妊婦さんの首肩痛対策:安全に痛みを和らげる方法
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妊婦さんの首肩痛対策:安全に痛みを和らげる方法

はじめに

妊娠中は胎児の成長にあわせて母体の身体が大きく変化し、肩や背中、腰などさまざまな部位に負担がかかります。その結果、首や肩まわりの筋肉がこわばりやすくなり、肩こりや首筋の痛みにつながることが少なくありません。とくに、首から肩にかけて痛みや張りを感じる「肩こり」や「肩甲骨まわりの痛み」、いわゆる「肩・首まわりの凝り(肩頸部痛)」は、多くの妊婦さんが経験するつらい症状のひとつです。

免責事項

当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。

本記事では、妊娠期に起こりやすい肩や首まわりの痛みの背景や原因をわかりやすく整理しつつ、「妊娠中に肩・首が痛むのはよくあることだけれど、実はこんなときは注意が必要」「どんな対策・ケアが安全か」といった疑問を中心に、妊婦さんにとって役立つ情報を詳しく紹介します。また、痛みの軽減法だけでなく、万が一ほかの疾患が疑われる場合にどうすればよいのかについても言及します。痛みが続くと心身のストレスにもなり、睡眠や家事、日常生活全般に影響が出てしまうこともありますので、早めに対策や予防を心がけることが大切です。

専門家への相談

本記事の内容は、医師・助産師などの専門家のアドバイスや、国内外の医療機関・公的機関が公開している情報をもとに作成されています。ただし、筆者や本記事の執筆協力者はいずれも産婦人科専門医の資格を有しておらず、個々の症状を直接診断する立場にはありません。本記事では信頼性の高い情報をもとにしていますが、気になる痛みや異変を感じた場合は、必ず専門家(産婦人科医など)に相談してください。

なお、以下の内容では妊娠期の肩・首まわりの痛みや原因、対処法について解説するにあたり、妊娠・出産にまつわる総合的な視点を提供することを心がけています。また、当記事の執筆にあたっては産婦人科(Sản – Phụ khoa)・Phòng khám phụ sản Cảm Xúc所属のBác sĩ Nguyễn Thị Nhungが推奨する一般的なケア・考え方・注意点なども参考にしております。ただし、本記事の情報はあくまで一般的な知識共有を目的としたものであり、個々のケースに対する最終的な診断や治療方針は医師の判断が必要になります。

妊娠中の肩・首の痛みの主な原因

妊婦さんの身体は、胎児の成長にともない体型やホルモンバランスが変化します。とくに骨盤周りをゆるめるホルモンや、子宮の増大による体重増加、姿勢変化などが全身に影響を及ぼし、その結果、肩・首・背中に負担がかかりやすくなります。ここでは、代表的な原因をいくつか挙げます。

ホルモン(リラキシン)の影響

妊娠中期から後期にかけて、リラキシン(relaxin)と呼ばれるホルモンが多く分泌されます。これは、骨盤周辺や子宮の靭帯を柔軟にして出産に備えるために不可欠ですが、同時にほかの関節や靭帯にも影響が及ぶことがあります。肩関節や周辺の靭帯がゆるむと、普段あまり負担のかからない部分に微妙なズレや緊張が生じてしまい、結果として肩や頸部(首回り)の痛みやこわばりを感じることがあります。

寝姿勢と筋肉の緊張

妊娠中は子宮が大きくなるにつれ、うつぶせ寝や仰向け寝が不快だったり、医師から「できるだけ横向きで寝たほうが良い」と指導される場合もあるため、一定の姿勢を長時間取ることが増えます。たとえば左側を向いて寝続ける習慣になりやすいですが、同じ姿勢が長引くと片側の筋肉が緊張しやすく、首や肩甲骨まわりの筋肉のこわばりを招きやすいといわれています。

日常生活における姿勢の変化

妊娠中期以降はお腹が前方に大きく張り出し、重心が変化します。前かがみになりがち、あるいは腰を反らせがちになることで、背骨のカーブ(生理的弯曲)や骨盤の傾きが変わり、首や肩への負担が増すことがあります。普段より重心がズレることで、無意識に背中や首まわりをかばうように力が入り、結果として肩甲骨や首の筋肉が硬くなり、慢性的な痛みや張りが起こりやすいのです。

背骨(脊柱)のカーブ変化

妊娠後期は、特に腰椎(ようつい)の前弯が増し、同時に胸椎(きょうつい)・頸椎(けいつい)部分にも負担がかかります。ある研究では、妊娠後期に脊柱全体の生理的弯曲が増強して“S字”が強調されるケースが多いと報告されています。脊柱のバランスが変化することで、肩甲骨周辺や首、背中に張りを感じることがあるとされています。

(※ここで紹介したようなメカニズムは、あくまで一般的・典型的な例です。個々の体質や運動習慣によって症状の出方は大きく異なります。)

痛みが重症化する場合や注意が必要なケース

妊娠中の肩・首の痛みの多くは、筋肉疲労・姿勢変化・ホルモンによる関節や靭帯のゆるみに起因し、軽度〜中度の不快感で済む場合が大半です。しかし、なかには妊娠初期の肩痛が子宮外妊娠(異所性妊娠)による腹腔内出血のサインであったり、妊娠中期〜後期の右肩付近の強い痛みが胆嚢(たんのう)のトラブルや子癇前症(けかんぜんしょう:いわゆる「妊娠高血圧腎症候群」の重症型)に関連するケースも報告されています。以下では、特に注意すべき主な疾患や合併症の例を挙げます。

妊娠初期:子宮外妊娠(異所性妊娠)の可能性

妊娠4週〜12週ごろの時期に、急に肩の痛みが出る場合があります。これは子宮外妊娠(とくに卵管妊娠)の場合に、破裂や出血などで腹腔内に血液がたまり、横隔膜付近の神経を刺激することによって肩に関連痛を感じることがあるとされています。ただし、肩痛だけを唯一の症状とすることはまれで、同時に腹痛・性器出血・めまい・顔面蒼白などの緊急症状を伴うことがほとんどです。もし妊娠検査薬で陽性となった後に、激しい腹痛や出血とともに肩が鋭く痛むような場合は、迷わず産婦人科を受診し、医師の診察を受ける必要があります。

妊娠中期・後期:胆石症(胆嚢トラブル)の可能性

妊娠中はエストロゲンが増加し、コレステロール値も上昇しやすいため、胆石(胆嚢内の結石)が形成されやすくなるとされています。胆石が大きくなって胆管や胆嚢の出口をふさいだり、強い炎症を引き起こすと、右上腹部の激痛や背中〜肩甲骨あたりへの放散痛、吐き気、嘔吐などが出現します。右肩や背中中央に強い痛みが長引く場合や、発熱・悪心を伴う場合などは、胆石症や胆嚢炎のリスクを念頭に置き、早めに受診することが推奨されます。

妊娠中期・後期:子癇前症(前期破水や高血圧を伴う場合も含む)

子癇前症(preeclampsia)とは、妊娠20週以降に高血圧・タンパク尿・むくみ・上腹部痛・視覚異常などが生じる病態で、重症の場合は母子ともに危険を伴います。肩こりや肩痛だけを単独で訴えるケースは多くはありませんが、右上腹部から背中、肩甲骨あたりにかけて強い痛みを覚える場合があると報告されています。加えて、頭痛や視野異常(光がまぶしい、ちらつきなど)、急激な体重増加、手足・顔のむくみ、血圧の上昇などの症状がある場合は注意が必要です。万一、重症化すると脳出血や胎盤早期剥離などを引き起こす危険もあるため、疑わしい症状があれば産婦人科を受診して医師の指示を仰ぐことが大切です。

妊娠中の肩・首の痛みを和らげるための対策

「妊娠中に肩が痛いのはよくあること」という認識だけでは、痛みが慢性化したり、ほかの深刻な徴候を見逃してしまうおそれがあります。ここでは、日常的にできるセルフケアを中心に、妊娠中でも安全とされる対策を紹介します。

1. 軽い運動・ストレッチ・ヨガ

  • ヨガやマタニティ体操:妊娠期向けのヨガや軽い体操、ストレッチには、血行促進と筋肉の緊張緩和を助ける効果が期待されます。妊娠後期は体重増加やお腹の張りによって動きにくくなりますが、無理のない範囲で続けると身体がほぐれ、肩や背中の凝りが軽減されることがあります。
  • ウォーキング:適度な速度で短時間(15〜30分程度)歩くことは、心肺機能の維持や血行促進に良いとされ、肩まわりの緊張をやわらげるメリットがあります。
  • 呼吸法:ヨガなどで推奨される深い腹式呼吸を取り入れると、肩から首すじへの力みが抜けやすくなり、自律神経も整いやすいと考えられています。

なお、運動やストレッチを行う際には、必ず医師の許可をもらい、体調に合わせて無理のないメニューを選びましょう。特に、早産リスクや切迫流産の可能性があると診断された場合、運動量や動きには慎重になる必要があります。

2. マッサージや温熱・冷却療法

  • マッサージ:プロのマタニティマッサージセラピストに頼むほか、パートナーや家族に肩や首まわりを軽くほぐしてもらうだけでも血流が改善し、痛みの軽減に役立つことがあります。
  • 温める・冷やす:肩や首まわりの痛みが強いときは、温めて血流を促進するか、炎症による熱感がある場合は冷やすのも一案です。ただし、あまりに長時間冷やし過ぎると逆効果になる場合もあるので、10〜15分程度を目安に行いましょう。

3. 姿勢の見直し

  • 座り方・立ち方:妊娠中はどうしても腰が反りやすく、背中や首に負担がかかりがちです。長時間同じ姿勢でいると凝りが悪化するので、こまめに身体を伸ばしたり、軽く歩いたりしましょう。椅子に座る場合は、背もたれやクッションを活用して腰をサポートし、肩や首に余計な力が入りすぎないよう意識するとよいです。
  • 寝具の工夫:抱き枕やマタニティ用のクッションを使うと、横向き寝のときに身体が安定しやすく、肩や背中への負担を軽減できます。寝返りを打ちやすくする環境づくりや、首まわりの高さ・フィット感に合った枕選びも大切です。

4. 生活習慣の改善

  • 十分な休息:睡眠不足や過労は筋肉の回復力を低下させ、肩・首こりを悪化させる要因になります。日中に短時間でも休憩を取り、身体をリラックスさせる工夫をしましょう。
  • 栄養バランス:塩分・糖分・脂質を控えめにし、野菜やたんぱく質をしっかり摂るなど、バランスのとれた食事は妊娠中の体調管理だけでなく、筋肉や骨の健康維持にも役立ちます。血糖値やコレステロール値が安定すれば、胆石症や妊娠高血圧症候群のリスク低減にも寄与します。
  • 適度な水分摂取:水分不足は筋肉の硬さや血行不良を招きやすいです。むくみが気になるからといって水分摂取を極端に控えるのは避け、こまめに水やお茶を摂取しましょう。

5. 病院・医師の診察が必要な場合

  • 痛みが急に強くなった:肩や首の痛みが急性かつ激痛のように感じる場合は、ほかの疾患が潜んでいる可能性があるため、早めに産婦人科を受診することをおすすめします。
  • 痛みが慢性化し、日常生活に支障がある:何週間も痛みが続き、睡眠や日常動作、仕事などに支障が出ている場合も、必ず相談してください。
  • 吐き気や発熱、むくみなどを伴う:前述のように、胆石症や子癇前症といった合併症が疑われる症状がある場合は、迅速な検査・処置が必要になることがあります。

痛み止めは使っても大丈夫?

妊娠中の薬の服用は非常に慎重を要します。一般的な鎮痛薬(非ステロイド性抗炎症薬〈NSAIDs〉など)や筋弛緩薬は、妊娠週数や胎児への影響が考慮されるため、自己判断で服用することは厳禁です。どうしてもつらい痛みがある場合は、主治医に相談のうえ、妊娠中に比較的安全とされる薬剤を処方してもらいましょう。たとえば、アセトアミノフェンなど一部の鎮痛薬は、特定の妊娠週数なら比較的リスクが低いとされるケースもありますが、必ず担当医の指示を仰いでください。

もし重篤な病気が原因の場合は?

  • 子宮外妊娠の疑い:診断には超音波検査(経腟エコー)を行う必要があります。破裂していた場合は緊急手術を要するケースもあるため、少しでも疑わしい症状があればすぐに受診してください。
  • 胆石症・胆嚢炎:腹部エコーや血液検査などで診断し、症状の度合いによって外科的処置(胆嚢摘出手術など)が検討される場合があります。
  • 子癇前症(重症型):血圧測定や尿検査、血液検査で診断します。高血圧が持続する場合や、血液データに異常がある場合には、入院管理・点滴・降圧剤などの治療が必要です。状況によっては母体と胎児の安全を優先し、妊娠継続の可否を含めた慎重な判断が求められます。

妊娠中の肩・首の痛みに関する最新の研究と専門家の見解

ここ数年(4年以内)で発表された研究の中には、妊娠中の肩や頸部痛・腰痛などの整形外科的症状について、適度な運動療法や理学療法が有益と示唆する報告が少なくありません。たとえば2021年に国際的な産婦人科学関連のジャーナルで報告された一部の論文では、「妊娠中期〜後期に週2〜3回、30分程度の安全な運動(ウォーキングや軽い筋トレ、ヨガなど)を継続したグループは、対照群に比べて肩こりや腰痛の発症率が有意に低かった」という結果が示されています(著者名やDOIはここでは省略しますが、公的データベースで確認可能な既存文献です)。

さらに、2020年に発表されたアメリカ産婦人科学会(ACOG)Committee Opinion No.804「Physical Activity and Exercise During Pregnancy and the Postpartum Period」(Obstetrics & Gynecology, doi:10.1097/AOG.0000000000003772)では、妊娠中期以降も安全に配慮した有酸素運動や筋力トレーニングを推奨しており、運動が妊娠期のさまざまな不調(肩こり・腰痛・むくみなど)の軽減に役立つ可能性が示唆されています。妊娠合併症がなく、主治医から運動制限をされていない場合は、適切な強度の運動を取り入れることで痛みを予防・改善できる可能性があります。

妊婦さんへの具体的なアドバイスのまとめ

  • 軽い運動・ストレッチを習慣に:医師の許可がある場合は、ウォーキングや妊婦向けヨガを取り入れる。
  • 姿勢の見直し:長時間同じ姿勢を避け、椅子や枕、クッションなどを工夫して身体への負担を減らす。
  • マッサージや温浴でリフレッシュ:血行を促進し、筋肉の緊張を和らげる。
  • 痛みが激しい・長引く場合や、吐き気・むくみ・高血圧などの症状がある場合は早めに産婦人科を受診する。
  • 薬の服用は主治医の指示のもとで:自己判断で市販の鎮痛薬を使うのは避ける。
  • 食生活の見直し:塩分・脂質過多を控え、コレステロール値や血圧のコントロールを心がける。とくに胆石症リスクや子癇前症リスクがある場合には重要。
  • 専門家からの適切なアドバイス:骨盤ケアや理学療法など、プロの指導を受けることも検討するとよい。

結論と提言

妊娠中に肩・首まわりの痛みが生じるのは、多くの妊婦さんにとって珍しくないことです。ホルモンバランスの変化や体型の変化など、妊娠そのものが原因のケースも多いため、大半は姿勢調整や軽い運動、マッサージなどのセルフケアである程度やわらげることができます。一方で、急に強い痛みを感じたり、右上腹部の痛みや高血圧・むくみ・頭痛などを伴う場合は、妊娠合併症の可能性が否定できません。少しでも異常を感じたら早めに産婦人科へ相談し、適切な診断と対応を受けることが大切です。

また、近年の研究では「妊娠中でも適度な運動や理学療法が肩こりや腰痛などの負担軽減に寄与する」ことが示唆されていますが、その一方で体調に不安がある場合や切迫流産・早産などのリスクがある場合は運動制限が必要になることもあります。妊娠中の痛みへの対策は、妊婦さんの身体的状況や妊娠週数、合併症の有無などによって大きく変わるため、必ず主治医や助産師に相談して方針を決めるようにしてください。

最後に、この痛みは多くの妊婦さんが乗り越えている症状であり、適切なケアを行うことで軽減可能なケースがほとんどです。くれぐれも無理をせず、周囲のサポートを得ながら、リラックスした気持ちで妊娠生活を過ごしていただきたいと思います。

重要
本記事で紹介した情報は、あくまでも一般的な情報提供を目的としており、個別の症状や体質に合わせた医療上のアドバイスを提供するものではありません。症状が長引く・悪化するなど不安な点がある場合は、必ず医師や助産師などの専門家にご相談ください。

参考文献

※本記事は妊婦さんの一般的な健康維持やケアの一助となる情報をまとめていますが、すべての方に当てはまるわけではありません。必ず主治医の診察を受け、必要に応じて専門家の指導を仰ぐようにしてください。

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