【医師監修】思春期のわきが(腋臭症)完全ガイド|原因・対策から最新治療、保険適用まで徹底解説
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【医師監修】思春期のわきが(腋臭症)完全ガイド|原因・対策から最新治療、保険適用まで徹底解説

思春期に訪れる身体の変化は、多くの喜びや発見をもたらす一方で、これまで経験したことのない悩みの種となることもあります。その中でも特にデリケートで、ご本人にもご家族にも深刻な影響を与えうるのが「わきが(腋臭症)」の問題です。静かな教室や満員電車の中で、「自分のにおいが周りに迷惑をかけていないだろうか」という不安は、自己肯定感を損ない、時には学校生活そのものへの意欲を奪ってしまうことさえあります。これは決して本人の責任や、単なる衛生管理の問題ではありません。明確な生物学的背景を持つ医学的な状態です。JAPANESEHEALTH.ORG編集委員会は、この根深い悩みに真正面から向き合います。この記事では、日本の公式な診療ガイドラインと最新の国際的な科学研究に基づき、思春期のわきがの根本原因から、ご家庭でできる対策、そして医療機関で受けられる最新の治療法、さらには公的医療保険の適用範囲に至るまで、信頼できる情報を包括的かつ分かりやすく解説します。この情報が、悩みを抱えるご本人と、それを支えるご家族にとって、確かな一歩を踏み出すための光となることを心から願っています。


この記事の科学的根拠

本記事は、入力された研究報告書で明示的に引用された、最高品質の医学的根拠にのみ基づいて作成されています。以下は、参照された実際の情報源と、提示された医学的指針との直接的な関連性を示したリストです。

  • 日本皮膚科学会(JDA)および日本形成外科学会(JSPRS)の診療ガイドライン: この記事における診断基準、治療法の推奨(手術、外用薬など)、および保険適用の判断に関する指針は、これらの学会が発行した公式ガイドラインに基づいています89
  • 査読付き臨床研究:ミラドライやボツリヌス毒素製剤注射などの特定の治療法の有効性と安全性に関する記述は、Pediatric Dermatology誌やAesthetic Plastic Surgery誌などに掲載された、特定の臨床試験や系統的レビュー(例:Glaser DAら、Lee Mら、Dietl Mらの研究)から得られたデータに基づいています131416
  • 微生物学研究: わきがの根本原因である皮膚常在菌の役割に関する解説は、Frontiers in Cellular and Infection Microbiologyなどの科学雑誌に掲載された研究に基づいています17

要点まとめ

  • 思春期のわきがは、ホルモンの影響で「アポクリン汗腺」の活動が活発になり、その汗を皮膚の常在菌が分解することで発生する医学的な状態です。遺伝的要因(特にABCC11遺伝子)が強く関与しており、本人の責任ではありません。
  • 診断は、耳垢が湿っている、衣服に黄ばみができる、家族歴がある、などのセルフチェックが参考になりますが、正確な診断と治療方針の決定には皮膚科または形成外科の受診が不可欠です。
  • 治療法は多岐にわたります。保険が適用される外用薬(塗り薬)や根治的な手術(剪除法)から、自費診療となるボトックス注射やマイクロ波治療(ミラドライ)まで、効果、費用、期間などを比較検討し、医師と相談して最適な方法を選ぶことが重要です。
  • わきがの悩みは、特に日本では「いじめ」などの深刻な心理社会的問題に発展する危険性があります。ご家族は、お子様を責めずに医学的な問題として共に学び、精神的な支えとなることが極めて重要です。

1. 思春期のわきが(腋臭症)とは?医学的真実を理解する

「わきが」という言葉には、時に誤解や偏見が伴いますが、医学的には「腋臭症(えきしゅうしょう)」と呼ばれる、明確なメカニズムを持つ生理現象です。特に多感な思春期において、この問題を正しく理解することは、不要な自己嫌悪から解放され、適切な対策を講じるための第一歩となります。

1.1. なぜ思春期に匂いが強くなるのか?ホルモンと汗腺の科学

人間の皮膚には2種類の汗腺が存在します。一つは体温調節を主な役割とし、全身に分布する「エクリン汗腺」です。ここから出る汗は99%が水分で、それ自体はほぼ無臭です。もう一つが、わきがの主役となる「アポクリン汗腺」です。この汗腺は、わきの下や陰部など特定の場所に集中しており、脂質やタンパク質など、においの元となる成分を豊富に含んだ、白く濁った汗を分泌します1
アポクリン汗腺は、生まれた時から存在しますが、思春期になるまでは活動が不活発です。しかし、第二次性徴期に入り、性ホルモン(特にアンドロゲン)の分泌が活発になると、それが刺激となってアポクリン汗腺が急速に発達し、汗の分泌量が増加します。これが、思春期に突然わきがの症状が現れたり、匂いが強くなったりする生物学的な理由です。

1.2. 「わきが」と「汗の匂い」の違いは?

一般的な「汗臭さ(汗臭)」と「わきが(腋臭症)」は、原因となる汗腺と発生するにおいの質が異なります。この違いを理解することは、ご自身の状態を客観的に把握する助けとなります。

  • 汗臭(あせしゅう): 主にエクリン汗腺から出る汗が、皮膚の細菌によって分解されて生じます。ツンとした酸っぱいようなにおいが特徴です。運動後など、大量に汗をかいた時に感じられる一般的な体臭です19
  • 腋臭症(えきしゅうしょう): アポクリン汗腺から出る汗が、特定の細菌によって分解されることで発生します。鉛筆の芯、スパイス、硫黄など、人によって表現は様々ですが、特有の強いにおいを持ちます。汗の量とは必ずしも比例しません19

この根本的な違いにより、一般的な制汗剤だけではわきがのにおいを十分に抑えることが難しい場合があるのです。

1.3. 匂いの本当の原因:「アポクリン汗+皮膚の常在菌」

重要な事実として、アポクリン汗腺から分泌されたばかりの汗自体には、ほとんどにおいがありません。特有のにおいは、その汗が皮膚表面に存在する「常在菌」によって分解される過程で産生されます。近年の研究では、わきがの人の皮膚には、そうでない人に比べてコリネバクテリウム属(Corynebacterium)などの特定の細菌が多く存在することが明らかになっています17。これらの細菌が、アポクリン汗に含まれる脂質やタンパク質を代謝し、揮発性の低い脂肪酸などを生成することで、あの独特のにおいが生まれるのです。将来的には、この皮膚常在菌のバランス(マイクロバイオーム)を調整することで、においを根本から改善する治療法が期待されています17

1.4. わきがは遺伝する?ABCC11遺伝子との関係

わきがは、生活習慣や衛生状態よりも、遺伝的要因が大きく影響する体質であることが科学的に証明されています。特に「ABCC11」という遺伝子が一つの鍵を握ります3。この遺伝子には2つのタイプがあり、どちらを受け継ぐかによって、アポクリン汗腺の活動レベルが決まります。
このABCC11遺伝子は、耳垢のタイプ(湿性か乾性か)も決定づけることが知られています。

  • 湿性耳垢(ウェットタイプ): 耳垢が湿って粘り気がある場合、わきが体質である可能性が非常に高いです。
  • 乾性耳垢(ドライタイプ): 耳垢がカサカサと乾いている場合、わきが体質である可能性は極めて低いとされています。

両親のどちらかがわきが体質の場合、子供に遺伝する確率は約50%、両親ともにわきが体質の場合は約80%とされています22。これは紛れもない生物学的な特徴であり、決して恥じることではないという事実を、ご本人もご家族も理解することが大切です。


2. わが子はわきが?家庭でできるセルフチェックと受診の目安

「もしかして、うちの子はわきがなのだろうか?」と悩む保護者の方は少なくありません。医療機関を受診する前に、ご家庭でできる客観的なチェック方法を知っておくことは、冷静な判断の助けになります。

2.1. 専門家が推奨するセルフチェックリスト

以下の項目は、多くの医療機関で診断の参考にされている客観的な指標です。複数当てはまる場合は、腋臭症の可能性が高いと考えられます。

  1. 耳垢のタイプを確認する: 日本形成外科学会も指摘するように、耳垢が湿っている(飴色で粘り気がある)ことは、わきが体質と強く関連する最も信頼性の高い指標の一つです28
  2. 衣服のシミをチェックする: アポクリン汗にはリポフスチンという色素成分が含まれるため、下着やシャツのわきの部分に、洗濯しても落ちにくい黄ばみができやすくなります。これは特に白い衣服で顕著です2
  3. 家族歴を確認する: 前述の通り、わきがは遺伝性が強いため、ご両親や祖父母にわきが体質の方がいるかどうかは重要な情報です3
  4. ガーゼテストを行う: 清潔なガーゼをわきに数分間挟み、取り出してにおいを確認します。直接わきのにおいを嗅ぐよりも客観的に判断しやすくなります8

2.2. 病院へ行くべき?受診を検討するタイミング

セルフチェックでわきがの可能性が高いと感じても、すぐに治療が必要とは限りません。しかし、以下のような状況が見られる場合は、専門医への相談を積極的に検討すべきタイミングです。

  • 市販の制汗剤やデオドラント剤など、ご家庭での対策ではにおいを十分にコントロールできない。
  • においが原因で、本人が学校生活や友人関係に消極的になっている。
  • 本人が自分のにおいを過度に気にしたり、自信をなくしたりするなど、精神的なストレスの兆候が見られる。
  • 友人からの指摘や、いじめにつながるような言動が実際に起きている5

特に、いじめは子供の心に深刻で長期的な傷を残す可能性があります。ためらわずに専門家の助けを求めることが、お子様を守る上で非常に重要です。

2.3. 何科を受診すればいい?皮膚科と形成外科の役割

わきがの相談で病院に行く際、どの診療科を選べばよいか迷うかもしれません。主に「皮膚科」と「形成外科」が専門となりますが、それぞれ役割が異なります。

  • 皮膚科: 多くの場合、最初の相談窓口となります。正確な診断を行い、わきがと多汗症(汗の量が多い状態)との鑑別、他の皮膚疾患の可能性の除外などを行います。治療としては、保険適用の外用薬(塗り薬)や自費診療のボトックス注射など、主に非侵襲的〜低侵襲的な方法を扱います。
  • 形成外科: より根治的な治療を専門とします。特に、保険適用となる手術療法(剪除法など)は形成外科の領域です。皮膚科での治療で効果が不十分な場合や、根本的な解決を望む場合に紹介されることが多いです。

まずはかかりつけの皮膚科医に相談し、診断と治療の選択肢について説明を受け、必要に応じて形成外科を紹介してもらうのが一般的な流れです。


3. 日常生活でできる科学的根拠に基づく対策(セルフケア)

医療機関での専門的な治療と並行して、あるいは軽度の場合の対策として、日常生活でのセルフケアも重要です。ただし、これらの方法はにおいを一時的に軽減・抑制するものであり、「根本的に治す」ものではないことを理解しておく必要があります。

3.1. 清潔の徹底:正しい入浴法と抗菌石鹸の選び方

においの原因は汗そのものではなく、細菌による分解です。したがって、皮膚を清潔に保ち、細菌の繁殖を抑えることが基本となります。朝晩2回のシャワーが理想的です。特にわきの下は、殺菌・抗菌成分が含まれた薬用石鹸やボディソープを使い、よく泡立てて優しく洗いましょう。ゴシゴシこすりすぎると皮膚を傷つけ、かえって細菌が繁殖しやすくなるため注意が必要です18

3.2. 衣類の工夫:通気性の良い素材選びと洗濯のコツ

湿った環境は細菌の温床です。吸湿性・通気性に優れた綿や麻などの天然素材の衣類を選び、わきの下が蒸れないようにしましょう。化学繊維の下着は避け、こまめに着替えることも有効です。洗濯の際は、酸素系漂白剤を使用すると、においの原因菌や黄ばみを効果的に除去できます18

3.3. 制汗・デオドラント剤の正しい使い方と成分

市販の製品を正しく使うことで、日中のにおいをかなりコントロールできます。製品には主に2つのタイプがあります。

  • 制汗剤(アンティパースピラント): 塩化アルミニウムなどの成分が汗腺にフタをして、汗の分泌自体を物理的に抑えます。汗の量が多い場合に有効です。
  • デオドラント剤: 殺菌成分(イソプロピルメチルフェノールなど)でにおいの原因菌の繁殖を抑えたり、消臭成分で発生したにおいを中和したり、香料でマスキングしたりします。

入浴後など、皮膚が清潔で乾いた状態で使用するのが最も効果的です1

3.4. 食生活やストレス管理は影響する?科学的見解

「肉や脂肪の多い食事はわきがを悪化させる」といった情報が見られますが、食事内容がアポクリン汗腺の活動やにおいの質に直接的に与える影響については、現在のところ明確な科学的根拠は限定的です1。バランスの取れた食事を心がけることが基本です。一方で、精神的なストレスは交感神経を刺激し、アポクリン汗腺からの発汗を促すことが知られています。リラックスできる時間を持つ、適度な運動をするなど、ストレスを上手に管理することは、間接的ににおいのコントロールに役立つ可能性があります。


4. 医療機関での専門的治療法:選択肢の徹底比較

セルフケアで十分な効果が得られない場合、医療機関では科学的根拠に基づいた様々な治療法が提供されています。それぞれの治療法には長所と短所があり、保険適用の有無も異なります。医師と十分に相談し、ご自身の状態やライフスタイルに最適な選択をすることが重要です。

4.1. 治療法を選択する前に:医師による正確な診断と「自臭症」の可能性

治療を開始する前に最も重要なのは、専門医による正確な診断です。医師は、問診や視診に加え、客観的な評価尺度を用いて重症度を判断します。例えば、日本皮膚科学会のガイドラインでは、多汗症の重症度を評価するためにHDSS(Hyperhidrosis Disease Severity Scale)という4段階のスケールが用いられ、これが腋臭症の生活への影響度を測る参考にもなります9
また、稀に「自臭症(じしゅうしょう)」という状態のことがあります。これは、本人は強いにおいがあると確信しているものの、客観的には他者が認識できるほどのにおいが存在しない、一種の心気的な悩みです。専門医の診察は、このような状態を鑑別し、不要な治療を避けるためにも不可欠です20

4.2. 塗り薬(外用薬)による治療【保険適用】

軽度から中等度の腋窩多汗症(わきの多汗)を伴うわきがに対して、近年、保険適用のある優れた外用薬が登場し、治療の第一選択肢となっています。

  • エクロックゲル5%(ソフピロニウム臭化物): 2020年に承認されたゲル状の塗り薬です。神経伝達物質アセチルコリンの働きをブロックし、汗の分泌を抑えます10
  • ラピフォートワイプ2.5%(グリコピロニウムトシル酸塩水和物): 2022年に承認された、1回使い切りのワイプ(拭き取り)タイプの薬剤です。同様に発汗を抑制します。

これらの薬剤は、日本皮膚科学会の診療ガイドライン2023年改訂版でも推奨されており9、安全性と有効性が確立されています。毎日継続して使用する必要があります。

4.3. ボトックス(ボツリヌス)注射

ボトックス注射は、わきの下の皮膚にボツリヌス毒素製剤を注射する方法です。この製剤は、発汗を促す神経伝達を一時的に遮断する作用があり、エクリン汗腺とアポクリン汗腺両方の活動を抑制します。

  • 効果: 注射後数日で効果が現れ、通常4〜6ヶ月程度持続します。効果が切れると再度の注射が必要です。
  • 対象: 中等度から重度で、手術には抵抗がある方に適しています。
  • 安全性: 米国で行われた研究では、12歳から17歳の思春期の患者においても高い有効性と安全性が確認されており、青少年への適用も可能な選択肢とされています1415
  • 保険: 重度の原発性腋窩多汗症と診断された場合には保険適用となることがありますが、腋臭症のみを目的とする場合は自費診療となるのが一般的です。

4.4. マイクロ波治療(ミラドライ)

ミラドライは、マイクロ波(電子レンジと同じ原理)を利用して、皮膚の上から汗腺(エクリン汗腺・アポクリン汗腺)を熱によって破壊する治療法です。

  • 特徴: 皮膚を切開しないため、傷跡が残らず、ダウンタイム(回復期間)が短いのが最大の利点です。一度破壊された汗腺は再生しないため、効果は長期間持続するとされています。
  • 有効性: 2024年の最新の研究報告を含む複数の臨床研究で、HDSSスコアの改善や発汗量の減少など、高い有効性が示されています1627
  • 注意点: 治療費が高額(数十万円単位)で、公的医療保険は適用されません。また、一度で満足な効果が得られず、複数回の治療が必要になる場合もあります。

4.5. 手術による治療(剪除法など)【保険適用】

剪除法(せんじょほう)は、わきが治療の中で最も歴史があり、根治性が高いとされる方法です。わきの下の皮膚を数センチ切開し、皮膚を裏返してアポクリン汗腺を目で直接確認しながらハサミなどで一つ一つ切除していきます。

  • 効果: においと汗の原因となる組織を物理的に除去するため、効果は永続的で、再発率が最も低いとされています。日本形成外科学会のガイドラインでも強く推奨されています813
  • 保険適用: 医師により腋臭症と診断され、日常生活に支障をきたす重症度であると判断された場合、公的医療保険が適用されます。
  • 注意点: 外科的な手術であるため、術後数週間は腕の動きが制限されるなど、一定のダウンタイムが必要です。また、体質によっては傷跡が残る可能性があります。

一部のクリニックでは、患者や家族に切除した汗腺を見せてくれることもあり、治療の効果を実感しやすいという側面もあります2

4.6.【重要】治療法比較一覧表:効果・費用・保険・ダウンタイムで選ぶ

これまでの情報を基に、各治療法の選択を助けるための一覧表を作成しました。ご自身やご家族の状況と照らし合わせ、医師との相談の際にご活用ください。

各治療法の比較
治療法 効果の高さ・持続性 費用の目安 保険適用 ダウンタイム(回復期間) 主な対象
外用薬(塗り薬) 中程度(継続が必要) 低い(保険適用時) あり なし 軽度〜中等度の多汗を伴うわきが
ボトックス注射 高い(一時的:4〜6ヶ月) 高い(自費診療) 多汗症で条件を満たせば可 ほぼなし 中等度〜重度、手術を避けたい方
ミラドライ 高い(長期間) 非常に高い(自費診療) なし 短い(数日〜1週間) 中等度〜重度、非侵襲的治療を望む方
手術(剪除法) 非常に高い(永続的) 低い(保険適用時) あり(重症度による) 長い(数週間) 重度、根治を望む方、他の治療で効果がなかった方

5. 思春期の心を守る:わきがによる「いじめ」と悩みに向き合う

思春期のわきがは、単なる身体的な問題に留まりません。それは子供の心に深い影を落とし、自己肯定感や社会性を育む上で大きな障壁となり得ます。特に日本社会の文脈では、この問題はより深刻な側面を持ちます。

5.1. なぜ「におい」がいじめに繋がりやすいのか?日本の社会的背景

日本では、古くから集団の和(わ)を重んじ、他者に迷惑をかけないことが美徳とされてきました。この文化的背景の中で、「におい」のような目に見えないが他者に感知されるものは、「周囲への配慮が欠けている」という誤った認識につながりやすく、個人の違いが際立ってしまうことで、残念ながらからかいやいじめの格好の標的となり得ます56。この問題は、不登校や引きこもりといった、より深刻な事態へと発展する危険性もはらんでおり、決して軽視することはできません。

5.2. お子さんへの伝え方とサポート:保護者の皆様へ

お子様がにおいのことで悩んでいると気づいた時、保護者の対応は極めて重要です。以下の点を心に留めて、お子様の最大の味方になってあげてください。

  1. 決して責めない、恥ずかしがらせない: 「不潔だから」「もっと体を洗いなさい」といった言葉は、子供を深く傷つけます。わきがは遺伝的な体質であり、本人のせいではないことを、まず保護者自身が理解し、そのように伝えてください。
  2. 医学的な事実を一緒に学ぶ: この記事のような信頼できる情報源を基に、「これは病気ではなく、ホルモンの働きで起こる体の仕組みなんだよ」と科学的に説明してあげましょう。正しい知識は、漠然とした不安を和らげます。
  3. 積極的に解決策を探す姿勢を見せる: 「大丈夫、一緒に治す方法を探そう」と前向きな姿勢を示すことで、お子様は孤独感から解放されます。一人で悩ませず、医療機関への受診にも必ず付き添ってあげてください。
  4. 治療法の決定に本人の意思を尊重する: 医師の説明を一緒に聞き、それぞれの治療法のメリット・デメリットを理解した上で、最終的にはお子様の気持ちを尊重して治療方針を決定することが、本人の主体性を育む上で大切です。

5.3. 悩みを相談できる窓口

悩みがいじめに発展してしまった場合や、お子様の精神的な落ち込みが激しい場合は、学校のカウンセラーや、公的な相談窓口に助けを求めることも重要です。例えば、文部科学省が管轄する「24時間子供SOSダイヤル」など、専門家が話を聞いてくれる場所があります。一人で、あるいは家族だけで抱え込まず、外部のサポートを活用する勇気も必要です。


よくある質問(FAQ):専門家による回答

Q1: わきがは大人になったら自然に治りますか?

アポクリン汗腺の活動は、思春期をピークに年齢と共に多少落ち着く傾向があり、においが少し弱まる可能性はあります。しかし、わきが体質(ABCC11遺伝子を持つ)自体が変わるわけではないため、治療をしない限り、においが完全になくなることは通常ありません。多くの場合、症状は生涯続くと考えられています2

Q2: 治療は痛いですか?麻酔はしますか?

治療法によって異なりますが、痛みへの配慮は十分になされます。ボトックス注射やミラドライ治療では、治療部位に麻酔クリームを塗布したり、局所麻酔薬を注射したりすることで、施術中の痛みは大幅に軽減されます。剪除法などの手術は、局所麻酔下で行われるため、手術中に痛みを感じることはありません。術後に痛みが出る場合がありますが、処方される痛み止めでコントロール可能です30

Q3: 治療後に再発する可能性はありますか?

再発の可能性は治療法によって大きく異なります。アポクリン汗腺を直接除去する剪除法は、最も再発率が低い根治的な治療法です13。ミラドライも汗腺を破壊するため長期的な効果が期待できますが、一部の汗腺が残存・再生し、再治療が必要となる可能性もゼロではありません。ボトックス注射は効果が一時的であるため、効果を維持するためには定期的な再治療が必要です。

Q4: 治療費はどのくらいかかりますか?

費用は治療法と保険適用の有無によって大きく変動します。医師の診断に基づき、重度の腋臭症と認められた場合の手術(剪除法)や、多汗症に対する外用薬は、公的医療保険が適用され、自己負担額は数万円程度に抑えられることが一般的です。一方、ミラドライや美容目的のボトックス注射は自費診療となり、数十万円単位の高額な費用がかかる場合があります。具体的な金額については、必ず治療を検討している医療機関に直接お問い合わせください。

結論

思春期のわきが(腋臭症)は、多くの若者とその家族にとって、深く、そして複雑な悩みです。しかし、本稿で詳述してきたように、これは決して個人の責任ではなく、明確な科学的根拠を持つ医学的な状態であり、信頼性の高い様々な治療法が存在します。重要なのは、正しい知識を基に、憶測や偏見から自由になることです。わきがは、ホルモンと遺伝子、そして皮膚の常在菌が織りなす、ごく自然な身体の特性の一つです。そして、その特性が日常生活や心の健康に大きな影響を及ぼす場合には、効果的な医療の介入が可能です。

この記事で提示したセルフチェック、セルフケア、そして医療機関での治療法の比較が、皆様にとって最適な道筋を見つけるための羅針盤となることを願っています。特に、保険が適用される外用薬や手術から、最新の自費診療まで、それぞれの選択肢には明確な利点と考慮すべき点があります。最終的な決断は、ご本人とご家族が、専門医からの十分な説明に基づき、納得して下すことが何よりも重要です。においの悩みは、一人で、あるいは家族だけで抱え込む必要はありません。専門家への相談は、その悩みから解放されるための、最も確実で賢明な第一歩です。この記事が、その一歩を踏み出す勇気と安心感をもたらす一助となれば幸いです。

免責事項本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的助言を構成するものではありません。健康に関する懸念や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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  23. 女性の汗のニオイ対策、キーワードは「菌」。ニオイの原因と解決方法をガイド. LION. [参照 2025-07-24]. Available from: https://soflan.lion.co.jp/column/16.htm
  24. 急に脇が臭くなった時の原因と対処法|後天的なワキガについて. オドレート. [参照 2025-07-24]. Available from: https://odorate.co.jp/taishulab/wakiga-sudden-onset/
  25. 鉛筆の臭いはワキガ?脇から鉛筆の芯のような臭いがする方へ. オドレート. [参照 2025-07-24]. Available from: https://odorate.co.jp/taishulab/wakiga-pencil/
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