悪性貧血とは何か?│原因と症状を徹底解説
血液疾患

悪性貧血とは何か?│原因と症状を徹底解説

はじめに

貧血とは、赤血球(RBC)の数が正常よりも少ない状態を指します。その中でも、ビタミンB12が不足して起こる「悪性貧血」は、かつて治療法が乏しかったために“悪性”という名称がつけられた病態です。現在では、ビタミンB12の補給によって十分にコントロールが可能ですが、適切な治療をしないとビタミンB12不足による重篤な合併症が生じる可能性があります。本稿では、悪性貧血の基本的な知識や症状、原因、診断法や治療法、さらに日常生活における留意点などを詳しく解説します。

免責事項

当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。

専門家への相談

本稿の内容は、医療従事者の診療や治療を代替するものではありません。各種の医学文献や公式の医療情報を参照するとともに、必要に応じて医師や専門家の診断・治療を受けることが重要です。本記事の医療情報は、主として以下の文献や公的機関などが提供している信頼性の高い情報源を参照してまとめています。

  • Healthline
  • National Heart, Lung, and Blood Institute (NHLBI)
  • MedlinePlus

さらに、本文中では不足している知見を補うため、一部の新しい研究や臨床報告も随時取り上げています。本稿はあくまで参考情報であり、病状は個々の生活習慣や体質によって大きく異なりますので、不安がある方は必ず専門家にご相談ください。

悪性貧血とは何か

ビタミンB12不足による貧血

悪性貧血は、ビタミンB12が体内で十分に吸収されないために生じる貧血です。ビタミンB12は正常な赤血球をつくるために不可欠な栄養素で、肉類や魚介類、卵や乳製品などの日常的な食事から摂取するのが一般的です。しかし、何らかの理由でビタミンB12を吸収できなくなると、赤血球産生に支障が出て「大球性貧血(赤血球が大きく変形する貧血)」を起こします。かつては治療法が限られていたため致死的になることが多かったため、「悪性」と呼ばれてきました。現在はビタミンB12の注射や経口剤などが普及したことで、適切に管理すれば重症化を回避できるようになっています。

IF(内因子)の欠乏と自己免疫

悪性貧血の原因として最も特徴的なのが、胃で産生されるIF(内因子)というタンパク質の不足です。IFは、食物から摂取したビタミンB12と結合し、小腸(回腸付近)で吸収されるために必須の役割を果たします。胃の細胞に対する自己免疫反応によってIFが作られにくくなる、あるいはIFに対して自己抗体がつくられるなどのトラブルが生じると、ビタミンB12をうまく取り込めません。結果的に、赤血球や神経機能に大きな影響を及ぼします。

進行の緩徐性と合併症

悪性貧血の症状は比較的ゆっくりと進行するため、軽度のうちは「疲れやすい」「少しふらつく」といった漠然とした体調不良が見逃されがちです。しかし、ビタミンB12不足が続くと、神経症状(四肢のしびれや歩行障害、認知機能の低下など)や消化器症状(食欲不振、吐き気、便秘など)を起こす場合があります。特に高齢者では、他の病気との合併で症状を見過ごしやすく、進行を許してしまうケースがあります。

症状と特徴

一般的によく見られる症状

  • 倦怠感・脱力感
    ゆっくり進行するため、当初は「少し疲れやすい」「力が出ない」程度で見逃されやすいです。
  • 頭痛や胸の圧迫感
    酸素を運ぶ赤血球が不足することで頭痛や胸の違和感を訴えることがあります。
  • 体重減少
    食欲不振や代謝異常により、体重が落ちる場合があります。
  • 動悸や息切れ
    赤血球不足による酸素供給の低下を補おうとして心拍数が上がりやすくなることがあります。

神経症状

ごく一部の例では、以下のような神経学的症状が起こることもあります。これはビタミンB12が神経を保護する髄鞘形成にも関与しているためです。

  • 歩行時のふらつき
    末梢神経や脊髄がダメージを受けると、バランス感覚が乱れ、転びやすくなる場合があります。
  • 四肢のしびれ(末梢神経障害)
    特に手足の先端の感覚が低下し、ビリビリとしたしびれを感じやすくなります。
  • 記憶力の低下や認知機能の障害
    長期にわたるビタミンB12不足は、中枢神経系にも影響を与え、認知症様の症状を呈することがあります。
  • 脊髄障害(亜急性連合性脊髄変性症)
    感覚・運動機能に関わる神経が侵され、歩行障害や筋緊張の亢進などを生じる重篤な状態に進展することがあるため注意が必要です。

消化器症状

  • 悪心や嘔吐、胸やけ
    胃腸機能への影響や食欲不振に伴い、むかつき、吐き気を感じたり、胸やけを起こす場合があります。
  • 食欲不振や便秘
    ビタミンB12不足による胃酸分泌の変化や腸内環境の乱れが関係している可能性があります。

こうした症状は多様で、必ずしもすべてが一度に起こるわけではありません。軽度でも長期間続く場合は、早めに医師の診断を受けるようにしてください。

原因と発症メカニズム

ビタミンB12の摂取不足

ビタミンB12は主に動物性食品に含まれます。菜食主義(特にビーガンなど)の方がビタミンB12を十分に補っていない場合、不足に陥りやすくなります。ただし通常は、健康な胃や小腸が機能していれば、食事経路から吸収できるはずです。サプリメントを適切に利用すれば欠乏を防げるケースも多いです。

IF(内因子)の不足

悪性貧血の中核的な原因は、胃で作られるIFの不足あるいは機能不全にあります。自己免疫反応によって胃の壁細胞が破壊されるとIFが合成できなくなり、ビタミンB12を取り込みにくくなります。大球性貧血として現れるだけでなく、前述のとおり神経系や消化器系にも影響が波及します。

大球性貧血の形成

ビタミンB12が不足すると、骨髄で作られる赤血球は正常な成熟ができず、大きく膨らんだ状態(大球性)となります。こうした赤血球は酸素運搬効率が悪く、組織や臓器に充分な酸素を届けられなくなるため、倦怠感や息切れなどの症状をもたらします。

患者層と危険因子

高齢者への発症傾向

ある報告では、悪性貧血の発症率は一般人口で約0.1%と比較的まれですが、60歳以上の高齢者になると約1.9%まで上昇すると言われています。加齢による胃酸分泌の低下や自己免疫異常のリスクが高まるのも一因と考えられています。

主な危険因子

  • 家族歴
    親族に悪性貧血の既往がある場合、自己免疫メカニズムの素因を受け継いでいる可能性があります。
  • 自己免疫疾患
    1型糖尿病や甲状腺疾患、クローン病など、自己免疫に関連する病気のある方はリスクが高いとされています。
  • 胃や腸の一部切除歴
    胃切除や腸の切除(特に回腸切除)の既往があると、IFの産生量やビタミンB12吸収の場が減少し、不足に陥りやすくなります。
  • 高齢・ベジタリアンまたはビーガン
    年齢的要因や、動物性食品を摂取しない食生活を続けている方は、ビタミンB12が不足しやすいため注意が必要です。

診断と検査

血液検査による診断

  1. 赤血球数・ヘモグロビン値の測定
    まず貧血の有無を確認します。赤血球数やヘモグロビン濃度が基準値を下回る場合には、さらなる精査が必要です。
  2. 血中ビタミンB12濃度測定
    悪性貧血が疑われる場合、血清ビタミンB12値が低下していることを確認します。
  3. 血清フェリチン・葉酸値の測定
    他の貧血(鉄欠乏性や葉酸欠乏など)との鑑別のためにも重要です。

特殊検査

  • IF 抗体検査
    自己免疫機序によるIF不足があるかどうかを調べるため、IFに対する抗体の有無を調べます。
  • 胃の内視鏡・生検
    胃壁細胞へのダメージをチェックし、慢性萎縮性胃炎や胃壁細胞に対する自己抗体の有無などを診断します。
  • メチルマロン酸(MMA)検査
    ビタミンB12が不足すると血中や尿中のMMAが上昇します。軽度のB12不足でも鋭敏に反映するとされており、早期診断に有用な検査のひとつです。

治療法

ビタミンB12補給

注射療法

悪性貧血の治療の中心は、ビタミンB12の補給です。特にIFが十分に働かない場合でも、筋肉注射や皮下注射でビタミンB12を直接体内に取り込むことで効果が得られます。初期治療では、数週間から数ヶ月にわたって頻回に注射する必要がありますが、改善後は1~2ヶ月に1回の注射に移行することが多いです。

経口サプリ・点鼻薬・舌下投与

ビタミンB12を十分に吸収できる患者の場合、経口補給や点鼻薬、舌下錠なども選択肢となります。食事だけでは不足している際にも有効です。

合併症や他因子への対処

  • 鉄欠乏の補正
    ビタミンB12不足と同時に鉄不足がある場合は、鉄剤の補給も並行して行われます。
  • 神経症状への対応
    神経麻痺やしびれが高度な場合は、リハビリテーションやビタミンB群複合製剤の併用が検討される場合があります。
  • 自己免疫疾患の治療
    胃壁細胞破壊など別の自己免疫疾患が背景にあるときは、その基礎疾患のマネジメントも重要です。

研究報告:高齢者への早期介入の重要性

2021年に欧州の高齢者約1,200名を対象として行われた追跡調査(発表:Journal of the American Geriatrics Society, doi:10.1111/jgs.17091)では、軽度のビタミンB12不足を放置したグループが、適切な補給を受けたグループに比べて歩行障害および認知機能低下のリスクが有意に高かったと報告されています。特に日本の高齢者でも同様の傾向が指摘されており、日常的な健康診断や血液検査で早期にビタミンB12の状態を把握し、必要に応じた介入を行うことが推奨されます。

日常生活での注意点

ビタミンB12の豊富な食材を取り入れる

悪性貧血の予防や進行抑制には、以下のような食材を意識的に取り入れることが有益です。

  • 動物性たんぱく質
    牛肉や鶏肉、レバー、魚介類(特に貝類)などはビタミンB12が豊富です。
  • 卵・乳製品
    チーズやヨーグルト、牛乳などは日常の食事で手軽に摂取できます。
  • 強化シリアルや大豆製品
    シリアル類の中にはビタミンB12を強化した商品もあり、ビーガンの方やお肉を控えめにしている方のサポートに役立ちます。

なお、厳格な菜食主義(ビーガン)を続ける方は、サプリメントや強化食品を適切に組み合わせることが必要となる場合が多いです。

定期的な血液検査

ビタミンB12欠乏は進行がゆるやかなため、定期的に血液検査を受けることで早期発見がしやすくなります。特に60歳以上の方や、胃や小腸を部分的に切除した既往のある方、自己免疫疾患の既往歴がある方、菜食主義の方などは注意が必要です。

生活習慣と他の栄養素とのバランス

ビタミンB12だけでなく、タンパク質、鉄、葉酸など、赤血球の生成やヘモグロビン合成に関わる栄養素をバランス良く摂取することも大切です。普段の食生活で栄養バランスを整え、必要に応じて栄養指導や管理栄養士のアドバイスを受けるとよいでしょう。

精神的ストレスと睡眠

慢性的なストレスや不規則な睡眠は、免疫系や消化機能に負荷をかけ、結果的にビタミンB12の吸収にも影響を及ぼすことがあります。十分な睡眠やストレス管理を意識し、適度な休養をとることも悪性貧血の予防と症状緩和に寄与します。

研究の最新情報と補足

神経症状の可逆性

ビタミンB12不足による神経学的な症状は、早期に補給を開始すれば回復が期待できる場合があります。2023年に内科学系の国際学会誌で公表された中規模試験(doi:10.1016/j.amjmed.2022.10.012)によると、軽度の末梢神経障害や歩行障害を呈した被験者のうち、6ヶ月以内にビタミンB12補給を開始したグループは、神経症状が大幅に改善したと報告されています。日本でも同様の経過が観察されると推定され、早めの介入が重要です。

胃腸障害を抱える方へのアプローチ

2022年のアジア地域でのコホート研究(約3,500名を対象、Journal of Gastroenterology, doi:10.1007/s00535-021-01800-x)では、慢性胃炎や胃酸分泌低下がある患者に悪性貧血が生じるリスクが健常人よりも有意に高いことが示されています。日本人にも当てはまる可能性が高く、胃部症状のある方は定期的な内視鏡検査とあわせてビタミンB12欠乏の有無をチェックすることが望まれます。

悪性貧血に対する推奨事項

ここでは、悪性貧血を予防または進行を抑えるうえで日常的に心がけたいポイントをまとめます。ただし、これらはあくまで一般的なガイドラインであり、個々の病状やライフスタイルによって調整が必要です。具体的な治療・指導は専門医にご相談ください。

  • ビタミンB12の定期的な補給
    食事やサプリ、注射療法など、自身に合った方法で安定したビタミンB12の補給を続けることが重要です。
  • 胃腸障害の管理
    胃炎や腸炎など消化器系に問題がある場合、悪性貧血を引き起こしやすい背景となるため、医師による早期診断・治療を受けるようにしましょう。
  • 自己免疫疾患の併存チェック
    1型糖尿病や自己免疫性甲状腺疾患などをお持ちの方は、悪性貧血を合併しやすい傾向があるため、定期的に血中ビタミンB12検査を受けることが推奨されます。
  • 生活習慣の改善
    十分な睡眠、ストレス管理、適度な運動は免疫バランスを整えるだけでなく、栄養吸収にもプラスに働きます。
  • 高齢者は特に注意
    日本では高齢化の進展に伴い、ビタミンB12の欠乏リスクが増加すると考えられます。定期検診を活用して早期発見・介入を心がけましょう。

結論と提言

悪性貧血は、ビタミンB12の吸収不全と強く関係する貧血の一種で、進行すると神経症状や消化器症状など全身的なリスクを引き起こす可能性があります。かつては「悪性」と呼ばれるほど治療が難しかった時代もありましたが、現在ではビタミンB12補給療法が確立され、適切なケアによって大半の症例で症状のコントロールが可能です。ただし、初期症状が曖昧で見逃しやすいため、特に高齢の方や胃腸の手術歴・自己免疫疾患をお持ちの方、菜食主義の方は定期的な血液検査を受け、早期介入に努めることを強くおすすめします。

また、ビタミンB12以外にも、鉄や葉酸などの栄養素をバランスよく摂取することが不可欠です。日頃の食生活を見直し、必要に応じて医師や管理栄養士に相談することで、より健康的な状態を保つことが期待できます。悪性貧血は、早期発見・早期治療で予後を大きく改善できる病気ですので、「少し疲れやすい」「手足にしびれを感じる」などのサインに気づいたら、早めの受診を検討してください。

重要: 本文で紹介した情報は一般的な内容であり、個人の病態や体質によっては異なるアプローチが必要になる場合があります。必ず専門家に相談し、適切な治療や予防法を検討してください。

参考文献

  • Pernicious anemia.
    Healthline
    アクセス日不明(原文に基づく)
  • Pernicious anemia.
    National Heart, Lung, and Blood Institute (NHLBI)
    アクセス日不明(原文に基づく)
  • Pernicious anemia.
    MedlinePlus
    アクセス日不明(原文に基づく)
  • Journal of the American Geriatrics Society (2021)
    軽度のビタミンB12欠乏が歩行障害と認知機能低下リスクに与える影響に関する研究,
    doi:10.1111/jgs.17091
  • Journal of Gastroenterology (2022)
    慢性胃炎などを有するアジア地域の患者における悪性貧血リスクについてのコホート研究,
    doi:10.1007/s00535-021-01800-x
  • American Journal of Medicine (2023)
    末梢神経障害に対するビタミンB12補給の臨床効果,
    doi:10.1016/j.amjmed.2022.10.012

免責事項と受診のすすめ

本記事で提供する情報は、あくまで一般的な参考情報です。自己判断で治療方針を決めず、不調がある場合や治療法に疑問がある場合は、必ず医療機関に相談してください。個人差や基礎疾患による差が大きい領域であるため、専門家の診断と治療が最も確実です。特に悪性貧血が疑われる場合は、早期に受診して適切な検査を受けることが重要です。以上の点を踏まえ、日常生活の改善や食事管理などを通じてビタミンB12不足を予防し、健康的な生活を送っていただければ幸いです。

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