性暴力被害に遭ったときの対処法とは?加害者に科される刑罰とは
性的健康

性暴力被害に遭ったときの対処法とは?加害者に科される刑罰とは

はじめに

私たちの社会では、同意のない性的行為を強要する「性的暴行(性暴力)」の被害に苦しむ人々がいまだに存在しています。被害者は肉体的・精神的に深刻な傷を負い、その後の人生に大きな影響を及ぼしかねません。一方で、性暴力被害に関する話題はまだ十分に語られていない部分も多く、「加害者に抵抗するにはどうすればよいのか」「被害にあった直後はどのように行動すればよいのか」「周囲の人間はどのようにサポートできるのか」など、実践的な情報が不足しているのも事実です。

免責事項

当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。

本記事では、こうした疑問に丁寧に向き合いつつ、性暴力に対してどのように備え、万が一被害にあったときにどのように行動すればいいのか、また被害者を支援するには何ができるのかを総合的に解説します。被害者を決して責めることなく、誰もが安心して声を上げられる社会づくりの一助になれば幸いです。

専門家への相談

本記事では、被害者支援に携わる国内外の公的機関や保健医療機関などが提供する情報を参考にしています。特に以下の公的機関や医療専門家の情報は広く知られており、信頼性が高いと考えられます。

  • 厚生労働省など日本国内の公的機関の情報
  • 世界保健機関(World Health Organization: WHO)が取りまとめた国際的な調査・報告
  • 海外の公的機関(イギリスのNHS、アメリカのCDC、オーストラリアのhealthdirectなど)のガイドライン
  • Planned Parenthood(アメリカ)の被害者支援関連情報

これらの情報に加え、記事内では近年(過去4年以内)に国際的に認められた研究やWHOの報告を引用しながら、可能な限り根拠に基づいた内容を提示することを心がけています。

性的暴行とは何か、そして被害はなぜ深刻なのか

性的暴行は、被害者の同意がないにもかかわらず、強制的に行われるあらゆる性的行為を指します。ここには、物理的な力・脅迫を用いた「レイプ」だけでなく、被害者が状況を認識できない状態(薬物、アルコール、睡眠など)を悪用して行われる行為も含まれます。たとえ加害者が恋人や配偶者であっても、被害者が同意していなければ性的暴行とみなされます。

被害者は身体的な怪我を負う可能性だけでなく、心的外傷後ストレス障害(PTSD)やうつ、不安障害などの精神的影響に苦しむことが少なくありません。日本国内でさまざまな被害者支援活動が存在するにもかかわらず、被害者が警察や医療機関に相談せず、一人で抱え込んでしまうケースも指摘されています。

一方、世界保健機関(WHO)が2021年に発表した報告書によると、世界規模で見ても女性の約3割が(加害者の属性問わず)生涯のどこかの時点で性的暴行やDVの被害を経験していると推計されています(Violence Against Women Prevalence Estimates, 2018. WHO, 2021)。この報告書は複数の国と地域で行われた大規模な疫学調査のデータを統合したものであり、信頼度の高い国際的な統計です。日本を含め、世界中の人々が同様の被害リスクを抱えていることが再確認されています。

なぜ「被害者に非がない」のか

被害者自身が「自分の行動に落ち度があったのでは」と自責しがちな理由として、加害者や周囲の人間からの心ない言葉が挙げられます。しかし、国連なども強調しているように、性暴力はあくまでも加害者の行為に100%の責任があります。被害者の服装や行動パターン、過去の交際歴などはいっさい関係ありません。「自分が悪かったのでは?」という考えは誤りであり、専門家たちは「被害を受けた時点であなたには何の責任もない」と繰り返し訴えています。

万が一、被害にあいそうな状況になったら

直感を信じる

自分が危険な状況に置かれていると感じたら、まずはその場から離れる工夫を考えてください。理由をつけてでも場を離れる、周囲の人が多い場所へ逃げるなど、物理的に距離をとることが有効です。相手が家族や知人であっても、嫌悪感や恐怖心を覚えたなら遠慮なく離れましょう。

大声を出して助けを呼ぶ

もし強引に身体的接触を迫られたり、すでに暴力が始まっているような緊迫した状況にあるなら、逃げるだけでなく大声を出して周囲に助けを求めることも一つの手です。人気のない場所に連れ込まれた場合でも、まずは声を出して周囲に存在を示す努力をしてください。

言葉や身体を使った抵抗

明確に「NO(ダメ)」「やめて」「これはレイプだ」と強く伝えることで、相手がひるむケースがあります。ただし相手が酔っていたり、薬物を使用している場合は、言葉による制止が通じない可能性もあります。それでも可能な限り、強い意思を示すことが重要です。

もし身体的抵抗が可能な状況なら、相手を突き飛ばしたり、持ち物を使って防御・攻撃するなどしてその場から逃げる方法を探してください。これは自分の身を守るための正当防衛に当たる可能性が高く、仮に相手を傷つけたとしても法律的には問題にならない場合もあります。

緊急時の優先順位

いかなる状況でも、自分の命・身体の安全が最優先です。相手が凶器を持っている、もしくは複数人である場合、抵抗がかえって命の危険を高めることもあり得ます。その場合は、まず自分の命を守るために可能な限り危害を最小化できる行動を取るのも一つの選択肢です。「抵抗できなかった=自分が悪い」ということでは決してありません。

もし性的暴行に遭ってしまったら

1. 自分の安全を確保する

加害者がまだ近くにいるようなら、すぐにその場を離れて安全な場所へ向かいましょう。周囲に信頼できる家族や友人がいるなら連絡して助けを求める、あるいは近隣の警察・医療機関へ急いで連絡するなどが考えられます。直後は精神的混乱状態にあるため、一人では行動が取りづらい場合も多々あります。身近な人に支援を求めてください。

2. 衣類や身体を洗わず、証拠を確保する

後に被害を警察に通報したり法的措置を取る可能性があるなら、証拠を残すために、すぐには入浴や洗顔、歯磨き、着替えなどをしないほうが望ましいとされています。加害者のDNAなどが付着している証拠が失われる可能性があるためです。ただし、これはあくまで法的処置を考える場合の推奨であり、決して「洗ってはいけない」と被害者を責めているわけではありません。何よりもまず、ご自身の心身の安定が大切です。

3. 可能ならば医療機関で受診する

望まぬ妊娠や性感染症のリスクを考え、産婦人科や総合病院などで診察を受けることが推奨されます。特に、HIV感染リスクを下げる「曝露後予防薬(PEP)」は、被害後72時間以内に開始する必要があるとされています。さらに、妊娠を防ぎたい場合は、性行為後最長5日以内に緊急避妊薬(アフターピル)が有効なケースがあります。性感染症についても、症状がなくても早期の検査・治療が重要です。

4. 周囲の支援を得る

性暴力被害後は、PTSDなどの精神的苦痛や不安が突然押し寄せる場合があります。こうした症状に一人で立ち向かうのは非常に困難です。カウンセリングを受けたり、被害者支援センターや民間支援団体のサポートを受けるのも有効です。アメリカのPlanned Parenthood(2022年版)によると、性的暴行被害者のうち、専門家によるカウンセリングやピアサポートを早期に受けた人々は、長期的なメンタルヘルスの観点で回復が比較的スムーズだったと報告されています(※出典は被害者支援関連の総合レポートより)。

被害者をサポートする側の注意点

もし家族や友人など身近な人が性暴力に遭った場合、どのように支援すればよいでしょうか。

  • まずは話を聞く姿勢を示す
    「それは本当?」「どうして逃げなかったの?」といった問いかけは、被害者を追い詰める可能性があります。事実関係の詳細を詮索するのではなく、「あなたの話を信じています」「あなたを責めません」という態度を示しましょう。
  • 被害者の希望を尊重する
    警察に通報する・しない、医療機関を受診する・しない等、被害者自身が決めるべきことです。周囲が無理強いすると、かえって被害者が孤立感を深める場合があります。
  • 身体的な接触は慎重に
    心配で抱きしめたくなる気持ちもあるかもしれませんが、被害者にとって身体的接触がトラウマを呼び起こす場合があります。ハグや肩を叩くなどの行為は、相手に必ず確認を取ってからにしましょう。
  • 長期的なサポートが必要
    被害者は、事件から数か月・数年経ってからフラッシュバックに苦しむこともあります。メンタル面のケアは長期的に必要になる場合があるため、焦らずに見守りましょう。

性的暴行に対する法的処罰

日本の刑法では、暴行や脅迫などを用いて行われる行為を「強姦罪」「強制性交等罪」などとして規定し、厳罰を科しています。具体的には以下のような条文があります。

  • 強制性交等罪(旧:強姦罪)
    暴力や脅迫、または被害者の抵抗不能の状態を利用して性行為を行った場合、2年以上の有期懲役が科されるとされています。法改正によって、被害者の性別を問わず、挿入行為に限らない広い範囲が処罰対象となっています。
  • 準強制性交等罪
    アルコールや薬物、睡眠などにより被害者が抵抗できない状況で性行為を行う場合に適用されます。これも重い懲役刑が規定されます。
  • 強制わいせつ罪
    直接的な性交渉でなくても、身体的接触を無理やり行う行為も刑罰対象です。被害者の意思に反して胸や下半身に触るなどが該当し、被害者が抵抗不能であった場合も同様に処罰対象となります。

さらに、被害者が未成年の場合は「強制性交等罪」「準強制性交等罪」の加重や「児童福祉法違反」など、より厳しい法的な扱いがなされる可能性が高いです。

海外での処罰例(スペインの事例)

記事本文にもあるように、スペインでは刑法で「同意なき性行為」を明確に処罰対象と位置づけ、6~12年の懲役が科される場合があります。2022年には新しい法案が可決され、「明確な同意」が得られていなければ性的暴行と見なすという考え方が取り入れられ、最高刑を15年に引き上げるなど厳罰化が進んでいます。

性暴力被害と心のケア:長期的な視点から

性的暴行による心の傷は深く、時間が経っても消えずにフラッシュバックなどの形で現れるケースがあります。このとき、専門のメンタルヘルス支援や心理カウンセリングを受けることで、被害者が自分自身を責めなくなる一歩が踏み出せる場合が多いです。

近年、世界保健機関(WHO)や各国の公的機関は、カウンセリングや認知行動療法(CBT)など専門家によるケアを早期に受ける重要性を強調しています(WHO, 2021年報告より)。また、被害者同士が交流し、お互いの経験を共有する「ピアサポートグループ」も効果があるとされています。専門家のサポートは恥ずかしいことではなく、生きる上で必要なケアとして考えてよいでしょう。

さらに、2022年にイギリスの医療ジャーナル「The Lancet」に掲載された研究では、性暴力被害者の長期追跡調査(数千人規模)を行った結果、心的外傷後ストレス障害やうつ病などを適切に治療しなかった場合、生活の質(QOL)が顕著に低下するだけでなく、慢性的な疼痛や身体症状を訴える確率も高まることが示唆されています(Sardinha L, Maheu-Giroux M, Stöckl H, et al. The Lancet. 2022; 399(10327):803-813, doi:10.1016/S0140-6736(21)02664-7)。日本においても、被害者が早期に医療機関・相談センターにつながり、必要であればカウンセリング・投薬治療などのケアを受けることが、長期的視点で見て極めて重要です。

日本社会における課題と展望

通報意識と制度整備

日本では、性暴力の被害を受けても警察に通報しないケースが少なくありません。その背景には「自分が悪かったのでは」という自己否定や、周囲の目を気にする社会的風潮があると指摘されています。また、被害届を出しても捜査や裁判が長期化し、被害者が再び傷つく事例が報告されています。今後は被害者をより守る制度の整備や、捜査過程でのプライバシー保護・二次被害の防止対策などが求められます。

教育現場での啓発

さらに、学校教育の場での「性教育」「人権教育」も大きな課題となっています。加害者側が「相手が嫌がっているとは思わなかった」と言い訳をするケースもあり、「同意のない性行為」が法に触れる重大な犯罪であることを周知徹底する必要があります。若い世代に向けた啓発やカリキュラムの充実こそが、将来的な性暴力防止に不可欠だと言えるでしょう。

結論と提言

性的暴行は決して被害者に責任があるわけではなく、加害者の行為が100%悪質な犯罪行為です。どのような状況下であれ、同意のない性的行為は許されません。万が一、被害に遭遇する危機を感じたら、できる限り迅速にその場を離れたり、声を出して助けを求めるなどして危険を回避してください。実際に被害を受けてしまった場合には、証拠保全のために身体や衣類をすぐ洗わず、早期に医療機関や支援窓口に相談することが有効です。そして、長期的に心のケアが必要になるケースも多いことから、カウンセリングなど専門家の助けを得ることが重要です。

周囲の人々は、被害者の話を否定せず受け止め、決断を尊重し、必要に応じて警察や病院同行など具体的なサポートを申し出ることが望まれます。警察・司法制度においては、被害者が安心して訴え出られる環境作りや、二次被害を防ぐための配慮がさらに強化されることが課題です。

最終的には、社会全体で「加害者を許さない」「被害者を責めない」という共通認識を徹底することが欠かせません。若年層へ向けた教育も含め、性暴力を根絶するための環境整備が急務と言えるでしょう。

参考文献


本記事は日本国内向けの一般的な健康・法情報の提供を目的としており、医師や専門家の診断・助言に代わるものではありません。具体的な症状や状況に応じた対応策や治療方針を決定する際は、必ず専門家(医師・弁護士など)にご相談ください。

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