子どもとコンブチャ:保護者が知っておくべき科学的根拠に基づく包括的ガイド
小児科

子どもとコンブチャ:保護者が知っておくべき科学的根拠に基づく包括的ガイド

コンブチャ(Kombucha)は、紅茶や緑茶に砂糖を加え、酢酸菌と酵母菌から成る共生培養物(SCOBY: Symbiotic Culture of Bacteria and Yeast)を用いて発酵させた飲料です1。その起源は古く、日本では1970年代に「紅茶キノコ」として一度流行した歴史があります2。近年、このコンブチャが健康志向の高い海外の消費者を中心に再び注目を集め、世界的な健康飲料ブームを巻き起こしています3。その波は日本にも及び、砂糖が多く含まれるジュースや炭酸飲料に代わるヘルシーな選択肢として、市場には多種多様な製品が登場しています4。従来からの瓶入り飲料に加え、水に溶かして手軽に飲める粉末タイプも広く普及し始めています5。このブームの中で、多くの保護者が一つの疑問に直面しています。「プロバイオティクスや抗酸化物質が豊富」といった健康効果を耳にする一方で、発酵過程で生じるアルコールや、原料であるお茶由来のカフェインを含むこの飲料を、大切な子どもに与えても本当に安全なのだろうか、という懸念です。本稿は、JapaneseHealth.org編集部として、この保護者の切実な疑問に答えるため、小児栄養学の専門的見地から、コンブチャが子どもの健康に与える影響を徹底的に分析します。コンブチャの持つ「光」、すなわち期待される健康効果と、その裏に潜む「影」、すなわち子ども特有の健康リスクを、最新の科学的知見に基づいて多角的に評価し、保護者が情報に基づいた賢明な判断を下すための、信頼できる指針を提供することを目的とします。

本記事の科学的根拠

この記事は、引用元として明記された質の高い医学的エビデンスのみに基づいています。以下に示すリストは、本稿で提示される医学的指針に直接関連する実際の情報源の一部です。

  • 米国連邦アルコール・タバコ税貿易管理局(TTB)および学術論文: 本記事におけるコンブチャのアルコール度数に関する規制(0.5%未満)および、瓶詰め後の発酵継続によるアルコール度数上昇のリスクについての記述は、TTBの公式見解および科学的検証に基づいています61
  • 米国小児科学会(AAP)および日本の厚生労働省・食品安全委員会: 子どもへのカフェイン摂取に関する推奨事項、特に年齢別の具体的な最大摂取許容量に関する記述は、AAPの勧告および日本の公的機関が参照するカナダ保健省のガイドラインに基づいています789
  • 学術論文(毒性・汚染に関する研究): 自家製コンブチャにおける微生物学的汚染(有害なカビ、マイコトキシン)および化学的汚染(鉛の溶出)のリスク、ならびにD-乳酸アシドーシスの危険性に関する専門的な分析は、査読付き科学雑誌に掲載された複数の研究論文に基づいています10

要点まとめ

  • 結論として非推奨:子どもの健康に対するリスク(アルコール、カフェイン等)が、期待される効果(科学的根拠が乏しい)を上回るため、特に12歳未満の子どもには推奨されません。
  • 微量アルコールのリスク:市販品でもアルコール度数が変動する可能性があり、自家製では管理不能なレベルに達する危険性があります。子どもにとって安全なアルコール摂取量は存在しません。
  • カフェインの過剰摂取:製品によっては、少量でも子どものカフェイン許容量を超える可能性があります。不眠、不安感、集中力低下の原因となり得ます。
  • 自家製は絶対に避けるべき:有害なカビや細菌による汚染、毒素の産生、鉛中毒など、生命に関わる深刻なリスクを伴います。
  • より安全な代替品が存在する:子どもの腸内環境改善には、ヨーグルトや味噌、納豆といった、リスクがなく効果が確立された発酵食品がはるかに適しています。

第1部:コンブチャの「光」- 期待される健康効果の科学的評価

コンブチャが健康飲料として注目される背景には、主に3つの期待される効果があります。ここでは、それぞれの効果について科学的な視点からその妥当性を検証します。

1.1 プロバイオティクスと腸内環境

コンブチャの最大の魅力として語られるのが、プロバイオティクス(善玉菌)の存在です。コンブチャには、発酵過程で増殖する乳酸菌(LAB)や酢酸菌(AAB)などの生きた微生物が豊富に含まれています11。これらのプロバイオティクスは、一般的に腸内環境を整え、健康を維持する上で有益であると考えられています12。実際に、発酵食品を豊富に含む食事を摂取した母親から生まれた子は、腸内細菌叢の成熟が促進され、腸の炎症に対する抵抗力が高まる可能性を示唆する動物研究も存在します13。このような研究結果は、「腸活」に関心を持つ保護者にとって、コンブチャが子どもの健康に寄与するのではないかという期待を抱かせる一因となっています。しかし、ここで極めて重要な注意点があります。まず、この研究はコンブチャ単体ではなく、より広範な発酵食品を含む食事に関するものであり、対象も人間の子どもではなく動物モデルです。その結果を直接、コンブチャを飲む子どもに当てはめるのは科学的な飛躍と言わざるを得ません。さらに決定的なのは、コンブチャに含まれるプロバイオティクスが子どもの健康に具体的にどのような効果をもたらすかについて、信頼性の高い人間を対象とした臨床研究がほとんど存在しないという事実です12。コンブチャに含まれる微生物の種類や量は、製品ごと、あるいは自家製のバッチごとに大きく異なり、標準化されていません14。したがって、「プロバイオティクスによる健康効果」は、あくまで「潜在的な可能性」に過ぎず、保証されたものではないのです。この不確かな利益と、後述する明確なリスクを天秤にかける必要があります。子どものような感受性の高い集団に対しては、このリスク便益評価は極めて慎重に行われなければなりません。

1.2 抗酸化物質とその他の栄養素

コンブチャの原料は緑茶や紅茶であるため、ポリフェノール類をはじめとする抗酸化物質が含まれています11。抗酸化物質は、体内の細胞を酸化ストレスによるダメージから守る働きがあります。一部では、発酵プロセスによってこれらの抗酸化作用がさらに高まる可能性も指摘されています12。加えて、発酵の副産物として、微量のビタミンB群や様々な有機酸も生成されます15。これらの成分が健康に良いことは事実です。しかし、これらの栄養素は、果物、野菜、全粒穀物といった、はるかに安全で入手しやすい食品から十分に摂取することができます。日本動脈硬化学会が推奨する健康的な食事様式『The Japan Diet』でも、野菜や大豆製品、きのこ類などの積極的な摂取が勧められており、バランスの取れた食事こそが基本です16。子どもが安全に摂取できるコンブチャの量はごくわずか(ある小児科医は4歳以上で1日あたり1/2カップ、約120mlを上限として提案しています14)です。この程度の量から得られる抗酸化物質やビタミンB群の量は、栄養学的に見て微々たるものであり、子どもの全体的な栄養状態に大きな影響を与えるとは考えにくいです。これらの栄養素の存在は、大人がコンブチャを選ぶ際の「付加価値」にはなるかもしれませんが、子どもに特有のリスクを冒してまで積極的に与えるべき説得力のある理由にはなりません。

1.3 ジュース代替としての価値

おそらく、コンブチャが持つ最も現実的で実用的な利点は、糖分の多いジュースや炭酸飲料の代替品となりうることです。一般的に、適切に作られたコンブチャは、市販のフルーツジュースやソーダ飲料よりも糖分がかなり少ない傾向にあります4。子どもの過剰な糖分摂取は、肥満や虫歯、将来的な2型糖尿病のリスクを高めることが知られており17、糖分を控えさせたいと考える保護者にとって、コンブチャは魅力的な選択肢に見えるかもしれません14。しかし、この利点も無条件ではありません。第一に、市販のコンブチャの中には、飲みやすさを向上させるために発酵後に砂糖や果汁を添加している製品も少なくありません。製品によっては1杯あたり15gもの砂糖が含まれている場合もあり17、「低糖質」というイメージが必ずしも当てはまるとは限りません。保護者は、栄養成分表示を注意深く確認し、糖分の添加が最も少ない製品を選ぶ必要があります14。第二に、この選択は「ジュースか、コンブチャか」という二者択一の罠に陥りがちです。米国小児科学会(AAP)をはじめとする多くの専門機関が、子どもにとって最も推奨される飲み物は、栄養のない糖質飲料ではなく、水や牛乳であると明確に示しています7。ジュースの代わりにコンブチャを与えるという選択は、一つの問題(過剰な糖分)を解決するために、別の新たなリスク(アルコール、カフェインなど)を導入することになりかねません。これは「二つの悪のうち、よりましな方を選ぶ」という議論であり、最も安全で最適な選択肢を見過ごすことにつながります。

第2部:コンブチャの「影」- 子どもにとっての5大リスク詳細分析

コンブチャの潜在的な利点を理解した上で、次に子ども特有の健康リスクについて、より深く掘り下げて分析します。これらのリスクは、コンブチャを子どもに与えるかどうかを判断する上で、最も重要な考慮事項となります。

2.1 微量アルコール:最も注意すべき点

コンブチャが発酵飲料である以上、アルコールの生成は避けられません4。これは保護者が抱く最大の懸念事項です。米国の規制では、非アルコール飲料として販売されるコンブチャのアルコール度数(ABV)は、0.5%未満でなければならないと定められています1。日本の酒税法でもアルコール度数1%未満の飲料は酒類に含まれません。この0.5%という数値は、多くの専門家にとって「微量」あるいは「無視できるレベル」と見なされることもあります14。しかし、子どもの健康という観点からは、この基準をそのまま受け入れることはできません。子どもの脳や身体は発達途上にあり、アルコールの影響を大人よりもはるかに受けやすいです。現時点では、子どもにとって安全なアルコール摂取量というものは存在しない、というのが医学的な共通認識です。さらに、この問題には2つの重大な落とし穴があります。第一に、市販品におけるアルコール度数の変動リスクです。コンブチャには生きた酵母が含まれているため、瓶詰め後も発酵が続く可能性があります。特に、常温で保管されたり、流通に時間がかかったりすると、瓶内で糖がさらにアルコールへと変換され、出荷時には0.5%未満だったアルコール度数が、消費者の手に渡る頃には規制値を超えてしまう可能性があるのです6。これは、規制を遵守している製品でさえ、潜在的なリスクをはらんでいることを意味します。第二に、自家製コンブチャの極めて高いリスクです。家庭での醸造は、温度管理や発酵時間の調整が不十分になりがちです。その結果、アルコール度数が意図せず高くなる危険性が非常に高くなります。実際に、自家製コンブチャの中にはアルコール度数が3%以上に達するものもあり、これは低アルコールのビールに匹敵する数値です18。このような管理されていない飲料を子どもに与えることは、断じて許容されるべきではありません。結論として、アルコール度数が変動しうる市販品、そして管理不能な自家製品の存在を考慮すると、アルコールは子どもにとって最も警戒すべきリスクであると言えます。

2.2 カフェイン:見過ごされがちな刺激物

保護者がアルコールや糖分に気を取られる中で、見過ごされがちなのがカフェインのリスクです。コンブチャは紅茶や緑茶から作られるため、必然的にカフェインを含みます4。その含有量は、一般的に元の茶葉の約3分の1程度まで減少すると言われていますが、それでも製品によっては1本あたり50mgを超えるカフェインが含まれる可能性があります4。この量は、子どもの身体にとっては決して「微量」ではありません。米国小児科学会(AAP)は、12歳未満の子どもにはカフェインを含む飲料の摂取を推奨しておらず、12歳から18歳の青年に対しても1日100mg未満に制限するよう勧告しています7。日本では、厚生労働省や食品安全委員会がカナダ保健省のガイドラインを参考情報として紹介しており、より幼い子どもたちに対して具体的な摂取許容量の目安を示しています8。このガイドラインは、保護者がリスクを具体的に把握するための非常に重要な指標となります。

子どもの年齢別カフェイン最大摂取許容量(目安)
年齢 1日あたりの最大摂取許容量(目安)
4~6歳 45 mg
7~9歳 62.5 mg
10~12歳 85 mg
13歳以上の青年 体重1kgあたり2.5 mg
出典:カナダ保健省のデータを基に、厚生労働省、食品安全委員会が公表した情報を統合89

この表を見れば、リスクの大きさが一目瞭然です。例えば、カフェイン含有量が多めのコンブチャ(1本50mgと仮定)を5歳の子どもが1本飲むだけで、1日の最大許容量を軽々と超えてしまいます。子どもがカフェインを過剰摂取した場合、不安感の増大、不眠、心拍数や血圧の上昇、胃酸の逆流、落ち着きのなさ、集中力の低下など、心身に様々な悪影響が及ぶ可能性があります719。特に、不安を抱えやすい子どもにとっては、カフェインが症状を悪化させる引き金にもなりかねません4。カフェイン含有量という一点だけでも、コンブチャを子どもに与えることには慎重になるべき強い理由が存在します。

2.3 糖分と酸:歯とお腹への負担

コンブチャは「低糖質」というイメージがありますが、前述の通り、これは全ての製品に当てはまるわけではありません17。そして、たとえ糖分が少ない製品を選んだとしても、もう一つの問題が残ります。それは、コンブチャが本質的に酸性の強い飲み物であるという点です。発酵過程で生成される酢酸やその他の有機酸により、コンブチャは強い酸性を示します11。この酸は、子どもの未熟な消化器系に負担をかける可能性があります。特に、胃が敏感な子どもや、過敏性腸症候群(IBS)の診断を受けている子どもにとっては、腹痛や膨満感、下痢などの消化器症状を引き起こす原因となりえます14。コンブチャは、IBSの症状を悪化させることが知られている高FODMAP(フォドマップ)飲料に分類されるため、該当する子どもには与えるべきではありません15。さらに、この「酸」と「糖」の組み合わせは、子どもの歯にとって最悪のコンビネーションです。酸が歯のエナメル質を溶かし(酸蝕症)、そこに糖が作用することで虫歯のリスクが飛躍的に高まります。

2.4 汚染と毒性のリスク:特に自家製は要注意

これは、特に自家製コンブチャに潜む、最も深刻で生命に関わる可能性のあるリスクです。家庭での醸造は、衛生管理が不十分になりやすく、有害な細菌やカビが繁殖する温床となりえます10。実際に、アスペルギルス属やペニシリウム属といった有害なカビの混入事例が報告されています。これらのカビの中には、マイコトキシンと呼ばれる発がん性や肝毒性を持つ強力な毒素を産生するものもあります10。1990年代半ば以降、コンブチャの飲用に関連した健康被害が複数報告されており、中には死亡例も含まれています12。これらの事例の多くは、衛生管理が不適切な自家製コンブチャに関連していると考えられています。さらに、醸造に用いる容器の材質も重大なリスクとなりえます。鉛を含む釉薬が使われた陶器製の容器でコンブチャを醸造すると、コンブチャの強い酸性によって鉛が溶け出し、飲料に混入する危険性があります10。鉛は強力な神経毒であり、特に子どもの脳の発達に深刻かつ不可逆的なダメージを与えることが知られています20。市販のコンブチャは、一般的に衛生的な環境で製造されているため、この種のリスクは低いと考えられます10。しかし、自家製コンブチャに関しては、微生物学的汚染と化学的汚染の両方のリスクが極めて高く、子どもに与えることは絶対に避けるべきです。

2.5 アシドーシスの危険性:子ども特有の代謝リスク

これは最も専門的かつ見過ごされやすい、しかし極めて重要なリスクです。コンブチャの過剰摂取は、稀ではありますが、重篤な健康状態である代謝性アシドーシスを引き起こす可能性があります10。アシドーシスとは、体内に酸が過剰に蓄積し、血液のpHが異常な酸性に傾く状態を指し、単なる「胃の不調」とは次元の異なる、全身性の救急疾患です。特に懸念されるのが、D-乳酸の存在です。コンブチャに含まれる乳酸菌の中には、D-乳酸を産生する種(例:Lactobacillus delbrueckii)が含まれています10。人間の体は、通常産生されるL-乳酸を効率的に代謝できますが、その異性体であるD-乳酸を代謝する能力は非常に低いのです。科学論文では、このD-乳酸の産生が「特に幼児におけるアシドーシスの健康課題」となりうることが明確に指摘されています10。これは、子どもの腎臓や肝臓といった代謝・排泄器官がまだ発達途上にあり、過剰な酸を処理する能力が大人に比べて劣っているためです。大人が問題なく処理できる量のD-乳酸でも、子どもの体内では蓄積し、D-乳酸アシドーシスを引き起こす可能性があります。これは、神経症状や代謝異常を伴う深刻な状態で、コンブチャが子どもにとって、大人とは根本的に異なる、より危険な飲み物となりうることを示す強力な根拠です。

第3部:総合的判断と保護者向け実践ガイド

これまでの科学的分析を踏まえ、保護者が現実的な判断を下すための具体的な指針を提示します。

3.1 結論:子どもにコンブチャを飲ませるべきか?

本レポートの専門的見地からの結論は、以下の通りです。

  • 4歳未満の乳幼児:絶対に与えるべきではない(No)15
  • 12歳未満の学童:推奨しない(Not Recommended)
  • 12歳以上の青年:ごくたまに、少量であれば許容される場合もあるが、注意深い監視が必要

この結論の根拠は、リスクと便益のバランスが、子どもにとっては圧倒的にリスク側に偏っているためです。プロバイオティクスや抗酸化物質といった期待される効果は、子どもを対象とした科学的根拠が乏しく、他のより安全な食品から容易に摂取可能です。一方で、アルコール、カフェイン、糖分、酸、汚染、そしてアシドーシスといったリスクは、科学的に文書化されており、中には深刻な健康被害につながるものも含まれます。複数の専門家や情報源が、幼児へのコンブチャ提供に反対しています15。子どもの健康に関しては、「害があるという証拠がない」ことは「安全であるという証拠」にはなりません。未知のリスクや未解明な点が多い製品については、予防原則に則り、最も安全な選択をすることが賢明です。

健康に関する注意事項

12歳以上の健康な青年にコンブチャを与える場合でも、リスクを最小限に抑えるため、以下のガイドラインを厳守し、必ず事前にかかりつけの小児科医に相談してください14

  • 自家製は絶対に避ける:汚染と管理されていないアルコール度数のリスクは計り知れません10。必ず信頼できるメーカーの市販品を選んでください。
  • ラベルを徹底的に読む:アルコール(「0.0%」または「0.5%未満」)、カフェイン(含有量を確認)、糖分(最も少ないもの)の3点を必ず確認してください1417
  • 「低温殺菌(Pasteurized)」製品を検討する:有害菌のリスクが低減され、アルコール度数が上昇する心配もないため、子どもの安全を最優先するなら、より賢明な選択です17
  • ごく少量から始める:最初は60mlから120ml(コップ半分程度)といったごく少量から始め、腹痛やアレルギー反応などの体調変化がないか、注意深く観察します10
  • 日常的な飲み物にしない:コンブチャは水分補給の手段ではありません。あくまで嗜好品として、特別な機会にごくたまに、少量を与えるに留めるべきです21

以下の条件に当てはまる子どもには、コンブチャを絶対に与えないでください:

  • 4歳未満の乳幼児15
  • 免疫機能が低下している子ども(例:病気の治療中など)15
  • 消化器系に問題がある子ども(例:過敏性腸症候群、胃酸逆流症など)15
  • 酵母やカビに対する既知のアレルギーがある子ども10
  • 病気の時、特に発熱や胃腸の不調がある時17

3.2 コンブチャ以外のより安全な選択肢

もし保護者が子どもの腸内環境の改善に関心があるならば、コンブチャに代わる、より安全で実績のある選択肢が数多く存在します。

  • プレーンヨーグルト、ケフィア:これらはプロバイオティクスの優れた供給源であり、子ども向けに糖分を調整した製品も多くあります。
  • 味噌、納豆:日本の伝統的な発酵食品であり、食生活に自然に取り入れることができます16。アルコールやカフェインのリスクはありません。

これらの食品は、コンブチャが持つような複雑なリスクを伴わずに、発酵食品の恩恵を子どもに与えるための、はるかに安全で賢明な方法です。

結論:愛情と科学的知識で子どもの健康を守る

本稿を通じて明らかになったのは、コンブチャが子どもにもたらすとされる健康上の利点は科学的根拠に乏しい一方で、そのリスクは多様かつ具体的であり、中には深刻なものも含まれるという事実です。特に、微量アルコール、カフェイン、自家製の場合の汚染リスク、そして幼児におけるアシドーシスの危険性は、保護者が十分に理解し、警戒すべき重要なポイントです。日本小児科学会や日本医師会といった主要な専門機関から、コンブチャに関する明確な指針が出されていない現状22は、その安全性が確立されていないことの裏返しとも言えます。流行やマーケティングの言葉に惑わされることなく、科学的な知識に基づいて冷静に判断すること。それが、子どもの健康を本当に守るための保護者の責任です。最終的な推奨事項として、コンブチャに限らず、子どもに新しい、あるいは特殊な食品やサプリメントを与える前には、必ずかかりつけの小児科医や管理栄養士に相談してください。一人ひとりの子どもの健康状態に合わせた専門家のアドバイスこそが、最も信頼できる道しるべとなるでしょう。

よくある質問

Q1: 子どもは何歳からコンブチャを飲めますか?
医学的な見地から、4歳未満の乳幼児には絶対に与えるべきではありません。12歳未満の学童にも推奨されません。これは、アルコール、カフェイン、酸、未確立な安全性など、子どもの発達途上の身体にはリスクが大きすぎるためです。12歳以上の健康な青年であっても、ごくたまに少量に留め、必ず事前に小児科医に相談することが不可欠です。
Q2: 「ノンアルコール」や「アルコール0.0%」と表示されていれば安全ですか?
完全には安全とは言えません。「0.5%未満」のアルコールを含む場合があり、子どもにとって安全なアルコール量はゼロです。また、生きた酵母を含む無殺菌の製品は、保管中に発酵が進みアルコール度数が表示より高くなる可能性があります6。子どもの安全を最優先するなら、アルコール含有のリスクは無視できません。
Q3: 子どもの腸活に良いと聞きましたが、本当ですか?
コンブチャにはプロバイオティクスが含まれますが、それが子どもの健康に具体的にどのような良い効果をもたらすかについての科学的証拠は非常に乏しいのが現状です12。一方でリスクは明確です。腸活を考えるなら、プレーンヨーグルト、ケフィア、味噌、納豆など、安全性が確立され、効果が証明されている発酵食品を選ぶ方がはるかに賢明です。
Q4: 自家製コンブチャは市販品より体に良くて安全ですか?
絶対に違います。自家製コンブチャは、市販品よりもはるかに危険です。衛生管理が難しく、有害なカビや細菌が繁殖するリスク、アルコール度数が管理できず高くなるリスク、鉛などの重金属が溶け出すリスクなど、命に関わる深刻な危険が伴います10。子どもには絶対に与えないでください。
免責事項
本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスに代わるものではありません。健康上の懸念がある場合や、健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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