急性白血病:命を救うための最新治療法とその未来
がん・腫瘍疾患

急性白血病:命を救うための最新治療法とその未来

急性白血病は、血液細胞を産生する骨髄において、未熟な血液細胞(白血病細胞または芽球)が制御不能に増殖する悪性腫瘍です1。この異常な細胞の急激な増殖は、正常な造血機能を著しく阻害し、赤血球、白血球、血板の産生を抑制します。その結果、貧血による倦怠感や動悸、正常な白血球減少による感染症(発熱)、そして血小板減少による出血傾向(あざや鼻血など)といった、生命を脅かす多様な症状が急速に現れます2。この疾患の進行は極めて速いため、診断後速やかな治療介入が不可欠です3

この記事の科学的根拠

本記事は、日本の公的機関・学会ガイドラインおよび査読済み論文を含む高品質の情報源に基づき、出典は本文のクリック可能な上付き番号で示しています。

  • 日本の診療ガイドライン: 日本血液学会の「造血器腫瘍診療ガイドライン」は、国内の診断・治療における最も権威ある基準です6
  • 画期的な臨床試験: 高齢者AML治療を変えたVIALE-A試験16や、CAR-T療法の有効性を示したELIANA試験20など、最新の国際的なエビデンスに基づいています。
  • 公的機関の情報: 国立がん研究センターや医薬品医療機器総合機構(PMDA)など、日本の公的機関からの信頼性の高い情報を含んでいます42

要点まとめ

  • 急性白血病の診断は、細胞の見た目だけでなく、特定の遺伝子変異を特定することが予後予測と治療選択の鍵となります6
  • 治療法は年齢や全身状態、「遺伝子の個性」によって大きく異なり、強力な化学療法、造血幹細胞移植、そして分子標的薬が個別化されて用いられます11
  • ベネトクラクスやFLT3阻害剤などの分子標的薬は、特定の患者群、特に高齢者や予後不良群の治療成績を劇的に向上させました16
  • CAR-T細胞療法は、従来の治療が効かなくなった一部の急性リンパ性白血病に治癒の可能性をもたらす画期的な免疫療法です20
  • 高額療養費制度など日本の公的支援制度を活用することで、経済的負担を大幅に軽減できます。診断後すぐに相談することが重要です30

第1部 急性白血病の病態と診断の最前線

ある日突然、原因不明の発熱や消えないあざ、これまで感じたことのない倦怠感が続き、「これはただのかぜではないかもしれない」と強い不安に襲われる。多くの方が経験するこうした戸惑いは、深刻な病気のサインかもしれません。その気持ち、とてもよく分かります。科学的には、これらの症状の背景に、骨髄という“血液の工場”での異常が隠れていることがあります。これは、例えるなら、工場の生産ラインが故障し、未完成品(白血病細胞)ばかりが大量に作られ、正常な製品(赤血球、白血球、血小板)が出荷できなくなるような状態です1。だからこそ、まずは血液の専門家である血液内科を受診し、「血液検査」や「骨髄検査」という“工場の精密点検”を受けることが、不安を解消し、正しい対策を立てるための不可欠な第一歩となります。

急性白血病の診断と分類は、ここ十数年で劇的に進化しました。かつては顕微鏡で細胞の形を見るFAB分類が主流でしたが(厚生労働省)4、現代の診断は、遺伝子レベルの情報まで踏み込んだ世界保健機関(WHO)分類や欧州白血病ネットワーク(ELN)分類に基づいています(日本血液学会、2024年)6。基本的には骨髄中の未熟な細胞(芽球)が20%以上あると診断されますが、特定の遺伝子異常、例えば急性前骨髄球性白血病(APL)に見られるt(15;17)という特徴的な“設計図のエラー”がある場合は、芽球の割合に関わらず診断が確定します5。この遺伝子情報の特定は、単なる分類にとどまらず、その後の治療方針を決定する最も重要な羅針盤となるのです。

近年、治療効果を測る上で「微小残存病変(MRD)」という概念が非常に重要視されています。MRDとは、化学療法後に通常の顕微鏡では見えなくなったものの、高感度の検査で検出されるごく微量の白血病細胞のことです。これは言わば、大掃除の後もカーペットの奥に残っている微細なホコリのようなものです。この“見えない敵”が残っていると、再発のリスクが非常に高くなることが分かっています(日本血液学会、2024年)9。そのため、現在の治療目標は、目に見える白血病細胞をなくす「完全寛解」から、このMRDさえも検出されない「分子的完全寛解」へと、より高いレベルを目指すようになっています。

受診の目安と注意すべきサイン

  • 原因不明の長引く発熱や、治りにくい感染症
  • 急に現れた、または増えてきた、身に覚えのないあざ(紫斑)
  • これまでにない強い倦怠感、動悸、息切れ、顔色が悪い
  • 鼻血や歯ぐきからの出血が止まりにくい

第2部 日本における標準治療体系:年齢とリスクに応じた層別化戦略

「これほど強力な化学療法に、自分の体は耐えられるだろうか」「高齢だから、もう積極的な治療は受けられないのではないか」—治療法を前にして、こうした不安を抱くのは当然のことです。ご自身の体力や生活に合った最善の道を探したいと願うお気持ちは、私たち医療者も共有しています。科学的には、急性白血病の治療は、もはや画一的ではありません。その核心は「層別化」という考え方にあります。これは、一人ひとりの“白血病の個性”(遺伝子変異など)と“患者さん自身の体力”(フィットネス)を精密に評価し、治療計画をオーダーメイドする戦略です(日本血液学会、2024年)6。そのため、主治医とご自身の希望や体調について十分に話し合い、一緒に治療の地図を描いていくことが、納得のいく治療への第一歩となるのです。

比較的若年(65歳未満が目安)で全身状態が良好な方には、治癒を目指した強力な化学療法が標準治療となります11。治療は、まず白血病細胞を叩く「寛解導入療法」、次に目に見えない残存細胞を根絶し再発を防ぐ「地固め療法」の二段階で行われます。一方、高齢者の場合、暦年齢だけでなく、併存疾患や臓器機能などを総合的に評価し、治療に耐えられるか(Fit)、難しいか(Unfit)を判断します。近年、Unfitと判断された方でも、後述する新しい分子標的薬の登場により、効果的で、かつ体の負担が少ない治療選択肢が生まれ、治療成績が大きく向上しています13

同種造血幹細胞移植(HSCT)は、最も強力な治療法の一つです。これは、大量の化学療法などで患者さん自身の骨髄を空にした後、健康なドナーの造血幹細胞を移植し、“血液の工場”を丸ごと入れ替える治療です。さらに、ドナー由来の免疫細胞が体内に残った白血病細胞を攻撃する「移植片対白血病(GvL)効果」という強力な後押しも期待できます14。遺伝子検査の結果、再発リスクが高いと判断された場合、HSCTは「再発後の最後の手段」ではなく、「初回治療で根治を目指すための戦略」として、早期から計画に組み込まれます。

今日から始められること

  • ご自身の正確な病名、遺伝子変異のタイプ、リスク分類について、主治医に改めて確認し、メモを取る。
  • 治療方針の説明を受ける際は、家族や信頼できる人と同席し、疑問点をリストアップしておく。
  • セカンドオピニオンを検討する場合は、その意向を主治医に伝え、必要な資料(紹介状や検査データ)を準備してもらう。

第3部 分子標的薬の時代:白血病細胞の脆弱性を突く精密医療

「自分のタイプの白血病に、もっとピンポイントで効く薬はないのだろうか」「従来の抗がん剤だけでは再発が怖い」—そうした切実な思いに応える形で、白血病治療は新たな時代を迎えました。その主役が「分子標的薬」です。科学的には、これは白血病細胞が生き残り、増殖するために不可欠な特定の“弱点”(分子)だけを狙い撃ちする薬剤です。この仕組みは、従来の化学療法が“絨毯爆撃”のように正常な細胞にもダメージを与えるのに対し、精密誘導ミサイルが敵の司令部だけを破壊するのに似ています。この進歩により、特にこれまで治療が難しかった患者さんたちの未来が大きく変わりました。

その代表格が、高齢のAML患者さんの治療を塗り替えたBCL-2阻害剤「ベネトクラクス」です。白血病細胞は、BCL-2というタンパク質を使って“自滅プログラム(アポトーシス)”から巧みに逃れています。ベネトクラクスは、このBCL-2の働きを阻害し、白血病細胞に「自ら死になさい」というシグナルを送り返すのです。国際的な大規模臨床試験(VIALE-A試験)では、この薬と低メチル化剤を併用することで、全生存期間が有意に改善することが示され、新たな標準治療となりました(アッヴィ合同会社、2021年)16。ただし、効果が強力な分、多数の細胞が一度に壊れることで起こる腫瘍崩壊症候群(TLS)という重篤な副作用に注意が必要で、入院での慎重な管理が求められます18

もう一つの重要な武器が、FLT3阻害剤です。AML患者さんの約2〜3割に認められるFLT3-ITDという遺伝子変異は、再発リスクが非常に高い“要注意サイン”です。FLT3阻害剤は、この変異によって常にONの状態になっている増殖スイッチをOFFにします。初発のFLT3-ITD陽性AMLに対して、化学療法と「キザルチニブ」を併用する治療法が日本でも承認され、予後不良群の生存率向上が期待されています(日本血液学会、2024年)6。これらの薬の登場は、診断時に遺伝子検査を行い、その結果に応じて最適な薬を選択する「精密医療(プレシジョン・メディシン)」が、白血病治療の現場で標準となっていることを象徴しています。

今日から始められること

  • ご自身の白血病にFLT3などの特定の遺伝子変異があるかどうか、検査結果を主治医に確認する。
  • 分子標的薬の治療対象となる場合、期待される効果と、注意すべき特有の副作用(QT延長や骨髄抑制など)について詳しい説明を受ける。
  • 高額な薬剤費がかかる場合が多いため、後述する高額療養費制度などの経済的支援について、早期に相談を開始する。

第4部 免疫細胞療法の革命:CAR-T細胞療法の実力と課題

「もう標準的な治療法がありません」—そう告げられた時の絶望感は計り知れません。しかし、そのような状況に光を灯したのが「CAR-T(カーティー)細胞療法」です。これは、患者さん自身の免疫細胞(T細胞)を一度体外に取り出し、遺伝子改変技術によって“がん細胞を見つけ出す特殊なレーダー(CAR)”を搭載させて体内に戻す、まさに「生きた医薬品」と呼べる治療法です19。科学的には、この治療は、これまで敵を見過ごしていた免疫システムを再教育し、がんを狩るための“特殊部隊”へと生まれ変わらせる技術と言えます。このアプローチは、がん細胞の内部を攻撃する分子標的薬とは全く異なり、自己の免疫力を最大限に引き出すという点で画期的です。

日本で承認されている「キムリア®」は、25歳以下の再発・難治性のB細胞性急性リンパ性白血病(B-ALL)などに対して用いられます19。その効果は劇的で、国際共同治験(ELIANA試験)では、既存の治療法が尽きた患者さんにおいて81%という驚異的な寛解率を達成し、その効果が長期にわたって持続する、つまり治癒に至る可能性が示されました(日本造血・免疫細胞療法学会)20

しかし、この強力な治療法には特有の副作用が伴います。最も注意すべきは「サイトカイン放出症候群(CRS)」と「神経毒性(ICANS)」です19。CRSは、再教育されたT細胞ががん細胞を攻撃する際に大量の炎症物質(サイトカイン)が放出されることで起こる過剰な免疫反応で、高熱から重篤な血圧低下まで引き起こすことがあります。これらの特殊な副作用を管理するには高度な専門知識と設備が必要なため、CAR-T療法は認定された専門施設でのみ実施されます。また、一人ひとりのために細胞を製造するオーダーメイド治療であるため、3000万円を超える高額な費用がかかりますが、これも公的な保険制度でカバーされます22

今日から始められること

  • ご自身またはご家族の病状がCAR-T療法の適応(対象となる疾患、年齢など)に該当するか、主治医に確認する。
  • 適応の可能性がある場合、国内の実施認定施設は限られているため、どこで治療が受けられるか情報提供を求める。
  • 治療プロセス(細胞採取、製造期間、入院)と特有の副作用(CRS、ICANS)について、事前に十分な説明を受ける。

第5部 治療の未来図:開発中の新薬と次世代細胞療法

「今の治療が効かなくなった時、次の希望はあるのだろうか」—病気と長く向き合う中で、将来の選択肢について知っておきたいと願うのは自然なことです。幸いなことに、急性白血病の治療開発は、今この瞬間も止まることなく前進しています。科学の世界では、現在の治療法の限界を乗り越えるための、新たな挑戦が続けられています。その一つが、CAR-T療法の課題を解決する可能性を秘めた「CAR-NK細胞療法」です。これは、T細胞の代わりに、生まれつきがん細胞を攻撃する能力を持つNK細胞を利用するもので、健康なドナーから“既製品(off-the-shelf)”として大量生産できる可能性があり、治療をより安価に、そして迅速に届けられると期待されています(大阪大学、2025年)14

日本国内でも、未来の標準治療を目指す多くの臨床試験が進行中です。例えば、既存の治療に抵抗性となったAMLに対する新しい薬剤(NS-917)の試験(医薬品医療機器総合機構)10や、ベネトクラクスが効かなくなった原因を克服する新薬候補の研究(広島大学)26など、様々な角度からのアプローチが試みられています。白血病治療の究極の目標は、診断時に包括的なゲノム解析を行い、個々の患者さんが持つ遺伝子変異の全体像に基づいて最適な治療薬を組み合わせる「完全個別化医療」です28。この実現にはまだ課題もありますが、一歩ずつ着実にその未来へと近づいています。

このセクションの要点

  • CAR-T療法の課題(個別製造の時間とコスト)を克服するため、健常ドナーから作る「既製品」型のCAR-NK細胞療法が開発されている。
  • 日本国内でも、既存薬に耐性となった白血病に対する新薬や、治療効果を高めるための新たな戦略を検証する臨床試験が多数進行中である。
  • 究極の目標は、患者一人ひとりの遺伝子情報全体に基づき、最適な治療を組み立てる「完全個別化医療」の実現である。

第6部 経済的・社会的支援制度の徹底活用ガイド(日本国内)

「これほど高額な治療費を、これからずっと払い続けられるのだろうか」「治療のために仕事はどうすれば…」—病気の診断は、心身だけでなく経済的にも大きな不安をもたらします。そのお気持ちは、病と闘う誰もが直面する切実な悩みです。幸い、日本では、そうした負担を支えるための強力な公的制度が整備されています。科学的な治療の進歩と同じくらい、これらの制度を知り、活用することは“治療の一環”です。大切なのは、一人で抱え込まず、診断後できるだけ早い段階で専門家に相談すること。それが、安心して治療に専念するための、賢明な一歩です。

その中心となるのが「高額療養費制度」です。これは、1ヶ月の医療費の自己負担額が、所得に応じて定められた上限額を超えた場合、その超えた分が払い戻されるセーフティネットです30。特に重要なのが、事前に「限度額適用認定証」を申請しておくことです。この認定証を病院の窓口に提示すれば、支払いを自己負担上限額までにとどめることができ、一時的に数百万円を立て替えるといった事態を避けられます31。払い戻しを待つ間の資金繰りの心配がなくなるため、精神的な負担も大きく軽減されます。

その他にも、会社員などが休業する際に給与の一部が補償される「傷病手当金」、年間の医療費に応じて税金が戻ってくる「医療費控除」、小児の場合は「小児慢性特定疾病医療費助成制度」など、様々な支援が存在します(日本骨髄バンク)33。注意点として、これらの制度は申請先がそれぞれ異なるため、病院内にいる医療ソーシャルワーカーや「がん相談支援センター」に相談し、ご自身の状況で利用できる制度を網羅的に確認してもらうことが、漏れなく支援を受けるための鍵となります。

今日から始められること

  • ご自身が加入している健康保険(保険証に記載)に連絡し、「限度額適用認定証」の申請手続きをすぐに行う。
  • 病院の受付や会計窓口で「医療ソーシャルワーカー」または「がん相談支援センター」の場所を尋ね、面談のアポイントメントを取る。
  • 勤務先に病状を報告し、利用可能な休職制度や傷病手当金の申請手続きについて、人事・総務担当者に確認する。

第7部 患者の視点:治療後の生活と社会復帰への道筋

長い治療が終わり、「これで元の生活に戻れる」と安堵する一方で、「また再発するのではないか」という消えない恐怖や、すっかり落ちてしまった体力、社会から取り残されたような焦燥感に襲われる。その複雑な心境は、治療という大きな山を乗り越えた多くのサバイバーが共有するものです。治療のゴールは、がん細胞がなくなることだけではありません。科学がもたらした“時間”を、自分らしく、豊かに生きていくこと。そのために、治療後の心と体の変化にどう向き合い、社会と再びどう繋がっていくかという「サバイバーシップ」の視点が、今、非常に重要になっています。

患者さんが抱える最も根源的な不安は、やはり再発への恐怖です(国立成育医療研究センター)41。また、数ヶ月から年単位に及ぶ入院生活は、社会からの孤立感を深め、精神的に大きな負担となります43。職場復帰を目指す際には、体力低下や「ケモブレイン」と呼ばれる集中力の低下44、そして治療のブランクによる不安など、多くの壁が立ちはだかります。しかし、焦りは禁物です。衝動的に退職するのではなく、まずは休職制度を利用し、復職時には主治医や会社の産業医と連携して、時短勤務など体調に合わせた段階的なプランを立てることが成功の鍵です46

さらに、治療の影響は数年後、数十年後に「晩期合併症」として現れることもあります。二次がんや心臓疾患、不妊など、生涯にわたる健康管理が必要となる場合があり、特に小児・AYA世代(思春期・若年成人)のサバイバーにとっては深刻な課題です(小児がん情報ステーション、2015年)47。治療が終わってからも、定期的なフォローアップを継続し、自身の体の変化に注意を払うことが、長く健康な人生を送るために不可欠です。

このセクションの要点

  • 治療後の最も大きな課題は、再発への恐怖、体力の低下、そして社会からの孤立感など、身体的・心理的・社会的な側面にわたる。
  • 職場復帰は焦らず、休職制度を活用し、主治医や産業医と連携した段階的な計画を立てることが重要である。
  • 化学療法や放射線治療の影響で、数年~数十年後に二次がんや心臓疾患などの「晩期合併症」が起こる可能性があり、生涯にわたる健康管理が求められる。

よくある質問

急性白血病の生存率はどのくらいですか?

生存率は、白血病のタイプ(骨髄性かリンパ性か)、年齢、そして最も重要な遺伝子変異のタイプによって大きく異なります。一概には言えませんが、治療法の進歩により、特に小児や特定の遺伝子タイプを持つ若年成人では、治癒を目指せるケースが大幅に増えています。正確な予後については、ご自身の詳しい病状に基づいて主治医に確認することが最も重要です。

白血病は遺伝しますか?

ほとんどの急性白血病は遺伝性ではなく、後天的な遺伝子変異の蓄積によって偶然発症すると考えられています。家族内で複数の白血病患者さんがいるケースは非常に稀です。そのため、ご自身の子供や兄弟に遺伝するのではないかと過度に心配する必要はありません1

治療にはどのくらいの費用がかかりますか?

治療費は、治療内容(化学療法、移植、新規薬剤の使用など)や入院期間によって大きく変動し、非常に高額になる可能性があります。しかし、日本では「高額療養費制度」があり、所得に応じた自己負担上限額を超えた分は払い戻されます。事前に「限度額適用認定証」を取得すれば窓口負担を抑えられるため、診断されたらすぐに申請手続きを始めることを強くお勧めします30

治療後、普通の生活に戻れますか?

多くの患者さんが治療を乗り越え、学業や仕事、家庭生活に復帰しています。ただし、体力や免疫力が完全に回復するまでには時間がかかります。復帰当初は無理をせず、時短勤務や在宅勤務を活用するなど、段階的にペースを戻していくことが大切です。感染症予防など、生活上の注意点もありますので、主治医や医療ソーシャルワーカーとよく相談しましょう46

結論

急性白血病の治療は、画一的な化学療法が中心だった時代から、個々の患者さんが持つ遺伝子の特徴に合わせて治療法を最適化する「精密医療」の時代へと、大きな変革を遂げました。ベネトクラクスやCAR-T細胞療法といった画期的な新薬・新治療の登場は、これまで救うことが難しかった多くの患者さんに「治癒」という新たな希望をもたらしています。科学の進歩は、着実に白血病を“不治の病”から“治せる病気”へと変えつつあるのです。しかし、その一方で、高度化する医療とどう向き合うか、治療後の人生をいかに豊かに生きるかという新たな課題も生まれています。最新の治療法を正しく理解し、利用できる社会的支援を最大限に活用し、そして何より一人で抱え込まずに医療チームやコミュニティと繋がることが、この長い闘いを乗り越えるための最も確かな力となるでしょう。

免責事項

本コンテンツは一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断・治療方針を示すものではありません。症状や治療に関する意思決定の前に、必ず医療専門職にご相談ください。

参考文献

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