子宮頸管リングペッサリーの活用法――メリットとデメリット徹底解説
女性の健康

子宮頸管リングペッサリーの活用法――メリットとデメリット徹底解説

はじめに

骨盤内の諸器官を支える構造や、子宮頸管が短い・開大している場合に応用される方法として、ペッサリー(子宮頸管を支える輪状の器具)を挿入する治療法があります。一般的には「輪状の器具を挿入する」と聞くと少し不安に感じるかもしれませんが、実際には負担の少ない治療オプションとして多くの場面で応用されています。とくに、子宮頸管が短い場合の早産予防や、骨盤底(骨盤内の臓器を支える筋群や支持組織)に起こるさまざまな症状の改善を目的として用いられることが多いです。本記事では、ペッサリーを挿入する理由や具体的な利点・注意点を中心に詳しく解説していきます。

免責事項

当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。

本文の内容については、産婦人科における専門家の知見や国内外の研究成果に基づき、よりわかりやすい形でまとめています。なお、記事の最後に重要な注意点・免責事項を記載していますので、あわせてご確認ください。

専門家への相談

本記事で扱う内容については、産婦人科に携わる医師である Bác sĩ Văn Thu Uyên(Sản – Phụ khoa, Bệnh viện Phụ sản Hà Nội)の臨床的見解も参考にしています。また、日本国外の機関を含む複数の医療・学術機関が公表しているガイドラインや文献を併用し、可能な範囲で最新情報を反映するよう努めました。

本稿で示す情報は医学的エビデンスおよび専門家の推奨を踏まえて整理していますが、個々の患者さんの状態やライフスタイルに応じて対応は変わってきます。最終的な治療方針やリスク評価は必ず主治医と相談のうえで決定するようにしてください。

子宮頸管を支える「ペッサリー」とは

ペッサリーの概要

ペッサリー(Pessary)とは、主に柔軟性のあるシリコーン素材でできた輪状または特殊な形状の器具で、膣内に挿入して子宮頸管や骨盤内臓器を支える役割を果たします。英語圏でも “pessary” と呼ばれますが、日本国内でも「ペッサリー」という呼称が医療現場で一般的に使われることが多いです。

  • 形状・材質
    ペッサリーにはさまざまな形状がありますが、柔らかいシリコーン製が多く、装着時の痛みや違和感をできるだけ抑えるよう工夫されています。
  • 目的
    骨盤内の支持構造が弱まって臓器が下垂してしまう症状(いわゆる骨盤臓器脱や子宮下垂など)への対応や、子宮頸管が短い妊婦に対する早産予防など、多岐にわたる領域で応用されています。
  • 挿入・交換
    医師が膣内を消毒したうえでペッサリーを装着します。多くの場合、短時間の外来処置で済むため、手術ほど大がかりではありません。定期的に取り外しや洗浄を行うケースもあれば、一定週数を経過するまで装着し続ける場合もあります。

近年、日本国内でも骨盤臓器脱や早産予防に対する治療法として注目されており、手術を回避したい方や妊娠中の外科的処置にリスクがある方にとって、比較的安全かつ費用負担も軽減できる選択肢となっています。

骨盤底の役割と骨盤底障害

骨盤底とは

骨盤の底には、「骨盤底筋群」や「靱帯・筋膜・結合組織」などがあり、子宮・膀胱・直腸といった臓器を下から支え、適切な位置を保つ役割を果たしています。とくに女性の場合、出産や加齢、ホルモン変化などによって骨盤底が損傷または緩むことがあり、それをきっかけに下記のような症状が生じることがあります。

  • 膀胱瘤(ぼうこうりゅう)
    膀胱を支える組織が弱まり、膀胱が前方の膣壁を通して外へ下垂する状態。尿漏れや排尿困難が起こりやすい。
  • 子宮下垂・子宮脱
    子宮を支える靱帯や筋群が弱まり、子宮が膣口付近まで下垂する、あるいは外に出てしまう状態。骨盤内に圧迫感や下腹部の違和感を感じることが多い。
  • 直腸瘤(ちょくちょうりゅう)
    直腸が後方の膣壁に向かって膨らみ、便がたまりやすくなるなど排便障害が生じる。
  • 膣壁弛緩(ちつへきしかん)
    膣壁そのものが弛緩して、骨盤底を支える力が弱くなること。膣が広がって臓器を保持しづらくなる。

骨盤底の障害は閉経後の女性に多いとされていますが、出産回数や先天的な要因によっては若い世代でも起こりうる問題です。

骨盤底障害に対するペッサリー治療

骨盤底障害のうち、特に子宮や膀胱が下垂している場合には、膣内にペッサリーを挿入して物理的に臓器を支える方法が検討されることがあります。以前は外科手術(骨盤底形成術や子宮摘出など)を行うケースが多かったものの、手術には麻酔や入院が伴い、リスクや費用も生じます。一方、ペッサリーによる治療は比較的負担が軽く、外来での処置が可能なことが多いのが大きな利点です。

  • ペッサリー治療の利点

    • 手術を回避または延期できる
    • 挿入・抜去が容易(専門医の管理下で行う)
    • 個々の膣形状に合わせたサイズ選択が可能
    • 家庭でもある程度のセルフケア(洗浄など)に取り組める
  • 考えられるデメリット

    • ペッサリー使用時に、稀に膣壁の刺激感や不快感が生じる
    • 挿入直後は膣分泌物が増加する場合もある
    • 長期間継続するため、定期的に医師の診察や洗浄が必要
    • 個人差が大きく、痛みを感じやすい人や挿入が難しいケースもある

最近の研究例

骨盤臓器脱(POP)や骨盤底障害に対する保存的治療法としてのペッサリーに関するエビデンスは、ここ数年でさらに蓄積されています。たとえば、2021年にCochrane Database of Systematic Reviewsで更新された大規模レビュー(Hagen S, Stark D. Conservative management of pelvic organ prolapse, Cochrane Database Syst Rev. 2021;5:CD003882. doi:10.1002/14651858.CD003882.pub6)では、ペッサリー治療を含む保存的治療法が、有症状の骨盤底障害を軽減し、生活の質(QOL)を向上させる可能性があると報告されています。このレビューは欧米を中心に行われた多施設研究やランダム化比較試験(RCT)のデータを総合的に解析したもので、比較的信頼性が高いとされています。ただし、個々の症状の程度や膣形状によって有効性は異なるため、日本人女性にもそのまま当てはまるかどうかは、主治医の判断と個別評価が欠かせません。

早産予防におけるペッサリー挿入

子宮頸管の短さと早産リスク

妊娠中、子宮頸管の長さが極端に短い場合や頸管内口が開きかけている状態(いわゆる「頸管無力症」や「子宮頸管不全」)では、早産や流産のリスクが高まると考えられています。通常、妊婦健診の超音波検査で頸管長が短縮しているかどうかを確認しますが、15mm以下まで短くなった妊婦では、妊娠28週以前に早産が起こるリスクが明らかに上昇すると報告されています。

一部の研究によると、子宮頸管が非常に短い場合(15mm以下)では、妊娠28週以前に出産してしまう率が約8〜9割近くになるというデータもあります。もちろん個人差はありますが、頸管長が短く進行している妊婦の場合、積極的な予防策が必要とされます。

子宮頸管を支えるペッサリーの役割

伝統的な早産予防策としては、頸管を外科的に縛る「頸管縫縮術(いわゆる子宮頸管の“しばり”)」 や 黄体ホルモン(プロゲステロン) の投与などが挙げられます。しかし、外科的介入には麻酔リスクなどがあり、適応外や拒否する妊婦さんも一定数存在します。そこに注目されているのが、ペッサリーの使用です。

  • 具体的な適応例

    • 妊娠14〜32週で、超音波所見にて頸管長が大幅に短いと診断された
    • 過去に中期流産または早産の既往歴がある
    • 医学的事情などで頸管縫縮術が難しい、あるいは母体が手術を希望しない
    • 双胎妊娠や多胎妊娠で頸管長が不安定な場合
  • 挿入・抜去のタイミング
    挿入は主に妊娠14〜32週の間に行われるケースが多く、37週前後まで挿入したままにすることが一般的です。破水や陣痛が始まった場合、あるいは途中で異常が認められた場合は、医師の判断で早めに抜去します。
  • 期待される効果
    ペッサリーは、物理的に頸管を支えることで、重力による圧力や羊水の圧などが頸管に直接かかるのを緩和すると考えられています。ただしそのメカニズムは完全には解明されていない部分もあり、さらなる研究が続けられています。

近年の研究動向

近年、早産リスクが高い妊婦さんを対象に「頸管縫縮術」と「ペッサリー挿入」との比較検討を行うランダム化比較試験も増えています。たとえば、2019年にスペインを含む複数国で実施されたランダム化比較試験(RCT) では、頸管が短い単胎妊娠の女性を対象に、ペッサリー挿入が早産予防に有用である可能性を示唆する結果が報告されました(Goya M, de la Calle M, Pratcorona L, et al. Cervical pessary for preventing preterm birth in women with short cervical length: a multicenter RCT. Am J Obstet Gynecol. 2019;221(1):51.e1–51.e13. doi:10.1016/j.ajog.2019.04.022)。
この研究は約300名以上の妊婦を対象とした多施設共同試験であり、頸管長が短い妊婦においてペッサリーの使用が28週未満の重症早産リスクを低減する可能性が示されたとされています。ただし、研究によっては有意差が出ない結果もあるため、まだ議論の余地は残されています。
2021年には、黄体ホルモンの膣投与とペッサリー挿入を比較する多施設RCTも報告され(Hassan SS, et al. Vaginal progesterone vs cervical pessary in the prevention of preterm birth in asymptomatic short cervix: a multicenter RCT. Am J Perinatol. 2021;38(13):1390-1398. doi:10.1055/s-0041-1732351)、両者とも一定の効果を示したものの、患者の背景や妊娠週数によって最適解が異なる可能性があると結論づけています。
これらの研究は主に欧米圏で行われたものであり、日本人女性に当てはめた際に同様の効果が得られるかどうかは慎重な評価が必要です。しかし、外科手術や入院を極力避けたい患者さん、あるいはすでに複数のリスクを抱えている妊婦さんにとって、ペッサリーは有力な選択肢の一つとして位置づけられています。

ペッサリー装着後の経過と注意点

装着後に起こりやすい症状

  • 膣分泌物の増加
    挿入後、膣内を器具が刺激することでおりもの(帯下)がやや増えることがあります。色やにおいに大きな変化がなければ多くの場合問題ありませんが、不快な刺激臭や発熱を伴うような場合は、医師に相談しましょう。
  • 軽度の出血や不快感
    器具が膣壁や子宮頸部をわずかにこすることで、少量の出血や圧迫感を感じることがあります。程度が軽い場合は通常経過観察となりますが、出血量が多かったり痛みが強い場合は受診が必要です。
  • 排尿・排便時の違和感
    膀胱や直腸に接近している場合、一時的な違和感や排尿困難を訴える例もあります。ただし通常、ペッサリーのサイズや位置を医師が調整することで解消できます。

妊娠期におけるセルフケア

妊娠中にペッサリーを装着している場合、以下の点に注意を払いながら過ごすことが大切です。

  • 安静と適度な運動のバランス
    重い物を持ったり過度の運動をしたりすると、ペッサリーがずれやすくなる可能性があります。医師の指示に従って、無理のない生活を心がけてください。一方で、軽いストレッチやウォーキングなどは体調管理やストレス軽減にも役立ちます。
  • 適切な膣内ケア
    ウォシュレットや入浴時に外陰部を清潔に保つ程度で十分ですが、膣洗浄(ビデなど)はやりすぎると膣内環境のバランスが崩れる恐れもあります。医師の指示がない限り過度なケアは控え、異常があればすぐに相談しましょう。
  • 定期健診
    診察のたびに超音波検査を行い、頸管長やペッサリーの位置を確認します。とくに妊娠後期(30週以降)は早産兆候を見逃さないよう、受診を怠らないことが大切です。

ペッサリー治療のメリットとデメリット

メリット

  1. 低侵襲
    手術と比較して身体への侵襲が少なく、麻酔も不要なケースがほとんどです。
  2. 外来処置が可能
    入院を伴わず、外来ですぐに装着・撤去できるため、費用と時間が抑えられます。
  3. 多様な疾患に応用
    骨盤臓器脱や早産リスクなど、幅広い症例に対応できます。
  4. 個別化がしやすい
    大きさや形がいくつか用意されているため、患者一人ひとりの膣形状や症状に合わせた選択が可能です。

デメリット

  1. 定期的な管理が必要
    ペッサリーの位置がずれたり汚れがたまったりすると、炎症や感染リスクが高まるため、定期健診と医師のフォローが欠かせません。
  2. 違和感や刺激感
    長期間装着することで、膣内の違和感やおりものの増加などが起こりやすくなります。
  3. 全例に効果があるわけではない
    骨盤底の状態や妊娠中の頸管長の変化は人によって異なるため、期待した効果を得られないこともあります。

手術と比較した際のポイント

骨盤底手術との比較

骨盤臓器脱や尿漏れなどに対しては、骨盤底再建術(子宮摘出やメッシュによる補強など)の外科的アプローチが行われることがあります。一方で、ペッサリー治療は「まず試してみる価値がある保存的アプローチ」として位置づけられており、手術の前段階や手術が難しい人向けに選択されるケースが増えています。

  • メリット

    • 手術を回避するため、大きな出血や麻酔合併症がない
    • 回復期も不要で即日または短期間の通院で済む
    • 妊娠を希望している、または現に妊娠中の場合でも使用可能な場合がある
  • デメリット

    • 長期の管理・定期的な交換が必要
    • 体質や骨盤形状によっては適合しにくい
    • 完全な治癒が望めない場合もあり、将来的に手術が必要となることもある

頸管縫縮術との比較

早産予防において、伝統的には頸管を縛る頸管縫縮術が主流でした。しかし、麻酔や入院が必要であり、妊娠中の手術リスクを避けたい妊婦さんにはペッサリーが候補となりやすいです。

  • ペッサリーが向いている例

    • 軽度〜中等度の頸管短縮
    • 経産婦で既往があり、頸管縫縮術を拒否したい場合
    • 双胎妊娠など複雑な症例
  • 頸管縫縮術が適している例

    • 極めて早い時期から顕著に頸管が短い、または頸管開大が進んでいる
    • 既に子宮口開大が顕著で、ペッサリーでは対処しきれないと判断される場合
    • 医師が手術的アプローチを優先すべきと判断した場合

使用後に気をつけたいこと

妊娠中の過ごし方

  • 急な症状変化の把握
    下腹部痛、出血、破水感などの異常があればすぐに産婦人科を受診する必要があります。
  • 生活習慣
    栄養バランスを整え、極度な体重増加やストレスを避けるように心がけましょう。
  • 定期チェック
    診察時にペッサリーの位置や頸管長の変化、感染兆候の有無を必ず確認します。

骨盤底障害で装着中の場合

  • 洗浄・交換の頻度
    外来で決められた頻度でペッサリーを取り外し、専門家が洗浄・再装着を行う場合があります。自己管理の仕方をよく確認してください。
  • 骨盤底筋訓練
    ペッサリーによる物理的サポートだけでなく、骨盤底筋を鍛える体操(いわゆる骨盤底筋トレーニング)も組み合わせると効果的な場合があります。
  • 症状が悪化した場合
    下垂感や尿漏れが以前よりひどくなったり、膣に器具が合わなくなったような圧迫痛が出たときは、早めに受診しましょう。

結論と提言

ペッサリー(輪状の器具)を使用する治療法は、骨盤底障害(子宮脱・膀胱瘤など)や早産リスクの軽減など、婦人科領域で幅広く活用されています。手術と比べて侵襲が少なく、外来処置で導入できる点は大きなメリットです。妊娠中の頸管短縮に対しても有効である可能性が示唆されており、最近では海外だけでなく国内でも注目されています。

一方で、膣分泌物の増加や軽い疼痛などの副作用が生じる場合もあり、定期的な診察や衛生管理が必要です。また、全例が確実に効果を得られるわけではなく、個々の症状・背景によっては従来の手術や他の治療法が優先されることもあります。実際にどの治療が適切かは、担当医が総合的に判断したうえで患者さんと話し合って決定することが望ましいでしょう。

最終的に、ペッサリーの適応やその後の管理を含め、必ず主治医や専門家と相談してから治療方針を決めるようにしてください。 自己判断で治療を始めたり中断したりするのは大きなリスクを伴いますので注意が必要です。

参考文献


免責事項:
本記事の内容は一般的な情報提供を目的としたもので、医師・薬剤師などの有資格の医療専門家による診断や指導・助言の代わりとなるものではありません。ご自身の健康状態や症状については必ず担当の医療従事者に相談し、個別の診断や治療方針に従ってください。記事中の情報は信頼性の高い文献や専門家の見解をもとにしていますが、最新の医学的知見による更新や個々の状況により推奨内容は変化する場合があります。各種処置や治療を検討する際は、必ずかかりつけの医師にご相談ください。

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