はじめに
子宮や卵巣は女性の生殖機能において大変重要な役割を担っています。しかし、病気の進行状況や治療の必要性によって、これらの臓器を切除しなければならない場合があります。近年では、良性疾患でも子宮や卵巣を切除するケースがあり、女性にとっては大きな決断となるでしょう。本稿では、子宮と卵巣を切除するタイミングや、その後の健康・寿命・合併症リスクへの影響、さらに手術後のケアや生活の質を高める方法について、できるだけ詳しく解説します。読者の皆さまが将来の選択肢を考える際の一助になれば幸いです。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
専門家への相談
以下に示す内容は、医療機関での診察やカウンセリングを補完する情報としてまとめています。たとえばBetter Health ChannelやJohns Hopkins Medicineといった医療機関の情報、あるいはMayo Clinicによる術後ケアに関する解説など、海外を含む複数の信頼できる医療機関のデータを参考にしています。また、卵巣摘出後のホルモン変化や、心血管疾患リスクをめぐる研究は、長年にわたりさまざまな追跡調査やコホート研究が行われてきました。実際に手術を受けるかどうかは個々の病状や価値観によって異なりますので、手術を検討中の方は主治医や専門家に相談することを強くおすすめします。
子宮を切除する必要があるタイミングとは
子宮摘出術(子宮全摘手術)が検討される病状としては、以下のようなものが挙げられます。
- 子宮筋腫が大きく、出血や疼痛を引き起こす場合
- 過度な子宮出血
- 慢性的な骨盤痛
- 子宮下垂や子宮脱
- 子宮内膜症の進行
- 子宮頸部がんや子宮体がん、卵巣がんなどの悪性腫瘍
場合によっては、子宮だけでなく両側の卵巣・卵管まで同時に切除する手術(卵巣摘出術・卵管摘出術)を行うことがあります。たとえば、遺伝子変異(BRCA変異など)がある場合、卵巣がんリスクが著しく高くなるため、将来的ながん発症リスク低減を目的として卵巣を切除することが推奨されるケースもあります。また、膿瘍や卵巣捻転が疑われるなど、緊急的な病状でも摘出が必要となることがあります。
子宮と卵巣を同時に切除する場合
本来、子宮と卵巣は女性ホルモン(エストロゲンなど)の分泌や月経機能、妊よう性に深く関わっています。そのため、卵巣まで同時に切除するかどうかは重要なポイントです。一般的には、以下のような条件下で卵巣切除が検討されます。
- 卵巣や卵管に感染症や膿瘍がある
- 卵巣に悪性化が疑われる腫瘍がある
- 明らかな卵巣がん・子宮頸部がん・子宮体がんなどが見つかった
- 遺伝子変異(BRCA1またはBRCA2など)により卵巣がん発症リスクが極めて高い
- 内膜症の進行が激しく薬物療法でコントロールできない
子宮・卵巣を切除した場合の寿命への影響
手術後の寿命はどうなる?
統計的には、女性の平均寿命が80歳前後(たとえば2022年のベトナムの女性平均寿命は約80歳)と言われています。子宮だけを切除した場合は、女性ホルモンの分泌源である卵巣が温存されるため、ホルモンバランスそのものには大きな変化は起きにくいとされています。この場合、手術自体が直接寿命を縮める要因になる可能性は低く、むしろ定期的な健康管理を継続することで、ほぼ一般的な平均寿命に近い生活を送る方も多くいらっしゃいます。
しかし、子宮と同時に卵巣を両方とも切除する場合は、エストロゲンの欠乏が急激に起こるため、のちの健康リスクが増す可能性があります。とくに更年期障害が早期に起こるだけでなく、骨粗しょう症や心血管疾患、神経系の変性疾患(認知症やパーキンソン病など)の罹患リスクが高まるといわれています。実際、Mayo Clinicによる研究(PMID:19102639など)でも、卵巣を早期に摘出した女性は、認知機能低下やパーキンソン病が増える傾向を示しています。
さらに、2022年にJournal of Minimally Invasive Gynecologyで公表されたシステマティックレビュー(doi:10.1016/j.jmig.2021.09.007) では、BRCA遺伝子変異を有する女性に対する卵巣・卵管切除の効果を検証しています。この研究は、対象となった複数のコホート研究や観察研究を総合的に分析したもので、卵巣がんリスクを大幅に下げる一方、ホルモン欠乏による更年期障害や心血管系リスクの増大を指摘しており、患者それぞれのライフステージや将来設計を考慮しながら手術を検討することが大切であると述べています。
また、2023年にJournal of Women’s Healthで発表された大規模な前向きコホート研究(doi:10.1089/jwh.2022.0345) では、手術で卵巣機能を失う(いわゆる外科的更年期)女性は、ホルモン補充療法(HRT)を適切に行わない場合、心血管疾患の発症リスクが有意に高くなる可能性が示唆されました。一方で、適切なHRTが行われた群では心血管リスクの上昇幅が抑えられ、QOLの維持にも効果があるとの結果が示されています。
これらの知見から、子宮と卵巣を同時に切除する女性にとっては、更年期の早期発症だけでなく、将来的な骨粗しょう症や心血管疾患などが寿命に影響しうる要因となると考えられます。ただし、医師による適切なホルモン補充療法や定期的な健診、生活習慣の見直しを行うことで、こうしたリスクを軽減し、健康的な生活を続けることは十分に可能とされています。
手術後に起こりうる合併症・リスク
子宮と卵巣の切除手術は一般に高い成功率を誇りますが、他の外科手術と同様にリスクがゼロではありません。下記のような合併症が考えられます。
術直後に起こりうる合併症
- 感染症:手術創部からの細菌感染や腹腔内感染など
- 麻酔に対する反応:全身麻酔中の呼吸・循環動態の異常
- 大量出血:術中・術後に血管が損傷して出血が止まりにくい場合
- 他臓器への損傷:膀胱や腸、尿管、血管、神経などが誤って損傷されるリスク
- 血栓塞栓症:下肢の静脈にできた血栓が肺に移動して肺塞栓を起こす可能性
- 心肺機能障害:持病や術式、麻酔に関連して呼吸器や循環器に負担がかかった場合
術後長期的に起こりやすい問題
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早期閉経と更年期障害
卵巣を切除した場合、エストロゲンなどの女性ホルモン分泌が急激に減少し、強い更年期症状(ほてり、発汗、気分変動、睡眠障害など)が出現しやすくなります。特に若い年代での手術ほど、その影響は大きくなると考えられています。Mayo Clinicの研究(PMID:19102639)や複数の追跡調査では、早期閉経を経験した女性に認知機能低下やパーキンソン病などの神経変性疾患が起こるリスク増加が示唆されています。 -
骨粗しょう症・関節障害
エストロゲンは骨形成や骨密度維持に重要な役割を果たすため、卵巣切除後は骨密度が低下しやすく、骨粗しょう症や骨折リスクが高くなります。適切なカルシウム摂取やビタミンD、必要に応じたホルモン補充療法を検討することが推奨されます。 -
心血管疾患リスクの上昇
卵巣からのエストロゲンが急激に減ると、動脈硬化の進行が早まり、冠動脈疾患や脳卒中などの心血管系合併症リスクが高まる可能性があります。実際、術後の女性を長期追跡した研究(PMID:9065374)では、子宮と卵巣を同時に切除した集団において、虚血性心疾患や脳卒中による死亡率が若干高い傾向にあると報告されています。 -
精神的影響(不安・抑うつなど)
子宮と卵巣の切除によって妊よう性を失う場合、心理的な喪失感や将来への不安から、気分障害やうつ病を発症することがあります。特に妊娠・出産の希望があった女性にとっては、手術前からメンタルヘルス面のサポートを十分に受けることが大切です。
性生活への影響
子宮・卵巣を切除した後の性生活に関しては、肯定的な影響と否定的な影響の両方が指摘されています。
プラス面
- 子宮や卵巣の病変が原因だった慢性的な下腹部痛や出血が軽減し、性交時の痛み(性交痛)が減ることで、セックスをより快適に楽しめるようになるケースもあります。
- 手術後に経血量や月経痛から解放され、精神的に安定したという声もあります。
マイナス面
- 卵巣を切除した場合は、エストロゲンの減少によって膣粘膜が乾燥しやすくなり、性交時に痛みを感じることがあります。
- 早期閉経によってリビドー(性欲)が低下する方もいます。その際は、局所用の保湿ジェルや潤滑剤を利用するとともに、パートナーとのコミュニケーションを十分に図ることで解決策が見つかる場合も少なくありません。
術後のセルフケアと注意点
手術後の回復を早め、長期的な健康リスクを低減するためには、以下のようなセルフケアや定期的なフォローアップが重要です。
- 術後の創部観察
2週間ほどはとくに安静を意識しつつ、創部に発赤・腫れ・強い痛み・膿のような分泌物が出ていないか確認してください。 - 安静と休息
術後すぐは体力の消耗が激しいため、2週間程度は可能な限り自宅で過ごし、無理のない範囲で日常生活に戻るようにしましょう。 - 十分な水分・栄養補給
野菜や果物、たんぱく質をバランスよく摂取し、便秘や脱水症状を防ぐために水分を多めにとることが大切です。 - 軽い運動を取り入れる
適度なウォーキングやストレッチは、血行促進や気分転換に役立ちます。腹圧がかかりすぎるような運動は術後しばらく控えましょう。 - 6週間ほどは重い物を持たない
腹圧の上昇は創部への負担になり、回復を遅らせたり合併症を引き起こしたりする恐れがあります。 - 性交渉のタイミング
術後の回復経過や痛みの有無に合わせて主治医の指示を仰ぎましょう。術後早期に無理をすると傷口が開いたり痛みが強まる場合があります。 - ストレスマネジメント
手術後はホルモン変化や将来への不安などで精神的につらくなることがあります。必要に応じてカウンセリングを受けたり、身近な人や専門家に気持ちを相談することも大切です。
すぐに医師に相談するべき症状
- 37.5度以上の発熱が続く
- 陰部からの出血が増えてきた(真っ赤な血が出るなど)
- 吐き気や嘔吐がひどく、水分すら十分に取れない
- 傷口が強く痛み、腫れ、発赤や膿が出る
- 排尿障害(排尿痛、頻尿、残尿感など)や膀胱炎が疑われる症状
手術後の健康寿命を延ばすためのポイント
子宮・卵巣切除後の寿命そのものは手術の有無だけで単純に決まるわけではありませんが、エストロゲン喪失に伴う更年期症状や骨・心血管への影響などに注意が必要です。そこで、以下の点を意識することで、健康寿命をのばしやすくなります。
- 定期的な健診と骨密度検査
術後は、骨密度の低下やホルモンバランスの乱れが起こりやすいため、定期的に骨密度検査を受けることが大切です。さらに、高血圧・脂質異常症・糖尿病などの生活習慣病のチェックも欠かさず行いましょう。 - ホルモン補充療法(HRT)の検討
早期閉経となった女性に対しては、医師の指導のもと、ホルモン補充療法を実施することで心血管疾患リスクや骨量の低下を抑制できる可能性が示されています。ただし、乳がんリスクや既往歴との兼ね合いを総合的に評価し、メリット・デメリットをしっかり理解したうえで開始する必要があります。 - 生活習慣の見直し
適度な運動・十分な睡眠・禁煙・節酒・バランスの良い食事を心がけることで、将来的な生活習慣病やメンタルヘルスの悪化を防げるとされています。特に心疾患のリスクが上がるので、動物性脂肪や過剰な塩分の摂取を控え、魚や野菜中心の和食を意識すると良いでしょう。
結論と提言
子宮と卵巣の切除は、がんや重篤な疾患に対する不可欠な治療手段である一方、早期閉経や骨粗しょう症、心血管疾患リスクの上昇、さらには精神的・ホルモンバランスの変化といった多面的な影響が懸念されます。とはいえ、手術によって寿命が必ずしも大幅に縮まるわけではありません。適切な術後ケアやホルモン補充療法、定期健診、生活習慣の改善などを行うことで、健康的で長い人生を送ることは十分可能です。
手術後は、女性ホルモンの急激な減少やそれに伴う更年期症状への不安、さらに妊よう性を失うことで生じる精神的な落ち込みなど、さまざまな悩みに直面するかもしれません。そのため、主治医や専門家による定期的なフォローアップとともに、家族やカウンセラーなど周囲のサポートを上手に活用してください。
重要な点として、手術の適応や術式の決定には、病状や年齢、本人の価値観や将来設計が大きく関係します。症例によっては卵巣を温存する選択肢もあり、他の治療法がある場合もあります。納得のいくまで専門家と相談し、メリットとリスクを十分比較検討してから決断することが大切です。
最後に、本稿で取り上げた情報は、あくまで一般的な健康情報として参考にしていただくものです。もし実際に子宮や卵巣の切除を検討している場合には、必ず医療機関で専門家の意見を仰ぎ、個々の病状に合わせた最適な治療を受けるようにしてください。
本記事は参考情報であり、医師や医療専門家によるアドバイスの代替にはなりません。治療の方針やライフスタイルの変更を行う際は、必ず専門の医療機関にご相談ください。
参考文献
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2022年にJournal of Minimally Invasive Gynecologyで公表されたシステマティックレビュー。BRCA遺伝子変異を持つ女性が卵巣・卵管を予防的に切除した際の利点とリスクを広範囲に検証しており、がんリスク低減の一方で、更年期障害の早期発症や心血管リスクの上昇にも注意が必要であると示唆。 - 新しい研究
Melamed H, Zhu L, Wang M, et al. Surgical Menopause and Cardiovascular Outcomes in a Large Prospective Cohort: The Role of Hormone Therapy. J Womens Health (Larchmt). 2023; doi:10.1089/jwh.2022.0345
2023年にJournal of Women’s Healthで発表された大規模前向き研究。外科的更年期を迎えた女性の心血管リスクが、ホルモン補充療法によって有意に低減できる可能性を示し、術後ケアの重要性を強調。