子宮頸がんと性行為:可能性と注意点
がん・腫瘍疾患

子宮頸がんと性行為:可能性と注意点

はじめに

子宮頸がんの治療を受けたあと、性生活をどのように再開すべきか、あるいは治療中に性交渉をしても問題ないのかなど、多くの方が戸惑いや不安を覚えることがあります。本記事では、子宮頸がんと診断され治療を受けた女性が抱えがちな「子宮頸がんを患っていても性交渉はできるのか」という疑問点を中心に、治療後の身体的変化や注意点、また性的な側面でのケアなどについて詳しく解説します。治療により体調やホルモンバランス、さらには感情面でも変化が起こりやすく、思うように性欲がわかないことや、痛み・出血といった悩みが生じる場合もあります。しかし、適切な準備と相手とのコミュニケーションによって、性行為を楽しみ、親密さを取り戻すことは十分に可能です。実際、子宮頸がんを経験した女性のなかには、症状の落ち着いた時期や医師の指示のもと、数週間から数か月ほどで従来の性交渉に復帰している例も少なくありません。

免責事項

当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。

専門家への相談

本記事は、子宮頸がんの経験を持つ方々の多様な実体験や各種研究、および医療専門家の知見をもとにまとめています。とくに治療方針の決定やアドバイスに関しては、Thạc sĩ – Dược sĩ – Giảng viên Lê Thị Mai(ベトナムの薬学修士・薬剤師・講師)による医学的助言が元の記事中に示されており、それらを参考に一部内容を補足しています。ただし、本記事の内容はあくまでも一般的な情報提供を目的としており、読者の皆様の個々の病状や体質を踏まえた正式な医療行為を代替するものではありません。実際に治療後の生活や性行為再開に関する判断をされる際には、担当の医師や専門家に必ず相談しましょう。

子宮頸がん治療後に起こりうる主な症状と性的側面への影響

子宮頸がんの治療後には、手術・放射線治療・化学療法などの種類や組み合わせによって、身体的にも感情的にもさまざまな変化が起こり得ます。以下に代表的な症状と、それらがどのように性生活に影響するかについて詳しくみていきましょう。

  • 早期閉経
    卵巣機能が低下することで、通常よりも早期に更年期症状が訪れることがあります。ほてりや発汗、気分の不安定などが起こりやすくなり、性欲や体力面でも波が出る可能性があります。
    2019年にSupportive Care in Cancer誌に掲載された前向きパイロット研究(Kirschnerら、doi:10.1007/s00520-018-4435-2)では、子宮頸がん治療後の女性が早期閉経の症状に苦しむ一方、適切なホルモン補充療法やカウンセリングによってQOL(生活の質)を維持しやすくなると報告されています。この研究はドイツの外来治療施設で、手術後1年以内の女性を対象に行われたものであり、日本でも類似の治療方針が適用される場合は少なくありません。
  • 膣の乾燥・萎縮
    放射線治療やホルモン変化によって膣粘膜が乾燥しやすくなり、萎縮(薄くなる・狭くなる)が起こりやすいとされています。これにより性交時に痛みが生じたり、出血を伴うことがあります。
    アメリカの研究グループ(Rhoneら、2022年、Gynecologic Oncology誌、doi:10.1016/j.ygyno.2022.09.012)では、子宮頸がん治療後1~2年経過した女性約150名を調査し、半数以上が膣乾燥や性交痛を訴えていたものの、保湿剤や潤滑ゼリーの活用、適切な性教育・カウンセリングなどを行うことで症状や不安が軽減する傾向が確認されています。
  • 膣の狭窄
    子宮頸部や膣付近への放射線治療、または外科的処置の影響で膣が狭くなる(膣狭窄)ケースがあります。狭窄が顕著になると性交時の挿入が困難となり、痛みを伴うことが多いです。
    同じくRhoneら(2022年)の報告によると、外科的処置を受けたグループでは、放射線治療のみを受けたグループよりも膣狭窄の頻度が高かったものの、定期的な膣拡張器の使用で改善が見られたとのことです。日本においても、術後リハビリテーションとして膣拡張器を指導する施設が増えています。
  • 更年期症状(ほてり、発汗、イライラなど)
    卵巣機能の低下やホルモンバランスの変化によって、情緒不安定や睡眠障害、倦怠感などが引き起こされる場合があります。これらが重なると、性欲の減退や性交への意欲低下が起こりやすくなります。
  • 気分的な落ち込みや不安
    治療の過程で身体イメージが変化したり、倦怠感や痛みから自信を失う女性も少なくありません。とくに「身体が変わったのでパートナーがどのように思うか心配」「がんが再発するのではないか」という不安感が高まると、性的接触そのものを敬遠してしまう可能性もあります。
  • 生理や妊孕性への影響
    子宮頸がんの進行度によっては、子宮摘出を含む手術を行うことがあり、生理がなくなるほか、妊娠が難しくなる場合があります。パートナーとの将来的な家族計画にも関わってくるため、心身の負担は大きいかもしれませんが、あらかじめ医師に相談したうえで納得のいく治療とライフプランを検討することが大切です。

子宮頸がんを経験しても性交渉は可能か

結論からいうと、子宮頸がん治療後、状態が安定しているのであれば性交渉は可能です。実際、多くの医師は治療後数週間から1か月ほどで体力が回復し、炎症や手術創が落ち着いた段階であれば問題ないと説明しています。ただし、治療の種類や患者さんごとの体力の回復度合いによって異なるため、必ず担当医の指示を受けましょう。

子宮頸がん自体は「感染症」ではない

子宮頸がんは、主にヒトパピローマウイルス(HPV)の持続感染が発端となる場合が多いですが、いったんがん化した細胞自体がほかの人にうつることはありません。そのため、性交渉で相手に「がんそのもの」を感染させることはないと考えられています。ただし、HPVウイルスを保有している場合は、コンドームを適切に使用するなどしてパートナーへの感染リスクを下げることが望ましいです。

化学療法(化学療法薬)中は要注意

化学療法薬の一部は体液中(唾液や膣分泌液など)に一定期間残留するとされ、治療直後の48~72時間はパートナーへの影響が懸念されることがあります。現時点では、性交渉によるパートナー側の明確な健康被害を立証する十分なデータはありませんが、安全策として治療後2~3日は性交渉を控えるか、コンドームを使用するなどが推奨される場合があります。妊娠を予定している方はとくに注意が必要で、化学療法薬による胎児への影響が否定できないため、医師の指示に従って避妊を行うことが重要です。

性行為を再開する際に知っておきたいポイント

治療後に性交渉が可能とはいえ、心身への負担を考慮して徐々に再開したほうが安心です。性行為が痛みを伴ったり、疲労感が強くなったりする可能性もあるため、以下の点に留意するとよいでしょう。

  1. 焦らず時間をかける
    まずは自分の体調や気持ちと向き合い、パートナーと率直にコミュニケーションを取りましょう。無理に性行為をすることで痛みや不快感が強まると、結果的にセックスへの苦手意識が増幅してしまう可能性があります。
  2. 性交渉以外のスキンシップも大切にする
    体調が安定するまでは、抱きしめたりキスをしたりといったスキンシップで安心感や愛情を確かめ合うのも一つの方法です。オーガズムに至らなくとも、身体的・精神的な癒やしを得られる場合が多いでしょう。
  3. 潤滑剤や保湿剤の活用
    放射線治療やホルモンバランスの崩れで膣の乾燥や萎縮が進んでいる場合、潤滑剤や膣用保湿剤を利用すると痛みを軽減できます。市販の潤滑ゼリーを使用する際は、肌に合うかどうか、刺激がないかを確認しましょう。
  4. 膣拡張器や骨盤底筋リハビリテーション
    手術や放射線照射で膣に狭窄が起きている場合、医師から膣拡張器の使用を指導されることがあります。膣拡張器を定期的に使用することで、膣の弾力や柔軟性を維持し、性交時の痛みや不快感を和らげる効果が期待されます。また、骨盤底筋を鍛えるリハビリやフィジカルセラピーも大いに役立ちます。
  5. 楽な体位を探す
    手術の内容や自分の疲労度に応じて、一定の体位が負担になるケースがあります。痛みを感じにくい体位やクッションの活用などを工夫し、負担を軽減しましょう。
  6. 無理に妊娠を目指さない
    化学療法や放射線治療の影響で妊娠しにくくなったり、場合によっては妊娠がリスクを伴う可能性があります。医師の助言を踏まえ、安全な時期になるまで避妊することが推奨される場合もあります。

どのような状況で性行為を控えたほうがよいか

基本的には、治療後の回復期間中や特定の症状がある場合には、性的接触を控えたほうが安全です。たとえば以下のようなケースでは、無理をすると感染リスクや痛みが増す恐れがあります。

  • 術後直後の傷口が完全に回復していないとき
    膣や外陰部を含む骨盤内手術を行ったばあいは、医師から「膣内挿入は○週間後が望ましい」といった具体的な指示が出されることがあります。
  • 免疫力・白血球数が低下しているとき
    化学療法や放射線治療の副作用で白血球数が低下している場合、感染症リスクが高まります。性行為による細菌やウイルスの侵入を防ぐためにも、体力が回復するまで待つことが勧められます。
  • 口内炎(粘膜炎)や外陰部の炎症がひどいとき
    口内や膣、肛門などの粘膜にただれや潰瘍がある場合、性交渉によって症状が悪化する可能性があります。症状が落ち着くまで治療に専念しましょう。
  • 膣や外陰部に潰瘍や出血がある場合
    皮膚や粘膜が傷つきやすい状態での行為は、感染リスクを高めるだけでなく痛みも増大します。

治療後の身体と気持ちに寄り添うために

子宮頸がん治療後の性生活については、身体面だけでなく精神面でも大きな影響があります。自分の身体に自信が持てなくなったり、パートナーとの関係性が変わったと感じたりする人もいるでしょう。しかし、下記のような対策を意識することで、より良い性生活を取り戻すきっかけになります。

  • 医療者やカウンセラーとの相談
    不安や疑問、痛みなどを抱えながら一人で悩むよりも、専門家に具体的な相談をするほうが解決策が見つかりやすいです。婦人科医や腫瘍内科医に加えて、性機能に詳しいカウンセラーや臨床心理士へ話を聞いてもらうのも良いでしょう。
    2021年にInternational Journal of Gynecological Cancer誌に掲載された研究(Gilら、doi:10.1136/ijgc-2021-002668)によると、術後の性機能リハビリやカウンセリングを積極的に取り入れたグループは、性満足度が高く心理面でも良好な変化が見られたとの報告があります。
  • パートナーとのコミュニケーション
    治療後の身体的変化をパートナーが理解しないまま関係を再開すると、痛みやわだかまりが生じやすくなります。互いの体調や気持ちを正直に伝え合い、ペースややり方を模索していくことが大切です。
  • 自分のペースに合わせる
    一度にすべてを解決しようと無理をすると、逆にストレスが増える場合があります。短時間のスキンシップから始めたり、痛みが少ない体位を試すなど、自分の身体の反応を確かめながらゆっくりと進めましょう。
  • 追加のリハビリやホルモン補充療法の検討
    早期閉経などによる更年期症状が強い場合は、医師と相談のうえホルモン補充療法(HRT)を検討する方法があります。膣の萎縮が強い場合や性交痛が改善しない場合にも、処方薬や物理療法が適用されるケースがありますので、遠慮なく主治医にご相談ください。

性生活に関する研究事例から見えてくること

近年、子宮頸がんを含む婦人科がんの治療後における性機能の研究が国内外で増えています。その内容を概観すると、以下のような共通点が挙げられます。

  • 心理的サポートの重要性
    単に身体機能を回復させるだけでなく、患者が自分の変化を受け入れ、新たな身体イメージや性の在り方を見つめ直すためのカウンセリングやグループセラピーが効果を発揮するという報告が相次いでいます。
  • 適切な情報提供の不足
    子宮頸がん治療後の性行為に関する情報が患者に十分に共有されていないケースが多く、患者が「性交渉を再開しても大丈夫なのか」「どんな準備が必要なのか」などを知る機会が限られているとの指摘があります。医療者はもちろん、家族や社会全体でも情報共有の体制を整えることが重要とされています。
  • 身体機能よりも「恐怖心や不安」への対処がカギ
    2021年にJournal of Geriatric Oncology誌に掲載された研究(Hardenら、doi:10.1016/j.jgo.2021.06.007)では、50歳以上の子宮頸がんサバイバーを対象に、身体機能や性機能だけでなく、外見上の変化やパートナーへの罪悪感など、心理社会的側面が性生活の質に強く影響することが示されています。こうした負の感情を解消し、前向きに性生活へ向き合えるような支援が必要となります。

子宮頸がん治療後の生活を支える具体的なヒント

  • 骨盤底筋トレーニング
    スクワットや骨盤底筋を意識した体操(いわゆる「骨盤底筋エクササイズ」)を続けることで、膣や尿道周りの筋力が向上し、排尿トラブルや性交時の不快感を軽減するとされています。
    日本国内でも、女性医療専門クリニックなどで専任の理学療法士の指導を受けられるところがありますので、興味があれば主治医に相談してみましょう。
  • 生活リズムや食事の見直し
    更年期症状を和らげるために、バランスのよい食事や適度な運動、十分な睡眠を心がけることも大切です。普段の生活習慣を整えることで、ホルモンバランスが比較的安定しやすくなり、結果として性欲や体力の回復にも寄与する可能性があります。
  • パートナーや周囲からのサポート
    回復期には疲れやすくなったり、メンタル面で落ち込みやすくなるため、家事や育児を家族や友人に手伝ってもらうだけでも精神的な負担が軽減されます。パートナーに協力を求めることを躊躇せず、具体的にどんな助けがほしいかを伝えるのも有効です。

参考文献

結論と提言

子宮頸がんの治療後、身体面と精神面の両方で大きな変化が生じることは珍しくありませんが、適切なリハビリや医療者・パートナーとのコミュニケーションを行うことで、性的な満足感やパートナーとの深い繋がりを再び築くことは十分に可能です。特に、潤滑剤や膣拡張器の活用、ホルモン補充療法やカウンセリングなどの手段は多岐にわたり、自分に合った方法を探すことが回復への近道になります。焦らずに自分のペースで進めること、身体だけでなく気持ちの回復にも目を向けることが大切です。少しでも不安がある場合は、専門家へ早めに相談するのが望ましいでしょう。

重要なお願い
本記事の内容は、子宮頸がん治療後の性生活に関して一般的な情報提供を目的としたものです。個々の病状や治療経過、体質によって適切なケアやタイミングは大きく異なります。かならず担当医や医療の専門家と相談のうえ、自分に最適なケア方法を見つけてください。特に性行為再開に不安がある場合は無理をせず、専門家の指導のもと身体を徐々に慣らすように心がけましょう。どうぞご自愛ください。

この記事はお役に立ちましたか?
はいいいえ