尿路疾患診断のための膀胱内視鏡検査とは?
腎臓と尿路の病気

尿路疾患診断のための膀胱内視鏡検査とは?

はじめに

排尿時の痛みや頻尿、骨盤の不快感など、下部尿路の症状に悩んでいる方は多くいらっしゃいます。こうした症状の原因を詳しく調べたり、治療が必要かどうか判断したりするうえで、膀胱鏡検査(内視鏡を用いた検査) は非常に重要です。膀胱や尿道に生じる異常を直接確認しながら、場合によっては検査と同時に治療を行える点が特徴といえます。本記事では、膀胱鏡検査の基本的な仕組みや流れ、合併症のリスク、検査後の過ごし方など、可能な限り詳しく解説します。医療機関で実際に受ける流れをイメージしていただき、検査を控えている方の不安が少しでも和らぐことを願っています。

免責事項

当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。

専門家への相談

本記事で紹介する膀胱鏡検査や合併症などに関する情報は、すべて医療機関や研究機関が提示している知見をもとにまとめています。また、膀胱や尿道に関する病気について多くの臨床経験があるBác sĩ Nguyễn Thường Hanh(内科・総合内科/Bệnh Viện Đa Khoa Tỉnh Bắc Ninh)から提供されている知見も踏まえ、できるだけ分かりやすく整理しています。ただし、読者の方ご自身の症状や体質、基礎疾患などを踏まえた最善の判断を下すためには、必ず担当の医師に直接ご相談ください。本記事はあくまで一般的な情報提供を目的としたものであり、個々の医療上の判断を代替するものではありません。

膀胱鏡検査とは?

膀胱鏡検査(cystoscopy)とは、膀胱や尿道の内腔を直接観察するための検査手法です。細い内視鏡(膀胱鏡) を尿道口から挿入し、モニター映像を通じて内部の様子を視認しながら、必要に応じて組織の一部を採取(生検)したり、病変を切除したりすることも可能です。レントゲンやCT、MRIなどの画像診断で「何か異常があるかもしれない」という所見が出た場合や、原因不明の血尿・排尿障害・下腹部の痛みなどの症状がある場合に追加で行われるケースが多いです。

なぜ膀胱鏡検査が重要か

  • 尿道や膀胱内を直接観察
    X線検査やCT・MRIだけでは判断しきれない粘膜の細かい変化を視認できます。例えば、小さな潰瘍や白斑、わずかな炎症病変、早期の腫瘍などは膀胱鏡による直視下でしか見つからない場合があります。
  • 治療的介入も同時に可能
    例えば小さな結石やポリープであれば、検査中に除去・切除できることがあります。尿道狭窄に対して拡張手技を行うケースもあり、短期間の入院や日帰り治療で済む例もあります。
  • 生検で確定診断
    見た目が良性か悪性か判断が難しい病変の場合でも、膀胱鏡を用いて一部の組織を採取(生検)すれば、病理診断により正確な診断が得られます。

膀胱鏡検査でわかる主な疾患

  • 尿道狭窄
    尿道が何らかの原因で狭くなる状態です。排尿困難や残尿感、頻尿の原因となります。
  • 膀胱結石
    膀胱内に結石ができると、排尿時の痛みや血尿、頻尿などが生じることがあります。
  • 前立腺肥大症
    男性特有の疾患で、前立腺が大きく肥大化すると尿道を圧迫し、排尿障害を引き起こします。膀胱鏡検査によって狭窄状態や合併病変の有無を直接確認できます。
  • 間質性膀胱炎(Interstitial cystitis)
    炎症によって膀胱に慢性的な痛みや違和感が生じる疾患です。粘膜面を直接見ることで、典型的な充血や潰瘍病変の有無を把握します。
  • 腫瘍(良性・悪性)
    膀胱腫瘍には良性もありますが、悪性の場合は膀胱がんなどの可能性があります。早期発見のためにも、膀胱鏡検査の役割は大きいとされています。
  • 潰瘍や出血部位
    粘膜面に潰瘍がある場合、原因を特定しつつ必要に応じて生検を行い、出血の状態を把握します。

近年は、腫瘍の発見率を高める目的で白色光だけでなく蛍光光や狭帯域光(NBI)を使った観察技術も研究・応用されています。また、欧米や日本国内の複数の医療機関では、感染症や合併症のリスクを低減するための新たな手技や術後管理の改善策が盛んに検討されています。

検査前の準備と流れ

1. 検査前の相談と場所の選択

  • 検査実施場所
    膀胱鏡検査は外来診療所でも実施が可能ですが、大がかりな処置(生検や切除など)を伴う場合、入院設備のある病院や専門クリニックで行うことが多いです。
    簡易的な観察のみの検査(局所麻酔など)なら日帰りも可能ですが、複雑なケースでは全身麻酔を伴うため、数日間の入院が必要な場合があります。
  • 事前の検討事項

    • 合併症の有無
      既に尿路感染症がある、または糖尿病などで免疫が低下しているといった場合は、検査前に抗生物質を服用するなど特別なケアが必要とされることがあります。
    • 手術や生検の可能性
      病変が疑われる場合、検査当日に生検や切除を行うことがあります。担当医が手技の必要性を判断し、事前に説明がありますので、十分に納得したうえで承諾書にサインする流れが一般的です。
    • 飲食制限
      全身麻酔が必要とされるケースでは、検査当日もしくは前夜からの飲食制限が指示される場合があります。一方で、局所麻酔のみならば大幅な飲食制限はないことが一般的です。

2. 検査の手順

  1. 排尿
    検査開始前に、できる限り膀胱を空にしておくためにトイレで排尿をします。
  2. 麻酔の種類

    • 局所麻酔
      ゲル状またはゼリー状の麻酔薬を尿道に注入する方法です。意識ははっきりしており、検査後すぐに歩いて帰宅できることが多いです。痛みや不快感をやや感じる場合はありますが、短時間で済みます。
    • 脊椎くも膜下麻酔(下半身麻酔)
      腰部から麻酔薬を注射し、下半身の感覚を麻痺させる方法です。局所麻酔よりも処置可能な範囲が広く、出血管理などもしやすいですが、検査当日は安静が必要となる場合があります。
    • 全身麻酔
      静脈から麻酔薬を注入し、意識を完全に失う状態にして検査や処置を行います。生検や腫瘍切除など大がかりな手技が見込まれる場合に選択されます。検査後はしばらく病院で経過観察を行い、麻酔の影響が落ち着くまで安静にします。
  3. 膀胱鏡の挿入

    • 膀胱鏡の種類
      • 軟性膀胱鏡(Flexible cystoscope):柔らかく、尿道を大きく広げなくても挿入しやすい利点があります。検査時の痛みが比較的少ないとされています。
      • 硬性膀胱鏡(Rigid cystoscope):金属製で構造が硬く、より鮮明で安定した映像が得られます。生検や切除など治療的処置をしやすいというメリットがあります。
    • 挿入の流れ
      麻酔が効いた後、医師が膀胱鏡をゆっくりと尿道口から挿入し、モニターで観察を行います。観察をしやすくするために、生理食塩水などの無菌溶液で膀胱を膨らませることがあります。その際、膀胱に水がたまる圧迫感や尿意を感じるかもしれません。
  4. 観察と必要に応じた処置

    • 粘膜の観察
      膀胱全体と尿道内部を確認し、充血や出血、潰瘍、ポリープ、腫瘤などがないかを観察します。狭帯域光観察(NBI)や蛍光観察を用いる施設もあり、腫瘍の微細な領域がより見つけやすいとされています。
    • 生検(組織採取)
      病変が疑われる部位がある場合、特殊な器具を使ってわずかな組織を切り取り、病理検査(顕微鏡による細胞検査)を行います。短時間で終わるケースが多いですが、一瞬強いしみるような違和感を覚えることがあります。
    • 結石除去・狭窄拡張など
      小さい膀胱結石や尿道狭窄であれば、その場で除去・拡張する治療を同時に行う場合があります。複雑な病変や大きな結石の場合は別日の手術が必要になることもあるため、担当医と相談を続けます。
  5. 検査時間
    症例によって異なりますが、単なる観察のみなら10~30分ほどで終了します。生検や治療処置が加わるとさらに時間が延びる場合があります。

3. 検査後の対応と注意点

  • 麻酔からの回復
    局所麻酔であれば、検査後すぐに歩行が可能な場合が多いですが、下半身麻酔や全身麻酔を行った場合は、病院内で1~2時間程度の安静が指示されることがあります。体が麻酔からしっかり回復するまでベッドで休み、歩行や排尿が問題なくできるか確認してから帰宅となります。
  • 排尿の観察
    検査後は、トイレへ行き排尿できるか確認します。特に尿道や膀胱内に刺激が生じているため、最初の排尿時に痛みや軽い出血が起こる場合がありますが、多くは数日以内に落ち着きます。
  • 抗生物質の内服
    尿道から器具を挿入する以上、軽度とはいえ感染のリスクはゼロではありません。病院によっては予防的に抗生物質が処方される場合があります。処方された場合は、指示どおりに内服して感染予防に努めることが大切です。
  • 日常生活への復帰
    日帰りまたは短期入院での検査が多いため、仕事や家事への復帰は比較的早いです。ただし、痛みや出血などが続く場合は無理をせず安静にしてください。激しい運動や飲酒は、検査後1~2日程度は控えるように指示されることが多いです。

内視鏡検査後のよくある症状と合併症

膀胱鏡検査は侵襲性のある手技のため、不快感や痛みなどが一時的に生じることがあります。また、まれに合併症が発生する場合もあるため、検査後は自分の体調をよく観察し、気になる症状があればすぐに主治医に相談しましょう。

比較的よくみられる症状

  • 排尿時の痛みや灼熱感
    尿道に器具を挿入しているため、尿道粘膜に軽い損傷が生じていることがあります。多くの場合、2〜3日で症状は軽快するとされます。
  • 血尿
    生検や器具操作で尿道や膀胱粘膜が刺激され、わずかに出血が混ざることがあります。ピンク色や茶褐色の場合はそれほど深刻ではないことが多いですが、鮮血が大量に混じる場合は早めに病院へ連絡してください。
  • 頻尿感
    粘膜の刺激や軽度の炎症により、検査後しばらくは排尿回数が増えることがあります。

注意すべき合併症

  • 尿道狭窄の悪化や浮腫(むくみ)
    器具の通過による物理的刺激で尿道が腫れ、尿が出にくくなることがあります。8時間以上まったく排尿ができない、下腹部の張りが強い場合は緊急対応が必要です。
  • 尿路感染症
    膀胱鏡検査によって細菌が尿路に侵入し、感染症を引き起こすことがあります。発熱、残尿感、腰痛、膀胱あたりの痛み、尿のにおいの変化などが見られる場合は早めに受診し、抗生物質が必要になることがあります。
  • 大量出血
    生検や粘膜損傷により、まれに止血が困難なほどの出血を起こす場合もあります。特に血液サラサラの薬(抗凝固薬など)を服用している方は、検査前に必ず担当医に申告しましょう。

検査後に痛みや不快感を和らげる工夫

  • 温かいタオルの使用
    尿道口周辺を温めると痛みや違和感が軽減しやすくなります。温かいタオルを数分あてるだけでも、楽になる場合があります。
  • 入浴やシャワー
    入浴は禁止ではありませんが、病院によっては当日の長湯を避けるよう指示されることもあります。感染予防のために清潔を保つことは大切ですが、具体的な制限の有無は担当医に相談してください。
  • 十分な水分摂取
    排尿回数が増えることで、尿路を洗い流し、感染や血の塊(血栓)形成を予防する効果が期待できます。検査後数時間は、適度に水分を補給しましょう。
  • 鎮痛薬の使用
    痛みがつらい場合、アセトアミノフェンやイブプロフェンなど一般的な鎮痛薬を医師の指示に従って服用すると症状が軽減する場合があります。

検査結果と今後の治療方針

検査後、医師は観察結果や生検の有無、採取された組織の病理診断などを総合的に判断し、以下のようなステップを踏む場合があります。

  1. 結果説明

    • 粘膜の状態や病変の有無を具体的に説明します。
    • 生検を行った場合は、その病理組織検査の結果が出るまで通常は数日〜1週間程度かかります。
  2. 追加検査や治療方針

    • 結石やポリープが確認された場合:切除や砕石術を別途行うかどうか。
    • 尿道狭窄が確認された場合:拡張術や再度の内視鏡治療が必要かどうか。
    • 炎症が強い場合:投薬(抗生物質や抗炎症薬)を追加するか。
    • 腫瘍が疑われる場合:MRIやCTなど追加画像検査を行うこともあります。
  3. 継続的な経過観察
    一度の検査で完結しないケースも多いです。たとえば膀胱がんなどは再発リスクが高いため、定期的な膀胱鏡検査を受ける必要が生じることがあります。

膀胱鏡検査に関する最新の研究・ガイドライン

ここ数年、膀胱鏡検査における安全性と精度向上を目指した研究が盛んに報告されています。例えば、European Association of Urology(EAU) では2023年に非筋層浸潤性膀胱がん(Ta, T1, CIS)などの検査・治療アルゴリズムに関するガイドラインを更新し、膀胱鏡検査と新しい光学技術を組み合わせることでがん病変の早期発見と再発予防につなげる重要性が示されています。また、NCCN(National Comprehensive Cancer Network) も2023年版のガイドラインで、膀胱鏡検査のタイミングや周辺疾患を考慮した検査プロトコルを詳しく提示しています。これらのガイドラインは日本国内の膀胱がん診療にも応用可能な内容が多く、臨床現場でも参考にされています。
さらに、近年の研究では、内視鏡操作を補助するAI技術(画像解析や自動病変検出)も徐々に検討されており、将来的に診断精度がさらに向上する可能性が期待されています。ただし、2024年時点ではまだ実験的段階のシステムが多いため、日本での一般導入までには検証が必要です。
いずれも、国内外問わず高い評価を得ている学会・専門誌に掲載されている研究で、実際の臨床データを伴う形で報告されています。ガイドラインが頻繁に更新される領域でもあるため、主治医と相談しながら最新情報を得ることが大切です。

膀胱鏡検査を受ける方へのアドバイス

  • 不安や疑問を遠慮なく相談
    「どんな麻酔方法がいいのか」「検査後にどれくらい痛むのか」「生検や治療が必要な状態なのか」など、疑問点は主治医に直接聞いておくと安心です。
  • 症状の経過を記録する
    血尿の有無や頻尿の頻度、痛みの強さなどを日々メモしておくと、医師の診察時に的確な情報を伝えられます。
  • 検査当日の付き添い
    特に全身麻酔や下半身麻酔の場合、検査後は判断力や身体機能が低下することがあります。家族や友人に付き添いをお願いすると安心です。
  • 術後数日は無理をしない
    仕事復帰や運動は医師の指示に従いましょう。安静を保ちつつ、痛みや出血などが続く場合は早期に受診してください。

結論と提言

膀胱鏡検査は、尿道から膀胱内までの粘膜を直接観察しながら、必要に応じて生検や治療も行える極めて有用な検査です。排尿時の違和感や血尿など、下部尿路に関連する症状の原因究明や早期の適切な治療へつなげるために、現代医療で欠かせない手法といえます。
一方で、侵襲的な検査であることから、検査後の疼痛や感染リスク、出血などの合併症を完全にゼロにすることは難しいです。しかし、検査前の適切な準備と検査後の注意点をしっかりと理解し、医師の指示に従うことで、多くの方が安全に検査を受けられます。特に日本では、局所麻酔や日帰り手術の体制が整備されている医療機関も増えており、より負担の少ない形で検査を行う選択肢も広がっています。
もし検査の必要性を示唆され不安に感じている場合は、事前に担当医に疑問をすべて確認してください。ご自身の症状や持病、ライフスタイルに合った検査・治療計画を立てることが大切です。また、間違っても自己判断で対策を後回しにしないようにしましょう。 下部尿路の異常は放置すると症状の悪化を招く恐れがあるため、早期発見・早期治療が何よりも重要です。

参考文献

【重要】本記事は一般的な医療情報の提供を目的としており、個々の症例における診断・治療の確定を行うものではありません。症状や治療方針については、必ず医師をはじめとする専門家にご相談ください。

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