊娠中の副鼻腔炎を理解する

治療法に目を向ける前に、なぜ妊娠中に副鼻腔炎になりやすいのか、そしてそれが母体と胎児にどのような影響を与えるのかを正しく理解することが、不安を和らげ、適切な行動をとるための第一歩となります。

妊娠中はなぜ副鼻腔炎になりやすいのか?

妊娠中の女性の体は、胎児を育むために劇的に変化します。その変化の一部が、鼻や副鼻腔に影響を与え、炎症を起こしやすくするのです。

  • ホルモンの変化: 妊娠を維持するために急増するエストロゲンやプロゲステロンといった女性ホルモンは、全身の血流を増加させ、組織をわずかにむくませる作用があります。鼻の内部を覆う粘膜も例外ではなく、この影響で腫れて鼻腔が狭くなり、鼻づまり(医学的には「妊娠性鼻炎」と呼ばれる状態21)を引き起こしやすくなります。この鼻づまりが、副鼻腔からの分泌物の自然な排出を妨げ、炎症の温床となるのです3
  • 血液量の増加: 胎児に十分な酸素と栄養を届けるため、母体の血液量は妊娠16週ごろから大幅に増加します。これも鼻粘膜の血管を拡張させ、腫れや鼻づまりを悪化させる一因となります3
  • 免疫系の変化: 母体の免疫システムは、遺伝子的に「異物」である胎児を攻撃しないように、巧妙に調整されます。この「相対的な免疫抑制状態」ともいえる変化により、母体はウイルスや細菌による感染症にかかりやすくなり、風邪などの上気道感染が引き金となって副鼻腔炎に発展するリスクが高まります20

これらの要因が重なり合うことで、もともとは感染を伴わない「妊娠性鼻炎」から、細菌やウイルスが繁殖する本格的な「副鼻腔炎」へと移行しやすくなるのです。

症状の見分け方:ただの風邪?それとも副鼻腔炎?

副鼻腔炎の症状は風邪とよく似ていますが、治療方針、特に抗生物質が必要かどうかを判断するために、両者を区別することは非常に重要です。

  • 普通の風邪: 通常、くしゃみ、透明な鼻水、軽い喉の痛みから始まり、数日でピークを越え、改善に向かいます。
  • ウイルス性副鼻腔炎: 副鼻腔炎の最も一般的な原因です。鼻づまり、鼻水(粘り気が出てくることもある)、顔面の圧迫感といった症状が10日程度続くことがあります。しかし、症状が悪化の一途をたどることは稀です19
  • 細菌性急性副鼻腔炎: より注意が必要な状態で、以下のいずれかの特徴が見られる場合に疑われます。
    • 症状が10日以上経過しても全く改善の兆しがない。
    • 一度良くなりかけたかのように見えた後、再び急激に症状が悪化する(「二峰性」または「double sickening」と呼ばれる現象23)。
    • 膿のような粘り気のある、黄色や緑色の鼻水が出る19
    • 38℃以上の高熱を伴い、顔面に激しい痛みがある24

細菌性副鼻腔炎の兆候を認識することは極めて重要です。なぜなら、抗生物質が有効なのはこの場合だけであり、ウイルスには全く効果がないからです3

つらい症状と生活への影響

妊娠中の副鼻腔炎は単なる不快感にとどまらず、日常生活の質を著しく低下させる可能性があります。

  • 後鼻漏(こうびろう): 粘り気のある鼻水が鼻から出ず、喉の奥に流れ落ちる状態です。これにより、喉に常に何かが絡んでいるような不快感や、しつこい咳、特に夜間の咳が続きます。長引く咳は腹部に力を入れるため、軽い子宮収縮を誘発したり、妊娠中に起こりやすい尿もれを悪化させたりすることがあります3
  • 顔面痛と頭痛: 副鼻腔の閉塞と炎症によって生じる圧力は、おでこ、目の間、頬、時には上の歯にまで及ぶ、鈍い、あるいは拍動性の痛みを引き起こします。この痛みは不眠や疲労、いらだちの原因となり、仕事や日常生活への集中力を奪います3
  • 嗅覚低下(きゅうかくていか): 鼻粘膜が腫れると、においの分子が嗅覚受容体に届かなくなり、においを感じにくくなります。嗅覚の低下は味覚の低下も伴うことが多く、食欲不振につながります。これが長引くと、胎児の発育と母体自身の健康に不可欠な栄養が不足するリスクも懸念されます1

赤ちゃんへの影響は?

これはすべての妊婦さんが最も心配される点であり、核心的な問いです。ここで、明確かつ安心できるメッセージをお伝えします。副鼻腔炎という病気自体が、直接胎児の発育に異常を引き起こしたり、奇形を起こしたりすることはありません。19。炎症を引き起こすウイルスや細菌は、通常、母親の上気道にとどまり、胎盤を通過して赤ちゃんに影響を及ぼすことはないと考えられています。
しかし、母親の症状が重症化し、コントロールされない状態が続くと、間接的な影響が及ぶ可能性はあります。例えば、長引く高熱、深刻な精神的ストレス、慢性的な不眠、食欲不振による栄養不足などは、いずれも胎児が育つ子宮内の環境にとって好ましいものではありません。したがって、治療の目的は、母親の症状を管理し、健康と快適さを取り戻すことで、結果として赤ちゃんにとって最良の環境を維持することにあります。このことを理解することで、不必要な恐怖心を減らし、母子双方の利益のために積極的に医療ケアを求めることができるようになります。

第2部:安全な治療へのステップ・バイ・ステップ

ここからは、具体的な治療の選択肢を、安全性の高いものから順に詳しく解説していきます。基本方針は「できる限り薬に頼らず、必要な時だけ、最も安全な選択肢を、専門家の監督のもとで用いる」ことです。

ステップ1:まず自分でできること・薬を使わない治療法

このセクションで紹介する方法は、治療の第一線であり、最も安全で、かつ症状緩和に大きな効果が期待できるものです。薬を使う前に、ぜひ積極的に試してみてください。

ご自宅でできるセルフケア

  • 鼻うがい(生理食塩水による鼻洗浄): これは最も推奨される方法の一つです。「鼻うがい」は、鼻や副鼻腔に溜まった粘液、膿、アレルギー物質、ウイルスや細菌を物理的に洗い流すことができます。また、乾燥した鼻粘膜を潤し、炎症を和らげる効果もあります。薬局で市販されている専用の洗浄キットを使うか、清潔な容器で「ぬるま湯(一度沸騰させて冷ましたもの)1カップに対し、食塩小さじ1/8とひとつまみの重曹」を混ぜて自作することも可能です19
  • 蒸気吸入: 温かい蒸気は、固くなった鼻水を柔らかくし、排出しやすくするのに非常に有効です。温かいシャワーを浴びながら湯気を吸い込んだり、洗面器にお湯を張って(火傷しないよう注意)、頭からタオルをかぶって蒸気を吸入したりする方法があります18
  • 加湿器の使用: 特にエアコンや暖房を使用した乾燥した室内環境は、鼻粘膜を刺激し、副鼻腔の自浄作用を妨げます。寝室などで加湿器を使用し、湿度を50~60%に保つことで、特に夜間の鼻づまりが楽になります3
  • その他の補助的なケア: 温かいお茶(カフェインレス)、スープ、白湯などを十分に摂取し、体内の水分を保ちましょう。水分は鼻水を柔らかくする助けになります。就寝時には枕を高くして頭を上げることで、鼻水が喉に流れ込むのを防ぎ、鼻の通りを良くします。温かいタオルで額や頬を温めることも、顔面の痛みや圧迫感を和らげるのに役立ちます3

耳鼻咽喉科での専門的な処置

セルフケアで改善が見られない場合、耳鼻咽喉科を受診することで、薬を飲むことなく高い効果が期待できる専門的な処置を受けることができます。これは日本の医療現場で一般的に行われており、妊婦さんにとって非常に心強い選択肢となります。

  • 鼻水の吸引: 鼻水が非常に粘稠で、副鼻腔の奥深くに溜まってしまうと、自分で鼻をかんでも排出しきれません。耳鼻咽喉科では、専門の吸引器を使って、溜まった膿や鼻水を安全かつ効果的に吸い取ることができます。これは短時間で済み、痛みもほとんどなく、処置後すぐに鼻の通りが良くなり、圧迫感が軽減されるのを実感できることが多いです。感染の温床となっている膿を取り除くことは、急性副鼻腔炎の治療において最も重要なステップの一つです20
  • ネブライザー療法: ネブライザーは、薬剤を霧状にして鼻や副鼻腔に直接届ける治療法です。この方法により、血管収縮薬やステロイド、抗生物質などを、ごく微量で、かつ炎症部位に直接作用させることができます。薬剤が血中に吸収される量は非常に少ないため、全身への影響を最小限に抑えられます。そのため、ネブライザー療法は妊婦にとって非常に安全な局所治療と位置づけられており、日本の診療ガイドラインでも推奨されています6

ステップ2:医師の指導のもとで用いる薬の知識

このセクションは、本記事の核心部分であり、最大限の注意を払って解説します。ここに記載する情報は、あくまで医師とのコミュニケーションを円滑にするための知識であり、自己判断で薬を選ぶためのものでは決してありません。

黄金律:薬を使用する前の絶対的な約束
市販薬、ハーブ製品、妊娠前に処方された薬を含め、いかなる薬も自己判断で使用しないでください。薬を服用する前には、必ず産婦人科医および/または耳鼻咽喉科医に相談し、現在妊娠中であること、または妊娠の可能性があることを明確に伝えてください3。特に、妊娠初期(最終月経開始日から13週6日まで)は、胎児の重要な器官が形成される最もデリケートな時期であり、薬の使用は特に慎重に検討される必要があります14

薬の種類と安全性の目安

以下の表は、日本の診療ガイドライン、PMDA(医薬品医療機器総合機構)の公式情報、そして国際的な研究報告を統合し、妊娠中の副鼻腔炎治療に用いられる可能性のある主な薬剤についてまとめたものです。

表1:妊娠中の副鼻腔炎治療薬に関する参考ガイド
薬剤の種類 代表的な薬剤(成分名 / 日本での主な商品名) 安全性に関する一般的な見解 特に重要な注意点(日本および国際的ガイドラインに基づく)
解熱鎮痛薬 アセトアミノフェン (例: カロナール®) すべての妊娠期間で比較的安全。 痛みや発熱に対して第一選択とされる薬剤です。常に有効な最小量で、最短期間の使用を心がけます。日本の添付文書や国際的な研究では、妊娠後期に高用量または長期間使用した場合、胎児の動脈管収縮のリスクが指摘されているため、医師との緊密な相談が不可欠です1935
点鼻薬 (局所ステロイド) ブデソニド, フルチカゾン 一般的に安全と考えられている。 全身への吸収がごく微量であるため、胎児へのリスクが非常に低い優先的な選択肢です。特にブデソニド(例: リノコート®)は、妊娠中の使用に関して最も安全性のデータが豊富な薬剤の一つとされています3841
去痰薬 カルボシステイン (例: ムコダイン®) 妊娠中の安全性に関するデータは限定的。 日本では非常に広く処方されますが、公式な医薬品インタビューフォームでは、生殖発生毒性試験が実施されていないと記載されています28。これは「有害」という意味ではありませんが、「安全性が確立されていない」ことを意味します。医師が治療上の有益性がリスクを上回ると判断した場合にのみ使用されます。
抗ヒスタミン薬 (経口) 第2世代: ロラタジン, セチリジン
第1世代: クロルフェニラミン
比較的安全。 アレルギー性鼻炎が背景にある場合に有効です。眠気が少なく、大規模な研究で安全性のデータが豊富なロラタジンやセチリジンが優先されます3845
血管収縮薬 (経口) プソイドエフェドリン 妊娠初期は避けるべき。 全身の血管を収縮させる作用があり、子宮や胎盤への血流を減少させる可能性があります。腹壁破裂(gastroschisis)との関連を指摘する研究も少数ながら存在するため、原則として推奨されません3137
抗生物質 (抗菌薬) ペニシリン系: アモキシシリン
セフェム系: セフプロジル
マクロライド系: アジスロマイシン
比較的安全。 細菌感染が明らかな場合にのみ使用されます。日本化学療法学会の指針によれば、ペニシリン系とセフェム系が第一選択です46。テトラサイクリン系とキノロン系は、胎児の骨や歯の発育に影響を与えるため、妊娠中は絶対禁忌です。
漢方薬 葛根湯加川芎辛夷 (かっこんとうかせんきゅうしんい) など 専門医との相談が必須。 「自然由来=安全」ではありません。例えば葛根湯に含まれる麻黄(まおう)は、エフェドリン類似の作用を持ちます。自己判断での購入・服用は絶対に避け、漢方薬に精通した医師による処方が必要です2050

特定の薬剤に関する詳細な解説

  • カルボシステイン(ムコダイン®)について: この薬は、痰や鼻水を出しやすくする目的で日本では非常に広く使われています。しかし、製薬会社が公表している公式文書(医薬品インタビューフォーム)を確認すると、「生殖発生毒性試験は実施していない」と明記されています28。これは、この薬が有害であると証明されたわけではありませんが、同時に、妊娠中の安全性に関する質の高い科学的根拠が不足していることを意味します。もしこの薬が処方された場合、患者として「この薬の妊婦に対する安全性のデータは限定的だと伺いましたが、私の状況において、この薬を選ぶメリットとリスクについて、もう少し詳しく教えていただけますか?」と質問する権利があります。
  • 経口の血管収縮薬について: プソイドエフェドリンなどを含む市販の風邪薬は、鼻粘膜の血管を収縮させて鼻づまりを強力に改善します。しかし、その作用は鼻だけに限定されず、全身の血管に影響を及ぼす可能性があります。これには、子宮や胎盤に血液を供給する血管も含まれ、胎児への血流を低下させるリスクが理論的に懸念されます。このため、これらの薬剤は、特に妊娠初期には推奨されません31

ステップ3:専門家への相談タイミングと相談先

適切なタイミングで、適切な専門家に相談することが、安全な解決への鍵となります。

受診すべき危険な兆候(レッドフラグ)

ほとんどの副鼻腔炎は安全に管理できますが、以下の症状が一つでも見られる場合は、重篤な合併症のサインである可能性があるため、直ちに医療機関に連絡してください

  • 38℃以上の高熱が続く25
  • 通常の鎮痛薬では全く効かない、耐えがたいほどの激しい頭痛。
  • 目の周りを中心とした顔面の腫れや赤み。
  • 視力の変化(ものがぼやけて見える、二重に見える)。
  • 首の後ろが硬直する、意識がもうろうとする。

誰に相談すればよいか?

  • 産婦人科医: あなたの妊娠経過全体を管理する主治医であり、常に最初の相談窓口です。症状が妊娠に与える影響を評価し、初期的なアドバイスを提供してくれます。
  • 耳鼻咽喉科医: 鼻と副鼻腔の病気の専門家です。内視鏡などを用いて正確な診断を下し、鼻水の吸引やネブライザー療法といった専門的な処置を行うことができます20
  • 理想的な連携: 最も望ましいのは、産婦人科医と耳鼻咽喉科医が連携することです。耳鼻咽喉科医が診断と治療計画を立て、その計画が母子にとって安全かつ適切であるかを産婦人科医が確認・承認するという流れが理想的です。

最終的かつ最も信頼できる相談先:「妊娠と薬情報センター」

もしあなたが特別な不安を抱えていたり、他の持病のために複雑な薬を服用していたり、あるいは単に個別化された専門的な意見を深く求めたい場合には、「妊娠と薬情報センター」に相談することを強く推奨します。これは国立成育医療研究センターが運営し、厚生労働省が支援する公的な相談機関です8。ウェブサイトを通じた専門的な相談プロセスが確立されており、日本全国の拠点病院10でも直接相談が可能です。妊娠中の薬に関する疑問に答える、日本で最も権威のある情報源です。
詳細な情報や相談の申し込みについては、こちらの公式サイトをご覧ください:国立成育医療研究センター 妊娠と薬情報センター15

よくある質問

Q1: 妊娠中に副鼻腔炎を繰り返します。予防法はありますか?
A1: 予防の基本は、ステップ1で紹介したセルフケアの継続です。特に、習慣的な「鼻うがい」は、鼻腔内を清潔に保ち、アレルゲンやウイルスを除去するのに非常に効果的です。また、十分な休息とバランスの取れた食事で免疫力を維持することも重要です。アレルギーが原因の場合は、アレルゲン(花粉、ハウスダストなど)を避ける努力も予防につながります。
Q2: 市販の点鼻薬は使っても大丈夫ですか?
A2: 自己判断での使用は避けるべきです。市販の点鼻薬には、主に2つのタイプがあります。一つは、ナファゾリンなどの「血管収縮薬」を含むもので、即効性がありますが、長期間使用すると逆に鼻づまりを悪化させる(薬剤性鼻炎)リスクがあり、妊娠中の安全性も確立されていません。もう一つは「ステロイド点鼻薬」で、医師の指導下で使われる場合は比較的安全とされていますが、市販薬であってもまずは産婦人科医か耳鼻咽喉科医に相談することが不可欠です。
Q3: 漢方薬なら自然由来で安全ですか?
A3: 「自然由来だから安全」という考えは誤解です。漢方薬も多くの有効成分を含んだ「医薬品」です。例えば、鼻づまりによく使われる葛根湯加川芎辛夷に含まれる「麻黄」には、血管収縮作用を持つエフェドリン類が含まれており、使用には注意が必要です50。妊娠中の漢方薬の使用は、必ず漢方の知識が豊富な医師または薬剤師に相談の上、処方されたものを服用するようにしてください。
Q4: 夫が吸っているタバコの煙は影響しますか?
A4: はい、大きな影響があります。タバコの煙(受動喫煙)は、鼻や喉の粘膜を直接刺激し、炎症を引き起こしたり悪化させたりする強力な要因です。これは副鼻腔炎だけでなく、胎児の健康全般にとっても有害です。妊娠中は、家族に禁煙または分煙を徹底してもらうことが、母子双方の健康のために極めて重要です。

結論

妊娠中の副鼻腔炎は、多くの不快な症状と不安をもたらしますが、適切な知識と行動によって安全に管理し、乗り越えることが可能です。重要なのは、パニックにならず、自己判断で行動しないことです。
本記事で示した3つのステップを思い出してください。(1) まずは「鼻うがい」などのセルフケアを徹底する。 (2) 改善がなければ、耳鼻咽喉科で専門的な局所治療を受ける。 (3) それでも薬が必要な場合は、必ず産婦人科医と耳鼻咽喉科医の両方と緊密に連携し、最も安全な選択肢を慎重に選ぶ。この安全な道のりを理解することが、あなたと赤ちゃんの健康を守る最大の鍵となります。
あなたは一人ではありません。正しい情報を武器に、医療専門家という頼れるパートナーと協力することで、この困難を克服し、健やかで心穏やかなマタニティライフを取り戻すことができます。ご自身の体の声に耳を傾け、自信を持って適切なケアを求めてください。

免責事項
この記事は情報提供を目的としたものであり、専門的な医学的アドバイスに代わるものではありません。健康上の懸念がある場合や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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  2. 急性副鼻腔炎がこんなにつらいなんて!甘く見ていた妊娠中の風邪 – ベビーカレンダー. Available from: https://baby-calendar.jp/smilenews/detail/7763
  3. 【医師監修】妊娠中の副鼻腔炎の治療方法と薬の使用について – ベビーカレンダー. Available from: https://baby-calendar.jp/knowledge/pregnancy/1349
  4. 日本産科婦人科学会. 産婦人科 診療ガイドライン ―産科編 2023. Available from: https://www.jsog.or.jp/activity/pdf/gl_sanka_2023.pdf
  5. ガイドライン – 公益社団法人 日本産科婦人科学会. Available from: https://www.jsog.or.jp/medical/410/
  6. 診療ガイドライン/手引き・マニュアル INDEX – 一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会. Available from: https://www.jibika.or.jp/modules/guidelines/index.php
  7. 最新ガイドラインに基づく 耳鼻咽喉科頭頸部疾患 診療指針 2024-’25 – m3電子書籍. Available from: https://www.m2plus.com/content/14090
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  9. 妊娠と薬 – 厚生労働省. Available from: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/ninshin_00001.html
  10. 1.妊娠と薬情報センターについて… 2.使用上の注意の改訂について(その284) – PMDA. Available from: https://www.pmda.go.jp/files/000218063.pdf
  11. カルボシステインDS50%「タカタ」 カルボシステインシロップ5%「タカタ」 – 高田製薬. Available from: https://www.takata-seiyaku.co.jp/medical/product/t_2237/CRB-1(10).pdf
  12. 妊娠と薬情報センターについて – 厚生労働省. Available from: https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/343-1_1.pdf
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  42. カルボシステイン錠500mg「サワイ」 | くすりのしおり : 患者向け情報. Available from: https://www.rad-ar.or.jp/siori/search/result?n=35933
  43. 医薬品医療機器情報提供ホームページ. Available from: https://www.info.pmda.go.jp/
  44. 妊娠中の花粉症に使える市販薬を紹介|症状に合わせた選び方や注意点も【薬剤師解説】. Available from: https://www.kusurinomadoguchi.com/column/pregnant-pollen-14205/
  45. Hay fever or allergic rhinitis: treatment during pregnancy – SPS – Specialist Pharmacy Service. Available from: https://www.sps.nhs.uk/articles/hayfever-or-allergic-rhinitis-treatment-during-pregnancy/
  46. 妊産婦の抗菌薬使用の注意点 – 日本化学療法学会. Available from: https://www.chemotherapy.or.jp/journal/jjc/06501/065010004.pdf
  47. 妊産婦の抗菌薬使用の注意点 – 日本化学療法学会雑誌. Available from: http://journal.chemotherapy.or.jp/detail.php?-DB=jsc&-recid=5165&-action=browse
  48. 【耳鼻科医解説】副鼻腔炎、後鼻漏にオススメな市販薬について徹底解説. Available from: https://nagoya-hanamaru-jibika.jp/column/772/
  49. 【漢方解説】葛根湯加川芎辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい) – クラシエ. Available from: https://www.kracie.co.jp/ph/k-therapy/prescription/kakkontokasenkyusini.html
  50. 17. 妊婦への投与に注意が必要な漢方薬. Available from: https://www.fpa.or.jp/library/kusuriQA/17.pdf
  51. 呼吸器系の疾患に用いる漢方薬 – 冬城産婦人科医院. Available from: https://www.fuyukilc.or.jp/column/%E5%91%BC%E5%90%B8%E5%99%A8%E7%B3%BB%E3%81%AE%E7%96%BE%E6%82%A3%E3%81%AB%E7%94%A8%E3%81%84%E3%82%8B%E6%BC%A2%E6%96%B9%E8%96%AC/
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