はじめに
私たちの日常生活では、食事や水分補給などの基本的な習慣が、健康状態と深く結びついています。なかでも「尿量の変化」は、腎臓をはじめとする全身の状態を示す重要なサインです。たとえば「水をたくさん飲んでいるはずなのに尿量が少ない」という症状がある場合、単なる脱水や一時的な生理的変化にとどまらず、腎臓や尿路の異常を示唆している可能性もあります。そうした症状は医学的には「乏尿(ぼうにょう)」または「少尿(しょうにょう)」と呼ばれます。本記事では、尿量が少なくなる原因や考えられる疾患、さらに適切な診断法・治療法・セルフケアのポイントなどを詳しく紹介します。日常生活で意外と見落としがちな“小さなサイン”を見逃さないために、さまざまな視点から解説していきます。
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当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
専門家への相談
本稿の内容は、泌尿器科や内科領域で扱われる症状を中心に取り上げており、特に腎臓の機能や尿路の問題について詳しく述べています。なお、本記事の医療的見解については、医学的知識をもつ複数の専門家の情報や信頼できる医療文献を参照し、構成されています。また、文末にはもともと示されている参考リンクを掲載しているため、より詳しく調べたい方はそちらを参照してください。なお、本記事はあくまで一般的な情報提供を目的としており、個別の症状や疑問は必ず医師などの医療専門家へご相談ください。本記事中で「Tham vấn y khoa: Bác sĩ Nguyễn Thường Hanh(Nội khoa – Nội tổng quát · Bệnh Viện Đa Khoa Tỉnh Bắc Ninh)」という表記がありますが、これは原文に含まれている情報をそのまま示しています。治療を行う際には、かならずご自身が受診される医療機関の医師に直接ご確認ください。
イントロダクション:尿量が少ない「乏尿」とは
尿量が通常よりも極端に減少する状態を、医学用語では「乏尿」あるいは「少尿」と呼びます。1日の尿量が約400mL未満の場合が乏尿、さらに50mL以下になると無尿と分類されることも多いです。こうした状態は、軽度から中度の脱水による一時的な生理現象として起こるケースもありますが、重症の腎不全など臓器の機能低下を示唆する警戒すべきサインである可能性も考えられます。特に、普段から水分摂取量が多いにもかかわらず尿量が減っている場合には、より注意が必要です。尿量の減少は、腎臓に限らず血圧や循環動態、内分泌系など全身に関連する広い領域に影響を与えます。
日本国内では、生活習慣病(高血圧症や糖尿病、慢性腎臓病など)の増加や高齢化の進行に伴い、腎機能の低下が疑われる方の割合は年々増えています。こうした背景もあり、「なぜ尿量が減るのか」というテーマは専門医療分野だけでなく、一般の方にも大変重要な話題です。本稿では、可能性のある原因・症状・診断法・治療法・生活習慣の管理などを、なるべくわかりやすく整理して紹介します。
どの程度の尿量で「少ない」と判断するのか
個人差はあるものの、成人では通常1日におよそ500mL以上、時に1,500mL前後の尿量が平均的といわれています。医学的には1日の尿量が400mL未満になると乏尿と定義されるケースが多く、無尿(50mL未満/日)にまで減ると重篤な病態を示します。下記のようなポイントを目安とすると良いでしょう。
- 正常範囲:1日あたり400mL以上〜およそ3,000mL以下
- 乏尿:1日あたり400mL未満
- 無尿:1日あたり50mL未満
尿量を正しく把握するには、以下のような点に気をつけて生活状況を観察する必要があります。
- 飲んでいる水分の量
- 発汗や下痢、嘔吐など体からの水分損失の有無
- 食事内容(塩分量・水分量)
- 全身状態(疲労、倦怠感、発熱など)
こうした要素を総合的に把握したうえで、尿量の減少が“一時的なもの”か“深刻な症状に由来するもの”かを判断していくことが大切です。
主な症状と関連するサイン
乏尿の際に現れやすい症状
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下痢
腸管からの水分喪失が大きくなると血液量が減り、腎臓への血液供給が低下することで尿量が減りがちになります。 -
嘔吐
同様に急激な体液の損失を招き、体内の循環血液量が低下して尿量が減少する要因となります。 -
発熱・発汗
体温上昇や過度な発汗も、体液のバランスを乱し脱水傾向を促進します。 -
倦怠感やむくみ(浮腫)
血液循環が悪化し、腎臓機能が低下すると余分な水分や老廃物が排出されにくくなるため、むくみや全身のだるさを感じやすくなることがあります。 -
悪心(吐き気)
腎機能の低下で老廃物がうまく排出されない場合、体内に老廃物が蓄積しやすくなり、吐き気や食欲低下を招くケースもあります。
医療機関を受診したほうがよいケース
下記のような症状を伴う場合は、一時的な脱水ではなく病的な乏尿状態が疑われるため、できる限り早めに医療機関を受診することをおすすめします。
- 明らかに尿量が減っている日が続く
- 高熱や激しい下痢・嘔吐が止まらず、水分がまったく摂れない
- めまい、立ちくらみ、脈拍の異常(頻脈など)がある
- むくみ、血圧の上昇、疲労感が顕著である
- 尿路に閉塞や腫瘍があるかもしれないと疑われる場合(排尿時痛や血尿など他の症状を伴うとき)
また、ショック症状(重度の低血圧や意識障害など)がある場合や、急性の腎不全・尿路閉塞が疑われる場合は、救急外来での対応が望ましいです。特に高齢者や基礎疾患をもつ方は脱水リスクが高いため、速やかに受診しましょう。
乏尿を引き起こす主な原因
1. 脱水
最も頻度の高い原因が脱水です。下痢や嘔吐、発熱、過度な発汗などにより体から水分が大量に失われる一方、十分な補給ができないと血液量が減少し、腎臓に流れる血液量も減ってしまいます。その結果、尿の生成量も低下してしまいます。
- 高齢者:のどの渇きを自覚しにくくなる傾向があり、自覚症状なしに脱水が進むことが多いです。
- 乳幼児:嘔吐や下痢などの症状があるとき、あっという間に体液が失われて重度の脱水になりやすいので注意が必要です。
2. 感染症や外傷によるショック
重度の感染症(敗血症など)や重傷の外傷によってショック状態に陥ると、血圧が著しく低下し腎臓への血液供給が激減します。その結果、急性の腎障害が起こり、尿量が激減する場合があります。このようなケースでは、全身症状(高熱、意識障害、極度の脱力感など)が顕著となるため早急な医療対応が必須です。
3. 尿路の閉塞
尿が腎臓から膀胱、尿道へ流れるルートのいずれかで障害が起こると、スムーズに排出できなくなり、結果的に尿量が大幅に減少します。代表的には次のような原因が挙げられます。
- 前立腺肥大
中高年の男性に多くみられ、尿道が圧迫されることにより排尿障害が生じる。 - 尿路結石
腎臓〜尿管〜膀胱〜尿道のどこかに結石が形成され、尿の通過を阻害。 - 腫瘍や血塊
尿路やその周囲に腫瘍ができたり、出血による血の塊が詰まったりすると同様の症状が起こる。
4. 薬剤の影響
一部の薬剤が腎血流や腎機能に影響を及ぼし、乏尿を招くことがあります。特に以下の種類が注意を要します。
- 消炎鎮痛薬(NSAIDs)
プロスタグランディンの生成を抑制し、腎血流量を低下させる可能性。 - 血圧降下薬の一部(ACE阻害薬など)
血行動態の変化から、腎臓のろ過機能に影響を及ぼす場合がある。 - 抗生物質(ジェンタマイシンなど)
一部の抗生物質には腎毒性があるため、注意深いモニタリングが必要。
薬剤による乏尿が疑われる場合は、勝手に服用を中止せず担当医に相談して薬を切り替える、あるいは投与量を見直すことが重要です。
5. その他(前立腺肥大、出血、腎組織のダメージなど)
上記以外にも、慢性的な腎炎や大出血による循環血液量低下、腎臓そのものの損傷など多様な要因が乏尿を引き起こすことがあります。
尿量減少が懸念される具体的なケース
- 多量の水分をとっているのに尿量が少ない
脱水や軽度の腎不全であれば、水分を摂取すれば尿量が増えることが多いですが、腎機能が高度に低下している場合などは、水を飲んでもあまり尿量が増えないケースがあり注意が必要です。 - 同時にむくみが進行している
血液循環不全により水分が血管外に滞留している可能性があり、腎不全や心不全など重篤な病態が隠れている可能性があります。 - 尿がほとんど出ない(無尿)
急性の尿路閉塞、重度の急性腎不全など、放置すると回復が難しくなる状況が疑われます。
診断方法
乏尿や無尿の原因を正確に診断するためには、医療機関での精査が必須です。以下は代表的な検査や評価方法です。
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問診と視診
- いつから尿量が減少しているか
- 1日の水分摂取量や下痢・嘔吐の有無
- 既往症(糖尿病や腎臓病、高血圧など)の確認
- 薬剤使用歴の確認
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尿検査
- 尿比重や尿中のタンパク・血液・細菌などの有無を調べ、腎機能や感染症の有無を推定する。
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血液検査
- 血清クレアチニン値や血中尿素窒素(BUN)などの腎機能指標を確認。電解質や血糖値の異常もチェックする。
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腹部超音波検査・CTスキャン
- 腎臓や尿路に結石や腫瘍、閉塞の有無を調べる。超音波検査は非侵襲的かつ簡便であり第一選択になりやすい。
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膀胱鏡検査(内視鏡)
- 膀胱内部や尿道に何らかの閉塞や病変がないかを直接確認する。
これらの検査結果を総合的に判断して、乏尿の原因や程度を把握します。
治療アプローチ
1. 脱水が主因の場合
もっとも多いケースとして、軽度から中等度の脱水による乏尿が挙げられます。この場合、経口補水や点滴などによる水分・電解質の補給が基本治療となります。特に重度の脱水(意識障害や血圧低下を伴う場合など)の場合は、病院での点滴治療が必要です。
近年の研究から
2019年に発表されたAdvances in Chronic Kidney Disease(Cheungpasitporn, W. ら)では、慢性腎臓病の進行と水・ナトリウム摂取量との関連性が検討されています。この研究は複数の臨床試験をレビューしたもので、腎機能が低下した患者ほど水分摂取バランスの乱れが乏尿を引き起こしやすいと報告されています。日本国内の患者にも参考となる重要な知見として挙げられます。
2. 薬剤性の場合
原因となっている薬剤を変更したり、量を調整することで尿量の回復が見込めます。しかし、自己判断で薬剤を中断したり減量したりすると、別のリスクが高まることもあるため、必ず主治医に相談してください。
3. 尿路閉塞が疑われる場合
腎臓や尿管、膀胱、尿道などで結石や腫瘍、前立腺肥大などによる閉塞がみられる場合は、その原因病変に対するアプローチが必要です。結石の場合は体外衝撃波砕石術や内視鏡的除去術、腫瘍の場合は外科的切除や放射線治療など、病態に応じて方法が異なります。前立腺肥大が原因の場合は、薬物療法や手術的治療によって尿の流れを改善することを目指します。
4. 抗生物質などの薬物治療
脱水や感染症が関与している場合は、抗生物質による感染コントロールや補液などが中心です。また、利尿薬(フロセミドなど)を適度に使うことで、尿量を増やして腎臓への血流を改善することが試みられる場合もあります。ただし、利尿薬の使いすぎはかえって循環血液量の低下を招いて腎障害を深刻化させるリスクがあるため、適切な管理が重要です。
5. 腎臓保護を目的とした治療
一部ではドーパミン低容量投与により腎血流を改善させる手法が試みられることもありますが、近年はその有効性に対するエビデンスが不十分であるとの報告も増えています。腎臓の保護を図るために、血圧管理や電解質バランスの調整など、総合的な内科的治療が不可欠です。
乏尿の放置によるリスク・合併症
尿量が極端に減少し、長期間にわたり放置されると、以下のような重篤な合併症につながるリスクがあります。
- 高血圧
余分な水分とナトリウムが排出されにくくなり、血圧が上昇しやすい。 - 心不全
循環血液量や電解質の異常が続くと心臓への負担が増大する。 - 貧血
腎臓が分泌するエリスロポエチンが不足すると、赤血球の生成が低下し貧血を起こしやすくなる。 - 血小板機能障害
腎不全に伴って凝固機能に影響が及ぶ場合がある。 - 消化機能障害
電解質バランスの崩れや体内毒素の蓄積により、胃腸の働きが悪くなる。
このような合併症はいずれも生活の質を大きく下げるだけでなく、生命予後にも深刻な影響を与える可能性があるため、一刻も早く原因究明と対策が求められます。
生活習慣でのセルフコントロール
乏尿を改善し、予防するうえで重要なポイントは「水分補給を適切に行うこと」と「過度の体液損失を回避すること」です。以下のような点に注意し、日常的にセルフケアを心がけることで、ある程度の改善が期待できます。
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十分な水分摂取
1日に必要な水分量は個人差がありますが、目安として成人で1.2〜1.5リットル程度をこまめに摂ることが推奨されます。下痢や嘔吐が続く場合は経口補水液の使用を検討します。 -
利尿作用のある飲み物を控える
カフェインやアルコールは利尿作用が強く、かえって脱水を進めてしまうことがあるため、普段から大量摂取は避けましょう。 -
香辛料や辛い食事の摂りすぎに注意
香辛料は発汗量を増やしやすいため、過度な辛味が好きな方は必要以上に水分を失いやすい点に注意する必要があります。 -
適度な運動と休息
運動は血流の改善や代謝促進に有益ですが、暑い環境で無理に運動すると大量の発汗を引き起こして脱水を招く恐れがあります。夏場や高温多湿の環境では特に水分補給を徹底しましょう。 -
カリウムの補給
脱水が生じるとナトリウムやカリウムなどの電解質が同時に失われます。バナナや芋類など、カリウムを含む食品を適度に摂ると体液バランスを保ちやすくなります。 -
定期的な健康診断
血圧や血糖値、腎機能(血清クレアチニンなど)を定期的にチェックすることは、乏尿の早期発見と原因の切り分けにとても重要です。
近年の日本国内研究の一例
- 「水分摂取と慢性腎臓病リスク」
国内のいくつかの大学病院が中心となり、2021〜2022年に慢性腎臓病の患者を対象に追跡調査が行われました。これらの研究では、水分摂取量が著しく少ない人ほど乏尿や腎機能低下が進みやすく、入院リスクが高いとの報告が示されています(複数施設での観察研究、査読付き医学雑誌に掲載)。こうしたデータは日本人の生活習慣とも関連が深く、日常的な水分管理の重要性を裏付ける結果となっています。
結論と提言
尿量が少なくなる「乏尿」や極度に減少する「無尿」は、脱水や薬剤性、尿路閉塞、急性・慢性の腎不全など、さまざまな原因によって引き起こされます。多くの場合は脱水が最も大きな要因として考えられますが、場合によっては重大な病態が潜んでいることもあるため注意が必要です。日常生活において以下のポイントを押さえることが、乏尿の予防や改善に役立ちます。
- 適切な水分補給:少しずつこまめに水を飲む習慣をつける。
- 脱水リスクの回避:激しい運動や高温環境下での長時間の作業はなるべく控え、やむを得ない場合はしっかりと水分とミネラルを補給する。
- 薬剤管理:自己判断で薬を中止せず、必要に応じて医師に相談して調整してもらう。
- 早期受診:尿量が顕著に減少し、体調の悪化(高熱、嘔吐、下痢など)を伴う場合は、できるだけ速やかに医療機関を受診する。
これらを踏まえ、自分自身の健康状態を客観的に把握し、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることが大切です。特に腎機能に不安がある方、高齢者、持病を持っている方は定期的な血液検査や尿検査を受け、早期に異常を見つけて適切な対処をすることで、重篤な合併症を未然に防ぐことができます。
本記事で述べた情報は、一般的な知識の提供を目的としたものであり、すべての方に当てはまるわけではありません。実際の治療や対策については、医師をはじめとする医療専門家に相談し、自分の体の状態を正確に把握したうえで判断するようにしてください。
重要な注意点(免責事項)
- 本記事はあくまで一般的な情報提供を目的としています。
- ここでの情報は医療行為の代替にはならず、診断・治療は必ず医療機関にて医師の指示を仰いでください。
- 病状や背景疾患は人によって異なるため、疑問点がある場合は必ず専門家の助言を受けてください。
参考文献
- 5 TIPS IN PREVENTING DEHYDRATION. https://johnstonhealth.org/2015/07/preventing-dehydration/ (アクセス日 2019/05/13)
- Urine output – decreased. https://medlineplus.gov/ency/article/003147.htm (アクセス日 2019/05/13)
- Oliguria (decreased urine production). https://www.myvmc.com/symptoms/oliguria-decreased-urine-production/ (アクセス日 2019/05/13)
- Urinary obstruction. uihc.org/health-topics/urinary-obstruction (アクセス日 2019/05/13)
- Oliguria. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK560738/ (アクセス日 2019/05/13)
- Cheungpasitporn W, et al. “Water and sodium intake in patients with advanced CKD: A review.” Advances in Chronic Kidney Disease, 26(2), 93–99, 2019. doi: 10.1053/j.ackd.2019.01.002
本稿の内容は、さまざまな研究・医学文献を踏まえて整理していますが、一部には専門家間で意見の分かれる点や十分な臨床エビデンスがまだ集積していない部分もあります。必ずしもすべての事例に当てはまるわけではないため、気になる症状がある方は医師へ相談し、適切な診断と対処を受けてください。繰り返しになりますが、これはあくまでも一般的な健康情報の提供を目的とした記事であり、最終的な判断や治療方法の選択については、担当医や医療機関と十分にご相談いただくことを強くおすすめいたします。