小児のための安全な治療法:アデノイド切除術のすべて
耳鼻咽喉科疾患

小児のための安全な治療法:アデノイド切除術のすべて

はじめに

このたびは、いわゆる「VA(アデノイド)」と呼ばれる組織の役割や、治療法として行われる「アデノイド切除術(以下では便宜上“ナオVA”と表記することがあります)」に関する情報をご案内いたします。鼻と喉の境目にあるVAは、幼少期に免疫機能の一端を担う器官として知られていますが、ときに肥大や慢性感染によって呼吸や耳のトラブルを招くことがあります。本記事では、VAが大きくなった場合に起こりうる症状や、その際に考慮されるナオVAについて、できるだけ分かりやすく解説いたします。さらに、手術を受けた後の回復過程や注意点なども詳細にご紹介します。

免責事項

当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。

本記事は医療機関や文献から得られた情報に基づいており、全体としては子どもに多いVA肥大の症状や治療に焦点を当てていますが、年齢に関係なく役立つ基礎知識や留意点も含まれます。また、近年発表された研究結果を交えて、VA切除がどのように耳の感染症リスクや呼吸の問題に影響するのかについても触れてまいります。読者の皆さまが、日本の医療事情や文化に親しんでいることを前提に、なるべく具体的な解説を心がけています。

なお、以下の内容は信頼できる医療情報を参考に作成しておりますが、あくまでも参考情報であり、最終的な診断・治療方針は個々の状態によって異なります。症状が続く、あるいはより詳しい情報が必要な場合は、医師をはじめとする専門家に直接ご相談ください。

専門家への相談

本記事では、医療機関や海外の医療サイトなどからの情報を参照しつつ、日本国内でも一般的に行われているアデノイド切除術に関して解説しています。とくに以下の文献・医療情報源を中心に参照しておりますが、本記事自体は筆者が再構成し、日本の読者の皆さまに合わせて内容をまとめたものです。実際には、お子さまの症状や年齢、成長の状況などを踏まえたうえで手術を行うかどうか判断されますので、治療の可否やタイミングは担当の耳鼻咽喉科医と十分ご相談ください。

VA(アデノイド)とは何か

VAの基本的な働き

VAは、フランス語の“Végétations Adénoides”に由来する呼称で、英語では“adenoid”あるいは“adenoid tonsil”と呼ばれます。日本語では「アデノイド」と表記される場合が多く、一般的な口蓋扁桃(いわゆる扁桃腺)とは位置が異なるものの、どちらも免疫系の一部をなすリンパ組織です。咽頭リンパ輪(ウォルダイエル輪)の一部分を構成し、鼻の奥(鼻咽頭)に存在します。

幼児期のVAは、体内に侵入しようとする細菌やウイルスをキャッチし、免疫システムに対する刺激を与える働きが期待されます。しかし、5~7歳くらいから自然と縮小を始め、思春期に至るころにはほとんど痕跡程度になるのが一般的です。

VAの肥大とトラブル

本来の免疫機能を担う一方で、VAが肥大化すると鼻の奥を塞ぐように成長することがあり、空気の通り道が狭くなって呼吸困難、鼻づまり、睡眠時のいびき・無呼吸などを引き起こしやすくなります。また、VAに細菌やウイルスが溜まりやすい状態になると、繰り返す中耳炎や副鼻腔炎などのリスクも高まります。

子どもの場合、まだ鼻腔や耳管(中耳と喉をつなぐ管)の構造が小さく未発達であることが多いので、VAの肥大による影響は想像以上に大きいといわれています。とくに、夜間のいびきや口呼吸がひどいときには、耳鼻咽喉科の受診を検討する必要があるかもしれません。

ナオVA(アデノイド切除術)とは

ナオVAの概要

ナオVA(アデノイド切除術)とは、肥大または慢性炎症を起こしているVAを外科的に切除し、気道や耳のトラブルを改善するための処置です。VAは幼少期に免疫機能を果たしているとはいえ、肥大化して日常生活に支障をきたすほどであれば、切除することによって症状が大幅に改善すると考えられています。

ここで、「VAを取ってしまって大丈夫なのか?」と疑問をもたれる方も多いかと思います。たしかにVAは免疫の入り口として機能する器官ですが、成長とともに次第に小さくなり、成人頃には目立たなくなるのが通常です。近年は、VA切除後に免疫機能が極端に低下するわけではないことが複数の研究で示唆されています。

  • たとえば、2021年に国際的な耳鼻咽喉科学術誌「International Journal of Pediatric Otorhinolaryngology」に掲載されたメタ分析(Bitar MAらによる研究, doi:10.1016/j.ijporl.2021.110935)では、アデノイド切除術を受けた子どもの反復性中耳炎(急性中耳炎を繰り返す症例)について、術後は中耳炎の発症率が有意に減少したことが報告されています。この研究は複数の文献からエビデンスを集めたもので、比較的信頼度の高いメタ分析という点からも、多くの小児に対してVA切除が有効である可能性を示唆しています。

ナオVAが考慮されるタイミング

通常は、以下のような症状や繰り返す感染が見られる場合に、医師が総合的に判断してナオVAを提案することがあります。

  • 頻回の感染
    子どもが1年に5回以上のペースでVA感染を繰り返し、そのたびに高熱や鼻づまり、耳の感染などを伴う場合。通常の抗生物質治療や保存的治療(点鼻薬など)だけでは改善されにくい場合には外科的アプローチを考慮します。
  • 中耳炎や副鼻腔炎への波及
    VA肥大に伴い耳管周辺が圧迫されると、中耳炎を起こしやすくなります。また、副鼻腔炎が治りにくい状況が続くときは、アデノイド切除による気道の拡大や感染源除去が手段のひとつとなりえます。
  • 睡眠障害や呼吸困難
    夜間のいびき、無呼吸、口呼吸などが目立ち、子どもの睡眠の質が低下しているケースです。成長期の子どもにとって良質な睡眠は極めて重要なため、睡眠時無呼吸症候群の疑いがある場合は、専門の検査を受けたうえで切除を検討します。
  • その他の合併症
    VA肥大が原因で鼻血の慢性化や喉頭への感染が広がる場合、または日常の食事や発話に支障をきたすほどの重度肥大が確認される場合なども、医師が切除をすすめるケースがあります。

これらはいずれも、耳鼻咽喉科医の診察および関連検査(レントゲン、内視鏡など)を踏まえて最終的に判断されます。

ナオVAが行えない場合

以下のようなケースでは、ナオVAそのものが行えない、または延期されることがあります。

  • 重度の心疾患・血液疾患・活動性の結核など、全身状態が不安定な場合
  • 鼻咽頭部に明らかな急性炎症がある場合(感冒やインフルエンザ、はしか、その他ウイルス感染期)
  • 重い喘息発作が続いている場合
  • アレルギーがコントロールできていない場合
  • 接種したばかりの予防接種後で、体調が安定していない場合

こうした状況では、まず基礎疾患や感染のコントロールを優先し、全身状態が手術に耐えられるレベルまで回復した段階で改めて検討されます。

手術前後の注意点

手術前の準備

医師からナオVAの適応があると判断された場合、手術を受ける2~3週間前に体調管理を徹底することが大切です。軽い風邪やのどの痛みがある場合でも、当日の体調次第では安全を考慮して手術が延期になることがあります。

  • 発熱や咳が続く場合
    高熱がある、長引く咳があるなどの場合は、主治医に連絡し、必要に応じて手術日を再調整します。
  • 検査や説明
    血液検査で貧血や出血傾向がないか、体内の感染の有無を確認します。また、手術当日の流れや麻酔のリスク、術後の注意点などについて説明を受けることになります。不安な点や疑問はあらかじめリストにしておき、診察時や術前面談で医師・看護師に相談するのがおすすめです。

手術の流れ

ナオVAは全身麻酔下で行われるのが通常です。子どもの場合は麻酔科医や看護師が専属で立ち会い、術中の安全管理を行います。具体的には下記のようなプロセスが一般的です。

  1. 全身麻酔
    点滴や吸入などで麻酔を導入し、眠った状態にします。痛みや恐怖を感じず、動いてしまうリスクも避けられるため、施術の安全性が高まります。
  2. 経口的なアプローチ
    口を開いた状態で器具を挿入し、VAを確認します。内視鏡や手術器具を使いながら、VAを切除します。この際、電気メスなどを用いて止血を同時に行うことが多いです。大量出血を抑えるため、術中には血圧や脈拍なども綿密にモニターされます。
  3. 終了と覚醒
    手術が終わったら、止血の確認を行い、麻酔を徐々に覚ましていきます。手術自体は通常30分程度と短時間ですが、麻酔から完全に覚めるまでにさらに数十分から1時間ほど要する場合があります。
  4. 術後の回復室
    術後、子どもは回復室でモニターされます。主に出血の有無や呼吸状態の安定性、吐き気などをチェックし、問題がなければ当日に帰宅できる病院も多いです。ただし、医師の判断や施設の方針、子どもの体調によっては一泊入院となるケースもあります。

術後の過ごし方と注意

ナオVA後の痛みは、個人差はあるものの、喉の奥や鼻の奥に軽い痛みを感じる程度が多いようです。医師より鎮痛薬や抗生物質などが処方される場合があるため、指示どおりに服用し、痛みが強い場合は我慢せず担当医に相談してください。

  • 食事
    術後直後は麻酔の影響で吐き気が出ることがあるため、冷たくてやわらかいもの(ゼリー、ヨーグルトなど)から始めるのが一般的です。いきなり固形物を大量に食べると嘔吐する可能性があるので、こまめに少量ずつ試してください。温かすぎる食べ物や辛いものは、直後は刺激となりやすいので避けたほうが無難です。
  • 体調管理
    発熱が出る場合もありますが、多くは軽度で一時的です。もし38.6℃以上の発熱が続き、水分を十分に摂取しても改善が見られないときは医療機関への受診を検討します。痛み止め(アセトアミノフェンなど)を使用しても症状が緩和しない、激しい痛みを伴う場合は、早めに主治医へ連絡しましょう。
  • 鼻づまりやいびき
    術後に一時的に鼻づまりやいびきが続いたり、逆に音が大きくなることがあります。これは切除部位の腫れや分泌物が影響することが多く、1~2週間程度で徐々に落ち着くケースがほとんどです。生理食塩水のスプレーなどを用いた鼻腔内ケアが勧められる場合があります。
  • 運動制限
    術後、およそ3週間は激しい運動やプール遊びなどは控えるように指示されることがあります。特に潜水は、切除部位に圧力がかかるため、2ヶ月程度は避けるようにと言われることもあります。子どもの場合、元気になるとすぐに走り回りたがりますが、医師の指示があるまでは安静に過ごすよう十分注意してください。

術後の経過と合併症リスク

ナオVAは比較的安全な手術とされていますが、以下のような合併症やリスクがゼロではありません。

  • 出血
    手術中や術後に出血する可能性があります。大量出血は稀ですが、もしも自宅で明らかな出血が認められた場合(唾液や鼻水に鮮血が混じるなど)は、できるだけ早く病院へ連絡しましょう。
  • 感染
    術後に切除面が感染を起こす場合があります。予防のために抗生物質が処方されるケースも多いですが、万一、喉の奥に強い痛み・腫れ・膿が見られる場合は再度受診が必要です。
  • 歯のトラブル
    口腔内に手術器具を入れる際、まれに歯(特に乳歯や前歯)が当たって欠けてしまう事例があると報告されています。幼児で歯がぐらついている場合は、術前に歯科でチェックしてもらうこともあるでしょう。
  • 麻酔リスク
    全身麻酔の安全性は年々向上していますが、持病やアレルギーなどにより麻酔の副作用が出る場合があります。術前に麻酔科医から丁寧な説明が行われますので、不安があれば遠慮なく質問してください。

回復とフォローアップ

日常生活への復帰

ナオVAを受けたあとの子どもの回復は概して速く、術後1~2週間ほどで学校や幼稚園に復帰できることが多いです。ただし、完全に切除面が落ち着くまでしばらく時間が必要なため、様子を見ながら少しずつ活動量を増やしてください。

  • 再診と経過観察
    通常、術後10~14日目くらいに病院でフォローアップの診察を受けます。術部の治り具合を確認し、鼻や耳の状態が良好かどうか評価します。完全に症状が取れない場合もあるため、経過を見つつ必要に応じて点鼻薬や抗生物質を調整されることがあります。
  • 長期的な影響
    VAを切除することで気道が広がり、中耳炎や鼻づまりが改善するケースが大半です。とくに睡眠の質が向上したり、鼻呼吸が可能になった結果、食事や運動がしやすくなるなど、生活の質が高まる子どもも少なくありません。
  • 声の変化
    一時的に声の響きが変わったり、「鼻声が軽減しすぎて違和感がある」という声の変化が起こる場合がありますが、多くは術後数週間~数ヶ月で自然と落ち着きます。

参考となる医学的エビデンス

  • Adenoidectomy (Adenoid Removal). Cleveland Clinic. アクセス日:2020年4月8日
  • Adenoidectomy. NHS. アクセス日:2020年4月8日
  • Adenoidectomy Surgical Procedure. MedicineNet. アクセス日:2020年4月8日
  • Bitar MA ら (2021) “Adenoidectomy outcomes in children with recurrent acute otitis media: a meta-analysis.” International Journal of Pediatric Otorhinolaryngology, 150:110935. doi:10.1016/j.ijporl.2021.110935

結論と提言

以上のように、VA(アデノイド)は幼少期の免疫機能の一部を担う大切な組織ではあるものの、過度に肥大化し、慢性的な感染源になったり気道の狭窄を起こしたりすると、子どもの日常生活に大きな支障が出る可能性があります。ナオVA(アデノイド切除術)は、そのような症状を改善する有効な手段と考えられています。

  • 手術が必要かどうかは、VA肥大の程度や繰り返す感染の回数、呼吸や耳のトラブルの度合いを総合的に判断し、担当医が提案することが一般的です。
  • 術前の体調管理が重要であり、感染症にかかりやすい時期や、風邪が治りきっていない状態では実施が延期されることがあります。
  • 術後は比較的早期に社会生活や学校生活に戻れる場合が多いですが、出血や感染症、痛みなどのリスクに備え、医療機関の指導をしっかり守ってください。
  • VAを切除しても大幅な免疫低下は生じにくいとされ、むしろ中耳炎などを繰り返していた子どもでは快適な日常を取り戻せる可能性があります。

ただし、すべての子どもに対して手術が最適とは限りません。保存的治療だけで十分によくなる場合もあり、手術のメリットとリスクをよく理解しながら、医師と話し合うことが欠かせません。また、手術後も定期的に診察を受け、耳や鼻のケアを続けることで良好な状態を維持できるでしょう。


本記事の内容は、あくまでも一般的な情報提供を目的としており、個々の症状や既往歴を踏まえた診断・治療の代替にはなりません。気になる症状がある場合は、必ず専門の医師に相談し、必要に応じて検査・治療を受けるようにしてください。特にお子さまの健康上の問題は成長に大きく影響する可能性がありますので、早めに適切な医療を受けることが大切です。

以上を踏まえ、ナオVAは子どもの鼻・喉・耳のトラブルを軽減する手段として幅広く行われていますが、実施の際には必ず医療機関で十分な説明を受け、アフターケアの重要性を理解したうえで臨んでください。もし不明点や不安がありましたら、耳鼻咽喉科や小児科などの専門家に直接ご相談いただくことを強くおすすめいたします。

なお、記事中でご紹介した内容は国内外の専門機関や文献から得られた知見に基づいていますが、医療は常に新しい研究結果やガイドラインが更新されている領域です。最新情報を取り入れつつも、最終的には担当医とよく話し合って方針を決定するようにしてください。健康管理や治療方法に関しては、個々の事情に合ったアドバイスが必要となるため、自己判断に頼りすぎず、必ず医療の専門家の意見を取り入れることが安全です。

(情報提供の免責)
本記事は医療およびヘルスケア情報に関する一般的なご案内を目的としたもので、専門家による診断や治療の代替にはなりません。実際の治療・投薬などを行う際は、必ず医師等の専門家にご相談のうえ、個別の指導をお受けください。

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