妊娠中の杏(あんず)は大丈夫?管理栄養士が推奨量・注意点・妊婦に嬉しい栄養効果を徹底解説!
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妊娠中の杏(あんず)は大丈夫?管理栄養士が推奨量・注意点・妊婦に嬉しい栄養効果を徹底解説!

妊娠中は、お腹の赤ちゃんの健康を第一に考え、日々の食事に細心の注意を払う方が多いでしょう。古くから親しまれている果物「杏(あんず)」も、その甘酸っぱい味わいから食べたくなったものの、「妊娠中に食べても大丈夫なのだろうか?」と疑問に思うかもしれません。この記事では、JAPANESEHEALTH.ORG編集委員会が、妊娠中の杏の摂取に関する安全性、妊婦さんと赤ちゃんに嬉しい栄養効果、適切な摂取量、そして最も重要な注意点について、科学的根拠と専門家の見解に基づき、徹底的に解説します。安心してマタニティライフを送るための一助となれば幸いです。

要点まとめ

  • 杏の「果実」は安全:専門家の一般的な見解として、妊娠中に杏の果肉を適量食べることは安全であり、栄養豊富な食事の一部として推奨されています12
  • 豊富な栄養素:杏には、胎児の成長に重要なβ-カロテン(ビタミンA)、便秘解消を助ける食物繊維、むくみ対策に役立つカリウム、そして貧血予防に必要な鉄分などが豊富に含まれています567
  • 【絶対禁止】杏の「仁」は猛毒:果実の中の硬い種の中にある「仁(じん)」には、猛毒のシアン化合物を生成するアミグダリンが含まれており、絶対に食べてはいけません。少量でも深刻な中毒症状を引き起こす危険性があります2023
  • ドライフルーツは注意が必要:ドライあんずは栄養が凝縮されていますが、糖分とカロリーも高いため、特に妊娠糖尿病のリスクがある方は食べ過ぎに注意し、摂取量を管理することが重要です1
  • 専門家への相談が最も重要:最終的には、個人の健康状態に合わせて食事を調整することが不可欠です。不安な点があれば、必ずかかりつけの医師や管理栄養士に相談してください8

まず結論:妊娠中に杏の「果実」は食べても良い?専門家の見解

多くの妊婦さんが抱くこの疑問に対して、まず結論からお伝えします。科学的および専門家の一般的な見解として、杏の「果実」の部分は、妊娠中の女性がバランスの取れた食事の一環として摂取する上で、概ね安全で有益であると考えられています1。この安心できる情報が、本記事の基本となります。複数の情報源がこの立場を裏付けており、ある資料では「杏は妊婦が食べても問題ない」と明確に述べられています1。さらに、ザクロやオレンジなどと並び、妊娠中に摂取することが推奨される果物の一つとして挙げられており、妊婦と赤ちゃんの両方に利益をもたらす健康的な食事の一部とされています2

専門機関・研究による一般的な安全性評価

妊婦さんは、お腹の赤ちゃんの健康を守るため、食品の選択に非常に慎重になるのは当然のことです。杏の果実の安全性については、その食用部分に焦点が当てられています。このアプローチは、一般的に消費される果肉の安全性を最初に確立し、読者の信頼を築く上で重要です。信頼の構築は、特に健康情報を提供する上でE-E-A-T(経験、専門性、権威性、信頼性)の根幹をなす要素です462。果肉の安全性を明確にすることで、後に続く摂取量や生の果物とドライフルーツの違い、そして植物の他の部分(特に種子)に伴う重大な警告といった、より詳細な情報を読者が受け入れやすくなります。

妊娠中の食事における果物の重要性

妊娠中の健康的な食事において、果物は不可欠な要素です。厚生労働省が示す「妊産婦のための食事バランスガイド」でも、果物はビタミン、ミネラル、食物繊維の重要な供給源として、バランスの取れた食事を構成する5つの食品グループの一つに位置づけられています7550。杏をはじめとする多様な果物を食事に取り入れることは、母体が必要とする栄養素を補い、胎児の健やかな発育をサポートするために極めて重要です。

妊婦さんとお腹の赤ちゃんに嬉しい!杏(あんず)の主な栄養素とその効果

杏は、生のままでも乾燥させたものでも、母体と胎児の健康に貢献するビタミン、ミネラル、その他の有益な化合物を豊富に含んでいます485。これらの栄養素が妊娠中にどのような役割を果たすのか、具体的に見ていきましょう。

表1:杏の栄養価(生 vs ドライ 100gあたり)
栄養素 生の杏 (100gあたり) ドライあんず (100gあたり) (注1) 妊娠中の主な役割
エネルギー (Energy) 48 kcal3 高い (Higher) 母体と胎児の活動エネルギー源
たんぱく質 (Protein) 1.4 g3 比較的高い (Relatively Higher) 胎児の体組織形成、母体の組織維持
脂質 (Fat) 0.39 g3 低い (Low) エネルギー源、脂溶性ビタミン吸収
炭水化物 (Carbohydrates) 11 g3 非常に高い (Very High) 主要なエネルギー源
– 糖類 (Sugars) 9.2 g3 非常に高い (Very High) エネルギー源 (注意:過剰摂取は血糖値上昇リスク)
– 食物繊維 (Dietary Fiber) 2.0 g3 高い (Higher) 便秘予防・改善、血糖値上昇抑制12
ビタミンA (RAE) 96 µg3 高い (Higher) 胎児の成長、視覚機能、免疫機能1
ビタミンC 10 mg3 変動あり (Variable) 鉄分吸収促進、免疫機能維持、抗酸化作用2
葉酸 (Folate) 9 µg3 変動あり (Variable) 胎児の神経管閉鎖障害リスク低減(サプリメントでの補給が重要)8
カリウム (Potassium) 259 mg3 非常に高い (Very High) 体内水分バランス調整、むくみ軽減、血圧調整5
鉄 (Iron) 0.39 mg3 高い (Higher)6 貧血予防、胎児への酸素供給、成長支援9
カルシウム (Calcium) 13 mg3 変動あり (Variable) 胎児の骨・歯の形成、母体の骨の健康維持2

(注1: ドライあんずの正確な100gあたりの数値は、製品や乾燥度合いにより大きく変動します。一般的に生の果実より栄養素が凝縮されますが、糖分とカロリーも高くなります。購入時に栄養成分表示を確認しましょう。)

β-カロテン(体内でビタミンAに変換):赤ちゃんの成長とママの健康維持に

ビタミンAの役割と妊娠中の必要性

杏はβ-カロテンの優れた供給源です5。β-カロテンは体内で必要な分だけビタミンAに変換されます。ビタミンAは、胎児の細胞増殖、視覚の発達、免疫機能の構築、そして健康な皮膚や粘膜の維持に不可欠な栄養素です1。赤ちゃんの健やかな成長を多方面から支える重要な役割を担っています。

β-カロテンからの摂取と過剰摂取リスクについて(厚生労働省の注意喚起)

妊娠中のビタミンA摂取には注意が必要です。特にサプリメントやレバーなどに多く含まれる動物性のレチノール(ビタミンA)を過剰に摂取すると、妊娠初期において胎児の先天異常のリスクを高める可能性があると、厚生労働省も注意を喚起しています78。しかし、杏のような果物や野菜に含まれるβ-カロテンは、体が必要に応じてビタミンAに変換するため、過剰摂取のリスクは低いとされています。したがって、β-カロテンからのビタミンA摂取は比較的安全な方法と言えます。

食物繊維:妊娠中の便秘解消をサポート

妊娠中はホルモンバランスの変化や、大きくなる子宮による腸の圧迫が原因で、便秘に悩まされる方が少なくありません493。杏、特にその皮には食物繊維が豊富に含まれています1。食物繊維は、腸の動きを活発にし、便通を促すことで便秘の予防・改善に役立ちます5。さらに、妊娠中の耐糖能異常のリスクを低減する可能性も示唆されています2

カリウム:むくみ対策と体内の水分バランス調整

カリウムは、体内の水分バランスや電解質バランスを維持し、正常な神経機能や筋肉の収縮をサポートする必須ミネラルです495。また、余分なナトリウム(塩分)の排出を促す働きがあり、妊娠中に起こりやすい「むくみ」の軽減に役立つ可能性があります5。血圧の調整にも関与しており、母体の健康維持に貢献します。

鉄分:貧血予防と赤ちゃんの成長に不可欠

妊娠中の鉄分不足のリスク

妊娠中は、母体の血液量が増加し、胎児への酸素供給や成長を支えるために、鉄分の必要量が大幅に増加します29。鉄分が不足すると、母体が貧血になりやすく、めまいや息切れ、疲労感などの症状が現れることがあります。重度の貧血は、胎児の発育にも影響を及ぼす可能性があるため、十分な鉄分摂取が極めて重要です。

杏からの鉄分摂取と他の鉄分豊富な食品

特にドライあんずは、鉄分の良い供給源として知られています6。おやつとして手軽に鉄分を補給できる便利な食品です。ただし、杏だけで妊娠中に必要な鉄分をすべて補うことは難しいため、赤身の肉や魚、大豆製品、緑黄色野菜など、他の鉄分豊富な食品と組み合わせて、バランスの取れた食事を心がけることが大切です。

葉酸:赤ちゃんの神経管閉鎖障害リスク低減に重要

妊娠初期の葉酸の特に重要な役割

葉酸(ビタミンB9)は、妊娠のごく初期段階において、胎児の脳や脊髄の基となる神経管の正常な発達に不可欠な栄養素です8。この時期に葉酸が不足すると、神経管閉鎖障害(NTDs)という先天異常のリスクが高まることが知られています。そのため、妊娠を計画している段階から妊娠初期にかけて、特に意識して摂取することが推奨されています。

杏に含まれる葉酸量と厚生労働省の推奨するサプリメント摂取

杏にも葉酸は含まれていますが(生の果実100gあたり9µg3)、妊娠中に大幅に増加する葉酸の必要量を満たすための主要な供給源とは言えません491。厚生労働省は、食事からの葉酸摂取に加えて、妊娠を計画している女性や妊娠初期の女性に対し、サプリメントから1日400µgの葉酸を摂取することを強く推奨しています710。杏はあくまで食事全体の葉酸摂取に貢献するものと位置づけ、公式のガイドラインに従ったサプリメントの利用を基本とすることが重要です。

ビタミンC:免疫力アップと鉄分の吸収促進

ビタミンCは、妊娠中にストレスがかかりやすい免疫システムをサポートする抗酸化物質としてよく知られています497。さらに重要な役割として、杏のような植物性食品に含まれる「非ヘム鉄」の吸収を高める働きがあります2。鉄分を多く含む食品とビタミンCが豊富な食品を一緒に摂ることで、鉄の吸収率を効率的に上げることができます。

その他(クエン酸、リコピンなど)

杏には、疲労回復を助けるとされるクエン酸や、細胞をダメージから守る抗酸化物質であるリコピンなども含まれており5、これらの成分も総合的に妊婦さんの健康維持に貢献します。

健康に関する注意事項

  • 本記事で紹介する栄養素の効果は、杏が万能薬であることを意味するものではありません。あくまでバランスの取れた食事の一部として、他の食品と組み合わせて摂取することが重要です。
  • 特定の栄養素の不足が懸念される場合や、サプリメントの利用を検討する場合は、自己判断せず、必ず医師や管理栄養士にご相談ください。

【超重要・危険】杏の「仁(じん)」や種は絶対に食べないで!

ここからは、杏に関する最も重要な安全情報です。安全で食用に適した杏の「果肉」と、硬い殻の中にある「仁(じん)」(種、核、ピットとも呼ばれる)とを、明確かつ強調して区別することが絶対に不可欠です。この仁は非常に有毒です531

表2:杏の果肉 vs 杏の仁(種)- 安全性のまとめ
特徴 杏の果肉 杏の仁・種 (“Jin”)
部位 果物の食べられる柔らかい部分 硬い殻の中にある種子
主な含有成分 ビタミン、ミネラル、食物繊維など2 アミグダリン(シアン配糖体)20
妊娠中の安全性 一般的に安全で栄養価が高い1 極めて危険、摂取禁止23
体内での変化 栄養として吸収・利用される アミグダリンが分解され、猛毒のシアン化水素(青酸)を生成20
主な警告 適量をバランス良く摂取 絶対に食べてはいけない。少量でも中毒を起こし、最悪の場合死に至る可能性。特に妊婦・乳幼児は厳禁。23
備考 果物として広く食される 「ビタミンB17」や「がん治療」といった誤った情報で販売されることがあるが、科学的根拠はなく危険。20

仁(種の中身)に含まれる有害物質「アミグダリン」とは?

杏の仁には、「アミグダリン」という天然の化合物が含まれています20。これはシアン配糖体の一種です。このアミグダリン自体は直接有毒ではありませんが、摂取されると体内の酵素(または仁自体が傷つくことで放出される酵素)によって分解され、猛毒であるシアン化水素(HCN)、一般に「青酸」として知られる物質を生成します20

アミグダリンから生成される「シアン化水素」の毒性

シアン化水素は、細胞の呼吸を阻害することで毒性を発揮する、強力で即効性のある毒物です20。急性シアン化物中毒の症状は深刻で、吐き気、嘔吐、頭痛、めまい、発熱、不眠、喉の渇き、無気力、神経過敏、錯乱、筋力低下、関節痛、血圧低下などが現れ、重篤な場合にはけいれん、呼吸困難、昏睡状態を経て死に至ることもあります22

海外保健機関(EFSA等)からの明確な警告と摂取許容量

主要な保健・食品安全機関は、生の杏の仁の摂取について強力な警告を発しています。欧州食品安全機関(EFSA)はリスク評価を行い、明確な指針を示しています。

  • EFSAは、成人が一度に生の小さな杏の仁を3個以上、または大きな仁を半分以上食べると安全なレベルを超える可能性があると述べています23535
  • 幼児の場合、小さな杏の仁を1個食べただけでも安全レベルを超える危険性があると警告しています23
  • EFSAは、シアン化物の急性参照用量(ARfD)を体重1kgあたり20マイクログラム(µg)と設定しています22。ARfDとは、短期間(例:1回の食事や1日)に摂取しても健康への悪影響が認められないとされる物質の量です。

「ビタミンB17」や「がんに効く」という誤情報に注意

危険性をさらに増しているのが、杏の仁をめぐる根強い誤情報です。アミグダリンは「レートリル」や「ビタミンB17」といった名称で、がんの代替治療薬として誤って宣伝されてきました20。これらの主張は、信頼できる臨床試験による科学的根拠に裏付けられておらず、主要な保健機関はがん治療への使用を推奨していません。このような未証明の治療法に頼ることは、効果的な医療を受ける機会を遅らせ、シアン化物中毒のリスクに加えて、生命を脅かす結果につながる可能性があります20

【再確認】食べるのは安全な「果肉」部分のみ

繰り返し強調しますが、毒性に関する警告は、特に仁(種子)に関するものであり、一般的に食べられている杏の果肉に関するものではありません。EFSAも「杏の果実を通常通り摂取しても、消費者に健康リスクをもたらすことはない。仁は杏の硬い殻の中にある種子であり、殻を割って取り出されるため、果実とは接触しない」と明確に述べています23。この情報を明確に区別し、危険な仁と栄養豊富な果実を混同して、有益な果物を避けてしまうことがないようにすることが極めて重要です。

生の杏とドライあんず(干しあんず):どちらが良い?メリット・デメリット

杏は生のままでも、乾燥させたドライフルーツとしても楽しめます。妊娠中の食事として、それぞれにメリットとデメリットがあるため、両方の特徴を理解し、バランスよく取り入れることが大切です。

生の杏の特徴:水分豊富でフレッシュな味わい

生の杏は水分が多く、カロリーや糖分が1食分あたり比較的低いのが特徴です。そのため、体重管理や糖質摂取を気にしている方には、より軽い選択肢となります503。旬の時期には、フレッシュで自然な甘酸っぱさを楽しむことができます。長野県などの産地では、「平和」や「昭和」といった伝統的な品種や、生食に向く甘い「ハーコット」などが栽培されています29

ドライあんず(干しあんず)の特徴:栄養凝縮、でも糖分に注意

ドライあんずの栄養的メリット(鉄分、食物繊維など)

ドライあんずは、水分を飛ばすことで栄養素が凝縮されています。特に鉄分や食物繊維が豊富で、効率的にこれらの栄養素を摂取したい場合に便利なおやつです26。また、ある研究では、妊娠中の女性がドライフルーツ(杏、レーズン、プルーンなどを含む)を摂取することが、早産のリスク低下と関連している可能性が示唆されました12。これは興味深い知見ですが、確定的な結論ではなく、さらなる研究が必要な段階であると理解しておくべきです。

ドライあんずの注意点:カロリー、糖分の過剰摂取リスク、血糖値への影響

ドライあんずの最も大きな注意点は、糖分とカロリーが非常に高いことです。大量に食べると血糖値の急激な上昇を招く可能性があり、特に妊娠糖尿病のリスクがある方や診断された方は慎重になる必要があります1。過剰な摂取は、体重増加や虫歯の原因にもなり得ます。一般的なナッツやドライフルーツの摂取目安として1日100グラム以下という指針もありますが13、妊娠中はより少ない量で満足することが賢明です。

ドライあんずに使われる保存料(亜硫酸塩)の安全性について

多くのドライフルーツには、色を保ち、保存期間を延ばすために、二酸化硫黄などの亜硫酸塩が保存料として使用されています14。米国食品医薬品局(FDA)は、亜硫酸塩を一般的に安全と認められる(GRAS)物質として分類しています14。カリフォルニア州環境保健有害性評価局(OEHHA)の評価でも、ドライフルーツの摂取による二酸化硫黄への曝露は、健康リスクをもたらすレベルを下回る可能性が高いと結論付けられています513。ただし、喘息を持つ方など、ごく一部の人は亜硫酸塩に過敏な反応を示すことがあります14。ほとんどの人にとっては安全ですが、心配な場合は、亜硫酸塩不使用やオーガニックの製品を選ぶという選択肢もあります。

妊娠中の杏、どのくらい食べていい?1日の摂取目安量

「杏は1日に何個まで?」という疑問に対する万能な答えはありません。個々の健康状態や全体的な食事内容によって適切な量は変わるためです。しかし、公的なガイドラインを参考に、目安を考えることはできます。

厚生労働省「妊産婦のための食事バランスガイド」における果物の位置づけ

日本の妊婦さんにとって最も権威のある指針は、厚生労働省の「妊産婦のための食事バランスガイド」です7523。このガイドでは、杏を単独で考えるのではなく、1日の「果物」全体の摂取量の中で捉えることを推奨しています。ガイドによると、妊娠中期(16〜28週)と後期(28週以降)には、非妊娠時の推奨量に加えて、それぞれ1サービング(SV)ずつ果物を追加することが勧められています18

表3:厚生労働省による妊娠中の主な栄養素の付加量推奨
栄養素 / 期間 妊娠初期 (付加量) 妊娠中期 (付加量) 妊娠後期 (付加量) 主な目的 出典
エネルギー (Energy) +50 kcal/日 +250 kcal/日 +450 kcal/日 胎児の発育、母体の基礎代謝亢進に対応 18, MHLW DRIs
葉酸 (Folic Acid) (※2) +400 µg/日 +240 µg/日 +240 µg/日 神経管閉鎖障害リスク低減(初期)、造血、細胞分裂 10
鉄 (Iron) (※3) +2.5 mg/日 +9.5 mg/日 +9.5 mg/日 血液量増加に伴う需要増、胎児への供給、貧血予防 11
ビタミンA (RAE) (※4) 付加なし 付加なし +80 µgRAE/日 胎児の成長、視覚機能 11
カルシウム (Calcium) 付加なし 付加なし 付加なし 胎児の骨・歯の形成、母体の骨量維持(ベースの摂取量が重要) 11, MHLW DRIs

(※2: 妊娠初期の+400µgは、通常の食事からの摂取(240µg/日)に加え、主にサプリメント等からの摂取が推奨される。)
(※3: 月経ありの女性の推奨量に加算。)
(※4: ビタミンAの過剰摂取(特にサプリメントやレバーから)には注意が必要。βカロテンからの摂取は比較的安全。)

1日の果物摂取目安量(全体)と杏の位置づけ

農林水産省が一般向けに示す1日の果物摂取目安量は200gです5。これを杏に換算すると、1個50-60gとして3〜4個程度が目安と考えられます。妊娠中はこれに加えて、前述の通り中期・後期で摂取量を増やすことが推奨されています。杏は、この果物全体の摂取量の一部として楽しむのが良いでしょう。

生の杏の場合の目安

いくつかの情報源では、1日に1〜2個の生の杏を目安とする提案がありますが、これはあくまで一般的な指針であり、医師への相談が前提とされています1。他の果物とのバランスを考えながら取り入れることが重要です。

ドライあんずの場合の目安と注意点

ドライあんずは栄養が凝縮されている反面、糖分とカロリーが高いため、生の杏よりも少ない量に留めるべきです。手のひらに軽く一杯程度など、少量で満足するように心がけ、特に血糖値が気になる方は慎重に摂取量を決めましょう。

個々の体調や状況に合わせた調整と医師への相談の重要性

最終的に、最も重要なのは、これらの一般的な数値を鵜呑みにせず、ご自身の体調(例えば、妊娠糖尿病のリスク、体重管理の目標など)に合わせて摂取量を調整することです。食事に関する不安や疑問がある場合は、自己判断でサプリメントを摂取したりせず、必ずかかりつけの医師、助産師、または管理栄養士に相談してください1819。これが、安全で健康的なマタニティライフを送るための最も確実な方法です。

妊娠中に杏を食べる際のその他の注意点

杏を安全に楽しむために、栄養面以外にもいくつか注意すべき点があります。

よく洗ってから食べる(特に生の果物)

生の果物全般に言えることですが、食べる前には流水でよく洗いましょう。果物の表面には、農薬や汚れ、細菌が付着している可能性があります。英国の国民保健サービス(NHS)なども、妊娠中の食事において果物や野菜を十分に洗浄することを推奨しています26

アレルギーの可能性(バラ科果物アレルギーなど)

杏は、桃やリンゴ、さくらんぼなどと同じバラ科の植物です。これらの果物に対してアレルギーがある方は、杏にもアレルギー反応(口腔アレルギー症候群など)を示す可能性があります1。これまでアレルギーの経験がない方でも、妊娠中は体質が変化することがあります。もし杏を食べて口の中のかゆみや違和感などを感じた場合は、すぐに食べるのをやめて医師に相談してください。

体調がすぐれない時、不安な時は医師に相談

つわりで食欲がない時や、特定の食品を食べた後に体調が悪くなるなど、少しでも不安を感じることがあれば、無理に食べる必要はありません。妊娠中の食事に関するあらゆる懸念は、専門家である医師や管理栄養士に相談することが最善の策です。

「妊娠中の食事や健康に関するご懸念は、必ずかかりつけの医師、助産師、または管理栄養士にご相談ください。」

– JAPANESEHEALTH.ORG 編集委員会

妊娠中でも安心!杏(あんず)を使った簡単レシピ例(果実のみ使用)

杏の果実を安全かつ美味しく食事に取り入れるための、簡単なレシピをいくつかご紹介します。もちろん、使用するのは安全な果肉部分のみです。

あんずのコンポート

生の杏を半分に割り、種を取り除きます。鍋に杏、少量の水、お好みの甘味料(砂糖やオリゴ糖など)を入れ、弱火で柔らかくなるまで煮ます。ヨーグルトに添えたり、そのままデザートとして楽しめます1

あんずジャム

細かく刻んだ杏と砂糖を鍋に入れ、弱火でじっくり煮詰めます。レモン汁を少し加えると、色鮮やかに仕上がります。パンやクラッカーに塗って、手軽な朝食やおやつになります128

あんずのシロップ

杏と氷砂糖を交互に瓶に詰め、時間が経つのを待ちます。出来上がったシロップは、炭酸水で割って爽やかなドリンクにしたり、お菓子作りに活用したりできます1

よくある質問

妊娠中にドライあんずを食べ過ぎるとどうなりますか?
ドライあんずは食物繊維や鉄分が豊富ですが、糖分とカロリーも非常に高い食品です1。食べ過ぎると、急激な血糖値の上昇を引き起こす可能性があり、特に妊娠糖尿病のリスクがある方や、診断されている方は注意が必要です。また、過剰なカロリー摂取は不必要な体重増加につながることもあります。1日の摂取量は少量に留め、バランスの取れた食事の一部として楽しむことが重要です。
杏の種の「アミグダリン」は加熱すれば安全になりますか?
いいえ、安全にはなりません。杏の仁に含まれるアミグダリンは、加熱によって多少分解される可能性はありますが、完全に無毒化される保証はありません。シアン化合物を生成するリスクが残るため、加熱したものであっても杏の仁(種)や、それを使用した製品(杏仁豆腐など、風味付けに仁が使われることがある伝統的なもの)の摂取は絶対に避けるべきです2023。市販の杏仁豆腐の多くは安全なアーモンドエッセンス等を使用していますが、原料が不明な場合は避けるのが賢明です。
杏を食べれば、葉酸サプリは飲まなくても大丈夫ですか?
いいえ、大丈夫ではありません。杏には葉酸が含まれていますが、その量はごくわずかです(生100gあたり約9µg3)。厚生労働省は、胎児の神経管閉鎖障害のリスクを低減するため、妊娠初期の女性に対して食事からの240μgに加えて、サプリメントから1日400µgの葉酸を摂取することを推奨しています10552。杏を含む食事だけでこの推奨量を満たすことは不可能であり、葉酸サプリメントの代わりにはなりません。必ず医師の指導のもと、適切なサプリメントを利用してください。
妊娠中の便秘に、杏はどのくらい効果がありますか?
杏、特にドライあんずは食物繊維を豊富に含んでいるため、便秘の予防や改善に役立つ可能性があります12。食物繊維は便の量を増やし、腸の動きを刺激します。しかし、効果には個人差があります。便秘解消には、杏だけでなく、他の果物や野菜、全粒穀物など多様な食品から食物繊維を摂り、十分な水分補給と適度な運動を組み合わせることが最も効果的です。
「あんず」という名前の有名人がいますが、何か関係はありますか?
女優の杏(あん)さん(本名:渡辺杏さん)は、広く知られている著名人です。彼女が妊娠・出産を公表したこともあり、「杏」という名前と妊娠というテーマが結びついて連想されることがあるかもしれません30。これは、杏という果物が日本の文化に根付いていることを示す興味深い点ですが、本記事で解説している栄養学的な内容とは直接の関係はありません。

結論

本記事を通じて、妊娠中の杏の摂取に関する様々な側面を掘り下げてきました。結論として、以下の点を改めて強調します。

  • 杏の「果実」は、適量であれば安全で栄養価が高い。β-カロテン、食物繊維、カリウム、鉄分など、妊婦さんと赤ちゃんの健康をサポートする多くの栄養素を含んでいます2
  • 絶対に食べてはならないのは、猛毒を含む杏の「仁(種)」。この区別は、安全のために最も重要です23
  • ドライあんずは、栄養が凝縮されている一方で糖分とカロリーが高いため、摂取量には注意が必要です。特に体重や血糖値の管理が求められる場合は慎重に1
  • 全ての食事の基本はバランスです。杏を食事に取り入れる際は、厚生労働省の「妊産婦のための食事バランスガイド」を参考に、多様な食品と組み合わせましょう7
  • そして何よりも、個々の健康状態が最優先です。食事に関する疑問や不安があれば、自己判断せずに、必ずかかりつけの医師や管理栄養士といった専門家に相談してください8

正しい知識を持って、杏(あんず)を上手に食生活に取り入れ、心穏やかで健康なマタニティライフをお送りください。

免責事項
この記事は情報提供を目的としており、医学的アドバイスに代わるものではありません。症状がある場合は専門家にご相談ください。

参考文献

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  30. 杏 第3子を妊娠 初夏ごろが予定日か – デイリースポーツ. [インターネット]. [引用日: 2025年6月12日]. 以下より入手可能: https://www.daily.co.jp/gossip/2017/04/01/0010054617.shtml
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