要点まとめ
- 日本の現状: 最新の厚生労働省「国民健康・栄養調査」1によれば、日本の小学生および中学生において、依然として一定数の子どもたちが朝食を欠食している状況が報告されており、重要な健康課題となっています。
- 深刻な健康リスク: 朝食抜きは、肥満(リスクが1.59倍に増加)2, 3、2型糖尿病(特に過体重の子どもでリスクが4倍以上に増加)4、代謝機能の低下、体力低下5、情緒の不安定化6など、心身に多岐にわたる深刻なリスクをもたらします。
- 学力への影響は明確: 脳のエネルギー不足は集中力や記憶力の低下に直結します。朝食を毎日食べる子どもは、食べない子どもに比べて学力テストの正答率が一貫して高いことが、文部科学省の調査5, 7や最新の国際研究8で科学的に証明されています。
- 対策は家庭で可能: 理想的な朝食は「主食・主菜・副菜」の組み合わせが基本です。忙しい朝でも、前日の準備や市販品の効果的な活用9, 10によって栄養バランスの取れた朝食は実現可能です。「早寝早起き朝ごはん」11を意識した生活リズムの改善も不可欠です。
1. はじめに:なぜ子どもの朝食はこれほど重要なのか?
近年、日本では子どもたちの生活習慣の変化に伴い、朝食を十分に摂取しない子どもたちの割合が依然として懸念されています。これは、単に個々の家庭の問題としてだけでなく、将来の国民の健康を左右する可能性のある重要な課題として認識され始めています。
1.1. 日本の子どもたちの朝食摂取の現状:最新データから見える課題
最新の厚生労働省「国民健康・栄養調査(令和5年版)」によれば、日本の小学生および中学生において、依然として一定の割合の子供たちが日常的に朝食を欠食している状況が報告されています1。この背景には、保護者の就労状況、家庭の経済状況、そして生活リズムの乱れなど、様々な社会的要因が複雑に絡み合っていると考えられます。
1.2. 朝食が持つ「ゴールデンタイム」の役割:1日の活動と成長のスイッチを入れる
夜間の絶食状態を経て、私たちの体、特に脳はエネルギーが枯渇した状態にあります。朝食は、このエネルギーを補給し、血糖値を適切に上昇させることで、脳と身体を覚醒させ、1日の活動をスタートさせるための重要なスイッチとなります10。また、規則正しい朝食摂取は、体内時計を整え、生活リズムを安定させる効果も期待できます7。いわば、朝食は単なる食事ではなく、その日1日の知的活動、身体活動、そして長期的な成長と健康の基盤を築くための「ゴールデンタイム」なのです。
2. 朝食抜きが子どもにもたらす7つの深刻な健康リスク:科学的根拠に基づく詳細解説
朝食を抜くという習慣は、子どもたちの心身に、私たちが想像する以上に多様で深刻なリスクをもたらす可能性があります。ここでは、最新の科学的研究で指摘されている主要な7つのリスクについて、そのメカニズムと共に詳しく解説します。
2.1. リスク1:代謝機能の低下と成長への直接的影響
朝食を抜くと、体は長時間の飢餓状態に対応するため、エネルギーを節約しようとして基礎代謝を低下させる可能性があります5。特に成長期の子どもたちにとって、朝食は身長や体重の増加、骨や筋肉の発達に不可欠なエネルギーと栄養素(タンパク質、カルシウム、ビタミンDなど)を供給する重要な機会です10, 12。この貴重な栄養補給の機会を日常的に失うことは、健全な身体的成長に長期的な影響を及ぼすことも懸念されます。
2.2. リスク2:2型糖尿病発症リスクの増大:最新研究が警鐘
近年の研究では、子どもの朝食抜きが2型糖尿病の発症リスクを高める可能性が強く指摘されています。特に注目されるのは、東京医科歯科大学大学院(現:東京科学大学)の藤原武男教授らの研究グループが、東京都足立区の中学生約1,500人を対象に行った調査(A-CHILD Study)です4, 13, 14。この2023年に発表された研究によると、朝食を習慣的に抜いている生徒は、毎日食べている生徒に比べて、糖尿病予備群(ヘモグロビンA1c値が5.6%~6.4%)である割合が約2倍高いことが明らかになりました(毎日摂取群3.5%に対し、欠食群5.6%)。さらに衝撃的なのは、過体重の生徒に限ると、そのリスクは4倍以上に跳ね上がることが示された点です4。この結果は、朝食抜きが血糖コントロールに悪影響を及ぼし、インスリン抵抗性(インスリンの効きが悪くなる状態)を引き起こす可能性を強く示唆しています。
2.3. リスク3:集中力・記憶力の低下と学業成績への影響
朝食は、睡眠中に消費された脳の唯一のエネルギー源であるブドウ糖を補給する最初の機会です10。この補給がなされないと、脳は「ガス欠」の状態で活動を始めなければならず、集中力や記憶力、思考力といった認知機能が十分に発揮されません8。この関連性は、感覚的なものではなく、具体的なデータによって裏付けられています。文部科学省が実施している「全国学力・学習状況調査」では、朝食を毎日摂取する児童生徒の方が、そうでない児童生徒に比べて、国語や算数・数学などの教科で平均正答率が一貫して高い傾向が示されています5, 7。例えば、平成31年度(令和元年度)の調査では、小学校国語において、毎日朝食を食べる児童の平均正答率が70%だったのに対し、全く食べない児童では48%と、22ポイントもの大差が見られました5。さらに、2024年に発表されたオーストラリアの約28,000人の子どもたちを対象とした大規模な研究では、朝食を常に抜いている子どもは、毎日食べている子どもと比較して、標準化された算数テストで低成績となるリスクが1.78倍高いことが報告されています8。
2.4. リスク4:情緒の不安定化と行動面への影響
朝食抜きは、学力だけでなく、子どもの心の状態や行動にも影響を与える可能性があります。血糖値が不安定になると、イライラしやすくなったり、些細なことで怒りっぽくなったり、逆に気分が落ち込んで無気力になったりすることが知られています。日本の小学生を対象とした小林仁美氏と多賀昌樹氏の研究では、朝食の欠食頻度が高い子どもほど、抑うつ傾向や不安感が高いとの関連が報告されています6, 15。また、28カ国、約22,000人の大学生を対象とした大規模な国際研究でも、朝食を抜く頻度が高い学生ほど、抑うつ症状を経験しやすく、全体的な幸福感が低い傾向が見られました16。これらの結果は、朝食が脳のエネルギー供給だけでなく、精神的な安定にも重要な役割を果たしていることを示唆しています。
2.5. リスク5:エネルギー不足による体力低下と活動意欲の減退
子どもたちは日中、勉強や遊び、運動など様々な活動で多くのエネルギーを消費します。朝食は、その日の活動を支えるための最初の、そして非常に重要なエネルギー補給源です10。実際に、朝食を抜くと、日中の活動に必要なエネルギーが不足し、疲れやすくなったり、体育の授業や部活動で十分なパフォーマンスが発揮できなかったりすることがあります。独立行政法人日本スポーツ振興センターが平成22年度に行った調査によると、朝食を食べる頻度が低い子どもほど、「身体のだるさや疲れやすさを感じることがある」と回答する割合が高いことが示されています5。これは、朝食抜きが体力的なパフォーマンスや活動意欲の低下に直結する可能性を示唆しています。
2.6. リスク6:肥満発症リスクの増大:逆説的だが深刻な問題
「朝食を抜けば、その分摂取カロリーが減って痩せるのでは?」と考える方もいらっしゃるかもしれませんが、科学的エビデンスは全く逆の結果を示しています。朝食を抜く習慣は、子どもの肥満リスクを高めることが多くの研究で明らかになっているのです4, 5。2023年に発表された、40件の研究(対象者約32万人)を統合したメタアナリシス(複数の研究結果を統計的に統合・分析する質の高い研究手法)によると、朝食を抜く子どもや思春期の若者は、朝食を食べる子どもたちと比較して、過体重または肥満になるリスクが1.59倍も高いことが明らかになりました(95%信頼区間: 1.33-1.90)2, 3。日本の子どもたちを対象とした研究をまとめた2024年のシステマティックレビューでも、同様に朝食欠食と肥満リスクの関連が指摘されています15。この背景には、朝食を抜くことで生じる強い空腹感から、昼食や夕食で食べ過ぎてしまったり、空腹を紛らわすために高脂肪・高糖質な間食を選びやすくなったりする行動の変化があります。また、朝食抜きは食欲を調節するホルモン(レプチン、グレリンなど)のバランスを乱したり、インスリン感受性を低下させたりする可能性も指摘されており3、これらが複合的に体重増加に繋がりやすいと考えられています。
2.7. リスク7:その他の健康問題(口臭、栄養バランスの偏りなど)
上記の主要なリスクに加え、朝食抜きは他にもいくつかの健康問題を引き起こす可能性があります。例えば、睡眠中は唾液の分泌が減り、朝食を食べることで分泌が促されますが、朝食を抜くと唾液が少ない状態が続き、口腔内の細菌が増殖しやすくなるため、口臭の原因となることがあります。また、朝食は1日に必要な食物繊維、カルシウム、鉄分、各種ビタミンといった重要な栄養素を摂取する貴重な機会です10, 12。この機会を失うことで、栄養バランスが偏り、特定の栄養素が慢性的に不足する可能性があります5。長期的には、このような食習慣の乱れが、肥満や糖尿病だけでなく、高血圧や脂質異常症といった他の生活習慣病のリスクを高めることも懸念されています5。
健康に関する注意事項
- 本記事で解説したリスクは、科学的な研究に基づいていますが、その影響の現れ方には個人差があります。
- 朝食を抜く習慣が長期化し、お子様の体調や発達に懸念がある場合は、自己判断せず、必ずかかりつけの小児科医や管理栄養士などの専門家にご相談ください。
3. 朝食と学力・認知機能:科学的根拠に基づく深掘り
朝食が子どもの学力に良い影響を与えることは、多くの保護者の方が経験的に感じているかもしれませんが、その背景には明確な科学的メカニズムが存在します。
3.1. 脳のエネルギー供給と朝食の役割:ブドウ糖の重要性
私たちの脳は、体重の約2%程度の大きさに過ぎませんが、体全体のエネルギー消費量の約20%を占めるほど活発に活動しています。そして、その脳が主要なエネルギー源として利用するのがブドウ糖です。一晩の睡眠中にも脳は活動を続けてブドウ糖を消費するため、朝起きた時には脳内のブドウ糖レベルは低下しています。朝食は、この低下したブドウ糖を迅速に補給し、脳の働きを正常化させるために極めて重要な役割を果たします10。いわば、朝食は「脳の朝一番の燃料補給」なのです。
3.2. 朝食摂取と学業成績の関連:国内外の調査・研究結果
朝食摂取と学業成績の間には、国内外の多くの調査・研究で正の関連が示されています。日本国内では、文部科学省が毎年実施している「全国学力・学習状況調査」において、朝食を毎日摂取する児童生徒の方が、国語、算数・数学などの主要教科で一貫して高い平均正答率を示すことが繰り返し確認されています5, 7。2013年のAdolphus Kらによるシステマティックレビューでは、朝食摂取が子どもの認知機能や学業成績に好影響を与える可能性が示唆されています17。さらに、2024年に発表されたオーストラリアの大規模研究では、朝食を抜く頻度が高い子どもほど、標準化された学力テストの成績が低いという明確な関連が示されました8。
3.3. 認知機能(集中力、記憶力、注意力)への影響メカニズム
朝食が学力に影響を与えるメカニズムの一つとして、認知機能への直接的な効果が考えられます。朝食によって適切にブドウ糖が供給され、血糖値が安定することで、脳は持続的にエネルギーを得ることができ、集中力や注意力を維持しやすくなります10。逆に、朝食を抜いて低血糖状態になると、集中力が散漫になったり、新しい情報を記憶しにくくなったりすることがあります8。また、朝食は、脳機能の維持に重要な役割を果たす鉄分(記憶力や学習能力に関与)、ビタミンB群(神経伝達物質の合成を助ける)、DHA(神経細胞の発達に必要)といった栄養素を摂取する良い機会でもあります。これらの栄養素が不足すると、認知機能の発達や維持に影響が出る可能性も指摘されています。
3.4. 朝食の質と学力:何を食べるかも重要
朝食を食べる習慣が重要であることは言うまでもありませんが、さらに注目すべきはその「質」です。どのような内容の朝食を食べるかによって、脳や身体への影響は大きく変わってきます。例えば、砂糖が多く含まれる菓子パンや甘いシリアルといった高GI(グリセミック・インデックス)食品中心の朝食は、血糖値を急激に上昇させた後、反動で急降下させてしまうため、かえって集中力が持続しなかったり、眠気を感じたりすることがあります。一方、全粒穀物(玄米、全粒粉パンなど)、良質なタンパク質(卵、乳製品、大豆製品など)、食物繊維が豊富な野菜や果物を含むバランスの取れた朝食は、血糖値の急激な変動を抑え、脳に持続的にエネルギーを供給するため、学習効率を高める上でより効果的です12, 18。アメリカ小児科学会(AAP)は、子ども向けのシリアルを選ぶ際には、1食あたりの砂糖が10~12グラム未満で、食物繊維が3グラム以上含まれるものを選ぶよう推奨しています10。
4. 日本の保護者向け:子どものための理想的な朝食とは?実践的アドバイス
朝食の重要性を理解しても、忙しい毎日の中で理想的な朝食を用意するのは難しいと感じるかもしれません。ここでは、日本の保護者の方が実践しやすい具体的なアドバイスを提供します。
4.1. バランスの取れた朝食の基本構成:主食・主菜・副菜・汁物・果物
子どものための理想的な朝食とは、具体的にどのようなものでしょうか。基本となるのは、多様な食品群をバランス良く組み合わせることです。日本の「食事バランスガイド」や米国の食事ガイドライン「MyPlate」12, 18でも推奨されているように、以下の要素を意識すると良いでしょう。
- 主食(エネルギー源): ご飯、パン(できれば全粒粉やライ麦パン)、シリアル(無糖または低糖質のもの)、麺類など。活動に必要な炭水化物を供給します。
- 主菜(体を作るたんぱく質源): 卵、魚、肉(鶏むね肉や赤身肉など)、大豆製品(納豆、豆腐、味噌など)、乳製品(牛乳、ヨーグルト、チーズなど)。筋肉や血液、骨の材料となります19。
- 副菜(体の調子を整えるビタミン・ミネラル・食物繊維源): 野菜(緑黄色野菜、淡色野菜)、きのこ類、海藻類。おひたし、和え物、サラダ、味噌汁の具などに。
- 汁物(水分と栄養補給): 味噌汁、野菜スープなど。体を温め、食欲を増進させる効果も期待できます。
- 果物(ビタミン・食物繊維源): 季節の果物。手軽に摂取でき、彩りも豊かになります。
4.2. 簡単・時短でも栄養満点!和洋の具体的な朝食メニュー例
上記の基本構成を踏まえ、具体的なメニューを複数提示します。各メニューの栄養ポイントも簡潔に付記します。
和食の簡単メニュー例
- 「ご飯、わかめと豆腐の味噌汁、納豆、ミニトマト、バナナ一切れ」:タンパク質、炭水化物、ビタミン、ミネラル、食物繊維をバランス良く。
- 「鮭フレークと炒り卵の混ぜご飯おにぎり、インスタント味噌汁(野菜多め)、みかん」:持ち運びにも便利。
洋食の簡単メニュー例
- 「全粒粉パンのチーズトースト、ゆで卵、ヨーグルト(無糖)に冷凍ベリーをトッピング、牛乳」:カルシウムとタンパク質もしっかり。
- 「オートミール(牛乳または豆乳で煮る)、スライスバナナと少量のナッツを添えて」:食物繊維が豊富。
忙しい朝の時短テクニック9, 10
- 前日の夜にできること: 野菜を切っておく、お米をといでタイマー予約する、ゆで卵を作っておく、味噌汁の具材を用意しておく。
- 週末に作り置き: きんぴらごぼう、ひじきの煮物、野菜のマリネなど、日持ちする副菜を作っておく。
- 冷凍食材の活用: 冷凍野菜(ブロッコリー、ほうれん草など)は味噌汁や炒め物にすぐ使える。冷凍果物はスムージーやヨーグルトのトッピングに。
- 市販品の賢い利用: パックご飯、納豆、豆腐、ヨーグルト、チーズ、カットフルーツ、無添加の野菜ジュースなどを上手に組み合わせる。
4.3. 子どもの好き嫌い・食欲不振への対応策
朝食をなかなか食べてくれない、好き嫌いが多い、といった悩みを持つ保護者の方も多いでしょう。無理強いはかえって食事への抵抗感を強めてしまうことがあります。以下の点を参考に、焦らず取り組んでみましょう。
- 楽しい雰囲気作り: 食事の時間は叱るのではなく、楽しい会話を心がけましょう20。「これを食べなさい」ではなく、「一緒に食べよう」という姿勢が大切です。
- 少量から試す: 苦手な食材でも、ほんの少量からお皿に盛り付け、食べられたら褒めてあげましょう。
- 調理法の工夫: 苦手な野菜は細かく刻んでハンバーグや卵焼きに混ぜ込んだり、すりおろしてスープやカレーに入れたりするなど、形を変えることで食べやすくなることがあります19。好きなキャラクターの型抜きを使ったり、彩りを工夫したりするのも効果的です。
- 一緒に選ぶ・作る: メニューを一緒に考えたり、簡単な調理(野菜を洗う、盛り付けるなど)を手伝ってもらったりすることで、食事への興味や達成感が湧き、食べる意欲に繋がることがあります19, 20。
- 生活リズムを整える: 十分な睡眠を取り、朝スッキリ目覚めることが、朝の食欲にも繋がります。「早寝早起き朝ごはん」を意識しましょう5, 11。
- 食べムラへの理解: 子どもの食欲には波があるものです。一時的に食べなくても過度に心配しすぎず、長い目で見守る姿勢も時には必要です。
4.4. 「早寝早起き朝ごはん」の重要性:生活リズムと食習慣の連携
健康的な朝食習慣を身につけるためには、食事内容だけでなく、日々の生活リズム全体を整えることが非常に重要です。文部科学省などが推進している「早寝早起き朝ごはん」国民運動5, 11は、まさにこの点を強調しています。早寝早起きを心がけ、朝の時間を確保し、太陽の光を浴びることで体内時計がリセットされ、体が自然と朝食を受け入れる準備ができます。規則正しい生活リズムの中で、決まった時間に朝食を摂ることは、消化吸収のリズムを整え、心身ともに健康な状態を維持するための基礎となります7。
5. 専門家の見解と推奨:小児科医・栄養士からのアドバイス
子どもの朝食の重要性は、国内外の多くの専門家や公的機関が一致して訴えているテーマです。
5.1. 日本の小児科医・栄養士の一般的な推奨
日本の多くの小児科医や管理栄養士も、子どもの健全な成長と発達における朝食の重要性を一致して強調しています。例えば、前述の藤原武男教授らの研究は、朝食欠食が子どもの糖尿病リスクを高める可能性を科学的に示しており、朝食摂取の習慣化を奨励することの重要性を裏付けています4。また、一般的に専門家は、成長期の子どもたちには、エネルギー源となる炭水化物、体を作るタンパク質、体の調子を整えるビタミンやミネラルをバランス良く含む食事が不可欠であり、朝食はその重要な供給源であると指摘しています。さらに、特定の食品に偏らず多様な食品を摂取すること、規則正しい時間に食事を摂ること、そして家族で楽しく食事をする環境を作ることなども、健康的な食習慣を育む上で重要であると推奨されています。
5.2. 国際的な専門機関(WHO, AAPなど)の推奨
子どもの朝食の重要性は、日本国内だけでなく、国際的な専門機関からも一貫して推奨されています。世界保健機関(WHO)は、子どもの健康的な成長と発達のためには、栄養バランスの取れた食事が不可欠であると強調しており、朝食はその重要な一部と位置づけられています。アメリカ小児科学会(AAP)も、「Breakfast for Learning(学習のための朝食)」と題した情報提供の中で、朝食が子どもの学業成績や認知機能に好影響を与えること、そして食物繊維やカルシウム、ビタミンDといった重要な栄養素を摂取する良い機会であることを指摘しています10。また、AAPは学校給食における砂糖や塩分の制限を支持するなど、子どもたちが健康的な食事を摂れる環境整備の重要性も訴えています21。米国農務省(USDA)が提唱する食事ガイドライン「MyPlate」18も、穀物、野菜、果物、タンパク質、乳製品をバランス良く摂取することの重要性を示しており、これは朝食の献立を考える上でも大いに参考になります。
よくある質問
Q1: 時間がない朝、一番手軽で栄養バランスも考えられる朝食は何ですか?
Q2: スポーツを活発に行っている子どもの朝食で、特に気をつけるべき点はありますか?
A2: 通常よりもエネルギー消費量が多いため、主食(炭水化物)をしっかり摂り、エネルギーを持続させることが重要です。また、筋肉の修復と成長のためにタンパク質(卵、乳製品、大豆製品など)も十分に摂取しましょう。試合や練習前は消化の良いものを選び、水分補給も忘れずに行ってください。
Q3: 朝食を食べないと、具体的にどのくらい学力テストの成績に影響が出るのですか?
Q4: うちの子は牛乳が苦手なのですが、カルシウムはどのように補給すればよいですか?
A4: 牛乳以外にもカルシウムが豊富な食品はたくさんあります。例えば、ヨーグルトやチーズといった他の乳製品、小魚(しらす干し、煮干しなど)、緑黄色野菜(小松菜、チンゲン菜など)、大豆製品(豆腐、納豆、厚揚げなど)、ごまなどが挙げられます。これらの食品を日々の食事に積極的に取り入れましょう。
Q5: 朝食を全く食べようとしない子には、どうすれば一口でも食べてもらえるようになりますか?
A5: まずは、無理強いせず、食べることへのプレッシャーを減らすことが大切です。好きなキャラクターの食器を使ったり、ほんの少量だけ(例えば果物一切れやクラッカー一枚)お皿にのせてみたりすることから始めてみましょう。食べられたらたくさん褒めてあげてください。また、前日の夕食を軽くする、就寝時間を早めて十分な睡眠をとらせるなど、生活リズムを見直すことで朝の食欲改善に繋がることもあります。根気強く、様々なアプローチを試してみてください19。
結論
本記事では、子どもの朝食抜きがもたらす様々な健康リスク、そして成長や学力への深刻な影響について、科学的根拠に基づいて詳しく解説してきました。代謝機能の低下、糖尿病や肥満のリスク増大、集中力や記憶力の低下、情緒の不安定化、エネルギー不足といった問題は、決して軽視できるものではありません。しかし、これらのリスクは、日々の食生活を見直し、栄養バランスの取れた朝食を習慣化することで、大きく軽減できる可能性があります。朝食は、子どもたちの健やかな心身の発達と、学習能力の向上を支えるための、いわば「未来への投資」です。忙しい毎日の中で完璧な朝食を毎日用意することは難しいかもしれません。しかし、まずは「何か一口でも口にする」ことから始めてみませんか。週末にはお子さんと一緒に簡単な朝食を作ってみるのも良いでしょう。小さな一歩が、お子さんの輝かしい未来を育む大きな力となるはずです。今日から、ご家庭で「朝食革命」を始めてみましょう。
免責事項
本記事で提供される情報は、一般的な知識や研究結果に基づくものであり、個々のお子様の健康状態や特定の医学的状況に対応するものではありません。記載内容の正確性については万全を期しておりますが、医学的アドバイスとして解釈されるべきではありません。お子様の健康や食事に関する具体的なご心配やご質問については、必ずかかりつけの医師、小児科医、管理栄養士などの医療専門家にご相談ください。自己判断での診断や治療は避け、専門家の指導に従ってください。
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