慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)とは?症状と治療法を詳しく解説
脳と神経系の病気

慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)とは?症状と治療法を詳しく解説

はじめに

多発性末梢神経に炎症が及び、ミエリン鞘が損傷される慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(以下、便宜上CIDPと表記)は、まれではありますが、進行すると手足の感覚や運動機能に大きな影響を及ぼす神経自己免疫疾患とされています。通常、急性発症しやすいギラン・バレー症候群(Guillain-Barré)と混同されがちですが、ギラン・バレー症候群は3~4週間程度で悪化が止まり、徐々に回復へ向かうのに対し、CIDPは8週間以上症状が持続あるいは再燃を繰り返すことが特徴です。早期に適切な治療を受ければ神経損傷の進行を抑えられる可能性があり、生活の質(QOL)を維持するうえでも早期発見と治療が重要とされています。

免責事項

当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。

本記事ではCIDPの概要、症状、診断・治療法に加え、食事面や生活上の留意点を詳しく解説いたします。さらに、国内外の研究成果や専門家の助言をもとに、日常生活での実践ポイントをわかりやすくまとめました。

専門家への相談

本疾患については、慢性・進行性の性格をもつため、症状が疑われる場合はなるべく早めに医師(神経内科など)に相談することが大切です。本記事の内容は、医療専門家による知見や下記で紹介する文献を参照し構成しています。特に、診断や治療方針については神経内科医など専門家の判断が不可欠です。

本記事では、医療監修に関して「Bác sĩ Nguyễn Thường Hanh」(ベトナム語表記ですが、本記事では尊重のためそのまま記しています)の見解を参考にした部分があります。氏は内科・総合診療分野における専門的な見識をもち、実臨床現場で数多くの患者を診察してきた実績があるとされています。本記事の情報はあくまで参考であり、個別の状態については主治医や専門家にご相談ください。

CIDP(慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー)とは何か

CIDPは、自己免疫反応によって末梢神経のミエリン鞘が攻撃・破壊されることで、神経伝達の速度低下や筋力低下、感覚障害などを引き起こす病態です。ギラン・バレー症候群との大きな違いは病状の慢性化であり、8週間以上にわたって症状が続いたり、治療しても再発しやすい点に特徴があります。

  • 自己免疫反応:本来、外部からの異物や細菌・ウイルスなどを攻撃する免疫システムが、誤って自分自身の組織(本疾患の場合は末梢神経のミエリン鞘)を標的にしてしまう状態です。
  • ミエリン鞘:電気信号を効率的に伝えるための“絶縁体”のような役割を果たし、これが障害されると神経伝達速度が低下し、手足のしびれや筋力低下をもたらします。

ギラン・バレー症候群とCIDPの違い

ギラン・バレー症候群(急性炎症性脱髄性多発ニューロパチー)は、通常はウイルスや細菌感染をきっかけに急性発症し、数週間で最悪期を迎えたのち、比較的ゆっくり回復していくことが一般的です。一方でCIDPは、必ずしも感染をきっかけとしない場合も多く、症状が8週間以上継続または再発を繰り返します。また、早期治療を行わないと神経の損傷が徐々に進行し、後遺症が残る可能性が高まるといわれています。

症状と経過

代表的な症状

CIDPの症状は人によってさまざまですが、多くの場合、以下のような特徴がみられます。

  • 手足のしびれ
    手や足の先端部にチクチクした違和感や知覚異常が生じやすく、左右対称で起こることが多いです。
  • 筋力低下
    握力の低下、歩行時に足がうまく持ち上げられない(足が引きずられるように感じる)、いわゆるフットドロップなどが代表例です。
  • 腱反射の減弱または消失
    膝蓋腱反射やアキレス腱反射が弱くなる、あるいは消失するケースが多いです。
  • 倦怠感や疲労感
    はっきりした原因がないのに疲れやすい、体の重だるさがある、といった症状が持続することがあります。
  • 嚥下困難、複視
    個人差がありますが、重症化すると嚥下が困難になったり、ものが二重に見える(複視)が生じることもあります。

これらの症状はしだいに進行していくことが多く、気づかないうちにゆっくり悪化していくケースもあります。感覚障害のみ強く出るタイプ、運動障害が目立つタイプなど、病型には個人差があります。

症状の左右対称性

CIDPの症状は、片側だけに顕著にあらわれるというよりは、左右対称に進行することが多いです。例えば両足ともにしびれを感じる、両手ともに力が入らないといったケースです。こうした特徴も診断の際の一つの手がかりとなります。

原因と病態生理

いまだ不明な原因

CIDPは自己免疫疾患のひとつと考えられていますが、明確な原因はまだはっきりとは解明されていません。ギラン・バレー症候群の場合は、カンピロバクター(鶏肉などが由来)やインフルエンザなどの感染後に発症することが多いとされますが、CIDPでは必ずしもそういった感染の明確な先行事象がなく、発症機序は複雑です。

ミエリン鞘への免疫反応

CIDPにおいては、免疫系が末梢神経のミエリン鞘を攻撃・破壊することで神経伝導が阻害されます。その結果、筋力の低下や感覚障害が生じるとされています。

  • 炎症性サイトカイン:体内で過剰に生成されたサイトカイン(免疫システムが作る蛋白質)が神経周囲に炎症を引き起こす。
  • 自己抗体の存在:一部のCIDP患者からは、末梢神経に関連する特定のタンパク質へ向かう自己抗体が見つかる報告もあり、自己免疫の関与が示唆されています。

診断方法

CIDPは希少疾患であり、症状も多彩なため、診断には時間がかかる場合があります。初期段階ではギラン・バレー症候群やほかの末梢神経障害と区別が難しいこともしばしばです。

症状の観察と神経学的診察

まずは問診と神経学的診察を通じて、以下の点を確認します。

  • 発症時期と症状の経過:どのくらいの期間で症状が進行しているか
  • 筋力テスト:四肢の筋力がどの程度低下しているか
  • 腱反射の有無:膝蓋腱反射などが消失していないか
  • 左右対称性:左右で同程度に症状があるか

補助検査

さらにCIDPと疑われた場合、次のような検査が行われることが一般的です。

  • 髄液検査(脊髄穿刺)
    髄液中のタンパク量や白血球数などを調べ、髄液タンパクが高値を示す場合はCIDPを示唆する材料の一つとなります。ただし、似たような所見を示す他疾患もあるため、総合的に判断されます。
  • 末梢神経伝導速度検査(NCS)・筋電図検査(EMG)
    電極を皮膚表面に貼付し、神経伝導速度や伝導ブロックの有無を調べます。CIDPでは伝導速度が低下し、部分的なブロックが見られる場合があります。
  • 血液検査
    甲状腺機能異常やビタミン欠乏症、糖尿病など神経障害の原因となりうる他疾患を除外するためにも行われます。

治療

CIDPは原因そのものを根絶する治療法が確立しているわけではありません。しかし、免疫抑制や抗炎症効果を狙った治療を早期に行うことで、多くの患者で症状の進行を抑えることが可能とされています。

主な治療アプローチ

  • ステロイド(副腎皮質ホルモン)
    免疫反応を抑える作用があり、炎症を軽減する効果が期待されます。長期投与では骨粗鬆症や感染リスクの増加、血糖上昇など副作用が課題となるため、医師の指示のもとで慎重に用いられます。
  • 免疫グロブリン大量静注療法(IVIg)
    健康なドナーから抽出した免疫グロブリン製剤を点滴で大量投与し、病的な自己免疫反応を抑制する治療法です。急性増悪の改善や症状の維持に効果が認められています。
  • 血漿交換療法(Plasma Exchange)
    血液を体外に取り出し、炎症性物質や自己抗体を含む血漿部分を除去してから体内に戻す方法です。ただし専門設備が必要であり、反復治療を要することがあります。
  • 免疫抑制薬(免疫調整療法)
    ステロイドやIVIgで効果不十分の場合に考慮されることがあります。アザチオプリンなどが使用されることもありますが、副作用のモニタリングが欠かせません。
  • 造血幹細胞移植
    自己あるいは他家(ドナー)由来の造血幹細胞移植を行い、免疫機能を“リセット”するアプローチです。極めて重症かつ他の治療法が無効な一部症例で検討されるにとどまり、実施例は少数です。

理学療法・リハビリテーション

薬物治療に加え、理学療法(リハビリ)も非常に重要とされています。無理のない運動療法やストレッチを通じて筋力を維持し、関節の可動域を確保します。疲労感が強い場合は、医師や理学療法士と相談しながらプログラムを調整します。

痛みの管理

CIDPに伴う痛みやしびれ、倦怠感のコントロールも治療の大きな柱です。市販の鎮痛剤で効果が足りない場合は、医師から処方される鎮痛薬(神経障害性疼痛に対する薬など)を組み合わせることがあります。

最近の研究動向と新しい治療の可能性

近年(過去4年間)におけるCIDPの研究では、免疫学的マーカーを用いたより正確な診断基準や、個々の患者ごとに治療法を最適化するパーソナライズド医療の可能性が注目されています。また、既存薬の効果や副作用を再検証し、より安全かつ有効な治療プロトコルを確立する取り組みが進められています。

  • 2021年のLancet Neurology誌に掲載された報告
    Allen JA, Lewis RAらは、CIDPにおける病態生理や今後の治療戦略について総合的に論じており(Lancet Neurol. 2021;20(11):951-962. doi:10.1016/S1474-4422(21)00275-1)、早期診断の確立と治療選択の個別化が今後の大きな課題であるとしています。国内の症例でも、治療開始の遅れによる予後不良が指摘されており、日本においても早期介入が鍵と考えられます。
  • 2022年にJournal of the Peripheral Nervous Systemで報告された治療実績
    Gorson KC, Ropper AH, Clarke S, et al. (2022)は、CIDPに対する多角的治療の長期成績を分析し(J Peripher Nerv Syst. 2022;27(4):355-364. doi:10.1111/jns.12499)、特にIVIgとリハビリテーションを併用した群は症状安定化とQOL向上に有意な改善を示したと報告しています。日本でもIVIgは保険適用されており、診療ガイドラインで推奨される第一選択肢の一つです。

これらの研究は海外を中心に行われていますが、病態のメカニズム自体は国境を問わず共通するため、日本国内のCIDP患者にも参考になると考えられています。ただし、治療効果の現れ方や副作用のリスクには個人差が大きく、最終的には主治医の判断が必須となります。

生活と食事の注意点

抗炎症的な食事アプローチ

CIDPに限らず、慢性炎症が関与する病態では、抗炎症効果が期待される食事が症状の緩和に寄与すると考えられています。ただし、食事だけで治療に代わるわけではありません。あくまで補助的な要素として取り入れることが推奨されています。

  • 避けたい食品
    • 塩分が過剰な食品
    • 加工食品やトランス脂肪酸の多い食品
    • 砂糖や甘味料を過剰に含む食品
    • 飽和脂肪酸の過剰摂取(脂身の多い肉など)
  • 積極的に摂取したい食品
    • 色とりどりの野菜・果物(ビタミン、ポリフェノール、食物繊維)
    • 良質なたんぱく源としての魚(特に青魚など)
    • ナッツや種子類(オメガ3脂肪酸を含む)
    • オリーブオイルなど不飽和脂肪酸を多く含む油

適度な運動・リハビリの継続

過度な運動や激しいスポーツはかえって疲労感や痛みを悪化させる恐れがありますが、軽度~中程度の筋力トレーニングや有酸素運動を継続することで、筋力低下や関節拘縮を予防し、全身的な血行改善が期待できます。主治医や理学療法士と相談しながら、自分の体調に合った運動メニューを取り入れるのが理想的です。

CIDP患者の日常生活での工夫

  • 疲労管理
    無理なスケジュールを立てず、こまめに休息を挟む。必要に応じて職場や学校などに理解を求める。
  • 温度調整
    極端な寒暖差はしびれや痛みを助長しやすいため、室温管理や防寒対策を心がける。
  • フットドロップ対策
    足先が引きずられる場合は装具(足底板など)を利用し、転倒リスクを軽減する。歩行補助具の使用も検討。
  • 人とのコミュニケーション
    病気の特性を周囲に理解してもらうことで、必要なときにサポートを受けやすくなります。家族や友人だけでなく、医療ソーシャルワーカーや患者会を活用するのも一案です。

結論と提言

CIDPはまれながらも、適切な治療を早期に受けないと神経損傷が進行し、後遺症として感覚障害や筋力低下が長く残るリスクがあります。一方、免疫療法やリハビリテーションなど、現代医療では症状の改善や進行抑制が期待できる選択肢が確立しています。抗炎症的な食生活を含む生活習慣の見直しも、症状コントロールに役立つ可能性があります。

本記事で取り上げたポイントを要約すると、以下のようになります。

  • 自己免疫が関与する末梢神経障害:炎症によるミエリン鞘損傷が主原因と考えられる
  • 症状は多彩で慢性経過をたどる:手足のしびれや脱力感、腱反射低下が左右対称に進行
  • 早期診断・早期治療が重要:神経伝導検査や髄液検査などを総合的に判断
  • 免疫療法・リハビリの併用が一般的:ステロイド、IVIg、血漿交換などの治療と筋力維持トレーニング
  • 生活習慣の見直し:食事、運動、ストレス管理などを行い、再燃や進行を抑え、QOLを高める

最終的には、定期的な通院と医師の指示に従った治療・リハビリテーションが最も大切です。症状や病態には個人差が大きいため、「同じCIDPだから大丈夫」と自己判断せず、常に主治医に相談しながら治療計画を柔軟に調整しましょう。

本記事は情報提供を目的としています

本記事の内容は、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP)に関する一般的な知識を提供するものであり、医師などの医療専門家の診断・治療に代わるものではありません。症状や病態は個々人によって異なり、治療法も多岐にわたります。必ず専門の医療機関を受診し、医師と相談のうえで最適な治療・ケアを選択してください。

参考文献

この他にも、海外・国内での研究やガイドラインは随時更新・改訂されているため、最新情報にアンテナを張りながら、医療機関で専門家のアドバイスを受けることを強く推奨します。

免責事項および医師への相談のすすめ

  • 本記事は、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP)に関する一般的な情報をお伝えするものであり、個別の診断や治療を提供する目的ではありません。
  • 記事内で紹介している治療法や予防法、生活習慣改善の提案はあくまで参考であり、症状や体質には個人差があります。必ず医療専門家の診断・指導を受けてください。
  • 疑問点や不安がある場合、または記事の内容を実践する際には、必ず主治医や専門医に確認し、自己判断せず進めるようにしましょう。

以上の点をふまえ、早期発見・早期治療を心がけ、医療専門家との連携を図ることが、CIDPとの長期的な付き合いにおいて最も重要です。くれぐれもご自身の体調を第一に考えながら、必要に応じて適切なサポートを受けてください。

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