要点まとめ
- 痰を伴う咳(湿性咳嗽)は、気道内の異物や分泌物を排出するための重要な体の防御反応であり、無理に咳止め薬で抑えることは推奨されません。13
- 一般的な風邪から肺炎、クループ、百日咳、さらには遷延性細菌性気管支炎(PBB)や喘息まで、原因は多岐にわたります。咳の音や期間、伴う症状の観察が診断の手がかりとなります。456
- 家庭でのケアとして、部屋の加湿(50-60%目安)、水分補給、楽な寝姿勢(上半身を高くする)が有効です。1歳以上のお子様には、はちみつが市販薬より効果的であるという研究結果があります。25
- 【最重要】1歳未満の乳児には、乳児ボツリヌス症のリスクがあるため、はちみつを絶対に与えないでください。2
- 市販の咳止め薬は、特に4歳未満の子供には有効性が証明されておらず、副作用のリスクから推奨されていません。使用前に必ず医師や薬剤師に相談してください。2025
- 呼吸困難のサイン(陥没呼吸、チアノーゼ)、水分が摂れない、生後3ヶ月未満での発熱など、緊急を要する症状が見られる場合は、直ちに医療機関を受診してください。6716
1. はじめに:お子様の痰を伴う咳、ご心配ですね
お子様が痰を伴う咳をしていると、保護者の方は大変ご心配なことと思います。しかし、咳は必ずしも悪いものではありません。咳の役割と痰の意味を正しく理解することが、適切な対応への第一歩となります。
咳の生理的な役割と痰の意味
咳は、気道から異物や過剰な分泌物を排出しようとする、体の重要な防御反応です1。特に痰を伴う咳、いわゆる「湿性咳嗽(しっせいがいそう)」は、気道からの分泌物(痰)を体外へ排出し、気道をきれいに保つための大切な働きをしています1。痰は、気道粘膜からの分泌液や、炎症によって生じた細胞の残骸、侵入してきた細菌やウイルスなどが混ざり合ったものです。これを排出することで、肺や気管支を感染や刺激から守っています。このため、特に痰が絡んだ咳を無理に咳止め薬で抑え込んでしまうことは、体の防御機能を妨げることにもなりかねません3。咳を「単なる不快な症状」として捉えるのではなく、「体を守るための反応」と理解することが、お子様の状態を正しく把握し、適切なケアにつなげる上で非常に重要です。
保護者として知っておくべき基本
小さなお子様は、年に6回から12回ほど呼吸器感染症にかかり、それに伴って咳をすることがあります。多くの場合、これらの咳は1週間から3週間程度で自然に治まります4。特に集団生活を始めたばかりのお子様は、様々なウイルスや細菌に接する機会が増えるため、繰り返し感染症にかかり、咳が続くように感じられるかもしれません5。頻繁に咳をすること自体は、ある程度は仕方のないことと受け止めつつも、咳の「パターン」に注意を払うことが大切です。例えば、咳が始まったきっかけ、咳の音や性質、咳が出る時間帯、咳の続く期間、そして咳以外の症状(発熱、鼻水、呼吸の状態など)を注意深く観察することで、単なる風邪なのか、あるいは他の注意すべき病気が隠れているのかを見極める手がかりになります4。すべての咳に過度に心配する必要はありませんが、いつもの風邪とは違う「パターン」に気づくことが、適切な受診タイミングの判断につながります。
2. 子供の痰を伴う咳の主な原因
お子様の痰を伴う咳の原因は多岐にわたります。一般的な感染症から、注意が必要な疾患、長引く咳の原因となるものまで様々です。
一般的な感染症
かぜ症候群(普通感冒)
鼻からのどまでの上気道に急性の炎症が起こるウイルス性の疾患で、急性鼻咽頭炎や急性上気道炎とも呼ばれます6。原因となるウイルスはライノウイルス、RSウイルス、ヒトメタニューモウイルスなど多岐にわたります6。主な症状は鼻水や鼻詰まりですが、咳もよく見られます。咳は、最初は「コンコン」という乾いた咳から始まり、次第に痰が絡んだ「ゴホンゴホン」という湿った咳に変わることがあります3。多くは10日から25日以内に治まりますが、基礎疾患がある場合や、ウイルス感染後に気道が過敏な状態が続くと、咳が長引くこともあります(感染後咳嗽)6。
気管支炎
気管支に炎症が起こる病気で、多くはウイルス感染が原因です。お子様は大人に比べて気管支が狭いため、炎症が起こると咳が出やすくなります3。気管支炎の咳も、初期には「コンコン」という乾いた咳で始まり、徐々に痰が絡んだ「ゴホンゴホン」という湿った咳に変化していくのが特徴です3。痰の色が黄色や緑色に変わることがありますが、これはウイルス感染によって気管の粘膜が傷つき、それが修復される過程で生じる正常な反応の一部であり、必ずしも細菌感染や抗生物質が必要であることを意味するわけではありません7。重要なのは痰の色だけでなく、発熱の有無、全身状態、咳の強さや期間などを総合的に見ることです。
注意が必要な感染症
肺炎
肺に炎症が起こる病気で、咳の他に発熱や呼吸困難などの症状を伴うことがあります3。原因はウイルスや細菌など様々で、原因によって症状の出方も異なります。マイコプラズマ肺炎のように、熱が下がった後も咳が長く続くタイプもあります8。診断や治療が遅れると入院が必要になることもあるため、注意が必要です3。
ウイルス性クループ(急性喉頭気管気管支炎)
生後6ヶ月から3歳頃の乳幼児に多く見られる、のど(喉頭)や気管の炎症です6。特徴的なのは「ケンケン」という犬が吠えるような咳や、オットセイの鳴き声のような咳、そして声がれ(嗄声)です。症状は夜間に悪化する傾向があります6。重症化すると、息を吸う時に「ゼーゼー、ヒューヒュー」という音(喘鳴:ぜんめい)がしたり、鎖骨の上や肋骨の下が呼吸のたびにへこむ「陥没呼吸(かんぼつこきゅう)」が見られたり、顔色が悪くなるなどの呼吸困難のサインが現れるため、このような場合は速やかに医療機関を受診する必要があります6。
百日咳
特有のけいれん性の咳発作(スタッカート)と、発作の最後に息を吸い込む時の「ヒュー」という笛の音のような音(笛声:てきせい、whoop)が特徴的な細菌感染症です5。咳き込みによる嘔吐や鼻水も見られます。ワクチン接種(日本ではDPT-IPV四種混合ワクチンに含まれる)により患者数は減っていますが、近年でも小規模な流行が見られ9、特に新生児や乳児早期にかかると重症化しやすく、命に関わることもあります5。
長引く咳の原因
副鼻腔炎
鼻の奥にある副鼻腔という空間に炎症が起こる病気です。黄色い鼻水、鼻水がのどの奥に垂れ込む「後鼻漏(こうびろう)」、鼻づまり、頭痛などの症状が見られます6。後鼻漏によって、痰が絡んだような「ゴホンゴホン」という咳が引き起こされ、長引く咳の原因となることがあります6。お子様は症状をうまく訴えられないため、周囲の大人が気づいてあげることが大切です。
後鼻漏
副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎などによって、鼻水がのどの奥へ流れ落ちる状態を指します3。これが気管を刺激し、「ゴホンゴホン」という痰の絡んだ咳を引き起こします。特に夜間、横になると鼻水が流れ込みやすくなるため、咳が悪化する原因の一つとなります5。鼻水を吸引することで、ある程度予防できる場合があります3。
遷延性細菌性気管支炎 (Protracted Bacterial Bronchitis – PBB)
4週間以上続く湿った咳が特徴で、他に明らかな原因がなく、適切な抗菌薬治療に反応して改善する状態を指します10。主な原因菌は、インフルエンザ菌、肺炎球菌、モラクセラ・カタラーリスなどです10。PBBは、特に学童期前のお子様における慢性的な湿性咳嗽の最も一般的な原因の一つとされています4。診断は、胸部X線検査で肺炎などの異常がなく、気管支鏡検査と気管支肺胞洗浄(BAL)で細菌を証明することが確実ですが、全てのお子様に実施するのは現実的ではないため、臨床症状と抗菌薬への反応で診断されることが多いです10。日本の診療ガイドラインでも、3週間以上咳が続く乳幼児において、肺炎球菌やインフルエンザ菌などが関与する疾患概念としてPBBが提唱されています11。治療が不十分だと、慢性的な肺の化膿性疾患や気管支拡張症に進行する可能性も指摘されており4、長引く湿った咳を見過ごさず、適切に診断・治療することが重要です。喘息と誤診されることも少なくありません12。
アレルギー関連
喘息(ぜんそく)
気管支が慢性的に炎症を起こし、様々な刺激に対して過敏に反応して狭くなる病気です。「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という喘鳴や、息苦しさ、そして咳が主な症状です5。特に夜間から明け方にかけて、また運動後などに症状が悪化しやすい傾向があります5。痰を伴う咳が見られることもあります。
アレルギー性鼻炎
ハウスダスト、ダニ、花粉などのアレルゲンによって鼻の粘膜にアレルギー反応が起こる病気です。くしゃみ、鼻水、鼻づまりが主な症状ですが、後鼻漏を引き起こし、咳の原因となることもあります4。
その他
異物誤飲・誤嚥
小さなお子様が、おもちゃの部品や食べ物などを誤って気管に吸い込んでしまうことがあります。突然激しい咳が始まったり、ゼーゼーしたり、呼吸が苦しそうになったりします5。窒息の危険もあるため、緊急の対応が必要です。
胃食道逆流症 (GERD)
胃の内容物(胃酸など)が食道に逆流する病気です。胸焼けなどが主な症状ですが、逆流した胃酸が気管を刺激して、慢性的な咳を引き起こすことがあります5。頻度は高くありませんが、長引く咳の原因の一つとして考慮されることがあります。
原因疾患 | 主な症状 | 咳の特徴 | 特記事項・注意点 |
---|---|---|---|
かぜ症候群 | 鼻水、鼻づまり、のどの痛み、発熱(軽度) | 初期は乾いた咳、徐々に痰が絡む咳(ゴホンゴホン) | 通常1~3週間で軽快。 |
気管支炎 | 発熱、倦怠感(ウイルスの種類による)、鼻水 | 初期は乾いた咳(コンコン)、徐々に痰が絡む咳(ゴホンゴホン) | 痰の色は必ずしも細菌感染を示さない7。 |
肺炎 | 高熱、呼吸困難、食欲不振、ぐったりしている | 痰を伴う咳、呼吸が速い | 入院治療が必要な場合あり。速やかな受診を3。 |
ウイルス性クループ | 犬が吠えるような咳(ケンケン)、オットセイの鳴き声のような咳、声がれ、発熱(軽度) | 特徴的な咳の音 | 夜間に悪化しやすい。呼吸困難のサイン(陥没呼吸、喘鳴)があれば救急受診6。生後6ヶ月~3歳に好発。 |
百日咳 | 長引く咳、連続した咳の後にヒューという吸気音、咳き込みによる嘔吐、鼻水 | 特徴的な咳発作 | ワクチンで予防可能。乳児は重症化リスク5。 |
副鼻腔炎 | 黄色い鼻水、後鼻漏、鼻づまり、頭痛 | 痰が絡んだような咳(ゴホンゴホン) | 長引く咳の原因の一つ6。 |
後鼻漏 | 鼻水がのどに垂れる感覚 | 痰が絡んだような咳(ゴホンゴホン) | 特に夜間に咳が悪化しやすい5。 |
遷延性細菌性気管支炎 (PBB) | 他に明らかな原因のない、4週間以上続く湿った咳 | 持続する湿った咳(ゴホンゴホン) | 抗菌薬治療で改善。放置すると気管支拡張症のリスクも4。 |
喘息 | 喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒュー)、呼吸困難、胸苦しさ | 夜間や早朝、運動時に悪化しやすい咳、痰を伴うことも | アレルゲンや気道刺激物の回避が重要5。 |
異物誤飲・誤嚥 | 突然の激しい咳、むせ込み、呼吸困難、チアノーゼ | 突然発症する咳 | 窒息の危険。緊急対応が必要6。 |
胃食道逆流症 (GERD) | 胸焼け(年長児の場合)、嘔吐(乳児の場合) | 食後や横になった時に悪化する咳 | まれな原因だが、長引く咳で考慮されることがある5。 |
3. 咳の観察ポイント:いつ、どんな咳?
お子様の咳の状態を正確に把握し、医師に伝えることは、適切な診断と治療への近道です。以下のポイントに注意して観察しましょう。
咳の音と性質(湿った咳、乾いた咳、特有の音)
咳の音や性質は、原因疾患を推測する上で重要な手がかりとなります。
- 乾いた咳(乾性咳嗽:かんせいがいそう):「コンコン」という軽い咳や、痰が絡まない空咳です。風邪のひき始めや、気管支炎の初期、軽い気道の刺激などで見られます6。
- 湿った咳(湿性咳嗽:しっせいがいそう):「ゴホンゴホン」「ゼロゼロ」といった、痰が絡んでいることがわかる咳です。気管支炎が進行した場合や、肺炎、後鼻漏、遷延性細菌性気管支炎(PBB)などで特徴的です1。湿性咳嗽か乾性咳嗽かは、医師だけでなく保護者の方でもある程度区別がつくことが多いとされています10。
- 特有の音を伴う咳:
これらの音の特徴を医師に伝えることで、診断の助けになります。
咳の期間(急性、遷延性、慢性)と受診の目安
咳が続いている期間も重要な情報です。国際的な定義では、咳の期間によって以下のように分類されます4。
- 急性咳嗽: 2週間以内
- 遷延性急性咳嗽: 2週間から4週間続く咳
- 慢性咳嗽: 4週間以上続く咳
一般的に、4週間以上続く咳(慢性咳嗽)は、詳しい検査や評価が必要とされています4。ただし、日本の育児情報サイトや一部の医療機関では、これよりも早い段階での受診を勧める傾向が見られます。例えば、咳が1週間以上続く場合5や、2週間以上続く場合13には医療機関を受診するようアドバイスされています。これは、日本の医療アクセスが良いことや、保護者の不安に早めに対応する文化的背景、あるいは小児科医の慎重なアプローチを反映している可能性があります。国際的な基準では4週間未満で他に危険な兆候がなければ、必ずしも精密検査が必要でないとされることもありますが、日本においては、保護者の方が心配な場合や、咳以外の症状がある場合は、1~2週間程度でも早めに医師に相談することは適切と言えるでしょう。
咳が悪化する時間帯(特に夜間)とその理由
咳は、特定の時間帯に悪化することがあります。特に夜間から明け方にかけて咳がひどくなることは、多くのお子様で見られる現象です5。これにはいくつかの理由が考えられます。
- 自律神経の影響:夜間は体をリラックスさせる副交感神経が優位になり、気管支が収縮しやすくなるため、咳が出やすくなります5。
- 気温差:就寝時は体温と室温の差が大きくなりやすく、冷たい空気が気管支粘膜を刺激して敏感になり、咳を誘発することがあります5。
- 鼻水や痰の貯留:横になると、鼻水や痰がのどの奥に流れ込みやすくなり(後鼻漏)、これが刺激となって咳が出やすくなります5。
夜間に咳が悪化しても、適切な治療を受けていれば、必ずしも病状が悪化しているわけではないことを理解しておくと、少し安心できるかもしれません5。
4. 家庭でできる効果的な対処法
お子様の咳を和らげるために、ご家庭でできることはたくさんあります。薬に頼る前に、まずは療養環境を整え、適切なケアを心がけましょう。
療養環境の整備(加湿、保温、換気、清掃)
- 加湿:空気が乾燥していると、のどや気管支の粘膜も乾燥し、刺激に敏感になって咳が出やすくなります。加湿器を使用したり、洗濯物を室内に干したりして、部屋の湿度を適切に保ちましょう(目安は50~60%)5。ただし、加湿器の蒸気で火傷をしないよう注意が必要です。
- 保温:特に寒い季節は、部屋を暖かく保ち、体温と室温の差を小さくすることで、気管支への刺激を和らげることができます5。
- 換気と清掃:ハウスダストやダニ、カビなどはアレルギーの有無に関わらず咳の原因となります。日中に寝室の掃除と換気をこまめに行い、空気を清潔に保ちましょう5。エアコンのフィルターも定期的に清掃することが大切です。また、タバコの煙は気道を刺激し、咳を悪化させる最大の原因の一つです。受動喫煙を避けることは非常に重要です4。
水分補給と食事のポイント
十分な水分補給は、脱水を防ぐだけでなく、痰を柔らかくして排出しやすくし、のどの粘膜を潤して咳を和らげる効果があります2。白湯、麦茶、薄めたリンゴジュースなど、お子様が飲みやすいものをこまめに与えましょう。咳き込んで嘔吐しやすい場合は、一度に与える量を減らし、回数を増やして与えるとよいでしょう2。
楽な寝かせ方と体位の工夫
横になると咳が悪化しやすい場合は、寝るときの姿勢を工夫してみましょう。
- 上半身を少し高くする:布団や枕を重ねてクッションを作り、上半身を少し高くして寝かせると、気道が通りやすくなり、後鼻漏による刺激も軽減されて咳が出にくくなることがあります5。
- 横向きに寝かせる:仰向けよりも横向きの方が楽になる場合もあります14。
はちみつの活用法と絶対的な注意点(1歳未満禁忌)
1歳以上のお子様に対しては、はちみつが咳の症状緩和に有効であることが多くの研究で示されています2。はちみつには保湿効果や抗菌作用があり、のどの炎症を和らげ、痰を出しやすくする効果が期待できます。市販の咳止め薬よりも効果が高いという報告もあります2。
- 与え方:ティースプーン半分から1杯程度(約2.5~5mL)のはちみつを、そのまま舐めさせるか、ぬるま湯や温かい飲み物(熱すぎないもの)に溶かして飲ませます15。夜間の咳がひどい場合は、就寝30分前に与えるのが効果的です5。
- 注意点:
この「1歳未満禁忌」は、はちみつの効果を語る上で最も強調すべき点です。安全性が確保されて初めて、その有効性が意味を持ちます。
日本で古くから伝わる民間療法(例:はちみつ大根)の考え方
日本では古くから「はちみつ大根」が咳やのどの痛みに良いとされ、民間療法として用いられてきました17。はちみつの持つ抗菌作用や保湿効果16に加え、大根に含まれる成分にも注目が集まります。大根の辛味成分であるアリルイソチオシアネート(イソチオシアネートの一種)には消炎作用が18、またジアスターゼなどの消化酵素は消化を助ける働きがあるとされています18。これらの成分は熱に弱い性質があるため、はちみつ大根のように生で用いるのは理にかなっていると言えるかもしれません18。このような伝統的な家庭療法は、特に1歳以上のお子様であれば、はちみつの効果も期待できるため、症状緩和の一助となる可能性があります。ただし、これらはあくまで対症療法であり、症状が長引く場合や重い場合は、必ず医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが重要です。民間療法は、医学的治療を補完するものとして、その効果と限界を理解した上で用いるべきです。
背中をトントンとたたく
咳き込んで苦しそうな時には、背中を優しくトントンと軽くたたくことで、痰が気道から剥がれやすくなり、咳とともに排出しやすくなることがあります14。これは体位ドレナージと呼ばれる理学療法の一種で、安心感を与える効果も期待できます。
対処法 | 詳細・説明 | 注意点 |
---|---|---|
部屋の加湿 | 加湿器を使用する、濡れタオルや洗濯物を室内に干す(湿度50~60%目安) | 加湿器の蒸気による火傷に注意。カビの発生を防ぐため、過度な加湿は避ける。 |
上半身を少し高くする | 枕や折りたたんだ布団・タオルなどを背中から頭にかけて敷き、緩やかな傾斜をつける | 首だけが高くならないように、肩から頭全体が持ち上がるように調整する。 |
はちみつ(1歳以上のお子様のみ) | 就寝30分前くらいにティースプーン半分~1杯程度をそのまま、またはぬるま湯に溶かして飲ませる5。 | 【絶対に1歳未満の乳児には与えないでください(乳児ボツリヌス症のリスク)】5。与えすぎに注意。飲んだ後は歯磨きを。 |
水分補給 | 白湯、麦茶、薄めたジュースなど、温かい飲み物を少量ずつこまめに与える | 熱すぎる飲み物はのどを刺激するので避ける。 |
部屋の清掃と換気 | 寝る前に寝室のホコリを拭き取り、空気を入れ替える。ハウスダストやアレルゲンを減らす | 掃除中にホコリを吸い込まないよう、お子様は別の部屋で待機させる。 |
のどを温める(1歳以上のお子様) | ネックウォーマーを着用させる、温かい飲み物を飲ませる(はちみつ入りも可)14。 | 低温やけどに注意。飲み物は人肌程度に。 |
背中を優しくたたく | 咳き込んでいる時に、丸めた手で背中をリズミカルに軽くたたく14。 | 強くたたきすぎないように注意する。 |
5. 市販薬(OTC医薬品)との付き合い方
お子様の咳が続くと、市販の咳止め薬(OTC医薬品)に頼りたくなるかもしれません。しかし、子供への市販薬の使用には慎重な判断が必要です。
子供への市販咳止め薬の基本的な考え方と注意点
一般的に、子供、特に低年齢の子供に対する市販の咳止め薬や風邪薬は、その有効性が十分に証明されておらず、副作用のリスクもあるため、使用は推奨されていません2。咳は体から異物や痰を排出するための重要な防御反応であり、これを無理に止めるとかえって回復を妨げる可能性があります3。多くの場合、はちみつ(1歳以上)の方が市販の咳止め薬よりも効果的であるとされています2。自己判断で市販薬を使用する前に、まずは医療機関を受診し、咳の原因を特定することが重要です3。
国際的なガイドライン(AAPなど)の推奨
米国小児科学会(AAP)などの国際的なガイドラインでは、市販の咳止め薬や風邪薬について、より明確な注意喚起がなされています。
- 4歳未満の子供には、医師の指示なしに市販の咳止め薬や風邪薬を与えるべきではないとされています19。
- 米国食品医薬品局(FDA)は、2歳未満の子供への使用を推奨していません19。
- 4歳から6歳の子供については、使用前に必ず医師に相談することが推奨されています20。
- 7歳以上の子供であれば、用法・用量を正しく守れば使用できる場合もありますが、それでも慎重な判断が必要です20。
これらの推奨は、低年齢の子供における副作用のリスクや、有効性のエビデンスが乏しいことに基づいています19。日本でもこれらの国際的な動向を理解しておくことは重要です。
日本で購入可能な市販薬の種類と成分(去痰薬、鎮咳薬)
日本市場では、子供向けの様々な市販の咳止め薬や去痰薬が販売されています。これらには、痰を出しやすくする去痰成分(例:グアイフェネシン、クレゾールスルホン酸カリウム)や、咳中枢に作用して咳を鎮める鎮咳成分(例:デキストロメトルファン、dl-メチルエフェドリン塩酸塩(気管支拡張作用も併せ持つ))などが含まれています20。商品によっては、生後3ヶ月から服用可能とされているものもあります(例:宇津こどもせきどめシロップA)21。しかし、これらの製品が手軽に入手できるからといって、安易に使用するのは避けるべきです。特に、多くの市販の風邪薬や咳止め薬は複数の有効成分を含む「配合剤」であり、気づかないうちに同じ成分を重複して摂取してしまったり、過量投与になったりするリスクがあります20。例えば、アネトンせき止め錠には、コデインリン酸塩水和物(麻薬性鎮咳成分)、dl-メチルエフェドリン塩酸塩、セネガ乾燥エキス(去痰成分)などが配合されています21。複数の製品を使用する場合や、お子様が他に薬を服用している場合は、成分の重複に特に注意が必要です。
薬剤師への相談の重要性
もし市販薬の使用を検討する場合には、必ず医師または薬剤師に相談してください。薬剤師は、お子様の年齢や症状、他に服用している薬などを考慮し、適切な薬の選択(または不使用の判断)や、正しい服用方法、注意すべき副作用についてアドバイスをしてくれます。薬のラベルをよく読み、有効成分を確認することも重要です。
薬の種類 | 主な成分例 | 主な商品名例(日本市場) | 対象年齢の目安(製品情報より) | 主な考慮事項・注意点 |
---|---|---|---|---|
去痰薬 | グアイフェネシン、クレゾールスルホン酸カリウム、ブロムヘキシン塩酸塩 | エスエスブロン液L21、浅田飴子供せきどめドロップ22 | 8歳以上 (エスエスブロン液L)、5歳以上 (浅田飴子供せきどめドロップ) | 国際的には低年齢児への推奨低い19。痰の排出を助ける目的。 |
鎮咳薬 | デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物、dl-メチルエフェドリン塩酸塩、ノスカピン | 宇津こどもせきどめシロップA21、アネトンせき止め錠(12歳以上)21 | 3ヶ月以上 (宇津こどもせきどめシロップA) | 国際的には4歳未満への使用は非推奨、4-6歳は医師相談19。成分重複に特に注意。眠気などの副作用の可能性。麻薬性成分(コデイン等)含有製品は特に慎重に。 |
複合薬(去痰・鎮咳など) | 上記成分の組み合わせ | ベンザブロックせき止め錠(12歳以上)21 | 製品により異なる | 成分の重複摂取リスク高い20。必ず医師・薬剤師に相談。漫然とした使用は避ける。 |
*注意:上記表の対象年齢は各製品の添付文書に基づくものですが、米国小児科学会(AAP)は4歳未満の子供への市販咳止め薬・風邪薬の自己判断による使用を推奨していません。4~6歳の場合も医師への相談が推奨されます。1920 市販薬を使用する際は、必ず医師または薬剤師に相談し、指示に従ってください。
6. 医療機関を受診すべきサイン
ほとんどの子供の咳は自然に治まりますが、中には医療機関の受診が必要な場合や、緊急を要するケースもあります。以下のサインに注意してください。
緊急を要する症状(呼吸困難、顔色不良、陥没呼吸など)
これらの症状が見られる場合は、夜間や休日であっても直ちに医療機関を受診するか、救急車(119番)を呼ぶ必要があります。
- 呼吸が苦しそう:肩で息をしている(肩呼吸)、息を吸うときに鎖骨の上や肋骨の間がへこむ(陥没呼吸)、ゼーゼー・ヒューヒューという音がする、話すことや泣くことが困難なほど息が苦しそう6。
- 顔色が悪い:顔面が蒼白、または土気色、唇や顔が青紫色になっている(チアノーゼ、咳をしていない時も)7。
- 意識がおかしい:ぐったりして反応が鈍い、呼びかけにこたえない、意識が朦朧としている6。
- 水分が摂れない:咳がひどくて水分を全く受け付けない、または嘔吐を繰り返す13。
- 異物を吸い込んだ、または飲み込んだ可能性がある:突然激しい咳が始まった場合など6。
咳が長引く、または悪化する場合
- 風邪をひいた後も咳だけが残っている、または一旦良くなったように見えて再び悪化してきた5。
- 咳が1週間以上続いている5。(国際的には4週間以上を慢性咳嗽とし精査対象としますが4、日本の状況では心配なら早めの受診も考慮されます。)
- 特に、4週間以上続く湿った咳は、遷延性細菌性気管支炎(PBB)などの可能性も考えられるため、専門医の診察が推奨されます4。
- 全体的に具合が悪そうに見える、または徐々に症状が悪化している2。
特定の年齢層(特に乳児)での注意点
低年齢の子供、特に乳児は状態が急変しやすいため、より慎重な対応が必要です。
- 生後3ヶ月未満の赤ちゃんが38℃以上の発熱をしている場合は、解熱剤を使わずにすぐに医療機関を受診してください23。
- 生後6ヶ月以下の赤ちゃんが咳をしている場合は、元気そうに見えても早めに医療機関を受診することが推奨されます13。
- 乳児では、胃食道逆流症や、まれに先天的な気道の異常、免疫不全などが長引く咳の原因となることもあります5。
これらの月齢の低いお子様の場合、保護者の「いつもと違う」「何かおかしい」という直感も重要です。迷ったら医療機関に相談しましょう。
その他の心配な兆候
- 咳とともに胸の痛みを訴える2。
- 犬が吠えるような咳(ケンケン)、オットセイの鳴き声のような咳、または甲高い咳が続く(クループの可能性)2。
- 咳き込んで1日に3回以上嘔吐する7。
- 咳がひどくて夜眠れない状態が続く5。
受診の緊急度 | 症状 |
---|---|
緊急対応が必要 (救急外来受診または救急車を検討) |
・呼吸が非常に苦しそう(肩で息をする、あえぐような呼吸、話せない・泣けないほど)7 ・顔面蒼白、唇や顔が青紫色(チアノーゼ)7 ・意識状態がおかしい(ぐったりしている、反応が鈍い、呼びかけに応えない)6 ・息を吸うときに鎖骨の上や肋骨の間がへこむ(陥没呼吸)6 ・息をするときにゼーゼー、ヒューヒューという音が常時聞こえる6 ・異物を飲み込んだ、または吸い込んだ可能性がある6 ・けいれんを起こした |
できるだけ早く受診 (時間内または夜間・休日診療) |
・咳がひどくて水分がほとんど摂れない、または繰り返し嘔吐する7 ・咳がひどくて眠れない状態が続く13 ・生後3ヶ月未満の乳児の38℃以上の発熱23 ・生後6ヶ月未満の乳児の咳(元気そうでも一度相談を)13 ・犬が吠えるような咳(ケンケン)、オットセイのような咳が続く5 ・咳とともに胸の痛みを訴える2 ・咳が2週間以上続く(特に湿性咳嗽の場合はPBBなども考慮)4 ・全体的に具合が悪そうで、症状が悪化傾向にある2 |
7. 医療機関での診断と専門的な治療
医療機関では、お子様の咳の原因を特定し、それに応じた適切な治療を行います。
医師による診察と必要な検査
医師はまず、保護者の方から詳しい話を聞きます。いつから咳が出始めたか、咳の音や性質、痰の有無や色・量、咳が悪化する時間帯、発熱や鼻水などの他の症状、食事や睡眠の状態、既往歴やアレルギーの有無、周囲の感染状況などが重要な情報となります6。その後、聴診器で胸の音を聞いたり、のどの状態を観察したりします。必要に応じて、胸部X線検査を行い、肺炎や気管支炎の広がりなどを確認することがあります4。咳が長引く場合や喘息が疑われる場合には、年齢によっては呼吸機能検査(スパイロメトリー)を行うこともあります4。遷延性細菌性気管支炎(PBB)が強く疑われる場合には、確定診断のために気管支鏡検査と気管支肺胞洗浄(BAL)が行われることもありますが、侵襲的な検査であるため、全てのお子様に行われるわけではありません10。
原因疾患に応じた治療方針
- ウイルス感染症の場合の対症療法:かぜ症候群やウイルス性の気管支炎など、ウイルス感染が原因の場合は、特効薬はありません。抗生物質(抗菌薬)はウイルスには効果がないため、基本的には使用しません3。治療は、症状を和らげる対症療法が中心となります。痰を出しやすくする去痰薬、気管支を広げる気管支拡張薬、アレルギー反応を抑える抗ヒスタミン薬などが処方されることがあります。咳止め薬(鎮咳薬)の使用は、痰の排出を妨げる可能性があるため、特に湿性咳嗽の場合は慎重に判断されます3。
- 細菌感染症が疑われる場合の抗菌薬治療(PBBを含む):肺炎や細菌性の気管支炎、遷延性細菌性気管支炎(PBB)など、細菌感染が原因であると診断された場合や、二次的な細菌感染のリスクが高い場合には、抗菌薬が処方されます3。特にPBBの場合、適切な抗菌薬を2週間から4週間程度服用することで、咳の改善が期待できます4。第一選択薬としては、アモキシシリン・クラブラン酸カリウム配合剤が推奨されることが多いです4。この治療により咳が改善する確率は高く、ある研究では、抗菌薬治療によって咳が治癒するために必要な治療患者数(NNT)は3人と報告されています24。抗菌薬治療は、医師の指示通りに用法・用量を守り、処方された期間をきちんと飲み切ることが重要です。途中で症状が良くなったように見えても、自己判断で中断すると、細菌が完全に除去されずに再発したり、薬剤耐性菌を生み出す原因になったりする可能性があります。PBBの治療においては、時に4~6週間の治療が再発予防のために推奨されることもあり10、アジスロマイシンなどの抗菌薬がPBBの増悪を抑えるために季節的に使用されることもありますが、薬剤耐性の問題も考慮しながら慎重に選択されます25。
- 喘息やアレルギーに対する治療:喘息が原因の場合は、気道の炎症を抑える吸入ステロイド薬や、気管支を広げる吸入気管支拡張薬などが用いられます。アレルギー性鼻炎が関与している場合は、抗ヒスタミン薬や鼻噴霧用ステロイド薬などが処方され、アレルゲンの回避も重要となります5。
処方薬情報ボックス:クラバモックス®小児用配合ドライシロップ
遷延性細菌性気管支炎(PBB)などの治療で処方されることがある代表的な抗菌薬の一つです。
- 一般名: アモキシシリン水和物/クラブラン酸カリウム26
- 効能・効果(痰を伴う咳に関連するもの): 本剤に感性の肺炎球菌、モラクセラ・カタラーリス、インフルエンザ菌などによる中耳炎、副鼻腔炎、急性気管支炎など27。PBBも同様の起因菌による気道感染が背景にあります。
- 用法・用量(標準的な小児用量): 通常、小児には、クラバモックスとして1日量 96.4mg(力価)/kg(クラブラン酸カリウムとして 6.4mg(力価)/kg、アモキシシリン水和物として 90mg(力価)/kg)を2回に分けて12時間ごとに食直前に経口投与します26。体重によって具体的な服用量が細かく設定されています27。
- 重要な注意点(添付文書より抜粋):
- 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者さんには投与できません26。ペニシリン系やセフェム系抗生物質にアレルギー歴がある場合は必ず医師に伝えてください。
- 伝染性単核症のある患者さんでは、発疹の出現頻度が高まるおそれがあります26。
- 主な副作用として下痢が報告されています(海外臨床試験で34%)26。その他、嘔吐、軟便、湿疹なども見られることがあります。
- 耐性菌の発現を防ぐため、治療上必要な最小限の期間の投与にとどめることが原則です27。
- まれに、ショック、アナフィラキシー、アレルギー反応に伴う急性冠症候群、薬剤により誘発される胃腸炎症候群(主に小児で報告、投与から数時間以内の反復性嘔吐が主症状)などの重篤な副作用が起こる可能性があります。これらの症状に気づいた場合は、直ちに医師に連絡してください28。
- 肝機能障害や黄疸の既往歴がある場合は再発のリスクがあるため使用禁忌です26。
健康に関する注意事項
よくある質問
痰の色が黄色や緑色だと、細菌感染で抗生物質が必要ということですか?
必ずしもそうではありません。痰の色が黄色や緑色に変化することは、ウイルス感染によって気道の粘膜が傷つき、白血球などが働いて修復される過程でも起こる正常な反応です7。痰の色だけで細菌感染と判断し、抗生物質が必要だと決めることはできません。抗生物質はウイルスには効果がなく、不必要な使用は副作用や薬剤耐性菌のリスクを高めます。発熱の有無、全身の状態、咳の強さや期間など、他の症状と合わせて医師が総合的に判断します。
1歳以上の子供には、はちみつと市販の咳止め薬、どちらが良いですか?
咳が4週間以上続いています。ただの風邪の長引きでしょうか?
夜だけ咳がひどくなります。病気が悪化しているのでしょうか?
子供の咳に効くという「はちみつ大根」は医学的に意味がありますか?
結論
お子様の痰を伴う咳は、保護者の方にとって心配の種ですが、咳の性質や伴う症状を注意深く観察し、適切な知識を持つことで、冷静に対応することができます。多くの場合、咳は体を守るための自然な反応であり、家庭での適切なケアで改善します。しかし、中には専門的な治療を必要とする病気が隠れていることもあります。この記事で紹介した観察ポイントや受診の目安を参考に、日頃からお子様の様子をよく見てあげることが重要です。
保護者の観察と記録の大切さ
お子様、特に言葉で症状を十分に伝えられない小さなお子様の場合、保護者の方による日々の観察と記録が、診断の非常に重要な手がかりとなります5。いつから咳が始まったか、どんな音の咳か(コンコン、ゴホンゴホン、ケンケン、ゼーゼーなど)、痰の様子(色、量、粘り気)、咳が出やすい時間帯(夜間、明け方、運動後など)、咳以外の症状(発熱、鼻水、食欲、機嫌、睡眠状態など)、そしてそれらの変化を簡単なメモでも良いので記録しておくと、医療機関を受診した際に、医師に的確な情報を提供でき、より迅速で正確な診断につながります。
かかりつけ医との連携と信頼関係
お子様の健康管理において、信頼できるかかりつけ医を持つことは非常に大切です。日頃からお子様の体質や既往歴を把握しているかかりつけ医は、いざという時に的確なアドバイスをくれ、必要に応じて専門医への紹介もスムーズに行ってくれます。気になる症状があれば遠慮なく相談し、医師とよくコミュニケーションを取りながら、二人三脚でお子様の健康を見守っていくことが望ましいでしょう。
小児の咳に関する医学的知見は、日々進歩しています。例えば、遷延性細菌性気管支炎(PBB)という疾患概念が広く認識されるようになったのは比較的最近のことです12。また、小児の咳と気道内細菌叢(マイクロバイオーム)との関連や29、咳の音声をAIで解析して診断に役立てる研究なども進められています30。日本の「小児の咳嗽診療ガイドライン」も定期的に改訂され、最新の知見が反映されています31。保護者の皆様が、この情報を通じてお子様の痰を伴う咳について理解を深め、適切な対応をとるための一助となれば幸いです。お子様の健やかな成長を心より願っております。
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