【産婦人科専門医が監修】子宮・卵巣摘出後の寿命と長期的な健康|原因疾患から手術、ホルモン補充療法、生活の質(QOL)まで徹底解説
女性の健康

【産婦人科専門医が監修】子宮・卵巣摘出後の寿命と長期的な健康|原因疾患から手術、ホルモン補充療法、生活の質(QOL)まで徹底解説

本記事は、子宮や卵巣の摘出手術を検討されている方、また手術後の長期的な健康に関心のあるすべての方へ向けた包括的な医学ガイドです。子宮や卵巣を摘出すると、寿命は本当に短くなるのでしょうか?本記事では、産婦人科専門医の監修のもと、その疑問に最新の科学的エビデンスを用いてお答えするとともに、手術後の長期的な健康を維持し、より豊かな生活を送るために必要なすべての情報を、専門家の監修のもとで網羅的に解説します。手術が必要となる代表的な疾患の解説から、具体的な手術内容、術後のホルモンバランスの変化とそれに対するホルモン補充療法(HRT)の選択肢、骨の健康や心血管系への長期的な影響、さらには精神的なケアや性生活を含めた生活の質(QOL)を高めるための具体的な方法まで、包括的に、そして深く掘り下げて解説することを約束します。

この記事でわかること(要点まとめ)

  • 子宮のみの摘出が直接的に寿命を縮めるという明確なエビデンスは限定的です。しかし、卵巣を摘出(特に45歳未満で)した場合、心血管疾患や骨粗しょう症などのリスクが増加し、長期的な健康寿命に影響を与える可能性があります。
  • 手術の主な原因は、子宮筋腫や子宮内膜症などのQOLを著しく下げる良性疾患、そして子宮がんや卵巣がんなどの悪性腫瘍です。卵巣を温存するか否かは、年齢、疾患、遺伝的リスクを基に慎重に決定されます。
  • 卵巣摘出後の長期的な健康リスク(心血管疾患、骨粗しょう症など)を軽減するため、ホルモン補充療法(HRT)は非常に有効な選択肢です。専門医と相談の上、リスクとベネフィットを理解し検討することが重要です。
  • 手術にかかる費用は高額療養費制度の対象となる場合が多く、自己負担額を大幅に軽減できます。事前に「限度額適用認定証」を申請することが推奨されます。
  • 術後のQOL維持には、喪失感への心理的ケア、パートナーとのコミュニケーション、具体的な対策(潤滑剤など)による性生活の維持、そして健康的な生活習慣(食事、運動、睡眠)の再構築が不可欠です。
免責事項本記事で提供する情報は、一般的な医学的知識の普及を目的としており、個別の診断や治療方針を示すものではありません。ご自身の健康状態や治療の選択については、必ず主治医や専門の医療機関にご相談ください。

1. 子宮・卵巣摘出手術とは? なぜ必要になるのか

子宮摘出術は、日本国内で年間を通じて数多く実施されている手術の一つです。厚生労働省の患者調査によれば、この手術は決して稀なものではなく、多くの女性が様々な理由で経験する治療選択肢です1。手術が必要となる背景には、生命を脅かす悪性腫瘍(がん)だけでなく、日々の生活の質(QOL)を著しく損なう良性の疾患も含まれます。これらの疾患がもたらす症状を理解することは、なぜ手術という選択肢が検討されるのかを深く知るための第一歩です。

1.1. 手術が検討される主な疾患

手術は「がん」治療のためだけに行われるわけではありません。むしろ、日常生活に深刻な影響を及ぼす良性疾患の治療として選択されるケースが非常に多いのが実情です。日本産科婦人科学会(JSOG)の診療ガイドラインでは、以下のような疾患が手術の主な対象として挙げられています2

  • 子宮筋腫:子宮の筋肉にできる良性の腫瘍です。多くの場合は無症状ですが、大きさや位置によっては、月経時の出血量が異常に増える「過多月経」を引き起こします。これにより重度の鉄欠乏性貧血に陥り、めまい、動悸、極度の倦怠感で日常生活がままならなくなることがあります。また、激しい月経痛や腹部の圧迫感、頻尿などの原因ともなります。
  • 子宮内膜症:子宮の内側にしか存在しないはずの内膜組織が、卵巣や腹膜など子宮以外の場所で増殖してしまう疾患です。月経周期に合わせて出血を繰り返すため、強い月経痛や骨盤痛、性交痛、排便痛などを引き起こし、不妊の原因にもなります。
  • 子宮腺筋症:子宮内膜症の一種で、子宮の筋肉の壁の中に内膜組織が入り込み、増殖する疾患です。子宮全体が硬く腫れ上がり、激しい月経痛と過多月経が主な症状となります。
  • 卵巣嚢腫(良性卵巣腫瘍):卵巣に液体や脂肪などが溜まってできる袋状の良性腫瘍です。多くは無症状ですが、大きくなると腹部の膨満感や圧迫感を感じることがあります。また、稀に茎捻転(卵巣の根元がねじれること)を起こし、激しい腹痛で緊急手術が必要になることもあります。
  • 子宮がん・卵巣がんなど悪性腫瘍:これらのがんの治療においては、がん細胞を取り除く根治的な治療法として、子宮や卵巣、卵管などの摘出が標準的な選択肢となります。日本婦人科腫瘍学会(JSGO)のガイドラインでは、がんの進行度に応じた詳細な手術方針が定められています3

1.2. 手術の選択:子宮のみか、卵巣も摘出するか

手術を決定する上で、患者様にとって最も重要な分岐点の一つが「卵巣を温存するか、摘出するか」という選択です。この判断は、術後のホルモンバランス、そして長期的な健康に極めて大きな影響を与えます。卵巣は女性ホルモン(エストロゲン)を分泌する主要な臓器であり、その機能が失われると、身体は「外科的閉経」と呼ばれる状態になります。

判断は主に以下の要素を総合的に考慮して、医師と患者様が共に決定(Shared Decision Making)します2

  • 年齢:閉経前の女性の場合、可能な限り卵巣機能を温存することが原則です。一方、すでに閉経している、あるいは閉経に近い年齢の女性の場合は、将来的な卵巣がんのリスクを考慮して、子宮と同時に卵巣を摘出することが推奨される場合があります。
  • 疾患の種類:良性疾患の場合は卵巣温存が基本ですが、悪性腫瘍の場合は、がんの種類や広がりによって卵巣の摘出が必要となることが多いです。
  • 遺伝的ながんリスク:近年、特に重要視されているのが遺伝的要因です。BRCA1やBRCA2といった遺伝子に変異がある女性は、乳がんや卵巣がんの発症リスクが著しく高いことが知られています。このような場合、がんの予防を目的として、症状がなくとも卵巣と卵管を摘出する「リスク低減卵巣卵管切除術(RRSO)」が選択されることがあります。この手術は卵巣がんのリスクを大幅に低下させる一方で、若年での外科的閉経に伴う様々な健康課題も考慮する必要があります4

2. 【本題】子宮・卵巣摘出は寿命にどう影響するのか?科学的エビデンスの結論

「手術をすると寿命が短くなるのではないか」という懸念は、患者様が抱く最も深刻な不安の一つです。この問いに答えるためには、科学的エビデンスを正確に理解し、「子宮のみを摘出した場合」と「卵巣も摘出した場合」を明確に区別して考える必要があります。

2.1. 卵巣を温存した場合(子宮のみ摘出)

現在の医学的知見では、卵巣機能を温存した子宮摘出術が、直接的に寿命を統計学的に有意に縮めるという明確なエビデンスは限定的です。卵巣が温存されれば、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌は継続されるため、手術直後から急激なホルモン動態の変化(外科的閉経)が起こるわけではありません。したがって、後述するようなエストロゲン欠乏による長期的な健康リスクが、直ちに顕在化することは考えにくいです。

ただし、留意すべき点も存在します。手術の際に子宮に栄養を送る子宮動脈を結紮(縛ること)するため、卵巣への血流が以前よりわずかに低下する可能性があります。この影響により、卵巣機能がやや早く低下し、自然閉経が数年早まる可能性を示唆する研究も報告されています。そのため、卵巣を温存した場合でも、術後は定期的な婦人科検診を受け、ご自身のホルモン状態や身体の変化を継続的にチェックしていくことが重要です。

2.2. 卵巣も摘出した場合(外科的閉経)の長期的リスク

一方で、両側の卵巣を摘出した場合、特に45歳より前に手術を受けた場合は、長期的な健康に影響が及ぶ可能性が複数の研究で示されています。この分野で最も影響力があり、世界的に引用されているのが、米国のメイヨー・クリニック(Mayo Clinic)による大規模な追跡調査(コホート研究)です5

この研究では、非常に重要な結論が示されました。それは、「45歳未満で両側の卵巣を摘出した女性は、卵巣を温存した同年代の女性に比べて、全死亡リスク(あらゆる原因による死亡リスク)が1.67倍高かった」というものです。このリスク上昇の背景には、心血管疾患、骨粗しょう症、そして認知機能への影響など、複数の要因が関わっていると考えられています。次の章では、なぜこのようなリスク上昇が起こるのか、そのメカニズムと具体的な対策について、さらに深く掘り下げて解説していきます。

3. 卵巣摘出後の身体の変化:長期的な健康リスクとその対策

卵巣から分泌されるエストロゲンは、単に月経や妊娠に関わるだけでなく、血管、骨、脳など、全身の健康を維持するために不可欠な役割を担っています。卵巣摘出によってこの「守護神」ともいえるホルモンが失われると、身体には様々な変化が生じ、特定の疾患のリスクが高まる可能性があります。しかし、これらのリスクは管理可能であり、正しい知識を持つことが対策の第一歩となります。

3.1. 心血管疾患(心筋梗塞・脳卒中)のリスク上昇

エストロゲンには、血管の健康を守る強力な「血管保護作用」があります。具体的には、LDL(悪玉)コレステロールを下げ、HDL(善玉)コレステロールを増やす、血管のしなやかさを保つ、血圧を安定させるといった働きです。卵巣摘出によってエストロゲンが急激に欠乏すると、この保護作用が失われ、脂質異常症や高血圧が進行しやすくなります。その結果、血管の内壁にコレステロールが蓄積して硬くなる「動脈硬化」が進展し、心筋梗塞や脳卒中といった命に関わる疾患のリスクが高まるのです。

このリスクは、適切なホルモン補充療法(HRT)によって有意に低減できる可能性が、近年の大規模な前向きコホート研究で示されています6。HRTに加え、生活習慣の改善も極めて重要です。特に、日本の食生活に合わせた減塩指導(1日の塩分摂取量を6g未満に抑える)、魚(特に青魚)や大豆製品、野菜、果物を豊富に取り入れたバランスの良い食事、そしてウォーキングなどの定期的な有酸素運動は、動脈硬化の進行を抑制するために不可欠です。

3.2. 骨粗しょう症と骨折リスク

骨は常に古い骨が壊され(骨吸収)、新しい骨が作られる(骨形成)という新陳代謝を繰り返しています。エストロゲンは、このバランスを調整し、特に骨の破壊を司る破骨細胞の働きを抑制する重要な役割を担っています。エストロゲンが欠乏すると、この抑制が効かなくなり、骨の破壊が形成を上回ってしまいます。その結果、骨の内部がスカスカになり、骨密度が急激に低下する「骨粗しょう症」が進行します。

骨粗しょう症自体に症状はありませんが、転んだり、くしゃみをしたりといった僅かな衝撃で骨折しやすくなる「脆弱性骨折」のリスクが著しく高まります。特に、高齢者の寝たきりの主要な原因となる大腿骨近位部骨折や、背中が曲がる原因となる脊椎圧迫骨折は、生活の質を大きく損なう深刻な問題です。日本女性医学学会(JWMS)のガイドラインでは、術後の定期的な骨密度検査(DXA法)を受けることが強く推奨されています7。対策としては、食事からのカルシウム(目標1日800mg)と、その吸収を助けるビタミンDの十分な摂取が基本です。それに加え、HRTやビスフォスフォネート製剤、SERM(選択的エストロゲン受容体モジュレーター)といった薬物療法が非常に有効であり、個々の状況に応じて最適な治療法が選択されます。

3.3. 認知機能への影響と神経変性疾患

エストロゲンと脳機能の関係については、まだ研究が進行中の分野であり、不明な点も多く残されています。しかし、いくつかの研究では、エストロゲンが脳内で神経を保護する作用を持つ可能性が示唆されています。前述のメイヨー・クリニックの研究では、若年で卵巣を摘出した女性において、将来の認知機能低下やアルツハイマー病、パーキンソン病といった神経変性疾患のリスクとの関連が指摘されました5

ただし、これらの結果は観察研究に基づくものであり、卵巣摘出が直接的な原因であるという因果関係を証明するものではありません。他の生活習慣や遺伝的要因が複雑に関わっている可能性もあります。したがって、現時点では過度に不安を抱く必要はありませんが、術後も知的好奇心を維持し、社会的な交流を保ち、健康的な生活習慣を続けることが、脳の健康を維持する上で重要であると考えられます。

4. ホルモン補充療法(HRT):リスクとベネフィットの徹底比較

外科的閉経によって失われたエストロゲンを、飲み薬や貼り薬、ジェルなどで補う治療法が「ホルモン補充療法(Hormone Replacement Therapy: HRT)」です。HRTは、多くの女性にとって、術後のQOLを劇的に改善し、長期的な健康リスクを低減するための最も有効な手段の一つとなり得ます。しかし、同時に知っておくべきリスクも存在します。ここでは、その光と影を科学的根拠に基づいて徹底的に比較します。

4.1. HRTの絶大な効果:更年期症状の緩和と長期リスクの低減

HRTの最も分かりやすい効果は、ほてり、のぼせ、異常な発汗(ホットフラッシュ)、不眠、動悸、関節痛、気分の落ち込み、膣の乾燥といった、エストロゲン欠乏による辛い血管運動神経症状や精神神経症状を劇的に緩和することです。これらの症状が改善されるだけでも、生活の質は大きく向上します。

しかし、HRTの本当の価値はそれだけではありません。前述の通り、長期的な視点で見ると、骨粗しょう症による骨折リスクの予防や、心血管疾患リスクの低減といった、生命予後にも関わる重要なベネフィットが期待できます67。HRTは単なる対症療法ではなく、失われた体の防御機能を補い、長期的な健康を維持するための積極的な治療選択肢なのです。

4.2. 知っておくべきリスク:乳がん、血栓症

HRTを検討する上で、最も懸念されるのが乳がんのリスクでしょう。この点については、正確な情報理解が不可欠です。JWMSのガイドラインによれば7、リスクは使用するホルモンの種類によって異なります。

  • 子宮を摘出した方(エストロゲン単独療法):この場合、乳がんリスクは増加しない、あるいはむしろわずかに低下する可能性が示されています。
  • 子宮が温存されている方(エストロゲン・黄体ホルモン併用療法):黄体ホルモンを併用すると、長期間(5年以上)の使用で乳がんリスクがわずかに上昇する可能性が指摘されています。しかし、そのリスク上昇度は、肥満や過度のアルコール摂取といった生活習慣のリスクと同程度とされています。

もう一つの重要なリスクが、静脈血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)です。特に経口薬(飲み薬)の場合、肝臓での代謝過程で血液を固まりやすくする作用があるため、リスクがわずかに上昇します。このリスクは、経皮吸収製剤(貼り薬やジェル)を用いることで、ほとんど上昇させずに済むことが分かっています。

これらのリスクを考慮した上で、「タイミング仮説」という重要な概念があります。これは、閉経後10年以内または60歳未満という比較的早い時期にHRTを開始すれば、心血管系への保護作用などのベネフィットが、リスクを上回る可能性が高いという考え方です。外科的閉経の場合は、まさにこの「ゴールデンタイム」に該当するため、HRTの恩恵を最大限に受けられる可能性が高いと言えます。

4.3. 日本におけるHRT:誰が、いつ、どのように?

日本でHRTを始める際は、JWMSのガイドラインに基づいた安全な方法が推奨されています7。まず、治療の適応があるかどうかを判断するため、問診や検査が行われます。禁忌(HRTを行ってはいけないケース)とされるのは、乳がんや子宮体がんの既往、原因不明の性器出血、重篤な肝機能障害、そして血栓症の既往などです。

治療は、副作用を避けるために低用量の製剤から開始するのが原則です。治療開始前と治療中は、定期的な婦人科検診(乳がん検診、必要に応じて子宮がん検診)を受けることが、安全に治療を続ける上で不可欠です。HRTのほとんどは健康保険の適用対象となっており、経済的な負担も比較的少なく治療を受けることが可能です。

5. 手術後の生活の質(QOL)を高めるために:心と体のセルフケア

手術を乗り越え、長期的な健康リスクへの対策を講じた上で、次に重要になるのは、日々の生活をいかに豊かに、そして快適に過ごすかという視点です。身体的な変化だけでなく、精神的、社会的な側面にも目を向けた総合的なケアが、真の意味での回復とQOLの向上につながります。

5.1. 精神的・心理的ケア:喪失感との向き合い方

子宮や卵巣の摘出は、特に妊娠・出産を望んでいた女性にとって、「女性としての役割を失った」という深い喪失感や、空虚感につながることがあります。このような感情は、決して特別なことではなく、多くの人が経験する自然な心の反応です。大切なのは、その感情を否定せず、一人で抱え込まないことです。

まずは、パートナーや信頼できる家族、友人に自分の気持ちを話してみましょう。言葉にすることで、心が整理されることもあります。専門家の助けを求めることも非常に有効です。臨床心理士や公認心理師によるカウンセリングは、喪失感を乗り越え、新たな自己像を再構築していくプロセスを力強くサポートしてくれます。また、同じ経験を持つ人々と悩みを分かち合える患者会(例:子宮筋腫・内膜症体験者の会「たんぽぽ」など)に参加することも、孤独感を和らげ、前向きな気持ちを取り戻すきっかけになるでしょう。

5.2. 性生活(セクシュアリティ)の変化と対策

性生活は、非常にデリケートでありながら、パートナーとの関係性において重要な要素です。手術後の性生活には、ポジティブな側面とネガティブな側面の両方があり得ます。月経痛や過多月経、性交痛の原因となっていた疾患が取り除かれたことで、これまでの悩みから解放され、より快適な性生活を送れるようになる人も少なくありません。

一方で、特に卵巣を摘出した場合は、エストロゲンの欠乏により膣の潤いが減少し、萎縮することで性交痛が生じやすくなります。また、性欲そのものが低下することもあります。これらの問題に対しては、具体的な対策があります。局所的に作用するエストロゲンの膣錠は、全身への影響を最小限に抑えながら、膣の潤いと弾力性を回復させるのに非常に効果的です。また、市販されている質の良い潤滑ゼリーや保湿ジェルを使用することも、性交痛の緩和に役立ちます。そして何よりも重要なのは、パートナーとのオープンなコミュニケーションです。身体の変化や感じていることを正直に話し合い、お互いを思いやりながら、焦らずに新たな親密性の形を築いていくことが、問題解決の最大の鍵となります8

5.3. 食事・運動・睡眠:健康寿命を延ばす生活習慣の再構築

術後の長期的な健康管理は、何か特別なことをする必要はありません。むしろ、科学的根拠に基づいた質の高い基本的な生活習慣を、地道に、そして着実に継続することこそが、健康寿命を延ばすための王道です。

  • 食事:心血管リスクや体重増加を考慮し、バランスの取れた食事がこれまで以上に重要になります。野菜、果物、全粒穀物、そして良質なたんぱく源である魚や大豆製品を積極的に摂取しましょう。特に、日本の伝統的な食生活に豊富な大豆製品に含まれる大豆イソフラボンは、エストロゲンと似た構造を持つため、症状の緩和に補助的な役割を果たす可能性が期待されます。ただし、食事からの摂取が基本であり、サプリメントによる過剰摂取は健康リスクを伴う可能性もあるため、使用前には必ず医師に相談してください。
  • 運動:骨粗しょう症予防には、骨に重力の刺激を与える運動が不可欠です。ウォーキングやジョギング、軽い筋力トレーニングなどを習慣にしましょう。週に150分程度の有酸素運動が目標です。
  • 睡眠:ホルモンバランスの乱れは、睡眠の質を低下させることがあります。質の高い睡眠は、心身の回復、そしてホルモンバランスの安定に不可欠です。就寝前にスマートフォンを見ない、寝室の環境を整えるなど、快適な睡眠のための工夫をしましょう。

6. 手術にかかる費用と公的支援制度

手術を受けるにあたり、経済的な負担は大きな心配事の一つです。しかし、日本の公的医療保険制度には、患者様の負担を軽減するための優れた仕組みが整っています。正しい知識を持つことで、安心して治療に臨むことができます。

6.1. 手術費用の目安と保険適用

子宮・卵巣摘出術にかかる費用は、手術の方法(開腹手術か、身体への負担が少ない腹腔鏡手術か)、入院日数、病院の規模などによって異なります。あくまで一般的な目安ですが、公的医療保険が適用された3割負担の場合、腹腔鏡手術で約30万円~50万円、開腹手術で約40万円~60万円程度が自己負担額の総額となることが多いです。これらは原則としてすべて健康保険の適用対象となります。

6.2. 【重要】高額療養費制度の活用法

たとえ上記の費用がかかったとしても、全額を支払う必要はありません。日本には「高額療養費制度」という、医療費の自己負担額が一定の上限を超えた場合に、その超過分が払い戻される非常に重要な制度があります9

自己負担の上限額は、年齢や所得によって区分されています。例えば、70歳未満で標準的な所得(例:年収約370~約770万円)の方の場合、1ヶ月の自己負担上限額は「80,100円+(総医療費-267,000円)×1%」となります。つまり、医療費が100万円かかったとしても、窓口での支払いは約8万7千円程度で済む計算になります。

さらに便利な仕組みとして、事前にご自身が加入している保険者(健康保険組合や市区町村の国民健康保険窓口など)に申請して「限度額適用認定証」を入手しておけば、病院の窓口での支払いを、初めから自己負担上限額までに抑えることができます。後から払い戻しを申請する手間が省けるため、入院・手術が決まったら、必ずこの手続きを行うことを強くお勧めします。

よくある質問 (FAQ)

Q1. 術後、太りやすくなりますか?

手術自体が直接体重を増加させるわけではありません。しかし、特に卵巣を摘出した場合、エストロゲンの低下によって基礎代謝が落ち、内臓脂肪がつきやすくなるなど、代謝のバランスが変化する可能性があります。また、術後の安静期間による活動量の低下も一因となり得ます。解決策は、摂取カロリーと消費カロリーのバランスを見直すことです。これまで以上に、バランスの取れた食事と定期的な運動習慣が、健康的な体重を維持するための鍵となります。

Q2. 仕事にはいつ復帰できますか?

これは個人差が非常に大きく、手術方法(腹腔鏡か開腹か)と仕事内容に大きく依存します。一般的な目安として、身体的な負担が少ないデスクワークの場合、腹腔鏡手術後で2~4週間、開腹手術後で4~6週間程度です。立ち仕事や重い物を持つ仕事の場合は、さらに1~2週間程度の休養が必要になることもあります。焦らずご自身の体の回復状態を最優先し、必ず主治医の許可を得てから復帰するようにしてください。

Q3. 子宮摘出後の性生活はどうなりますか?

多くの場合、性的な感覚やオーガズムに大きな変化はありません。むしろ、月経痛や過多月経、それに伴う貧血などから解放され、より快適に感じられる方もいます。ただし、卵巣も同時に摘出した場合は、膣の乾燥による性交痛が起こることがあります。この問題は、ホルモン補充療法や局所的なエストロゲン製剤、潤滑剤の使用などで効果的に対処できます。最も大切なのは、パートナーと変化についてオープンに話し合うことです。

Q4. ホルモン補充療法に副作用はありますか?

治療開始初期に、吐き気、頭痛、乳房の張り、不正出血といったマイナートラブルが起こることがありますが、多くは治療を続けるうちに軽快します。重篤な副作用として血栓症や、使用する薬剤の種類によっては長期間で乳がんのリスクがわずかに上昇する可能性が指摘されていますが、そのリスクは生活習慣病のリスクと同程度とされています。治療開始前に専門医がリスクを評価し、治療中も定期的な検診を行うことで、安全に治療を進めることができます。

結論:納得して未来へ進むために

子宮や卵巣の摘出手術は、決して終わりではなく、ご自身の健康とより深く向き合い、新たな人生を歩み始めるためのスタートです。手術は、長期的な健康に多面的な影響を与えうる一方で、本記事で解説したように、適切な医学的知識と主体的な自己管理によって、そのリスクは大幅に軽減することが可能です。

最も重要なのは、情報を鵜呑みにするのではなく、本記事で得た知識を一つの「羅針盤」として、ご自身の主治医や医療専門家と十分に話し合い、ご自身の価値観やライフプランに合った最善の選択をご自身で決定していくことです。情報格差をなくし、患者様ご自身が治療の主役となる「Shared Decision Making(共同意思決定)」を、JAPANESEHEALTH.ORGは心から支援します。

この記事が、ご自身の体と未来について深く考える一助となれば幸いです。最終的な治療方針や術後の健康管理については、一人で悩まず、必ずかかりつけの産婦人科専門医にご相談ください。

参考文献

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