子どもを安心して一人にするための安全ガイド 親が知っておくべきポイントと対策
小児科

子どもを安心して一人にするための安全ガイド 親が知っておくべきポイントと対策

共働きや様々な事情で、お子さんを一人で留守番させなければならない状況は、多くのご家庭が直面する現実です。実際、日本の保護者の92.5%が子どもの留守番に不安を感じ、中には罪悪感を抱いている方も少なくありません1。その漠然とした不安、そして「本当に大丈夫だろうか」という切実な問いに、JAPANESEHEALTH.ORG編集部は、信頼できる科学的根拠と専門家の知見をもって応えます。本ガイドの目的は、その不安を具体的な準備と揺るぎない「自信」に変えること。この記事を読み終える頃には、お子さんの安全を確保し、その自立を温かく見守るための明確な道筋が見えているはずです。

要点まとめ

  • 日本には留守番の開始年齢を定める法律はなく、保護者の判断が全てですが、ネグレクトと見なされる法的リスクも存在します2, 3, 4
  • 判断基準は年齢よりも「成熟度」。緊急時の対応能力やルールを守れるかなど、医学的チェックリストで客観的に見極めることが重要です5, 6
  • 子どもの事故死の第一位は「家庭内」です7。特に浴槽での溺水、ベランダからの転落など、データに基づいた5大危険への対策が不可欠です8
  • 日本小児科学会のガイドライン9に基づき、キッチン、浴室、リビングなど部屋ごとの具体的な安全チェックリストを実践することが、事故防止の鍵となります。
  • 留守番は「放置」ではなく、適切な準備と対話を通じて、子どもの自己肯定感とレジリエンス(精神的な回復力)を育む「成長の機会」となり得ます10

第1章:「うちの子、何歳から?」- 法的責任と成熟度の科学的見極め

保護者が最初に直面する「何歳から留守番させて良いのか」という問い。この章では、法律の視点と子どもの発達科学の視点から、その重い判断を下すための明確な基準を提供します。

1.1. 日本の法律における「空白」と保護者の重い責任

まず知っておくべき最も重要な事実は、現在の日本には「〇歳未満の子どもを一人にしてはならない」といった、留守番の開始年齢を具体的に定める法律が存在しないことです2。これは、最終的な判断の全てが保護者に委ねられていることを意味します。しかし、それは「何をしても良い」ということではありません。保護者には民法上の「監護教育義務」11および児童福祉法上の「健全育成の責任」11があり、この責任を著しく怠ったと見なされれば、法的な問題に発展する可能性があります。

具体的には、児童虐待防止法では「長時間の放置」がネグレクト(監護の怠慢)の一形態として定義されています3。さらに、子どもの生命や身体に危険が及ぶような悪質な放置は、刑法第218条の「保護責任者遺棄罪」4に問われる可能性もゼロではありません。単なる留守番と、法的に罰せられる「虐待」「遺棄」との境界線は、子どもの年齢、留守番の時間、そして何より家庭内の安全環境が確保されているかによって判断されるのです。この法的背景が、保護者による慎重な判断の重要性を何よりも物語っています。

表1:【比較】留守番に関する法的規制とガイドライン:日本 vs. 海外2
国・地域 法的規制・ガイドライン 保護者の責任
日本 具体的な年齢を定める法律はなし 極めて重い。全ての判断が保護者に委ねられるが、ネグレクトや保護責任者遺棄罪に問われるリスクあり。
ニュージーランド 14歳未満の子どもを、適切な監督なしに放置することを禁止する法律あり。 明確な法的義務。違反した場合は罰則の対象となる。
米国(一部の州) 州により異なるが、8歳、10歳、12歳、14歳など、留守番を許可する最低年齢をガイドラインや法律で定めている場合がある。 州の法律やガイドラインに従う義務がある。

1.2. 日本の現実:「小1の壁」と「小4の壁」という社会的背景

法的な空白がある一方で、日本の保護者は留守番を検討せざるを得ない社会的な現実に直面しています。その代表的なものが「小1の壁」と「小4の壁」です12, 13。小学校入学を機に学童保育の定員や時間に制約が生じ、働き方との両立が困難になる「小1の壁」。そして、小学校中学年になると学童保育が終了し、子どもが放課後を一人で過ごす時間が増える「小4の壁」。これらは個々の家庭の問題だけでなく、社会構造的な課題であり、多くの保護者がこのタイミングで子どもの留守番という選択肢と真剣に向き合うことになります。本ガイドは、こうした現実的な悩みに寄り添い、解決策を提示することを目的としています。

1.3. 年齢よりも重要:子どもの「準備OK」を見極める医学的チェックリスト

専門家が口を揃えて強調するのは、「何歳か」という年齢の数字よりも、「何ができるか」という子どもの発達段階、すなわち「成熟度」が重要だということです。国際的な専門機関であるAmerican Academy of Child & Adolescent Psychiatry (AACAP)6やStanford Medicine Children’s Health5のガイドラインを基に、日本の状況に合わせて作成した以下のチェックリストを使って、お子さんの準備が本当に整っているか客観的に評価してみましょう。

子どもの成熟度チェックリスト

  • 知識・スキル:
    • □ 自宅の住所と電話番号、親の携帯電話番号を正確に言えるか?
    • □ 110番(警察)と119番(消防・救急)に、いつ、どのように電話をかけるべきか理解しているか?
    • □ 実際に電話(固定電話やキッズ携帯)を一人で操作できるか?
    • □ 簡単な切り傷などに対する応急手当の方法(絆創膏を貼るなど)を知っているか?
    • □ 鍵の開け閉めを一人で確実にできるか?
  • 判断力:
    • □ 親と決めたルール(例:「訪問者が来てもドアを開けない」)の重要性を理解し、守ることができるか?
    • □ 予期せぬ出来事(例:宅配便が届く、知らない番号から電話がかかってくる)にパニックにならず、ルール通りに行動できるか?
    • □ 「危険なこと」と「安全なこと」の区別がつき、自ら危険を避けようとするか?
    • □ 宿題やお手伝いなど、やるべきことを言われなくても自分で進められるか?
  • 情緒的安定:
    • □ 子ども自身が、一人で家にいることに対して前向きな気持ちを持っているか?
    • □ 暗闇、物音、雷などを過度に怖がったり、不安になったりしないか?
    • □ 一人でいても、寂しさや退屈を自分で乗り越える工夫ができるか?
    • □ 留守番に対する自分の気持ち(「怖い」「大丈夫」など)を正直に親に伝えられるか?

評価のポイント:このリストの大部分に自信を持ってチェックを付けられない場合、まだ一人での長時間の留守番は早いかもしれません。特に「情緒的安定」は重要です。子ども自身の気持ちを無視して留守番を強行することは、子どもの心に大きな負担をかける可能性があるため、慎重な対話が必要です14

第2章:データで見るリスクの真実 – 家庭に潜む5大危険と科学的対策

「家の中だから安全」という考えは、残念ながら統計データによって否定されます。この章では、保護者の漠然とした不安を具体的な知識に変えるため、公的データに基づき、家庭内に潜む科学的なリスクを可視化します。

2.1. 家庭は安全?統計が示す不都合な真実

こども家庭庁および厚生労働省のデータは衝撃的な事実を示しています。0歳から14歳の子どもが不慮の事故で亡くなる場所の第一位は、圧倒的に「家庭」なのです7, 8。2022年の人口動態統計によると、5歳から14歳の子どもの死因の第3位は「不慮の事故」であり、その多くが予防可能であったと考えられています15。問題は、私たちが日常的に「安全」だと思い込んでいる場所にこそ、危険が潜んでいるという点です。

表2:【データで見る】家庭内での子どもの事故リスクマトリクス(5-14歳)7, 8
事故の種類 主な発生場所 概要と統計的背景
溺水 浴室 学童期であっても、浴槽に残ったわずかな水で溺死する事例が報告されている。最も予防しやすいが、致死率の高い事故の一つ。
転落 ベランダ、窓 足場になる物を置くことで、子どもが乗り越えて転落する事故が後を絶たない。特に高層階では致命的となる。
窒息・誤飲 居室、キッチン 食品(こんにゃくゼリー等)だけでなく、スーパーボールや医薬品のシートなど、予期せぬものが原因となる。
火傷・火災 キッチン 電気ケトル、炊飯器、電子レンジなどの調理家電の誤使用や、コンロへの接触が主な原因。
傷害 居室、階段 家具の転倒や、ドアに指を挟むなどの事故。地震発生時には家具の転倒が大きなリスクとなる。

2.2. 水の事故:浴槽は小学生にも危険な場所

「小学生にもなってお風呂で溺れるはずがない」という思い込みは非常に危険です。厚生労働省の人口動態統計では、学童期の子どもが家庭の浴槽で溺死した事例が実際に報告されています7。これは、入浴中に意識を失った場合など、わずか10cm程度の深さの水でも起こりうります。このリスクに対する最も確実で科学的な対策は、日本小児科学会 こどもの生活環境改善委員会が一貫して強く推奨している「留守番中は浴槽の水を完全に抜いておく」ことです9。これは、事故の可能性を根源から断つための絶対的なルールと考えるべきです。

2.3. 転落事故:ベランダと窓の死角

こども家庭庁のデータによると、子どもの建物からの転落事故は、家庭内で発生する重大事故の主要な一角を占めています8。特に危険なのは、ベランダや窓の近くに置かれたエアコンの室外機、植木鉢、椅子、ゴミ箱など、子どもにとって「足場」となるものです。子どもは好奇心からこれらに登り、予期せず転落するケースが後を絶ちません。NPO法人Safe Kids Japanの専門家である西田佳史氏や大野美喜子氏も、この「足場の除去」が転落事故防止の基本であると繰り返し強調しています16

2.4. 窒息・誤飲:食品から思わぬものまで

窒息や誤飲のリスクは、乳幼児期だけの問題ではありません。日本小児科学会は、学童期の子どもにおいても、こんにゃくゼリーや球形のガム、スーパーボールなどが気道を完全に塞いでしまう危険性を指摘し、注意喚起(Injury Alert)を行っています9, 17。また、食品だけでなく、医薬品のPTP包装シートを誤って飲み込んでしまう事故も報告されています。子どもが一人で食事やおやつを食べる可能性がある場合は、これらのリスクについて具体的に教え、手の届かない場所に保管することが不可欠です。

2.5. 火傷と火災:キッチンと電気製品の正しい知識

東京消防庁の統計によれば、子どもの火傷の原因として、電気ケトルやポット、炊飯器からの蒸気、電子レンジで加熱しすぎた食品などが上位に挙げられます18。留守番中に子どもがこれらを使用する可能性がある場合、安全な使い方を具体的に教え、練習させておく必要があります。また、ガスコンロの使用は原則禁止とし、元栓を閉めておくといった対策が、火災という最悪の事態を防ぐために極めて重要です。

2.6. 外部からの脅威:侵入犯罪と不審者対応

家庭内の事故だけでなく、外部からの脅威にも備える必要があります。最も重要な原則は、「子どもが一人でいることを外部に悟られない」ことです。警察庁や警備会社は、子どもが留守番している際の訪問者に対しては、インターホン越しであっても応答しないよう指導することを推奨しています19, 20。宅配業者や警察官を名乗る人物であっても、安易にドアを開けないというルールを徹底することが、子どもの安全を守る第一歩となります。

2.7. 【日本特有の最重要課題】もしも留守番中に地震が起きたら

地震大国である日本において、留守番中の地震対策は避けて通れない最重要課題です。これは他国の安全ガイドにはない、私たち日本の保護者が最も真剣に取り組むべきテーマです。災害用伝言ダイヤル(171)の専門家や防災教育の専門家は、具体的な事前準備と行動計画の重要性を訴えています21, 22。親子で以下のステップを何度も確認し、訓練しておくことが、子どもの命を守ることに直結します。

  • ステップ1:まず身を守る(揺れている間): 揺れを感じたら、すぐに丈夫な机やテーブルの下に隠れて頭を守り、脚をしっかり掴む「ダンゴムシのポーズ」を徹底させます。周りに何もない場合は、部屋の隅で頭を抱えてしゃがむよう教えます23
  • ステップ2:揺れが収まった後の行動: 揺れが収まったら、慌てずに窓やガラスから離れ、ドアを開けて避難経路を確保します。火を使っていた場合は火の元を確認することも教えますが、無理は禁物です。
  • ステップ3:家族との連絡: 事前に決めておいた連絡方法を試します。公衆電話から災害用伝言ダイヤル「171」を使う練習をしておくことが非常に有効です。
  • ステップ4:避難: 家が危険な状態(火災、大きな損傷など)でない限り、むやみに外に飛び出さないことを教えます。避難が必要な場合は、事前に家族で決めた近所の避難場所(例:〇〇小学校の校庭)へ向かうよう、具体的な場所を約束しておきます。

第3章:専門家が教える究極の安全対策 – 部屋別・完全チェックリスト

この章は、これまでのリスク分析を基に、読者が今日からすぐに行動に移せる最も実践的なパートです。日本小児科学会が発行する「Injury Alert」9を主要な典拠とし、日本の傷害予防の第一人者たちの知見を凝縮した、部屋ごとの完全チェックリストを提供します。

3.1. キッチン:火と刃物を徹底管理

  • □ ガスコンロの元栓は、子どもがいない時は必ず閉める。
  • □ 包丁やハサミなどの刃物は、子どもの手の届かない、鍵のかかる引き出しや棚に保管する。
  • □ 電子レンジや電気ケトルの安全な使い方を具体的に教え、練習させる。特に加熱しすぎの危険性を伝える。
  • □ ライターやマッチは、子どもの目に触れない場所に厳重に保管する。

3.2. 浴室・洗面所:水の事故を100%防ぐ

  • □ 留守番中は、浴槽の水を完全に抜いておく。(最重要項目)
  • □ 浴室のドアには、外から開けられるタイプの鍵にするか、鍵をかけないルールにする。
  • □ ドラム式洗濯機がある場合、チャイルドロック機能を必ず設定し、中に入って遊ばないよう厳しく教える。
  • □ 洗剤や漂白剤は、子どもの手の届かない高い場所や鍵付きの棚に保管する。

3.3. リビング・子ども部屋:家具の固定と危険物の隔離

  • □ テレビ、本棚、食器棚など、背の高い家具はL字金具や突っ張り棒で壁に確実に固定する。
  • □ 医薬品、タバコ、アルコール、ボタン電池などは、鍵のかかる箱や高い棚の上に保管する。
  • □ ドアや引き出しに指を挟まないよう、隙間をカバーするグッズを活用する。
  • □ スーパーボールやビー玉など、誤飲の危険がある小さなおもちゃは、留守番中は手の届かない場所に片付ける。

3.4. ベランダ・窓:転落事故の芽を摘む

  • □ ベランダや窓の近くに、エアコンの室外機、椅子、植木鉢など、足場になるものを絶対に置かない。
  • □ 子どもの手が届かない位置に、補助錠を取り付けて二重ロックを徹底する。
  • □ ベランダの柵が劣化していないか、子どもが通り抜けられる隙間がないか定期的に点検する。
  • □ 網戸に寄りかからないよう教える(網戸は簡単に外れるため)。

3.5. 玄関:防犯の第一線を固める

    • □ 外出・帰宅時に必ず鍵をかける習慣を徹底させる(可能であればオートロックや二重ロックが望ましい)。

– 鍵は首から下げるなど紛失しにくい方法で管理させ、他人の目に触れないように教える。

  • □ 訪問者が来てもドアを開けない、ドアチェーンもかけないというルールを徹底する。
  • □ 郵便受けに新聞が溜まらないようにするなど、留守であることを外部に知られない工夫をする。

 

第4章:親子でつくる「お留守番の約束」- 自信を育むルールブック

物理的な安全対策を施すだけでは万全ではありません。子ども自身がルールを理解し、自律的に安全を確保する意識を持つことが不可欠です。この章では、子どもがルールを内面化し、自信を持って留守番に臨めるようにするための、具体的なコミュニケーション方法とルール作りのステップを詳述します。

4.1. 訪問者・電話・ネット利用の絶対ルール

外部との接触には明確なルールが必要です。専門家は、曖昧さをなくし、子どもが迷わず行動できる単純な原則を設けることを推奨しています12, 20

  • 訪問者対応: 「インターホンが鳴っても絶対に出ない」を基本原則とします。「はーい」と返事をするだけでも、子どもがいることを知らせてしまう可能性があります。宅配便などは、親が帰宅してから再配達を依頼するよう、事前に親子で話し合っておきます。
  • 電話対応: 「知らない番号からの電話には出ない」を徹底します。留守番電話に設定しておくのが最も安全です。親や祖父母など、知っている番号からかかってきた場合のみ出るように約束します。
  • インターネット利用: SNSやオンラインゲームのチャットで、「今一人で家にいる」といった留守番の状況を発信しない、本名や住所などの個人情報を絶対に公開しない、というルールを具体的に指導します。これは現代における非常に重要な防犯対策です5

4.2. 緊急時の連絡と行動計画(ロールプレイングのすすめ)

いざという時に子どもがパニックにならず行動できるよう、事前の準備と練習が全てを決定します。

  • 緊急連絡先リストの作成と掲示: 親の携帯電話番号、職場の電話番号、祖父母や信頼できる隣人の連絡先、そして大きく「110番(警察)」と「119番(消防・救急)」と書いたリストを作成し、電話機のすぐ横など、家の中で最も目立つ場所に貼り出します5
  • ロールプレイングの実施: 「もし火事の煙を見つけたらどうする?」「もし転んで血が出てしまったらどうする?」「もし知らない人がしつこくインターホンを鳴らしたらどうする?」といった具体的なシナリオを想定し、親子で役割演技(ロールプレイング)を行うことが非常に有効です。実際に119番にかける練習はできませんが、電話をとって「火事です。住所は〇〇です」と伝える練習をするだけでも、子どもの心構えは大きく変わります。警備会社ALSOKが推奨する防犯標語「いいゆだな」(知らない人には「い」かない、「い」れない、「ゆ」だんしない、「だ」れかにつたえる、「な」かない)などを活用するのも良い方法です24

4.3. 「初めてのお留守番」成功への段階的ステップ

いきなり長時間の留守番をさせるのは、子どもにとって大きなストレスです。専門家は、短い時間から始めて徐々に慣らしていく、段階的なアプローチを推奨しています2

  1. ステップ1(5分〜15分): まずは親がすぐ近くにいる状況で始めます。例えば、「すぐそこのゴミ捨て場に行ってくるね」「マンションのポストを見てくるね」といった5分程度の外出からスタートします。
  2. ステップ2(15分〜30分): 次に、近所のコンビニやスーパーへの短時間の買い物など、15分から30分程度の留守番に挑戦します。
  3. ステップ3(1時間以上): ステップ1と2を問題なくクリアでき、子ども自身も自信を持てたら、1時間以上の留守番を検討します。

最も重要なのは、帰宅後に必ず「よく頑張ったね、ありがとう!」「お利口に待っていてくれて助かったよ」と、ポジティブな言葉で褒め、子どもの成功体験を自信に繋げてあげることです。

第5章:留守番の心理学 – 不安を乗り越え、子どもの自立心を育む

留守番の安全対策は、物理的な危険を取り除くだけでなく、親子双方の心理的な側面にも配慮して初めて完成します。この章では、留守番という経験を、子どもの健全な発達に繋げるための科学的アプローチを探ります。

5.1. 親の罪悪感と向き合う:留守番は「放置」ではなく「成長の機会」

「小さな子どもを一人にして、自分はひどい親ではないだろうか」。多くの保護者が、留守番をさせる際にこのような罪悪感を抱きます1。まず、その気持ちを否定する必要はありません。それは、お子さんを深く愛している証拠です。しかし、その上で視点を変えることも重要です。専門家は、本ガイドで示してきたような適切な準備、明確なルール、そして親子間の深い信頼関係に基づいて行われる留守番は、単なる「放置」ではなく、子どもの自立心や問題解決能力を育む「貴重な成長の機会」となりうると指摘しています10

5.2. 子どもの「怖い」「寂しい」気持ちに寄り添う科学的アプローチ

留守番が子どもの発達に与える影響については、科学的な知見を踏まえる必要があります。東京科学大学の藤原武男氏らによる研究では、週1回以上の頻繁な長時間の留守番が、子どものメンタルヘルスに悪影響を及ぼす可能性が示唆されています25。これは、留守番の「頻度」と「時間」が重要な要素であることを意味し、保護者はこのバランスを慎重に考慮すべきです。また、子どもが示す不安が、単なる寂しさではなく、医学的な「母子分離不安」14の兆候である可能性も稀にあります。子どもの「怖い」「寂しい」という言葉を軽視せず、「何が一番不安に感じる?」と具体的な対話を通じて気持ちを理解し、不安を和らげる工夫(例:テレビ電話をかける時間を決めておく、好きなキャラクターのぬいぐるみを「お守り」にするなど)を一緒に考える姿勢が求められます。

5.3. 留守番がもたらすポジティブな効果:自己肯定感とレジリエンスの育成

一方で、適切に管理された留守番は、子どもの心に素晴らしい贈り物を授けてくれます。それは、「自己肯定感」と「レジリエンス(精神的な回復力)」です10。「親がいなくても、自分一人の力で決められた時間を安全に過ごせた」という達成感は、子どもにとって計り知れない自信となります。困難な状況(一人でいることの心細さ)を自分の力で乗り越えたという経験は、将来さらに大きな壁にぶつかった時に、それを乗り越えるための精神的な強さ、すなわちレジリエンスを育むのです。だからこそ、親が帰宅した時にかけるべき言葉は、「一人にしてごめんね」という謝罪ではなく、「よく頑張ったね、ありがとう。あなたなら大丈夫だと思っていたよ」という、信頼と承認のメッセージなのです。

まとめ:知識は最大の防御。自信を持って子どもを見守るために

子どもの留守番は、多くの保護者にとって不安が伴うものです。しかし、本ガイドで見てきたように、その不安の多くは、正確な知識と具体的な準備によって解消することができます。鍵となるのは、法律で定められていないからこそ、保護者自身が子どもの成熟度を的確に判断すること。そして、統計データが示す家庭内のリスクを直視し、専門家の知見に基づいた実践的な安全対策を一つひとつ実行することです。何よりも重要なのは、親子でオープンに対話し、明確なルールを作り、それを守る訓練を重ねることです。安全が確保された留守番は、決して「放置」ではなく、子どもの自立と成長を促す貴重なステップです。このガイドが、皆さまが自信を持ってその一歩を踏み出すための一助となることを、JHO編集部一同、心より願っています。

よくある質問 (FAQ)

Q1: 結局、法律的に何歳から留守番させて良いのですか?

A: 日本には具体的な年齢を定めた法律はありません2。しかし、子どもの発達段階や安全確保の状況によっては、保護責任者遺棄罪4や児童虐待防止法上のネグレクト3に問われる可能性があります。本記事のチェックリストを参考に、個別に慎重な判断が必要です。

Q2: 兄弟姉妹だけで留守番させる場合、上の子は何歳から責任を持てますか?

A: 年上の子どもに法的な監督責任を負わせることはできません。責任はあくまで保護者にあります26。兄弟姉妹での留守番は、喧嘩や予期せぬ事故のリスクも高まるため、全員がルールを理解し、安全に過ごせるか、一人で留守番させる時よりもさらに慎重な判断が求められます。

Q3: 防犯カメラやGPSは導入すべきですか?

A: これらは親の安心材料となり、緊急時の状況把握に役立つ有効なツールです27。しかし、機器に頼り切るのではなく、あくまで親子でのルール作りやコミュニケーション、家庭内の物理的な安全対策を基本とすることが最も重要です。テクノロジーは補助的な手段と位置づけるのが賢明です。

Q4: 留守番中に子どもがルールを破ったらどうすればいいですか?

A: まずは感情的に叱るのではなく、なぜルールを破ったのか理由を冷静に聞くことが大切です。ルールが難しすぎたのか、寂しさや退屈が原因だったのかを理解し、必要であればルールを見直したり、留守番の時間を短くしたりするなどの調整を検討しましょう。罰するのではなく、共に解決策を見つける姿勢が子どもの信頼を育みます。

免責事項この記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスや法的助言に代わるものではありません。健康上の問題や個別の法的状況については、必ず資格のある医療専門家や弁護士にご相談ください。

参考文献

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  21. 株式会社ロイヤルコーポレーション. 子供の留守番・登下校中の地震発生に備えて親がしておくべきこと [インターネット]. 2023 [引用日: 2025年6月17日]. 以下より入手可能: http://www.royal-co.net/column/accidents-shopping/earthquake-emergency-coping-method/
  22. 株式会社マイナビ. 大地震発生「留守中・通学路・繁華街」子供自身の命を守るには? 家族が生きて再会するためにできること【清永奈穂さん解説】 [インターネット]. マイナビ子育て; 2024 [引用日: 2025年6月17日]. 以下より入手可能: https://kosodate.mynavi.jp/articles/33816
  23. 東京新聞. 子どもが1人の時に地震が起きたら? 命を守る「最初の8秒」の行動とは [インターネット]. 東京すくすく; 2023 [引用日: 2025年6月17日]. 以下より入手可能: https://sukusuku.tokyo-np.co.jp/life/53227/
  24. ALSOK. 小学生のお留守番事情と防犯対策まとめ [インターネット]. 2023 [引用日: 2025年6月17日]. 以下より入手可能: https://www.alsok.co.jp/person/recommend/2007/
  25. 東京科学大学 大学院医歯学総合研究科 公衆衛生学分野. 「日本における留守番と子どものメンタルヘルスとの関連:足立区子どもの健康・生活実態調査から」に関する論文がアクセプトされました [インターネット]. 2018 [引用日: 2025年6月17日]. 以下より入手可能: https://tmduglobalhealthpromotion.com/research/515/
  26. 株式会社きらりライフサポート. 子どものお留守番は何歳から?注意点や防犯対策、意外な工夫を解説 [インターネット]. 2023 [引用日: 2025年6月17日]. 以下より入手可能: https://support.kirari.co.jp/miso-shiru/5139/
  27. NTTドコモ. 小学生に留守番させるのが心配な方必見!親ができる対策を8つご紹介! [インターネット]. comotto; 2023 [引用日: 2025年6月17日]. 以下より入手可能: https://comotto.docomo.ne.jp/column/00000481-2/
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