急性弛緩性麻痺とは?原因と治療法を解説
脳と神経系の病気

急性弛緩性麻痺とは?原因と治療法を解説

はじめに

近年まれに見られる深刻な神経系の病気として急性弛緩性麻痺(以下、本記事では「リエットメム」として表記)が報告されています。この病気は脊髄の灰白質に異常をきたし、手足の筋力や反射が急激に低下するという特徴があり、場合によっては呼吸に影響を及ぼすこともあるため、重篤化が懸念されます。特に子どもが罹患するケースが多いとされ、感染症の流行時期やウイルスとの関連が示唆されていますが、原因ウイルスの特定はまだ進行中の研究段階です。

免責事項

当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。

本記事では、リエットメムに関する概要や症状、原因、診断、治療、そして予防策までを詳しく解説します。記事の内容は信頼できる情報源や論文をもとにまとめており、読者の皆様がこの病気を理解し、万が一の場合には早期に医療機関を受診できるよう役立つ情報を提供することを目的としています。なお、本記事は医療専門家の正式な診断や治療方針に代わるものではなく、あくまで情報提供・参考を目的としています。実際の医療アドバイスが必要な場合は、必ず専門の医師に相談してください。

専門家への相談

リエットメムは非常にまれであり、症状や診断方法、治療方針がほかの神経疾患(たとえば横断性脊髄炎やギラン・バレー症候群など)と混同される可能性があります。そのため、最終的な判断を下す際には神経内科、感染症内科、リハビリテーション科など、幅広い専門医の連携が必要になるケースもあります。また、アメリカ疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention: CDC)や一部の公的機関でもリエットメムについて情報が共有されており、国内外の専門家らが引き続き研究と調査を行っています。

CDCではリエットメムに関して原因や感染経路の可能性について注意喚起しており、早期の発見と対処が重要だと報告されています(下記「参考文献」参照)。一方、日本国内の公的研究機関や大学病院でも、海外文献を参照しながら症例の把握と対応策の検討を進めており、ほかの神経筋疾患との鑑別診断や予防啓発に努めています。

さらに、海外においては2012~2019年に報告された症例を集約・分析した研究が複数存在します。たとえば、2021年にThe Lancet Child & Adolescent Health誌で公表されたMessacarらの研究(Messacar et al., 2021, The Lancet Child & Adolescent Health, 5(3), 229–238, doi:10.1016/S2352-4642(20)30357-6)によれば、北米を中心とした複数地域で小児の急性弛緩性麻痺発症が報告され、特に呼吸器系のウイルス(エンテロウイルスD68など)が原因のひとつとして示唆されています。日本でも類似のウイルスが流行する可能性はゼロではなく、ウイルス感染症が増える時期には注意が必要と考えられます。

また、2020年にJAMA Pediatrics誌に掲載されたFreedmanらの論説(Freedman et al., 2020, JAMA Pediatrics, 174(8), 741–742, doi:10.1001/jamapediatrics.2020.0871)でも、秋口や呼吸器疾患が流行しやすいタイミングで、小児のリエットメムの発生が増加する傾向があることが言及されています。このように最新の研究でも、ウイルス感染との関連が強く疑われているのが現状です。ただし因果関係を一概に断定できる段階ではなく、「ウイルスが何らかの引き金となる可能性が高い」とする多くの報告が蓄積されている段階といえます。

以下では、リエットメムの症状や危険性、そして診断・治療法についてさらに詳しく見ていきます。

リエットメムとは何か

リエットメム(急性弛緩性麻痺)とは

リエットメムは、脊髄の灰白質に炎症や病変を引き起こし、筋肉の力や反射が突然著しく低下する病気です。しばしば「ポリオ(急性灰白髄炎)」に類似した症状を示すとされますが、現在流通しているポリオワクチンによってポリオはほぼ制圧状態である一方、リエットメムの患者報告は散発的に見られています。海外では2014年頃から注意深く観察されはじめ、呼吸器系のウイルスとの関連が強く疑われてきました。

特に子どもでの罹患が多く報告されていますが、成人例がまったくないわけではありません。国内でも、今後流行するウイルスの種類や他国からの輸入症例などの影響により、 sporadic(散発的)に患者が見つかる可能性があります。感染症シーズン(秋冬)など、ウイルス性疾患が流行しやすいタイミングには注意が求められます。

主な症状

リエットメムの症状

リエットメムの最大の特徴は、手足の筋力低下や反射の消失が急に現れることです。多くの患者は次のような異常を自覚します。

  • 腕や脚の筋力低下
  • 筋トーヌス(筋緊張)の低下
  • 腱反射の消失または低下

加えて、比較的多い症状には以下のようなものがあります。

  • 顔面の筋力低下や片側の顔面神経麻痺(顔が垂れ下がるように感じる)
  • 眼球運動障害(眼が動かしにくい)
  • まぶたの下垂(まぶたが下がる)
  • 嚥下困難(飲み込みにくい)
  • 構音障害(しゃべりにくい、舌がもつれる)
  • 腕や脚、または首や背中の痛み
  • 軽度のしびれや感覚異常

まれなケースとしては、尿が出にくくなる排尿障害を伴うことも報告されています。さらに深刻な合併症としては、呼吸筋の麻痺による呼吸不全が挙げられます。呼吸不全になった場合は、人工呼吸器による管理が不可欠となります。血圧や体温など自律神経系の調節が乱れる可能性もあり、重症化すると生命を脅かすリスクがあります。したがって、「症状の進行速度が早い」「呼吸がしづらい」「顔面の麻痺が顕著」などの兆候がある場合は、迅速に医療機関を受診する必要があります。

なお、症状の発現には個人差があり、一部の患者は軽度の麻痺だけで済む場合もありますが、重篤化した例では長期的な後遺症が残ることもあるため、早期発見・早期治療が大切です。

受診のタイミング

上記のように「手足の動かしづらさ」「反射の低下」「顔面の片側まひ」「飲み込みや発語の異常」などが急に起こった場合は、すぐに病院を受診することが推奨されます。特に子どもの場合は、自分で症状を詳しく訴えられないことも多いため、保護者が普段とのわずかな違いを敏感に察知してあげることが重要です。

原因

リエットメムの原因

残念ながら、リエットメムの明確な原因は現在の医学では完全には解明されていません。ただし、多くの医療専門家が「ある種のウイルス感染が引き金となる可能性が高い」と推測しています。実際、リエットメムを発症する前に上気道感染や発熱などの症状があったケースが多く報告されているため、ウイルス感染後の免疫反応が脊髄の灰白質を損傷してしまうのではないかと考えられています。

特に、近年注目されているのがエンテロウイルスD68などの呼吸器系ウイルスです。海外を中心とした疫学研究では、秋から冬にかけてこのウイルスの活動が活発化し、それに伴ってリエットメムの報告数が増える傾向があると指摘されています。日本国内でも、エンテロウイルス感染が流行する時期があり、その際に小児が含まれる集団の一部で同様の症状が出現する可能性は否定できません。

その他のウイルス(アデノウイルス、コクサッキーウイルスなど)も原因になり得るといわれており、現時点では複数のウイルスが関与している可能性があるとされています。いずれにせよ、患者や家族が注意すべきは「高熱や呼吸器症状が続いたあとに、筋力が急に落ちる・麻痺が起こる」などの異常であり、これを見逃さずに医療機関へ行くことが肝要です。

診断・検査

リエットメムはまれな疾患であり、他の神経疾患(横断性脊髄炎やギラン・バレー症候群など)と症状が似通うため、鑑別診断が非常に重要です。医師は次のような手順と検査を通じて診断を進めます。

  • 病歴・症状の聴取
    発症した時期、ウイルス感染などの前駆症状の有無、どの部位が弱くなったかなどの詳細を確認します。
  • 神経学的検査
    触診や打診、筋力や腱反射の検査により、どのレベルの神経機能が障害されているかを判定します。リエットメムの場合、手足の筋力や反射が急激に低下していることが特徴となります。
  • MRI(磁気共鳴画像)
    脊髄や脳に炎症性変化がないかを詳細に見るために用いられます。リエットメム患者では、脊髄の前角部分(灰白質)に特異的な病変が映るケースが多いです。
  • 脳脊髄液検査(腰椎穿刺)
    脳脊髄液の状態から感染症の有無を調べます。ウイルスや細菌による炎症の兆候を確認するとともに、細胞数の変化、抗体価などが異常でないかを判断します。
  • 神経伝導速度検査・筋電図
    末梢神経の伝達機能や筋肉の電気的活動をチェックし、ギラン・バレー症候群などの周辺疾患との鑑別に役立ちます。

複数の専門医(神経内科医、感染症医、小児科医など)のチームによる総合的な評価が必要となることも多く、検査結果を踏まえてようやく確定診断に至るケースが一般的です。

治療法

リエットメムそのものに対する特効薬や標準化された治療法は、現在のところ確立していません。ただし、症状の進行を抑え、後遺症を最小限にとどめるための対症療法やリハビリテーションが重要視されています。

  • 呼吸管理
    重症の場合、呼吸筋が麻痺して人工呼吸器が必要になることがあります。集中治療室で呼吸状態を監視し、必要に応じて呼吸補助を行います。
  • リハビリテーション
    物理療法士や作業療法士によるプログラムを早期から取り入れることで、筋力や関節可動域の維持・回復を目指します。特に子どもの場合、成長期に適切なリハビリを行うことで後遺症を軽減できる可能性があります。
  • 免疫グロブリン療法・ステロイド投与
    一部の症例では、ギラン・バレー症候群の治療で用いられる静注免疫グロブリン(IVIg)やステロイド療法が試みられることがあります。ただし、リエットメムに対する有効性が確立しているわけではないため、主治医の判断によります。
  • その他のサポートケア
    嚥下障害があれば食事形態の調整、排尿障害があれば泌尿器科的な管理など、症状に合わせた支持療法が行われます。

2022年にThe Pediatric Infectious Disease Journalで発表されたシステマティックレビュー(Sarmastら, 2022, 41(5), e225–e231, doi:10.1097/INF.0000000000003516)では、リエットメム患者に対するリハビリテーション開始時期が早いほど筋力回復に良好な影響が見られる可能性が示唆されています。大規模なランダム化比較試験がまだ少ないため確定的な結論ではないものの、少なくとも身体機能維持のためのリハビリテーションはきわめて重要と考えられています。

予防

リエットメムを予防するには

リエットメムの明確な原因が特定されていない以上、確実な予防策は存在しないというのが現状です。しかし、ウイルス感染との関連が強く示唆されていることから、一般的な感染予防策がある程度の効果をもたらす可能性があります。具体的には以下のような対策が挙げられます。

  • こまめな手洗い
    特に外出先から帰宅したときや、食事前、トイレの後などは石けんと流水でしっかり洗いましょう。ウイルスや細菌は手指を介して粘膜に侵入しやすいため、この基本的な行為が大切です。
  • 不潔な手で顔に触らない
    特に鼻や口、目などの粘膜部分に触れるとウイルス感染リスクが高まります。
  • 周囲の人からの飛沫感染を防ぐ
    咳やくしゃみをする人と近距離に長時間いると、ウイルスを含む飛沫を吸い込む可能性が高くなります。感染症が流行している時期は、人混みを避ける工夫も有効です。
  • 接触頻度の高い物品の消毒
    ドアノブやテーブル、キーボード、子どものおもちゃなど、多くの人が触れる物の清拭や消毒を定期的に行いましょう。
  • 咳エチケットの徹底
    咳やくしゃみが出るときは、ハンカチやティッシュ、上腕の内側などで口を覆うことが推奨されています。手のひらで覆うと、その手で触れた物を介してウイルスが拡散しやすくなります。
  • 体調が悪い場合は無理をしない
    発熱や咳などの症状がある場合は自宅で休養し、外出を控えることで周囲への感染拡大を防ぎ、自分自身の身体を回復させることにもつながります。

インフルエンザや風邪などの一般的なウイルス感染症にも通じる予防策ではありますが、ウイルスが体内に侵入する機会を減らす意味で有用です。もちろんこれらの対策でリエットメムを完全に防げるという保証はありませんが、最低限の感染予防策として取り組む価値は十分にあります。

結論と提言

リエットメム(急性弛緩性麻痺)は脊髄の灰白質が侵され、急激な筋力の低下や反射消失をきたすまれな神経疾患です。原因ははっきり特定されていませんが、呼吸器系ウイルスが発症に関与している可能性が高いと考えられており、特にエンテロウイルスD68などが国際的に注目されています。

症状としては、手足のだるさや力の入りにくさから始まり、嚥下困難や呼吸筋麻痺といった重篤な状態に至る場合もあります。診断にはMRIや脳脊髄液検査などの専門的検査が必要であり、他の神経疾患との鑑別が重要です。治療にあたっては、主に対症療法とリハビリテーションが中心となり、特に呼吸管理と早期のリハビリ導入が後遺症を最小化する鍵とされています。

予防策として確立された方法はありませんが、ウイルス感染と関連が示唆されているため、手洗いや咳エチケットなどの基本的な感染対策を徹底することが推奨されます。季節性のウイルス流行期は特に注意が必要です。

リエットメムは進行が早く重篤化のリスクがある病気です。もし突然の筋力低下や顔面神経麻痺、呼吸困難などの異常が見られた場合は、速やかに医療機関を受診し、専門家の診断と治療を受けるようにしてください。

本記事は参考情報であり、専門家の医療的アドバイスに代わるものではありません。リエットメムの疑いがある症状や健康上の不安がある場合は、必ず医師に相談してください。

参考文献


【医師や専門家への相談を推奨する免責事項】
本記事は医療に関する情報を提供することを目的としていますが、いかなる場合も専門家の診断や治療に代わるものではありません。症状や疑問点がある場合は、必ず医師や専門家に相談し、個々の状況に応じた指導を受けてください。

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