はじめに
寒い季節になると、気管支(肺へ空気を送り込むための通り道)に急性の炎症が生じる「急性気管支炎」が増える傾向があります。成人でも子どもでも発症しやすく、原因の多くはウイルスや細菌です。通常、免疫力が十分にある方なら自宅での対症療法のみで回復することが多い一方で、体力や抵抗力が落ちている方の場合は症状が長引いたり、合併症のリスクが上がったりする懸念があります。本記事では、急性気管支炎の危険性や主な合併症、そして合併症を防ぐためのポイントなどを詳しく解説いたします。季節の変わり目や体調を崩しやすい時期に備え、身近な生活習慣の改善やワクチン接種などを含む予防策もご紹介します。
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専門家への相談
本記事の内容は、複数の医療情報源や関連データをもとにまとめています(後述の参考文献参照)。ただし、個々の状況によって適切な判断や治療法が異なるため、実際に症状がある場合は早めに医療機関を受診し、医師に相談することをおすすめします。また、急性気管支炎は軽症のうちにケアを行えば重症化を防ぎやすいため、“たかが咳” と油断せず、自己判断で放置しないことが大切です。
急性気管支炎とは何か
急性気管支炎とは、気管支の粘膜が急に炎症を起こし、咳・痰・発熱などを伴う状態を指します。ウイルスや細菌によって引き起こされるケースが多く、特に気温が低い季節や体が冷えやすい環境では発症リスクが高まります。また、急性気管支炎と慢性気管支炎(COPDなどの慢性閉塞性肺疾患に含まれることもある)は明確に区別されます。慢性の場合は長期にわたり断続的または持続的に症状が出ますが、急性の場合は数週間ほどで自然に改善することが多いとされています。
ただし、どんな方でも必ず軽快するとは限らず、年齢や基礎疾患の有無によっては症状が長引いたり、肺炎などの合併症を起こすおそれもあります。そのため、「急性気管支炎だから大丈夫」と決めつけず、症状が強い場合や悪化傾向がある場合には医師の診察を受けることが重要です。
急性気管支炎は危険か? 重症化に関するポイント
急性気管支炎自体は、健康な成人であれば一過性の炎症として自然に軽快しやすい病気です。しかし、以下のような条件に当てはまる方や症状が強い場合には、早めの対処が必要となります。
1.基礎疾患や免疫低下の有無
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高齢者(おおむね60歳以上)
年齢を重ねるにつれ免疫機能が低下しやすく、回復も遅れがちです。そのため、急性気管支炎が他の呼吸器感染症と合併し、肺炎へ進展するリスクが高まります。 -
幼児や乳児
子ども、とりわけ乳児や小さな幼児は気管支が細く、免疫機能も十分に発達していないため、重症化しやすい傾向があります。咳や痰が続き、呼吸が浅くなりやすいことで肺炎への移行リスクも否定できません。 -
慢性疾患のある方
慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息、気管支拡張症などの慢性呼吸器疾患がある場合や、心不全、慢性腎不全、糖尿病などの慢性疾患を抱えている方は、呼吸機能や免疫力が低下している可能性があります。結果としてウイルスや細菌による急性気管支炎から回復しにくく、合併症を起こしやすいとされています。 -
免疫抑制療法中の方、免疫系に関する持病がある方
がん治療(抗がん剤、放射線療法)、自己免疫疾患の治療で免疫抑制剤を使用している方などは、感染症に対する防御力が下がっています。そのため、急性気管支炎が長引くだけでなく、重症化や肺炎などへの進行リスクが非常に高まる傾向があると報告されています。
2.症状の強さと持続期間
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初期症状
急性気管支炎は、はじめはのどの痛みや軽い咳、倦怠感、くしゃみ、鼻水といった風邪に似た症状で始まるケースが多いです。その後、次第に痰を伴う激しい咳が出たり、発熱(38℃前後)が見られたり、胸部の不快感を訴えるようになることがあります。 -
警戒すべきポイント
通常、2週間ほどで回復傾向に向かうとされていますが、以下のようなケースでは合併症を疑い、早めに医療機関を受診することが推奨されます。- 5〜7日経っても症状が改善しない、あるいはむしろ悪化している
- 高熱が続いている、または寒気や震えが強い
- 咳や痰がひどく、黄色や緑色の膿性痰が増えている
- 呼吸苦や胸痛がある
- 全身の倦怠感や食欲不振が著しい
こうした症状が持続している場合、ほかの肺や気道の感染症(肺炎など)を発症している可能性があります。
急性気管支炎の主な合併症
急性気管支炎が長引いたり、体力が低下している状態が続くと、以下の合併症が引き起こされる可能性があります。
1.慢性気管支炎への移行
急性気管支炎を適切に治療・管理できず、何度も繰り返したり長期間(少なくとも数か月以上)症状が続く場合、慢性気管支炎に移行する恐れがあります。慢性気管支炎はしつこい咳、持続的な痰の産生、呼吸困難などが見られ、日常生活の質を大きく損なう要因となります。また、慢性気管支炎はCOPDの一形態とも密接に関連し、肺機能低下を進行させる引き金にもなり得ます。
2.肺炎
急性気管支炎のなかで最も重大かつ注意が必要な合併症が肺炎です。2週間以上経過しても咳や痰、発熱がおさまらず、むしろ悪化している場合や強い呼吸困難、胸の痛み、強い寒気を伴う場合などは、細菌感染が下部気道や肺胞へ拡大し、肺炎になっている可能性があります。肺炎の治療は迅速性が求められ、重症化すれば入院治療が必要になることがあります。
肺炎は日本国内でも死亡原因の上位に入り、とくに高齢者や小児、基礎疾患をもつ方では重篤化しやすいとされています。急性気管支炎だと思って放置した結果、肺炎を起こして深刻な状態になることを避けるためにも、自己判断ではなく早めの受診が大切です。
合併症を防ぐには
1.早期受診と適切な治療
「数日のうちに自然に治るだろう」と放置せず、咳や痰、発熱などが続く場合は医療機関を受診することが第一です。医師は聴診や問診、必要に応じて胸部X線検査などを行い、肺炎などの可能性を排除したうえで急性気管支炎の治療方針を決めます。ウイルス性の場合は対症療法が中心ですが、細菌感染が疑われる場合には抗生剤が処方されることもあります。なお、健康な成人では多くのケースでウイルス感染が中心となるため、安易に抗生剤を使用しないことも重要とされます。
近年、抗生剤の不適切な使用による耐性菌問題が世界的に懸念されていることから、安易に抗生剤を乱用することは推奨されません。実際に2021年にドイツで行われた観察研究では、急性気管支炎に対する不要な抗生剤処方が一定数見られたと報告されています(Schaeffer Bら, 2021, BMC Infect Dis, 21(1):1002, doi:10.1186/s12879-021-06541-8)。この研究では、抗生剤が必要なケース(細菌感染が疑わしい場合)かどうかを慎重に評価し、ウイルス感染の場合は対症療法にとどめることの大切さがあらためて示唆されました。日本においても医療者と患者双方が正確な知識を共有することが、耐性菌の出現を防ぎ、合併症リスクを下げるうえで極めて重要です。
2.ワクチン接種を検討する
急性気管支炎の主要な原因となるウイルスのひとつがインフルエンザウイルスです。インフルエンザの流行シーズンや気温の低下が著しい時期には特に注意が必要です。インフルエンザワクチンを定期的に接種することで、インフルエンザに感染するリスクや、感染した場合の重症化リスクを軽減できるとされています。また、肺炎球菌ワクチンも肺炎や肺炎球菌による呼吸器合併症の発症リスクを下げる効果が期待されます。高齢者や基礎疾患のある方は、主治医に相談しながらワクチンの接種を検討することをおすすめします。
3.生活習慣の見直し
合併症を防ぐためには、免疫力をできるだけ維持・向上させることが大切です。日常生活のなかで以下の点を意識してみましょう。
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禁煙または喫煙本数の削減
タバコは気道粘膜を傷つけ、線毛の機能を低下させ、気管支や肺の防御機能を損なうといわれています。急性気管支炎だけでなく、慢性閉塞性肺疾患や肺がんなど、重篤な病気を引き起こすリスクを高めることが知られているため、禁煙は急性気管支炎の合併症予防としても有効な手段です。 -
十分な水分補給
こまめな水分補給は、痰をやわらかくする効果や、気道粘膜の保湿に役立ちます。特に発熱しているときは体内の水分が失われやすいため、温かい飲み物や経口補水液などで水分を補いましょう。 -
保温と保湿
気管支を冷やさないように首や胸をマフラーやタオルで温かく保つと、咳の刺激を軽減しやすくなります。また、乾燥した空気は気道を刺激して咳を誘発しやすいため、室内の湿度管理(加湿器の使用など)にも気を配りましょう。 -
栄養バランスと休養
バランスの良い食生活と十分な睡眠は、免疫力の維持に欠かせません。タンパク質、ビタミン、ミネラルなどを意識して摂り、規則正しい生活リズムを保つことで、自然治癒力を高めます。発熱や咳で夜眠れない場合は、身体をしっかり休ませることを最優先に考え、無理な活動は避けましょう。
4.咳や喉のケア
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のどの保護
マスクやマフラーを活用し、冷たい空気の吸い込みを防ぐとともに、のどを乾燥から守りましょう。特に冬場や乾燥する季節には欠かせない対策です。 -
うがい・口腔内ケア
外出先から帰宅したときなどにうがいを習慣化すると、上気道や口腔内の菌やウイルスを洗い流し、感染予防につながります。また、口腔内の清潔を保つことで気管支への細菌侵入リスクを下げる効果も期待されます。 -
症状を和らげる工夫
咳や痰の症状が強いときは、医師の指示に従って鎮咳薬や去痰薬を使用する場合もあります。市販ののど飴やハーブティーなどで、のどの痛みや刺激を軽減するのも一案です。発熱や全身のだるさがあるときは、解熱鎮痛薬(アセトアミノフェンやイブプロフェンなど)を適宜利用しましょう。ただし、基礎疾患のある方や妊娠中の方などは、自己判断ではなく必ず医師または薬剤師に相談してください。
もし肺炎が疑われる場合
急性気管支炎と診断されても、下記のような症状が出た場合には肺炎の可能性を疑い、早急に医師の診察を受けてください。
- 発熱が高く、寒気や悪寒が強くなる
- 咳や痰がさらに増え、膿のような粘稠な痰が出る
- 胸の痛み、呼吸苦(息切れ、呼吸が苦しい)
- 全身の倦怠感がひどく、食欲不振が著しい
肺炎になってしまった場合、抗生剤の投与や点滴治療などが必要となるケースがあります。体力回復には時間がかかりますので、より早期の診断・治療が予後を左右します。
生活の中で気をつけたいポイント
1.人混みや感染リスクの高い場所を避ける
特に冬場やインフルエンザの流行期には、密閉された空間や人が密集する場所に長時間いることを避けるなど、感染予防に努めることが望ましいです。やむを得ず人混みに行く際にはマスクの着用や手指消毒を徹底することで、気管支炎だけでなくインフルエンザやその他の呼吸器感染症のリスク低減につながります。
2.こまめな手洗い・手指消毒
ウイルスや細菌の多くは手指を通じて口や鼻に侵入する場合が多いといわれています。外出先から帰ったら、必ず石鹸やアルコール消毒を使って手洗い・手指消毒をすることを習慣にしましょう。
3.室内環境を整える
日本では冬場、暖房の使用により室内が乾燥しがちです。空気が乾燥すると気道粘膜が刺激を受け、咳が悪化したりウイルスが侵入しやすくなったりすることがあります。加湿器や濡れタオルの活用、定期的な換気によって適度な湿度を保ち、空気を清潔に保つことが推奨されます。
4.基礎疾患の定期的な管理
慢性呼吸器疾患や心不全、糖尿病などを抱えている方は、主治医の指導のもと、定期的に検査や薬の調整を行いましょう。こうした基礎疾患を安定させることで、急性気管支炎が発症しても重症化しにくくなる可能性があります。
もし症状が長引いたら
咳や痰が数週間以上続く場合、急性気管支炎から慢性気管支炎へ移行している可能性も視野に入れ、医師の再診を受けることが大切です。慢性化を防ぐためにも、症状の推移をメモしておき、診察の際に医師に伝えると正確な評価につながります。もし既存の治療で改善が見られない場合は、他の検査(肺機能検査やCT検査など)を考慮し、より的確な治療を受ける必要があるかもしれません。
結論と提言
- 急性気管支炎は多くの場合、自然治癒が期待できる病気ですが、すべての人が同様に軽快するわけではありません。 特に高齢者、幼児、基礎疾患のある方、免疫低下状態にある方は注意が必要です。
- 症状が悪化または長期化すると、肺炎や慢性気管支炎への移行などの合併症を引き起こす恐れがあります。 2週間以上経っても症状が改善せず、咳・痰・発熱が続く場合は、早めに医療機関で検査を受けましょう。
- ワクチン接種(インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンなど)は予防策として検討価値があります。 とくに高齢者や基礎疾患のある方は、主治医と相談のうえで接種することが推奨されます。
- 生活習慣の改善と自己管理が合併症予防のカギです。 禁煙、水分補給、室内の保温・保湿、十分な栄養と休養を心がけましょう。咳がひどい場合には、適切な鎮咳薬・去痰薬の使用も有効ですが、医師や薬剤師の指示を仰いでください。
本記事でご紹介した情報は、信頼できる医療情報源やガイドラインに基づくものですが、あくまで一般的な参考情報です。特に基礎疾患をお持ちの方や免疫機能に問題を抱える方は、個別の状態に合わせた診断や治療方針を必要とするため、医師の判断が不可欠です。
重要なお願い:
本記事で述べた内容は、医療専門家による正式な診断・治療に代わるものではありません。症状が続く、または悪化する場合は必ず医療機関を受診し、専門家の指導に従ってください。
参考文献
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- Acute Bronchitis. HealthLink BC (アクセス日:2022年2月21日)
- Schaeffer B, Birkhan R, Lemke T, Moths C, Kuhlmann S, Bätzing J. “Antibiotic prescribing for acute bronchitis in Germany: a retrospective observational study.” BMC Infect Dis. 2021;21(1):1002. doi:10.1186/s12879-021-06541-8
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