妊娠中の黄疸・かゆみ・腹痛:原因と危険なサイン
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妊娠中の黄疸・かゆみ・腹痛:原因と危険なサイン

妊娠中に黄疸や激しいかゆみ、お腹の痛みといった症状が現れると、誰でも大きな不安を感じるものです。これらの症状は、時として母体や胎児の健康に深刻な影響を及ぼす可能性のある、見過ごすことのできないサインかもしれません。この記事の目的は、日本の妊婦とそのご家族が直面するこのような不安に対し、最新かつ最も信頼性の高い医学的ガイドラインに基づいた、明確で権威ある情報を提供することです。JapaneseHealth.org編集委員会は、症状の背景にある疾患、特に妊娠性肝内胆汁うっ滞症(ICP)、HELLP症候群、急性妊娠脂肪肝(AFLP)といった、迅速な対応を要する可能性のある状態について、その診断、リスク、そして最新の治療法を徹底的に解説します。知識は、あなたとあなたの赤ちゃんを守るための最も強力なツールです。この記事を通じて、ご自身の状態を正しく理解し、適切なタイミングで医療機関を受診するための一助となれば幸いです。

本記事の科学的根拠

本記事は、引用された研究報告書で明示されている最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下に示すリストには、実際に参照された情報源のみを、提示された医学的ガイダンスとの直接的な関連性と共に記載しています。

  • 日本産科婦人科学会(JSOG): 本記事におけるHELLP症候群や急性妊娠脂肪肝(AFLP)の管理に関する推奨は、同学会が発行する「産婦人科診療ガイドライン―産科編2023」に準拠しています5。これは日本国内における標準治療の基盤です。
  • 米国産科婦人科学会(ACOG)/母体胎児医学会(SMFM): 妊娠性肝内胆汁うっ滞症(ICP)の管理、特に総胆汁酸値に基づいた具体的な分娩時期の推奨については、これらの学会が共同で発行したガイドラインに基づいています6
  • BMJ Best Practice: HELLP症候群の重症度分類(テネシー分類・ミシシッピ分類)に関する詳細な解説は、世界的に利用されているこの臨床意思決定支援リソースからの情報を基にしています8
  • 国立成育医療研究センター(NCCHD): 妊娠高血圧症候群やHELLP症候群に関する患者向けの分かりやすい解説は、同センターが提供する情報を参考に、臨床的な正確性を担保しつつ平易な言葉で記述しています2
  • 高インパクト医学雑誌(The Lancet, PubMed Centralなど): 急性妊娠脂肪肝の診断基準(スウォンジー基準)や各疾患の予後に関する最新の知見は、これらのプラットフォームで公開されている主要なシステマティックレビューや研究論文に基づいています41422

要点まとめ

  • 妊娠中の黄疸、持続する激しいかゆみ、強い腹痛は、精査が必要な危険なサインである可能性があります。
  • 妊娠特有の肝疾患には、主に胎児へのリスクが高い「妊娠性肝内胆汁うっ滞症(ICP)」と、母体・胎児ともに生命を脅かす「HELLP症候群」「急性妊娠脂肪肝(AFLP)」があります。
  • ICPの主な症状は「激しいかゆみ」、HELLP症候群やAFLPでは「強い腹痛や吐き気」が特徴的ですが、症状は重複することがあります。
  • HELLP症候群とAFLPは、診断が確定すれば、妊娠週数に関わらず直ちに分娩(妊娠の終了)が最も重要な治療となります。
  • これらの疾患の診断には専門的な血液検査が不可欠です。危険なサインに気づいた場合は、決して自己判断せず、直ちに医療機関を受診してください。

妊娠中の黄疸を理解する – 基礎知識

妊娠という喜ばしい期間中に、予期せぬ体調の変化が起こると不安になるものです。その中でも「黄疸」は、特に注意が必要な症状の一つです。ここでは、まず黄疸の基本的な知識と、妊娠中にそれがなぜ起こりうるのかを解説します。

黄疸(おうだん)とは何か?

黄疸とは、血液中の「ビリルビン」という黄色い色素が増加し、皮膚や眼球の白目の部分(結膜)が黄色く染まって見える状態を指します28。ビリルビンは、古くなった赤血球が分解される過程で生成され、通常は肝臓で処理されて体外へ排出されます。しかし、何らかの原因で肝臓の機能が低下したり、胆汁の流れが滞ったりすると、ビリルビンが体内に蓄積し、黄疸として現れるのです17

妊娠中の黄疸はすべて危険か?

妊娠中はホルモンバランスの変化などにより、肝機能に軽度の変動が見られることがあります。しかし、MSDマニュアルによると、明らかな黄疸や持続するかゆみは常に異常な所見であり、詳細な医学的調査が必要です18。妊娠中の黄疸は、比較的心配のない生理的な変化から、母体や胎児の生命に関わる重篤な疾患のサインまで、その原因は多岐にわたります。そのため、原因を正確に特定することが極めて重要です。
国際的な産婦人科の学術誌『International Journal of Reproduction, Contraception, Obstetrics and Gynecology』に掲載された研究によれば、妊娠中の黄疸の原因は大きく二つに分類できます3

  • 妊娠に特有の疾患:妊娠自体が直接的な原因となるもので、本記事で詳しく解説する妊娠性肝内胆汁うっ滞症(ICP)、HELLP症候群、急性妊娠脂肪肝(AFLP)、そして重度のつわりである妊娠悪阻などが含まれます。
  • 妊娠偶発性の疾患:妊娠とは直接関係なく、偶然その時期に発症する疾患です。ウイルス性肝炎、胆石症、薬剤性肝障害などがこれにあたります。
表1:妊娠中の黄疸の主な原因の概要
分類 主な疾患 特徴
妊娠特有の疾患 妊娠性肝内胆汁うっ滞症 (ICP) 激しいかゆみが主症状。胎児へのリスクが懸念される。
HELLP症候群 右上腹部痛、吐き気などが主症状。母子ともに危険性が高い。
急性妊娠脂肪肝 (AFLP) 吐き気、倦怠感から急速に肝不全へ。極めて重篤。
妊娠悪阻 重度のつわりに伴い、軽度の肝機能障害や黄疸が見られることがある。
妊娠偶発性の疾患 ウイルス性肝炎 (A, B, C, E型など) 特にE型肝炎は妊娠中に重症化しやすいとされる18
胆石症 妊娠中はホルモンの影響で胆石ができやすくなる17
薬剤性肝障害 服用している薬剤が原因で肝臓に障害が起こる。

妊娠特有の肝疾患(本記事の核心)

ここからは、本記事の核心である、妊娠に特有の肝疾患について、一つずつ詳しく解説していきます。これらの疾患は症状が似ている場合もありますが、その重症度や対処法は大きく異なります。正しい知識を持つことが、迅速な対応につながります。

妊娠性肝内胆汁うっ滞症(ICP / Intrahepatic Cholestasis of Pregnancy)

妊娠性肝内胆汁うっ滞症(Intrahepatic Cholestasis of Pregnancy、以下ICP)は、妊娠中にのみ発症する一過性の肝疾患です。母体へのリスクは限定的ですが、胎児にとっては深刻な事態を引き起こす可能性があるため、正確な診断と適切な管理が非常に重要です。

疾患概要と有病率

ICPは、肝臓からの胆汁の流れが悪くなることで、胆汁の成分(特に胆汁酸)が血液中に逆流し、激しいかゆみ(掻痒)と肝機能検査値の異常を引き起こす疾患です6。厚生労働省の研究班報告によると、日本では比較的まれな疾患とされていますが9、世界的には地域差が大きく、特定の民族では有病率が高いことが知られています。

症状

最も特徴的で、ほぼすべての患者に見られる症状は、妊娠中期から後期にかけて発症する、手のひらや足の裏を中心とした、夜間に悪化する激しいかゆみです。このかゆみは、しばしば睡眠を妨げるほど強烈です。The Lancet誌に掲載された研究によると、黄疸が見られるのは約15%と比較的まれで、見られても軽度であることが多いと報告されています14

リスク:母体より胎児への影響が重大

ICPにおける最大のリスクは、母体ではなく胎児にあります。米国母体胎児医学会(SMFM)のガイドラインでは、血中の総胆汁酸(TBA)値が高いほど、以下のような胎児へのリスクが高まることが示されています6

  • 早産
  • 胎便吸引症候群(胎児が子宮内で排泄した便を吸い込んでしまう状態)
  • 突然の胎児死亡(特に妊娠末期)

一方で、母体へのリスクは主に激しいかゆみによる生活の質(QOL)の低下であり、通常、出産後数週間以内に症状と肝機能は正常に戻ります14

診断と管理

診断は、特徴的なかゆみの症状と、血液検査による血清総胆汁酸(TBA)値の上昇(一般的に10-14 μmol/L以上)に基づいて行われます14。他の肝疾患を除外することも重要です。
治療の第一選択は、かゆみを軽減し、肝機能検査値を改善する効果のあるウルソデオキシコール酸(UDCA)の内服です6。しかし、胎児へのリスクを根本的に回避するための最も重要な介入は、適切な時期に分娩することです。
この点において、米国産科婦人科学会(ACOG)と母体胎児医学会(SMFM)が2021年に共同で発表したガイドラインは、非常に具体的な指針を示しています6。これは、TBAの最高値に基づいて分娩時期を層別化するもので、本記事における最も重要な情報の一つです。

表2:ICPにおける総胆汁酸値別の分娩時期推奨(ACOG/SMFMガイドライン6
総胆汁酸(TBA)最高値 胎児死亡リスクの目安 推奨される分娩時期
40 μmol/L未満 低い (0.13%) 妊娠36週0日~39週0日
40~99 μmol/L 中程度 (0.28%) 妊娠36週0日~37週0日の間を考慮
100 μmol/L以上 高い (3.44%以上) 妊娠36週0日

この表が示すように、TBA値が100 μmol/L以上という高値を示す場合、胎児死亡のリスクが著しく上昇するため、胎児の肺成熟が期待できる妊娠36週での早期分娩が強く推奨されます。ご自身のTBA値を知り、医師と分娩計画について話し合うことが非常に重要です。

HELLP症候群

HELLP症候群は、妊娠中に発症する可能性のある、最も重篤な合併症の一つです。急速に進行し、母体と胎児の両方の生命を脅かすため、迅速な診断と治療が不可欠です。

疾患概要

HELLP症候群は、Hemolysis(溶血:赤血球が壊れる)、Elevated Liver enzymes(肝酵素上昇)、Low Platelets(血小板減少)という3つの主要な異常の頭文字をとって名付けられました2。国立成育医療研究センターによると、多くは重症の妊娠高血圧腎症(いわゆる妊娠中毒症)に伴って発症しますが、血圧が正常な場合でも発症することがあり、注意が必要です1

症状

症状は突然現れることが多く、最も典型的なものは持続的な心窩部痛(みぞおちの痛み)や右上腹部痛です。その他、以下の様な症状が見られます8

  • 悪心・嘔吐
  • 頭痛
  • 強い倦怠感
  • 視覚異常(目がチカチカする、ぼやけるなど)

これらの症状は、胃の不調や単なる体調不良と間違われやすいですが、HELLP症候群のサインである可能性を常に念頭に置く必要があります。

リスク

HELLP症候群は、母体と胎児の両方に極めて高いリスクをもたらします。BMJ Best Practiceによると、母体には肝臓の被膜下血腫や肝破裂、脳出血、急性腎不全、肺水腫、播種性血管内凝固症候群(DIC)といった致死的な合併症を引き起こす可能性があります8。胎児にとっても、常位胎盤早期剥離、胎児発育不全、そして胎児死亡のリスクが非常に高くなります。

診断と管理

診断は、特徴的な症状と、特異的な血液検査所見に基づいて行われます。HELLP症候群の重症度を評価し、治療方針を決定するために、国際的に用いられている診断分類があります。代表的なものに「テネシー分類」と「ミシシッピ分類」があります。これらの分類は、特に血小板の数値に基づいて重症度を層別化します2324

表3:HELLP症候群の診断分類
基準項目 テネシー分類(全項目を満たす) ミシシッピ分類(重症度別)
溶血所見 LDH > 600 IU/L、またはビリルビン > 1.2 mg/dL LDH > 600 IU/L
肝酵素上昇 AST (GOT) ≥ 70 IU/L AST (GOT) または ALT (GPT) ≥ 70 IU/L
血小板数 < 100,000/μL Class 1 (最重症): ≤ 50,000/μL
Class 2 (中等症): > 50,000 ~ ≤ 100,000/μL
Class 3 (軽症): > 100,000 ~ ≤ 150,000/μL

出典: The HELLP syndrome: Clinical issues and management. A Review を基に作成2223
HELLP症候群に対する唯一の根治的治療は、妊娠週数に関わらず、胎児および胎盤を速やかに娩出すること(分娩)です16。母体の状態を安定させることが最優先され、痙攣を予防するための硫酸マグネシウムの投与や、高血圧に対する降圧療法などが行われます21

急性妊娠脂肪肝(AFLP / Acute Fatty Liver of Pregnancy)

急性妊娠脂肪肝(Acute Fatty Liver of Pregnancy、以下AFLP)は、妊娠後期に発症する、極めて稀ではあるものの、急速に肝不全に至る致死的な疾患です。HELLP症候群との鑑別が難しい場合もありますが、早期の診断と介入が救命の鍵となります。

疾患概要と有病率

AFLPは、肝細胞に微小な脂肪滴が蓄積し、急激な肝機能障害を引き起こす疾患です25。日本における推定有病率は7,000~16,000妊娠に1例程度と非常に稀です10

症状

初期症状は、悪心・嘔吐、腹痛(特に心窩部痛)、全身倦怠感、食欲不振、頭痛など、非特異的なものが多く、数日から1週間ほど続きます17。その後、急速に黄疸が現れ、意識障害(肝性脳症)や血液が固まりにくくなる(凝固障害)といった重篤な肝不全の症状へと進行します。

リスク

AFLPは母体・胎児ともに死亡率が非常に高い疾患です。迅速な診断と治療がなされない場合、母体は多臓器不全や播種性血管内凝固症候群(DIC)に陥り、致命的となる可能性があります。胎児死亡率も高いと報告されています4

診断と管理

AFLPの診断は、他の肝疾患を除外した上で、特徴的な臨床症状と検査所見を組み合わせて行われます。診断の補助として、英国ウェールズのスウォンジーで提唱された「スウォンジー基準(Swansea Criteria)」が広く用いられています。この基準は、AFLPに特徴的な臨床所見や検査異常をリストアップしたもので、6項目以上を満たす場合に臨床的にAFLPと診断されます2627

表4:AFLP診断のためのスウォンジー基準
以下の14項目中、6項目以上の該当でAFLPと臨床的に診断
1. 嘔吐 8. ASTまたはALT高値 (>42 U/L)
2. 腹痛 9. アンモニア高値
3. 多飲・多尿 10. クレアチニン高値 (>1.7 mg/dL)
4. 脳症(意識障害) 11. 白血球増多 (>11,000/L)
5. ビリルビン高値 (>0.8 mg/dL) 12. 凝固障害(PT延長、APTT延長)
6. 低血糖 (<72 mg/dL) 13. 腹水または超音波での肝輝度上昇
7. 尿酸高値 (>5.7 mg/dL) 14. 肝生検での微小脂肪滴の証明

出典: Acute fatty liver of pregnancy – PMC を基に作成2627
AFLPの治療もHELLP症候群と同様、可及的速やかな妊娠終結(分娩)が唯一の根治的治療です16。分娩後は、低血糖、凝固障害、腎不全などに対する集中治療室(ICU)での厳重な全身管理が必要となります。

最重要課題 – 鑑別診断

これまで見てきたように、ICP、HELLP症候群、AFLPは、いずれも妊娠中に肝機能障害を引き起こしますが、その臨床像や重症度は大きく異なります。しかし、初期症状が似ているために、これらの疾患を正確に見分けること(鑑別診断)は、時に専門医にとっても困難な場合があります。だからこそ、迅速かつ正確な診断が母子を救うために不可欠です。
以下の「マスター鑑別診断表」は、これら3つの主要な疾患の重要な特徴を比較し、全体像を理解するための一助となるよう作成されました。これは、数十の情報源から得られたデータを、JapaneseHealth.org編集委員会が統合した、この記事の核心的価値を持つものです。

表5:妊娠特有の肝疾患 マスター鑑別診断表
特徴 妊娠性肝内胆汁うっ滞症 (ICP) HELLP症候群 急性妊娠脂肪肝 (AFLP)
発症時期 妊娠中期~後期 妊娠中期~後期(産褥期も) 妊娠後期(主に35週以降)
主症状 激しいかゆみ(掻痒) 右上腹部痛、心窩部痛、悪心 悪心・嘔吐、腹痛、倦怠感
黄疸 まれ(約15%)、軽度 ありうるが、主症状ではない ほぼ必発、急速に悪化
血圧 通常は正常 高血圧を伴うことが多い(必須ではない) 約半数で高血圧を伴う
かゆみ 必発、極めて強い まれ ありうるが、主症状ではない
主要検査所見 総胆汁酸(TBA)著増、肝酵素軽度上昇 血小板著減、溶血所見、肝酵素著増 肝不全所見(凝固異常、低血糖、高アンモニア血症)、肝酵素著増
胎児リスク 高い(胎児死亡、早産) 高い(胎児発育不全、胎児死亡) 非常に高い(胎児死亡)
母体リスク 低い(かゆみによるQOL低下) 非常に高い(肝破裂、脳出血、死亡) 非常に高い(肝不全、多臓器不全、死亡)
分娩の緊急性 TBA値により計画分娩 直ちに分娩 直ちに分娩

出典: BMJ Best Practice, ACOG/SMFM Guidelines, JSOG Guidelines 等の情報源を基にJapaneseHealth.org編集委員会が作成568

キーポイント:最も特徴的な初期症状は、ICPでは「激しいかゆみ」、HELLP症候群やAFLPでは「強い腹痛と吐き気」です。いずれも肝酵素は上昇しますが、著しく高い胆汁酸値を示すのはICPのみであり、血小板の著しい減少はHELLP症候群を、低血糖や重篤な凝固障害はAFLPを強く示唆します。

妊娠中に見られるその他の黄疸の原因

網羅性を確保するため、妊娠中に黄疸を引き起こす可能性のある、妊娠特有ではない他の疾患についても簡潔に触れておきます。これらの疾患も、正確な診断のためには考慮される必要があります。

  • ウイルス性肝炎:世界的に見れば、妊娠中の黄疸の一般的な原因の一つです3。日本産科婦人科学会のガイドラインでも、妊娠初期のスクリーニング検査が推奨されています5。特に、E型肝炎は妊娠中に感染すると重症化しやすいことが知られており、注意が必要です18
  • 胆石症:妊娠中は、女性ホルモンの影響で胆汁の流れが滞りやすく、胆石ができやすい状態になります17。胆石が胆管を塞ぐと、強い腹痛(胆石発作)と共に黄疸が出現することがあります。
  • 妊娠悪阻(重いつわり):重度のつわりによって脱水や栄養障害が起こり、その結果として肝機能が一時的に悪化し、軽度の黄疸を引き起こす可能性があります32

受診の目安と診察の流れ

この記事で解説してきたような症状に気づいた場合、いつ、どのように行動すべきかを知っておくことは非常に重要です。自己判断は決してせず、迷ったらすぐにかかりつけの産婦人科医に相談してください。

危険なサイン(緊急受診が必要な症状)

以下の症状が一つでも見られた場合は、時間外であっても直ちに医療機関に連絡し、受診する必要があります。これらはHELLP症候群やAFLPといった重篤な状態を示唆する可能性があります。

  • 我慢できない、または持続する強い上腹部(特にみぞおちや右側)の痛み
  • 治まらない激しい頭痛
  • 目の前がチカチカする、視界がぼやけるなどの視覚異常
  • 突然の激しい吐き気や嘔吐
  • 皮膚や白目が明らかに黄色くなる(黄疸)
  • 意識がもうろうとする、混乱する

また、これほど緊急性が高くなくても、持続する、あるいは夜間に悪化する強いかゆみがある場合も、必ず次の健診を待たずに相談してください。

病院で何が行われるか

医療機関を受診すると、医師はまずあなたの症状について詳しく質問します(いつから、どのような症状が、どのくらいの強さであるかなど)。その後、母体と胎児の状態を評価するために、以下のような診察や検査が行われます2

  • 血圧測定:妊娠高血圧症候群の有無を確認します。
  • 尿検査:尿中のタンパクの有無を確認します。
  • 血液検査:これが最も重要です。肝機能(AST, ALT, ビリルビン)、血小板数、溶血の有無(LDH)、腎機能(クレアチニン)、そしてICPが疑われる場合は総胆汁酸(TBA)などを測定します。
  • 超音波(エコー)検査:胎児の発育や健康状態、そして母体の肝臓や胆嚢の状態を確認します。

これらの結果を総合的に判断し、医師は診断を下し、最適な治療方針を決定します。

よくある質問

Q1: 妊娠中のただの肌荒れやかゆみと、危険なICPのかゆみはどうやって見分ければいいですか?
A1: 妊娠中は肌が乾燥しやすくなるため、かゆみ自体は珍しくありません。しかし、ICPに特徴的なかゆみは、①発疹を伴わないことが多い、②特に手のひらや足の裏が中心である、③夜間に耐え難いほど悪化する、といった点で見分けることができます14。保湿剤を塗っても全く改善しない、かきむしってしまうほどの激しいかゆみが続く場合は、ただの肌荒れではない可能性を考え、必ず医師に相談してください。
Q2: HELLP症候群やAFLPと診断されたら、赤ちゃんは助からないのでしょうか?
A2: HELLP症候群やAFLPは、確かに母子ともに非常に危険な状態です。しかし、最も重要なのは早期発見と迅速な対応です。これらの疾患の唯一の根治的治療は、妊娠を終了させること、つまり分娩です1621。診断がつき次第、母体の状態を安定させながら、帝王切開などで速やかに分娩を行うことで、母子ともに救命できる可能性は十分にあります。だからこそ、危険なサインを見逃さず、直ちに受診することが何よりも大切なのです。
Q3: 一度これらの病気になったら、次の妊娠でも再発しますか?
A3: 疾患によって再発率は異なります。ICPは再発率が比較的高く、報告によっては45%~90%とされています14。HELLP症候群の再発率は報告により様々ですが、約20%程度とするものがあります22。AFLPの再発は非常に稀とされています。いずれにせよ、既往歴がある場合は、次の妊娠計画の段階から産婦人科医に相談し、妊娠中は通常よりも厳重な管理を受けることが重要です。
Q4: これらの病気を予防する方法はありますか?
A4: 残念ながら、現時点ではICP、HELLP症候群、AFLPの発症を確実に予防する方法は確立されていません。これらの疾患の根本的な原因はまだ完全には解明されていませんが、遺伝的な要因や免疫学的な要因が関与していると考えられています。予防法がないからこそ、定期的な妊婦健診をきちんと受け、本記事で解説したような危険なサインに早期に気づき、迅速に医療機関に相談することが、ご自身と赤ちゃんの健康を守る上で最も重要なことになります。

結論

妊娠中の黄疸、そしてそれに伴う可能性のある激しいかゆみや腹痛は、単なる不快な症状ではなく、母体と胎児からの重要なメッセージです。本記事で見てきたように、その背景には、比較的穏やかな経過をたどるものから、一刻を争う緊急事態まで、様々な病態が存在します。特に、妊娠性肝内胆汁うっ滞症(ICP)、HELLP症候群、急性妊娠脂肪肝(AFLP)は、それぞれ異なるリスクと管理法を必要とする、注意すべき疾患です。
最も重要なことは、これらの症状を自己判断で軽視しないことです。あなたの体の中で起きている変化を最も正確に評価できるのは、専門的な知識と検査手段を持つ医療専門家だけです。本記事で提示した「危険なサイン」を念頭に置き、少しでも不安を感じたら、ためらわずに、かかりつけの産婦人科医に相談してください。迅速な行動が、あなたと、あなたの腕の中に抱く日を待っている大切な赤ちゃんの未来を守ることに直結します。正しい知識を力に変え、健やかなマタニティライフをお送りください。

免責事項
本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスを構成するものではありません。健康に関する懸念がある場合、またはご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

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