【科学的根拠に基づく】射精量が少ないと妊娠できるのか?専門医が原因と日本の最新治療法を徹底解説
男性の健康

【科学的根拠に基づく】射精量が少ないと妊娠できるのか?専門医が原因と日本の最新治療法を徹底解説

射精量の減少に気づき、「もしかして不妊症なのでは?」「このままでは妊娠できないかもしれない」といった深刻な悩みを抱えていらっしゃるのではないでしょうか。特に、これからお子様を望むご夫婦にとっては、非常に大きな不安の原因となることでしょう。JAPANESEHEALTH.ORG編集部として、まずお伝えしたいのは、射精量が少ないことが必ずしも妊娠できないことを意味するわけではないということです。この問題は決して珍しいものではなく、その背景には様々な原因があり、そして現代の医療には数多くの解決策が存在します。本稿では、世界保健機関(WHO)の最新基準から、日本で新た策定された初の「男性不妊症診療ガイドライン 2024年版」6に至るまで、最も信頼性の高い科学的根拠に基づき、射精量が少ないという問題の全貌を解き明かします。ご自身の状況を正しく理解し、前向きな一歩を踏み出すための、確かな情報源となることをお約束します。

この記事の科学的根拠

本記事は、入力された研究報告書で明示的に引用されている最高品質の医学的証拠にのみ基づいて作成されています。以下に、提示されている医学的指導に直接関連する実際の情報源のみを一覧で示します。

  • 世界保健機関(WHO): 本記事における精液検査の基準値に関する指導は、WHOが発行した「WHO laboratory manual for the examination and processing of human semen, 6th edition」4に基づいています。
  • 日本泌尿器科学会(JUA): 日本における男性不妊症の治療選択肢、特に保険適用に関する推奨事項は、日本泌尿器科学会が策定した「男性不妊症診療ガイドライン 2024年版」6272829の分析に基づいています。
  • 厚生労働省(MHLW): 日本における不妊治療の実態や統計に関する記述は、厚生労働省が公表した公式データ1921に基づいています。
  • 査読済み医学論文: 男性不妊症の診断、病態生理、および治療法に関する詳細な医学的説明は、米国国立医学図書館(NLM)のデータベース(PubMed Centralなど)で公開されている査読済み学術論文35810に基づいています。

要点まとめ

  • 射精液の「量」と精子の「質」は別問題です。妊娠の鍵を握るのは、量よりも精子の数、運動率、形態です1
  • 射精量が少なくなる原因は、生活習慣から専門的な治療を要する医学的な問題(例:逆行性射精、精索静脈瘤)まで多岐にわたります2
  • 2024年に日本初の「男性不妊症診療ガイドライン」が策定され、治療法が標準化され、保険適用範囲も明確になりました6
  • 診断は泌尿器科で行われ、問診、精液検査、ホルモン検査、超音波検査などを通じて原因を特定します10
  • 治療法は生活習慣の改善から、薬物療法、手術、そして保険適用となった体外受精などの高度生殖医療(ART)まで幅広く存在します1

まずは基本から:射精量と「妊娠力」の関係

多くの方が抱く最初の疑問は、「射精量が少ないと、妊娠させる力も弱いのではないか?」という点です。この不安を解消するためには、まず精液の基本的な構成要素と、妊娠におけるそれぞれの役割を正確に理解することが不可欠です。

精液量と精子の質は違う!妊娠の鍵を握るのはどっち?

一般的に「精液」と呼ばれる液体は、主に二つの要素から成り立っています。一つは精巣で作られる精子(せいし)、もう一つは精子を運び、栄養を与えるための液体である精漿(せいしょう)です1。精漿は精液の大部分を占め、主に精嚢や前立腺で生成されます2。したがって、射精量が少ない「乏精液症(Hypospermia)」の状態が、必ずしも精子の数が少ない「乏精子症(Oligozoospermia)」を意味するわけではありません。射精量が少なくても精子の濃度が正常な場合もあれば、その逆のケースも存在します2

自然妊娠が成立するためには、十分な数の健康な精子が、良好な運動能力と正常な形態をもって卵子まで到達し、受精することが最も重要です。精液量はあくまで精子を運ぶための「乗り物」の役割を果たします。もちろん、量が極端に少ない場合は運搬に支障をきたす可能性もありますが、決定的な要因は乗り物に乗っている「乗客」、すなわち精子の質と量にあるのです2

あなたの精液は基準値内?WHO(世界保健機関)の最新基準をチェック

客観的に精液の状態を評価するため、世界中の医療機関は世界保健機関(WHO)が定めるガイドラインを基準としています。2021年に発表された最新版(第6版)では、過去12ヶ月以内に自然妊娠に至った挙児能力のある男性のデータに基づき、以下の下限基準値が設定されています4

表1: WHO精液検査の下限基準値(第6版, 2021年)
検査項目 下限基準値(5パーセンタイル値)
精液量 1.4 mL以上
総精子数 3900万/射精以上
精子濃度 1600万/mL以上
総運動率 42%以上
前進運動率 30%以上
精子生存率 54%以上
正常形態率 4%以上

出典: WHO 2021年のデータより作成1

ここで極めて重要なのは、これらの数値が「合格・不合格」を判定するものではないという点です。WHOや臨床専門家が強調するように、これは不妊症を断定する診断基準ではありません3。これらの値は、挙児能力のある男性集団における下位5%(5パーセンタイル)の数値を示しており、つまり、完全に健康で子どもを授かる能力のある男性のうち5%は、この基準値を下回っているのです3。実際に日本で行われた調査では、若年男性のおよそ4分の1がWHOの精子濃度基準を満たしていませんでしたが、彼ら全員が不妊であるわけではありません6。したがって、精液検査の結果は最終宣告ではなく、全体像を把握するための一つの重要な診断ツールとして捉えることが、医学的に正確であると同時に、心理的負担を軽減する上でも非常に重要です。

なぜ射精量が減るのか?考えられる原因をセルフチェック

射精量の減少には、生活習慣に起因するものから、専門的な治療が必要な医学的な疾患まで、さまざまな原因が考えられます。原因を体系的に理解することで、ご自身の状況をより深く把握することができます。

生活習慣が原因?今日から改善できること

これらは最も身近で、かつ改善可能な要因です。

  • 頻繁な射精: 短期間に何度も射精を繰り返すと(例:1日に複数回)、精液を再生産する時間が不足し、一時的に量が減少します2
  • 生活習慣の乱れ: 喫煙、過度のアルコール摂取、肥満、慢性的なストレス、睡眠不足などは、ホルモンバランスを乱し、生殖能力全体に悪影響を及ぼすことが証明されています2。亜鉛などの必須微量栄養素が不足した食事も影響を与える可能性があります。
  • 脱水状態: 体内の水分が不足すると、精漿を含む体液全体の量が減少し、射精量の減少につながることがあります。
  • 検体採取の失敗: 非常に一般的ですが、精液検査の際に射精した精液の一部を容器に採取し損ねることで、結果的に量が少なく測定されることがあります3

病気のサインかも?専門医の診断が必要な医学的原因

生活習慣の改善だけでは解決しない、医学的な介入が必要なケースもあります。

閉塞性・射精障害(”配管”の問題)

  • 逆行性射精: 本来、体外に射出されるべき精液が、膀胱内に逆流してしまう状態です。射精の際に膀胱の入口にある括約筋がうまく閉じないことが原因で起こります。糖尿病による神経障害、脊髄損傷、骨盤内の手術歴(前立腺、膀胱など)、または一部の降圧薬(α遮断薬など)の副作用が危険因子となります1。オーガズムの感覚はあるのに、精液がほとんど、あるいは全く出ないのが特徴です。
  • 射精管閉塞(EDO): 精液が通過する「射精管」が片方または両方詰まってしまう状態です。先天的な嚢胞や、感染症(前立腺炎など)や手術後の瘢痕が原因で後天的に発生することもあります3。両側が完全に閉塞した場合、精液量が極端に少なくなり(通常1.0mL未満)、pHが酸性になり、精巣で精子が正常に作られていても精液中に精子が見られない「無精子症」となります。

精巣・ホルモンの問題(”製造工場”の問題)

  • ホルモン(内分泌)異常: 脳の視床下部、下垂体、そして精巣は、男性ホルモン(テストステロン)と精子の産生を調整する一連のシステム(内分泌系)を形成しています。このシステムのどこかに異常が生じると、性腺機能低下症(Hypogonadism)となり、精子産生能力が低下します。テストステロン濃度が低いと、精子を作る精巣だけでなく、精漿を作る精嚢や前立腺の機能も低下するため、結果的に全体の精液量が減少します712
  • 精索静脈瘤: 陰嚢内の静脈がこぶ状に拡張する状態で、男性不妊の原因として最も一般的で、かつ治療可能なものの一つです。不妊男性の約40%に認められると報告されています5。明確なメカニズムは完全には解明されていませんが、静脈瘤によって精巣の温度が上昇し、酸化ストレスが増大することで、精子の産生と機能が損なわれると考えられています9
  • 感染症・炎症: 前立腺炎や精嚢炎などの炎症は、これらの器官の機能を低下させ、精漿の産生量を減少させたり、その化学的組成を変化させたりする可能性があります2
注意すべき点これらの原因の多くは、単に精液量を減らすだけでなく、同時に精子の質にも影響を及ぼすという重要な関連性があります。例えば、精索静脈瘤は酸化ストレスを引き起こし、精子のDNAを直接損傷させます5。また、テストステロンが低い状態では、精子を作る「工場」と精漿を作る「工場」の両方への指令が低下します11。したがって、射精量の減少は、より根深い問題が全体の生殖能力に影響を与えている可能性を示す警告サインと捉え、単一の症状に固執せず、専門医による正確な原因診断を受けることが極めて重要です。

【2024年最新】日本の男性不妊治療はこう変わる!新ガイドラインを解説

日本の不妊治療、特に男性不妊の分野は、今まさに歴史的な転換期を迎えています。その象徴が、2024年に日本で初めて策定された「男性不妊症診療ガイドライン」です。この動きの背景と、患者さんにとっての具体的な意味を理解することは、今後の治療方針を考える上で非常に役立ちます。

なぜ今?日本初の「男性不妊症診療ガイドライン」が誕生した背景

日本において不妊は、もはや稀な問題ではありません。厚生労働省の2021年のデータによると、日本の夫婦の約4.4組に1組(22.7%)が不妊の検査や治療を経験しています19。また、2022年には、生まれてきた赤ちゃんの10人に1人にあたる77,206人が、体外受精(IVF)や顕微授精(ICSI)などの高度生殖医療(ART)によって誕生しており21、ARTは日本の出生において不可欠な要素となっています。このような状況は、晩婚化や出産年齢の上昇といった社会的な背景23と密接に関連しています。

この深刻な人口動態危機に対し、政府は大きな一歩を踏み出しました。2022年4月、菅義偉元首相の主導により、不妊治療が公的医療保険の適用対象となったのです6。この決定は、治療を求める男性患者の急増を招きました26。しかし、患者が増える一方で、全国的に統一された質の高い医療を提供するための標準的な診療指針が存在しないという課題が浮き彫りになりました。この「急務」に応える形で、日本泌尿器科学会が中心となり、本邦初の包括的な「男性不妊症診療ガイドライン 2024年版」が策定されたのです6。このガイドラインは、日本のすべての医師が標準的な診断と治療を行えるようにするための「ジャパン・スタンダード」を目指すものです。

知っておくべき新ガイドラインの重要ポイント【保険適用情報も】

この新しいガイドラインは、臨床上の疑問(Clinical Question – CQ)に答える形で構成されています。患者さんにとって特に重要で、日本の実情を反映した推奨事項を以下にまとめました。

表2: JUA 男性不妊症診療ガイドライン2024の主要な推奨事項
臨床上の疑問(CQ)とテーマ ガイドラインの推奨 日本の患者さんにとっての実践的な意味
CQ7: 精索静脈瘤手術 臨床的に触知可能な精索静脈瘤を持つ男性不妊患者に対して、手術を行うことが推奨される。 これは効果的で保険適用される標準治療法です。精液所見を改善するための第一選択肢としての位置づけが強化されました6
CQ9: 非閉塞性無精子症(NOA)に対するMicro-TESE NOA患者の精巣から精子を回収する方法として、強く推奨される。 日本の豊富なデータと経験に基づき、高い精子回収率と低い合併症率が示されており、欧米のガイドラインとは一線を画す「日本の標準治療(ゴールドスタンダード)」として確立されました6
CQ5: クロミフェン療法 テストステロン値が正常または低い特発性乏精子症患者に対して、治療を検討してもよい。 一部の患者においてホルモン値や精液所見の改善が期待できる、経口薬による内科的治療の選択肢を提供します。専門医による経過観察が必要です1
CQ12: 勃起不全(ED)に対するPDE5阻害薬 不妊症にEDを合併する患者に対して、使用が推奨される。 不妊治療という文脈において、ED治療薬(シルデナフィル、タダラフィル)が保険適用となった画期的な変化です。周期ごとの処方数などの規定があります6
CQ4: ゴナドトロピン療法 低ゴナドトロピン性男子性腺機能低下症の患者に推奨される。 特定のホルモン異常が原因の場合の標準治療であり、テストステロンと精子の産生能力を回復させます6
CQ6: 抗酸化療法 エビデンスは限定的だが、特発性男性不妊患者に対して、治療を検討してもよい。 ビタミン剤やサプリメントを含む補助的な治療選択肢。効果には個人差があることを理解する必要があります6

出典: 辻村晃教授の要約6およびガイドライン情報27を基に分析・作成。

病院ではどんな検査と治療をするの?費用や流れを解説

実際に医療機関を受診した場合、どのような流れで診断と治療が進むのかを理解しておくことは、不安を和らげる助けになります。

いつ、どの科を受診すべきか?

射精量の明らかな減少が持続する場合や、精巣の痛み、排尿困難、勃起障害、性欲減退といった他の症状を伴う場合は、医師に相談することを検討すべきです2。また、カップルとしては、避妊をせずに定期的な性交渉を1年間続けても妊娠に至らない場合(女性が35歳以上の場合は6ヶ月)が、検査を受ける一つの目安とされています17。受診する診療科は、男性の生殖機能に関する問題を専門とする泌尿器科(ひにょうきか)が最も適切です2

診断までのステップ:初診から確定診断まで

  1. 問診と身体診察: 医師はまず、病歴、手術歴、服用中の薬、生活習慣について詳しく質問します。その後、精巣の大きさ、精管の有無、そして精索静脈瘤の兆候(陰嚢上部に「ミミズの袋」のような感触)などを確認するための身体診察を行います10
  2. 精液検査: 男性不妊診断の基本となる検査です。結果には変動があるため、初回で異常が見つかった場合は、少なくとも1ヶ月以上の間隔をあけて2回以上の検査が推奨されます3。正確な結果を得るため、2〜7日間の禁欲期間を守り、採取した精液全量を清潔な容器に入れ、1時間以内に検査室へ届けるといった指示を厳守する必要があります3
  3. ホルモン検査: 精子数が極端に少ない場合や、性欲低下などの症状がある場合、血液検査で卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体形成ホルモン(LH)、テストステロンなどの値を測定します。これにより、問題が精巣自体にあるのか、脳の下垂体などにあるのかを判断します5
  4. 射精後尿検査: 逆行性射精を診断するための簡単な検査です。射精直後の尿を採取し、遠心分離して顕微鏡で精子の有無を確認します。多量の精子が見つかれば、診断が確定します3
  5. 超音波検査:
    • 陰嚢超音波検査: 精索静脈瘤の確定診断や、精巣の大きさ、腫瘍の有無などを評価するのに非常に有用です16
    • 経直腸的超音波検査(TRUS): 射精管閉塞が疑われる場合に行われ、前立腺や精嚢を詳細に観察します10
  6. 遺伝子検査: 無精子症や重度の乏精子症(一般的に500万/mL未満)の場合、クラインフェルター症候群などの染色体異常や、精子形成に関わるY染色体微小欠失を調べる検査が提案されることがあります1

日本で受けられる治療法:保険適用の治療を中心に

診断結果に基づき、侵襲性の低い治療法から順に進めていくのが一般的です。

ステップ1: 原因治療と生活習慣の改善

薬物療法としては、逆行性射精に対して膀胱頸部を収縮させるアモキサピン1、ホルモン値が低い乏精子症に対して精子形成を促すクロミフェンクエン酸塩1などが用いられます。精液中に白血球が見られ感染が疑われる場合は、抗生物質が処方されることもあります15

ステップ2: 外科的介入

2024年のガイドラインで強く推奨されている精索静脈瘤手術は、保険適用で受けられる効果的な治療法です。約3分の2の患者で精液所見の改善が見られると報告されています5。過去のパイプカットなどが原因の閉塞に対しては、精管を再吻合する手術も行われます1

ステップ3: 高度生殖医療(ART)

上記の治療が功を奏しない場合や、重度の男性不妊の場合の最終的な選択肢です。2022年4月から多くが保険適用となり、経済的負担が軽減されています。

  • 人工授精(IUI/AIH): 処理した精子を排卵の時期に合わせて子宮内に直接注入する方法です1
  • 体外受精(IVF): 卵子と精子を体外で受精させる方法です。
  • 顕微授精(ICSI): 一個の精子を直接卵子の中に注入する方法。重度の男性不妊には必須であり、精巣内精子採取術(TESE)で得られた精子を用いる場合にもこの方法が用いられます1

自宅でできる!精液の質を高めるための生活習慣改善ガイド

専門的な治療と並行して、日々の生活習慣を見直すことは、精液の質を向上させるための非常に重要な土台となります。費用をかけずに今日から始められる具体的なアクションをご紹介します31

食事で変わる!妊活男性におすすめの栄養素と食材

バランスの取れた食事は、健康な精子を育むための基本です。特に以下の栄養素を意識的に摂取することが推奨されています。

表3: 精液の質をサポートする栄養素と主な食品源
栄養素 主な役割 多く含まれる食品
亜鉛 テストステロンと精子の産生に必須。 牡蠣、赤身肉、鶏肉、豆類
セレン 強力な抗酸化物質で、精子を損傷から守る。 ブラジルナッツ、マグロ、イワシ、牛肉
ビタミンC & E 抗酸化物質。運動率や形態の改善を助ける。 柑橘類、イチゴ、パプリカ(ビタミンC);アーモンド、ひまわりの種、ほうれん草(ビタミンE)
L-カルニチン 精子のエネルギー代謝に関与する。 赤身肉(特に牛肉)、魚、牛乳
コエンザイムQ10 抗酸化物質。精子濃度や運動率の改善を助ける。 内臓肉(心臓、肝臓)、青魚、牛肉
葉酸 精子のDNA合成に必要。 緑黄色野菜(ほうれん草)、アスパラガス、ブロッコリー

出典: 一般的な生活習慣・栄養指導に関する情報源を基に作成2

運動、睡眠、ストレス管理のコツ

  • 適度な運動: 定期的な運動は体重を管理し、ホルモンバランスを整えるのに役立ちます。ただし、長時間のサイクリングや過度な高強度トレーニングは精巣の温度を上げる可能性があるため、ウォーキングやジョギング、水泳などの適度な運動が推奨されます。
  • 十分な睡眠: 睡眠不足はテストステロンの産生を低下させます。1日7〜8時間の質の良い睡眠を目指しましょう。
  • ストレス管理: 慢性的なストレスは生殖機能に悪影響を及ぼします。瞑想、ヨガ、趣味の時間を持つなど、自分に合った方法でリラックスする時間を作ることが大切です。
  • 禁煙と節酒: 喫煙は精子の数や運動能力を著しく低下させます。アルコールも過剰摂取は避けるべきです。禁煙は、妊活を始める上で最も効果的な生活改善の一つです。

よくある質問

射精量が少なくても、自然妊娠は可能ですか?

はい、可能です。前述の通り、妊娠の可能性を左右する最も重要な要素は精液の量ではなく、その中に含まれる精子の数、運動率、形態です1。射精量がWHOの基準値である1.4mLを下回っていても、精子の質が良好であれば自然妊娠に至るケースは少なくありません。ただし、量が極端に少ない場合は、精子が卵子まで到達するのを助ける精漿の役割が十分に果たせない可能性も考えられるため、一度専門医に相談することをお勧めします。

サプリメントだけで射精量を増やせますか?

亜鉛やセレンなどの特定の栄養素は精液の産生に不可欠であり、これらの栄養素が不足している場合にはサプリメントの摂取が助けになる可能性があります2。しかし、射精量減少の原因が精索静脈瘤やホルモン異常、射精管の閉塞といった医学的な問題である場合、サプリメントだけで根本的な解決を図ることは困難です。サプリメントはあくまで補助的な役割と捉え、まずは正確な原因を特定するために専門医の診断を受けることが重要です。新しいガイドラインでも、抗酸化療法は「検討してもよい」という位置づけに留まっています6

男性不妊の治療には、日本の健康保険が適用されますか?費用はどのくらいですか?

はい、2022年4月から、多くの男性不妊治療が健康保険の適用対象となりました。例えば、原因を特定するための精液検査やホルモン検査、精索静脈瘤の手術、さらには人工授精(AIH)、体外受精(IVF)、顕微授精(ICSI)といった高度生殖医療も保険が適用されます6。自己負担額は原則3割となりますが、治療内容によって費用は大きく異なります。具体的な費用については、治療を受ける医療機関に直接お問い合わせください。

パートナーとして、彼をどうサポートすればいいですか?

不妊はカップルの問題であり、どちらか一方だけの責任ではありません。男性は特に、生殖に関する悩みを打ち明けにくい傾向があります25。まずは、彼の不安やプレッシャーに寄り添い、「一人で悩まなくていい」「一緒に乗り越えよう」という姿勢を示すことが何よりも大切です。情報を一緒に調べたり、受診に付き添ったりすることも大きな支えになります。また、食事や生活習慣の改善に一緒に取り組むことで、二人で妊活に臨んでいるという一体感を育むことができます。

結論

射精量の減少という悩みは、決して一人で抱え込むべき問題ではありません。本記事で解説したように、その背景には生活習慣から専門的な医学的要因まで様々な原因がありますが、それと同時に、今日の日本には科学的根拠に基づいた多様な診断・治療の選択肢が存在します。特に、2024年に日本初の「男性不妊症診療ガイドライン」が策定されたことは、国内のどこにいても標準的で質の高い医療を受けられる時代の幕開けを意味します。さらに、保険適用の拡大は、経済的な負担を大きく軽減し、治療へのアクセスを容易にしました。

最も重要な第一歩は、不安や憶測で立ち止まるのではなく、勇気を出して専門家である泌尿器科医に相談することです。正確な診断を受けることで、ご自身の状況を正しく理解し、あなたとパートナーにとって最適な道筋を見つけることができます。希望は常に、正しい知識と前向きな行動の先にあります。

免責事項本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的助言に代わるものではありません。健康に関する懸念や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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  28. 男性不妊症診療ガイドライン 2024年版 – 商品詳細|医学書販売サイト MEREBO. Available from: https://med.m-review.co.jp/merebo/products/detail/978-4-7792-2789-9
  29. 男性不妊症診療ガイドライン 2024年版 – メディカルブックセンター. Available from: https://www.molcom.jp/products/detail/161427/
  30. 不妊治療の実態に関する調査研究 最終報告書. 厚生労働省. Available from: https://www.mhlw.go.jp/content/000766912.pdf
  31. Healthy sperm: Improving your fertility. Mayo Clinic. Available from: https://www.mayoclinic.org/healthy-lifestyle/getting-pregnant/in-depth/fertility/art-20047584
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