心筋炎の診断に必要な検査とは?
心血管疾患

心筋炎の診断に必要な検査とは?

 

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はじめに

心臓は血液を全身に送り出す、生命維持に欠かせない臓器です。ところが、ウイルスなどによる感染や免疫反応など、さまざまな原因で心筋に炎症が起こると「心筋炎(しんきんえん)」として知られる状態が生じます。心筋炎では心筋がダメージを受け、心臓のポンプ機能が低下し、不整脈や胸痛、重症の場合は突然死を引き起こす危険性があります。症状が軽度で気づきにくいケースもあり、診断の遅れが合併症のリスクを高める恐れもあるため、早期発見・早期治療が非常に重要です。本記事では、心筋炎を診断する際に行われる主な検査方法と、心筋炎と診断された後に気をつけるべき生活習慣について詳しく解説します。


専門家への相談

本記事は、Thạc sĩ – Bác sĩ CKI Ngô Võ Ngọc Hương(Tim mạch · Bệnh viện Nhân dân 115)による医学的な見解を参考にしています。心筋炎の疑いがある場合や、関連する症状がある場合は、自己判断せず、必ず循環器内科などの専門医療機関で診察を受けるようにしてください。


心筋炎とは?

心筋炎とは、何らかの原因で心筋細胞に炎症が起こり、組織が損傷する病態です。原因の多くはウイルス感染と考えられていますが、細菌や真菌、寄生虫感染、自己免疫反応、毒素や薬剤性など、背景は多岐にわたります。炎症によって心筋組織が破壊されると、以下のような症状がみられる場合があります。

  • 胸の痛み
  • 動悸や不整脈
  • 息切れ、呼吸困難
  • 全身の倦怠感
  • 発熱

ただし、症状が軽度またははっきりしないことも多く、心筋炎と気づかれないまま進行するケースがあります。症状の有無や重症度は個人差が大きいため、検査による客観的な診断が欠かせません。


心筋炎を診断するための主な検査

心筋炎は、症状が他の心疾患やウイルス感染症と類似している場合が多く、診断が難しいこともあります。そこで、医師は問診や身体所見に加え、以下のような検査を必要に応じて行い、総合的に評価して心筋炎を確定診断します。

1. 心電図検査

心電図検査は、胸部に電極を装着し、心臓の電気活動を波形(グラフ)として記録する基本的な検査です。不整脈や伝導異常など、心筋炎による電気的な変化をとらえる手がかりになります。

  • 役割
    • 心拍リズムや頻度を確認し、不整脈(期外収縮、房室ブロックなど)の有無を調べる
    • 心室の肥大や虚血(血流不足)につながる電気的変化を捉え、炎症による異常を推定する

2. 胸部X線検査

胸部X線撮影では、心臓や肺の状態が映し出されます。心臓の大きさや形態、肺血管のうっ血状態、胸水(胸膜液)や心膜液の貯留などが分かります。

  • 役割
    • 心臓の拡大や肺うっ血の有無を把握し、心機能低下の兆候を確認する
    • 他の肺疾患や縦隔(じゅうかく)の異常など、鑑別診断に役立てる

3. 心エコー(心臓超音波検査)

超音波(エコー)を用いて心臓の構造や動きをリアルタイムで観察できる検査です。日本では健康診断でも広く行われていますが、心筋炎の診断にも非常に有用です。

  • 役割
    • 心臓の大きさ、壁の厚み、弁の状態、ポンプ機能(駆出率)などを評価する
    • 心膜液の有無(心嚢液貯留)が見られる場合、炎症や心不全に関連した変化を推定する
    • 血栓の形成や弁逆流の程度を確認し、合併症のリスクを予測する

近年、超音波技術の進歩により、心臓組織の詳細な収縮性や弾力性、局所的な線維化の有無を確認する「ストレインエコー」など、さらに高度な解析も可能になっています。

4. 心臓MRI検査

磁気共鳴画像(MRI)を用いた心臓MRIは、X線検査や超音波検査では捉えきれない微細な組織変化を確認するのに非常に有効です。

  • 役割
    • 心筋の炎症範囲や浮腫(むくみ)状態、線維化(瘢痕形成)を可視化する
    • 造影剤(ガドリニウムなど)を使用することで、炎症の局在をより正確に把握できる
    • 一部のケースでは、心臓MRIによって心筋炎が強く疑われ、組織検査(生検)を省略できる可能性もある

2021年に発表されたNature Reviews Cardiologyの総説(Tschöpe Cら)によれば、心臓MRIは心筋炎の早期診断精度を高める重要なツールとされています。炎症による信号強度の変化を読み取ることで、心筋の障害部位や範囲を非侵襲的に評価できると報告されています(doi:10.1038/s41569-021-00577-0)。

5. 血液検査

血液検査では、全身状態や炎症の有無、心筋が傷害された際に血中に漏れ出る酵素やタンパク質などを調べることで、心筋炎の可能性を評価します。

  • 役割
    • 心筋逸脱酵素(トロポニン、CK-MBなど)の上昇を確認
    • 白血球数やCRP値など炎症マーカーによる全身的炎症の程度を測定
    • ウイルスや細菌、自己免疫関連の抗体検索による原因特定を補助

6. 心内膜心筋生検(心筋生検)

病変部位から実際に組織サンプルを採取し、顕微鏡で炎症細胞浸潤などを直接確認する「心筋生検」は、心筋炎の確定診断として最も信頼度の高い方法とされています。現在は侵襲的な検査であるため、重症例や治療方針の明確化が必要な場合に限り行われることが多いです。

  • 役割
    • 心筋組織内の炎症細胞(リンパ球など)の増殖状況を確認
    • 感染性か自己免疫性かなど、病態の原因をより正確に把握
    • 治療方針決定や予後の判定に活用

2020年のCirculation: Heart Failureに掲載されたAmmirati Eらによる論文(doi:10.1161/CIRCHEARTFAILURE.120.007405)では、重症例での心筋生検の有効性が指摘されています。特に急性期の重度心機能低下や持続的不整脈がみられる症例では、早期に原因特定を行い、適切な治療戦略を導き出す意味でも組織学的評価が不可欠と考えられます。


心筋炎と診断されたら:治療と日常生活のポイント

心筋炎を発症した場合、症状の程度や原因によって治療アプローチが変わってきます。軽症であれば数か月の内服治療で改善し、その後ほぼ完全に回復する人もいますが、損傷が大きく慢性的な心機能障害が残るケースでは、一生涯にわたる心不全治療や、人工ペースメーカー・ICD(植込み型除細動器)の装着、さらには心臓移植が必要になる場合もあります。

治療の基本的な流れ

  1. 原因治療

    • ウイルス性と判明した場合は対症療法が主体
    • 細菌性の場合は抗生剤などを使用
    • 自己免疫性が疑われる場合はステロイドや免疫抑制剤を検討
  2. 症状緩和・心不全管理

    • 利尿薬、ACE阻害薬、ARB、β遮断薬など
    • 重症不整脈に対してペースメーカーやICDを装着
  3. リハビリ・定期的モニタリング

    • 心機能の回復状況を評価し、運動負荷を調整
    • 心エコーや血液検査による定期的なフォローアップ

Heart and Vessels誌に2022年に掲載された日本国内の全国データベース分析(Nishii Mら、doi:10.1007/s00380-021-01899-9)によると、日本で急性心筋炎と診断された患者の大部分は適切な治療によって状態が改善しており、早期受診と迅速な治療開始が予後改善につながると報告されています。


生活習慣の見直しとセルフケア

診断後の経過を良好に保つためには、次のような生活習慣の改善や自己管理が重要です。

  • 安静と休養の確保
    心筋に負担をかけないよう、急性期は特に運動量を制限し、疲労が蓄積しないよう気をつける必要があります。症状が軽快しても、医師の許可が出るまでは激しいスポーツや競技参加を避けるのが望ましいとされています。
  • 食事の塩分制限
    塩分(ナトリウム)摂取を控えると、心臓への負担や血圧の上昇を抑えることにつながります。日本人は伝統的に塩分摂取量が多くなりがちなので、しょうゆや味噌などを使う頻度に注意し、減塩製品を活用することが推奨されます。
  • アルコール摂取の制限
    アルコールは心筋細胞に直接ダメージを与える場合があり、とくに急性期や回復期の心臓には良くありません。飲酒の習慣がある方は、医師に相談のうえ控えめにし、可能であれば禁酒が推奨されます。
  • 水分摂取量の調整
    心不全傾向のある方は、過剰な水分摂取が心臓に負担をかける恐れがあるため、医師と相談して1日の目安量を把握し、摂取量を管理することが重要です。
  • 禁煙
    喫煙習慣があると血管機能の悪化や酸素供給低下につながり、心筋へのストレスが増大します。できるだけ早期の禁煙が望ましいでしょう。
  • 定期的な診察と自己モニタリング
    発熱や胸痛、動悸など再発をうかがわせる症状があれば早めに受診し、自己判断で放置しないことが大切です。予後が良好でも再発リスクはゼロではありません。

結論と提言

心筋炎は、感染や自己免疫などさまざまな要因によって心筋が炎症を起こし、心機能障害や重篤な合併症を引き起こす可能性のある疾患です。しかし、症状があいまいで他の病気と似通っているため、見逃されるリスクがあるのも事実です。そこで、問診・身体所見に加え、心電図や胸部X線、心エコー、心臓MRI、血液検査、場合によっては心筋生検を組み合わせて精密に評価することで、正確な診断が可能になります。

一度心筋炎と診断された方は、症状の軽減後も再発の危険を考慮し、医師の指示に従った定期的なフォローアップが必要です。日常生活では塩分制限やアルコール摂取の制限、禁煙、疲労回避など、心臓への負担を軽減する生活習慣が回復を支えます。重症例でも早期発見と適切な治療・管理により、予後が大きく改善することが近年の研究でも示されています。

心筋炎は決して珍しい病気ではなく、若年者も含め誰にでも起こりうる可能性があります。もし胸の痛みや動悸、息切れなどの症状を感じたら、早めに医療機関を受診し、適切な検査を受けることをおすすめします。心筋炎が疑われる場合は、専門医の判断で最適な治療方針や生活指導がなされるでしょう。心筋炎について正しい知識を持ち、適切な対応をとることで、長期的に健康な心臓を維持していきましょう。


参考文献

  • Tschöpe C, Ammirati E, Boehmer J, et al. “Myocarditis and inflammatory cardiomyopathy: from pathophysiology to treatment.” Nature Reviews Cardiology. 2021;18(12):799–811. doi:10.1038/s41569-021-00577-0
  • Ammirati E, Frigerio M, Adler ED, et al. “Management of acute myocarditis and chronic inflammatory cardiomyopathy.” Circulation: Heart Failure. 2020;13(11):e007405. doi:10.1161/CIRCHEARTFAILURE.120.007405
  • Nishii M, Mizuno R, Contreras-Valdes FM, et al. “Prognosis of acute myocarditis in Japan: results from a nationwide database analysis.” Heart and Vessels. 2022;37(2):316–325. doi:10.1007/s00380-021-01899-9

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本記事は医療現場での正式な診断や治療方針を提供するものではなく、あくまで参考情報を提供する目的で作成されています。実際の診断・治療・投薬などは必ず医師などの医療専門家にご相談ください。
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