妊娠中絶について知っておくべきこと:選択の自由とその影響
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妊娠中絶について知っておくべきこと:選択の自由とその影響

予期せぬ妊娠に直面したとき、人工妊娠中絶は選択肢の一つとなり得ます。この決断は、女性の人生において非常に重要かつ個人的なものであり、身体的、精神的、社会的な側面から多大な影響を及ぼす可能性があります。日本においては、母体保護法に基づき、特定の条件下で人工妊娠中絶が認められています。本稿では、人工妊娠中絶に関する医学的情報、法制度、費用、心身への影響、そして利用可能な相談支援体制について、専門的な観点から包括的に解説します。目的は、この複雑な問題に直面している方々が、正確な情報に基づいてご自身の状況を理解し、最善の選択をするための一助となることです。情報に基づいた意思決定は、女性の自己決定権と健康を守る上で不可欠です。

要点まとめ

  • 日本の人工妊娠中絶は母体保護法に基づき、身体的・経済的理由または性的暴行による妊娠の場合、妊娠22週未満で認められています12
  • 中絶方法には、従来からの外科的中絶(掻爬法・吸引法)と、2023年に承認された経口中絶薬「メフィーゴパック」(妊娠9週0日まで)があります1013
  • 費用は健康保険適用外の自費診療で、初期中絶で約10万円から、中期中絶(12週以降)では20万円以上となり、方法や施設により異なります81520
  • 中絶は心身に影響を与える可能性があり、特に精神的ケアが重要です。罪悪感や抑うつなどの感情は自然な反応であり、専門の相談窓口の利用が推奨されます2123
  • 予期せぬ妊娠に関する悩みは、NPO法人(にんしんSOS東京、フローレンス等)や公的機関(女性健康支援センター等)で無料で匿名相談が可能です92528

1. 人工妊娠中絶の法的枠組みと倫理的考察

日本における人工妊娠中絶は、主に「母体保護法」によって規定されています1。この法律は、母性の生命と健康を保護することを目的としています1

A. 母体保護法の概要と目的

母体保護法は、不妊手術および人工妊娠中絶に関する事項を定める法律です1。法律上、人工妊娠中絶は「胎児が母体外において生命を保続することのできない時期に、人工的に胎児及びその附属物を母体外に排出すること」と定義されています1。この「生命を保続することのできない時期」とは、現在、妊娠満22週未満とされています2

B. 中絶が許可される条件

母体保護法第14条に基づき、都道府県の医師会が指定した「指定医師」のみが人工妊娠中絶を行うことができます1。中絶が許可される主な条件は以下の通りです。

  • 身体的または経済的理由: 妊娠の継続または分娩が、身体的または経済的な理由により母体の健康を著しく害するおそれがある場合1。「経済的理由」とは、妊娠・分娩が世帯の生活に重大な経済的支障を及ぼし、その結果として母体の健康が著しく害されるおそれがある場合を指します2
  • 性的暴行による妊娠: 暴行もしくは脅迫によって、または抵抗・拒絶できない間に姦淫されて妊娠した場合1

これらの条件に該当する場合、原則として本人および配偶者(事実婚を含む)の同意を得て、人工妊娠中絶を行うことが可能です1

C. 配偶者の同意の必要性と例外

原則として、胎児が配偶者の子どもでもあるという考えに基づき、中絶には本人の同意に加え、配偶者の同意も必要です13。しかし、以下のような例外的なケースでは、本人の同意のみで中絶が認められます1

  • 配偶者が不明であるとき
  • 配偶者が意思を表示することができないとき(例:意識不明の状態など)
  • 妊娠後に配偶者が死亡したとき

たとえ婚姻関係にあっても、お腹の子が配偶者の子でない場合でも、上記の免除事由に該当しない限り、原則として配偶者の同意が必要です3。ただし、DVや長期間の別居など、婚姻関係が事実上破綻していることを証明できれば、配偶者の同意が不要と判断される可能性もあります3。未婚の場合、内縁関係にない性的パートナーの同意は法律上の要件ではありませんが、医療機関によってはトラブル防止のために同意書を求められることがあります3

D. 倫理的考察:選択の自由と生命倫理

人工妊娠中絶は、女性の「選択の自由」、すなわち自己の身体と人生に関する自己決定権を尊重する考え方と、胎児の生命の価値をどう捉えるかという生命倫理の問題が交差する、非常に複雑なテーマです。予期せぬ妊娠は、女性の学業、キャリア、経済状況、精神的安定に深刻な影響を及ぼす可能性があります。日本の母体保護法は、これらの倫理的価値のバランスを考慮しつつ、主に母体の生命と健康を保護するという目的のもとで運用されています。どのような状況であれ、当事者である女性が十分な情報を得て、熟慮の上で主体的に選択できる環境が保障されることが最も重要です。

2. 日本における人工妊娠中絶の現状

A. 年間実施件数と年齢層別統計

厚生労働省の報告によると、令和5年度の人工妊娠中絶件数は12万6,734件で、前年度から4,009件(3.3%)増加しました5。女性人口千人あたりの実施率は5.3です5
年齢階級別に見ると、実施率が最も高いのは「20~24歳」で10.8、次いで「25~29歳」が8.9となっています5。20歳未満では、「19歳」が4,707件(実施率8.4)、「18歳」が2,641件(実施率5.0)でした5。比較として、令和3年度の件数は126,174件(実施率5.1)で、この年も「20~24歳」の実施率が最も高かったです6。これらのデータは、若年層を含む幅広い年齢層で中絶が行われている実態を示しています。

B. 地域差や社会的背景に関する考察

中絶の実施率には地域による格差が存在する可能性が指摘されています7。例えば、都市部では比較的安価に手術を提供するクリニックが存在し、医療へのアクセスしやすさや費用が、女性の選択に影響を与えている可能性が考えられます8。また、予期せぬ妊娠の背景には、経済的困窮、パートナーとの関係の問題、性教育の不足、避妊の失敗など、多様かつ複雑な社会的要因が絡み合っています。特に若年層の予期せぬ妊娠は、その後の人生設計に大きな影響を与えるため、包括的な性教育や相談支援体制の充実が不可欠です9

3. 人工妊娠中絶の方法と選択

人工妊娠中絶には、主に外科的中絶と薬物による中絶の二つの方法があります。妊娠週数や医療機関の方針、本人の希望などを総合的に考慮して選択されます。

A. 外科的中絶手術

日本では従来から行われている方法で、主に「ソウハ法(掻爬法)」と「吸引法(MVA法など)」の2種類があります。

ソウハ法(D&C – Dilatation and Curettage)

子宮頸管を拡張させた後、スプーン状の器具(キュレット)や鉗子を用いて、子宮の内容物を手作業で掻き出す方法です10。日本で古くから行われてきた伝統的な手技で、経験豊富な医師にとっては器具を通じて子宮内の状態が繊細に伝わり、丁寧な操作が可能とされています10。しかし、子宮内膜を傷つけるリスクや、まれに子宮に穴が開く「子宮穿孔」のリスクが指摘されています8。WHO(世界保健機関)は、この掻爬法を推奨しておらず、次に説明する吸引法への置き換えを推奨しています11

吸引法(VA – Vacuum Aspiration)

子宮頸管を拡張後、細い管(カニューレ)を子宮内に挿入し、電動または手動の吸引器で子宮内容物を吸い出す方法です10。MVA(Manual Vacuum Aspiration)は手動真空吸引法を指します。この方法はWHOや世界産婦人科連合(FIGO)によって推奨されており、ソウハ法に比べて子宮内膜へのダメージが少なく、身体への負担が軽減されるとされています1012。手術時間が短く、出血量も少ない傾向にあります。

表1:ソウハ法と吸引法の比較10
特徴 ソウハ法(掻爬法) 吸引法(MVAなど)
手術時間 10~15分程度 10~15分程度
手術方法 鉗子とスプーン状の器具で子宮内容物と子宮内膜を掻き出す ストロー状の管を挿入し、子宮内容物と子宮内膜を吸引する
WHO推奨 推奨されていない 推奨されている
身体への負担 吸引法に比べ大きいとされる 比較的少ない
子宮内膜損傷リスク 伴う ソウハ法より低いとされる
出血量 多くなる可能性あり 比較的少ない傾向

B. 薬物による中絶(経口中絶薬)

2023年、日本で初めて経口中絶薬「メフィーゴパック」が承認され、中絶の新たな選択肢となりました13

メフィーゴパック(ミフェプリストンとミソプロストールの配合剤)

この薬は、2種類の有効成分で構成されています。まず「ミフェプリストン」を服用し、妊娠の維持に必要なホルモンの働きを抑えます。その36~48時間後に、もう一方の「ミソプロストール」を頬の内側の粘膜から吸収させ、子宮を収縮させて内容物を体外へ排出させます1314

  • 対象: 妊娠9週0日(妊娠63日)までの初期妊娠13
  • 有効性: 日本国内の臨床試験では、93.3%のケースで24時間以内に中絶が完了しました14
  • 副作用: 下腹部痛(30.0%)、嘔吐(20.8%)などが報告されており、通常の月経よりも重い腹痛や多量の出血を伴うことがあります14
  • 費用: 自費診療で約10万円~15万円程度が目安ですが、施設によって異なります15
  • 留意点: 安全性確保のため、当面は入院可能な施設、または院内での待機が可能な医療機関での使用に限られています13。中絶が完了しなかった場合(約2-7%17)は、追加の処置が必要になることがあります。処方は母体保護法指定医に限られ、実施施設はラインファーマ社のウェブサイトなどで確認できます1319
表2:外科的中絶と薬物による中絶(メフィーゴパック)の比較15
特徴 外科的中絶(吸引法など) 薬物による中絶(メフィーゴパック)
適用週数 妊娠初期~21週6日まで(施設による) 妊娠9週0日まで
方法 器具を用いて子宮内容物を除去 2種類の薬を服用
処置日数 通常1日(日帰りが多い) 薬の服用と経過観察で数日
入院の必要性 通常不要 原則として入院可能な施設または院内待機が必要
成功率 約98-99%以上 約93%(日本国内臨床試験)
麻酔 通常使用 不要
侵襲性 器具を子宮内に挿入 非侵襲的(手術器具不使用)
主な副作用・負担 手術に伴う出血、麻酔の影響、まれに感染や子宮損傷 強い腹痛、多量の出血、嘔吐など
費用(目安) 約10万円~(週数・施設による) 約10万円~15万円(施設による)

C. 妊娠週数と選択可能な方法

選択できる方法は妊娠週数によって大きく異なります。

  • 初期中絶(妊娠11週6日まで): 外科的中絶(ソウハ法、吸引法)と薬物による中絶(メフィーゴパック、9週0日まで)が選択肢です。
  • 中期中絶(妊娠12週0日~21週6日まで): 法律上「死産」として扱われ、役所への死産届の提出と火葬が必要になります11。一般的に、子宮収縮薬を用いて陣痛を誘発し、分娩形式で出産する方法が取られます。母体への負担が大きく、数日間の入院が必要です11

4. 人工妊娠中絶の費用

人工妊娠中絶は病気の治療と見なされないため、健康保険は適用されず、全額が自費診療となります16。費用は妊娠週数、中絶方法、医療機関によって大きく変動します。

A. 初期中絶と中期中絶の費用の違い

  • 初期中絶(~11週6日まで): 費用相場は約10万円から15万円程度です8。吸引法(MVA)を選択した場合などに追加料金がかかることがあります10。経口中絶薬も同程度の費用ですが、追加処置が必要になると外科的中絶より高額になる可能性があります15
  • 中期中絶(12週0日~21週6日まで): 費用は大幅に高くなり、20万円から65万円程度が目安となります20。これには入院費などが含まれますが、別途、火葬費用などが必要になる場合があります20

B. 費用に含まれるものと追加費用

提示される費用には、術前検査、手術料、麻酔料、術後の診察や内服薬などが含まれるのが一般的です10。しかし、特定の持病がある場合のリスク加算や、麻酔料が別途必要になるケースもあります10。費用については初診時に医療機関へ詳細を確認し、納得した上で手術を受けることが極めて重要です。

5. 人工妊娠中絶の身体的・精神的影響とケア

中絶は、女性の心と身体に様々な影響を及ぼす可能性があります。適切な情報とケアが不可欠です。

A. 身体的影響と合併症

中絶後には、月経のような出血や下腹部痛が数日から数週間続くことが一般的です17。頻度は低いものの、以下のような合併症のリスクも存在します。

  • 感染症: 子宮内で細菌感染が起こる可能性があります12
  • 子宮内容物の遺残: 胎児や胎盤の一部が子宮内に残ってしまう状態で、追加の処置が必要になることがあります。薬物中絶の方がリスクは高いとされます17
  • 子宮頸管裂傷・子宮穿孔: 外科的中絶の器具によって子宮が傷ついたり、稀に穴が開いたりすることがあります8
  • 将来の妊娠への影響: 適切に行われた中絶手術が、直接的に不妊症や習慣流産の原因となるリスクは非常に低いと考えられています1821。日本産科婦人科学会は、月経不順や将来の出産への影響の可能性を指摘していますが、明確な統計データはなく、はっきりとはわかっていません22

B. 精神的影響と心理的ケア

中絶を経験した女性は、安堵感を覚える一方で、悲しみ、喪失感、罪悪感、不安、抑うつなど、様々で複雑な感情を抱くことがあります。これは自然な反応です。

  • 中絶後遺症候群(PAS): 中絶の経験によるストレスが原因で、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の一種である「中絶後遺症候群」と呼ばれる状態に陥ることがあります21。悪夢、フラッシュバック、うつ状態、孤独感などの症状が現れることがあります21
  • 中絶後のうつ病: ある国際的な研究のメタアナリシスでは、中絶後のうつ病の有病率は34.5%と報告されました23。一方で、質の高い研究ほど、中絶経験者とそうでない人の間で精神衛生上の影響に差はほとんどないとする報告もあります24。重要なのは、中絶が精神的な負担となりうること、そして心のケアが非常に重要であるという点です21

気になる症状があれば、我慢せずに婦人科医や心療内科、精神科医に相談することが大切です21

C. 相談窓口とサポート体制

予期せぬ妊娠や中絶について悩んだとき、一人で抱え込まずに相談できる専門の窓口があります。これらの多くは無料で、匿名での相談も可能です。

  • 公的相談窓口: 各都道府県の「女性健康支援センター」や市町村の保健センター、DVが関係する場合は「DV相談ナビ(#8008)」、性暴力被害の場合は「ワンストップ支援センター(#8891)」などがあります25
  • NPO法人など民間支援団体: 「にんしんSOS東京」(NPO法人ピッコラーレ)9や、「フローレンスのにんしん相談」(認定NPO法人フローレンス)28など、電話、メール、LINEで相談を受け付け、必要に応じて様々な支援につなげてくれる団体があります。

健康に関する注意事項

  • この記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の医学的アドバイスに代わるものではありません。
  • 中絶手術・処置後に出血が大量であったり、高熱や激しい腹痛が続く場合は、速やかに手術を受けた医療機関または救急医療機関を受診してください。
  • 精神的な不調が続く場合は、一人で抱え込まず、かかりつけの産婦人科医、心療内科、精神科医、または専門の相談窓口にご相談ください。

6. 世界保健機関(WHO)の推奨と日本の現状

WHOは、安全な中絶ケアに関する包括的なガイドラインを公表し、女性の健康と権利を最大限に保護するための指針を示しています29

A. WHOの主要な推奨事項

2022年版のガイドラインでは、以下のような点が強調されています1129

  • 完全な非犯罪化: 刑法から堕胎罪を削除し、中絶を医療行為としてのみ規制すること。
  • 理由によらないアクセス: 本人の要請のみで中絶を受けられるようにすること。
  • 第三者の承認要件の撤廃: 配偶者や家族の同意を必須としないこと。
  • 推奨される方法: 外科的中絶では掻爬法(D&C)より吸引法(VA)を優先し、薬物による中絶を推進すること。
  • 提供者の拡大: 医師以外の訓練された医療従事者(看護師、助産師など)もケアを提供できるようにすること。

B. 日本の現状との比較と考察

日本の現状をWHOの推奨と照らし合わせると、いくつかの課題が浮かび上がります。日本では刑法に堕胎罪が存続しており、母体保護法がその例外を定める形です2。また、中絶には特定の理由が必要で、原則として配偶者の同意が求められます1。提供者も母体保護法指定医に限定されています1。経口中絶薬が導入されたことは前進ですが、その使用が入院または院内待機可能な施設に限られるなど、アクセスには依然として障壁があります10。これらの点は、日本の制度が制定された時代背景も影響しており、WHOが掲げる「自己決定権の最大化」という理念とは隔たりがあるのが現状です。

よくある質問

一度中絶すると、将来妊娠しにくくなりますか?
適切に実施された安全な人工妊娠中絶手術が、その後の妊娠の可能性に直接影響を与えることは極めて稀であると考えられています18。しかし、掻爬法(ソウハ法)などで子宮内膜が深く傷ついた場合や、術後に感染を起こした場合、非常にまれに子宮内腔が癒着するアッシャーマン症候群を発症し、不妊や流産の原因となる可能性があります21。WHOが推奨する吸引法は、子宮内膜へのダメージが少ないとされています12。手術後の経過が順調で、その後の月経も正常に戻れば、過度に心配する必要はないことが多いですが、不安な点は医師に確認することが大切です。
パートナー(夫や彼氏)の同意なしに中絶はできますか?
法律(母体保護法)上、婚姻関係にある場合(事実婚含む)、原則として配偶者の同意が必要です1。しかし、配偶者からのDVがある、連絡が取れない、意思表示ができないといった特定の状況では、本人の同意のみで手術が可能です13。未婚で婚姻関係にないパートナーの同意は、法律上の必須要件ではありません。ただし、医療機関によっては、後のトラブルを避けるために同意書を求めるところもあります4。事情があって同意を得るのが難しい場合は、まず医療機関や専門の相談窓口に相談してください。
経口中絶薬と外科的中絶手術、どちらが良いのでしょうか?
一概にどちらが良いとは言えず、個々の状況や価値観によって最適な選択は異なります。経口中絶薬(メフィーゴパック)は、麻酔や外科的器具を使わない非侵襲的な点が利点ですが、適用が妊娠9週0日までと限られ、出血や痛みが数日間続く可能性があります1315。一方、外科的中絶(特に吸引法)は、適用週数が比較的広く、処置が短時間で完了する利点がありますが、麻酔や器具の使用を伴います10。それぞれの利点・欠点、費用、ご自身の健康状態やライフスタイルなどを医師と十分に話し合い、納得のいく方法を選択することが重要です。
中絶にかかる費用は、分割払いや後払いができますか?
中絶費用は全額自費診療となり、高額になる場合があります16。支払い方法については、医療機関の方針によって大きく異なります。多くのクリニックでは、現金一括払いが基本ですが、クレジットカード払いに対応している施設も増えています20。クレジットカードであれば、後からカード会社のリボ払いや分割払いに変更できる場合があります。医療ローンなどを紹介しているクリニックも稀にありますが、一般的ではありません。経済的な理由で支払いが困難な場合は、まず予約時にクリニックに相談したり、NPO法人などの支援団体に助けを求めたりすることが考えられます。
中絶後の悲しい気持ちや罪悪感と、どう向き合えば良いですか?
中絶後に悲しみ、喪失感、罪悪感などを抱くことは、非常に自然で正常な感情の反応です。決してあなただけが感じているわけではありません。まず、そうした感情を持つ自分自身を責めないことが大切です。信頼できる友人やパートナー、家族に気持ちを話すだけでも、心が軽くなることがあります。もし、誰にも話せない、話しても辛さが続くという場合は、専門家の助けを借りることを強くお勧めします。「にんしんSOS東京」26などの相談窓口では、中絶後の心の悩みに関する相談も受け付けています。また、必要であれば、臨床心理士によるカウンセリングや、心療内科・精神科の受診も有効な選択肢です21

結論

人工妊娠中絶に関する決断は、極めて個人的なものであり、誰にとっても容易なものではありません。最も重要なのは、ご自身が納得し、主体的に「選択の自由」を行使できることです。本稿で提供した医学的情報、法的枠組み、費用、心身への影響、そしてサポート体制に関する多角的な情報が、あなたが直面している状況を深く理解し、ご自身にとって最善の道を選択するための一助となれば幸いです。どのような選択をするにしても、一人で悩まず、信頼できる人や専門機関に相談することをためらわないでください。日本には、予期せぬ妊娠や中絶に関する悩みを持つ人々を支援するための相談窓口やNPOが存在します2527。これらのリソースを活用し、必要なサポートを得ることが大切です。そして、どのような決断を下すにしても、ご自身の心と身体を大切にし、必要なケアを受けることを忘れないでください。あなたの健康と幸福、そして自己決定権が尊重されることを心から願っています。

免責事項
この記事は医学的アドバイスに代わるものではなく、症状がある場合は専門家にご相談ください。

参考文献

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