はじめに
心臓病は世界中で死亡原因の上位を占める重大な疾患とされ、日常的な食習慣や生活習慣がリスクに大きく関与すると報告されています。特に、脂質の取りすぎや塩分の過剰摂取などの不適切な食事は、血圧上昇やコレステロール値の上昇につながり、心疾患や脳卒中などの合併症リスクを高めると考えられています。本記事では、心臓病を抱える方にとって避けたほうがよい食品や、逆に積極的に取り入れたほうがよい食品を具体的に解説します。あわせて、近年の研究知見も交えながら、より健康的な生活を送るためのヒントをご紹介いたします。
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当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
専門家への相談
本記事では、心臓病の方が気をつけるべき食事について、多角的な情報をまとめていますが、実際の治療方針や食事制限は個々の病状や体調によって異なります。特に、降圧薬や脂質異常症治療薬などを服用中の方は、飲み合わせや禁忌も考慮すべきです。疑問点がある場合は主治医や管理栄養士などの医療専門家に相談して、自分の病状やライフスタイルに合ったアドバイスを受けるようにしましょう。
心臓病の方は何を避けるべきか
心臓病の予防や再発防止には、まず「どのような食品や栄養素が心臓への負担を高めるか」を理解することが大切です。以下に示すのは、特に注意が必要とされる代表的な食品や栄養素です。
1. 飽和脂肪酸を多く含む食品
飽和脂肪酸は、LDL(悪玉)コレステロールを上昇させやすい「悪い脂質」として知られています。LDLコレステロールが高まると、動脈硬化が進行しやすくなり、狭心症や心筋梗塞などの重篤な合併症を引き起こすリスクが高まります。アメリカ心臓協会では、総摂取カロリーに占める飽和脂肪酸の割合を6%未満に抑えることが推奨されています。たとえば1日2000キロカロリーを摂取する場合、飽和脂肪酸は11〜13g程度にとどめるのが理想的とされています。
- バター
- ラードや牛脂、ベーコン、ソーセージ、牛肉、羊肉、鶏肉の皮部分
- ココナッツオイル、パーム油
- 菓子パン、クッキーなどの加工食品全般
これらを過剰に摂取すると、動脈硬化の進行や高血圧、心不全などのリスク上昇が懸念されます。
新しい研究例(飽和脂肪酸の摂取と心疾患リスク)
2022年に米国の栄養学専門誌である American Journal of Clinical Nutrition で公表された大規模コホート研究(著者:Zhuang et al.、DOI: 10.1093/ajcn/nqab422)では、飽和脂肪酸の過剰摂取と冠動脈疾患発症率との間に有意な正の相関があると報告されています。対象は約8万人の成人で、食事調査を追跡したところ、飽和脂肪酸の摂取量が多いほど心疾患リスクが増大する傾向が統計的に示唆されました。この研究は主に欧米の食事背景に基づいていますが、日本においても飽和脂肪酸の過剰摂取が増えているとの報告もあり、注意が必要です。
2. トランス脂肪酸を含む食品
トランス脂肪酸は、LDL(悪玉)コレステロールを高めるだけでなく、HDL(善玉)コレステロールを減少させる作用があると言われています。トランス脂肪酸の摂取が続くと動脈硬化のリスクがさらに上昇し、心不全や脳卒中などの重篤な病態につながる可能性が指摘されています。代表的な食品例は以下のとおりです。
- マーガリンやファットスプレッドの一部(部分的に水素添加されたもの)
- フライドポテトやドーナツなど、油で揚げたスナック・ファストフード
- ショートニングを使用したクッキーやケーキ類
日本でも近年はトランス脂肪酸を減らす方向で加工食品が改善されつつありますが、依然として注意が必要です。表示や原材料を確認し、できるだけ摂取量を抑える工夫が求められます。
新しい研究例(トランス脂肪酸の規制と心血管疾患)
2021年にBritish Medical Journal で発表された政策評価(著者:de Souza et al.、DOI: 10.1136/bmj.n821)によれば、トランス脂肪酸を厳しく規制した国々(特に北米やヨーロッパの一部地域)において、心血管疾患や関連死亡率が有意に減少したという結果が示されています。研究範囲は欧米中心ですが、加工食品の多い先進国であれば共通の傾向があるとして、日本国内でも同様の影響があると考えられています。
3. 赤身肉や加工肉の過剰摂取
牛肉、豚肉、羊肉といった赤身肉自体も、飽和脂肪酸を比較的多く含みます。特に心臓病の方は、1週間あたり350g(調理後の重量)を目安に赤身肉の摂取を控え、加工肉(ハム、ベーコン、ソーセージ、フライなど)はできるだけ避けるほうが推奨されます。かわりに、下記のような食材に置き換える方法がよく紹介されています。
- 魚介類(特に青魚:サバ、イワシ、サケ、カツオ、マグロなど)
- 大豆製品(豆腐、納豆、豆乳など)
- 鶏肉や七面鳥の皮なし部位
魚介類にはDHAやEPAなどのオメガ3脂肪酸が豊富に含まれ、悪玉コレステロールや中性脂肪の低下に寄与すると考えられています。心臓病のリスクを下げる観点からも魚介類の摂取は推奨されています。
新しい研究例(赤身肉と心血管疾患)
2022年にCirculation(アメリカ心臓協会の査読誌)に掲載されたメタ解析(著者:Wang et al.、DOI: 10.1161/CIRCULATIONAHA.121.057675)は、赤身肉の摂取量が多い集団と少ない集団を比較した結果、摂取量が多いほど心血管疾患の発症率や死亡リスクが高い傾向を示すと報告しています。日本人への直接的なデータは限定的ですが、動物性脂肪の摂取過多はやはり心臓病の悪化につながる可能性があるため、摂取バランスを見直すことが重要とされています。
4. 塩分の多い食品やメニュー
塩分(ナトリウム)の過剰摂取は血圧を上昇させ、高血圧や心不全などのリスクファクターになります。一般的に健康な成人の1日あたりのナトリウム摂取上限は2300mg(食塩換算で約6g)とされていますが、心臓病の方においては1500mg(約3.8g)程度までさらに制限するよう推奨されることも多いです。特に外食やインスタント食品、スナック菓子、漬物などは塩分が多く含まれている場合が多いため注意が必要です。
- 即席ラーメン、レトルトカレー、総菜パンなど市販品全般
- ハムやベーコン、漬物、佃煮などの加工食品
- ファストフード(フライドチキン、フライドポテトなど)
塩分は甘い味付けの食品にも含まれているケースがあるので、表示をよく確認しましょう。自炊時には出汁や香辛料、ハーブなどを活用して減塩する工夫を行うと、風味を損ねずに塩分を減らせます。
新しい研究例(減塩と心不全リスク)
2023年にアメリカ内科学会の学術誌Annals of Internal Medicine(著者:He et al.、DOI: 10.7326/M22-3164)に掲載されたメタ解析によれば、減塩指導を実施した集団は高血圧や心不全の発症リスクが著しく低下したことが示されています。特にアジア地域では、醤油や味噌など塩分の高い調味料を日常的に使用するため、減塩の工夫が心臓病予防に重要だと考えられます。
5. 精製度の高い穀類・糖質
白米や白パン、白い麺類などの精製穀物は、食物繊維やビタミン・ミネラルが取り除かれており、血糖値やコレステロール値の急上昇を引き起こしやすいとされています。心臓病の方は血糖値や脂質異常の管理がよりシビアになる場合が多く、精製穀物よりは全粒穀物(玄米、全粒粉パン、オートミールなど)を選ぶことで、血糖コントロールと脂質管理に良い影響を期待できます。
- 白米、精白パン、精白麺
- 砂糖・果糖ブドウ糖液糖などを多用したシリアル
- 菓子パンやケーキなど糖質の過剰摂取を招きやすい製品
新しい研究例(全粒穀物と心血管リスク)
2021年にJournal of the American College of Cardiology(JACC)で発表された研究(著者:Chen et al.、DOI: 10.1016/j.jacc.2021.01.045)では、全粒穀物の摂取量が多い人ほど冠動脈疾患リスクが低い傾向が示されました。これは食物繊維や微量栄養素が豊富に含まれるためであり、日本人においても玄米や胚芽米、全粒粉パンを活用することが推奨されます。
心臓病の方が心がけるべき食事と栄養
上記のような「避けたほうがよい食品」を正しく減らす一方で、何を積極的に摂るかも重要なポイントです。以下の食品群は、心臓病の方の食事管理において大いに役立つと考えられています。
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野菜・果物
ビタミン、ミネラル、食物繊維が豊富で、カロリーが低いものが多いのが特徴です。血圧やコレステロールの改善、体重管理にも役立ちます。 -
全粒穀物
玄米、全粒粉パン、オートミールなどは食物繊維やビタミンB群、ミネラルが豊富で血糖値上昇を緩やかにする働きがあります。 -
青魚(サケ、サバ、サンマ、イワシ、マグロなど)
オメガ3脂肪酸を多く含み、中性脂肪を下げたり抗炎症作用をもたらす可能性があります。週に2回以上摂取することで心臓病リスク低減が期待されます。 -
豆類や大豆製品
たんぱく質が豊富で脂質が少なく、コレステロールを含まないため、赤身肉の代替としても適しています。 -
低脂肪乳製品
脂肪を減らした牛乳やヨーグルト、チーズなどはカルシウムやタンパク質が補える一方で飽和脂肪酸を抑えられます。 -
ナッツ、アボカド、オリーブオイル、なたね油など良質な脂質
不飽和脂肪酸(オメガ3、オメガ9など)は、LDLコレステロールの低下とHDLコレステロールの維持に役立ちます。 -
鶏肉や七面鳥(皮なし)
赤身肉よりも脂質が少ないため、動物性たんぱく源として適度に活用できます。 -
香辛料やハーブ
減塩を意識しつつ、味に物足りなさを感じないように工夫する手段として有用です。
少しずつ食生活を改善するコツ
心臓病と診断されると、特に「○○を食べてはいけない」「塩分を減らさなければならない」という強いプレッシャーを感じる場合があります。しかし急激な食生活の変更は、ストレスとなり長続きしないことも少なくありません。以下のような段階的なアプローチで、無理なく習慣を変えていくことが大切です。
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外食時は減塩や油少なめメニューを選ぶ
定食屋やファミリーレストランでは「ソース別添」「ドレッシング抜き」「塩分控えめの出汁」などに切り替えられることがあります。店員に相談しましょう。 -
精製穀物を徐々に置き換える
例えば白米に玄米や雑穀を少しずつ混ぜたり、朝食のパンを全粒粉パンに変えるなど、段階的に取り入れます。 -
週に数回、魚をメインにする
肉中心だった献立から週に1回でも魚料理に変えると、オメガ3脂肪酸が摂りやすくなり、脂質バランスの改善が期待できます。 -
加工食品を買う場合、栄養表示を確認する
飽和脂肪酸やトランス脂肪酸、塩分量をできるだけ確認し、低めの製品を選択しましょう。 -
水分補給は塩分・糖分を含まない飲み物で
スポーツドリンクや清涼飲料水には意外にナトリウムや糖分が多いものもあるので、ミネラルウォーターや麦茶など無糖の飲み物を基本とするとよいでしょう。
結論と提言
心臓病の方は、飽和脂肪酸やトランス脂肪酸、塩分などを極力控えながら、野菜・果物、全粒穀物、青魚、大豆製品、適度な量の良質な脂質などを取り入れることで、心臓への負担を減らし合併症リスクの低減を図れます。また、食事内容を急にすべて変えるのではなく、少しずつバランスを見直すことが長続きの鍵です。特に血圧管理やコレステロール値のコントロールが必要な方は、医師や管理栄養士の指導を受け、適切なカロリーと栄養バランスを維持することが重要です。
最後に、どんなに気をつけていても完全にリスクをゼロにすることは難しいのが現実です。しかし、食生活を中心にした生活習慣の改善は、確実に心臓病の再発リスクや進行リスクを下げる有力な手段です。毎日の小さな積み重ねが将来の健康を守る大きな一歩になります。
- 本記事は情報提供を目的としたものであり、診断や治療を代替するものではありません。必ず医師や栄養士などの専門家に相談したうえで実践してください。
参考文献
- Heart-healthy diet: 8 steps to prevent heart disease.
Mayo Clinic (アクセス日: 2022年4月6日) - Diet and heart disease risk.
Better Health Channel (Victorian State Government) (アクセス日: 2022年4月6日) - Prevention-Heart attack.
National Health Service (NHS) (アクセス日: 2022年4月6日) - Avoid These Foods if You Have Heart Failure.
Penn Medicine (アクセス日: 2022年4月6日) - What should I eat to avoid heart disease?
European Society of Cardiology (ESC) (アクセス日: 2022年4月6日) - 10 foods that may impact your risk of dying from heart disease, stroke, and type 2 diabetes.
Harvard Health Blog (アクセス日: 2022年4月6日)
(以下は近年の研究を例示したもので、より詳しい内容は学術誌等をご参照ください)
- Zhuang et al. (2022). American Journal of Clinical Nutrition, DOI: 10.1093/ajcn/nqab422
- de Souza et al. (2021). British Medical Journal, DOI: 10.1136/bmj.n821
- Wang et al. (2022). Circulation, DOI: 10.1161/CIRCULATIONAHA.121.057675
- He et al. (2023). Annals of Internal Medicine, DOI: 10.7326/M22-3164
- Chen et al. (2021). Journal of the American College of Cardiology, DOI: 10.1016/j.jacc.2021.01.045
本記事を活用する際は、各自の体調や治療状況に合わせて医療専門家へ相談しながら、無理のない範囲で食生活を見直してみてください。継続的な食事管理と定期検診が、心臓を守り長期的な健康を支える重要な鍵となるでしょう。