子供の下痢：食事と栄養レシピの完全ガイド【小児科医監修】

まずは落ち着いて：子供の下痢で病院を受診する目安

ほとんどの子供の下痢はウイルス性胃腸炎が原因であり、家庭でのケアで数日以内に改善します。しかし、つだ小児科クリニックが指摘するように、以下のような「危険信号（Red Flag）」が見られる場合は、速やかに医療機関を受診してください⁷。日本小児救急医学会のガイドラインでも同様の兆候が重要視されています¹。

• 脱水の兆候がみられる場合⁸：
  • おしっこの回数や量が著しく減る（例：新生児で1日6枚以下、乳児以上で1日3回未満のおむつ交換）
  • 泣いても涙が出ない
  • 口や舌が乾いている、または粘ついている
  • 目が落ちくぼんでいる
  • 呼びかけへの反応が鈍い、ぐったりしている
• 年齢が低い場合： 生後6ヶ月未満の乳児⁹。
• 高熱がある場合： ジョンズ・ホプキンス大学医学部によると、3ヶ月未満で38℃以上、3ヶ月以上で39℃以上の発熱は受診の目安です¹⁰。
• 便に異常がある場合： 血が混じった便（血便）や、白っぽい便が出る¹⁰¹¹。
• 症状が激しい・長引く場合：
  • 激しい嘔吐が続いている
  • 強い腹痛を訴える
  • ベネッセの育児情報サイトで専門家が指摘するように、下痢が1週間以上続いている場合¹²。

下痢治療の基本原則：世界と日本の専門家が推奨すること

子供の下痢の治療法は、世界中の専門機関でほぼ共通の原則が確立されています。それは、単に症状を抑えるのではなく、体の自然な回復力を科学的にサポートすることです。日本の「小児急性胃腸炎診療ガイドライン2017」が明確に示しているように、治療の考え方は「腸を休ませる」から「腸を積極的に支える」へと大きく転換しています。腸の粘膜細胞は、回復するために栄養を必要とするため、適切な水分補給と早期の栄養供給が回復の鍵となります¹。

最優先事項：経口補水療法（ORT）で失われた水分を取り戻す

下痢で最も危険なのは脱水症です。治療の第一歩は、失われた水分と電解質（ナトリウム、カリウムなど）を補給することです。

経口補水液（ORS）が最適な理由

経口補水液（Oral Rehydration Solution, ORS）は、水分、塩分（ナトリウム）、糖分（ブドウ糖）が、腸から最も効率よく吸収されるように科学的に調合された「飲む点滴」です。世界保健機関（WHO）は、このORSの使用を強く推奨しています³。この液体は、ブドウ糖とナトリウムが一緒に腸管に吸収される「SGLT-1」という共輸送機構を利用して、水分吸収を最大化するよう設計されています¹³。
一方で、以下の飲み物は不適切であると日本のガイドラインでも警告されています¹：

• ジュース、炭酸飲料、甘いお茶： 糖分濃度が高すぎ、浸透圧性の下痢を引き起こして症状を悪化させる可能性があります¹。
• スポーツドリンク： 大人向けに作られており、子供の下痢で失われるナトリウムの補給には不十分で、糖分が多すぎるとNationwide Children’s Hospitalは指摘しています⁸。
• 水やお茶だけ： 水分は補給できますが、下痢で失われる重要な電解質（特にナトリウム）が含まれていないため、大量に与えると低ナトリウム血症など体内の電解質バランスが崩れる危険性があります¹⁴。

ORSの与え方

「小児急性胃腸炎診療ガイドライン2017」では、嘔吐がある場合でも経口補水療法が推奨されています¹。焦らず、少量ずつ頻繁に与えるのがコツです。

• 自由が丘メディカルプラザの専門家が推奨するように、ティースプーン1杯またはスポイトで、5ml程度のORSを5〜10分おきに与えます¹¹⁵。
• 時計台クリニックのアドバイスによれば、数回与えても吐かなければ、少しずつ1回量を増やしていきます¹⁶。

緊急時の手作りORS

市販のORSが手元にない緊急時には、自宅で代用品を作ることができます。ただし、成分の正確性から市販品が望ましいため、あくまで一時的な措置と考えてください。WHOが示す基本的なレシピは以下の通りです¹¹⁷。

• 材料： 水 1L、砂糖 40g（大さじ4.5杯）、食塩 3g（小さじ0.5杯）¹⁶。
• 作り方： すべての材料をよく混ぜて溶かします。キッズドクターマガジンでは、カリウム補給と飲みやすさ向上のためにレモン汁を少量加えることを提案しています¹⁸。

「絶食はNG」：早期の食事再開が回復を早める理由

脱水症状が改善し、子供に食欲が出てきたら、食事を再開します。「小児急性胃腸炎診療ガイドライン2017」によると、長時間の絶食は、腸の粘膜の回復を遅らせ、栄養不良や体重減少を招く可能性があるため推奨されません¹¹⁹。

• 母乳とミルク： 母乳は消化が良く、免疫物質も含まれるため、積極的に継続してください¹。ミルクも薄める必要はなく、普段通りの濃度で与えて問題ありません。堀こどもクリニックが指摘するように、ミルクを薄めても下痢の経過が良くなるという科学的根拠はなく、むしろ栄養不足になる可能性があります²⁰。
• 離乳食と幼児食： 年齢に応じた普段の食事を、消化しやすい形（柔らかく煮る、刻むなど）で再開することが推奨されています¹。

子供の下痢の時の食事：何を食べさせるべきか？

食事を再開する際は、「消化が良く、腸に負担をかけず、栄養があるもの」が基本です²¹。日本の食文化に根ざした食品は、子供が受け入れやすく、保護者も準備しやすいため非常に有用です。

消化が良く、栄養のある食べ物リスト

以下の表は、日本の小児科医や管理栄養士が推奨する食品を、タムスわんぱくクリニック小岩や東邦大学医療センター佐倉病院小児科などの情報源を基にまとめたものです¹⁶²²。

BRATダイエットは有効？現代的な視点

BRATダイエット（Bananas, Rice, Applesauce, Toast）は、下痢の際の食事として欧米で知られていますが²⁶、これらはあくまで回復初期の選択肢と考えるべきです。これらの食品は消化が良い一方で、たんぱく質や脂肪、一部のビタミンが不足しがちであるとエンゼルこどもクリニックは指摘しています²⁷。子供が受け入れられるようになったら、速やかに上記の表にあるような、より栄養バランスの取れた食事に移行することが重要です。

避けるべき食べ物と飲み物

下痢の症状を悪化させる可能性があるため、以下の食品は回復するまで避けましょう。これらの食品は、複数の医療機関や専門家によって指摘されています^123242829。

年齢別・回復段階別：栄養満点のレシピ集

ここでは、科学的根拠に基づき、日本の家庭で作りやすい具体的なレシピを提案します。

離乳食初期・中期向けレシピ

1. とろとろ人参とりんごのペースト

栄養ポイント： 水溶性食物繊維のペクチンが豊富で、腸内環境を整え、便を固めるのを助けます³¹。パルシステムのレシピサイトでも同様の組み合わせが紹介されています³²。

• 材料：
  • にんじん：20g
  • りんご：20g
  • 水：大さじ2
• 作り方：
  1. にんじんとりんごは皮をむき、すりおろします。
  2. 小さな鍋に1と水を入れ、弱火で焦げ付かないように混ぜながら、とろりとするまで加熱します³³。
  3. 裏ごしして滑らかにし、人肌に冷ましてから与えます。

2. 豆腐とだしのやさしいポタージュ

栄養ポイント： 脂肪が少なく消化しやすい植物性たんぱく質を補給できます³⁴。森永乳業の育児情報サイトでも、下痢の際の豆腐の活用が推奨されています³⁵。

• 材料：
  • 絹ごし豆腐：30g
  • 和風だし汁：50ml
  • 片栗粉：ごく少量
• 作り方：
  1. 豆腐は裏ごしするか、スプーンの背で滑らかにつぶします。
  2. 鍋にだし汁と1を入れて弱火にかけ、温めます。
  3. 水で溶いた片栗粉を加えてとろみをつけ、赤ちゃんが食べやすいようにします。

離乳食後期・幼児向けレシピ

3. 鶏ささみと野菜の栄養おかゆ

栄養ポイント： エネルギー源となる炭水化物、腸粘膜の修復に必要な良質なたんぱく質、ビタミンをバランス良く摂取できます¹⁴。mogumoマガジンなどの幼児食情報サイトでも同様のレシピが紹介されています³⁶。

• 材料：
  • 米：大さじ2
  • 鶏ささみ：15g
  • にんじん、かぼちゃなど：合わせて20g
  • 水：200ml
• 作り方：
  1. 鶏ささみは筋を取り、野菜は皮をむいて細かく刻みます。
  2. 鍋に米、水、ささみ、野菜をすべて入れ、強火にかけます。
  3. 沸騰したら弱火にし、米が花開くまで30〜40分ほど煮込みます。
  4. ささみを取り出して細かくほぐし、鍋に戻します。
  5. ごく少量の醤油や塩で風味をつけても良いでしょう。

4. たらと大根の煮込みうどん

栄養ポイント： 消化が良く、温かい食事は弱った胃腸にやさしいです。白身魚は脂肪の少ないたんぱく質源として最適です³⁷。桑原医院の管理栄養士レシピ集でも、体調不良時のうどんレシピが紹介されています¹⁹。

• 材料：
  • ゆでうどん：1/4玉
  • 生たら（骨と皮を除く）：20g
  • 大根：20g
  • 和風だし汁：150ml
  • 醤油：数滴
• 作り方：
  1. うどんは短く刻みます。大根は皮をむいてすりおろすか、細かく刻みます。
  2. 鍋にだし汁、大根、たらを入れて火にかけ、たらがほぐれるまで煮ます。
  3. うどんを加えて、全体が柔らかくなるまでさらに煮込みます。
  4. 最後に醤油を数滴加えて風味を整えます。

治療をサポートする科学的アプローチ：亜鉛とプロバイオティクス

基本的な食事療法に加え、特定の栄養素が回復を助けることが科学的に示されています。これらのアプローチは、日本の一般的な消費者向け情報ではまだ十分に浸透していないため、保護者がより高いレベルのケアを理解し、医師と相談するための知識となります。

世界保健機関（WHO）が推奨する「亜鉛補充療法」とは？

これは、特に発展途上国において、子供の下痢による死亡率を減少させる上で大きな成果を上げてきた、非常に重要な治療法です。

• WHOの推奨： WHOとユニセフは、急性下痢症の子供に対し、10〜14日間の亜鉛補充を強く推奨しています³³⁸。
  • 6ヶ月未満の乳児： 1日10mg
  • 6ヶ月以上の小児： 1日20mg
• 科学的根拠： 多数のランダム化比較試験（RCT）をまとめた2016年のコクラン・レビューにより、亜鉛補充が下痢の期間を約25%短縮し、重症度を軽減し、さらにその後2〜3ヶ月間の下痢の再発を予防する効果があることが証明されています⁴。亜鉛は、損傷した腸管上皮の再生を促し、免疫機能を高めることで効果を発揮すると考えられています³⁹⁴⁰。
• 日本の状況と保護者へのアドバイス： 日本では、子供の下痢治療に亜鉛を積極的に使用することは一般的ではありません。これは、先進国では重度の亜鉛欠乏症が少ないことが一因と考えられます。しかし、亜鉛が回復を助けるというエビデンスは強固です。子供用の亜鉛サプリメントは日本でも入手可能ですが⁴¹⁴²⁴³、自己判断で使用せず、必ずかかりつけの小児科医にその必要性や適切な製品について相談してください⁴⁴。

プロバイオティクスは本当に効く？知っておくべき菌株の種類

プロバイオティクス（善玉菌）は、腸内環境を整えることで下痢に効果があると期待されています。しかし、その効果は「どの菌株を、どれだけ摂取するか」に大きく依存します。

• 科学的根拠： 2015年のコクラン・レビューなどの複数のメタアナリシスによると、特定のプロバイオティクス株、特にラクトバチルス・ラムノサスGG（LGG）とサッカロマイセス・ブラウディは、急性ウイルス性胃腸炎による下痢の期間を約1日短縮する効果が示されています^15454647。
• 注意点：
  • 菌株の特異性： 効果が証明されているのは特定の菌株のみであり、「プロバイオティクス」と名の付く製品すべてが下痢に有効なわけではありません。
  • エビデンスの質： 全体として、エビデンスの質は「低い」から「中程度」と評価されています。これは、研究によって使用された菌株、量、対象者が異なるためです⁴⁸。
• 日本のガイドラインの見解： 日本の「小児急性胃腸炎診療ガイドライン」もこの点を指摘しており、エビデンスのある薬剤と日本国内で市販されている製品とでは菌種や菌量が異なる可能性があると注意を促しています¹。
• 保護者へのアドバイス： プロバイオティクスの使用を検討する場合は、製品のラベルを確認し、どの菌株が含まれているかを見た上で、かかりつけ医に相談することが賢明です。

家庭でのケアと感染予防

特にウイルス性胃腸炎は感染力が非常に強いため、家庭内での感染拡大を防ぐことが重要です。

• 手洗い： 最も重要で効果的な予防策です。おむつ交換の後、トイレの後、調理や食事の前には、石鹸と流水で徹底的に手を洗いましょう³。厚生労働省は、アルコールベースの消毒剤はノロウイルスには効果が限定的であるため、手洗いが基本であると強調しています⁶。
• 汚物の適切な処理：
  • 患者の便や吐物には大量のウイルスが含まれています。処理する際は、使い捨ての手袋とマスクを着用しましょう⁴⁹。
  • 汚物はペーパータオルなどで静かに拭き取り、ビニール袋に密閉して捨てます。
  • 汚染された場所は、次亜塩素酸ナトリウム（家庭用塩素系漂白剤を薄めたもの）で消毒します。福岡県が示すように、0.1%の濃度（例：水500mlに漂白剤原液10ml）が推奨されます⁵⁰⁵¹。
• タオルの共用を避ける： 感染者の使ったタオルは別にし、ペーパータオルを使用するのが理想的です²⁵。

よくある質問

結論

子供の下痢は、保護者にとって心配な出来事ですが、正しい知識を持つことで、家庭で効果的に対処することが可能です。最も重要なのは、経口補水液（ORS）による適切な水分補給で脱水を防ぐことです。そして、脱水が改善したら、かつてのような絶食は避け、消化が良く栄養のある食事を早期に再開することが、腸の回復を早める鍵となります。おかゆや煮込みうどん、鶏ささみ、豆腐、すりおろしりんごなど、日本の食卓に馴染みのある食材が非常に有効です。さらに、WHOが推奨する亜鉛補充療法や、特定のプロバイオティクスなど、科学的根拠のある治療法について医師と相談することも、回復を力強くサポートします。この記事で提供された情報を参考に、冷静かつ自信を持って、お子様の回復を支えてあげてください。