恋愛のグリーンフラグとは?科学が示す、長続きする関係の10の健全な兆候
精神・心理疾患

恋愛のグリーンフラグとは?科学が示す、長続きする関係の10の健全な兆候

現代社会において、永続的で健全なパートナーシップを築くことは、多くの人々にとって切実な願いであると同時に、大きな挑戦でもあります。厚生労働省の統計によれば、近年、婚姻件数に対する離婚件数の割合は約3分の1で推移しており、決して少なくないカップルが関係の維持に困難を抱えている現実があります1415。このような状況の中、巷に溢れる感情論や個人の体験談だけを頼りにするのではなく、科学的根拠に基づいた知見を得ることの重要性が増しています。本記事は、世界の第一線で行われている心理学研究、特にジョン・ゴットマン博士やスー・ジョンソン博士によって確立された理論と、日本の社会文化的背景や国内の研究成果を融合させた、信頼性の高い包括的な手引書です。あなたの現在の、そして未来の関係をより豊かにするための「科学の羅針盤」として、ぜひご活用ください。

この記事の科学的根拠

この記事で提示される医学的・心理学的知見は、すべて論文審査を経た学術研究や、信頼性の高い公的機関・専門家団体の報告に基づいています。読者の皆様に最高水準の信頼性を提供するため、主要な科学的根拠とその活用法を以下に明示します。

  • ゴットマン・メソッド (The Gottman Method): ジョン・ゴットマン博士による40年以上のカップル研究から導き出された理論です5。本記事では、「健全な関係の家」モデルや「黙示録の4騎士」といった中核概念を、健全な関係性を見極めるための基本的な枠組みとして全面的に採用しています。
  • 感情焦点化療法 (Emotionally Focused Therapy – EFT): スー・ジョンソン博士が創始した、愛着理論に基づくカップルセラピーの手法です67。この記事では、EFTの「感情的なアクセス可能性と応答性」という概念を引用し、共感や感情的安全性がなぜ関係の絆にとって不可欠なのかを科学的に解説しています。
  • 日本の学術研究 (Japanese Academic Research): 森田千尋氏による日本の育児期夫婦を対象とした研究など、国内の学術調査結果を活用しています9。これにより、国際的な理論が日本の文化的文脈においても有効であることを示し、情報のローカライズと信頼性の強化を図っています。
  • 政府統計データ (Government Statistics): 厚生労働省や内閣府男女共同参画局が発表する公的統計データを引用し1416、健全なパートナーシップを築くことの社会的な重要性と現代的な課題を客観的に示しています。

要点まとめ

  • 「グリーンフラグ」とは、単なる「良いこと」ではなく、関係の健全性や持続可能性を示す、科学的根拠に裏付けられた肯定的な兆候です。
  • 健全な関係の鍵は、ゴットマン博士が提唱する「黙示録の4騎士」(批判、防御、侮辱、逃避)が存在しないことです。特に「侮辱・軽蔑」は最も危険な兆候とされています5
  • 感情焦点化療法(EFT)が示すように、パートナーが互いの弱さや不安を安心して表現でき、それが共感的に受け止められる「感情的な安全性」が、深い絆の基盤となります6
  • 日本の夫婦を対象とした研究でも、「共感的に寄り添う姿勢」が他のどの要素よりも強く関係満足度を左右することが証明されており、これは国際的な研究結果と一致します9
  • 完璧なパートナーを「見つける」こと以上に、二人で意識的にグリーンフラグを「育てていく」という学びと努力の姿勢が、豊かで長続きする関係を築く上で最も重要です。

第1部:グリーンフラグの基礎知識

関係の健全性を測る上で、「グリーンフラグ」という概念を理解することは非常に重要です。ここでは、その基本的な定義と、本記事の信頼性を支える科学的理論について解説します。

グリーンフラグとは?レッドフラグとの違い

「グリーンフラグ」(緑の旗)とは、恋愛関係において、その関係が健全で、持続可能であり、互いの成長を促すものであることを示す肯定的な兆候や行動、態度の総称です。これは、交通信号の「青信号」が安全な進行を示すように、二人の関係が正しい方向に進んでいることを示唆します。

一方で、「レッドフラグ」(赤の旗)は、関係に潜む危険性や不健全さ、将来的な破綻につながりかねない問題を示す警告信号です。これには、精神的・身体的虐待や、過度な束縛、不誠実さなどが含まれます4。健全な関係を築くことは、単に幸福感を得るだけでなく、ストレスレベルの低下や心身の健康増進にも直接的に良い影響を与えることが、多くの研究で示唆されています。

関係科学の二大巨頭:ゴットマン理論とEFT

この記事で紹介するグリーンフラグは、長年の科学的研究によってその有効性が裏付けられています。特に、以下の二つの理論は、現代のカップル研究における二大支柱であり、本記事全体の科学的基盤となっています。

  • ゴットマン理論(The Gottman Method): 心理学者のジョン・ゴットマン博士は、40年以上にわたり数千組のカップルを科学的に観察・分析し、「健全な関係の家(The Sound Relationship House)」というモデルを構築しました5。このモデルでは、強固な「友情」や「賞賛・感謝の文化」といった土台の上に、「建設的な対立処理」や「人生の夢の共有」といった要素が積み重なることで、安定した関係が築かれるとされています。また、彼は関係を破綻させる「黙示録の4騎士」という概念を提唱し、その存在によって90%以上の精度で将来の離婚を予測できることを示しました。
  • 感情焦点化療法(Emotionally Focused Therapy – EFT): スー・ジョンソン博士によって開発されたEFTは、人間が本能的に求める「安全な愛着の絆」に焦点を当てたアプローチです67。EFTでは、関係における問題の多くは、パートナーが互いの感情的なニーズに応えられなくなる「感情的な断絶」から生じると考えます。したがって、互いに「感情的にアクセス可能で、応答的であること」が、信頼と親密さを回復・構築する上で最も重要であるとされています。

第2部:科学が示す10のグリーンフラグ【実践チェックリスト】

ここでは、ゴットマン理論とEFTを基盤に、科学が示す10の重要なグリーンフラグを具体的に解説します。各項目には、自分たちの関係を評価するためのチェックポイントと、関係を育むための具体的な行動提案が含まれています。

1. 感情的な安全性:本音を安心して話せる関係

① 兆候の定義: 自分の弱さ、不安、恐れ、失敗といった「本音」をパートナーに打ち明けたとき、それが批判されたり、軽蔑されたり、無視されたりすることなく、真剣に受け止めてもらえるという確信がある状態。

② なぜ重要か(科学的根拠): 感情焦点化療法(EFT)では、これが「安全な愛着の絆」の核であるとされています7。パートナーが感情的なリスクを冒して脆弱性(一次感情)を示した際に、それを受け止め、共感的に応答する経験を繰り返すことで、二人の間の信頼と親密さは飛躍的に深まります。逆に、この安全性が欠如していると、パートナーは本音を隠し、表面的なやり取りに終始するようになります。

③ 日本の文脈での具体例: 日本には「本音と建前」という文化的特性があり、相手への配慮や調和を重んじるあまり、ネガティブな感情を表現することをためらう傾向があります1112。しかし、仕事のプレッシャーや育児の不安といった「本音」を隠し続けることは、長期的には孤独感を深め、感情的な距離を生む危険性をはらんでいます。このグリーンフラグは、表面的な調和ではなく、真の心の繋がりを築けているかどうかの指標となります。

④ 関係を育むアクション: パートナーが悩みを打ち明けてきたら、すぐに解決策を提示しようとせず、まずは「そう感じているんだね」「話してくれてありがとう」と、相手の感情を肯定的に受け止める言葉を伝えましょう。

2. 建設的な対立処理:「黙示録の4騎士」がいない

① 兆候の定義: 意見の対立や衝突が起きた際に、関係を破壊する四つのコミュニケーションパターン、すなわち「黙示録の4騎士」が現れないこと。

② なぜ重要か(科学的根拠): ゴットマン博士の研究によれば、「4騎士」の存在、特に「侮辱・軽蔑」は、将来の関係破綻を極めて高い精度で予測する最も危険なレッドフラグです5。健全なカップルは対立を避けるのではなく、対立を建設的に乗り越えるためのスキルを持っています。

  • 批判: 特定の行動への不満ではなく、相手の人格全体を攻撃すること。(例:「あなたはいつもそうだ」)
  • 防御: 責任を認めず、言い訳をしたり、相手を非難し返したりすること。
  • 侮辱・軽蔑: 皮肉、冷笑、見下した態度など、相手に対する敬意を欠いた言動。
  • 逃避・無視(ストーンウォーリング): 対話から身を引き、壁を作って反応しなくなること。

③ 日本の文脈での具体例: 育児期の夫婦を対象とした日本の研究では、夫が家事・育児に非協力的だと妻が感じた際に、妻からの「批判」が増え、それに対して夫が「防御」や「逃避」で応じるという悪循環が、関係満足度の急激な低下を招くことが報告されています1013

④ 関係を育むアクション: 「批判」の代わりに、自分の感情とニーズを伝える「優しい切り出し方」(例:「私は〇〇されると悲しい気持ちになるので、〇〇してくれると嬉しいな」)を心がけましょう。「防御」の代わりに、相手の言い分の中に少しでも真実があれば「その点は確かにそうだね」と一部の責任を認める姿勢が、対立の激化を防ぎます。

3. 共感と理解:相手の視点に立とうとする姿勢

① 兆候の定義: パートナーの感情や経験を、たとえ完全に同意できなくても、相手の立場から理解しようと努める姿勢があること。

② なぜ重要か(科学的根拠): これは国際的な研究だけでなく、日本の文脈においても極めて重要な要素です。森田千尋氏による日本の育児期夫婦を対象とした研究では、「夫・妻ともに『接近・共感的コミュニケーション態度』が、夫婦関係満足度に最も強く正の影響を与える(β値.52~.56)」ことが統計的に証明されています9。これは、相手の話に耳を傾け、感情に寄り添う姿勢が、他のどの要素よりも関係の質を左右することを示しており、EFTの理論とも完全に一致します。

③ 日本の文脈での具体例: パートナーが仕事の失敗で落ち込んでいるとします。ここで「次頑張ればいいよ」と安易に励ますのではなく、「それは辛かったね」「大変だったんだね」と、まず相手の感情そのものを認め、寄り添う言葉をかけることが共感的な姿勢です。

④ 関係を育むアクション: パートナーが話しているときは、スマートフォンなどを脇に置き、相手の目を見て、相槌を打ちながら聞きましょう。話の内容だけでなく、その裏にある感情(悲しみ、喜び、不安など)を推測し、「〇〇と感じているのかな?」と尋ねてみることも有効です。

4. 相互の尊重と賞賛:価値を認め、伝え合う文化

① 兆候の定義: 相手を一人の人間として尊敬し、その長所や努力を認め、感謝や賞賛の言葉を日常的に伝え合っていること。

② なぜ重要か(科学的根拠): ゴットマン理論において、「侮辱・軽蔑」は最も破壊的な「騎士」です5。日常的に賞賛や感謝を伝え合う「肯定的な文化」を築くことは、この最も危険な要素が関係に侵入するのを防ぐ、最も効果的な予防策となります。肯定的な相互作用が否定的な相互作用を上回る「魔法の比率(5対1)」を保つことが、安定した関係の鍵とされています。

③ 日本の文脈での具体例: 日本では謙遜が美徳とされる文化があり、直接的な賞賛の言葉を口にすることに照れを感じる人も少なくありません。しかし、「いつも美味しいご飯を作ってくれてありがとう」「仕事で大変なのに、子供の面倒を見てくれて助かるよ」といった具体的な感謝の言葉は、相手の努力を認め、尊重しているという明確なメッセージになります。

④ 関係を育むアクション: 1日に1つ、パートナーの素晴らしい点や感謝していることを見つけ、それを具体的に言葉にして伝える習慣を始めてみましょう。最初は気恥ずかしいかもしれませんが、関係の雰囲気を劇的に改善する力があります。

5. 共通の価値観と人生の目標:同じ方向を向いている

① 兆候の定義: お金の使い方、子育ての方針、キャリアの考え方、家族との付き合い方など、人生の根幹に関わる重要な価値観や目標が、ある程度一致している、または互いの違いを尊重し、すり合わせることができること。

② なぜ重要か(科学的根拠): 性格や趣味が完全に一致する必要はありません。むしろ、性格の違いは互いを補い合う「相補性」につながることもあります。しかし、人生の羅針盤となる根本的な価値観が大きく異なると、長期的に深刻な対立を生む原因となり得ます。ゴットマン理論の「健全な関係の家」では、「共通の意義の創造」が最上階に位置付けられており、これが関係に深い意味を与えるとされています5

③ 日本の文脈での具体例: 例えば、「子供には早期から質の高い教育を受けさせたい」と考えるパートナーと、「子供はのびのびと自然の中で育てたい」と考えるパートナーでは、将来的に大きな衝突が予想されます。こうした価値観について、早い段階でオープンに話し合える関係性が重要です。

④ 関係を育むアクション: 「5年後、10年後、どんな生活をしていたい?」「私たちにとって一番大切なものは何だろう?」といったテーマで、お互いの夢や価値観について話し合う時間を作りましょう。以下のチェックリストが役立ちます。

  • 金銭感覚(貯蓄と消費のバランス)についてどう思うか?
  • 子供を持つこと、またその教育方針についてどう考えているか?
  • 仕事と私生活の優先順位をどう考えているか?
  • 互いの両親や家族と、どのような距離感で付き合っていきたいか?

6. 支え合いと自己成長の促進:互いを高め合う関係

① 兆候の定義: パートナーが個人の目標や夢(キャリア、学業、趣味など)を追求することを応援し、その達成を積極的に支援する姿勢があること。

② なぜ重要か(科学的根拠): 心理学には「ミケランジェロ現象」という概念があります。これは、偉大な彫刻家ミケランジェロが石の塊から理想の像を彫り出したように、パートナーがお互いの「理想の自己」を引き出し合い、成長を助け合う現象を指します。このような関係は、個人の幸福度と関係満足度の両方を高めることが分かっています。

③ 日本の文脈での具体例: パートナーが社会人大学院への進学や資格取得を目指しているとします。その際に「家のことがおろそかになる」と足を引っ張るのではなく、「夢を応援するよ」と伝え、勉強時間を確保できるよう家事や育児を積極的に分担する行動は、このグリーンフラグの明確な現れです。

④ 関係を育むアクション: パートナーの夢や目標について尋ね、「そのために自分に何か手伝えることはある?」と問いかけてみましょう。相手の挑戦を自分のことのように喜び、応援する姿勢を示すことが大切です。

7. 信頼と誠実さ:約束が守られる安心感

① 兆候の定義: パートナーが言ったことを実行し、約束を守り、嘘をつかないという一貫した行動によって、相手を心から信頼できる状態。

② なぜ重要か(科学的根拠): 信頼は、ゴットマン理論の「健全な関係の家」を支える二本の柱の一つです5。小さな約束(例:「帰りに牛乳を買ってくる」)を守ることから、大きな約束(例:「困難な時もそばにいる」)まで、言動の一貫性が「信頼口座」の残高を少しずつ積み上げていきます。この信頼があるからこそ、人は安心して相手に心を開くことができます。

③ 日本の文脈での具体例: 「報・連・相(報告・連絡・相談)」はビジネスの基本ですが、パートナーシップにおいても重要です。例えば、帰りが遅くなる際に一本連絡を入れる、といった小さな誠実さの積み重ねが、大きな信頼につながります。

④ 関係を育むアクション: できない約束はしないこと。そして、一度した約束は、どんなに小さなことでも守る努力をすることが重要です。もし守れなかった場合は、誠実に謝罪し、その理由を説明することが信頼の損失を最小限に食い止めます。

8. 個々の独立性と境界線の尊重:健全な距離感

① 兆候の定義: 二人がカップルであると同時に、それぞれが独立した一人の人間であることを認め、互いのプライバシー、個人の時間、友人関係、趣味などを尊重している状態。

② なぜ重要か(科学的根拠): 健全な境界線(バウンダリー)は、共依存的な関係を防ぐために不可欠です。すべての時間を一緒に過ごし、すべてを共有しようとすることは、一見理想的に見えますが、長期的には息苦しさや自己の喪失につながりかねません。お互いが個人として充実していることが、結果としてカップルとしての関係にも良い影響を与え、長期的な魅力を維持する助けとなります。

③ 日本の文脈での具体例: パートナーが友人との集まりに出かける際に、快く送り出し、その時間を楽しむことを奨励できるか。相手の携帯電話を勝手に見たり、行動を過度に詮索したりしないか。これらは、健全な境界線が保たれているかどうかの指標です。

④ 関係を育むアクション: 「一人の時間」や「友人との時間」を意識的にスケジュールに組み込み、お互いにそれを尊重する文化を作りましょう。二人の関係以外の世界を持つことが、結果的に二人の世界をより豊かにします。

9. 遊び心と友情:人生を共に楽しむパートナー

① 兆候の定義: 関係の中にユーモアや遊び心があり、共通の趣味や二人だけの儀式(例:毎週末に一緒に映画を観る)などを通じて、友人として純粋に一緒にいる時間を楽しんでいること。

② なぜ重要か(科学的根拠): ゴットマン理論において、「友情」は「健全な関係の家」の土台をなす最も重要な要素です5。恋愛感情の熱量は時間と共に変化することがありますが、強固な友情は、人生の様々なストレスに対する強力な緩衝材として機能します。共に笑い、遊ぶ経験は、関係における肯定的な感情の貯金を増やし、困難な時期を乗り越えるための力となります。

③ 日本の文脈での具体例: 日常の何気ない会話で冗談を言い合ったり、共通のアニメやゲームについて熱く語り合ったり、一緒に新しいレストランを開拓したりするなど、恋人であると同時に「最高の親友」でもあると感じられる関係です。

④ 関係を育むアクション: 毎日の忙しさの中に、意識的に「ただ楽しむだけの時間」を作りましょう。それは特別なデートでなくても構いません。一緒に散歩をする、面白い動画を見て笑うなど、二人でポジティブな感情を共有する機会を増やすことが大切です。

10. 身体的な愛情と親密さ:触れ合いが育む絆

① 兆候の定義: 性的な親密さだけでなく、手をつなぐ、ハグをする、肩を抱くといった日常的な身体的接触を通じて、愛情や安心感を表現し合っていること。

② なぜ重要か(科学的根拠): ハグや手をつなぐといった心地よい身体的接触は、「絆ホルモン」や「愛情ホルモン」として知られるオキシトシンの分泌を促します。オキシトシンには、ストレスを軽減し、信頼感を高め、他者への共感を深める効果があることが科学的に証明されています。この生物学的なメカニズムが、感情的な親密さを物理的に補強し、絆をより強固なものにします。

③ 日本の文脈での具体例: 日本では、欧米に比べて公の場での身体的接触が控えめな傾向がありますが、家庭内での愛情表現は別です。「いってきます」や「おやすみ」のハグ、ソファでくつろぎながら何気なく手をつなぐ、といった小さな触れ合いが、日々の安心感と繋がりの感覚を育みます。

④ 関係を育むアクション: パートナーの身体的接触に対する心地よさのレベル(コンフォートレベル)を尊重しつつ、意識的に触れ合いの機会を増やしてみましょう。「ハグしてもいい?」と尋ねることから始めるのも良い方法です。


第3部:関係に不安や危険を感じたら

グリーンフラグを知ることは、同時に危険な兆候に気づくための感度を高めることにも繋がります。関係に不安や危険を感じた際の対処法を知っておくことは、自分自身を守るために不可欠です。

イエローフラッグとレッドフラグへの対処法

すべての問題が即座に関係の終わりを意味するわけではありません。しかし、兆候の種類を見極め、適切に対応することが重要です。

  • イエローフラッグ(黄信号): これらは直ちに危険ではないものの、放置すると悪化し、レッドフラグに発展する可能性のある兆候です。例えば、慢性的な無関心、約束を頻繁に破る、軽度のモラルハラスメント(嫌味や皮肉が多い)、重要な話し合いを避ける、などが挙げられます。イエローフラッグに気づいた場合は、本記事で紹介した「優しい切り出し方」を用いてパートナーと話し合い、改善を試みることが第一歩です。改善が見られない場合は、専門家への相談を検討すべきサインです。
  • レッドフラッグ(赤信号): これらは、あなた自身の心身の安全を脅かす、絶対的な危険信号です。身体的・精神的暴力、強い束縛や監視、経済的支配(生活費を渡さないなど)、他者からの孤立を強いる行動などが含まれます4。レッドフラグが存在する場合、関係の修復を試みるのではなく、直ちに自分自身の安全を確保し、第三者に助けを求めることが最優先です。

専門家への相談という、賢明な選択肢

関係の問題を二人だけで解決するのが難しいと感じたとき、専門家の助けを借りることは、決して恥ずかしいことでも、弱いことでもありません。むしろ、自身の心と未来を守るための、最も賢明で勇気ある一歩です。

臨床心理士や公認心理師、EFTやゴットマン・メソッドの訓練を受けたカウンセラーは、以下のような点であなた方の助けとなります。

  • 客観的な視点: 感情的になっている当事者だけでは見えにくい関係のパターンを、専門的な視点から客観的に分析してくれます。
  • 安全な対話の場: どちらか一方が非難されることのない、安全で中立的な環境を提供し、二人が本音で話し合えるよう手助けします。
  • 専門的な知識と技術: 本記事で紹介したような科学的根拠に基づく具体的なコミュニケーション技術や、関係改善のためのスキルを提供してくれます。

信頼できる専門家を見つけるためには、「日本臨床心理士会」1722や「日本カウンセリング学会」18といった専門家団体に所属し、厳しい倫理綱領を遵守する有資格者(臨床心理士、公認心理師など)を探すことが重要です。お住まいの地域の精神保健福祉センターや、資格を持つ専門家が在籍するカウンセリング機関に相談することから始めてみてください。


よくある質問

相手に全く話し合う気がない場合、どうすれば良いですか?

非常に難しい状況ですが、まずはゴットマン博士の言う「優しい切り出し方」を試みることが重要です5。相手を批判するのではなく、「私は、私たちの関係について話したいと感じているの。あなたにとって都合の良い時に、少しだけ時間を作ってもらえないかな」と、自分の気持ちと要望を穏やかに伝えてみましょう。それでも相手が頑なに拒否する(「逃避・無視」)場合、それは関係における深刻な危険信号(レッドフラグ)である可能性があります。その場合は、まずあなた自身が一人でカウンセラーなどの専門家に相談し、状況を客観的に評価してもらうことが賢明です。

グリーンフラグがほとんど見当たらない関係は、もう終わりなのでしょうか?

必ずしもそうとは限りません。重要なのは、レッドフラグ(特に暴力や侮辱)が存在しないこと、そして「二人とも関係を改善したいという意欲があること」です。グリーンフラグは、生まれつき備わっているものではなく、多くは学習可能なスキルです。本記事で紹介したような科学的根拠のあるアプローチ(ゴットマン・メソッドやEFTなど)を二人で学び、実践する意欲があれば、関係を再構築することは十分に可能です620。ただし、その努力をする価値がある関係かどうかを冷静に見極めることも大切です。

愛着スタイルが違うパートナー(例:不安型と回避型)とは、うまくいかないのでしょうか?

愛着スタイルが異なるカップルは、特有の困難に直面することがあります21。例えば、不安型のパートナーが親密さを求めると、回避型のパートナーは距離を取ろうとし、それがさらに不安型の不安を煽るという悪循環(「追うー逃げる」パターン)に陥りがちです。しかし、これが関係の終わりを意味するわけではありません。EFTなどのアプローチは、まさにこうした愛着から生じるパターンを理解し、断ち切ることを目的としています8。お互いの愛着スタイルとその背景にあるニーズを理解し、意識的に相手の不安を和らげ、相手の距離感を尊重する努力をすることで、安定した関係を築くことは可能です。


結論

本記事では、科学的根拠に基づき、長続きする健全な関係を示す10の「グリーンフラグ」について詳しく解説してきました。感情的な安全性、建設的な対立処理、共感、尊重といった要素は、単なる理想論ではなく、豊かなパートナーシップを築く上で不可欠な、学習可能なスキルです。

最も重要なメッセージは、グリーンフラグは、完璧なパートナーの中に最初からすべて「見つける」ものではなく、二人の日々の意識的な努力によって「育てていく」ものである、ということです。関係に困難はつきものです。しかし、この記事で紹介したような科学の光を頼りに、お互いを理解し、支え合う姿勢を持ち続ける限り、より深く、満たされた関係を築いていくことは十分に可能なのです。この記事が、あなたの旅路を照らす一助となることを心から願っています。

免責事項本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスに代わるものではありません。健康に関する懸念や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格を持つ医療専門家にご相談ください。

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