妊娠中のママにおすすめ！栄養たっぷりスープ・汁物６選と安全な選び方

第1部：妊娠中の栄養とスープの基本

まずは、妊娠中の体で何が起きているのか、なぜスープ・汁物が食事づくりの強い味方になるのかを押さえておきましょう。難しい専門用語はできるだけ避け、身体の中で起きている変化をイメージしやすいように説明します。

1.1 妊娠中の体と栄養のメカニズム

妊娠すると、赤ちゃんを包む子宮が大きくなり、血液量も増え、胎盤という「命をつなぐ臓器」が新たに作られます。これらを支えるため、妊娠前と比べてエネルギーやたんぱく質、ビタミン・ミネラルの必要量が段階的に増えていきます¹⁵。

日本の「妊産婦のための食生活指針」では、妊娠中期以降は、妊娠前よりもエネルギーとたんぱく質を増やし、特に葉酸・鉄・カルシウムなどを十分にとることが重要とされています¹⁵。葉酸は赤ちゃんの神経管の発達に関わるビタミンで、不足すると神経管閉鎖障害などのリスクが高まることが知られており、妊娠前から意識して摂取することが勧められています¹⁸。

一方で、現代日本では「太りたくない」という意識から、妊娠中も食事量を極端に抑えてしまう人もいます。その結果、妊婦さん自身が痩せすぎであったり、妊娠中の体重増加が少なすぎたりすることが、低出生体重児の増加に関連していると指摘されています⁶¹²²⁵。

1.2 なぜスープ・汁物が妊娠中に役立つのか

妊娠初期には、つわりによってにおいに敏感になり、油っぽい料理や味の濃い料理が受け付けなくなることがあります。そんなときでも、「温かいスープなら少しなら飲める」という声が多く、レシピサイトでも「つわりでも食べやすい野菜スープ」などが人気です^7262729。

スープは、次のような点で妊娠中に向いている調理法と言えます。

• 水分と一緒に栄養をとれるため、少量でも効率よく栄養補給できる。
• 野菜・豆・肉・魚・穀類など、さまざまな食材を一皿にまとめやすい。
• 柔らかく煮込むことで、消化に負担をかけにくい。
• 味付けを薄めにしやすく、塩分をコントロールしやすい。

ただし、塩分が多いスープや、脂っこいスープばかりを続けると、妊娠高血圧症候群や体重増加過多につながる可能性があります。また、魚の種類や卵・肉の加熱不足など、食材の選び方や衛生面にも注意が必要です²¹⁰¹¹。

1.3 妊婦さんの「NG習慣」になりやすいスープの選び方

スープそのものは良い選択肢ですが、次のような習慣は、妊娠中の栄養バランスや体調に悪影響を与える可能性があります。

• インスタントスープやカップスープばかりに頼り、塩分や脂質が多くなる。
• 野菜が少なく、麺やパン、ジャガイモなど炭水化物に偏ったスープが多い。
• マグロ・カジキ・メカジキなど大型魚のスープを頻繁に作る。
• 半熟卵やレアな肉が入ったスープを好んで食べる。
• 「ダイエットスープ」に置き換えて、全体のエネルギー摂取が足りなくなる。

日本のコホート研究では、「パンやお菓子・清涼飲料水の摂取が多いパターン」の妊婦さんほど、赤ちゃんの出生体重や頭囲が小さい傾向が報告されています³⁸²⁴。スープを選ぶときも、主食・主菜・副菜のバランスを意識し、「野菜とたんぱく質がしっかり入っているか」「塩分・脂質に偏っていないか」を確認してみましょう。

第2部：身体の内部要因 — 妊娠中の栄養不足・ホルモン・食生活パターン

生活習慣を少し整えただけでは追いつかない、妊娠中ならではの「体の内部」の変化も多くあります。このセクションでは、栄養不足やホルモンバランスの変動、食生活パターンと出生体重の関係などを整理します。

2.1 妊娠期のステージとホルモン・食欲の変化

妊娠初期は、ホルモンの急激な変化によってつわりが起こり、食欲不振やにおいに対する過敏さが出やすくなります。妊娠中期以降はつわりが落ち着き、食欲が増してくる一方で、胃の圧迫感や胸やけ、便秘、むくみなどの悩みが増えていきます¹¹⁶。

「妊娠したら2人分食べなければならない」というプレッシャーと、「太りたくない」という気持ちの間で揺れ動き、食事量を極端に増やしたり減らしたりしてしまう方もいます。日本のガイドラインでは、「量を2倍にする」のではなく「質を高め、適切な体重増加を目指す」ことが繰り返し強調されています¹⁵。

2.2 日本で問題になっている栄養不足と食事パターン

国立健康・栄養研究所や厚生労働省の資料によると、日本の女性（とくに若年〜中年層）は、エネルギーや鉄・カルシウム・葉酸などの摂取量が推奨量に届いていないことが多いとされています⁵⁶。

妊娠中の食事パターンを調べた日本のコホート研究では、

• ご飯・魚・野菜・みそ汁など伝統的な和食を中心とするパターン
• パン・菓子・清涼飲料水が多い「ウエスタン型」パターン
• 好き嫌いが多い「picky」パターン

などに分かれ、「ご飯・魚・野菜中心」のパターンのほうが、低出生体重児やSGA児のリスクが低い傾向が報告されています³⁸¹³²⁴。

また、EPAやDHAといった魚由来のオメガ3脂肪酸の摂取量が多い妊婦さんでは、児の低出生体重リスクが低いという報告もあり、適切な種類の魚を選んでスープに取り入れることが、赤ちゃんの成長を支える一助となる可能性があります²²。

一方で、「ダイエットスープ」のような極端に低エネルギーな食事を続けたり、パンとお菓子中心の食生活に偏ったりすると、母体側の栄養状態が悪化し、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病などのリスクにも影響することが懸念されています¹⁴¹⁹。

2.3 鉄・葉酸・カルシウム・EPA/DHAなどの不足とスープの役割

妊娠中に不足しやすい代表的な栄養素と、それを補うためにスープで意識したい食材の例をまとめると、次のようになります。

• 葉酸：ほうれん草、ブロッコリー、枝豆、レバー、豆類など。ほうれん草やブロッコリーを使ったスープは、葉酸を日常的に取り入れやすい方法の一つです¹⁵³⁰。
• 鉄：赤身肉・レバー・ひき肉・あさりなどに多く含まれます。ほうれん草とひき肉のスープや、あさりの味噌汁などは、鉄とビタミンCを一緒にとれる組み合わせです¹⁴²⁸。
• カルシウム：牛乳・ヨーグルト・チーズ・小魚・豆腐・小松菜・わかめなど。豆腐とわかめの味噌汁や、小魚を使ったスープはカルシウム補給に役立ちます¹⁵。
• EPA/DHA：サバやサンマ、イワシ、鮭など。みそ汁や野菜スープにこれらの魚を加えると、EPA/DHAを取り入れやすくなります²⁴²²。

もちろん、サプリメントによる補給も役立ちますが、WHOはバランスのとれたエネルギー・たんぱく質補給や鉄・葉酸の補給を「食事」と「サプリメント」の両方で考えることを推奨しています¹⁷¹⁸²⁰。スープはその中で、「日々の食事の土台」を整える役割を担うと考えるとよいでしょう。

第3部：スープだけでは対応できない状態 — 専門的な診断が必要なケース

スープや食事の工夫だけでは対処しきれない状態も存在します。このセクションでは、妊娠中によく見られる代表的な不調や疾患と、「どのようなサインが出たら受診を考えるべきか」を整理します。

3.1 つわりと妊娠悪阻（重いつわり）の違い

多くの妊婦さんが経験するつわりは、一般的に妊娠5〜6週頃から始まり、12〜16週頃までに落ち着くことが多いとされています。食欲不振や吐き気があっても、少しずつ水分やスープ、ゼリーなどを摂取でき、体重減少が軽度であれば、家庭での工夫で乗り切れる場合もあります¹¹⁶。

一方で、嘔吐が続いて水分もほとんど取れない、尿量が減っている、体重が急激に減っている、といった場合は「妊娠悪阻（hyperemesis gravidarum）」と呼ばれる状態の可能性があり、点滴などの医療的なサポートが必要になることがあります。スープどころか水も飲めないときに「がんばって飲まなきゃ」と無理をし過ぎると、かえって体調を悪化させることもあるため、早めに産婦人科に相談しましょう¹⁷。

3.2 貧血・妊娠高血圧症候群・妊娠糖尿病など

妊娠中は、血液量が増えることで「血液がうすく」なり、鉄欠乏性貧血になりやすくなります。厚生労働省やWHOは、妊娠中の鉄・葉酸補給の重要性を繰り返し強調しており、日本でも多くの妊婦健診で貧血のチェックが行われています²⁵¹⁸¹⁹。

「ふらつき」「動悸」「息切れ」「顔色の悪さ」などが気になる場合、スープだけで鉄や葉酸を補おうとするのではなく、検査や医師の指示による鉄剤・サプリメントの併用が必要なこともあります¹⁴。

また、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病と診断された場合は、塩分や糖質の量に配慮した食事療法が重要になります。スープや味噌汁は、野菜やたんぱく質を取り入れる手段として役立ちますが、塩分やじゃがいも・コーン・麺などの量をコントロールしながら、「全体の食事の一部」として考える必要があります¹⁴¹⁹。

3.3 食中毒（リステリア症など）とスープの衛生管理

妊娠中は免疫のバランスが変化し、リステリア菌やサルモネラ菌などの食中毒にかかりやすくなることが知られています。食品安全委員会や厚生労働省は、妊娠前から気をつけたい食べ物として、非加熱のナチュラルチーズ、生ハム、スモークサーモン、レアな肉や魚などを挙げています²¹⁰¹¹。

スープの場合も、次のような点に注意しましょう。

• 卵は黄身までしっかり固まるまで加熱する。
• 鶏肉・豚肉・ひき肉は中心部まで完全に火を通す。
• 作り置きスープは、冷蔵庫で保存し、再加熱は沸騰するまで十分に行う。
• 長時間常温に置いたスープは、もったいなくても破棄する。

腹痛・下痢・発熱・嘔吐などが急に現れた場合は、食中毒の可能性も含め、早めに医療機関に相談しましょう¹⁰¹¹。

3.4 サフランなどハーブ・漢方系食材の注意点

サフランは、パエリアやブイヤベースなどで使われる黄色い香辛料で、スープに少し加えると鮮やかな色と香りがつきます。一方で、サフラン栽培に従事する女性農業従事者の流産率が高かったという報告や、サフラン抽出物が子宮の収縮を高める可能性を示した実験研究もあります⁹²³。

料理に使うごく少量（数本のめしべ程度）については明確な危険性は示されていませんが、妊娠中はわざわざサフランを大量に使う必要はなく、サプリメントや濃縮エキスなど高用量の摂取は避けることが推奨されます。スープに彩りを加えたい場合は、にんじんやかぼちゃ、パプリカなどの緑黄色野菜を活用するのも一つの方法です⁹²³。

第4部：今日から始める妊娠中スープ活用アクションプラン

ここからは、実際の献立づくりをイメージしやすいように、「6つのスープパターン」と妊娠中の悩み別の工夫を具体的に紹介します。すべてを完璧にやろうとする必要はありません。「これなら自分でもできそう」と感じるところから、少しずつ取り入れてみてください。

4.1 妊娠中におすすめのスープ・汁物6パターン

以下は、デイリーに取り入れやすく、日本のガイドラインとも整合する6つのスープパターンの例です。

1. 魚のスープ（EPA/DHA＋たんぱく質）
   鮭・サバ・タラなどを使ったスープ。玉ねぎ・にんじん・じゃがいも・キャベツなどと組み合わせると、野菜も一緒にとれます。大型魚（マグロやメカジキなど）は頻度や量に注意し、サバや鮭、ししゃもなど比較的小型の魚を中心に選ぶと安心です²⁴²²。
2. トマトと卵のスープ（ビタミンC＋たんぱく質）
   トマトの酸味がさっぱりしていて、つわり期にも比較的飲みやすい組み合わせです。卵はしっかり加熱し、ふんわりと溶き卵にすることで、消化にもやさしいスープになります²⁷²⁹。
3. ブロッコリーと骨付き肉・薄切り肉のスープ（葉酸＋カルシウム）
   ブロッコリーは葉酸やビタミンCが豊富な野菜です。鶏手羽元や豚薄切り肉と一緒に煮込むことで、たんぱく質やミネラルも補えます。脂身が多すぎない部位を選び、表面の脂を適度に取り除くと、妊娠中でも取り入れやすい一品になります¹⁵²⁶。
4. ほうれん草とひき肉のスープ（鉄＋葉酸）
   ほうれん草には葉酸や鉄が、ひき肉にはヘム鉄とたんぱく質が含まれます。トマトやじゃがいもを加えると、ビタミンCが鉄の吸収を助けてくれます。育児情報サイトでも「葉酸たっぷりスープ」として紹介されることが多い組み合わせです¹⁴²⁸³⁰。
5. 鶏肉と蓮の実（ハスの実）のスープ（たんぱく質＋ビタミンB群）
   蓮の実はアジアの料理でよく使われる食材で、たんぱく質や食物繊維が含まれています。科学的エビデンスは限定的ですが、伝統的には「気持ちを落ち着かせる」「眠りを助ける」といわれることも多く、鶏肉と組み合わせたスープは、疲れたときや寝つきが悪いときの一品として好まれています。ただし、「安眠効果」などを過度に期待せず、あくまで栄養バランスの一部として楽しみましょう。
6. 野菜たっぷりスープ（便秘対策＋体重管理）
   キャベツ・玉ねぎ・にんじん・セロリ・かぼちゃ・きのこなどをたっぷり煮込んだ野菜スープは、食物繊維とビタミンが豊富で、妊娠中の便秘対策や体重管理にも役立ちます²⁶²⁷²⁹。味付けを薄めにして、必要に応じて豆や少量の鶏肉を加えると、主菜としても活躍します。

4.2 悩み別：スープの活用アイデア

妊娠中によくある悩みごとに、「どのようなスープが取り入れやすいか」をまとめました。あくまで一例ですので、体調や好みに合わせてアレンジしてください。

• つわりで固形物が食べられないとき：においが少なく、あっさりした野菜スープやポタージュがおすすめです。じゃがいも・かぼちゃ・米を少し加えると、エネルギーも補えます²⁶²⁷。
• 貧血が心配なとき：ほうれん草とひき肉のスープ、あさりの味噌汁、レバーを少量使ったスープなど、鉄とビタミンCを同時にとれる組み合わせを意識します¹⁴²⁸。
• 便秘がつらいとき：キャベツ・ごぼう・きのこ・海藻など食物繊維が豊富な野菜スープを、1日1杯〜2杯の習慣に。水分も一緒にとれるため、便秘対策になります¹²⁶。
• 体重増加が気になるとき：油を控えめにし、野菜と豆・鶏胸肉・白身魚など脂肪の少ないたんぱく質を中心にしたスープに。スープだけに頼らず、全体の食事バランスを管理することが重要です⁵¹⁴。
• 妊娠糖尿病と診断されたとき：じゃがいも・コーン・麺などの量を調整し、野菜とたんぱく質を中心にしたスープを選びます。具体的な量やバランスは、主治医や管理栄養士に相談して決めましょう¹⁴¹⁹。

第5部：専門家への相談 — いつ・どこで・どのように？

妊娠中の食事は、自己流でがんばりすぎないことも大切です。「これって普通？」「スープだけでしのいでいて大丈夫？」と不安になったときに、どのタイミングで誰に相談すればよいのかを整理しておきましょう。

5.1 受診を検討すべき危険なサイン

• 数日以上、水分もほとんど摂れないほどのつわり・嘔吐が続く。
• 短期間で明らかな体重減少がある（例：1〜2週間で2〜3kg以上減る）。
• めまい・動悸・息切れ・胸の痛みなどが強く、日常生活に支障がある。
• 38度以上の発熱、強い腹痛、下痢、血便などが突然現れた。
• 手足や顔のむくみが急に強くなる、頭痛や目のかすみがある。

これらは、妊娠悪阻、重度の貧血、感染症、妊娠高血圧症候群などのサインである可能性があり、スープの工夫だけで対応するのは危険です。迷ったときは、かかりつけの産婦人科や地域の相談窓口に連絡し、指示を仰ぎましょう¹¹⁶¹⁷。

5.2 どの専門家に相談すればよい？

• 産婦人科医・助産師：つわり・体重増加・むくみ・血圧・血糖値など、妊娠中の全体的な経過を見ながらアドバイスしてくれます。
• 管理栄養士：病院や自治体の保健センター、オンラインサービスなどで、個別の食事相談を受けられる場合があります。スープだけでなく、1日の献立全体のバランスを一緒に考えてもらうと安心です¹⁵。
• 地域の保健師：妊婦健診や母子手帳交付時などに、生活全体の相談に乗ってくれることがあります。

5.3 相談時に準備しておくと役立つこと

• ここ1〜2週間の体重の変化（自宅の体重計で構いません）。
• 1日の食事内容のメモ（スープの種類や量を含む）。
• サプリメントや市販の栄養ドリンクなどを使用している場合は、その名前と量。
• 気になる症状の経過（いつから、どのくらいの頻度で、どのタイミングで悪化するか など）。

こうした情報があると、産婦人科医や管理栄養士が、より具体的であなたの生活に合ったアドバイスをしやすくなります。