要点まとめ
- 多くの日本の妊婦は、過度な紫外線対策により、赤ちゃんの骨や母体の健康に不可欠な「ビタミンD」が深刻に不足しています。
- ビタミンD不足は、妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、早産などのリスクを高める可能性があります。
- 短時間(数分~十数分)の日光浴は、ビタミンD生成に非常に効果的です。必要な時間は季節や地域で大きく異なります。
- 紫外線による葉酸分解のリスクは、通常の日光浴では極めて低く、サプリメントを適切に摂取していれば問題ありません。
- 日光浴と食事(魚・きのこ類)、そして必要に応じたサプリメントの利用を組み合わせ、必ずかかりつけ医に相談することが、最適な健康管理の鍵となります。
【メリット】太陽の恵み「ビタミンD」:ママと赤ちゃんの強い味方
太陽の光を過度に避けることのリスクを考える上で、まず理解すべきなのが「ビタミンD」の圧倒的な重要性です。ビタミンDは、妊娠中の母体と胎児の健康を支える、まさに「太陽の恵み」とも言える栄養素です。しかし、その重要性にもかかわらず、多くの妊婦さんが不足状態にあるという深刻な実態が明らかになっています。
ビタミンDの科学:なぜ妊娠中に不可欠なのか?
ビタミンDの最も重要な役割は、食事から摂取したカルシウムの吸収を助けることです3。カルシウムは、お腹の赤ちゃんの骨や歯を形成するための主要な材料です。しかし、カルシウムをどれだけ摂取しても、ビタミンDが不足しているとその吸収率が著しく低下してしまいます。ビタミンDは、まるでカルシウムを体内に取り込むための「鍵」のような存在なのです3。妊娠中は、胎児の骨格形成のために大量のカルシウムが必要とされます。この需要に応えるため、母体はビタミンDを介してカルシウムの吸収を促進し、胎児へと供給します。さらに、ビタミンDは骨の健康だけでなく、免疫機能を正常に保ったり、全身の細胞の成長を調整したりと、生命維持に欠かせない多様な役割を担っています4。妊娠という特別な期間において、ビタミンDは母子双方の健康基盤を築く上で不可欠な栄養素と言えるのです。
日本の隠れた危機:妊婦のビタミンD不足はなぜ深刻か
これほど重要なビタミンDですが、現代の日本では、特に妊婦さんにおける不足が「隠れた危機」とも言うべき深刻なレベルに達しています。複数の日本の研究が、この問題を浮き彫りにしています。例えば、2011年から2013年にかけて行われた大規模な調査では、調査対象となった妊婦の実に73.2%が、ビタミンD不足(血清25(OH)D濃度が20 ng/mL未満)の状態にあったことが報告されています5。さらに衝撃的なのは、2017年から2018年にかけて京都で行われた別の調査で、ビタミンDが「充足している」とされる基準(30 ng/mL以上)を満たしていた妊婦は、わずか0.67%しかいなかったという事実です6。これは、日本の妊婦さんのほぼ全員が、程度の差こそあれビタミンDが足りていない状況にあることを示唆しています。
この深刻なビタミンD不足の背景には、現代的なライフスタイルが大きく関係しています。
- 過度な紫外線対策: 美白志向の高まりから、日焼け止めや日傘、UVカット衣類などで紫外線を徹底的に避ける習慣が定着しています1。
- 屋外活動の減少: 室内で過ごす時間が増え、太陽の光を浴びる機会そのものが減少しています7。特に、新型コロナウイルスのパンデミックは、外出自粛によりこの傾向に拍車をかけました8。
- 食生活の変化: かつて日本人のビタミンD供給源の中心であった魚介類の摂取量が減少していることも一因です4。
ビタミンDは食事から摂取することもできますが、その必要量の多くは日光の紫外線を浴びることで皮膚で生成されます1。そのため、太陽を避ける生活習慣は、直接的にビタミンD不足へとつながってしまうのです。この問題は、特に日照時間の短い冬季や、北日本の地域でより顕著になります1。
妊娠アウトカムへの影響:ビタミンDが守る母子の健康
妊婦のビタミンD不足は、単なる栄養不足にとどまらず、妊娠中の様々な合併症や赤ちゃんの健康問題のリスクを高めることが、数多くの質の高い研究によって明らかにされています。世界中の研究報告を統合・解析した「メタアナリシス」という手法を用いた複数の研究では、妊娠中に十分なビタミンDを確保することが、以下のようなリスクを大幅に低減させることが示されています。
- 妊娠高血圧症候群(Preeclampsia): ビタミンDの補充により、発症リスクが44.8%も減少したという報告があります9。これは妊娠中の最も危険な合併症の一つであり、ビタミンDがその予防に重要な役割を果たす可能性を示しています4。
- 妊娠糖尿病(Gestational Diabetes): ビタミンDはインスリンの働きを助ける作用もあり、不足すると妊娠糖尿病のリスクが高まることが指摘されています4。
- 早産(Preterm Birth): ビタミンDの補充は、早産のリスクを30%減少させると報告されています9。適切なビタミンDレベルを保つことが、妊娠期間を正常に維持するために重要です4。
- 低出生体重児(Low Birth Weight): ビタミンDは胎児の正常な発育に不可欠であり、母親のビタミンD不足は、赤ちゃんが小さく生まれるリスクと関連しています10。
- 赤ちゃんの骨の病気(くる病・頭蓋ろう): ビタミンD不足の最も古典的な症状が、赤ちゃんの骨が柔らかくなる「くる病」や、頭蓋骨の一部がへこむ「頭蓋ろう」です。母親のビタミンD不足は、胎児の骨形成に直接影響し、これらの病気のリスクを高めます1。
さらに、近年では妊活中(プレコンセプション期)のビタミンDの重要性も注目されています。体内のビタミンD濃度が高い女性ほど、体外受精における着床率や妊娠率が高く、流産率が低いというデータも報告されており、ビタミンDが卵子の質や子宮内膜の環境を整える上で重要な役割を果たしている可能性が示唆されています11。このように、ビタミンDは妊娠前から出産後まで、母子双方の健康を守るための強力な味方です。しかし、ここで一つの重要な点に触れておく必要があります。日本の厚生労働省が定める「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、妊婦のビタミンDの目安量は1日8.5µgとされており、これは非妊娠時の女性と同じ値です3。報告書では、妊婦で必要性が高まることは認めつつも、「具体的な数値を策定するだけのデータがない」として付加量が設定されていません12。一方で、これまで見てきたように、国際的な研究では妊娠中のビタミンD不足が様々なリスクと関連し、その補充がリスクを低減することが強く示唆されています。このギャップは、日本の公的な基準が、国内での大規模な臨床試験の結果を待って慎重に設定されているためと考えられます。しかし、科学的なエビデンスの全体像を見れば、妊娠中のビタミンD確保が極めて重要であることは明らかです。さらに言えば、多くの日本人女性は、その基準値である8.5µgすら食事だけでは摂取できていないのが現状です3。この事実こそが、日光浴の役割を再評価する必要性を物語っているのです。
【リスク】知っておくべき紫外線の影響:葉酸とデリケートな妊婦の肌
ビタミンDの重要性を理解した上で、次に目を向けるべきは太陽の光がもたらすリスクです。特に妊娠中は、普段以上に慎重になるべき点がいくつかあります。漠然とした不安を解消するため、ここでは科学的根拠に基づいて、具体的なリスクとその対処法を明確に解説します。
最も重要な懸念:紫外線による「葉酸」の分解リスク
妊娠初期の女性にとって最も重要な栄養素の一つが「葉酸」です。葉酸は、赤ちゃんの脳や脊髄といった中枢神経系が作られる非常に重要な時期に、神経管閉鎖障害(NTDs)という先天異常のリスクを低減する働きがあります13。このため、厚生労働省も妊娠を計画している女性や妊娠初期の女性に対して、サプリメントなどから1日400µgの葉酸を摂取することを強く推奨しています12。この重要な葉酸に関して、「紫外線を浴びると体内で分解されてしまうのではないか」という懸念が存在します。実際に、実験室レベルの研究では、紫外線が葉酸を分解(光分解)することが示されており、これがリスクとして議論される根拠となっています13。この情報を聞くと、「ビタミンDのために日光を浴びたら、大切な葉酸が壊れてしまうのでは?」と心配になるのは当然です。しかし、ここで重要なのは「量(ドーズ)」の問題です。最新の研究レビューによると、この葉酸の分解が臨床的に問題となるのは、皮膚疾患の治療などで用いられるような、非常に強い線量の紫外線を浴びた場合に限られることが示唆されています14。具体的には、治療レベルの紫外線(狭域UVB)を1回の治療で2 J/cm²以上、または累積で40 J/cm²以上という高線量を浴びた場合に、血中の葉酸値が19%~27%低下したという報告がある一方で、それ以下の線量では有意な影響は見られませんでした14。この事実は、妊婦さんにとって非常に重要な示唆を与えます。後述する「ビタミンD生成に必要な、短時間の日光浴」程度の紫外線量で、神経管閉鎖障害のリスクを高めるほど葉酸が破壊される可能性は極めて低いと考えられます。むしろ、ビタミンD不足がもたらす様々な妊娠合併症のリスクの方がはるかに大きいと言えるでしょう。この「ビタミンDの確保」と「葉酸の維持」という、一見矛盾するように見える二つの公衆衛生上の推奨は、実は両立可能です。その鍵は、「医師の推奨通りに葉酸サプリメントをしっかり摂取し、後述するガイドラインに沿って賢く短時間の日光浴を行う」というバランスの取れたアプローチにあります。この方法であれば、葉酸分解のリスクを最小限に抑えつつ、ビタミンD不足の解消という大きなメリットを享受することができるのです。
妊娠中特有の肌トラブル:シミ(肝斑)と肌の敏感化
妊娠中は、女性ホルモンであるエストロゲンやプロゲステロンの分泌が活発になります。このホルモンバランスの変化は、メラノサイト(色素細胞)を刺激し、メラニンの生成を促進するため、シミ、特に「肝斑(かんぱん)」と呼ばれる左右対称性のシミができやすくなります15。肝斑は紫外線によって悪化するため、妊娠中は普段以上の紫外線対策が美容の観点から重要になります。また、ホルモンの影響や体の変化に伴い、妊娠中の肌は非常にデリケートな状態になります。これまで問題なく使えていた化粧品が合わなくなったり、少しの刺激で赤みやかゆみが出やすくなったりすることもあります16。このような肌の敏感化も、紫外線によるダメージを受けやすくする一因となります。
一般的な紫外線リスク:皮膚の老化と皮膚がん
最後に、妊娠中に限らず一般的に知られている紫外線のリスクについても触れておきます。長期間にわたって過度な紫外線を浴び続けることは、肌の弾力性を支えるコラーゲンやエラスチンを破壊し、シワやたるみといった「光老化」を促進します。また、最も深刻なリスクとして、皮膚がんの発生率を高めることが科学的に証明されています1。これらのリスクは、無防備に長時間日光を浴びることの危険性を示しています。本稿で推奨するのは、あくまで「ビタミンD生成に必要な、管理された短時間の日光浴」であり、無謀な日焼けではありません。リスクを正しく理解し、メリットを最大化するバランスの取れたアプローチこそが、賢い太陽との付き合い方なのです。
【専門家のアクションプラン】安全な日光浴の実践ガイド
ビタミンDのメリットと紫外線のリスクを理解した上で、最も重要なのは「具体的にどう行動すればよいのか」という実践的な知識です。ここでは、科学的データに基づいた、妊婦さんが今日から安心して取り組める具体的なアクションプランを提示します。
ビタミンD生成に必要な日光浴時間:日本の都市別・季節別ガイド
「適度な日光浴」と言われても、その「適度」がどのくらいなのか分からなければ行動に移せません。この疑問に答えるため、日本の国立環境研究所(NIES)が非常に重要な研究報告を発表しています1。この研究では、日本人の平均的な肌質(スキンタイプIII)の人が、顔と両手の甲(約600 cm²)を露出した状態で、厚生労働省が推奨する1日のビタミンD目安量(8.5µg)を生成するのに必要な日光浴時間を、日本の主要都市別・季節別に算出しています1。このデータは、あなたの住む場所や季節に応じて、どれくらいの時間、太陽の光を浴びれば良いのかを知るための、極めて信頼性の高い指標となります。
地点 (Location) | 季節 (Season) | 正午の日光浴時間 (Minutes at Noon) |
---|---|---|
札幌 (Sapporo) | 夏 (7月) | 約7分 |
札幌 (Sapporo) | 冬 (12月) | 約118分 |
つくば (Tsukuba) | 夏 (7月) | 約5分 |
つくば (Tsukuba) | 冬 (12月) | 約35分 |
那覇 (Naha) | 夏 (7月) | 約4分 |
那覇 (Naha) | 冬 (12月) | 約12分 |
出典: 国立環境研究所の報告1に基づき、当時の目安量5.5µgから現在の目安量8.5µgに比例換算して推定。晴天時の顔と両手の甲を露出した場合の計算値。 |
この表から、いくつかの重要なことが分かります。
- 効率の良い時間帯: 日光浴は、紫外線が最も強い正午前後の時間帯に行うのが最も効率的です。同じ量のビタミンDを生成するにも、朝や夕方では何倍もの時間が必要になります1。
- 季節と場所による大きな差: 夏のつくばではわずか5分で済むのに対し、冬の札幌では約2時間も必要となり、その差は歴然です。これは、なぜ冬季や北国でビタミンD不足が深刻化しやすいのかを明確に示しています17。
- 実践可能性: 札幌の冬のように、現実的に毎日必要な時間を確保するのが難しい場合もあります。そのような場合は、後述する食事やサプリメントによる補充がより重要になります。
この表は、あなたのライフスタイルに合わせて日光浴の計画を立てるための強力なツールです。
賢い日光浴のテクニック:「手のひら日光浴」のススメ
顔のシミやシワが気になる方にとって、顔に直接紫外線を浴びるのには抵抗があるかもしれません。そのような方におすすめなのが、顔への紫外線を避けつつ、効率的にビタミンDを生成するテクニックです。
- 「手のひら日光浴」: 手のひらは、顔の皮膚に比べてメラニン色素が少なく、日焼けしにくい部位です。一方で、ビタミンDを生成する能力は持っています。日中の短い時間、手のひらを太陽にかざすだけでも、ビタミンD生成に貢献できます18。
- 腕や足の活用: 顔には日焼け止めを塗り、腕や足などを短時間露出させるのも有効な方法です。
- 日陰でもOK: 直射日光でなくても、日中の明るい日陰であれば、大気中で散乱した紫外線によってある程度のビタミンDは生成されます。散歩の際に木陰を歩くだけでも、全く屋内にいるのとは違います。
重要なのは、これらの短時間の日光浴は「日焼け止めを塗らない状態の肌」で行うということです。ビタミンD生成のためだけの数分~十数分の露出と、それ以上の時間屋外で過ごす際の紫外線防御は、明確に区別して考えましょう。
妊娠中でも安心!安全な日焼け止めの選び方
ビタミンD生成のための短時間の日光浴以外で屋外で過ごす際には、徹底した紫外線対策が不可欠です。特に、肌が敏感になりがちな妊娠中は、日焼け止めの選び方に注意が必要です19。以下のチェックリストを参考に、母子ともに安心して使える製品を選びましょう。
チェック項目 | 推奨される選択 | 理由・注意点 |
---|---|---|
成分の種類 | 紫外線散乱剤(酸化チタン、酸化亜鉛)が主成分のもの。「ノンケミカル」表示を確認。 | 紫外線吸収剤に比べ、肌への刺激が少なくアレルギー反応を起こしにくい。19 |
避けるべき成分 | オキシベンゾン、メトキシケイヒ酸エチルヘキシル | 体内に吸収され、ホルモンの働きに影響を与える(内分泌かく乱作用)可能性が指摘されているため。19 |
剤形(タイプ) | クリーム、ミルク、ローションタイプ | スプレーやミストタイプは、成分を吸い込んでしまうリスクがあるため、妊娠中は避けるのが賢明。16 |
SPF/PA値 | 日常生活:SPF15~30 / PA++ 程度 レジャー:より高い値のもの |
SPF/PA値が高いほど肌への負担も増える傾向にあるため、シーンに応じて使い分けることが大切。16 |
肌への優しさ | 無香料、アルコールフリー、敏感肌用、ベビー用 | 妊娠中は香りに敏感になったり、肌がデリケートになったりするため、低刺激処方のものが安心。16 |
落としやすさ | 石鹸やお湯で落とせるタイプ | 強いクレンジング剤が不要なため、肌への負担を軽減できる。16 |
このチェックリストは、数多くの製品の中から、あなたと赤ちゃんにとって最適な日焼け止めを見つけるための羅針盤となります。成分表示をしっかり確認する習慣をつけ、安全で快適なマタニティライフを送りましょう。
【食事とサプリ】日光浴を補う栄養戦略と医師への相談
賢い日光浴はビタミンD確保の柱ですが、それだけが全てではありません。特に、天候の悪い日や、日照時間の短い冬、つわりなどで外出が難しい時期には、食事やサプリメントを組み合わせた総合的な栄養戦略が重要になります。そして、何よりも大切なのが、専門家であるかかりつけ医との相談です。
食卓から摂るビタミンD:おすすめの食材リスト
ビタミンDを天然に多く含む食品は限られていますが、意識して食生活に取り入れることで、日光浴の効果を補い、ビタミンDレベルの維持に貢献できます21。以下に、ビタミンDが豊富な代表的な食材を挙げます。
- 魚類 (Fish): ビタミンDの最も優れた供給源です。特に、鮭(さけ)、さんま、いわし、サバなどの脂肪分の多い魚に豊富に含まれています4。週に数回、これらの魚を食事に取り入れることを目指しましょう。
- きのこ類 (Mushrooms): きのこ類も貴重なビタミンD源です。特に、干ししいたけやきくらげには豊富に含まれています22。きのこは天日干しにすることで、紫外線によってビタミンDの含有量が増えるという特徴があります。生のきのこを買ってきた際に、調理前に短時間でも日光に当てると効果的です23。
- 卵 (Eggs): 卵にもビタミンDが含まれていますが、そのほとんどは卵黄に含まれています24。完全栄養食とも言われる卵は、手軽に取り入れられるビタミンD源の一つです。
欧米では牛乳やシリアルなどにビタミンDが強化(添加)されていることが一般的ですが、日本ではまだそのような食品は限られています24。そのため、上記の自然な食材から摂取することが基本となります。
サプリメントの賢い活用法
日光浴や食事だけでは十分なビタミンDを確保するのが難しい場合、サプリメントは非常に有効で現実的な選択肢となります3。特に、冬場の北日本にお住まいの方や、アレルギーなどで魚が食べられない方、外出が困難な方にとっては重要なサポート役となります。サプリメントを利用する際に必ず守るべきことは、摂取量を守ることです。ビタミンDは脂溶性ビタミンのため、体内に蓄積されやすく、過剰摂取は健康被害(高カルシウム血症など)につながる可能性があります4。厚生労働省が定める妊婦の摂取基準は以下の通りです。
市販の妊婦向けマルチビタミン(プレナタルビタミン)の多くには、すでにビタミンDが含まれています3。ご自身が利用しているサプリメントの成分表示を確認し、他のサプリメントと合わせて上限量を超えないように注意しましょう。どのサプリメントを選べば良いか迷った場合は、自己判断せず、必ず次のステップに進んでください。
最も大切なステップ:必ずかかりつけ医に相談を
この記事で提供した情報は、あなたがご自身の健康状態を理解し、より良い選択をするための知識です。しかし、それは決して専門的な医学的アドバイスに取って代わるものではありません。妊娠中の健康管理に関する最終的な判断は、必ずかかりつけの産婦人科医や助産師に相談の上で行ってください20。医師に相談すべき具体的な内容は以下の通りです。
- 現在のビタミンDレベル: 簡単な血液検査(血清25(OH)D濃度測定)で、ご自身のビタミンDが足りているか、不足しているかを正確に知ることができます17。客観的な数値に基づいて、必要な対策を判断することが最も確実です。
- 日光浴の習慣: ご自身のライフスタイルや住んでいる地域を伝え、どの程度の日光浴が推奨されるかアドバイスを求めましょう。
- 食事内容: 普段の食事内容を伝え、食事からのビタミンD摂取が十分か評価してもらいましょう。
- サプリメントの利用: ビタミンDサプリメントの摂取を考えている場合は、どの製品を、どのくらいの量摂取すべきか、必ず医師の指示を仰いでください。
質の高い健康情報とは、自己判断を促すものではなく、専門家との対話をより実りあるものにするためのツールです。この記事で得た知識を元に、ぜひかかりつけ医と積極的にコミュニケーションをとり、あなたと赤ちゃんにとって最善の健康管理プランを一緒に作り上げてください。このプロセスこそが、ヘルスリテラシーを高め、主体的に健康を守る上で最も重要なステップなのです25。
よくある質問
Q1: 十分なビタミンDを作るには、どのくらいの時間日光浴をすれば良いですか?
Q2: 日光を浴びると、妊娠初期に大切な「葉酸」が壊れると聞いて心配です。
Q3: 妊娠中に使っても安全な日焼け止めは、どうやって選べばいいですか?
Q4: 食事だけで必要なビタミンDを摂ることはできますか?
結論
妊娠中の日光浴に関する疑問や不安は、多くの妊婦さんが共有するものです。その根底には、「美白」という文化的価値観と、お腹の赤ちゃんの健康を願う強い母性の間で揺れ動く、複雑な心理があります。本稿を通じて明らかになったのは、太陽との付き合い方は「すべて避ける」か「無防備に浴びる」かの二者択一ではない、ということです。科学的根拠に基づいた「バランス」と「管理」こそが、その答えです。あなたのマタニティライフを健やかで自信に満ちたものにするための、専門家が推奨する三つの柱を、ここでもう一度確認しましょう。
- 賢い日光浴 (Smart Sun Exposure): ビタミンD生成のために、ごく短時間(数分~十数分)、日焼け止めを塗らずに太陽の光を浴びる。その時間は、国立環境研究所のデータを参考に、季節やお住まいの地域に合わせて調整する。顔への照射が気になる場合は「手のひら日光浴」などの工夫を取り入れる。
- 徹底した防御 (Thorough Protection): 上記以外の時間帯で屋外で過ごす場合は、妊娠中でも安全な成分(紫外線散乱剤ベース)の日焼け止めを適切に使い、帽子や日傘、衣類で肌をしっかり守る。これは、シミや肝斑といった美容上の懸念と、長期的な皮膚へのダメージの両方からあなたを守ります。
- 食事と相談 (Diet and Consultation): 日光浴を補う形で、魚やきのこ類などビタミンDが豊富な食材を食生活に積極的に取り入れる。サプリメントは有効な選択肢ですが、過剰摂取のリスクを避けるため、必ずかかりつけ医に相談した上で、適切な製品と量を守って利用する。
この三つの柱を実践することで、あなたは紫外線による葉酸分解や肌へのダメージといったリスクを最小限に抑えながら、ビタミンD不足がもたらす妊娠高血圧症候群や早産といった深刻なリスクから、ご自身と大切な赤ちゃんを守ることができます。太陽をいたずらに恐れる必要はありません。その性質を正しく理解し、賢く付き合うことで、太陽はあなたの最強の味方になります。本稿で得た知識が、あなたの不安を自信に変え、健やかで喜びに満ちたマタニティライフを送るための一助となることを心から願っています。
本記事は情報提供を目的としたものであり、専門的な医学的アドバイスに代わるものではありません。健康に関する懸念や、ご自身の健康・治療に関する決定を下す前には、必ず資格を有する医療専門家にご相談ください。
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