要点まとめ
- 高リスク成分の完全回避: 経口・外用を問わず、レチノイド(ビタミンA誘導体)は催奇形性のリスクから絶対に使用を避けるべきです8。また、高い経皮吸収率を持つハイドロキノン3、高濃度のサリチル酸ピーリング4、ホルムアルデヒドおよびその放出剤11、フタル酸エステル類14、オキシベンゾンなどの特定の化学日焼け止め吸収剤4も使用を中止することが強く推奨されます。
- 「予防原則」の適用: 日本の化粧品基準で許可されている成分でも、世界的な研究で懸念が示されているもの(例:パラベン15、特定の化学紫外線吸収剤5)があります。胎児への潜在的リスクを考慮し、より慎重な選択(例:「パラベンフリー」製品やミネラルサンスクリーンを選ぶ)が賢明です。
- 安全な代替成分の活用: 妊娠中の肌トラブルには、ヒアルロン酸やセラミドによる保湿8, 21、ビタミンCやアゼライン酸による色素沈着ケア8, 9など、安全性が高く効果的な成分を積極的に活用しましょう。
- 専門家への相談が最優先: 使用する製品、特に有効成分を含むものについては、必ずかかりつけの産婦人科医または皮膚科医に相談することが最も重要です4。自己判断を避け、正しい情報に基づいて安心してマタニティビューティーを楽しみましょう。
第1部:注意の基礎:妊娠、肌、そして日本における情報格差
妊娠は、女性ホルモンの劇的な変動を引き起こし、これが肌にさまざまな影響を及ぼします。多くの妊婦が経験するこれらの変化を理解することは、適切なスキンケアとメイクアップの第一歩です。
1.1. 妊娠中の肌の変化
妊娠中のホルモンバランスの変化は、肌を非常にデリケートな状態にします。主な肌の変化には以下のようなものがあります:
- 感受性の高まり: ホルモンバランスの変化により、肌のバリア機能が一時的に低下し、外部からの刺激に対して非常に敏感になることがあります1。これまで問題なく使用できていた製品でも、突然かゆみ、赤み、発疹などのアレルギー反応を引き起こす可能性があります1。
- 皮脂分泌の増加とニキビ: アンドロゲン(男性ホルモン)の増加により皮脂の分泌が活発になり、毛穴が詰まりやすくなることで、いわゆる「妊娠ニキビ」が発生することがあります2。
- 色素沈着: メラニン生成を刺激するホルモンの影響で、シミやそばかすが濃くなったり、新たに発生したりします。特に頬骨、額、鼻、上唇周辺に左右対称に現れる「肝斑(かんぱん)」、または「妊娠仮面」と呼ばれる色素沈着は特徴的です3。また、腹部に正中線(リネア・ニグラ)が現れることもあります2。
これらの変化は生理的に正常な現象ですが、肌がこれまで以上にデリケートな状態にあることを示しています。したがって、妊娠中は胎児への影響だけでなく、母体自身の肌を守る観点からも、スキンケアやメイクアップ製品の選び方を見直すことが極めて重要となります。
1.2. 経皮吸収の原則:肌から胎児へ
化粧品の安全性を考える上で最も重要な科学的原則の一つが「経皮吸収」です。これは、肌に塗布された化学物質が皮膚を通過し、母体の血流に移行するプロセスを指します4。一度血流に入った物質は、胎盤関門を通過して胎児に到達する可能性があります5。全ての成分が同じように吸収されるわけではありませんが、一部の成分は驚くほど高い割合で体内に吸収されることが知られています。その顕著な例が、美白成分として知られるハイドロキノンです。研究によれば、局所的に塗布されたハイドロキノンの35%から45%が全身に吸収されると報告されています3。この事実は、妊娠中の化粧品使用が単なる「肌表面」の問題ではないことを明確に示しています。胎児が潜在的に化学物質に曝露される可能性がある以上、最大限の予防的アプローチを取ることが、国際的な専門家組織によって推奨されています。
1.3. 情報環境のナビゲーション:日本における「ガイドライン・ギャップ」
日本の妊婦が化粧品の安全性について信頼できる情報を得ようとする際、大きな壁に直面します。それは、国内の主要な専門医学会から、このテーマに関する明確かつ具体的な診療ガイドラインが一般向けに公開されていないという事実です。日本産科婦人科学会(JSOG)および日本皮膚科学会(JDA)の公式ウェブサイトや公開資料を調査した結果、妊娠中の化粧品や一般的なスキンケアの使用に関する特定の臨床実践ガイドラインは見当たりませんでした6。これらの学会は高度な医学的指針は提供していますが、多くの妊婦が日常的に直面する美容習慣の安全性については、明確な情報が不足しています7。対照的に、米国産科婦人科学会(ACOG)のような国際的な組織は、特定の成分について明確な推奨事項を公表しています8。この「ガイドライン・ギャップ」は、日本の妊婦が情報不足の中で判断を迫られる状況を生み出しており、本稿が世界的な科学的コンセンサスと日本の状況を橋渡しする重要な役割を担います。
第2部:高リスクおよび使用禁止成分:世界的な科学的コンセンサス
妊娠中の化粧品使用において、国際的な医療・科学機関が一致して使用を避けるべきだと強く勧告している成分群が存在します。これらの成分は、胎児への深刻な影響が確認されているか、そのリスクが強く懸念されるため、予防原則に基づき使用を中止することが求められます。
2.1. レチノイド(ビタミンA誘導体):最も厳格な「回避」対象
レチノイドは、妊娠中のスキンケアにおいて最も厳格に避けなければならない成分です。経口レチノイド(例:イソトレチノイン)は、強力な催奇形性物質として知られ、心臓や神経系に重篤な先天異常を引き起こすことが確立されており、米国食品医薬品局(FDA)によって妊娠カテゴリーX(絶対禁忌)に分類されています9, 8。この深刻なリスクに基づき、ACOGや世界中の皮膚科医は、妊娠が判明した時点、あるいは妊娠を計画している段階で、全ての形態のレチノイドの使用を直ちに中止するよう満場一致で勧告しています4。これには、医師が処方する外用薬(例:トレチノイン)だけでなく、市販のアンチエイジング化粧品に広く含まれるレチノール、パルミチン酸レチニルなども含まれます2。外用レチノイドの吸収率は経口薬より低いものの、安全な使用量は確立されておらず、わずかなリスクでも結果が深刻であるため、予防原則が厳格に適用されます。妊娠計画の少なくとも1ヶ月前には使用を中止することが推奨されています10。製品ラベルに「Retinol」「Retinyl Palmitate」「Tretinoin」などの記載がある場合は、使用を直ちに中止してください。
2.2. ハイドロキノン:吸収率のリスク
肝斑などの色素沈着治療に用いられるハイドロキノンも、使用を避けるべき成分です。最大の理由は、非常に高い経皮吸収率にあります。研究によれば、外用ハイドロキノンの35%から45%という極めて高い割合が体内に吸収されることが示されています3。これは他の多くの外用成分と比較して著しく高い数値です。かつてFDA妊娠カテゴリーC(動物実験で有害作用あり)に分類されていたこと、そしてこの高い全身吸収率と安全性に関するデータの欠如から、多くの専門家は妊娠中および授乳中の使用を避けることを推奨しています11。妊娠中の色素沈着には、後述するアゼライン酸やビタミンCなどのより安全な代替成分を選択することが賢明です9。
2.3. 高濃度サリチル酸:濃度の問題
サリチル酸(BHA)は、ニキビ治療に広く用いられますが、「濃度と使用法」に注意が必要です。経口サリチル酸(アスピリンの近縁物質)を高用量で摂取した場合、妊娠合併症や先天異常との関連が示されています8。同様に、美容皮膚科などで行われる高濃度のサリチル酸ピーリングも、全身への吸収量が増加する可能性があるため、妊娠中は避けるべきです4。一方で、ACOGは、市販のニキビ用洗顔料などに含まれる低濃度の外用サリチル酸は、吸収量がごくわずかであり、妊娠中に使用しても安全であると見なしています8。プロ用のピーリングは避け、日常的なニキビケアとして低濃度製品を使用することは一般的に安全と考えられていますが、不安な場合は医師に相談することが推奨されます。
2.4. ホルムアルデヒドおよびホルムアルデヒド放出剤:隠れた危険
ホルムアルデヒドは発がん性物質として知られ、不妊や流産との関連も指摘されています2。日本の化粧品基準では、「ホルマリン」という名称で配合が禁止されています12。しかし、より注意が必要なのは、製品の防腐効果を長持ちさせるために配合される「ホルムアルデヒド放出剤」です。これらは時間とともに微量のホルムアルデヒドを放出し11、日本の化粧品基準でも一部が許可されています13。予防的な観点から、以下の代表的なホルムアルデヒド放出剤が成分表示に含まれていないかを確認することが重要です。
ホルムアルデヒド放出剤(INCI名) | 一般的な日本語表記(参考) |
---|---|
DMDM Hydantoin | DMDMヒダントイン |
Imidazolidinyl Urea | イミダゾリジニル尿素 |
Diazolidinyl Urea | ジアゾリジニル尿素 |
Quaternium-15 | クオタニウム-15 |
Bronopol (2-bromo-2-nitropropane-1,3-diol) | ブロノポール |
5-Bromo-5-nitro-1,3-dioxane | 5-ブロモ-5-ニトロ-1,3-ジオキサン |
Sodium Hydroxymethylglycinate | ヒドロキシメチルグリシンNa |
出典: 参考文献11。この表は、製品を選ぶ際にこれらの名前がないかを確認する習慣をつけるための実用的なツールです。
2.5. フタル酸エステル類:内分泌かく乱物質
フタル酸エステル類は、香料を安定させる溶剤などとして化粧品に使用されることがある化学物質群です14。これらは代表的な「内分泌かく乱化学物質(EDCs)」として知られ、ホルモンの正常な働きを妨げます14。動物実験および一部のヒト研究では、胎児期のフタル酸エステル類への曝露が、特に男性胎児の生殖器系の発達異常や神経発達の問題などと関連することが示唆されています15。最大の課題は、これらの化学物質が「香料(Fragrance, Parfum)」という包括的な表示の内に隠され、個別の成分名が記載されないことが多い点です5。日本では、フタル酸エステル類は子供用玩具では規制されていますが16、化粧品への配合を明確に禁止する規制は現在のところありません17。この「隠れたリスク」を避けるための最も効果的な戦略は、「無香料(Fragrance-Free)」と表示された製品を選ぶことです。
2.6. 特定の化学紫外線吸収剤:ミネラルサンスクリーンへの移行
妊娠中は肝斑のリスクが高まるため、日焼け止めによる紫外線対策は不可欠です。しかし、日焼け止めの種類によっては注意が必要です。一部の化学吸収剤、特にオキシベンゾン(Oxybenzone)は、経皮吸収されやすく、血流から検出されることが確認されています4。オキシベンゾンは内分泌かく乱作用の可能性が指摘されており、母体の曝露と新生児の先天性疾患のリスク上昇との関連が報告された研究もあります18。このため、専門家は妊娠中の日焼け止めとして、物理散乱剤(ミネラルサンスクリーン)を広く推奨しています4。主成分である酸化亜鉛(Zinc Oxide)と酸化チタン(Titanium Dioxide)は、肌の表面に留まり体内に吸収されるリスクがほとんどないため、より安全な選択肢と考えられています4。日本の化粧品基準でも酸化亜鉛の使用は認められています19。「ノンケミカル処方」と表示されている製品を選ぶのが良いでしょう。
健康に関する注意事項
- 本稿で「安全」とされる成分であっても、個人の肌質によってはアレルギー反応が起こる可能性があります。新しい製品を使用する前には、必ずパッチテストを行ってください。
- 妊娠中に深刻な肌トラブル(重度のニキビ、発疹など)が発生した場合は、自己判断で市販薬を使用せず、速やかに皮膚科医または産婦人科医の診察を受けてください。
第3部:注意を要する成分:グレーゾーンのナビゲーション
全ての成分が「安全」か「危険」か、白黒はっきり分けられるわけではありません。科学的な見解が分かれていたり、リスクが軽微であったりする成分も存在します。ここでは、こうした「グレーゾーン」の成分について解説し、予防原則に基づいた賢明な判断を促します。
3.1. パラベン:進行中の議論
パラベンは非常に効果的な防腐剤ですが、その安全性、特に妊娠中の使用については長年にわたり議論が続いています。主な懸念は、パラベンが非常に弱いながらもエストロゲン様の作用を示すという、内分泌かく乱化学物質としての潜在的な可能性です20。動物実験では生殖系への影響が報告されており、多くの専門家が予防的観点から妊娠中の使用を避けるべきだと考えています5。一方で、米国FDAなどの規制当局は、化粧品に使用されている現在の濃度では有害であるという決定的な証拠はないという立場です5。日本の化粧品基準では、パラベン類は合計で1%を上限として配合が許可されています12。つまり、パラベン配合製品は合法的に販売されています。ここに、「法的に許可されていること」と「医学的な予防原則」との間に乖離が存在します。最も慎重なアプローチを取りたいと考える妊婦は、「パラベンフリー」と表示された製品を選択することが一つの賢明な選択肢となります。
3.2. エッセンシャルオイル:「天然」が安全とは限らない
「天然由来」は必ずしも「安全」を意味しません。エッセンシャルオイルは高濃度に抽出された強力な化学成分の集合体であり、一部には子宮収縮を誘発する作用を持つものがあることが知られています1。例えば、ローズマリーやセージなどの特定のオイルは、望ましくない陣痛を引き起こす可能性があるとして注意が喚起されています4。妊娠中にアロマテラピーやエッセンシャルオイル配合製品を使用したい場合は、自己判断せず、必ず専門知識を持つ医師や資格を持つアロマセラピストに相談してください。
3.3. その他の注意すべき成分
- トルエン: 一部のネイルポリッシュに含まれる溶剤で、発達障害との関連が指摘されており、避けるべきとされています18。「トルエンフリー」の製品を選びましょう。
- 過酸化ベンゾイル: ニキビ治療に用いられる成分です。ACOGや米国皮膚科学会(AAD)は、局所的に限られた量を使用する場合、安全である可能性が高いとしていますが、使用前に医師に相談することが推奨されます4。
第4部:日本の妊婦のための実践的ビューティーガイド
科学的な知識を、日本の市場で実践できる具体的な行動に移すことがこのセクションの目的です。安全な製品を選び、安心してマタニティライフを楽しむためのステップを解説します。
4.1. 妊娠中の安全な美容習慣の基本原則
- 医師への相談: これが最も重要な原則です。特に、有効成分を含む製品を使用する場合や、肌トラブルに悩んでいる場合は、必ずかかりつけの産婦人科医または皮膚科医に相談してください4。
- パッチテストの実施: 妊娠中は肌が敏感になっています1。新しい製品を使い始める前には、必ず目立たない場所でパッチテストを行い、アレルギー反応が出ないか確認しましょう。
- ミニマリズムの追求: できるだけシンプルな処方の製品を選びましょう。配合成分の種類が少ないほど、リスクを低減できます1。
- 成分表示の精読: 本稿で解説した成分名を参考に、製品の成分表示を注意深く確認する習慣をつけましょう。
4.2. 安全なスキンケア習慣の構築:有益で承認された成分
避けるべき成分を知ることと同じくらい、安全に使用できる有益な成分を知ることも重要です。妊娠中の肌悩みに対応できる、専門家にも支持されている成分を紹介します。
- 保湿成分: ヒアルロン酸8、セラミド21、グリセリン22などは、分子が大きく経皮吸収されにくいため、非常に安全な保湿成分です。肌のバリア機能をサポートし、乾燥から守ります。
- 肌トラブル対策成分: ビタミンC8やアゼライン酸9は、ACOGによって妊娠中に安全に使用できると認められており、色素沈着やニキビの改善に有効です。グリコール酸(AHA)も低濃度であれば安全に使用できるとされています11。
4.3. 日本市場で安全なメイクアップ製品を選ぶ
- ファンデーション: 酸化亜鉛などを主成分とする「ミネラルファンデーション」は、配合成分がシンプルで肌への負担が少ないとされています23。日本のブランドではETVOSやVINTORTEなどが人気です。厚塗りを避け、軽い付け心地のBBクリームなども良い選択です1。
- クレンジング: クレンジング剤による肌への負担を軽減するため、「石けんで落とせる(石けんオフ)」と表示された製品を選ぶことが推奨されます23。これは、産後の赤ちゃんとの触れ合いにおいても安全性が高まります。
4.4. マタニティ向けブランドへの注目:ケーススタディ
市場には、妊娠中や産後の使用を前提として開発されたブランドが存在します。その代表例が、日本のブランド「ナチュラルサイエンス ママ&キッズ」です22。このブランドは、創業者が自身の子供の肌トラブルをきっかけに、新生児から使える低刺激スキンケアを開発したという背景を持ちます24。人気製品「ナチュラルマーククリーム」の成分哲学を分析すると、本稿の予防原則と一致する点が多く見られます25。製品説明では、パラベン、香料、着色料などの不使用が明記され26、一方でヒアルロン酸やセラミドなどの安全性の高い保湿成分が豊富に配合されています21。この事例は、本稿で概説した安全基準を満たす製品が実際に市場で入手可能であることを示しています。
4.5. 妊娠期間を越えて:産後と授乳期の考慮事項
化粧品の安全性は、出産後、そして授乳中も、新たな視点からの注意が必要です。赤ちゃんが母親の肌に塗られた化粧品を舐めたり触れたりする可能性があるため、無香料で石けんで簡単に洗い流せる製品が推奨されます23。また、授乳中も一部の化学物質は母乳に移行する可能性があるため、特にレチノイドのような高リスク成分は、授乳が完了するまで使用を避けることが多くの専門家によって推奨されています5。
第5部:規制の枠組みと専門家の結論
本稿は、妊娠中のメイクアップに関する世界的な科学的知見を整理し、日本の妊婦のための実践的なアドバイスを提供してきました。最終部では、これらの情報を日本の法規制の文脈に位置づけ、最終的な勧告を提示します。
5.1. 日本の「化粧品基準」:法的に要求されること
日本で販売される全ての化粧品は、厚生労働省(MHLW)が定める「化粧品基準」を遵守しなければなりません12。この基準は、配合禁止成分(ネガティブリスト)と、量や目的に制限がある成分(ポジティブリスト)を定めています。例えば、防腐剤として使用されるパラベン類は、合計で1%までという上限が定められています12。この基準は一般消費者に対する安全性の最低ラインを保証するものですが、妊娠という特殊な状態にある女性と胎児に対する、より高いレベルの安全性を保証するために作られたものではありません。
5.2. 最終勧告:規制と予防のギャップを埋める
日本の法規制が許可していることと、国際的な医療専門家が予防的観点から推奨することの間には、いくつかの重要な相違点が存在します。以下の表は、主要な成分に関する日本の規制と、世界的な医学的・科学的な予防的勧告を比較したものです。
成分/成分群 | 日本のMHLW規制(化粧品基準) | 世界的な医学的・科学的予防勧告(ACOG、PubMed研究等に基づく) |
---|---|---|
レチノイド(ビタミンA誘導体) | 医薬品として規制。一般化粧品には通常配合されない。 | 全ての形態(外用・経口)を完全に回避5 |
ハイドロキノン | 医薬品として規制。一般化粧品には配合されない。 | 回避(高い経皮吸収率のため)3 |
高濃度サリチル酸 | 医薬品として規制。 | 回避(ピーリング、経口薬)8 |
パラベン類 | 防腐剤として 合計1.0%まで許可12 | 注意/回避を検討(動物実験での内分泌かく乱作用の懸念から)15 |
ホルムアルデヒド | 「ホルマリン」として 配合禁止12 | 回避 |
ホルムアルデヒド放出剤 | 防腐剤として 一部の種類が上限付きで許可13 | 回避(予防的観点から)11 |
フタル酸エステル類 | 化粧品において 明確な配合禁止・制限なし27 | 回避(特に香料中の含有に注意)14 |
オキシベンゾン(化学吸収剤) | 紫外線吸収剤として 上限付きで許可12 | 回避を推奨(経皮吸収と内分泌かく乱の懸念から)5 |
出典: 参考文献11。この表が示すように、日本の市場で合法的に販売されている製品が、必ずしも妊娠中の使用において最も慎重な選択であるとは限りません。
よくある質問
レチノール配合の市販のアンチエイジングクリームも、本当に完全にやめるべきですか?
妊娠中のシミ(肝斑)が濃くなってきました。ハイドロキノン以外で効果的な対策はありますか?
妊娠してからニキビがひどくなりました。サリチル酸入りの洗顔料も使えませんか?
「無香料」と「香料(天然由来)」の製品では、どちらが安全ですか?
産後・授乳中も、妊娠中と同じように化粧品に気を付けるべきですか?
結論
妊娠中のメイクアップは、決して全面的に禁止されるべきものではありません。それは多くの女性にとって、自己表現であり、心身の健康を保つためのセルフケアの一環です。本稿の目的は、恐怖を煽ることではなく、知識によって女性をエンパワーメントすることにありました。結論として、妊娠中のメイクアップは、適切な知識を持ち、慎重な製品選びを行うことで、安全に楽しむことが可能です。多くの一般的な化粧品は安全に使用できますが、妊娠というユニークで繊細な生理的状態は、通常よりも高い安全基準を求める正当な理由となります。本稿で概説した科学的根拠を理解し、製品の成分表示を注意深く読み、そして最も重要なこととして、かかりつけの産婦人科医や皮膚科医とオープンに対話すること。これらのステップを踏むことで、日本の全ての妊婦が、情報に基づいた自信ある決断を下し、心から安心してマタニティライフの美しさを享受できることを願っています。安全な選択は、制限ではなく、知識から生まれるのです。
この記事は医学的アドバイスに代わるものではなく、症状がある場合は専門家にご相談ください。
参考文献
- 妊娠中のメイクは? – Typology. https://www.typology.jp/library/how-to-apply-makeup-during-pregnancy. 2025年6月14日閲覧.
- Safe Skincare Products To Use During Pregnancy – Advanced Dermatology Care. https://mddermcare.com/safe-skincare-products-to-use-during-pregnancy/. 2025年6月14日閲覧.
- Hydroquinone – StatPearls – NCBI Bookshelf. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK539693/. 2025年6月14日閲覧.
- 妊娠中に「避けるべき&安心して使えるスキンケア成分」とは? 皮膚科医が指南 – Women’s Health. https://www.womenshealthmag.com/jp/wellness/a62585398/pregnancy-safe-skin-care-20251108/. 2025年6月14日閲覧.
- Pregnancy-Safe Skin Care Guide: Ingredients to Avoid. https://www.whattoexpect.com/pregnancy/looking-good/everything-need-know-pregnancy-proof-beauty-routine/. 2025年6月14日閲覧.
- 産婦人科 診療ガイドライン ―産科編 2023 – 公益社団法人 日本産科…. https://www.jsog.or.jp/activity/pdf/gl_sanka_2023.pdf. 2025年6月14日閲覧.
- MORITA Akimichi – Graduate School of Medical Sciences Department of Geriatric and Environmental Dermatology Professor – 名古屋市立大学 研究者データベース. https://nrd.nagoya-cu.ac.jp/profile/en.9bd94beac2eca06f.html. 2025年6月14日閲覧.
- Safe Skincare for Expecting Moms – LiVDerm. https://www.livderm.org/safe-skincare-for-expecting-moms/. 2025年6月14日閲覧.
- An Integrative Approach to Treating Hyperpigmentation in Pregnancy. https://www.jintegrativederm.org/api/v1/articles/92164-an-integrative-approach-to-treating-hyperpigmentation-in-pregnancy.pdf. 2025年6月14日閲覧.
- Is Retinol Safe During Pregnancy? Here’s What You Need to Know – fjör. https://www.fjor.life/blogs/journal/is-retinol-safe-during-pregnancy-here-s-what-you-need-to-know. 2025年6月14日閲覧.
- What is safe to use for pregnancy skin care? – Medical News Today. https://www.medicalnewstoday.com/articles/pregnancy-skin-care. 2025年6月14日閲覧.
- 化粧品基準 – 厚生労働省. https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/keshouhin-standard.pdf. 2025年6月14日閲覧.
- IPCS UNEP/ILO/WHO 国際化学物質簡潔評価文書 Concise International Chemical Assessment Document No.40 Formaldehyde – National Institute of Health Sciences. http://www.nihs.go.jp/hse/cicad/full/no40/full40.pdf. 2025年6月14日閲覧.
- Phthalates: can exposure be avoided during pregnancy? (with Gifs) – Toxic-Free Future. https://toxicfreefuture.org/blog/phthalates-can-exposure-be-avoided-during-pregnancy/. 2025年6月14日閲覧.
- Pregnancy Safe Skincare and Cosmetics – Miscarriage Hope Desk. https://miscarriagehopedesk.org/pregnancy-miscarriage-skincare/. 2025年6月14日閲覧.
- 特定化学物質規制の現状と課題. https://chemical-net.env.go.jp/column_kizuki_uwagawa_onishi.html. 2025年6月14日閲覧.
- 「身近な化学物質」―フタル酸エステル類(プラスチックの可塑剤の一種 – Pillsbury Law. https://japanese.pillsburylaw.com/siteFiles/36169/Legal%20Wire%20116_v2.pdf. 2025年6月14日閲覧.
- 妊娠中や授乳中に避けるべき化粧品成分とは? – Typology. https://www.typology.jp/library/skincare-ingredients-to-avoid-during-pregnancy. 2025年6月14日閲覧.
- 酸化亜鉛/ZINC OXIDE|化粧品全成分|INGREBANK. https://ingrebank.com/users/jsln_ingredients/12881. 2025年6月14日閲覧.
- Can parabens be added to cosmetics without posing a risk to human health? A systematic review of its toxic effects. https://rcfba.fcfar.unesp.br/index.php/ojs/article/download/706/662/. 2025年6月14日閲覧.
- Mama&Kids Natural Mark Cream Regular Size – Panda Kids and Baby. https://pandakids.com.au/products/mama-kids-natural-mark-cream-made-in-japan. 2025年6月14日閲覧.
- 【徹底比較】妊娠線予防クリームのおすすめ人気ランキング【ドラストで買える市販品も!2025年6月】 | マイベスト. https://my-best.com/2726. 2025年6月14日閲覧.
- 【薬剤師ママ徹底解説】赤ちゃんが舐めても安心なファンデーションBest7 – 東京ママLIFE. https://mama-katsu.com/life/baby-safe-foundation/. 2025年6月14日閲覧.
- 敏感肌向け低刺激スキンケア・化粧品通販のナチュラルサイエンス. https://www.natural-s.jp/. 2025年6月14日閲覧.
- 【助産師が解説】おすすめの妊娠線予防クリームはどれ?塗り方や使用時期も解説. https://www.kusurinomadoguchi.com/column/articles/stretch-marks-cream-pickup/. 2025年6月14日閲覧.
- Mama&Kids Natural Mark Cream – Ichiban Mart. https://ichibanm.com/products/mama-kids-natural-mark-cream. 2025年6月14日閲覧.
- 可塑剤の規制動向について. http://www.kasozai.gr.jp/regulatory/. 2025年6月14日閲覧.