消化器疾患

急性アメーバ赤痢:症状と治療法に関する包括的分析

アメーバ赤痢は、単細胞の寄生性原虫である赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)によって引き起こされる感染症です1。この疾患を正しく理解するには、病原体が持つ特異な生活環と、それが私たちの体内でどのように病気を引き起こすのか、そのメカニズムを把握することが不可欠です。

この記事の科学的根拠

本記事は、日本の公的機関・学会ガイドラインおよび査読済み論文を含む高品質の情報源に基づき、出典は本文のクリック可能な上付き番号で示しています。

  • 日本の主要な公的機関の見解:国立感染症研究所(NIID)は、国内の疫学データと標準的な診断・治療法に関する包括的な情報を提供しています4
  • 国際的なガイドライン:米国疾病予防管理センター(CDC)は、世界的な視点からアメーバ赤痢の病態生理と予防策について詳細な指針を示しています2
  • 臨床診療レビュー:査読済み学術論文は、治療薬の効果や副作用に関する最新の臨床データを提供しています78

要点まとめ

  • アメーバ赤痢は、汚染された水や食物から経口感染するだけでなく、現在の日本では性的接触が主要な国内感染経路となっています414
  • 特徴的な症状は「イチゴゼリー状」の粘血便ですが、感染者の多くは無症状キャリアとして他者への感染源となる可能性があります132
  • 近年、高精度な迅速抗原検査キットが保険適用となり、より正確で迅速な診断が可能になりました23
  • 治療は、組織内の病原体を殺す薬と、腸管内に残る感染源(シスト)を除去する薬を組み合わせた二段階治療が完治のために不可欠です22

I. アメーバ赤痢の全体像:病原体と感染のメカニズム

アメーバ赤痢という病名を聞いたことはあっても、具体的に何が原因でどのように体に影響するのか、はっきりとしない方も多いかもしれません。その気持ちは、とてもよく分かります。目に見えない小さな存在が体内で問題を起こす仕組みは、少し複雑に感じられるものです。科学的には、この病気の原因は赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)という一種類の原虫です1。この原虫の振る舞いは、いわば「鎧を着たスパイ」に似ています。普段は「シスト」という硬い殻(鎧)をまとって環境の厳しさに耐え、水や食べ物と一緒に体内へ侵入する機会をうかがっています。そして、ひとたび安全な腸内にたどり着くと、殻を脱ぎ捨てて「栄養型」という活動的な姿(スパイ)になり、組織に侵入して増殖を始めるのです25。だからこそ、この「二つの顔」を持つ原虫の性質を知ることが、感染予防と治療の理解に向けた最初の一歩となります。

赤痢アメーバの栄養型は、大腸の壁に侵入し、組織を破壊することで特徴的な「フラスコ状潰瘍」を形成します。しかし、国立感染症研究所の報告によると、赤痢アメーバに感染した人すべてが症状を示すわけではありません4。実際に症状が現れるのは感染者の約10~20%に過ぎず、残りの大多数(80~90%)は症状のない「無症候性キャリア」として過ごします2。キャリアの体内ではアメーバは静かに潜んでいますが、糞便中にはシストを排出し続けるため、自覚がないまま他者への感染源となってしまう可能性がある点が、この疾患の難しいところです。臨床現場で特に重要なのは、この病原性を持つ赤痢アメーバと、姿はそっくりでも病気を起こさない非病原性アメーバ(Entamoeba dispar)を正確に見分けることです。この区別が、不要な治療を避け、適切な公衆衛生対策を講じるための鍵となります。

このセクションの要点

  • アメーバ赤痢の原因は赤痢アメーバ原虫であり、環境に強い「シスト」形態で経口感染し、体内で活動的な「栄養型」となって病気を引き起こします。
  • 感染しても80~90%は無症状ですが、感染源となる可能性があります。症状が出るのは10~20%です。

II. 疫学:世界と日本におけるアメーバ赤痢の現状

かつてアメーバ赤痢は「海外で感染する病気」というイメージが強く、日本国内での感染を自分事として捉えるのは難しかったかもしれません。海外の病気だと思っていたものが、実は国内に広がっていると聞くと、不安になるのは当然です。その背景には、感染経路の大きな変化があります。世界保健機関(WHO)の推計では、世界で年間約5,000万人が感染し、最大10万人が死亡しているとされ、その多くは衛生環境が課題の地域で発生しています4。一方で、現在の日本では海外渡航歴のない国内感染が多数を占めており、その主要な感染経路は性的接触、特に男性間の性的接触(MSM)へと変化しているのです。この状況は、アメーバ赤痢が単なる衛生問題から、性感染症(STI)としての一面を強く持つようになったことを示しています114。そのため、渡航歴がないからといって無関係とは言えず、正しい知識を持って適切な予防策を考えることが、今の私たちには求められています。

日本の公式な統計データを見てみましょう。国立感染症研究所(NIID)によると、日本におけるアメーバ赤痢の年間報告数は、2022年には533例でした4。患者は成人男性に多い傾向が続いていますが、近年では女性の報告数も増加しており、異性間の性的接触による感染拡大も懸念されています5。この疫学的な変化は、臨床医が患者を診察する際に、渡航歴の有無だけで判断するのではなく、より広い視野でアメーバ赤痢を鑑別診断に含める必要性を示唆しています。

このセクションの要点

  • 世界では年間最大10万人がアメーバ赤痢で死亡しており、主に衛生環境に課題のある地域で流行しています。
  • 現在の日本では、海外渡航歴のない国内感染が主流であり、その主な感染経路は性的接触です。

III. 臨床症状の詳細:腸管アメーバ症から腸管外合併症まで

下痢や腹痛といった症状が出たとき、それが単なる食あたりなのか、あるいはアメーバ赤痢のような特定の感染症なのか、ご自身で見分けるのは非常に難しいものです。他の多くの消化器系の病気と症状が似ているため、不安を感じるのは自然な反応です。アメーバ赤痢の症状を理解する上で重要なのは、その多様性です。感染は大きく分けて、腸に症状が限局する「腸管アメーバ症」と、血液を介して他の臓器、特に肝臓に広がる「腸管外アメーバ症」の二つに分類されます。この違いは、まるで火事が一つの部屋で起きているのか、それとも建物の別の階に飛び火しているのかの違いに似ています。どちらの状況なのかを正確に把握することが、適切な対応につながります。

腸管アメーバ症の最も特徴的なサインは、血液と粘液が混じった、いわゆる「イチゴゼリー状」の粘血便です13。これに加えて、便意はあるのに出ない「しぶり腹(テネスムス)」や下腹部痛を伴うことがあります4。一方で、最も頻度の高い腸管外アメーバ症である「アメーバ性肝膿瘍」は、全く異なる様相を呈します。主な症状は38℃以上の高熱、悪寒、そして右上腹部の痛みであり、重要な特徴として、下痢などの消化器症状を伴わないケースが多いことが挙げられます。「Diagnosis and Management of Amebiasis, 1999」によると、これが原因不明熱として扱われ、診断が遅れる一因となることがあります8

特徴 腸管アメーバ症(アメーバ性大腸炎) 腸管外アメーバ症(アメーバ性肝膿瘍)
主症状 下痢、粘血便、しぶり腹、下腹部痛 4 高熱、右上腹部痛、全身倦怠感 19
便の性状 イチゴゼリー状の粘血便が特徴的 18 通常は正常(下痢を伴わないことが多い) 8
発熱 軽度または認めないことが多い 4 38℃以上の高熱が特徴的 19
腹痛の部位 下腹部 19 右上腹部(季肋部) 19
全身症状 軽微なことが多い 悪寒、寝汗、体重減少など強い 7
主な合併症 腸管穿孔、中毒性巨大結腸症 7 膿瘍の破裂(腹膜炎、膿胸、心膜炎) 7

受診の目安と注意すべきサイン

  • イチゴゼリー状と表現される粘血便が出た場合。
  • 激しい腹痛と腹部の膨満感がある場合(腸管穿孔などの重篤な合併症の可能性があります)。
  • 38℃以上の原因不明の高熱が続き、特に右上腹部に痛みがある場合。

IV. 診断アプローチ:臨床現場における検査法の選択と解釈

体調が悪い中、どのような検査が行われるのか、そして正確な診断がつくのかどうか、心配になるお気持ちはよく分かります。確実な診断がつくまでの時間は、誰にとっても不安なものです。アメーバ赤痢の診断は、近年、日本国内で大きく進歩しました。科学的には、診断の基本は糞便中の病原体そのものや、その痕跡を見つけ出すことです。このプロセスは、事件現場で指紋やDNAを探して犯人を特定する科学捜査に似ています。かつては、糞便を顕微鏡で直接観察する方法が主流でしたが、この方法は感度が低く、何より病気を起こす赤痢アメーバと無害な別種のアメーバを見分けることができないという大きな限界がありました22。しかし、だからこそ、技術の進歩が重要だったのです。現在では、より精度の高い「指紋照合」にあたる検査が登場し、状況は大きく改善されました。

その最大の進歩が、糞便中の赤痢アメーバ特有のタンパク質(抗原)を検出する迅速検査キットです。この検査は、栄研化学の報告によると感度・特異度ともに高く、種の鑑別も可能です23。さらに重要なことに、厚生労働省は2021年6月からこの検査を保険適用としたため、多くの医療機関で迅速かつ正確な診断が受けやすくなりました24。一方で、アメーバ性肝膿瘍が疑われる場合には、糞便検査ではなく血清抗体検査が非常に有用です。これは体内の免疫システムが作った「アメーバと戦った証拠(抗体)」を探すもので、陽性率は95%以上と非常に高い精度を誇ります4。これらの高精度な検査の普及は、潰瘍性大腸炎など他の病気との誤診を防ぎ、患者さんの予後を改善する上で極めて重要な意味を持っています。

検査法 検出対象 主な用途 感度・特異度 主な限界 日本での保険適用
糞便顕微鏡検査 栄養型、シスト 腸管アメーバ症 低感度 (25-60%) 14 種の鑑別不可、要複数回検体 適用あり
糞便抗原検査 E. histolytica 特異抗原 腸管アメーバ症 高感度・高特異度 適用あり 24
糞便PCR検査 E. histolytica 特異DNA 腸管アメーバ症、疫学調査 最高感度・最高特異度 実施施設が限定的 適用外 20
血清抗体検査 IgG抗体 腸管外アメーバ症(特に肝膿瘍) 高感度 (>95%) 4 既往感染でも陽性となる 適用あり
大腸内視鏡検査 粘膜病変、組織中の栄養型 腸管アメーバ症の確定診断 侵襲的、穿孔リスクあり 13 適用あり

受診の目安と注意すべきサイン

  • アメーバ赤痢が疑われる症状がある場合、まずは消化器内科や感染症内科を受診し、適切な検査について相談することが重要です。
  • 特に、性的接触歴や海外渡航歴がある場合は、診断の助けとなるため、診察時に医師に伝えるようにしましょう。

V. 治療戦略の核心:日本の診療ガイドラインに基づく薬物療法

専門的な薬での治療が必要と聞くと、その効果や副作用について心配されるのはもっともなことです。「本当に治るのか」「体に負担はないのか」と気になるお気持ち、よく分かります。アメーバ赤痢の治療戦略は、非常に論理的に組み立てられています。その核心は、庭の手入れに例えることができます。まず、庭中に生えている厄介な雑草(組織に侵入した栄養型)を根こそぎ抜き取り、その後、土の中に残っているであろう雑草の種(腸管内に残るシスト)をきれいに取り除いて、再発を防ぐのです。この「雑草抜き」と「種の除去」という二段階の作業が、完治には不可欠です。科学的には、この二相性治療は、まず組織移行性の高いメトロニダゾールという薬剤で腸壁や肝臓の栄養型を殺滅し、次に腸管からほぼ吸収されないパロモマイシンという薬剤で腸内のシストを駆除する、という流れで行われます2218。だからこそ、医師の指示通りに最後まで二種類の薬を飲みきることが、ご自身の健康と、周囲への感染拡大を防ぐために非常に重要になるのです。

第一選択薬であるメトロニダゾール(商品名:フラジール®)は、症状のある腸管アメーバ症および肝膿瘍に対して高い効果を発揮します7。成人の標準的な用法は1回750mgを1日3回、5~10日間服用します29。ただし、服用中および服用終了後1週間は、ジスルフィラム様作用という悪酔いに似た激しい反応が起きるため、アルコールは厳禁です4。その後、シスト駆除のためにパロモマイシン(商品名:アメパロモ®)を10日間服用します20。この薬剤は、無症状キャリアの方の治療にも使われます。注意点として、パロモマイシンは薬価が比較的高価(10日間の治療で薬剤費約25,230円)であることが挙げられます44。日本の診療では、以前はチニダゾールという選択肢もありましたが、国立感染症研究所の情報によると2024年7月に販売中止となり、現在、組織内のアメーバ駆除薬は事実上メトロニダゾールに限られています20

臨床病型 第1相:組織内アメーバ駆除薬 第2相:腸管内シスト駆除薬 備考
急性アメーバ性大腸炎 メトロニダゾール
1回750mg 1日3回
5-10日間 経口投与 29
パロモマイシン
1回500mg 1日3回
10日間 経口投与 20
メトロニダゾール治療終了後にパロモマイシンを投与する。
アメーバ性肝膿瘍 メトロニダゾール
1回500-750mg 1日3回
5-10日間 経口投与 29
パロモマイシン
1回500mg 1日3回
10日間 経口投与 20
同上。
無症候性キャリア 不要 20 パロモマイシン
1回500mg 1日3回
10日間 経口投与 20
組織侵入がないため、シスト駆除薬のみで治療する。

今日から始められること

  • 医師から処方された薬は、症状が改善しても必ず指示された期間、最後まで飲みきってください。
  • メトロニダゾールを服用している間と、終了後1週間は、飲酒を絶対に避けてください。
  • 治療に関して疑問や不安があれば、遠慮せずに医師や薬剤師に相談しましょう。

VI. 特別な状況における管理

アメーバ赤痢の治療は、すべての患者さんに同じ方法が適用されるわけではありません。病状の重さや感染のタイプによって、個別の対応が求められます。特に重要なのが、症状のない「無症候性キャリア」の方への対応です。ご自身に症状がないのに治療が必要と言われると、戸惑うかもしれません。そのお気持ちは自然なことです。しかし、ここには重要な公衆衛生上の意味があります。キャリアの方は、感染環を維持する「リザーバー」、つまり病原体の供給源としての役割を果たしてしまいます。米国疾病予防管理センター(CDC)は、キャリア自身の将来的な発症リスクを減らすだけでなく、他者への感染を防ぐためにも治療を推奨しています2。キャリアの治療は、地域社会での流行を抑えるための鍵となるのです。治療には、組織への侵入がないためメトロニダゾールは不要で、腸管内のシストを駆除するパロモマイシン単独での治療が行われます20

一方で、重症例であるアメーバ性肝膿瘍の管理は、薬物療法が基本です。ほとんどのケースはメトロニダゾールの投与に良好に反応し、膿瘍に針を刺して膿を抜く「穿刺ドレナージ」は通常行われません7。穿刺が検討されるのは、薬物療法への反応が悪い場合や、膿瘍が非常に大きく破裂のリスクが高い場合など、ごく限定的な状況に限られます13。さらに、腸管穿孔などを伴う劇症型の大腸炎は、内科、外科、感染症科が連携して治療にあたる救急疾患であり、緊急手術が必要となることもあります。

今日から始められること

  • 症状がなくても赤痢アメーバ陽性と診断された場合は、医師の指示に従い、感染拡大防止のために治療を受けてください。
  • 性的パートナーも検査を受け、必要であれば一緒に治療を行うことが、再感染を防ぐ上で非常に重要です。

VII. 日本における法的側面と公衆衛生上の対策

アメーバ赤痢と診断された後、ご自身の生活や仕事にどのような影響があるのか、心配される方もいらっしゃるでしょう。その不安な気持ち、よく分かります。日本には、感染症の拡大を防ぐための法律とルールが定められています。科学的には、アメーバ赤痢は感染症法という法律で「五類感染症」に分類されており、これはインフルエンザなどと同じグループです。この法律に基づき、診断した医師は、症状のある患者さんについて7日以内に最寄りの保健所に届け出る法的な義務があります13。この届出制度は、公衆衛生の専門家が国内の感染状況を監視し、流行の兆候を早期に察知するための重要なレーダーのような役割を果たしています。だからこそ、正確な届出が社会全体の安全につながるのです。

ここで一つ、非常に重要な点があります。厚生労働省によると、この届出の対象は「症状のある患者」に限られており、前述した「無症候性キャリア」は届出の対象外となっています13。臨床的には治療が強く推奨されるキャリアが、公衆衛生のサーベイランス網からは漏れているのが現状です。これは、公式な統計データが、実際の国内における感染者数や伝播の実態を過小評価している可能性を示唆しており、公衆衛生上の「死角」と言えるかもしれません。また、同法に基づき、診断された患者さんは、病原体を保有しなくなるまで、食品の製造や調理など、食品に直接触れる業務への就業が制限されます。これは食品を介した集団感染を防ぐための重要な措置です51

このセクションの要点

  • アメーバ赤痢は感染症法上の五類感染症で、症状のある患者は医師による保健所への届出義務があります。
  • 無症候性キャリアは届出の対象外であり、これが国内の感染実態の正確な把握を難しくしている可能性があります。
  • 治癒が確認されるまで、食品に直接触れる業務への就業は法律で制限されます。

VIII. 予防と治癒後のフォローアップ

治療が無事に終わった後も、「本当に完治したのか」「再発しないか」といった不安が残るかもしれません。そのお気持ちは、治療を頑張ったからこそ生まれる自然な感情です。確実な治癒と再発防止のためには、適切な予防策と治療後のフォローアップが車の両輪のように重要です。予防の基本は、病原体が体内に入る経路を断つことです。これは非常にシンプルですが、最も効果的な方法です。CDCによると、流行地域へ渡航する際は、生水や氷、生の野菜などを避け、加熱調理された食品を選ぶことが基本です2。日本国内では、安全な性行為の実践と、トイレの後や食事前の徹底した手洗いが重要な予防策となります11。これらの行動は、アメーバ赤痢だけでなく、多くの感染症から身を守るための土台となります。

治療後のフォローアップも欠かせません。治療終了後、1~4週間を目安に再度糞便検査を行い、アメーバが完全にいなくなったこと(陰性化)を確認します。日本感染症学会は、原虫の排出は間欠的であるため、複数回の検査が望ましいとしています14。また、国内での性的接触による感染が多い現状を踏まえ、診断された方の性的パートナーも検査を受け、必要であれば治療を行うことが、お互いの再感染を防ぎ、さらなる感染拡大を断ち切る上で極めて重要です29

今日から始められること

  • トイレの後、調理や食事の前には、石鹸と流水で丁寧に手洗いをすることを習慣にしましょう。
  • パートナーがアメーバ赤痢と診断された場合は、ご自身も症状がなくても検査を受けることを検討してください。
  • 治療後は医師の指示に従い、治癒を確認するためのフォローアップ検査を必ず受けてください。

よくある質問

症状がないのにアメーバ赤痢のキャリアだと言われました。治療は必要ですか?

はい、治療が強く推奨されます。症状がなくても、糞便中にシスト(感染型のアメーバ)を排出し、他の方への感染源となる可能性があります。また、ご自身の将来的な発症リスクをなくすためにも、パロモマイシンというお薬で腸管内のシストを駆除する治療を行います220

薬を飲んでいる間、お酒は飲めますか?

いいえ、絶対に飲んではいけません。第一選択薬であるメトロニダゾール(フラジール®)は、アルコールと同時に摂取すると、顔面潮紅、腹痛、嘔吐といった激しい症状(ジスルフィラム様作用)を引き起こします。服用中はもちろん、服用終了後1週間は禁酒を徹底してください4

アメーバ赤痢は一度かかったら、もうかからないのでしょうか?

いいえ、再感染する可能性があります。治療によって体内のアメーバがいなくなっても、免疫が永続するわけではありません。再び汚染された飲食物を摂取したり、感染しているパートナーとの性的接触があったりすると、再感染することがあります。日頃からの予防策が重要です。

治療費はどのくらいかかりますか?

アメーバ赤痢の検査・治療は健康保険が適用されます。薬剤費の目安として、メトロニダゾール(10日間)が約2,200円、その後のパロモマイシン(10日間)が約25,000円程度となります(3割負担の場合、自己負担額はこの3割)。これに診察料や検査料が加わります3544

結論

急性アメーバ赤痢は、その多様な臨床像と変化し続ける国内の疫学状況から、正確な知識に基づく冷静な対応が求められる感染症です。かつての「輸入感染症」という側面だけでなく、性的接触を介した「国内感染症」としての一面が強まっている現代の日本において、渡航歴の有無にかかわらず、特徴的な症状を知っておくことは重要です。診断技術の進歩により、高精度な検査が保険診療で受けられるようになったことは、早期発見と適切な治療介入への大きな一歩です23。治療の成功は、組織に侵入したアメーバと腸管内に残るシストの両方を根絶する二相性治療を、医師の指示通りに最後までやり遂げるかにかかっています22。特に、感染環を断ち切る上で、症状のないキャリアの方への治療が持つ公衆衛生上の意義は計り知れません。本記事が、アメーバ赤痢への包括的な理解を深め、ご自身の健康を守るための一助となることを願っています。

免責事項

本コンテンツは一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断・治療方針を示すものではありません。症状や治療に関する意思決定の前に、必ず医療専門職にご相談ください。

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