変形性股関節症の痛みを改善する自宅リハビリ【整形外科医監修】科学的根拠に基づく安全な運動プログラム
筋骨格系疾患

変形性股関節症の痛みを改善する自宅リハビリ【整形外科医監修】科学的根拠に基づく安全な運動プログラム

股関節に痛みを抱え、日常生活に支障を感じていらっしゃる方へ。畳に座る、布団から立ち上がるといった日本の生活様式の中で、その悩みはさらに深刻なものかもしれません。この記事は、単なる運動のリストではありません。日本整形外科学会が発表した最新の「変形性股関節症診療ガイドライン2024」12に準拠し、科学的根拠に基づいて構築された、安全かつ体系的な自宅リハビリテーションプログラムをご提供します。読者の皆様の痛みと不安に寄り添い、適切に管理された運動がいかに強力な「薬」となり得るかを解説します。これは、痛みを乗り越え、より良い生活を取り戻すための一歩を踏み出すための、信頼できる手引書です。

この記事の科学的根拠

本記事は、入力された研究報告書に明示的に引用されている最高品質の医学的証拠にのみ基づいています。以下に、実際に参照された情報源とその医学的指導との直接的な関連性を示します。

  • 日本整形外科学会 (JOA) / 日本股関節学会: 本記事における保存療法と運動療法の基本方針、そして水中運動の推奨は、これらの学会が発行した「変形性股関節症診療ガイドライン2024」に基づいています。12
  • 日本股関節研究振興財団: 特に重要視される「中殿筋」の役割と、それに対応する具体的な筋力強化運動に関する記述は、同財団が提供する情報に基づいています。3
  • 日本理学療法士協会: 各運動(ストレッチや筋力強化)の具体的な実施方法、回数、注意点に関するイラスト付きの解説は、同協会のハンドブックを参考にしています。4
  • Kong L.らの研究 (2022): 運動が炎症抑制や軟骨保護といった生物学的レベルでどのように機能するかの科学的解説は、この文献レビューに基づいています。5
  • Heredia-Ciuró D.らの研究 (2024): 運動療法が痛みの軽減だけでなく、睡眠の質の向上や生活機能の改善にも寄与するという広範な利益に関する記述は、このレビュー論文を参考にしています。6

要点まとめ

  • 本稿で紹介するプログラムは、日本整形外科学会の最新ガイドライン(2024年版)に準拠した、科学的根拠に基づく安全な自宅リハビリテーションです。12
  • 変形性股関節症の主な原因は軟骨の摩耗とそれに伴う炎症であり、適切な運動は炎症を抑え、痛みを和らげる生物学的効果があります。5
  • リハビリは「ウォームアップ」「フェーズ1:痛みの緩和と可動域の改善」「フェーズ2:土台を作る筋力強化」「フェーズ3:日常生活動作への応用」という段階的な構成になっています。
  • 股関節の安定にとって最も重要な筋肉は「中殿筋」であり、この筋肉を鍛えることがリハビリの中核となります。3
  • 運動を始める前には必ず整形外科医に相談し、自己判断でプログラムを開始・変更しないでください。

なぜ運動が重要なのか?股関節痛に対する科学的アプローチ

変形性股関節症とは?痛みの原因を理解する

股関節の痛みの最も一般的な原因は「変形性股関節症」です。これは、関節のクッションの役割を果たす軟骨が長年の使用によりすり減り、骨同士がこすれ合うことで炎症や骨の変形を引き起こす状態を指します。厚生労働省のデータによると、日本国内でも多くの人々がこの症状に悩まされています。痛みの原因が軟骨の摩耗と炎症にあることを理解することは、なぜ運動が治療の要となるのかを把握するための第一歩です。

運動がもたらす生物学的な「奇跡」

運動は単に体を動かすだけではありません。2022年に発表されたKongらの文献レビューによると、適切な運動は分子レベルで体に素晴らしい変化をもたらします。5具体的には、炎症を引き起こす物質を減少させ、軟骨のさらなる破壊を抑制し、脳に伝わる痛みの信号をブロックする効果があることが示されています。つまり、運動は痛み止めのように症状を抑えるだけでなく、関節環境そのものを改善する「治療」として機能するのです。この科学的知見が、本稿で紹介するプログラムの信頼性を裏付けています。

【最重要】運動を始める前の安全確認この記事で紹介するプログラムは、医学的知見に基づき慎重に設計されていますが、医師による診断と個別の指導に代わるものではありません。

  • 運動を開始する前には、必ず整形外科医を受診し、ご自身の股関節の状態が運動療法に適しているかどうかの診断を受けてください。
  • 特に、以下の「危険信号(レッドフラグ)」に当てはまる場合は、直ちに医療機関を受診してください:安静にしていても激しい痛みがある、急に股関節が動かなくなった、転倒などの後に強い痛みが生じた、発熱や腫れを伴う痛みがある。

JHO式・股関節リハビリテーションプログラム

このプログラムは、安全性と効果を最大化するため、段階的に進むように構成されています。ご自身の体調に合わせて、決して無理をせずに行ってください。

ウォームアップ:筋肉と関節の準備(5-10分)

本格的な運動の前に、筋肉と関節を優しく温め、準備を整えます。血行を促進し、怪我のリスクを低減させる重要なステップです。

  • ゆっくりとしたその場足踏み:膝を高く上げすぎず、リラックスして行います。
  • 骨盤の前後傾運動:仰向けに寝て膝を立て、腰を床に押し付けたり、逆に反らせたりする動きをゆっくりと繰り返します。

フェーズ1:痛みの緩和と可動域の改善(急性期・初期向け)

このフェーズの目標は、関節に負担をかけずに優しく動かし、こわばりを和らげ、筋肉の活動を促すことです。痛みが強い時期や、運動を始めたばかりの方向けです。

1. 膝抱えストレッチ (お尻と腰のストレッチ)

膝抱えストレッチのやり方

  • 目的:股関節の後ろ側にある殿筋群や腰部の筋肉を伸ばし、硬さを和らげます。
  • 方法
    1. 仰向けに寝て、片方の膝を両手で抱えます。
    2. ゆっくりと胸に引き寄せ、心地よい伸びを感じる点で20~30秒間保持します。
    3. 反対側も同様に行います。左右それぞれ2~3回繰り返します。
  • 出典:この運動の基本形式は、日本理学療法士協会の指導に基づいています。4

2. 股関節の内外旋運動 (股関節の回旋運動)

股関節の内外旋運動のやり方

  • 目的:歩行時に重要な股関節の回旋可動域を改善します。
  • 方法
    1. 仰向けに寝て、両膝を立てます。足は肩幅程度に開きます。
    2. 両膝をそろえたまま、ゆっくりと右側、左側へと倒します。痛みが出ない範囲で行いましょう。
    3. 左右に10回程度繰り返します。
  • 出典:この運動は、多くの整形外科クリニックで指導されている基本的な可動域訓練です。7

3. ヒールスライド (かかと滑らせ運動)

ヒールスライドのやり方

  • 目的:太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)と後ろの筋肉(ハムストリングス)を優しく刺激します。
  • 方法
    1. 仰向けに寝て、両脚を伸ばします。
    2. 片方のかかとを床につけたまま、ゆっくりと膝を曲げ、お尻に近づけます。
    3. その後、ゆっくりと元の位置に戻します。
    4. 各脚10回程度繰り返します。

フェーズ2:土台を作る筋力強化(慢性期・症状安定期向け)

痛みが落ち着いてきたら、股関節を支え、保護する主要な筋肉を強化していきます。ここがリハビリテーションの核となる部分です。

4. 【最重要】中殿筋トレーニング (横向きでの足上げ)

中殿筋トレーニングのやり方

専門家からの重要ポイント:
日本股関節研究振興財団は、股関節を支え、歩行時のふらつき(跛行)を防ぐために「中殿筋」が最も重要な筋肉であると強調しています。3

  • 目的:股関節の安定に不可欠な中殿筋を集中的に鍛えます。
  • 方法
    1. 体のラインが一直線になるように横向きに寝ます。下の脚は軽く曲げ、上の脚は伸ばします。
    2. かかとを少し後ろに引くような意識で、上の脚をゆっくりと持ち上げます。体が開かないように注意してください。
    3. ゆっくりと下ろし、これを10回程度繰り返します。反対側も同様に行います。
  • 出典:この運動は日本股関節研究振興財団が推奨する方法です。3

5. 大殿筋トレーニング(ブリッジポーズ)

大殿筋トレーニング(ブリッジポーズ)のやり方

  • 目的:立ち上がりや階段昇降に不可欠な、体で最も大きな伸展筋である大殿筋を強化します。
  • 方法
    1. 仰向けに寝て膝を立て、足は腰幅に開きます。
    2. お尻に力を入れ、肩から膝までが一直線になるようにゆっくりと持ち上げます。
    3. その位置で数秒間保持し、ゆっくりと下ろします。10回程度繰り返します。
  • 出典:日本理学療法士協会のハンドブックで推奨されている基本的な筋力強化運動です。4

6. 大腿四頭筋の筋力強化 (膝伸ばし運動)

大腿四頭筋の筋力強化のやり方

  • 目的:膝関節を安定させ、股関節にかかる負担を軽減します。
  • 方法
    1. 椅子に深く座り、姿勢を正します。
    2. 片方の脚のつま先を上に向けたまま、膝をゆっくりと伸ばします。
    3. 太ももの前に力が入るのを感じながら数秒間保持し、ゆっくりと下ろします。
    4. 各脚10回程度繰り返します。
  • 出典:この形式の運動も、日本理学療法士協会によって広く指導されています。4

フェーズ3:日常生活動作への応用(機能改善期向け)

強化した筋力を、実際の日常生活の動きに結びつけていきます。目標は、よりスムーズで痛みのない生活です。

7. ミニ・スクワット (浅いスクワット)

ミニ・スクワットのやり方

  • 目的:椅子からの立ち座りや、トイレ動作など、実用的な動きを訓練します。
  • 方法
    1. 椅子の背もたれなど、安定したものに掴まります。足は肩幅に開きます。
    2. お尻を後ろに引くように、膝がつま先より前に出ないように注意しながら、浅くしゃがみ込みます。
    3. ゆっくりと元の姿勢に戻ります。10回程度繰り返します。
  • 出典:安全なスクワットの形式は、機能訓練の基本として理学療法の現場で用いられます。4

8. 片足立ちバランス

片足立ちバランスのやり方

  • 目的:安定性を高め、転倒リスクを減少させます。歩行の安定にも繋がります。
  • 方法
    1. 壁やテーブルなど、すぐに掴まれる場所の近くに立ちます。
    2. 片方の足を少しだけ床から浮かせ、バランスを保ちます。
    3. 初めは数秒から始め、徐々に時間を延ばしていきましょう(目標30秒)。反対側も同様に行います。

特別セクション:水中運動のすすめ

日本の専門家は、変形性股関節症のリハビリテーションとして水中運動を高く推奨しています。13水の浮力によって関節への負担が劇的に軽減されるため、地上では痛みを感じる動きも楽に行えるようになります。また、水の抵抗が効果的な筋力トレーニングにもなります。近くに温水プールなどの施設があれば、水中でのウォーキングなどを試してみることをお勧めします。

よくある質問

痛みがある時に運動してもいいですか?

原則として、強い痛みがあるときは運動を休むべきです。運動中に痛みが増す、あるいは運動後に痛みが続く場合は、運動が強すぎるか、方法が間違っている可能性があります。運動は「心地よい疲労感」や「筋肉が使われている感じ」がする範囲で行い、「鋭い痛み」や「不快な痛み」は避けるべきです。「良い痛み」と「悪い痛み」の区別が難しい場合は、必ず医師や理学療法士に相談してください。

どのくらいの頻度でやればいいですか?

運動療法の効果に関する研究では、週に2~3回の頻度で、1回あたり30分から60分の運動を行うことが推奨されています。56しかし、これはあくまで一般的な目安です。最初は短い時間から始め、ご自身の体調に合わせて徐々に頻度や時間を増やしていくことが重要です。「毎日少しずつ」よりも、「休息日を設けながら質の良い運動を続ける」方が効果的な場合が多いです。

効果はいつ頃から現れますか?

効果の現れ方には個人差がありますが、一般的に筋力が向上し、痛みの軽減を実感できるようになるまでには、継続的な運動を始めてから8週間から12週間程度かかると言われています。5すぐに結果が出なくても焦らず、長期的な視点で根気強く続けることが成功の鍵です。大切なのは、運動を生活の一部として習慣化することです。

あなたの股関節の未来のために

変形性股関節症との付き合いは、時に長く、根気のいるものです。しかし、本稿でご紹介したような科学的根拠に基づいた適切な運動療法は、その道のりをより明るく、希望に満ちたものに変える力を持っています。重要なのは、専門家による正しい診断のもとで、自分に合ったプログラムを着実に継続することです。運動は、痛みをコントロールし、手術を回避し、あるいは手術後の回復を助けるための、あなた自身が持つ最も強力なツールです。

最後の、そして最も大切な行動喚起(CTA)です:このガイドを、あなたの主治医との対話の出発点としてください。専門家と共に、あなただけの個別化された治療計画を作成し、より活動的で質の高い毎日を目指しましょう。

監修者情報

[このセクションは、具体的な医療専門家の経歴、資格、所属機関などの情報を提供するために確保されています。]

免責事項本記事は、情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスに代わるものではありません。健康に関する懸念がある場合、またはご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

  1. 日本整形外科学会, 日本股関節学会. 変形性股関節症診療ガイドライン2024 改訂第3版. 南江堂; 2024. Available from: https://www.nankodo.co.jp/g/g9784524213771/
  2. 変形性股関節症診療ガイドライン2024 改訂第3版 – 医書.jp [インターネット]. [引用日: 2025年7月23日]. Available from: https://webview.isho.jp/book/detail/abs/10.15106/9784524213771
  3. 日本股関節研究振興財団. 股関節を支える周囲の筋肉(股関節周囲筋)の筋力トレーニングと… [インターネット]. [引用日: 2025年7月23日]. Available from: https://www.kokansetu.or.jp/personal/hipjoint_06_3.html
  4. 日本理学療法士協会. シリーズ 17 変形性股関節症 [インターネット]. [引用日: 2025年7月23日]. Available from: https://www.japanpt.or.jp/activity/asset/pdf/handbook17_whole_compressed.pdf
  5. Kong L, Wang L, Zhang Y. Exercise for Osteoarthritis: A Literature Review of Pathology and Mechanism. Front Physiol. 2022;13:895313. doi:10.3389/fphys.2022.895313. Available from: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9110817/
  6. Heredia-Ciuró D, Latorre-López D, Albornoz-Cabello M. The Role of Physical Exercise in Chronic Musculoskeletal Pain: Best Medicine—A Narrative Review. J. Pers. Med. 2024;14(2):242. doi:10.3390/jpm14020242. Available from: https://www.mdpi.com/2075-4426/14/2/242
  7. 阿部整形外科クリニック. 医師監修|股関節ストレッチの正しい方法と痛みを防ぐポイントとは? [インターネット]. [引用日: 2025年7月23日]. Available from: https://abe-seikei-cli.com/kokansetsu-column/%E8%82%A1%E9%96%A2%E7%AF%80%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AC%E3%83%83%E3%83%81%E3%81%AE%E6%AD%A3%E3%81%97%E3%81%84%E6%96%B9%E6%B3%95%E3%81%A8%E3%81%AF%EF%BC%9F%E5%8C%BB%E5%B8%AB%E3%81%8C%E6%95%99%E3%81%88/
  8. NHK出版. 別冊NHKきょうの健康 股関節の痛み 変形性股関節症の治療がよくわかる [インターネット]. [引用日: 2025年7月23日]. Available from: https://www.nhk-book.co.jp/detail/000067941602012.html
  9. 医療法人 整形外科いのると. 股関節の痛みに効くストレッチ|片方だけ痛い場合はどうする… [インターネット]. [引用日: 2025年7月23日]. Available from: https://inoruto.or.jp/2024/02/hip-joint-stretch/
  10. 株式会社大屋. <理学療法士が監修>股関節の痛みを軽減・改善するための運動 – SONOSAKI LIFE [インターネット]. [引用日: 2025年7月23日]. Available from: https://www.sonosaki-life.jp/shop/pg/1kokansetu-itami/
  11. 社会医療法人宏潤会. 股関節の痛みの治し方は何がある?治療方法や効果的な運動・ストレッチを解説 [インターネット]. [引用日: 2025年7月23日]. Available from: https://hachiya.or.jp/column/treatment-of-hip-pain/
  12. Man-che C, Man-seong K, Ju-hong K. Osteoarthritis: Insights into Diagnosis, Pathophysiology, Therapeutic Avenues, and the Potential of Natural Extracts. Int J Mol Sci. 2024;25(10):5222. doi:10.3390/ijms25105222. Available from: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11119992/
  13. Ito T, Tanimoto K, Ushida T. 変形性股関節症のリハビリテーション医学・医療. The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine. 2017;54(11):849-54. doi:10.2490/jjrmc.54.849. Available from: https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/54/11/54_849/_article/-char/ja/
  14. The Japan Medical Journal. 運動療法ガイド第5版 [インターネット]. [引用日: 2025年7月23日]. Available from: https://www.jmedj.co.jp/files/item/ebook/451.pdf
  15. Rienzo F, Barone M, Tondo A, D’Ambrosi R, Ghiara M, Mangiavini L. Highlighting the Benefits of Rehabilitation Treatments in Hip Osteoarthritis. Medicina (Kaunas). 2022;58(4):494. doi:10.3390/medicina58040494. Available from: https://www.mdpi.com/1648-9144/58/4/494
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